魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第43話『九校戦――騒動の幕引き、見えぬ過去』

 空間に投射される魔法―――その力量は、たいしたものだが――――。空気中に存在するマナに通り道を作っておけば、正しい像を結ぶのは難しくない。

 別に老人の『イタズラ』『お茶目』を邪魔する気はないが、随分と手の込んだものをする。

 

 自然発動した『魔眼』が壇上に上がったドレッシーな装いの女性の後ろにいるジジイを発見する。そしてジジイも、こちらに気付いて、口を横に引っ張る仕草。

 

 口にチャックとでも言えばいいものを、笑みを浮かべながらやってきた。つまりは―――『黙っていなさい』ということだ。

 

 イタズラの共犯者として仕立て上げられたことで嘆息。

 

(やれやれだ……ん?)

 

 如何に親族の登場とは言えいきなりの闇の中、リーナは、こういったかくし芸は苦手なのだろう。見えぬものを『視える』ようにするには、リーナはまだまだだ。

 

 とはいえ、そんなこんなで闇の中、一瞬触れた手。そして握りしめた手の暖かさを忘れないようにしておく。

 

 この手の暖かさこそが刹那にとっての―――『魔法』なのだから……。

 

 

 どうやら見える限りでは刹那以外には―――『15人』ほどが気付いている様子だった。

 

 馴染みの顔もいれば、九大龍王とか名乗った連中もちらほら……そしてその中でも四高の中心にいた人間。

 

 あの時、部屋に荷物を置いた際に出会った女―――上級生だろう銀髪の女もまた老人の茶目っ気に苦笑してから、こちらに気付いたようだ。

 

 満面の笑みを浮かべて手を降ってくる姿に、何だか毒気を抜かされる。そんな姿に眼を逸らして壇上にいる老人がようやく姿を現す。

 

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはちょっとした余興だ。魔法というより手品に近いものだがね。奇術師の使うミスディレクションというやつだな」

 

 その言葉に『幻のシックスマン』C組が誇る『切り札』が苦笑した様子だった。

 

 ―――大仰なポーズなどを起こすことで視線誘導・心理誘導。その手の類の技は魔術師もやらないわけではない。

 しかし、それは『魔術戦』における一種の『仕掛け』であり、決まれば痛快。見抜かれたらば地獄に落ちろと最大限の秘術を使う。

 

 基本的に、そういう『綺麗な魔術戦』を行った回数は片手で足りてしまう刹那であるが、その観点で語れば老人の手腕はまずまず『大したもの』である。

 

 そう思いつつ―――九島烈の言葉に耳を傾ける。

 

 

「手品のタネに気付いたものは、見た所16人、うち一人は、早々に私を見つけ出してから、私の孫娘の手を握りながら観察しつつ四高の『有名人』に眼を向けていたほどだ」

 

 おい、こらジジイ。などと心の中でのみ罵ってからリーナの半眼という邪視線を受ける。

 何で俺だと分かるのやら。達也かもしれないじゃないか。という反論は一切受け付けられなさそうだ。

 

「16人もの魔法師―――結構な数だ。私が例え君達を殺傷する目的で紛れ込んだテロリストだとしても、即座に捕縛される数だな。全く以て教訓にならないルーキー達だ」

 

 嘆くような言葉だが、気持ちとしては面白がっているようだ。

 まぁそんな風な状況に陥ったとしても、神経ガスを『霧散』させたり、もっと言ってしまえば成分を無害なものに還元できる。そういう現実を超越出来るのが、魔法師であろう。

 

 想定されている状況としては―――九島烈ほどの『隠れ身』が得意な魔法師が相手であれば『厄介だろう』ということだ。

 

「しかしながら、その16人が、その脅威の場に『なかりせば』、果たして同胞諸君―――君達はそれを防げただろうかな?」

 

 痛烈な皮肉である。その16人が見ているものを『共有』出来ないということは、危険を正しく認識出来ないということだ。

 

 起こってしまってから、さぁ大変ではどうしようもない―――、そういうジジイの言葉に、そりゃ想定が深すぎると思えた。

 

 刹那としては、そういうことだ。しかし九島烈にとってはそうではない。

 

「世の全てを超越出来る魔法師でも、そんな些細なことで敗れ去る。戦場を知らぬ者も多いだろうが、多くの英雄や勇者と呼ばれるものたちとて、どれだけの武勇を誇ろうと『乱戦』となれば、どこからか飛来する流れ弾。雑兵の振るった偶然の一太刀、多対一に追い込まれれば体力を失えば、『只者』(ただもの)だ―――私がこうしてここにいるのは、単に運が良かっただけだな」

 

 日本の国防軍で勤め上げて第3次世界大戦においても様々な戦場を転戦しただけに『閣下』の言葉は、想定しているものは若干違えど刹那にも分かるものだった。

『村』における絶望的な戦いで『死なずにすんだ』のは、『運が良かっただけ』なのだろう。

 

「研鑽したまえ。そして『魔法』だけに囚われるな。己を成長させる『道』は様々ある―――そこの男の『授業』のように『先に至ったものたち』の道筋から、『違う道』に至るのもいいだろう。―――其(その)道にあらざるといふとも、道を広くしれば、物事に出(い)であふ事也。迷った時には他の道に進んでみることだ」

 

 生涯不敗の剣豪『宮本武蔵』の言葉とは、恐れ入る。だが『そこの男』と言うと同時にスポットライトを当てるな。

 色々と言ってやりたいことはあるが、別にKYなわけではないので、爺さんの言うがままにしておく。しかし今の魔法師界を作り上げた男が、こんな事を言うのは二度目であり……正直、何かの焦燥感すらも感じるほどだ。

 

「明後日からの九校戦は、それらの総括だ。魔法の巧緻・大小・強弱―――牙の鋭さ、健脚の速さ……『力』と『力』……『それら』だけで決まる戦いでないことを期待して、私は諸君らの工夫を楽しみにしている」

 

 その言葉の意味を誰もが知りえて、それに違わぬことが出来るだろうか……それを実践するには誰もが『魔法師』すぎるのだから……。

 まばらな拍手。意味を分かっているのかどうなのかというのが大きなものになるには『数十秒』。その数十秒が―――分かっていないものたちなのだろう。

 

 

 そして拍手しながら刹那が眼を向けたのは、ジジイ曰く『四高の有名人』であった……有名人―――名前こそ知らないが、あきらかに「こちら側」だろう相手は、刹那をずっと見ていたようで―――視線を向けた瞬間に手を唇に当ててから離すジェスチャー。投げキッスをしてきて―――。

 

 見えないはずのその軌道の途上でリーナ、一色、雫とが『べちんっ!』と叩き落とした。それを見た女は苦笑しながら次の手を見せる―――。

 

 指先で文字を達筆に描いた。よく見ると口紅などのリップ系の化粧道具―――それに見せた礼装。

 CADではない―――見るものが見れば、幹比古などの呪符と同系統だろうとすら誤認するそれを使って、描いたものは―――。

 ドイツ語で書いた『それ』を見た瞬間、頭が沸騰する想いだ。

 

 

「セ、セツナ!? いきなりどうしたの!?」

 

 吹き出る魔力と警戒の念にリーナが焦る。

 

「刹那さん!! 『イリヤ先輩』とどういう関係なんですか? というか今の文字はなに―――」

 

 一色の驚いた声を聞きながらも睨みあいは続き―――大きな拍手の中、対峙しあうというにはあちらはどこか飄々としている女。

 

 動くに動けない懇親会。その場が流れるまで―――銀髪を見るしかなかった。ドイツ語で達筆に書かれた言葉。

 

 

『私は『アインツベルン』の『エミヤ』だ』

 

 

 その言葉だけで動きを縫い付けられたまま懇親会は終焉へと向かっていくのだった……。

 

 

 † † †

 

 

「四高の伊理谷理珠(イリヤ リズ)ドイツから帰化した魔法師で、私の得意とするフェンシング型魔法競技『リーブル・エペー』におけるジュニア世界代表にまで選ばれた人ですよ」

 

「君の競技種目における眼の上のたんこぶか」

 

「別に代表に選ばれていないわけではないです。ただ―――いつかは勝ってみたいと思います」

 

 

 隣で拳を握りこんで意気込む一色にしばらくは無理なんじゃないかな。と刹那は口に出さず思いながら、一色が端末に表示した情報を精査する。

 

 懇親会の後にそれぞれの高校で集まることなければ、旧交を温めるなりなんなり自由ということだ。九校のあつまりだけに―――。寒すぎた……。

 一人で愚痴ながら、そんな『寒さ』と共に生きて来たんじゃないかと思う『リズ先輩』の(かんばせ)を見る。

 

 

エクレール(稲妻)と言われている愛梨に対して、クロノス・ローズ(時間の薔薇)と呼ばれているのが、理珠先輩。その剣捌きは静謐にして一瞬にして相手の喉元を貫くクイックドロウ」

 

 一色の取り巻きの一人……友人である十七夜栞(かのうしおり)―――愛嬌を込めて『しおりん』と内心でのみ呼ばせてもらっている子が説明をしてくれた。

 

「彼女がステップを変えて、足さばきを変えた時、相手の命脈を断ち切る連撃が解き放たれるのです。その凄まじさは―――私の稲妻など手品程度でしかありませんわ」

 

 そういってからこちらが覗いていた端末に身を乗り出して動画を再生させる一色。その急激な密着に様々な視線が刹那に食いつくも意に介さない。

 無論、刹那自身も一色の身体の柔らかさとかは頓着していない。その様子を見た何人かは―――イリヤ・リズは、『アウトサイダー』なのかと緊張する。

 

 

 再生された動画、国際大会の一つなのか練習試合なのか、それなりの観客の前で振るわれるフェンシングサーベルの打ち合い。

 

 一色の言うステップが変わった時に、起こった変化を見た刹那の眼が鋭くなり―――画面上では、幾重にも分裂したイリヤ・リズの姿。

『リーブル・エペー』の競技通りに魔法を使ったと分かるのだが―――初見で達也は、忍術で言う所の分身の術か、幻惑の術かと思ったが……視覚情報からではそれ以上のことは分からなかった。

 

 しかし、刹那は何かに気付いたようだ。しかし……気付いた後に怪訝な顔をしている。

 

 そんな怪訝な顔は一瞬で霧散して、一色に向き直って『ありがとう』と言った刹那は、端末を返す。

 そんな程度のやり取りでも何だか一色が赤くなるとか、こいつは本当に女たらしだなと気付く。

 

「達也。刹那に代わってツッコませてもらうが、「おまいう」だと思うぞ」

 

 深考の黙考に入った刹那に代わって、レオに言われて―――そうかな? と考えるも、やはりそれは違うと思う達也だが、他人の意見は違うようだ。

 

「同感ね。にしても強敵に次ぐ強敵ばかりの出現……そしてリーナの純愛ロード(?)を邪魔する恐るべき(ヒロイン)ばかり―――、大変ね?」

 

「エリカ、ちょっと体育館裏(?)で話し合わない?―――具体的には肉体言語で」

 

 どうやらさしものリーナも、ここまで刹那が取られそうになったり取られたりで、情緒不安定のようだ。

 怒気を受けたエリカは、からかいのレベルを上げ過ぎて地雷を踏んだことに気付いたようだが……。

 

「エイミィが言っていたが、ここには温泉があるらしいな―――俺たち男子のお目々に嬉しい美少女達―――揃って行って来たら?」

 

「……覗くの?」

 

「地下にある温泉施設、んでもって軍用施設の一つだぞ? 若さに任せた情動だとして命が幾つあっても足りないよ。第一……君らが一番の脅威だしな」

 

 

 刹那がいれたフォローの言葉に対して雫の返事。

 更なるレス入れに対して男子陣全員が、深く重く頷くぐらいには、ここにいる女子に対して不埒な真似は『命知らず』としか言いようがないのだ。

 

「お兄様。なぜそこまで頷くのですか?」

 

「いや感電死に窒息死、刺殺、斬殺……温泉なのに凍結死……様々な死亡のバリエーションに浅見光彦(?)も大忙しだぞ。深雪」

 

 

 地下の湯船に浮かぶ幹比古とレオと刹那の姿、まさしくサスペンスであった。そして今、達也を咎めるような視線を送る深雪もサスペンスであった。

 

 

「微妙に返事のピントがずれている……達也、俺は少し外に出てくる。『試したい』ことがあるからな。終われば夜食を用意してやるよ」

 

 その言葉を聞いたリーナが、何かに気付いて刹那に着いていくと言おうとしたが――――。

 

 

「とりあえず今日は、俺一人でやってみるよ。邪魔にするわけじゃないけど、今日は疲れたろ? 温泉浸かってから寝ておけ」

 

「うん……けれど、ワタシも『もう一度会いたいもの』……」

 

「確かに『縁』を考えれば成功率は上がるだろうが、まぁ今はな……霊峰の霊脈を使うとなると、それなりにかかるからさ」

 

「―――分かったわ。気を着けてね」

 

 

 二人だけが分かっている会話。それに立ち入れないことに少しの苛立ちを覚える達也だが、夏場にも関わらず赤いコートを一高の制服の上から羽織った刹那は既に出る準備を整えていた。

 

 確かに外出そのものは規制されていないが、それでもどこに行くかぐらいは知っておきたいのだが……どうせひょこっと無事に帰って来るだろうけれど。

 そう感じて深く追求はしなかった。しかし何をやるかぐらいは知りたくて達也は問いを発する。

 

 

「公序良俗に反する行為ではないのだろうが、何をしにいくか位は教えてもらいたいんだが刹那?」

 

「端的に言えば――――『自律でしゃべるCAD』を蘇らせたいのさ」

 

 

 言葉の途中で懐から出してきた刹那の星型の礼装(CAD)。それはニューヨーク大決戦の際の映像を見せられた時にもあったもので……、それ以上言うのは野暮であった。

 

 だが、リーナの『気を着けてね』の際に首筋に対する口づけは色々とこの人目を注目させる歓談場所ホテルのラウンジでは悪手であり、二人―――いやB組の級長役の桜小路紅葉までもが、少しだけ怒る様子である。

 ただでさえ目立っているというのに、なんだこの馬鹿夫婦は、何てやり取りを見せられては、そんな追及も柔くなるというものである。

 

 ともあれ刹那のスタンドプレーを見ながらも、男子と女子で別々に行動する―――その際に、三高のグループに一度合流する一色たち、その中にいる『一条将輝』がどことなく熱っぽい視線を深雪に送っていたのを達也は警戒心と共に認識するのであった……。

 

 

 † † †

 

 

「―――一番破棄、七番採択―――結審、合流は不可―――重ねて審議選択―――魔道器の意識の『オリジナル』に接続―――可能可能可能、されど千年分の魔力を充填する術無し―――否、否、否。霊地選択―――霊峰より採取を決行―――」

 

 

 巨大な魔法陣を地面に敷いて何かに呼びかけるように没入する刹那。輝ける魔法陣は見るものが見れば、それは違う世界に訴えかける複雑かつ精緻で極大の大儀式呪法。

 

 霊峰富士の魔力を利用しての儀式呪法は、正しく数多の『隣り合う世界』を見る『魔法使い』の姿である。

 これだけ巨大な儀式呪法を使っても、未だに成功しないカレイドオニキスの意識回復……魔力ではないのだろうか、もしかして己の意思で意識を封印しているのではないだろうか―――そんな想像すら出てくるが、結局、己の魔力の『純度』を上げるだけに終わる徒労。

 

 サークルの中心に突きたてられたスタッフは、反応することはない。全ての魔術式を破棄して土地に残滓を残さないように、変なものを呼び寄せない様に後処理を行っていたところに―――。

 

 

 殺気。しかし仕掛ける様子はまだない。気付いていないフリをしながら出方を窺う。認識阻害などの結界を先に解除したのが仇になったか……土地に流し込んだ魔力。宝石の全てを蟠る液体。月明かりのもとでも見える虹色の液体を回収して、『貧乏性』の限りを発揮してから―――。

 

 つっかけを直すような仕草で、ルーンを起動。公園の林の向こうにいる潜伏者に殺気を放つ。お互いに戦闘態勢―――となる前に奇襲。林の奥に飛び蹴りを放つ。

 ダッシュからの跳躍―――同時に鷹のような襲撃を前に、相手はまともに受けることをせずに逃げていく。

 

 土砂を巻き上げる落下の衝撃―――強かに打ちつける岩土(がんど)の雨霰に、ガンド(呪い)を混ぜて叩きつける。

 

 

「ぐがっが―――ぐぅうう!!」

 

「無駄だ。神秘の薄い魔法師程度の神秘力では何もできない。今ならば、呪いを解除してやる。大人しく伏せていろ」

 

 当たったことは理解している。全身を何かの毒物でも投与されたように動けなくなっているはず。

 

 土煙の向こうにいた侵入者は、何者か―――。

 

 アゾット剣―――若干、こちらに来てから形状を変化させた儀杖にして刃物を手に倒れている下手人の下に向かう。

 

 

「貴様は何者だ?」

 

「………」

 

 

 沈黙。当然だが、当たり前の如く覆面を外すとアジア人系の顔。男は恐らくモンゴル系―――そうしながらも首筋に「フィラメント」を打ちこむ。

 

「がっ……」

 

 神経と脳髄をジャックされたことで、意識を飛ばした男から全ての情報を抜き取る。

 

 

(ふむ。新ソ連の対アジア特殊工作部隊―――『蒼狼』(ヴォルク)。目的は、『若年魔法師』―――)

 

 男の素上は分かったが、どうやら何かしらの精神改変を受けているらしく、虫食いだらけの情報体に接続してしまった。

 

 しかし、ロクなものではないだろうとして、一応のコピーをしておいて、男を『始末』しようとしたのだが―――。

 

 

「失礼、その男は僕に任せてくれないかな?」

 

(日本の国防軍……『将校』さんが、こんな所にか……)

 

 

 都合三年ほども軍隊にいれば、目の前の相手の階級章やきっちりした制服が、どういったものを示すかぐらいは分かるのだが……。

 

 後ろに部下を二人は連れているスマートな軍人。どことなくベンやフレディを思わせる男性に、全てを預ける。

 

 

「失礼しました。まさか軍人さんがいれば任せたんですが―――気付けなくて申し訳ないです」

 

「いやいや、中々の立ち回りだったからね。いいものを見せてもらったよ。拘束しておけ。私は少し話しておく」

 

「「はっ!!」」

 

 

 世事に詳しくない高校生の顔を出して、それなりに軍人への敬意を出して対応したが、素直に帰してはくれなさそうだ。

 

 

「僕は、真田 繁留。君は遠坂刹那くんでいいのかな?」

 

「違いますとは言えないでしょうからね。そういうことにしといてください」

 

「変な言い回しだね―――けれど、君の性格が分かる気がするな」

 

 

 なんか変な人だな。と思える。軍人といってもデスクワークが中心なのかな。と思いながらも、何かの強者であろうとは思えた。

 

 

「とりあえずホテルまで送らせてもらうよ。先程の連中がいるかもしれないからね」

「厚意に感謝しますが、真田さんこそいいんですか? さっきの人間、どう見ても純日本人じゃありませんでしたよ?」

「まぁ十中八九スパイや工作員の類だろうね。陸軍の演習場というお膝元にまで、あんなのが出張るようじゃ防衛計画も少し考えた方がいいかな」

 

 なんて他人事な言い方。とはいえ、釣りの類でもあるのだろう。そして俺たちを撒き餌にして、あれを釣っていると思えば、あまりいい気分ではない。

 

「独り言なんだが……ああ、聞き逃してくれてもいいんだが、USNA上層部及び最強の魔法師部隊スターズは何を考えているのかは知らないが、あまり他国を引っ掻き回してもらいたくない。

 この国は、ようやく沖縄と佐渡での一件を経て膿み出しを終えて少しだけ『まとも』になったんだ。

 かつてのトルーマン・ドクトリンのように『防共の砦』としたいならば、過干渉はやめてくれ」

 

「俺はUSNA及び魔法師協会に子飼いにされてるだけのガキなので、それに答える術を持ちませんが」

 

「ああ、けれど『セイエイ』なんだろう? セイエイ・T・ムーン……USNA最強の魔法師 十三使徒アンジー・シリウス以上の『エクスキューショナー』(断罪者)。シリウス以上の魔法師……」

 

「さぁ? 俺も出来る方なんでしょうけど、噂にだけ囁かれるセイエイ・タイプ・ムーンには及びませんよ」

 

 真田さんの言葉にすっ呆けながらも、ホテル近くまで着いたことで、話が途切れる。どうやら暖簾に腕押しを悟ったようで、嘆息した。

 

 

「……すまないな。変なことを言ってしまって―――なんだろうな。君の授業は楽しいんだが……その一方で僕の知っている『高校生』も同じぐらい出来るはずなのに、そう思ってしまう」

 

「誰だかは聞かないでおきますが、そいつに講義を任せたいほどですね。正直、俺とて身体一つしかないわけで、「いっぱいいっぱい」なんですよ」

 

 

 今ごろはリーナと一緒にあちこちに出掛けながら御登壇してもらいたい講師就職を願い出ていたはずなのだ。

 

 シャルダン翁やゴルドルフ先生などのような人々がいるはずだと、少しの目星も着けていたと言うのに……。そして真田の言うところの人間は検討が着いていた。

 

「俺としても現代魔法とのすり合わせで、『技術者』が必要な時も多いんですよ。そして―――今後、CADが発展していくのか、はたまた『衰退』していくかは分かりませんが、とにかく魔工技師(エンチャンター)は必要なんで」

 

「軽視してはいないんだな……」

 

「当ったり前ですよ。んじゃ、そろそろ真田さんの言う『高校生』に届ける夜食を作らなきゃいけないんで―――、今夜はこれで」

 

「ああ―――夜食?」

 

「司波達也にこの前、四月に食わせた饅頭が好みらしくて―――まぁそういうことです。ではおやすみなさい」

 

 

 お見通しか。という渇いた声を聞きながらホテルの中に入ると顔見知りから『夜遊びか?』などと冷やかされて返す言葉は―――。

 

 

「いんや、ダーリンに夜食の用意だっちゃ♪」

 

『ぶっほあああ!!!!』

 

 

 往年の名声優(女性)の声帯模写をしての言葉に誰もが吹き出す惨状。ともあれ、請け負ったからには夜食を用意せねばならない。

 

 るんるん気分で、用意されている選手及び在学関係者専用厨房へと赴く。

 

 そして食材に関しては―――。

 

 

「恐るべし四葉と七草の財力―――うおお。極上の海鮮乾貨が、こんなに大量に!! 腕の振るいがいがある!!!」

 

「……選手・スタッフ専用の厨房。殆ど誰も使わない施設を使うから、何を作るかと思えば、達也君への夜食とは……」

 

 

 何故かいる七草会長の独り言に特に返さず手際よく準備を行う。絶対ないと思って持ってきておいた『土鍋』は問題ない。

 届けられていた食材の全てを検分しつつ、とりあえず礼儀として何故ここにいるかを尋ねておく。

 

「いや、なんというか、三高の一色さんまでも口説いて、しばらくぶりにドイツから帰ってきたリズちゃんまで、君に興味を持っているからね……うーん、なんてトラブルメイカーが一高に来ちゃったのかしら?」

 

「その代り、会長が愛しくてたまらない大好きな『トラブルシューター』もやって来たんですから、幸と不幸は糾える縄のごとしですよ」

 

「べ、別に達也君をそこまで私は懸想してないわよ! それは胡乱な想像というものだわ!!」

 

「誰も司波君だとは言っていませんが、会長のはやとちりですね。そして―――実に手際いいですね」

 

「リンちゃん!?」

 

「どうも、スズ先輩も食べますか?」

 

 

 どこから現れたか、生徒会書記の市原鈴音先輩が、そんな風なツッコミで七草会長をいぢめてから、少しだけ興味はあるようだが……。苦渋の表情で断ってきた。

 

 

「いえ、夕食もいただきましたから……ですが、この竹の香りの前では食欲が―――ズルいですね刹那君。乙女の胃袋を掴んでぼろ雑巾のようにするまで絞りとろうだなんて」

 

「この場合、肥え太ると思うんですがね―――で、なんでお二人が?」

 

 三高の一色とのアレコレを咎めるならば桐原先輩と服部先輩の彼女有無のボーイズコンビで問い詰めるべきだろうが……。

 

 何故にこの二人?

 二人の格好は修学旅行の定番のジャージ姿であるべきはずなのに、薄いショールを着けた寝間着姿であり、この格好でホテルを歩いていたとか男子は色々だったろうなと感じるものだ。

 

 無論、刹那は食指が動かない。せめて母のようにネコパジャマでも着ていれば色々と思うところはあったろうが……。

 

 

「メタなことを言えば―――今回、書けなかった読者サービスの補填ね♪」

 

「はぁ」

 

 全然サービスになっていないですね。という言葉を呑み込んで、そう言えばリーナ達は温泉に入ったんだよな。と気付く。

 

 そうしてこちらの内心を読んだのか、調理中のこちらに密着してくる二人を躱しつつ、一高のスーパーエンジニアに対する夜食の用意は進んでいくのだった……。

 

 




というわけで次話にはサービスシーンを満載でお送りしたい。そんなこんなでお待ちください!
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