魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
―――崩落していく城にて刹那は、最後の戦いに挑む。
「ぐっ! ああっ!!―――すまないマスター! 後は頼む!!」
ライダークラスの『霊基』が消え去り、欠けた足はこれで五つ……。何たる存在だ。とランサークラスの『霊基』は考える。
(こちらの一勝二敗でいい。あちらの怪物にマスターの刃が届けば、私と『アルトゥールス』の命如き……)
幾らでもくれてやる。無数の槍を召喚。相手を串刺す刺突であり投擲を浴びせるが桁違いの魔力が神秘のルールを無視して槍を封殺しきる。
だが、そこで瞠目しないのも戦士たる女の役目。2本の真紅の槍を振るい絢爛練武たる様を魔術師に放つ。腕の一振り、呼吸一つとっても神秘を孕んだ呪いとなるおぞましき
闘士であり魔女の攻撃が、遂に桁違いの魔力で編まれた防御障壁を破った時に、童女の眼を刺し貫いた時に、同時に―――触腕の如き魔力刃が、心臓を、霊基を貫いていた。
大地に蟠るそれから出たものがランサーを終わらせようとする前に……。
「最後の―――悪あがきだ!! お前に―――」
口から迸った鮮血を指に着けて、哄笑する女の身体に最大級の『文字』を刻印する。世界の摂理に反発する『不死』の存在すらも『死なせる』ものだと分かっているかどうかは知らない。
だが、それでもここまでだとして、魔力に還元されていく己の身……座に帰ることを強要されるのだった。
「セツナ! 指示を!!!」
「聖剣の王アーサー!! 汝が聖剣の輝きを解除する!!!」
剣士の剣を作り上げた魔術師は、その剣に掛けられた12の拘束を解除する。黄金の輝きを携える剣士は魔女に相対する。
崩落するステージで童女は望みの相手とのダンスに興じる気持ちだろう。意中の相手が、ようやく自分だけを見てくれている事の歓喜を感じながらも―――。
(俺を忘れられては困るんだけどな!!)
幹比古が残してくれた『竜の魔力』は、まだここに存在している。古式魔法師として今まで腐らずにやってきた修練の成果が出ている渾身の魔力を感じる。
この時の為に、この一撃の為に―――あったわけではないが、使わぬ手は無い。達也の破壊の魔力、深雪の凍てつくような魔力、十文字会頭の硬い岩のような魔力……この場で戦った戦士達のサイオンを利用して『陣地』を作り上げた。
題を付けるならば、とどめの時……とでも呼ぶべき渦中の舞台を整えた。セイバーのプランは明確だ。
沙条の失われた左半身の死角、左目もランサーの槍で封じられたままだ。左を狙って剣を振るう―――ように見せかけて寸でで右に斬り返す絶技。
体幹がどうなっているんだと言いたくなる絶技―――沙条でも難儀するほどの魔力量。竜の炉心とでも言うべきものから発せられるものが、特大の豪撃として振るわれる。
先程から落ちてくる建材……廃工場のものが堕ちてくる様子の中、聖剣の王と魔女のダンスは続く。
「やはり欲しいわ。アナタの身体。アナタの心。アナタの魂の一滴にいたるまで、私が慈しみ! 愛したい!! それだけなのに!!!」
「君の愛は僕には重すぎる。そして君が世界を壊すならば、僕はそれを否定しなければならない」
「アナタの為なのに!!!」
「それでも―――僕は、ブリテンの民の為に!! 世界全てを壊す願いだけは抱けないんだ!!!」
地上に在りし誰もがか弱き人であり、決して神ではない―――。ローマの剣帝。己を地上の神と名乗った男との問答を思い出す。
魔術師が神を自称していた時代の人間と同じなのがマナカであり、その本質が魔王のそれとなるのならば……セイバーは斬り捨てなければならない。
(君だけはそうなるなよ。セツナ―――)
分かっていると言わんばかりのマスターからの決意の魔力がセイバーを循環させる。現界出来るのも残りわずかだろう。ならば、ここで決める。
セイバーにある赤き聖龍が吼え猛り、マナカを魔術師の作った檻の中に叩き込んだ。仕掛けていた刹那の術が結実すると同時に―――。
セイバーは轟音を抜ける。
「竜属性の封印術……! ちゃちな術式だけど!!」
「約束された―――」
聖剣の輝きが空中で囚われた魔女に振るわれる。その未来を見た瞬間―――。
「―――勝利の剣!!!」
―――『エクスカリバー』の輝きが八王子上空に黄金の柱を作り上げてその威力は大気圏を超えて、
『振り上げた』聖剣の一撃は、誰もに勝利を感じさせるものだ。
そしてその聖剣の魔力を受けて廃工場は完全に倒壊をして周辺住民たちはその時には、避難完了していたが、舞い上がる粉塵と煙に辟易するだろうことは容易に分かった。
しかし……これで生きていれば―――……。
何かに気付いたのかリーナが飛行魔法を行使して飛んでいく。その急ぎの様子は―――緊急を感じさせていた。
「会頭。自分も行きます」
「千葉の看護要員以外は行くべきだろう。事態の最終局面ぐらいは見届けんとな」
そうしてエリカ、レオ、真由美を安全圏に置いて本格的な廃墟と化した廃工場へと達也たちは向かう。
膨大なサイオンの消費された『匂い』が達也たちの鼻孔を刺激して、同時に焼け焦げた匂いが実際に、自分達の鼻を突く。
あてずっぽうな駆け出しであったが、自分達が戦っていた辺りだろうと赴くと、そこには―――やはり……。
「刹那!!」
「来るな」
強くは無いが鋭い言葉で制されて、状況を見ると土煙で少しもうもうとしている中に、もはや生きている訳がないはずの少女……体中が穴だらけの炭化している様子に誰もが驚く。
「ウソでしょ……あの『黄金の剣』の一撃を受けて、生きているなんて―――」
「竜の封印術を使ったのは間違いだったわね。あんたの術式を反転させて『盾』にするのが少し遅れれば、『彼』の手で殺されていたわ」
「いっそ死んでしまえばよかったのにな……けれど、『回りくどい』……」
驚くリーナに対する説明ではないが、トリックを明かす沙条……そして、そんな沙条のサイオン溢れる様子とは別に刹那はすっからかんのようだ。
「セツナに何かしてみなさいよ!! アンタを殺してやるわよ!!」
「―――その時はアナタ達から殺すだけよ……さてと、実験は成功。彼は居なくなったとはいえ―――遠坂刹那……必要なのは、『座』から呼び出せるその身体。いざとなれば、脳髄を移し替えてやればいいだけだわ……」
涙を溜めて魔女を睨みつけるリーナに対して魔眼の拘束、同時に達也たちも縛られた。あそこまでダメージを負いながら、まだここまで出来るのか―――魔眼の拘束を外すべく誰もが、サイオンを流して対抗する。
もはや動けずに―――残っていた壁に体重を預けている刹那が反撃のチャンスを生むには、数手必要なのだが、その数手の間に沙条は何かをするはずだ。
「絶望の中で―――我が血肉となりなさい!!『魔法使い』!!」
ダッシュで駆けだす沙条愛華。その速力もまた尋常ではなく9mほどの距離を一瞬で詰めようとした時、その狭間にある豪奢かつ巨大なエイドスを蓄えたレリックだろう剣を取ろうとした時に―――。
―――『トレース、オン』――――。
そんな言葉が聞こえた気がした。気がしただけで、実際に誰の耳にも届いていないのだが、そうとしか言えない言葉が聞こえた時に音速の―――人間では知覚できない速度。そしてそれに違わぬ威力と質量を携えたものが飛来。
横合いから沙条愛華を貫き吹き飛ばされる様子。完全な奇襲であり不意打ちは決まり―――飛んできた『矢』は、貫いた魔女の肉体を急速に腐らせていく様子だ。
「ば、ばかな……い、いるわけがない!! ごはっ……なんで、なんで! ……!?」
矢は狙いすましたかのように、沙条を吹き飛ばしてダメージの限りを与えると同時に無事な腕で取ろうとしていた聖剣を刹那の寄り掛る壁に突きたてていた。
その時に、聖剣の王―――『アーサー・ペンドラゴン』が残してくれた聖剣の魔力が、再びの駆動をさせる。肉体は既にボロボロ、眠っている魔術回路を叩き起こしても出来ることなど限られている。
それでも前に進めるならば動け、仕留めなければならない存在がいる。明日に進むためにも残してはいけないのだ。
邪悪ではないだろう。悪逆でもないだろう。それでも人の世を終わらせるわけにいかないのならば、過去の因縁に決着を着けるのならば―――。
刹那は聖剣を壁から抜き取って一閃。駆けだして逃げ出そうとした少女、もはやろくな魔術行使すら出来ないだろうが、それでも魔力の触腕を背後から繰り出してくる少女―――。
それらを切り裂き、なけなしの魔力……いや、リーナとの繋がりで駆動した己の身体。その身体の動きが精彩を取り戻していき、触腕を排除して恐怖した少女にして魔女。吸血鬼にして魔術師―――。
エルメロイ教室の『姉弟子』の『姉』。
自分とて知らなかった関係ではない相手を殺すべく、聖剣は少女の心臓を真ん中から貫いていた。
何の感触も無い位に柔らかな女の体に刃を突きたてる感覚に背筋が粟立ちながらも、ランサー……スカサハが残してくれた『死のルーン』が発動。
外法魔法師の運命は―――この時、決まった。血反吐を吐き、鬼のような形相でもするかと思えば、その表情はどことなく悲しそうなものに見えた…。
「なんでよぉ……なんでよぉおお!! わたしは欲しかった!! ただ人間らしく熱を持てる存在が欲しかった!!
生まれた時から世の全てが見えて、全てがくだらなく見えて、必死に生きている人間のようにいつか自分にも何か出来ると思って―――それでも家族が大事だと思いたくて、死んでしまったお母さんのためにも―――まともになりたくて、まともになりたくて、
けれどけれど……何でもできることが詰まらなくて、そんな私が初めて得た感情も情動も全て―――みんなの……邪魔になるから
子供のように幼子の駄々のように泣き叫び、己の願望を吐露する少女の姿に―――刹那は己を重ねてしまう。
だから『全能』の存在に、気付いていないことを告げるのであった……。
「ああ、その気持ちは分からなくもないよ……。けれども、それは、もう持っているはずなんだよ……」
「………何を―――」
「アンタが、なんでこんな大規模なことをしたのか、正直―――不可解だったが、いま……本当に分かった。マイスター・マナカ、アンタは俺に『勝ちたかった』だけなんじゃないか?」
その言葉に眼を見開いて、こちらをようやく見る眼は―――どことなく『アヤカ』さんに似ているものだった。
「アンタほどの全能者が、わざわざ宣戦布告のような真似をしたり、回りくどいことをしてまで第一高校ごと戦いに挑んだのか、全然分からなかった。その気になれば、一高の人間達を支配してそのまま贄にすることも出来たはずなのに……『アーサー』の召喚だって、俺がいなくても何とかなったはずなのに」
マナこそ薄いが、その気になれば、星界にある魔力も得た上で、アーサーを召喚する手筈も整えられたのだ。無論、成功率は低いだろうが……。
万全を期したいというのならば、準備がある。などなど……不安要素はあれども階梯を上げるというのならば、少しの失敗に眼を瞑ってでも実行するべきだった。
魔術師ならば失敗してでも、そこから何かを学ぶ。永遠の徒労だ。
成功率を上げたとしてもどうなるかなんて分からないのだから、万全にして万能であっても―――どうにもならないものだ。
「アーサーが、欲しいというのならば、真正面からまずは『俺に頼み込むべき』だった。ああ、ある意味、千代田先輩の言は正しいな。けれど断られるかもしれないから、と逃げて、こんなことまでして、あんたのエゴを押し通すのならば、せめて俺に一度頼み込むべきだった。卑しい願いだとしても、それぐらいは叶えてやるよ。ただ『卑しい』と思っていたから、アンタは俺に正面から来なかったんだ」
「……嘘よ。そんなことあるわけない……私が、あなたが、星に逆らい、人類の延命にだけ力を貸すあなたが、私に手を貸すはずがないわ!!!」
「そうだな。そう考えて、『頼まなかった』。それは『自分が負けていたから』―――『次』こそは勝ちたいからとして、勝って屈服させてから『アーサー』を……だから俺に挑んできたんだな」
力なく垂れ下がっていた腕が持ち上がり、残っていた腕―――もはや半ばから消失した手を握りしめて、苦笑をしている『愛華』さん。
アヤカさんは、言っていた。『お姉ちゃんを負かす相手がいれば違ったはずなんだよね』。けれど……それは無かった上で、ここまでの災厄が起こったんだ。
いや、その事を認識できていなかった……彼女が熱を持ち、摩擦を起こすほどに立ちはだかる壁は、自分だったのだ。
「悔しいわ……そんな単純なことにも―――気付けなかったなんて、未来視を封印して、いつか自分にも『その時』がやって来ると、分かっていたのに、視たのに……それが『この場面』だったなんてね……」
「………」
「けれども、なんでかしらね……ふと私の中に新たな感情があるわよ……『次こそは』『もう一度』―――うん、すごくいい感情だわ……魔術師として全能の私でも、不可能なこと、敗北する相手がいるなんてことを……知っていたのに、敗北の可能性で誰もが逃げていた中、それでも立ち向かってきたアナタの輝きは……本当は―――」
欠けた穴を埋められた。そう言わんばかりの穏やかながらも『ガッツ』のある『眼』……アヤカさんに似ていた。覚悟を決めた時のあの人ほど勝てないものはないのだから―――それと同じものをこの人が持っていないわけがないのだ。
「悔しいけれども、もう終わりなのね……諦めないこと、凡庸で弱小で、どうしようもなく平凡なあの子の気持ちが、今ならば分かるわ……」
「俺も同じだったよ。そして、今回の勝利だって俺自身の力ばかりじゃない―――けれど、勝ちは勝ちだ。悪いが終わりだよ。愛華さん」
「ええ、私の負けね………今回は、大人しく滅んであげるわ……だけど、贖罪をしておく……一人『生かした』ところで、何の意味も無いかもしれないけどね……」
苦笑しながらも行った魔術。聖剣の魔力で消滅の危機にある中、己の身に残っていた魔力を使用したことで、もはや存在維持の限界に達していた死徒の消滅が加速する……。
「それじゃね。トオサカ君―――アナタに関わったことが、私の最大の失敗だったわ―――この借りはいつか返すわ……」
黒々とした『真エーテル』の細粒となって消え去る沙条愛華の姿―――言葉を信じなかったわけではないが、それでもこの世界から完全に消滅を果たしたことを確認した。
血に塗れていた聖剣もまたあまりの破断に、存在できなくなり、魔力として消え去る。後に残ったのは、魔術戦で完全に崩壊した廃墟……土地の所有者も誰だか分からなくなっていたところだろうが、まぁとりあえず―――夕日を浴びて、考えるに……。
「一件落着といったところか?」
「それを判断するのは俺じゃないな……」
アーマースーツの上半分を脱いでインナーシャツを見せている達也。対して刹那も聖骸布のコートを脱いで少しだけ脱力。
廃墟と化した廃工場は一種の前衛芸術かのようにも見えるかもしれないが、ここがある意味、兵どもが夢の跡など誰が知ろうか……。
(タバコが吸いたい……)
決して常用しているわけではないのだが、こうも立て続けにとんでもないことがあると、ストレスを吹き飛ばすために、吸っていたことが、たまにあるのだが……。
流石は2090年代のニッポン、未来世界のこの島国において既に喫煙という習慣は消え去っていた。嫌煙権とかそう言うのは既に過去のものとなっていた。
とはいえ、譲り受けた一箱の『煙龍』は工房に残してある。後でリーナに気付かれないように吸っておこうと思いつつ、残ったことに決着をつける。
「……何故、僕は生きているんだ?」
「さぁな。まぁすっかり達也たちは忘れていたが、俺の方で保護術をかけさせておいてもらったよ」
恐らく達也の持つ『分解魔法』の極みで『遺伝子レベル』で融合していただろう獣の因子を『視て』から『消去』したのだろう。
殺すつもりで放てば違うやり方もあっただろうに……しかし、その後で忘れるとは、こいつら薄情―――と思いつつ、片腕失いながらも起き上がったボロボロの姿の司一を見ておく。
「立ち上がれただけでも感謝しとくといいよ。達也の分解はあんたの『脊柱』をずたぼろにしていたからな。生命にとって、脳幹に繋がる唯一の接続体を修復したのは、沙条愛華だ……まぁ大人しくお縄につくことをお薦めしておく」
「何故、素直に殺してくれなかった……!?」
「達也の気紛れなんじゃないの?」
頭を叩かれる。図星ではなくとも、正解でないわけでもない。そんなところか―――。
「僕は超能の力を得て、彼女の『絶望』を……なのに……」
シスター・アルトマの信奉者。『人間主義者』たちの中でもビーストの先兵にならなかっただけ僥倖だろうが、殉教したかったのか……。
「もはや僕にとってすがるものはない……これからどうやって生きていけっていうんだよ!!!」
絶叫しながらこちらを睨むブランシュのリーダー。多くの同志たちを生贄にしての最後が、これでは浮かばれないものもあるのだろうが……それでも、この男は生き残ったのだ。
「そんなことは自分で考えてくれ。生憎、説法を行えるほど徳が高くないんでね……だが、死にたいならば舌でもかみ切れば良かったんだ。それが出来ないのは、まだ生きていたい証拠だよ」
「……っ!!!」
「マイスター・沙条が癒したその身体を自愛して生きてくれ。精一杯生きてから死んでくれ……そして俺がアンタを羨むこともあるんだ。簡単に死ぬなよ」
打ちひしがれる司一。一応、先輩の義兄なんだから、オブラートにという視線を受けながらも一団から離れて、夕日の近くに進みながら語る。
「立って歩け。前へ進め。後ろに置いてきたものばかり数えるな――――あんたには、
その言葉を聞いた瞬間、司一の嗚咽交じりの絶叫。その絆すら断たれているかもしれないことの後悔かもしれない。
それでも、その言葉を聞いた時の、「キノ、ごめん……ごめんよぉおお……」という言葉に、少しだけ羨ましい想いがあった。
適当な所に座り込みながら、やっぱり一本だけ吸うことにした工房から召喚した煙草に火を点けて煙を吸う。
煙が目に染みて、どうしても涙が出ることを止められず、サイレンを鳴らしてパトカーがこちらにやってきた段でようやく背中に寄り添っていたリーナに気付くぐらいには……自分も参っていたことに気付くのだった。
全ては終わりを迎えたのだった………。