魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第38話『九が始まる前―――九大龍王襲撃編―――』

「流石に正直に書きすぎたかな」

 

「けれど虚偽は虚偽でバチアタリよ。アナタのお父さんとお母さんの墓は無いんだから」

 

 

 調べられたらばマズイ。ということで、『その理由』は無しになった。流石にそこまでバランスも情報工作は出来ない……UKにあるとでも言っておけば調べようがないと思うのだが、日本の魔法師たちの情報網を侮ってはいけない。

 

 遅かれ早かれバレるのではないかと思いつつも、そう簡単に教えられるものでもない。

 

 

「それに、俺のワガママで君との時間が削られたのは確かなんだからな」

 

「そうね……しばらくは魔法科高校とか関係ない時間を過ごしたいものね……」

 

 

 言葉と同時に背中を刹那の胸に預けて上目づかいで言うリーナ。こういう時間が本当に四か月間―――『家』でしかなかった。

 そういうことは家でやれ。というどっかにいるかもしれないリーナの同僚(?)からの言葉が響くが、家でしかいちゃつけないとか苦行である。

 

「そんな潤んだ眼で見られて嬉しくないわけではないけど、出なくていいのか?」

「うん♪ 競うまでも無くアタシたちは『最強』だから―――そんなことは分かっていたことだけどね」

 

 確かに、場合によっては一高どうしで戦うこともあるかもしれないが、その場合でも自分達にとって敵と言えるものは、そこまでいない。

 しかし、自分やリーナとの闘争を望むものは多かろう。

 

 八王子クライシスで出た全てと、そして来年には挑んでくるだろうリーナの親族と……。

 

「やっぱり出るしかないのかな?」

 

「けれど、ワタシだって他の所へ行ってみたいわよ。『オソレザン』のイタコに会ってみたりとか『カナザワ』、加賀の美味しいものとか食べたい♪」

 

「東京及び関東観光も飽きてきたかぁ……同意だけど」

 

 

 元の世界での郷里も『日本』の首都から離れていたので、刹那としてもやっぱり東京が珍しい想いはあった。あったが、やはり四か月近くも経つと、どこかに遠出したくなる。

 そんな訳で恋人と二人っきりで旅行ともなると色々な案が出てくる。

 

「オキナワ行って……お、おニューの水着とか見せてあげたい……」

「無理にそんな言葉使わんでも」

 

 そういう時期ではある。しかし、それならば湘南でもよかろうと思える。赤くなったリーナ。

 胸を強調しながら人差し指を突け合うとかそういうのいいから。と思いつつも、こちらも顔が赤くなるのを隠せない。

 

 そんな二人とは対照的に階下ではとんでもねー騒ぎ。『何処にいる!?』『おのれトーサカ!!』『あの『あかいあくま』め!』『アンジェリーナさんと婚前旅行だと!!』『許せん!』『イッツアギルティ!!』など聞こえてくる。

 

 

「なんでこういう時の団結力だけはいいんだろうなー」

 

「どうする? 出てもいいわよワタシは―――ミユキが立ち塞がろうとも最後に立っているのは私だもの」

 

「魔術を見世物にするなんて心の贅肉すぎるんだが……しょうがないかな」

 

 

 聞くものいれば傲岸不遜そのものな台詞を吐きあう二人。屋上の床から立ち上がり尻などに付いた埃を払う。

 そうしてから左腕を捲り、四か月前の『神殿』の設備を起こして移動の準備とする。もう、ここの機能も払ってしまった方がいいだろう。

 

 いつまでも残しておくものではないな。と考え直して

 

 

「んじゃ行くか。生徒会室」

 

「いつ見てもすごい魔法式。遠坂家200年の歴史はいずれ、私達の子供に受け継がれると思うと……火照っちゃう」

 

「なんでさ」

 

 

 左腕を通して出した魔術を見て顔を赤らめながら腹をさするリーナに少しだけ蒼い顔をする刹那。

 とはいえ、その『可能性』が一番高い事を考えると、いま十日間以上もリーナと二人っきりで、にゃんつきながらの旅行とか『危険』なのかもしれないと考え直してしまう。

 余計な思考が集中を乱したのか、『疑似空間転移』で出たのは普通に校舎内廊下であった。

 

 

「―――」

 

 カチョウ(?)のベッドに現れたフウゲツ(?)の如く沈黙。そして、前には達也たち―――見知った連中。

 

 カンのいい達也が振り向く前に――――。

 

 

「ちょあ―――!!」

 

『『ガンドを撃つな―――!!』』

 

「先手必勝よ! じゃあね!」

 

 

生徒会長室に出頭しようとしたのに、なぜこうなるのか、ともあれ後ろから追ってくる気配。

殺気だってやがる。やばいな。指先一つでダウンとはいかない世紀末覇者達から逃げていく。

 

『CQ!CQ!BBQ!!! 件のバカップルを発見。ルート32で挟み撃ちにする!!』

 

 意味の無い通信を恐らく風紀委員本部に出しているのは誰か。森崎であった。

 ルート32とは、どこだったか……とりあえず階段を下るとすぐさま別の一団。五十嵐と辰巳先輩に出会うのであった。

 

「見つけたぞ!! 遠坂ァ!! こ、こんな理由で九校戦を欠席しようだなんて!! なんてうらやま―――もとい許せん!!」

 

「鷹輔。言っちゃなんだが、もうクドウのことは諦めた方がいいんじゃないか?」

 

「いつまでも渡辺委員長に横恋慕している鋼ちゃんに言われたくない!!」

 

 

 意外な関係性。恐らく居住地区の御近所なり同中、何かしらのスポーツクラブ先輩後輩の関係と推測。

 

 

「? ああ、家が近所なんだよ。まぁ昔っから知っているから、辰巳先輩って呼ばれるのもむず痒くてな」

 

「はぁ。つーことは亜実先輩とも?」

 

「まぁな」

 

 こちらの疑問の視線に答えた後に苦笑した表情の辰巳先輩はレアだなと思いつつも、手強い二人が敵に回ったものだと思う。

 そして少し後ろにいた五十嵐『先輩』の表情が少し……めんどくさい人間関係を見た瞬間だった。

 

 しかし、逃げることにする。SSボード・バイアスロン部の手練れ三人相手に早駆けのルーンで対処。

 誰もが、その逃走劇に加わろうとするも、その速さに追撃を諦める。だが流石に持久力に加減が無い機械である。

 

 徐々に差が詰められようとするも―――。

 

 

「セツナ、『だっこ』! ジョイントフォームで逃げるわよ!!」

 

「余計に反感買いそうだけど!?」

 

 とはいえ、手早く姫抱きしてお互いの魔力をリンク。逃走のスピードが上がる。

 後ろから聞こえる五十嵐の怨嗟の声を遠くにして何とか逃げ切る。こういう時にだけは魔法科高校の定員に似合わない広さが少しだけありがたい。

 隠形のルーンを発動。生徒会室がある棟から少し離れてしまった。同時に階下に追い詰めようと包囲を狭めてくるだろう。

 

 

「さてさて、どうしたものかな?」

 

「なんだってここまで恨まれるかな? 『私用』って書いただけなのにな……」

 

「えっ? 刹那は……その程度だったの?」

 

「? そりゃまぁ皆が、霊峰富士の『おひざ元』で一応がんばっているからな。とはいえ、USNAの魔法師である俺たちが何の呵責も無く出ていいものでもないだろうからな。せいぜい里帰り程度を匂わせていれば、その辺りまで突っ込まれる心配は―――、……リーナちゃん?」

 

 

 その時には、リーナは明後日の方向を向いて、口笛を吹いていた。これは何か少し失敗というかやり過ぎた。詳らかにし過ぎた際にやるリーナ特有のすっ呆け(無駄)であった。

 

 ―――コッチヲ見ロォー!―――。

 

「そ、そんなシアーハートアタックみたいな声と顔で迫らないでよぉ! 今日の下着の色はピンクなんだからね!!」

「意味不明な回答で、こっちの動揺を誘うな。五十嵐の反応の理由が分かったよ……」

 

 姫だきしているリーナの反応に、何となくの想像を着けてから―――。

 もうこうなったらば、直談判するしかあるまい。生徒会室に行くには、疑似空間転移は無理なので……。

 

 

「……『天使』を使うか」

 

「マジで? 今度こそ見せちゃっていいの?」

 

「どうせ近日中にFLTも出すさ。マクシミリアン派である俺たちの術式とのトライアルだ」

 

 

 言葉とは裏腹に、嬉しそうなリーナに苦笑しつつ、窓際にて―――リーナはCADの操作。生徒会所属であったことが、この時は幸いした。

 対する刹那は、仕方なくリーナを守護天使として導きに従うことにするのだった。

 

 

 展開する起動式、構築される魔法式―――具象化したものは金色の翼であり、リーナの背中にそれが『生える』のだった。

 金色の少女に金色の翼―――とても絵になり『映える姿』である。誰も知らないその姿を見ながら―――お互いに合言葉を唱えあう。

 

 

『俺たちに翼はない―――』

 

 

 何の意味も無い。しかし精神集中できる言葉で窓から飛び立つリーナの手に掴まり生徒会室へと向かう。

 

 浮遊感と同時に感じるはずの空気抵抗も無い―――それは……昔、母親の箒に乗って空を飛んだ感覚に似ていた。

 

 カレイドライナーとしての飛行とも違うそれに導かれながらも自重制御。

 

 

「お空でデートだなんて、ボストンを思い出すわ」

 

「その後に、君があれこれやって船を沈めた事を思い出すよ」

 

「更にその後に、新ソ連の空中戦艦を『乗組員不殺』で沈めたことも思い出すわね」

 

「君のデビューライブだったからな。血霧雨を降らせたくなかったんだよ。まぁ血をみたのはラルフとハーディとベンだけだったか」

 

「セツナ……大好き。もうワタシがアナタの守護天使なんだからね♪」

 

 アメリカでの生活における関わりある恒星級の魔法師たちを思い出して、その後に思い出す様々な顔。

 懐かしい思い出に浸りながらも、慣性制御が利いた飛行は終わりを迎える。

 

 生徒会室の窓が見えてきた。巨大なサイオンを吹き出す七草会長の背中を見ながら―――やることは一つ。

 

 ―――飛びこんで直談判だ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 それは唐突に飛来した。

 

 

「やってられっか―――!!!」

 

「なんじゃとて―――!!!」

 

 前時代的なアクションスターも同然のスーパーヴァンダミングアクションで入り込んできた存在は、窓ガラスを破りながら入って来るのだった。

 

 ちょうど無人のスペースであったとはいえ、ガラスが割られるという異常事態に七草真由美は大いに慄いた。

 飛来した刹那と一緒にアンジェリーナも入ってきて生徒会にいた全員が驚いた。

 

 

「――――Minuten vor schweisen」

 

 即座に左手を向けて、割れた窓ガラスに修復を掛ける刹那の姿。いつもながらとんでもないことである。

 

「ああっ、せっかくこの前から練習していたものをやろうと思ったのに……」

「すみません。あずにゃん先輩。とはいえ、俺の責任ですしね。修復魔術はまた今度ということで」

 

 中条あずさの少し物欲しげな声と言葉に謝罪した遠坂刹那。そうしてから見据えてくる―――こちらを……。

 

「さてと、あなたの自由人な気質は分かっていたけど、今回ばかりは何を歌うのか、胸が躍って眠れそうにないわ」

 

 東南アジアのどこかにいるツルッパゲの黒人船長のような事を言う会長に、似合ってませんよ。と思いつつ、弁明を行う。

 

 

「とりあえず、窓ガラスを割ったことを謝ったうえで……そこに書いてある通り、リーナと―――婚前旅行に行かせてください!! 九校戦期間中!!」

 

『『『『『大却下だ―――!!!』』』』』

 

 

 三巨頭だけでなく生徒会室の外にいた人間たちも加えての大合唱。どうやら苦難の道のようである――。

 

 

 † † † †

 

 

「なるほどな……リーナの微笑み忘れた顔など見たくはなくて、愛を取り戻すためにも、このようなことを画策したと?」

 

「熱い心をクサリで繋いでも、今は無駄なんだぜ! 誰も二人の安らぎ壊すことできないさ」

 

「とんだI am shockでWEはShockだよ……リーナとの愛を守るため、お前たちは旅立って―――俺たちは九校戦の明日を見失うのか?」

 

「……そんなにまでも俺たちが必要か? 正直、俺たちいる意味なくない?」

 

 

 達也の腕組みしながら心底の苦笑いというレアすぎる表情。検事のつもりか、座っている被告人である刹那を相手にしているが、刹那としては、そこが心底の疑問である。

 対する同じく被告人であるリーナもうんうんと頷いている。

 

「魔法科高校の魔宝使い――エスケープ編―――なんて気が速すぎるだろ。まぁ理由は分からなくもない。そして言い訳も理解出来なくもない……」

 

 メタなことを言いつつも少しの理解を示す達也に希望を見出したのだが……。

 

「それじゃ―――」

「だがダメだ」

 

 使い方は違うが、何とも嫌味なことである。お前、露伴先生ってよりブチャラティかアナスイだろうが! という内心のツッコミを呑み込んで、自分達が本当に必要なのか、出るしかないのか。そこを突っ込ませていくしかない。

 

「けれどタツヤ、ワタシもセツナも今はUSNAに『本籍』がある魔法師なのよ? まぁ色々な思惑含みでここにいるなんてのは、みんなとっくにご存じでしょーけど、そこまで九校戦に出る意味あるの? 皆の日本の魔法師としてのキャリアアップでありアピールの場なんだし」

 

 そんな『チャンス』をあまりこちらの都合で奪いたくない。というリーナの言葉に一同は考え込むも、三巨頭だけは揺るがなかった。

 代表して十文字会頭が口を開く。

 

「確かに九校戦は生徒の都合で出場・欠場を決められる。その辺りに対して強制力を俺たちも発揮は出来ん―――しかし、そのような遠慮で本来選ばれるべき人間の代わりに出て、その人間が喜ぶと思うか?」

「チャンスを捨てた馬鹿な奴と笑えばいいんですよ。俺たちの事を―――、それにどんな形であれ、選ばれたのならばあとはどこまで出来るかですよ。正捕手が故障で二軍落ちすれば、後はキャッチャーマスクの奪い合いですよ」

 

 どちらも言い分としては正しい。むしろ、若干ながら会頭よりも刹那とリーナの方に理はある。

 結局、九校戦というのが夏休み期間中に行われるのであれば、出場の可否は生徒の自主性に委ねられるのだから。

 

 如何に魔法師教育が色々と問題ありとは言え、生徒の事情も考えずに、勝手なことをすることはゆるされていない。

 それは教育行政としての最後の良心だろうか。

 

 事情通の達也が、今日言われた『転校転科の奨め』を思い出して、嘆息する。

 

 

「それに俺の見立てならば、新人戦の結果如何でも何事も無く一高の優勝でしょ。というか大方の見立てはそうだ」

 

 それも間違いない事実である。結局、三高の連中が脅威であろうとも、一高には既に国際魔法師A級ライセンス判定の人間が三年に多いのだ。

 下馬評が覆ることもない。そしてそれが『覆る』ことを好まない人間も多い。

 

「お前相手に論戦を挑んで勝つことの無意味さを思い知るよ……」

「議論なんて本音を聞きだすのに、何の意味も無いんですよ。要はテクニックですから―――ロベスピエールが、ルイ16世をギロチンに掛けたのと同じ」

 

 とはいえ、どちらも分が悪い。つまり前提条件として真由美も克人も劣勢からの逆転を狙わなければいけないのだ。

 

 そして、今回ばかりは、真由美も克人も逆転の手段を持っていたのだ。逆転裁判の始まりである。

 

「とはいえ、今回ばかりはお前には出てもらうぞ。必ずだ―――ただでさえお前たちは四月の一件以来様々に耳目を集めてきた」

「そうでしたね」

「その間に出た噂話などからも、我が一高を含めて九校全てからお前たち二人への九校戦への参加要請が出ている。アウトサイダー・マナカ・サジョウの一件以来、この一高を切欠に魔法師社会が様々な変革をしている。お前とクドウを起点にしてな」

 

 せいぜい今までのBS魔法師や古式などいわゆるオールマイティではない連中の指導法を教授していただけだと思っていたのだが、存外、魔法師教育が『クソ』すぎて―――。結果として『賢者の孫太郎』となっていたようだ。

 

「我が家は宝石を家伝として抱く家系なだけに様々な『カッティング』を見ていくんですよ。そんだけだったんですけどね」

 

 アレキサンドライトが光の当て方や加工の仕方で色々な面を見せるように、そういうことだ。

 だったのだが……なんでこうなるやら―――。

 

 

「ああ、そしてそれは様々なものたちを動かした。三矢、七草、十文字……お前と個人的に話したものは多かったな?」

「その節はお世話になりました」

 

 一番に思い出すのは三矢師の所に行ったときだったかもしれない。帰り際……少し霊場として歪なものを感じた神社にての邂逅。

 

 何かしらの『体』の訓練をしていただろう少年が無人の境内に寝転がっていたので一言。

 

『―――そんなところにいると蹴っ飛ばすぞ』

 

 

 三矢師の家の近くで出会ったのは、面白い少年だった。己の為すべきことをこなせないことに煩悶して懊悩する人間。そういうのは見ていて飽きない。

 飽きないからこそ手ほどきをしてやった。その後でどう伸びるかは当人しだいだが、機会があれば、もう一度見てやってもいいかもしれない。

 

『魔法使い』の心境とはこういうものかもしれない。一宿一飯の恩で魔術を手ほどきした大師父とご先祖様を後で思い出した。

 

 

「ウチの父が迷惑を掛けたわ」

 

「お構いなく。どうせ興味ない話でしたから」

 

 ビキビキという音が響くように青筋を立てる七草会長。どうやらあの人の話はいつものことのようだ。

 

「まぁ自分に何かあった時の為に娘に相応しい相手を用意しておきたいという親心なんでしょ?」

 

 正直、これならば法政科の連中の方がもう少し強制的であった。そこまで彼らも人の意思を捻じ曲げられないのは魔術社会の『法の番人』を気取っているからだ。

 

「あるいは……後悔か、懺悔、贖罪―――俺の『眼』には弘一師父はゴルゴタの丘に自分が磔にされる十字架を運ぶメシアに見えましたよ」

 

「どういうものを視たのか知らないけど、それはあなたの見間違いよ。まったく……節操がないわ」

 

 憤慨する七草会長に言っておきながら、目線は達也と深雪に合わせておくと、少しの暗い表情。要は『立場』の違いなのだろうと察しておきながら、会頭に話の続きを促す。

 

 

「そう。現在の魔法協会及び十師族においても考えは一致している。ロード・エルメロイ2世の『末弟子』という男の実力を直に見たいとな」

 

 同時にアウトサイダーたるものを抹殺してきた封印指定執行者の実力を見ておきたい。そんなところか。

 

 目立ち過ぎてロウズ補佐官になりふり構わぬ対応を求めたことが、ここに来て裏目に出た。しかし、取らぬ狸の皮算用で済んだかは怪しい。

 あの儀式工程ならば1時間の逡巡で、あの女は動いていたはずなのだから……。

 

 連名で出された書状を市原先輩から渡されて、軽く嘆息。

 

 ここまで手が回っているならば、どうしようもない。しかし最後の抵抗を試みたい。

 

「ならば、俺の実力も知れ渡っているはず。『最前線』で無かったとはいえニューヨーククライシスに参戦した魔法師ですよ。ビーストライズ(身体変成)された『アルトマ・メサイア・ビースト』の眷属たちとも一戦交えましたよ」

 

「ああ、修羅場の数で言えばお前は恐らくこの一高にいる中、いやもしかしたらば、佐渡島侵攻で勇戦した『一条将輝』よりも上かもしれんな。だからこそ―――誰もが測りたくなる。お前との差をな」

 

 勝手な物差し扱いであるが、誰もがざわつきを示している。例外なのは、ビーストの脅威……本当の意味で刹那がしたこと、配置されていた場所を見た連中ぐらいだ。

 そいつらは苦笑している。ペテンにかけている気分だろうか。そう思いつつ―――。天を仰ぐ。

 

 

「クドウとのプライベートトラベルは俺も止めるつもりはない。実際、お前が始めたこととはいえ、お前を拘束し過ぎていたのも事実だ。まぁ学生として健全さは保てと『意味の無い注意』だけはしておくが……それは九校戦の後でもいいんじゃないか?」

 

学生らしい言い分と皆の兄貴分としての混ぜ合わせ。ここでこれ以上駄々を捏ねても、これ以上は会頭と会長の面子を潰すことになってしまうだろう。観念するしかない話だ。

 

「そこまで会頭に言われたならば、俺にはどうしようもないですよ。分かりました。遠坂刹那。九校戦への参加を了承します」

「アンジェリーナ・クドウ・シールズも同じく、色々迷惑掛けましたが、そういうことならばワタシも出なければ不義理ですね」

 

 結果として、夫婦揃っての九校戦参加がなったのである。しかし、これはこれで良かったかもしれない。

 実際、出場内定生徒の中にはUSNA出身の2人が九校戦に参加することを是としない人間もいたのだ。実力では頭『四つ』抜けているとはいえ、日本の魔法師達の祭典なのだ。

 

 色々と想う所はあったのを、こうして公衆に出すことで有無を言わさず納得させたことが、色々と良い事になるはずだ。

 

 そして、一科二科関係なくオールスターの総力戦で行かねば勝てないのだと、納得させる……。

 

 そんな様子を生徒会室の戸口に立って見ていたロマン先生の微笑に色々思った克人と真由美が笑みを零しあうと、服部副会長が少しの複雑そうな顔を見せていた。

 

 

「それにしても、旅か……何でまた?」

 

「俺は日本にいたのも数年間程度、生誕の地はロンドンだったからな。少し―――お袋と親父が生きてきた国を詳らかに知りたかったんだよ。かつて先生が征服王イスカンダルの足跡をたど――――」

 

 達也の疑問に応えようとした刹那の言葉が途切れて、『魔眼』が発動。次いで五十里先輩が頭を抑えて隣の千代田先輩を心配させて――――。

 

「敵襲! 正門前に何者かが魔法攻撃を加えました!!」

 

 

 幹比古の警告の言葉(WARNING)に、誰もが窓へと寄っていき―――、何人かは建物から降りていく。

 

 大体は、CAD持ちの人間であるが、そのCAD持ちに誘われての外出だったり、純粋体術での降下の着地、半々で降りていったり――――まぁそんな超人的なことをやった連中を見送った人間達も遅れて、普通に出ることに気付いたわけだが……。

 

 先行した達也、深雪に追いつくように刹那、リーナが続き、三巨頭が出て、次いで他の生徒会メンバー、後にエリカとレオなどが続く形……。

 

 

(何というか、この『野次馬根性』が、俺たちを有名にしているんだよな……)

 

(何を今さらだな―――しかし、構築していた『警報システム』がきっかり作動するとは……)

 

 

 達也が並走する形で、こちらに言葉を乗せてきた。刹那はシルヴィア・マーキュリー・ファーストの秘儀の一つだが、達也は思念というよりも『忍術』の一種で、こちらに言葉を合わせてきたのだ。

 

 魔術的な警報システム。要は悪意や敵意を示しながら校内に入ってきた存在。特に魔力を滾らせている存在に対するもの。

 

 かつて親父の実家にあった『簡素』なものを四月の教訓で導入していたのだが……、

 

 あっさり破って、刹那と啓先輩を超えて最終の幹比古の方にまで魔力を到達させてくるとは―――内密の『警備担当者』として動いていた三人だけに、それに気付けたのだ。

 

 そして辿り着いた正門前は以前のことから閉ざされていたものの、もうもうと立ち込める煙で相手の姿が見えない。視えないのは―――都合が悪いと思ったのか……風が吹き、煙が晴れた先には――――九人の男女が存在していた。

 

 

「なっ……!」

 

「十文字君! 彼らは―――!!」

 

 

 そいつらが着ているのは、明らかに『魔法科高校の制服』。カラーリングこそ違うが、どこかの魔法科高校だと気付く。

 

 そして一年よりも詳しく気付けた会頭と会長が絶句している。その様子を面白がるように、そいつらは名乗りを上げた。

 

 

「まず一番手は影となり!」

 

 黒髪―――長いものを鮮やかに伸ばした男が、虚数魔術にも似た『影絵』を出して宣言。

 

「姿はあれど音は無し!」

 

 無音のままに風を吹かす女が宣言―――。

 

「静かなれども振り向かば!」

 

 声で幾多もの雷の獣を出して、雷鳴を轟かす肉厚の男、十文字会頭級が現れて―――。

 

「十重に二十重に舞い上がる!」

 

 砂嵐をいくつも層で出現させる不機嫌そうな男。砂使いという事実に少し驚く。

 

「菊の花びら!」

 

 言いながら、火の粉を炎の花弁の如く己の周囲に散らす女が同時に舞を刻む。

 

「浮世の湖面に映り散る!」

 

 水の無い場所で、このレベルの水遁を、と言わんばかりに水を噴かせる女が、湖面の如く水を満たして―――。

 

「望みとあらば目にもの見せよう!」

 

 炎と水を合わせた術―――『燃える水』を作り出す達也、刹那と同年だろう少年。

 

「我ら命の大あばれ!」

 

 風と雷を合わせて風神・雷神とするかのような少女が双腕にそれを発生させて言って―――。

 

「九色の龍が天を貫く!」

 

 言いながら九つの色の魔力の流れを生み出した男は『気配』が違っていた。

 

 リーダー格なのか短い金髪の……肉食獣どころか肉食恐竜を思わせる筋肉質な男、精悍でありながら鋭い印象……とりあえず一高にはいないタイプ。

 

 制服の上から黒革のジャケットを着込んだ男は、刹那がこの世界に来て初めて見るタイプの『魔法師』であった……。

 

 

『―――――我ら元素魔法連合(エレメンタルユニオン)九大龍王(ナインティル)!』

 

 

 最後に全員での名乗りを上げたことで正門前に駆けつけた連中全員が気付く……。

 

 

『『『『やべぇ……真正のキ〇〇〇だ……』』』』

 

 

 とはいえ、その中に『毛並み』の違うのを確認した人間達は、即座に緊張に晒される。

 

 

 戦いの前哨戦が開幕を告げるのだった……。

 

 

 

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