魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで九校戦を素直に始める前に様々な変化を描写。

一応ロストゼロではバトル・ボード(模したイベントですが)だけならば、色んなキャラがやっていたりするんですよね。

そんなわけで、どうぞ。


九校戦編~~Second order‐Blades~~
第37話『九が始まる前―――試験の後―――』


 何かと体育館に縁があった四月からもはや四か月。再びの体育館にて行われているのは、刹那の時代から少しの変化を果たしたとはいえ、今にも続くスポーツ競技。

 

 要するに魔法科高校であっても普通高校のカリキュラムはあるわけで、その中には魔法を用いないものの一つとして体育があるということである。

 屋内用のスポーツシューズ。今の時代にあっても、それぞれの競技で専用の靴というのは存在していたが、技術の進歩は計り知れず、とりあえず高校の体育授業としては、これ一つで十分であった。

 

 よって―――キュッ! キュッ!!と小気味いい音が床を滑り響きながらも足を止めずに、ボールを手に持ちながらも床に突きながらでしか進めぬ難儀なスポーツ―――。

 

 どんな屋内スポーツよりも『カッコよさ』を追求してきたとも言える『バスケットボール』を刹那は行っていた。

 

 ブロックは二人。しかし―――。

 

 

(バカ正直に行くと思ってるのかね?)

 

 

 背後の十三束にノールックでパス。意表を突かれた二人のブロック、A組の森崎と田丸がセットシュートを警戒するが―――。

 

 

「まぁ普通に考えて―――こうだよね」

 

 狙いすましたかのようにリングに向けて放たれたボールだが、トミィの意図は違っており、ボードに当たったことで跳ね返りそうなボールを、思いっきりリングに押し込む。

 瞬間、こちらを見学していた一科の女子勢が黄色い声援を上げる。その中でもマイハニーの声は特に響いて聞こえる。

 

「アリウープのダンクシュートだなんてカッコつけすぎでござるよ!」

 

「無難に押し込むのは性に合わない。第一、俺とトミィで女子の黄色い声援二人占め作戦中なんだ」

 

「主に君の方が多いように思うけどね。というか『かわいい』とか言われて素直に喜べない……」

 

 

 後藤君にも活躍の場をと思うのだが、だって普通のレイアップしかしないんだもの。いやセットシュートよりも難しいレイアップが出来てる時点で凄いはずなのだが……。

 

 

「ブロックも積極的じゃない。ダブルクラッチの場が無いな」

 

「まぁ森崎も田丸もC組の五十嵐も、『後々』のことを考えているんだろうね。ここで怪我して出場できないとかは避けたいんじゃないかな?」

 

 十三束の言う『後々』、それが何を意味するか分からぬ刹那ではないが……。

 

「刹那君も「出る」んだから気を付けなよ。魔法でも『ねん挫』とかは完治するのに時間がかかるから」

 

 と、何故か男子に紛れてこっちのチームに入っているC組の『里美スバル』に肩を叩かれる。

 五十里先輩の逆バージョンを思わせる同年の女子に言われて苦い顔をするしかなかったのだ。

 

 見るとリーナも少し愛想笑いに徹していた。その様子を敏感に察知したのか雫が、交互に見てきたのを感じながら―――。

 

 こちらのブロックを超えて森崎の3Pシュート。

 

『静かにしろい。この音が……俺を蘇らせる。何度でもよ』

 

 シュパ。というアミの音すら掻き消す女子たちの花色トークが何だか少し可哀想になるのであった。

 

 いや、いいシュートだったんだけどね……。そんな日々の中で、リーナと一緒に少しの苦笑いをしてしまうのは、やはり少しの罪悪感があるからだ。

 

 

 † † † †

 

 

「公約違反よね……」

 

「何がだ?」

 

「だって刹那君は、『一年以内』に2科生を三学年合わせて50人は、一科生中級程度まで引き上げると言ったわ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 やる気のない姿で机に突っ伏す七草真由美を見ながら、十文字克人は食後のお茶を啜っていた。舌が贅沢になったのか、食事もお茶も微妙に満足いかない。

 

 件の男の食事をまた御馳走になりたいと思いつつ、同輩の言葉を促す。

 

 

「―――既に『90人近く』が期末テストでその結果を出している。次の期末ではどこまで行くのやらね」

 

「いいことじゃないか。弛み切った馴れ合いの関係よりも、緊張感ある内部での争いこそが、組織の健全な在り方だと俺は思うぞ」

 

 

 同輩にしてそれなりに昔から知っている……親同士の話し合いでは『嫁に』『婿に』などと言われていたが、こんな姿を見てはそんな熱もさっぱり冷えるものだ。

 

 

「特に三年生は、すごい伸び率だわ―――三年の二科は、ふるい落されてきたからかしら……」

 

「一番の原因は甲の言葉だろうな。あいつはお袋さんの実家―――京都方面に行く前に、言伝を残したそうだ。『栄達の道はロード・トオサカにあり』ってな」

 

 

 七草は、その言葉にくしゃくしゃと髪を掻きまわす。

 追い詰められたものだからこその一念発起。しかも10分の講義休み時間に一科生の眼も構わず1-Bにやって来るらしくて、千客万来。

 

 アンジェリーナも恋人との時間を奪われているのに辟易しつつあるが、そこを呑み込んでいる。

 彼らが必死になっているのも、申し訳ない想いがあることも理解しているから。

 

「出来た女の子だな。正直、ここでワガママの気儘をクドウは言うと、俺は思っていたぞ」

 

「そりゃ刹那君との付き合い長いから分かっちゃうんでしょ? そう言う風に頼ってきた人間を見捨てられないってね」

 

 もはや夫婦の領域だな。今さらな話ではあるが、改めて認識する。だからこそ『仕事仕事』で細君を放っておくとロクなことにならないだろう。

『巷間』の噂ごととして克人は思うも、『実態』として真由美は知っていただけに、その辺は何とかした方がいいんじゃないかと思う。

 

 

「まぁそんなこんなで、二年では壬生さんを筆頭に、30人、一年では達也君というよりも吉田君を筆頭に20人が一科の中級ラインに食い込んできたわ」

 

「選考に関しては?」 

 

「三年で幸田さんや長岡くんを連れていこうとしたんだけど、本人達が辞退したわ。関係者にアピールするよりも遠坂君直筆のテキストとにらめっこしている方が、今の自分達にとっては有意義だってね」

 

「それは同感だ。そして遠慮したわけではないんだろうな」

 

 

 実際、今では真由美も克人も片手に持つことも多くなった蔵書の名著者。遠坂の師匠と呼ばれる人物……しかし、段々と奇妙な思いもある。

 

 

「如何に古式魔法の歴史が現代魔法……もっと言えば十の研究所での俺たちの曽祖父の代ぐらいから始まったとはいえ……ここまで『デカい歴史』を見逃すものか?」

 

「それは私も、いえ、殆どの十師族が思っている事よ。確かに魔法研究の成果や人材というのは鎖国的よね。それはどんな国でも同じ。『UK』にしたってね……こんな『ロード・エルメロイⅡ世』なんていう凄い御仁がいれば、誰しも分かりそうなものだけど……」

 

「あいつが独自で作り上げたということは?」

 

「それも考えたんだけどね……うーーーん。こういうのはどうかしらね十文字君? 刹那君は、違う『歴史』を辿った地球からやってきた魔法の『ジョン・タイタ―』(タイムトラベラー)ってのは?」

 

 

 その言葉を聞いた時、十文字克人の気持ちは一つだった。

 この女、遂にそんな『妄想』を思いつくようになるとは……。遠坂と司波にいじめられすぎて、遂に精神が参ったか。

 

「ナッシング・マギクスの見過ぎだ。もしくは、シュタゲゼロの演じ過ぎだ」

 

「前半はともかく、後半は何の話よ? まぁ……達也君がキノくんのお兄さんに語ったことを真面目に考えていたのよ。私なりにね」

 

「……『魔法』が『世界』に認知されなかった『世界』か、確かに想像力を逞しくすれば、そんなものは幾らでもある」

 

 

 アレキサンダー大王が東方遠征を果たして、世界に冠たる『巨大帝国』が作られたり、本能寺の変が起こらず信長による大陸に対する侵攻作戦が発動したり、第三次世界大戦に至る前の第二次世界大戦で、旧日本軍が大東亜共栄圏を築いたり、その一方で敗戦後の統治で、本州および沖縄、北海道がそれぞれ戦勝国の統治下に置かれて民族分断されたり―――。

 

 そこまでいけばSF世界やフィクションヒストリー(架空戦史)の世界であり、娯楽のジャンルとしては、今でもあるものだが……。魔法が『セカイの裏側』にひっそりとあった『世界』……如何に自分達が魔法師と言えども、そういうのを想像しないことはない。

 

 

「ただ、そんな世界でも最終的には『同じ』になってしまうんじゃないか?」

 

「そう思う?」

 

「色々言えるが、結局……持たざる者と持つ者とが生まれる以上、『どこか』でそういうのはありえるさ。魔法云々ではないと俺は思うよ」

 

 

 夢想した所でどうしようもない。この世界に『神が実在しない』ことが『証明』されて、人類の英知が、人間の遺伝子を弄ることを『是』とした時に……全ては転換したのだ。

 結果として、魔法師というものが尋常の世にいる『世界』に《人類悪》は生まれ落ちた。

 

 アーネンエルベで刹那から聞かされたことは、他の十師族に口頭及び資料で示したものよりも詳細で踏み込んだものだった。

 そして人類悪の本質が『人類愛』であり、即ち『人類悪』の発生は、より良い未来を望んだものや多くの人の信仰によって生み出されて、その本質としては邪悪ではない。

 

 無論、ニューヨークに現れた人類悪は、魔法師を殲滅する為に魔法師になる可能性がある『人類全て』を抹殺するという結論に至った以上、今後もこれらの思想が蔓延すればビーストは出るのかもしれない。

 

 『邪悪』とは真逆の意思だというのに、立ち向かわなければいけない。こんなことを聞けば、誰かは発狂しかねない。

 そして、それが事実でないと信じたところで……アンジェリーナ及び刹那が見せた『記憶』、ある種の追体験から―――あの場にいた全員は、それを認識した。

 

 思い出して身震いしそうな己を抑えて、克人は同級の女子に話しかける。

 

 

「シニカルなことばかり考えるな七草。今のオレたちにとって必要なのは、『九校戦』でのことだよ」

 

「そうね。うん―――ありがとう。少し気が楽になったわ」

 

 

 結局の所、どんな未来を選択するかは自分たちなのだから―――。

 

 

「今回はメンバーの選出に苦労しそうだ。試験結果を考慮した上で『連携』(コンビネーション)を考えれば司波、西城、吉田でモノリスの新人戦をやらせてもいいほどだ」

 

「言っちゃなんだけど。つぐみちゃんの弟くんは、少し緊張しいだものね……」

 

「千葉もバトル・ボード―――もう少し干渉力が高くなれれば……その辺は、『技術屋』(司波、遠坂)に任せればいいか」

 

「その場合、気になるのは摩利との関係なんだけど……身贔屓になりたくはないけど、何というか、やはり―――『尚武』の三高がいるから考えちゃうのよねぇ」

 

 

 人によっては二科を贔屓していると聞かれかねない発言なのだが、2人が、こういう風になるのは仕方ないのだ。

 

 要は今の一年の一科の大半は、『お行儀が良すぎる』のだ。

 無論、勝負事とはいえ、ルールがある九校戦である。反則行為は審判によってジャッジが下る。

 

 しかし、競技種目というのは時にラフプレーの中のラフプレー。接触事故も起こりかねない。

 そしてボクシングやサッカーに代表される歴史の長い『当たり』の強いスポーツの格言には、こんなものもある。

 

 

『バレない反則は高等技術』

 

 

 程度にもよるが、そういうものだ。

 審判(アンパイア)の心証を良くすることでカウントを良くする捕手に、スクリーンを掛けさせないためにユニフォームを掴み、ボールに回転を掛けて自陣に有利なボールを運ばせて、破滅へのロンドを―――。

 

「―――とにかく、今回は正直、試験結果だけを参考にしていては足元を掬われかねない」

 

 一瞬、『変な思考』が克人に走ったが、持ち直して真由美に話す。

 

「そうね。エルメロイグリモア―――三高は既に読破して、かなり自分達専用に改良しているとも聞くわ……特に戦闘用術式を」

 

 

 流石は、尚武を掲げる連中。

 一度は織田家を追い出されて、妻まつと浪人生活をやりながら、『こっこ』も作って、何とか美濃斎藤氏との戦いで帰参を許された前田利家のごとく、ハングリーな連中である。

 

 百万石を作り上げるように超人魔法戦士団(想像)を作り上げてやって来るのだ。

 

 

「押し通せるか?」

 

「反発を何とかするのも私の役目なんだけど……刹那君が何かやりそうで怖いわ」

 

「しっかりしろ七草。そこの調整をするのがお前の役目だ」

 

「わかってるわよ」

 

 

 本来ならば一科と二科の融和は真由美の事業だったのだ。そもそも、『問題の本質』に斬りこめる術があるならば、真由美だって何とかしていた。

 このまま自分の理想を力だけで具現化させない。とはいえ、最終的に周りを黙らせるのは『実力』だろう。

 

 副会長を黙らせて己の我を通した達也の如く……。そんな風に夢想に耽っていた所、入室希望が入る。

 

 栗井教官ことロマン先生であり、特に何も抵抗することなく入室を許可する。

 

 

「どうも、2人っきりを邪魔して悪いね」

 

「お構いなく。別に色のある話をしていたわけではないので」

 

「そこはウソでも、『七草が弱気になっていて相談に乗ってました』とか言えばモテ男(フェロメン)に見えるのに」

 

 

 そんなタマじゃねーだろという半眼の視線を男性二人から浴びて、しくじった真由美は咳払いして用件を尋ねる。

 

 

「いつもの『出席・欠席』のまとめだよ……とはいえ、こういうのは本来、形式的なものなんだけどね」

 

「仕方ないじゃないですか、一応、人によっては『お盆』にもかかるんですから」

 

 

 この2090年代ともなると、いわゆる『田舎』『親の地元』への『里帰り』という風習は、そこまで遠方に行くことはなくなっていた。

 

 ただでさえ世界的な人口減少に加えて、日本では2000年代から問題となっていた少子化・過疎地域などのインフラ問題の解決として、いわゆるロボット産業によるホームヘルプ。

 

 同時に、多くの産業を中央集権的に各都道府県の『県庁所在地』『行財政特化都市』などに集約することで、人口の移動を極力なくしていた。

 無論、中には先祖代々にして守らなければいけないもの、墓の管理維持にしても違う寺社に移すことを嫌がる世代もまだいた。

 

 よって―――、この時代に『盆の里帰り』というものは非常に珍しいものとなっていた。半世紀も前には、『田舎に里帰り』などと自動車による高速道路のラッシュや新幹線の混雑……なんてものはない。

 

 

「そう。形式的なものだ……うん、形式的なもののはずなんだよ。この『戦』に出る連中からすれば、出場する生徒の親御さんも専門チャンネルを契約するのに躍起になったりね。お祭りなんだけどね」

 

「………え」

 

 

 何か言いづらいことを『本当』に言いづらそうにしている『1-B』の担当指導教官にして『エルメロイレッスン』のアシスタント講師でもあるロマン先生の、歯切れの悪い言葉。

 

 端末表示で二人分の電子署名を見せつける。

 その端末から『ゴゴゴゴゴゴ』とか未知のスタンド攻撃を想起させる音が響く。待て、そんなことが起こりえるのか……。

 

「とりあえず見てくれ。話はそれから、そして放送室の鍵はコレ。壬生達の一件から結構厳重になってるんだよ」

 

 後の行動を予想していたロマン先生の手際の良さ。そして二人は顔を寄せ合ってその端末を見た。

 別に色気があるとかなんとかではなくて、2人で見ないと怖くて怖くてしょうがなかったからであり……見た後にはすぐさま、ロマンから鍵を受け取りダッシュで放送室に向かう。

 

「会長と会頭が廊下を走っていいのかね。まぁ今更だな」

 

 ロマンが理解を示す理由。

 

 遠坂刹那、アンジェリーナ・クドウ・シールズ―――二名は『私用』により九校戦『欠席』。そう端末に表示されていたのだから。

 

 

 † † † †

 

 

「しかし、とんでもない期末試験結果だよな」

 

「競馬に例えるならば、一列並びでのライン割のハナ、アタマ差みたいなものだからね」

 

 

 レオとエリカの言葉に確かにと思う達也。今年の一年の一学期の期末テストは、とんでもない『混戦』だったからだ。

 

 五月の頭ぐらいから始まったエルメロイレッスン。刹那が主催する個人講座にして『最古』の魔法授業―――新しさよりも古さに重きを置いた授業。

 当初こそあまり期待されていなかった。興味本位のアラさがしで初回に来ていた連中も多いその授業は……聞くものが『増える』ことはあれども『減る』ことはない授業だった。

 

 誰もが週二回の授業を楽しみにするぐらいには恐ろしく熱中できる講座であった。そして技量の高まるものが多い講座。

 

 

「実技でミキが一科の上級ラインに入るのは分かっていたけど、まさかレオ―――あんたまで入るなんてね」

 

「まぁ、俺も驚いているんだ。やっぱり刹那の呪文とかも『ドイツ語』だから、連想がしやすかったのかもしれない」

 

「アタシもドイツ系の血は入っているんだけど?」

 

「そうは見えないぐらい日本人的なんだけどね、エリカは」

 

 いじけるエリカに言う幹比古も少し苦笑いであった。

 

 魔力のイメージこそが大事と言っていた刹那の言葉は正鵠を得ており、二科の連中にイメージ力が無いのではなく、『イメージすべきもの』と『魔力の性質』が合致していなかった。

 そう言う刹那の言うことに従い、伸びに伸びた二科―――ウィードなどと呼ばれていた連中に……。

 

 

『まぁ草と言えば草だわな。セフィロト(生命の系統樹)の起源も、元々は花なんかじゃなくて木の実だからな。そして―――お前たちにはその資格があったわけだ』

 

 見事に黒板と『魔術刻印』を通じて、カバラの思想における『樹』を投影する刹那の言葉に従い、説明を受けたことを思い出す。

 そして、『ケテル』(王冠)ではなく『マルクト』(王国)に通じるものに手を伸ばしている……秘術の説明と、二科を上げる説明に一科から少しの反感もあったが、成果が出たのでは押し黙るしかない。

 第一、最初に差別をしていたのは、一科なのだから……。

 

 

「で、結果としてこうか……本当に、入学試験では本気を出さなかったんだな」

 

「なめてる。けれど、ここまで圧倒的だと古式云々すら怪しくなってくるだろう?という考えも分かる」

 

 刹那の言葉を足す雫。

 

 達也が電子端末に出した試験上位20名のランキングにおける、今期末のトップである『男』。魔法科高校のイノベイター、リーディングシュタイナーなどとも称される人間。

 

 それに対して北山雫は少しの悔しさとも不満とも言えるものを呟く。雫もまた今回はトップ20に入っている。そして、刹那の指導の下、『魔女術』と『元素変換』というものにも取り組んでいる。

 

 そう。だからこそだ。雫は色々な感情を出してしまう。そしてそんな雫をフォローすべく、達也はこうなった原因を話す。

 

 

「刹那も言っていたよ。これ以上講座を開いていきたくば、相応の結果を出せって言われたって」

 

「誰に? いや、もう検討はついているけど、達也君といい刹那君といい、出る杭は打ちたくなるのか、何なのか……」

 

 

 エリカの額を抑えた心底の嘆きに苦笑するのは、先程まで職員室に呼び出されていた達也である。

 無論、教官たちの様子も見ていて、その中の話題に刹那があることも分かっていた。

 

 しかし、ロマン先生こと栗井教官の姿が見えないことが少し気がかりではあったのを、心中に付け足す。

 

 改めて見直すランキング。そこには―――。

 

 実技試験成績優秀者

 

 1位1-B 遠坂刹那 1300点

 2位1-A 司波深雪 1135点

 3位1-B アンジェリーナ・クドウ・シールズ 1130点

 

 記述試験成績優秀者

 

 1位1-E 司波達也 490点

 1位1-B 遠坂刹那 490点

 3位1-E 吉田幹比古450点

 

 

 総合成績優秀者

 

 1位1-B 遠坂刹那 1790点

 2位1-A 司波深雪 1567点

 3位1-B アンジェリーナ・クドウ・シールズ 1500点

 

 

 すごく変動した図である。何というか入試をあやつは何と考えていたのかと思う。

 

「リーナの事だから、刹那君と『ワンツーアベックフィニッシュ』出来なかったことを嘆いていたんじゃない? 実技だけでも、あと10点!!とか?」

 

『『ザッツライト』』

 

 一科で合同授業を受ける雫とほのかが、リーナを真似るように親指を立てながら言う。ネイティブな発音ではないが、まぁ分かる。

 

 しかし、雫は不機嫌な様子を隠しきれていない。それはテストの順位のことではないのだろう。

 

 

「そして総合50位程度まで調べると―――」

 

 

 一応、学内ネットにおいて表示できる氏名と順位に関しては、今回は特例として50位程度まで『引き挙げられていた』。

 

 指でタッチスクロールすると……。

 そこには一年の総合順位で二科生の名前が多くあったのである。

 

 14位に幹比古、27位にレオ、45位に美月、49位にエリカ―――そして50位に達也。そういった順位である。

 

 他にも平河や猫津貝、鳥飼などG組やF組の眠れる獅子に鳳凰、地に伏せる龍たち……『蛟竜雲雨を得』の如く動き出したのだ。

 

 一科生の反応は様々である。ケテルとして頂点に立っていたのに、足元から吹き寄せてくる連中に噛付かれることを恐れる者。どうせ限界が来ると思っていながら、自分達の上限が無限だと思っていたり……好悪さまざまな感情である。

 

 

「下位とは言え、私と達也君でワンツー『フレンド』フィニッシュだね? 嬉しい?」

 

「素直に言えば、まぁ嬉しくないわけではないな。ただ、もう少しやれる自信があっただけに悔しい」

 

「珍しいね。達也がそこまで上昇志向を見せるなんて」

 

 

 アベックと付けなかったとはいえ、エリカの発言に少し『むっ』としたほのかを見つつ、幹比古の言葉に考える。

 

 確かに、最近の達也は少し変であると思える。多分、刹那の授業が……本家から封印されたものを『克服』するものになるのではないかと思えるからだ。

 それを望まないかもしれないが、自分の全てが解放されれば、本当の意味でこの世界で『生きている』という実感が出来るかもしれない。

 

 

 様々なものを見聞きして、その色彩や雄大さ繊細さ……『うつくしきもの』の全てに感情の限りで答えられれば……。

 自分も『人間』になれるかもしれない。そんな『欲望』が出てくるぐらいには、達也も少し変わってきた。

 

 

「しかし、九校戦も間近か、応援に行くからがんばってくれよ」

 

「えっ!? 西城君は出ないの!?」

 

「吉田君も何か聞いていないの? エリカ、美月も達也さんも」

 

「「「「????」」」」「………」

 

 

 とりあえず実技順位における上位10位に入っている一科生『二人』に対して声を掛けたレオだが、予想外の反応に二科生四人が疑問符を出して、達也が少しの沈黙。

 

 まさか会頭がそれとなく言っていたことを本当に実現させようとするとは、いくらなんでも『反発』が大きすぎる。

 これを無しにするのならば―――噂に出ている達也たち世代のリーダーにもなれる「クリムゾン・プリンス」とやらを、刹那が完膚なきまでに打ち破るというプランで押し通すべきである。

 

 そして我らが『魔宝使い』(達也命名)ならば、何かと小うるさい三高の『狐』を黙らせることが出来るだろう。(会頭立案)

 

 そんな打算と色々と目立ちたくない。というか『目立つな』と実家から厳命されている達也だけに、深雪が時代のヒロインになれるだろうと思い、刹那がマクシミリアンの依頼で開発してきた『天使』の完成系及び別バージョンを深雪に託すが最善かと思った矢先。

 

 それら全てを御破算にするようなことが起こるのであった。

 

 

 放送の音声が入る。いつぞやの有志同盟の放送を思い出させる。あの時のメンバーがいたのか、何人かがエルメロイグリモアを見ていたのにびっくりした顔をしてスピーカーに眼をやっていた。

 

 

『え―――一高生徒会長プリティーキュートな七草真由美からの放送!! 総員傾聴!! 全校生徒に緊急連絡を伝えます!!!』

 

 

 可愛くいきたいのか、アーミーな様式でいきたいのか色々と頭が痛くなる七草会長の放送であり、今度は七草真由美が差別撤廃でも訴えるのかと言いたくなる。

 

 

『本日! 悲しいことに!! 来る九校戦を前に敵前逃亡をした輩がいる!! そう!! ヤツだ!! 色々と我々一高生の中で有名なオカリ―――ではなく!! 遠坂刹那とアンジェリーナだ!! バカップルをひっ捕らえて私の前に誰でもいいから連れてこい!! 見事捕えた人間には! 風紀委員長『渡辺摩利』のプライベートでムフフな写真を見事プレゼントします!!』

 

「真由美―――!!!!」

 

 

 どうやら食堂にいたらしく、脱兎の如く走っていく渡辺摩利の姿。放送室に向かったのは確かなようだ。

 

 とはいえ、いきなりな捕り物の予告に動くもの、動かないもの……半々である。そんなスラップスティック一歩手前の会長の言動に頭が痛くなる。

 

 

「この高校はいつから『友引高校』か『風林館高校』になったんだ……」

 

『『『『『『何をいまさら』』』』』』

 

「重症だな」

 

 

 頭を抑えた達也に対して、この友人一同、この回答である。そんなこんなしてどうするかと思いながら立ち上がった時に、少し息せき切って深雪が入ってきた。

 

 

「お兄様! みんな!! 放送は聞いた!?」

 

「ああ、何なんだ。あいつらが九校戦を前に敵前逃亡とかなんとか……」

 

「それは―――この紙が示しています!!」

 

 

 深雪が『WANTED』と言わんばかりに食堂の机に勢いよく置いたもの。プリントアウトされた紙に全ての理由が書いてあった。

 

 それは九校戦に参加するか否か、いわゆる期間中の予定空きがあるかどうかを確認してあった場合の『理由』を書面で回答するものである。

 

 

 深雪以外の七人が、その紙を覗き込んだ。覗き込んでその理由を見た瞬間に―――。一斉に立ち上がる。

 

 

「野郎ども、絶対にあのアホ二人をひっ捕らえるぞ! これはあいつらの友人であると自称―――いや、もう友人であると分かっている俺たちだからこそやるべきことだ!!」

 

 

 達也の勢いある音頭に各々の了解。

 特に雫はハルケンブルグ並におっかないオーラを発していた。理由は分かる。その意図も―――そんなわけで同じく駆けだすのであった。

 

 深雪が残した賞金首の手配書の如き紙を食堂の誰もが覗き込んだ時に―――事態は動き出すのだった。

 

 

 

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