魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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そろそろタグ追加と整理しなきゃなー。と思いつつ、終盤です。

結末は書き始めているんですが、とりあえずこっちを最初にアップします。ではどうぞ。


第35話『魔法戦争――急』

 ―――合図。『赤色のプシオンとサイオン』の融合が廃工場から上げられたのを見た美月は、それを思念だけで幹比古に伝える。

 

 

『背中に手を当てているだけで大丈夫だよ』

 

 

 そう言われてやっていたが、幹比古とて緊張を隠す為だったのだろう。魔女の城に爆破を掛けるほどの術式を撃て。

 

 現代魔法において『視線の届かない所に対して魔法は効果を発揮しない』。無論、対象の位置を完全に把握出来る『眼』があるならば、どのような遮蔽物があったとしても、魔法は届くものだが……。

 

 刹那からとにかく屋根を吹き飛ばすほどの術を使えと言われた幹比古は、どうなっても知らないぞ。という言葉で返してから用意された場所にて集中を行っていた。

 

 SB魔法の極み―――神霊レベルとも言える『龍』を呼び寄せる。あの日―――刹那曰く『重いものが乗っかっている』と言われて、それを取り除かれると同時に取り込むことを強要された。

 

 達也曰く『ズレを調整するだけで何とかなる』。二人そろってああだこうだと自分を実験体にしたことを思い出して、それ故に―――今の幹比古は『万全』なわけである。

 

 

(けれど―――これをやれと言われるとはね……)

 

 

 十二枚の呪符。そしてCADを利用して放つもの―――それは即ち―――。

 

 

「応竜―――急急如律令!!!」

 

 刻んだ呪符の力。そして方角―――彼の竜が棲むと言われる南方より力が顕現する。幹比古と美月の頭上に、強烈なサイオンとプシオンの集合体が細長い蛇のように蜷局を巻いてから―――。

 

 

「瘟!!!」

 

 

 言葉に従い応竜は魔女の城へと吶喊を掛ける。しかし、美月は拡大した視界からそれが効かないだろうことが分かった。

 

 魔女の城に存在している防壁は恐ろしく堅固。どれだけの魔法を解き放っても大丈夫なように、異常を漏らさないためだろうと思えたそこに竜の魔法が突撃を仕掛ける―――。

 

 

(最善かつ最良の魔法であっても尚、届かないのか!?)

 

 

「逃げるよ柴田さん! ここにも獣人が来るはず――――」

 

 廃工場と同じく八王子に打ち捨てられた廃墟の一つの屋上から隠密で放った一撃が……、廃工場の上空で弾ける結果を予測した幹比古が美月の手を引き、出ていこうとした時に……。

 

「え……」

 

 その時、光の竜―――巨大な竜が、緑色の巨大な『リング』『ハイロゥ』とでも呼ぶべきものを通った時に、廃工場を貫く無数の群龍に分裂して絨毯爆撃となりて廃工場という城を砕いていく。

 

 

「刹那か? いや、何か魔力の質が違う気がする……」

 

「ええ……こう、なんていうか暖かい―――、けれど悲しい魔力の空気……」

 

 ともあれ幹比古の仕事は終わった。誰の手助けかは知らないが、皆の手助けになったことは―――吹き上がる違うサイオンで分かるのだから。

 戦乱の宴もたけなわ。しかし、『あそこ』に行けないことが―――、少しだけ幹比古には悔しかった。とはいえ、今は美月を守る為にも退避をせねばなるまい。

 

 

「――――?」

 

「柴田さん?」

 

「すみません。少し感覚がマヒしていたのかもしれません……いるわけないですよね」

 

「?」

 

 

 要領を得ない疑問と質問と回答の応酬であったが、ともあれ何かされる前に屋上から退避。

 

 その時、美月が見たモノ―――高速で動く魔力は、遠坂刹那にひどく似ているものであったのだから……『城攻め』をして、入城して城主を殺そうとしている刹那がいるわけがないのだ。

 

 

 異常なモノを見続けて美月の感覚もおかしくなっているのだろう。そう結論付けて駆けだしたが、美月が見たものは―――付近をシャットアウトしつつある魔法師や警察の監視、国防軍の眼を掻い潜って目的地に到着。

 

 

お嬢様(マイ・マスター)。どうやら魔法師の一人に見られたと思われます』

 

「あちゃ。失態だわ~~。とはいえ、マズは現場を見ないとね。どう?『狙撃』できそう?」

 

『申し分なく―――ここより18㎞遠くの建物からでも、十分に届きます』

 

 

 隠形の魔術を発揮して一本の『銀色のおさげ』を背中に垂らした女は、失敗にくよくよせず廃工場を見下ろせる位置に就いて、『従僕』に問いかけたが上出来すぎる結果に満足する。

 

 

「それじゃ、行きましょうか。流石に魔法師の方々に見せるには非常識すぎるからね」

 

『お嬢様は最高の『魔術師』ですが、戦闘特化ではないですからね。露払いはお任せを』

 

「武器作れるじゃん! そっちの意味でもサイコ―でしょワタシ!?」

 

『最古の英雄……とまではいきませんが、それなりに『古い存在』である私にとって最高のマスターですから、露払いは私が行います』

 

 

 確かに自分と姿を見せないでいる従者との相性は抜群だ。しかし、自分とてエミヤの系譜なのだ。

 

 たまには自分の手でことを為してみたい。従者だけに血を見せては『貴族』の名折れだ。野蛮と罵られるかもしれないが、貴族であるからこそ戦うべき時に戦うのだ。

 

 

 しかし、『狙撃』を行うことは、騎士道とは無縁であろう。まるで……。余計な思考が入る前に、従僕に指示された場所に赴く。

 

 

 あまたの非対称戦争の戦場における『灼眼の狙撃手』が、灼熱の魔力が漂う戦場に出てきた時だった……。

 

 

 

 † † † †

 

 

 達也のブラスト・ボム―――完全に無傷ではなかったが、それでも向かってくる獣化した『ツカサ・ハジメ』に対して、エリカが向かう。

 

 そんなエリカに対して遠吠えを上げる『ツカサ・ハジメ』。

 

 

『――――!!!』

 

「キャストジャミング!? 肉声を通していれば!! けれど!」

 

 

 エリカの巨刀にかかる魔法式が崩れようとしたが、それを再装填するように魔力が充足して、『ツカサ・ハジメ』の爪と斬り合う。

 

 3mはあろうかという獣人の姿になった相手の膂力と大蛇丸なる剣の魔法式が拮抗しあう。

 

 受け止めた瞬間、神殿の床が吹き飛んだ。陥没した勢いで隆起したのだろう。エリカの魔法は獣人を穿っているが、それでも―――。

 

 

(受け流した!?)

 

 

「―――!!!」

 

 

 両手で握りしめた振り下ろしの一撃が、『片手』で受け止められたのだ。もう片手の爪が横殴りにエリカを切り裂こうとする瞬間に―――。

 

 

「パンツァ――!!『ファウスト』―――!!」

 

 

 横合いから殴り掛かったレオの一撃が、『ツカサ・ハジメ』に叩き込まれるも獣毛は硬質化を果たしてその勢いを殺しきった。

 

 

『魔道でも武道でも素人同然の私が、ここまで強くなれるとはな』

 

 

 棒立ちではないが、獣人―――狼と人間のハーフのように見える『ツカサ・ハジメ』は技巧など何も無い蹴り、殴りを敢行。

 

 膂力の限りで動く『ツカサ・ハジメ』の攻撃が嵐のように二人を吹き飛ばす。10mは投げ出された二人に対して、追撃を掛けるのは七草会長と十文字会頭。

 

 

 黒羽根の魔弾で会頭の進路を保護しながらも、何とかハジメを穿とうとコントロールしようとする。あのマナカのように魔弾の追尾を―――。

 

 しかし、それは出来ずにそのままの直進。

 

 棍杖を構えた会頭に対して魔力で編まれた棒を持つハジメ。獣のような爪でありながらも五指としての機能もあるようで器用なものだ。

 

 

「おおっ!!!」

 

『中々のパワーだ。しかし、そんな努力も昨日今日までド素人だった私に崩される。こんな理不尽、どう思うかな?』

 

「それ以上に努力すればいいだけだ! 適わない敵がいるなんて俺も知っている。あんたの弟もその一つだよ!!」

 

 

 会頭からすれば幾らでも司甲をどうこう出来るチャンスはあった。しかし、それをさせずに二年間も、活動をやってきたのだ。

 

 どうでもいい相手。そう思わせて場を支配してきた。力に訴えれば、会頭の負けだったからだ。

 

 

『ならばせめて義理とはいえ、兄としての分を果たさせてもらうよ!!!』

 

 

 撃ちあう棒と杖―――肉体の頑健さで負けてはいない会頭であり、魔法―――多重障壁にして多重攻撃でもあるファランクスも併用して掛かるも、やはり分が悪い。

 素人くさい棒術。実際、素人なのだろうが、それでも圧倒的なパワーで巨大な得物を振るえば、それは十分な脅威だ。

 そんな暴嵐の如き中に敵の奸策を見抜く。

 

 

「会頭!!」「十文字君!!」

 

 気付いた達也と真由美の声。その時には足元から迫っていた大蛇の『尻尾』がアーマースーツごと会頭の肢に巻きついた。

 

「むぅ!!」

 

 

 足を絞め砕くだろうそれに対して達也は分解を仕掛ける。頭を失い、身を半ばから失ったことで大蛇の蜷局の圧が消え去る。

 

 

「助かる司波!」

 

「フォローします」

 

 

 正面を会頭が抑えているならば、達也は背後に回る。銃型のCADを向けて魔法を解き放つ。消し飛ばすのは『ツカサ・ハジメ』の背中の筋肉。

 

 完全に見えているわけではないが、身体構造が全て人間から逸脱しているわけではない。狼的な身体を模していても骨格や筋肉、臓器の全てに至るまでが無敵になるわけではない。

 分解されてしまえば―――動きが止まる。しかし、その前に体毛が、獣毛が蠢く―――見た瞬間にサイオン弾の連射に切り替える。

 

 

「お兄様!」

 

「毛が蛇になる……冥界の番犬か?」

 

 

 その蛇の数は100や200では足りまい。その蛇の口から細かなレーザーが吐き出されて達也の視界を覆う。九重流の体術で逃れるも、穿たれたレーザーは、そのまま壁面を貫いたり深雪の傍を擦過したりする。

怒りで沸騰しながらも、刹那から渡されていた宝石を投擲するように投げ放つ。同時に魔法を『宝石』にかける。

 

 宝石の質量全てがエネルギーに変換、同時にそのエネルギーが破壊に向けられる。

火球、否 エネルギーのボールとなったものが数十も生まれて、背中に叩き込まれた。着弾、炸裂、熱波―――弾ける熱エネルギーの限りが、『ツカサ・ハジメ』の背中を穿つ。

 

 

『ッ!! 流石に熱いな!! 先程の氷獣毛の『スペア』は無いから余計に!!』

 

「ウソだろ?」

 

『ウソだよ』

 

 

 問答に答えるように焼き消えた背中の蛇たちの代わりに真っ青な毛が装着される。どうやらこの男は様々な獣の特性を引き出せるように改造されている。

 

 そしてこの男は若干ムカつく。ムカつくという感情が出てくる辺りに達也は少し深刻さを感じる。

 

 

「決して強すぎるわけではないが、攻めきれないな……己のスペックを確認してるな」

 

「どうします?」

 

「エイドスに直接仕掛ける魔法は弾かれる。しかし放出魔法では出力不足―――ならば一つだな」

 

『『直接攻撃あるのみ―――!!!』』

 

 

 気絶から回復したエリカとレオが復活をして、同じく会長に起き上がらせてもらった会頭に合流する。

 

 突撃兵かよ。と思うぐらいに元気いっぱいすぎる二人に対して―――。

 

 

『三対一か、少しばかり卑怯じゃないかな?』

 

 

 言いながらも今度は先程とは違いケモノらしい俊敏さで迎え撃つ。爪の一撃がエリカを穿とうと迫り、そこからフェイクとして尻尾による打擲がレオのアーマーを叩こうとする。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 しかし寸でのところで止まり、その硬質化した尻尾を打ち獣人の攻撃を打ち負かす。尻尾を打った反動で蹴りでもかます気だったのか、下半身がぐらつく獣人。

 

 その隙を見逃すエリカではなく、加速して懐に潜り込もうとする。無論させまいと爪が侵入を阻もうとするが―――。

 

 

「ワンパターンなのよっ!!」

 

直線的な貫き。五指を揃えた手刀も同然のそれが、エリカにとっては緩慢な動きとなりて、躱し、避けを実行させて、刃と爪を交わさずに『隙間』に刃を入れた。

 

 

『そんなことは分かっているんだがね』

 

 

 大蛇丸という刀が下から上へと切り上げることで腕を半ばから斬りおとしたが―――。

 

 

「がはっ!!!」

 

『左腕の他に右腕もあるというのを失念するかね?』

 

 

 腕を飛ばしたエリカに対して同じく下から上へと突き上げるように手刀が叩き込まれていた。

 

 発生する衝撃波ごとダメージを食らうエリカが上へと吹っ飛ばされる。如何に魔法師と言えども現実離れしたものを前にして、対応が遅れる。

 

 

「深雪!!」

 

「西城君!!」

 

 

 干渉によって上へとかち上げられたエリカを保護する深雪。視えぬ力場で保護されたエリカ。10mはあろうかという高さからの激突死を回避した後に、スライディングするように移動して落着するエリカを受け止めたレオ。

 

 

「エリカ! おいしっかりしろ!!」

 

「だ、大丈夫……あー……ここまでやられるなんて少し見縊っていたわよ……」

 

 

 レオの呼び掛けと身体を貸してもらいながら、立ち上がるエリカ。アーマースーツの保護機能ありでも砕けた脇腹がとんでもないことになっているのに気付く。

すぐさま深雪が治癒魔法を掛けるが、時間としてどこまで持つか……。時間稼ぎをしなければならない。

 

 

「どうして、そこまで―――魔法師を憎めるんだ? あなたの義弟に起こったことは不幸なものだった。けれど、普通の人々と我々魔法師は共存していけるはずだ!」

 

 

 ブランシュの背後に大亜や新ソ連のような社会主義国家が存在しているのは、誰もが知っていることだ。十文字会頭とて知ってはいたはずだ。

 

 だが目の前の男が、ここまでの力を求めて戦いに挑む理由が分からないでいた。力だけを求めるならば、いくらでも方法はあったはずだ。なのに……。

 

 

『全てが憎んでいるわけではないよ。羨んでいる人間もいた。ここの構成員には魔法技能を持った人間もいた。しかし社会は、無情なるかな……彼らの嘆きを理解しようとはしなかった。現に魔法科高校では一科二科の違い……社会の縮図だ。持つ者は持たざる者の気持ちを理解出来ない。超越出来るもの、優れたるものだけが尊ばれる制度ならば、最初っから全員をそう作れば良かったんだ』

 

「お前が誰かの嘆きを聞いたというのか?」

 

『……さぁね。人類が全員『目覚め』られない力だというのならば、それは少なからず軋轢を生む。それに対して言葉ではなく『力』で黙らせてきたのも、君達だ。君達の生存権を守る為ならば、どんな手段を取っても構わないという態度は―――いずれ『人類悪』を生み出す……』

 

 

 その言葉に一瞬、誰もが瞠目する。何故この男がそのようなことを知っているのだ……。

 

 

『ニューヨークに現れた『ビースト』。『シスター・アルトマ』は、真に人類と魔法師が融和することを願った『聖女』だった……しかし、そんな彼女でも―――、結局……己の身の運命からは逃れられなかったな』

 

「……知り合いか?」

 

『彼女の絶望を体感する前に、彼女と同じような力が欲しかった。魔法師を憎み、そして『人類を愛する』が故に発現する力……それを以て全能を体感すれば―――』

 

 

 支離滅裂な言葉だ。もしかしたらば、この男も色々あったのかもしれない。

 

 色々ありすぎて、当初の目的も喪失。あるいは、それすらもマナカによって操られているのか……。

 

 ただブレないものも見えた。

 

 

『小さい頃から夢見ていたこともあるのさ。フィクションの小説や少年漫画のような主人公になって全能に近い力で世界を救ってみたい……色んな人を救える『魔法使い』になりたいとね』

 

 

 この世界は、何かを『違えた』かのように異能力が世間に認知されて、更に言えばその力が俗世を騒がすことも多い……。

 

 もしかしたらば、『魔法』が『認知』されなかった世界というのは……もう少し穏やかだったのだろうか?

 人類は、人種民族や思想宗教の違い、国家間のパワーゲームあれども、多くの人々は……人の中に違う『人』を作り上げることせずに……社会は少し違っていたのかもしれない。

 

 

「だが、この『世界』は『異能力』(まほう)を手にすることに決めたんだ。その結果、生み出されたのが俺たちならば、その絶望も何でも呑み込んで生きていくしかない」

 

「司波……」

 

 

 超人として逃げない道。もしかしたらば、遠い遠い……未来世界において『魔法師』などというのは居なくなり、いま目の前の司一のような獣と人間の混成のような存在が地球の支配者になっているのかもしれない。

 

 その時に、魔法師と非魔法師の違いなど些細になっているのかもしれない。『人類』と『人類では無いもの』の違いになるかもしれない。

 遠い未来に確たる約束は出来ない。けれども生み出されたものからは逃げない。

 

 持ってしまったものとは、受け入れて生きていくしかない。その強さをそうでない人にまで押しつけない。けれど理解してくれるように、少しでも分かってくれるように……『言葉』を尽くす。

 

 

「今の魔法師達は、刹那や幹比古みたいに『呪文』を唱えることを忘れて、『言葉』の大事さを忘れてるのかもな。だから―――アンタを止める。アンタが求めた力を全て―――俺は、俺の『魔法』で否定しなければならないからな」

 

『そうか……ならば、その『魔法』で―――僕を止めてみせろ!!!!』

 

 

 思念で全員に伝える。自分の魔法でこの男を狂気から解放すると、力を求めながらも力を嫌悪する男……これから生きていけば、『こういうの』と達也は再び会うのかもしれない。だから―――殺すことで英雄になんてさせない。

 

 

(大叔父さまの封印が解けているの?……)

 

 

 兄の『封印』が解けつつある原因に宝石を扱う魔『宝』使いを思い出した深雪だが、今は達也が指示した内容を実行せねばならない。

 

 殺すことは、この男を『殉教の英雄』にするだけだ。困難だとしても、やらなければいけない。

 

 

「やれるかよ。エリカ?」

 

「達也君の直々のオーダーだもの。やんなきゃね……」

 

 

 治癒魔法が効かなくなりつつあるものの、2人は再びの接近戦を挑むことになる。会話は終わり―――死闘の再開。その時には会頭も迷いを振り切って杖を放つ。肉体の駆動するままに仁王は、同輩の兄を打とうと杖が爪と穿ちあう。

その苛烈極まる攻撃の応酬の間隙を縫って、七草会長が魔弾を放つ。同じく迷いを振り切ったのか苛烈なまでの数と魔力の密度にたまらず司一も逃げる。逃げた先にはエリカとレオ。

 

 

 隻腕の獣人に対して再びの剣戟と拳撃。それを前に吼える。吼えたことで、魔力が引きはがされようとする。キャストジャミングどころか『ディスペルウェポン』も同然の力を前にしても―――。

 

 

「!!!」

 

 

 振るった大太刀が、それらの『吼え声』を切り裂いたことで、前に出たレオが硬化した拳と硬化した身体を使って拳打を放つ。

 

 刹那ほど鋭くは無い。しかし重く重く身体の芯に響く攻撃が―――達也の見えているものを鮮明にしていく。

 

 

『魔法師が総力を挙げて、ちんけでゴミみたいな僕を殺しにかかるか、ぐぅ……いいだろう。アルトマを殺したものとは違うだろうが!! もっと打ってこい!! その力で僕を殺して見せろ!!』

 

 

 気合いが違うな。同時に……終着も視えつつある。最後まで人の姿―――人としての戦い方を捨てきれない獣人の攻撃は、決して浅くは無い傷を三人に与えて、発生する衝撃波で七草会長を痛めつける。

 

 だが真なる意味で獣の戦い方が出来れば、自分達は―――……。

 

 

「深雪。頼む」

 

「はい――――――――」

 

 

 兄が限界を超えて『視る』ことで全てを終わらせるというのならば、自分とてキャストジャミング程度の干渉力に弾かれて魔法が効かないなどということを甘えで容認しない。

 

 

 凍てつかせる。絶対に――――相手を凍てつかせる。確かに自分達は人間ではないのかもしれない。

 

『十の研究所』の実験体たちが人間の皮をかぶっているだけなのかもしれない……けれど―――。

 

 

(過ちであろうと、受け入れていかなきゃ前に進めない)

 

 

 かつて自分もまた兄を『人間』ではないと、『道具』と思っていたのだ。感情の無い兄を気味悪く思い、冷遇して―――けれど、そんな自分を『封印』されたとはいえただ一つの感情で守ってくれていた兄。

 

 嬉しくて、悲しくて、けれどやっぱり嬉しかった。だから……今は兄の助けになりたいのだ。

 

 

「―――凍てつけ! あなたの想いは間違いでなくても!! 私達は珊瑚礁に生きる魚類であって、決して珊瑚礁の一部ではないのです!!!」

 

『コブダイのつもりか―――!! ならば、その想い実現させてみせよ!!!』

 

 

 教養ある人。こんな人が教師であったならば―――あの『沖縄』で見たものの美しさも理解してくれたのかもしれない。

 

 足先が凍りつき床に縫い付けられた司一……。それを達也は詳細に見た。視えぬものを視る。視えているはずだったのに視えないものを見る。

 

 

(世界を壊す力か……)

 

 

 もしかしたらば、自分の能力は―――……このためにあったのかもしれない。魔法式どころではなくエイドスの情報それら全てを解き解す力。

 

 達也には、司一にある『呪い』(まほう)の全てが見えた。

 

 視えたのならば、やることは一つ。

 

 解き放たれる『術式解散』(グラム・ディスパーション)。魔弾が飛び――――『ツカサ・ハジメ』は、完全に『消去』された。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 誰もが沈黙するほどに、戦いの終わりは、呆気なかった。呆気なくていなくなった『ツカサ・ハジメ』の姿から緊張を解いていたが―――。

 

 

 奥間からとんでもない圧力が飛んできた。サイオンの乱流と強烈なプレッシャーが、どうやって作ったのか分からぬ頑丈な門扉を揺らしていた。

 

 

「失念していたが、刹那は成功したのか?」

 

 

 プランとしては上出来。結局の所、沙条愛華を倒す役目は刹那だけであった。刹那からすれば、『魔法師達を巻き込みかねない戦いでは『本気』を出せない』として、同時に沙条愛華が本気を出せば、こんな神殿など諸共に吹き飛ばすだけの力はある。

 

 即ち、安全地帯など無いのだ。そう告げる刹那の言に反発するものが居なかったわけではないが、こと直接の手合せをして分かったことがある。

 

 

 あの少女はモンスターなのだと……。そう分かっていたからこそ、刹那が失敗すれば今度こそ終わりであろうと思えた。いざとなれば達也もとっておきを出す所存ではあったが――――。

 

 そんな心とは真逆にとでも言えばいいのか、鉄ではなく何かの合金の扉が盛大に割れた。

中から何かがやってくる。扉はその溢れ出るものの波によって砕かれたのだ。

 

 有体に言えば、ものが詰まり過ぎたがゆえに破裂する袋の如く、倒壊する物置の如く―――。そこからいの一番に飛び出してきたのは、血塗れになりながらも半身を失った沙条愛華……姿は少しばかり大人……自分達ハイティーン程度になっているだろうかというのに代わり翡翠のドレスに混ざる紅が何かの化粧のようにも見える。

 

 焦っている―――表情から彼女は窮地に至っているのだと気付き、そんな彼女を倒すべく―――『七人ほどの古めかしい衣装』の男女が混合で出てきて、その後に一高で見た時と同じ格好の刹那とリーナが続く。

 

 

「マナカ!!! 君の行いは、許されてはいけないんだ!!」

 

「セイバァアアアアアア!!!!」

 

 

 金髪の美青年。白と青の意匠の鎧を纏いし『剣士』の言葉に『歓喜』の絶叫を上げる沙条愛華。

言葉と同時に斬りかかる青年の後を次いで、小豆色―――マゼンタともワインレッドとも言える衣装に鎧を身に着けたこれまたマゼンタの長髪の美女が、槍をかざして襲いかかる。

 

 達人と達人の技の応酬、決して互いの意図を通じあわせたわけではないのに、武技の限りはこの上ない殺劇として見るものを魅了する。

 

 

 しかし――――こと此処に至って、マナカは決意した。『セカイ』から出た七騎の現界はいずれ終わる。ならば、その前に目の前の金髪の王子を我が支配下に加えるのみだ。

 

 もはや彼の意思など何とでも縛ってしまえばいい。彼の望みを叶えるのはそれからでもいいはずだ。例え血塗れの人類史の末であっても―――。

 

 

「!!! リーナ!!!」

 

何かに気付いたらしき刹那の言葉。それは正しく警告だと理解したリーナは、『戦乙女』の衣装で飛びながら達也たちの付近に飛んでいく。

 

 

「ええ、みんなここから出て! 退避よ!!!」

 

「―――全員、ここから出るぞ!! 千葉は俺が担ぐ! 司波の背中で無くて申し訳ないがな」

 

「き、気遣いどうもです……十文字会頭」

 

 

 一番の重傷人であるエリカが茫然とするほどには、まだ戦いを見ていたかったのだが、明確な危険ではない。本能的な直観で会頭が先導して神殿を出ていく。

 

 殿となったリーナが後ろを気にした時に、神殿全体が鳴動する。

神殿となっていた上書きが剥がれて廃工場の姿が見えつつある。その場所にて……けたたましい哄笑を上げるマナカと対峙する刹那と七人の『人間』たち。

この場に吉田幹比古がいれば、その人間達の『正体』も若干、掴めていたかもしれないが、それはなく『変化した眼』を持つ達也には、膨大なサイオンを内蔵してそれらが全て肉体を構成する魔法式に準じている……。

そういった存在そのものが『魔法』としか言えないものに見えて―――それを結論付けた時に―――神殿の崩落は始まって、達也は深雪を守ることだけに専念するしかなくなるのだった……。

 

 

 


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