魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
一文ごとに二行開きは、どうなのかな?とか思いつつも、今までずるずる。ユーザーカスタマイズ可能なハーメルンだからこそその辺は融通してきましたが、まぁとりあえず何かあればどうぞお願いします。
『十師族対面』~毎度の話~
横浜にある日本魔法師協会――――その『応接室』に通された刹那は、正装してきてやはり正解だったと思った。
まさか織田信長のように早着替えが出来るわけではないのだ。
ラフに『かぶいた』格好でやってきて
オンライン会議であるというのならば、音声だけで
考えて無駄なことだと分かって、口頭による説明を全て終えると――――。
「以上です。何かご質問はありますか?」
十師族―――この日本の魔法師の頂点にたっている
いやそうでない顔は、知り合いが大半といったところか、ミノルの父さんは苦笑。四葉家は何が面白いのか、口に手を当てて笑っていた。
何を質問すればいいのか分からない顔をしているものが大半。そんな中―――サングラスを掛けた人が口を開いた。
勇気ある行動を取ったのが会長の親父さんであることを刹那は理解していた。
『娘からも聞いていたが、俄かには信じられんことばかりだ……しかし、観測されたサイオンの波形と量といい、説明に何の『矛盾』もないのが如何ともしがたい』
「質問が不明瞭なんですが……ミスター?」
『ああ、すまない。しかし―――その世界の外側と繋がった存在が『無限の魔法力』を用いて、アーサー王を蘇らせて、更に言えばサクソン人によって駆逐されたブリテン島の民を守るために、大地の底に眠りある『黙示録の獣』を蘇らせて、人類史を焼却する……こんな荒唐無稽な話をまるっと信じろというのか君は?』
「しかし、映像記録でも確認済みですからね。信じてもらわなければどうしようもありません」
そう。一高の討論会場であり、刹那の一大演説―――どこのアドルフだと言わんばかりのところに現れたサジョウマナカの言動や魔法能力に至るまでを、全て現代映像機器は取っていたのだ。
莫大なサイオンによってレンズや映像が真っ白になるようなこともあったが、複合的な編集によって映し出された驚異の魔法師を見た人間達は合成でも何でもなく現実なのだと認識する。
(無理もないか。彼らは自分達こそが最強と疑わずに生きてきたんだものな)
だが、無情なるかな。世界の外側から来た『違反者』からすれば、神秘の『定義』を知らず魔力を変なものに加工しているだけ、そうとしか見られていないのだろう。
七草弘一という男性の気苦労を偲んでおく。
関東の守護を任された男性にとって、ここまでの異常事態は想定外だったのだろう。四葉女史の言う通り、泡吹いて倒れたのかもしれない。
『ニューヨーククライシスを起こした存在……《人類悪》か、こんなものが出てきては俺たちに対処する術はあるのか?』
「誰が、そうなるかは分かりません―――ただ特徴の一つとして『ビースト』はある種の信奉を集めて、己の信仰者を集める傾向があります。カルト宗教の教祖などが主ですね。もちろん、実際に『奇蹟』を起こせるならば、『信仰者』は増えます。信仰が増えるということは、その存在が強固になるということ、世界を固定化させていき、人類を滅ぼす―――対策は、後手後手で動くしかない。そういうことです」
日焼けをしたどこか豪快にして豪傑という言葉が当てはまるだろう男。実際に名前も相応しく一条剛毅という男性の質問に、そんな所で収めておきたかったが―――そこを責めるものもある。
『しかし、今でもニューヨークは健在だ。かなりの被害が出たが、復興しているし、何よりマンハッタン島に自由の女神像は健在だ……君達USNAの魔法師達はどうやって、これを退けたんだ?』
「そこは軍機に関わる事項であり、私も公言してはならないと米国政府より伝えられています―――」
「同じくワタシも、そのようになっています。ただ補足するならば、『言わない』のではなく『言えない』―――私達が『言える』のはここまでです」
三矢元の言葉に即時に札が切られる。説明役を担っていた刹那をフォローするようにリーナが出てきて、補足という名の『切り札』が切られた。
『何故言えないんですか?』
「それを言ったら、『言えない理由』を言ったも同然になるので、言えません」
『……なるほど―――USNAも考えていますね』
『何か分かったのですか四葉殿?』
四葉真夜の質問からの得心の言葉に、六塚温子が少し弾んだ声で質問をする。何か『百合の花』の香りがしてしまいそうだ。
この二人が、どういう関係かは分からないのだが。
『この二人の帰属がいまだにUSNAにある以上、USNAの魔法師達が何かしらの言動を縛る術式を施術していてもおかしくは無いでしょう? つまり、二人には細かな『ギアス』が掛けられている―――そう察しますけど、いかが?』
全員に自分の推測を披露する真夜の言葉に対して誰もが納得をして、同時に一言やり返す者もいる。
『流石は精神干渉の大家。人心の事に関しては人一倍敏感だな』
『お褒めに預かり光栄ですわ。七草殿』
『………』
皮肉をあっさり躱されて、何だか悲しそうな顔をする七草弘一氏……いやサングラス越しでは、はっきりと分かるわけではないのだが……。
(会長もそうだけど、この人もめんどくさい『かまってちゃん』だな……)
『USNAの口封じはともかくとして、それにしても皆さん、このような未来ある若人に対してあまりにも無体ですね……少なくとも老師のお孫さん―――厳密には違うのでしょうが御親類と恋人が粉骨砕身して、破滅の時を回避してくれたというのに、秘術を求めんと喉からの手が見えますわよ?』
『まぁその通りだな。身贔屓かもしれんが、遠坂君の『秘術』は息子を癒してくれた……感謝と同時に、少しだけ悔しかったがな』
光宣の親父さんは、あまり息子に関心が無い風だった。遅くに生まれた子だからかと思いつつ、そこまで踏み込むことはしなかった。
だが、こうして本心を聞くと良い親父さんじゃないかと思うのだが……。
『今は、矛を収めておきませんか? まだ来日して日は浅く、お互いに信頼関係が無いのは当然。しかし合衆国も何の考えも無くこの二人を送り込んだわけではないでしょうし―――』
『では決を取ろう。各々、何かあるか?』
十師族の『議決』というのは、大体において全会一致が好ましいが、まぁそれでも議決の停滞で重大事を決められないのを避けるために、多数決で通すこともある。
議長役として今回、十文字家の十文字和樹が任命されたのは、本来の最年長としての議長役を務める光宣の親父さんでは当事者の片方に近すぎるからだろうか……。
ともあれ、婆娑羅者……印象としては『武田信玄』か『赤松円心』を思わせる男性。会頭よりも厳つい人が、この場で自分達に対する魔法師全体の態度を決めるようだ。
『一条、異論無し―――息子の同い年に、君達がいてくれて嬉しい限りだ』
『二木、了承します』
『三矢、同じく。装備の調達で何か必要であれば言ってくれよ』
『五輪。了承です』
『六塚、受け入れます』
『……七草、同じく―――ただし、何か関東で起こす時には一報入れてくれ。出来ないならば、事後承諾も仕方ないが』
『八代、受け入れます』
『十文字、同じくだ。しかし、この歳で息子共々挑戦者か……血が沸く、血が沸く……』
関東にいたからだろうか、七と十は一言多かった。一と三は、何というかワケが分からないというところだ。
事情を知っていれば、まだ別だったのだろうが……まぁともあれ、事細かに説明したのは、あの戦いで直接戦闘をした八人と後方支援で重大な役目を担った幹比古と美月にであった。
そこから情報が漏れるならば、まだ仕方ない。しかし上役に通すのは、この辺りでよかろうと思えた。
数日前の『アーネンエルベ』での会話を思い出していたのだが……。
『ところで刹那さん。あなたご両親いらっしゃらないのよね?』
「? ええ、まぁ……保護者替わりはアメリカにいますけど―――それが何か? ミス・ヨツバ」
唐突な四葉真夜からの質問、その言葉に七草弘一は眼を吊り上げる。恐らくあちら側にもあるモニターに見えている四葉真夜を見ている。その眼をもう少し穏やかにすればいいだろうに……。
そんなことを思いつつ、次の言葉を待つ。プライベートで踏み込まれたくないとまではいかずとも、あまり無遠慮な振る舞いは嫌だな。と思っていたらば。
『―――『ウチ』の子にならない?』
その言葉に十師族全員がどよめく。先程は、
「……おっしゃっている意味が良く分からないのですが?」
『私の、四葉真夜の『息子』になりなさい。高圧的な言い方になってしまったけど、そういうことですよ。ごめんなさいね』
茶目っ気ある笑みで返した四葉真夜は、すっ呆けた刹那に追い打ちをする。
更にざわつく一同。一番に激昂したのは、七草師であった。机に拳を叩きつけた様子、あれでは拳を痛めたはずだが、怒りとか色んなもので痛みは今は無いのだろう。
『君は、何を言っているのか分かっているのか!? 先程は遠坂刹那に対して義理立てを申しておきながら、今度はその相手を身内に取り込もうという提案! 二枚舌すぎるぞ! 真夜!!』
『あら? 別に私は純粋に『先達』として、刹那君の身柄を案じている訳ですよ。不幸な事に私は他の師族の皆様方と違って『直系』の親族がいない。自分の血を継ぐ子供が出来ないことは、もはや折り合いを付けましたが……それでも私の大事にしてきたものを受け継いでくれる存在が欲しい……そう思うのは、魔法師以前に人間として、女として当然ではないですか? 弘一さんのように子だくさんな人には分かりませんわ』
そこを、『四葉真夜』に突かれると、誰もが強くは出れない。分家の誰かに『四葉』を据えてもいいだろうが、と思いつつ、そういうことではなくて『自分の子供』が欲しいなどと言われれば、そこに幾ばくかの打算があれども、心ある人間としてそれを止める術も持たない。
『それに一条殿とて佐渡侵攻でおなくなりになられたご友人の子息を引き取ったとか?』
『確かに吉祥寺君、カーディナル・ジョージとは家族ぐるみの付き合いだ……それは否定できませんよ四葉殿』
厳密には、保護者扱いであるのだが、そこを出されては剛毅としては、何も言えない。いや、それでも、この提案に真っ向から反対できるものは、いないのだ。
何せ、魔法師というのはとにかく
その種の保存欲求ゆえにか、自分の娘が息子同然の男子に懸想しているのではないかとも考えている。
『老師の血縁。しかも一高ではトップクラスの少女と婚姻を結ばれるならば、それなりに箔も必要……そう下世話に考えることもあるはず。ならば早めに―――そう提案したのですが如何?』
『それはその言葉が、真実であった場合だけだ。お前が『椿家の未亡人』も同然の可能性とて残っているのだからな』
『!! それは下種の勘繰りというものじゃないかしら? その場合、どこからか『悪魔』が来て、私を糾弾するのだから、あなたにとっては痛快なはずでしょう?』
怒り心頭なのだろう四葉真夜の激昂が七草弘一を貫く。言葉の前半では抑えていたのか頬が動く程度だったのに後半では、少し強い調子になる。
『君が傷ついて『俺』が何か満足するような性格だと思っているのか!?』
『裏で謀略をやっているようでいて『火遊び』の本質も知らないならば、さっさと手を引きなさいよ。あなたの仕事じゃないでしょうが!! 私のやること全てに反対してばかりで、目障りなのよ!』
もしもモニターが、画面前にいる人間の感情や身振り手振りで拡大したり、縮小したりするようなものであれば、今頃二人の上と下にいる九島真言師と三矢元師は、『せ、せまい……』などと迫りくる画面の枠に押しつぶされているのではないかと思う。
この二人の言い争いは日常茶飯事ではないが、それでもここまで激しい言い争いになるとは思っていなかったのか誰もが驚いている。
しかし……二人の様子は―――まるで……過日の―――と思っていたらば、割り込みが入る。
『双方、矛を収めんか―――どれだけ正しいことを言っていたとしても、それを憎しみの魔力に乗せるならば、災いのプシオンとなりて、お前たちの舌を腐らせるぞ』
『『老師……』』
いきなりな乱入者として真言師の横に現れたのは、既に部外者となっているはずの
その言葉は『二人の弟子』を止めて、正気に戻した。画面越しでも二人の弟子を睨んでいるという視線に二人は少しの委縮をする。
『真夜、お主の気遣いは大変結構なものだが―――『一番』に、聞くべきことを失念している。そして私は特にアンジェリーナの婿がどのような人間であっても構わんと思っているのだからな』
『……申し訳ありませんでした……では改めて、刹那さん―――どうですか?私の提案を受け入れますか?』
「申し出はありがたいですが、もはや遠坂家の人間は俺一人なのです。あなたがた二十八家とは比べ物にならない『ちゃちな家』ですが、俺の代で遠坂家の歴史を途絶させたくはないのです」
その真剣な言葉で四葉真夜の提案は退けられたが……、それでも娘がいるだけに娘婿にしたいという他家の視線を感じたのか―――。
「セツナ・トオサカは、ワタシの最愛のダーリンで将来の伴侶です!! これはもはや決まっているので!! 今後変な『シュウハ』を寄越さないように!!! お願いします!!!」
刹那の腕を取って、必死になりながら難しい言葉を使ってでも所有物宣言をしたリーナに対して―――。
『若さってなんだ?』
『『
『愛ってなんだ?』
『『
などと、一条師の言葉に対して四葉師と七草師とが答える。なんだこのやり取り……などと想いながらも、その言葉で、やっぱり終わってしまった。
しかし、こちらとしても少しの爆弾を投げつけておきたい。やり返したいというタイミングで声を掛けられる。
『七草殿が激昂する前に断っておけば、いえ途中でも遮るようにアナタの意思を四葉殿に言えばよかったのに―――』
「いえ、結構『楽しそう』に見えたので『お邪魔』するのも悪いかと思いましたよ。六塚師」
やはりどこか百合百合しい六塚温子の四葉に味方した言葉に『爆弾』を投げつけると、2人そろって咳払い―――気遣い出来なくて申し訳ありません。と心にもない言葉でやり返すと、四と七、六以外で忍び笑いが出てくる。
そんな中、一番おっかない顔をしているのは―――、そんな『父親』の『男』としての顔を見て、暗い顔をして俯いている七草真由美であり、その隣で椅子に座りながらもびっしょり汗を掻いている十文字克人の苦労を偲んでおく。
帯同者として来てくれていた二人を心配しつつも―――一先ずは、十師族との対面は終わるのだった。
今回のタイトルは、何がモチーフか気付く人は気付くものですが、この二人は『あれ』があった時に、姉が何かやる前に抱きしめあって愛を伝えた方が良かったんじゃないかとか、あれこれ考えつつ、そうであれば劣等生世界は無かったよなーという『毎度の話』ということです。