魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ア、アテッサの邂逅がどこにもない……地元の本屋で青春時代(厨二)の頃を思い出して紙で買いたいのに……(泣)

神坂先生……! 体を自愛しつつ、続きを書いてほしい。(涙)


第45話『九校戦――七草真由美の挑戦』

 集められた場所には一高生が、大挙していた。事態の緊急度合いが伝わるほどであり、いつも通りの場所に座っている人々。

 

 とりあえず予選が近い渡辺先輩はいないので、必然的に会長と会頭がトップで話してくる。

 

 

「招集した理由は分かっているな?」

 

 査問委員会か? そう言いたくなる会頭の開口一番に、『まぁ』と曖昧にだけ返事しておく。

 あちらから語りたいだろうからという気遣いもあったが、とにかく時間が惜しいことを実感していた会頭は、端的に告げる。

 

 

「このままどこかで七高の水納見と闘えば、七草は負けるな?」

 

「現状のままであれば確実です」

 

 

 全員が息を呑む。会頭も予想して、そして刹那もまた断言したことで理由や根拠を尋ねられることは無かった。無かったからこそ、話は早かった。

 

「対策を聞きたい。そして水納見ユイの使う術式の正体も―――」

 

「こちらを」

 

 

 重々しい口調で口を開く会頭。一高に用意されたオブザーバールームとも言えるし会議室…まぁ多目的のオフィスルームの機能を万全に使っての説明。

 

 記録装置に対しての解析と白の魔眼を投射したことで刹那の見えているものを映像装置、映写機のように一点に投影する。

 そこに幹比古と美月の見ていたものも加わり多くの映像で、その大怪獣―――霊体。プシオンの塊が形を成して水納見ユイに巻きついているものを誰もが視認した。

 

 爬虫類とも言えるしウロコを持つ猫とも言える。何とも言い切れぬ大怪獣。サイオンで身体を形成してプシオン―――否、エーテルボディとアストラルバディの混合された『上位存在』。

 ある意味ではサーヴァントなどのゴーストライナーと同じかもしれない。

 

 

「特徴から言って『チャク・ムルル・アイン』などの水棲の魔獣のようです。視えた限りでは全身に存在している針のような突起を魔弾として飛ばしており、それ以外の攻撃手段や出来ることも生物的な特徴から推測は出来ます」

 

「こんなものが人間の身体に憑依しているのか……!? 以前のブランシュの一件のようなものか?」

 

「それもありますが、ここまで『獣性』を顕現した存在を降ろして、平素ということは、そうとうな術者です。壬生先輩や剣道部の人々よりも手練れで、長きに渡って受け継いできたのでしょう」

 

 神降ろし(コール・ゴッド)。などとも称される術式は、被術者の精神と魂を壊すことが多い。

 ただでさえ人間の魂は、他のものを受け入れられるほどキャパシティが高くない。それは魔術師云々の問題ではない。自我を持つ存在が、他の自我持つ存在量―――概念を受け入れることは、異星の大気に身を晒すようなものなのだ。

 

 サーヴァントと人間の融合症例の一つには、ロード・アニムスフィアが提唱していたデミ・サーヴァント実験があった。

 また教室の姉弟子グレイも、それに類する存在だろう。

 

 

「正直、サギも同然よね……こんな横紙破り、いえ―――そもそも規定に無いのだから横紙破りともいいきれないんだけど……」

 

「達也曰く、世界を上手いこと騙すのが、魔法の技術だそうで、その理屈に従えば会長も水納見ユイさんも、『極悪な詐欺師』ですが」

 

「刹那っ」

 

 茶化すな。と言うかのように叱責する達也に対して半眼でベロを出しておきながら、対案を表示しようとしたのだが……。

 いたずらっ子が、あかいあくまの支援を受けて大魔王に挑みかかる!……ヤ無茶しやがって。

 

「つまり、達也くんからすれば、私は魔性の女。『峰不二子』も同然ということね? 誘惑しちゃおうかしら?」

「そういうことはもう少し身長伸ばしてから言ってください。不二子ちゃんに失礼です」

「ぐはっ!! わ、私が若干気にしていることを……というか達也君がルパンを見ていることが意外だわ」

 

 七草会長の質問は、このクーレストながらもドライではない微妙に情が厚い男。司波達也に対して全員が思ってしまうことの一つでもあった。

 そんな周囲の感想に構わず達也は答える。

 

「以前、USNAを騒がせていた魔法怪人『美少女魔法戦士プラズマリーナ』『魔法怪盗プリズマキッド』のニュースを見て興味を覚えて―――そんな感じです」

 

 何気ない達也からの言葉の攻撃にアメリカ人2人が、びくびくっ!と動いたのを何人か見たが、とりあえず今は置いておくことにした。

 ともあれ、ここまで巨大なものを憑依させて魔法を行使してくる以上、こちらも対抗策を考えなければいけない。

 

「けれど九校戦で使えるCADのスペックは決まっている。司波君や遠坂君があれこれした所で、それが検査を通るとは思えないよ」

「確かに……けれど、五十里先輩。今回は何も水納見ユイを物理的に戦闘不能にする必要はないんですよ」

 

 正門前での戦いを思い出して懸念した五十里啓の苦渋の言葉に、軽く考えてくださいと言っておく。

 

「スピードシューティングもピラーズも相手を殺傷する目的の競技じゃないんですから、相手の『妨害』や『割り込み』を突破・破壊できれば、問題ないはず」

「……言われてみれば、そうだったね。総合的な能力値では『あちらが上』だとしても、クレーを撃ち抜くことに、拘れば違うか」

「心中はお察しします」

「考えすぎていたね。ゴメン、それじゃ遠坂君も司波君も、対抗策があるんだね?」

 

 その言葉に即座に頷けないので、千代田先輩からの眼がきつくなるも、意思確認をするべきなのは七草会長に対してである。

 

 

「道すがら刹那に聞いたんですが……結構ギリギリなことをします。術式も会長得意の『ドライ・ブリザード』から少しの変化―――いや極端な変化をさせます」

「続けて」

 

 一拍置いた達也を促す七草会長。その眼は真剣だ。だからこそ―――達也に任せておく。了承の意を取るのは刹那の役目ではないのだから。

 

「あちらも収束・発散・移動系の三つの系統魔法の他に『創造』という『魔術系統』まで使ってくる以上は、熱エネルギーの『極致』で対抗するまでです」

 

 熱エネルギーの極致。それは―――つまり新たな『魔法』を打ちだすというのだ。

 一気にざわつく会議室。そして達也の提示したインデックス――とある魔術ではない、いわゆる魔法の式を公開している図書館、データベースのような場所にまだ『未登録』の術式が、端末に表示された。

 

 更にざわつく会議室。理論だけならば―――分からなくもないが、それを打ち出すCADをどうするのかである。

 

 その疑問の回答を達也は『最古の魔法師』―――遠坂刹那(メイガス)に求めた。

 

 

「刹那、お前が双腕の刻印を『同時並列』起動させるのと同じく―――出来るか?」

 

「熱と冷気―――その二つを『分ける』形で発動させる術式はあるよな?それと似て非なるものを発動させればいいんだろう―――可能だ」

 

 達也の問いかけにスターサファイアとスタールビーを取り出す刹那。その様子に―――。達也は少し意地悪いことを考えたようだ。

 意地悪い笑みを浮かべる達也は、誰にとっても本当にレアであった。

 

「促しといて何ではあるが、お前にとって『心の贅肉』なんじゃないかな? それでもいいのか?」

「うるせ。ここで見捨てたら、色々と後悔する。その方が心の贅肉だ。あるかもしれない気病みを想うぐらいならば、最初っから全力で動くだけさ。CADに外装として着ければいいんだな?」

 

 珍しく―――というか達也がそんな風にいじるような言葉を放ったのが初めてなので誰もが面食らう。しかし、それを返す刹那は当然と受け取っている。

 

「ああ、ハードの方の大半は任せた。俺は、術式の調整をする。細かなものは―――」

 

「お前が見てやれ―――俺の方では術式に対する細かなコードが打てない」

 

 

 そう言って、途中で、床を足で叩いて、どこからか『デッカイ旅行鞄』を取り出した刹那。

 空間に見えぬ通路でも作ったのではないかと思うあまりにも常識外のことに眼を疑いつつも、この二人、『最古』を求めるものと、『最新』を求めるものであると誰もが分かっていながら、こういう時だけは息を合わせあう。

 

 信頼しあい眼をぶつけ合う二人の男子の姿を見て柴田美月の『中』にいる四足の霊獣……2010年代後半に流行った白くて笑顔の顔文字の生き物がざわついたが、一瞬で終わる。

 

「わかった。七草会長―――、しばし刹那にCADを預けてくれませんか?」

 

「否も応も無いわ……頼むわね二人とも…それにしても……ああっ、2人のタイプの違うイケメン男子が私の為に粉骨砕身してくれるなんて私ってば女冥利に尽きるわ―――ってぎゃ――!! 何でシールズさんと深雪さんが私を引っ張るのおおお!!」

 

「これから練習場で仮装標的として私とリーナが水納見ユイさんの予想される戦術を披露して会長を特訓(折檻)しますので―――」

 

「上手く勝利のヒントを掴んでくださいね――♪」

 

「笑顔が怖すぎる後輩! 恐ろしい子達!!」

 

 

 哀れ……七草真由美の熱烈なファンである服部副会長ですら何も言い出せないほどの早業の後には、会長と他二人を抜かして、会議室に静寂が戻る。

 静寂の中でも少しの気遣いをしておく。

 

「会長の方は俺らで何とかするんで副会長。余計なお世話ですが、そろそろシューティングに戻った方がいいかと、木下先輩も気が気じゃないでしょうから」

 

「む。そうか―――すみません。それじゃ行きましょうか」

 

「ああ、司波、遠坂。頼んだよ」

 

 

 刹那の言葉で会議室から服部副会長と三年のCAD担当技術者である木下が居なくなる。返事はしないが、手を上げて返事とすることで了承とした。

 ともあれ、その言葉で、時間とかスケジュールに気付いた人間達。エンジニアも選手も喫緊のものたちは居なくなっていく。

 

 残ったのは、今日中に差し迫ったものが無い人間ばかりだった。今ごろは本戦バトルボード女子の予選かと気付いてエリカとほのかを送り出そうとするが―――。

 

「どうせ勝つわよ。渡辺先輩ならばね」

「応援ぐらいは欲しいんじゃないの?」

 

 将来の義妹からの、と付け加えれば多分怒り出しただろうから加えなかったが、ともあれエリカとて言葉の裏を読みながらも、そこまで子供なことは出来ないのか、とりあえず刹那と達也が何をするのか見たいとしてきた。

 

 

「ほのかは、いいのか?」

 

「えっ、ええと―――た、達也さんが何をするか見たいんです! ダメですか?」

 

「視ていて面白いものではないと思う。第一、大半は刹那任せだ」

 

 新人戦バトルボード出場者二人が、場の推移を見届けるとしてきたことで、ともあれ刹那は―――カバンを一番大きな机の上に置いてからミスティロックを外す。

 

「Offen」

 

 呪文で鍵が外された『カバン』が、様々な魔術道具を絢爛に展開していく。『化粧箱』『メイクボックス』のような箱がいくつも光り輝くカバンの中から競り出してきた様子に驚き、そして興味津々となる。

 

 

『『『………』』』

 

 

 技術者根性とでも言えばいいのか中条あずさ、五十里啓……そして司波達也の三人が食い入るように見てくる。その他も結構興味津々だ。

 

「コンパクトフルオープン」

 

 言葉で10はあろうかという魔法の宝箱の棚が下から順に引き出されていく。普通の宝箱には輝けるジェム(宝石)もある。

 その中にある器物―――煌びやかなマジックアイテムは今までの魔法師たちにとっては馴染みがないものばかり、それらが「特級の魔力」を放っていれば自ずと眼を惹くのだ。

 

「うわぁ……まるで、本当の魔法使いみたい……」

 

「うん。凄いな……僕の家でもここまでの『器物』を扱った事は無いかも」

 

 そんな声を聞きながらも刹那は構わず七草真由美のCAD―――机の上に乗せた小銃型のそれに見えぬ細工を施していく。まるで精巧な細工師が手ずから作り上げるかのように緻密なものだと感じる。

 

 小銃型のCADは、見れば見るほど外装として見えぬようにするには細すぎる。

 刹那にとっては、少しばかり難儀するが、それでもやらなければいけない。

 宝石を『皮』に溶かし込み、ルーンを刻み付けて、『ヘリクス』を発動できるようにするにするための作業。

 

 銃身部分が照準装置であることは『視えており』―――そこに干渉しないように魔術的強化を施していく。

 

 決して五十里先輩の刻印魔法のように『一見して見えるもの』という風にしないように、『視えないもの』を刻んでいく。

 

 

「―――あとはスフィアとセフィラのルビーとサファイアを―――Shape ist Leben―――Sphäre ist Würger―――」

 

 

 最後の『作業』として赤と青の宝石を、2羽の鳥として『命』を吹き込んだのか、一度だけ変化して赤と青の糸細工の鳥となってから、銃身に向かって飛び、銃身のサイドに意匠として刻まれる。

 この程度ならば、ただの遊び程度として問題ないだろう。そして、検査委員にもあれこれ言われないだろう。達也に一度手渡すと――――。軽く手渡したこちらとは違い一度だけ少し体をみだす所作。

 

 

「重い……いや、質量的、物理的重量は変わっていないはずなんだが……」

「疑似的な『聖遺物』(レリック)にしたというところかな……?」

 

 推測が確かすぎる達也、五十里の二人に正解と言いつつ、『右手』の魔術を起動。達也の言う所の『世界を騙す方法』で銃にある重さを『消し飛ばす』。消し飛ばしたが故の代償は―――うん、まぁ―――後々である。

 

「シューティングだけのドーピングみたいなものだ。後は術式の補正だろ? 任せた―――」

「し、しまっちゃうんですか!?」

「あんまり広げっ放しだと、この部屋に、いい影響ないですから」

 

 

 機械工学関連なCADと違い神秘の器物を扱うものは、あまり人に見せられるものではない。ヘタすると、会議室が異界化してしまうかもしれない。

 

 何より……信仰心を集めるための奇蹟として認識させるために必要でも秘術の一つなのだ。この世界では神秘の秘匿が原則でないとはいえ―――『本物の神秘』は『閉ざされてこそ』だ。

 

 ただ、お預けくらったように、しょんぼりするあーちゃん先輩はどうしたものかと思う。

 

「中条先輩の場合、古式的なものよりも『機械的』なものを信仰していると思っていたんですけど、歯車様を信仰するように」

「なんですか歯車様って!? そもそも私の梓弓を見れば知る通り、どちらかといえば私も古式の側ですし、第一あそこまでのマジックアイテムを見れば、誰もが眼を惹きます」

 

 言われてみればその通りだった。梓弓というのは日本の巫術における『呪い祓い』の道具の一つ。魔除けの道具なのだから。

 とはいえ、本人的にはやはり歯車様の信仰者だろう。

 

「それもそうか……」

 

 納得した刹那に対して更に言い募るあずさ。どうやら本人的に後輩に侮られた感はぬぐえなかったのだろう。別に侮ってはいないのだが…。こちらの態度に侮られたと思って、奮起するは中条あずさであった。

 

「特にマクシミリアンの『レオナルド・アーキマン』の作品は、理論よりも神秘性(ミスティック)を重視したものが多いですから、マスプロダクツされた『カン・バク』『モラ・ベガ』などもいいですが、気に入った相手だけにオーダーメイドのワンオフものを与える芸術性はシルバー様とは違うものを感じます」

 

 熱弁を振るう中条あずにゃん先輩の相手は刹那にやらせておき、達也と五十里先輩には外の作業車に走らせることにした。

 そんなあずにゃん先輩の熱を冷ます為にも、冷や水を浴びせる。

 

「ただの気紛れだと思いますよ。それ」

「違いますよ! とにかく世界中の国際A級魔法師などからも依頼がひっきりなしで、国籍・人種・宗教―――どこが彼の興味を惹くのか、気に入った相手だけに渡される出来上がった一品ものは様々な場所で魔法の価値を高めています!! ああ、私も依頼したい……」

「私のお母さんも持っていますよ。中条先輩」

 

 別に『オレンジ』の『アオザキ』の真似をしたわけではないが、まぁそういった仕事で路銀を稼いできたのが刹那と魔法の杖『カレイドオニキス』である。

 更に言えばそこにアビゲイルも加わっての、マッドサイエンティストの作品は、とにかくピーキーながらも、芸術作品を『求める』ものたちにとっては、いいものだったらしい。

 

 どうやら三人共同の作品はその玄人向けの魔法師達の『技』(アート)を再現して更に上へと向けるだけのものだった……今大会では絶対に出番ないだろうけど。

 

 などと思っていると書記係であり作戦参謀の市原先輩が急いで入ってきた。

 

「シューティングの予選終わりました。そして―――これがトーナメント表です」

 

 この会議室は万が一の場合を考えて各校で完全オフラインの状態となっている。いわゆる盗聴や盗撮―――作戦会議の内容を筒抜けにさせないためらしい。が物理的な盗聴をされればどうしようもないだろう。

 ともあれ防諜を完璧にするために、携帯端末もなるだけオフラインにしており、こうして市原先輩が奔って来たのは物理的な情報のやり取りのためだ。

 

 受け取った会頭がマイクロチップを大スクリーンに表示できるようにしたことで見えた『山』……。それによると―――。

 

「とりあえず懸念の水納見とは、完全に反対の山だ。当たるならば決勝だな」

 

 その名前が置かれた位置に全員が安堵。それは、とりあえず準優勝はあるだろうとか、それまでに我らがビッグマム『七草真由美』ならば、あのピーキーな『魔銃』を操ってくれるだろうという期待……そんなところか。

 

 ともあれ、そんなこんなでとんでもないライバルの登場に誰もが驚きながらも会頭に耳打ちをしておく。

 

 

「成程な。一、二、三高以外が結託か……」

 

「全員の意思がそうではないんでしょうが、彼らが意図的に、こちらを妨害してきたらば不味いですよ」

 

「しかも今は、九大龍王という旗頭もいる。だが最終的にはどこの高校も優勝を狙うぞ。六校の中で仲たがいが発生する可能性だってな」

 

 

 それも一理ある。どんな人類史を紐解いたところ昔から共通の敵を得て打倒した後に発生する……最終的な『王様決めゲーム』は、同盟相手の潰しあいになるのだから。

 

 

「六花―――アスタリスクか……」

 

 全ての花弁を毟り取る為に手を尽くすはめになろうとは、それにしてもいきなり現れたものである。

 いや、今まで隠し持っていた牙を振るいだしたという方が正しいだろう。

 

神秘の秘匿者(クリプター)……か……)

 

 

 そしていま、刹那の胸にあるクリプターは四高にいた。大型端末のスクリーンにも表示される銀髪のお下げ女。コウノトリのような眼を向けてくる人外の魔女。

 

(イリヤ・リズ……引っ掛かるな)

 

 アインツベルンという姓を知り、わざわざ自分にそれを教えてくる以上、自分と似通った『人類史』、極めて近い『時間帯』を生きてきた女のはず……。

 この推測は、この女が『自分と同じく』『移動』してきたと仮定したものだが―――第三と第二との違いはあれども、出来なくはないし、あの『ジジイ』ならば、そのぐらいのことはしかねない。

 

 行き当たりばったりに見えて、送り込むべき人間の選定。まずい事象の終息のためにも最小限の干渉で済ませているのは、流石の手並みである。

 傍観者に徹しているのは、干渉しすぎると『変数』が大きすぎるのもあるのだが、単純に『暇つぶし』の可能性もある。

 

 色々と考えて、これが第一案であるとして、第二案は……アインツベルンが、もともとこの世界にあった場合だ。

 

 この世界の魔法師技能の開発を聞いた時に刹那の脳裏にあったのは、まるで『ホムンクルスの鋳造』のようだという印象である。

 無論、本物のホムンクルスは『エルフ』『デミ・エルフ』などのように、人間離れした外見となるのが常であり、少なくとも魔法師にあるのはそういったものではない。

 

 とはいえ、大まかに言えば魔法師の大半は整った顔立ちが多い。無論、生育環境や生活状況にもよるのだろうが、遺伝的な美醜で言えば美しかったり、勇ましい顔立ちが多いのだ。

 

 

(仮にこのイリヤ・リズが……はじまりの魔法師の関連だとしても、何故―――)

 

 

 衛宮(エミヤ)を名乗る。そして、一色が見せてくれたイリヤ・リズがサーベル競技の際に見えたものは、『タイムアクセル』―――『固有時制御』の術法であるのだから……。

 

 

「ワケが分からなすぎるな……」

 

「?―――、む。遠坂、司波が外線でお前を呼んでいるようだ。行ってやれ」

 

「了解です」

 

 こちらの言葉に疑問符を浮かべたものの、刹那を外へ出すことを優先した会頭の言葉で外へ出る。

 

 どうやらまだまだ休めそうにないようだ……。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「結果として決勝まで来たが……七草の出来栄えはどうなんだ?」

 

 

 珍しくも決勝会場にまでやってきた会頭を加えての観戦。雫は何とも思っていないが若干、光井が委縮している。

 まぁ厳つい人だもんね会頭は―――とはいえ、責任者として見届けなければいけないものもあるのだろう。分かっているから誰も余計な口を挟まない。

 

 そして刹那は、会頭の疑問に対して正直に答える。

 

「良くて七割―――現実的には六割―――、予想されていた『あちらさんの壁』をぶち破ることは可能でしょう……」

 

「やって来たか?」

 

「三高の選手との試合。相手が撃つべきクレーを氷壁で覆ったうえに、七高の選手は自殺点とならないように精密な魔力操作と術式の絞り込みで、ワンサイドのパーフェクトにしていました」

 

 再びの質問には雫が答えた。

 スピードシューティングの対戦形式となれば、己のクレーだけを撃つことに執心して、そこにまで思い至らないのが普通なのに、そんな常識の慮外までやってきたことに三高の選手は驚愕。

 

 そこで持ち直せば、何かしらの『弾丸選択』でぶち抜けたかもしれないが、そうしながらも己のクレーだけを撃ち抜くことで相手に心理的プレッシャーを与えて、そうなってしまった。

 

「デカいな―――七高の応援が……」

 

「目の(かたき)にされてますね。ウチは……」

 

 この会場内にも予選と同じく七草会長のファンがいるのだが、彼らも委縮してしまうほどには高知土佐の七高の声はデカい。

 

 無論、七高にも会長のファンはいるのだろうが……あそこまでの力を見せつけられては、声を出すことも出来ないだろう。

 

 

「だ、大丈夫だよね。達也さん。遠坂君―――会長は勝てますよね?」

 

「―――」

 

「いやお前はウソでも勝てると言っておけ。俺は無条件に信じきれない」

 

 無言で黙考する達也。

 

 しかし刹那としては光井を安心させるためにも達也だけに責任を押し付けるのはどうかと思うも、つきっきりだった達也が太鼓判を押すべきだ。

 

「……万全の整備は出来た。深雪とリーナを使ってのシュミレーション訓練も想定通りだ……しかし、最後に勝敗を決めるのは、会長の『度胸』と『意思』だ……」

 

『『度胸と意思?』』

 

「正攻法では絶対に届かない相手に対して詰めを掛けられるのは……やり抜ける意思と―――」

 

 

 最後の方でイタズラ小僧のような笑みを浮かべて言う達也は……疑問符を浮かべる光井と雫に言った。

 

 

 ―――盤をひっくり返す(イカサマ)をするのさ―――。

 

 

 言葉を最後に、刹那からすればギルガメッシュナイト(いんちきゲームの夜)が始まる……夜ではないけど、などと心中で言いつつも、互いのフィールドに入り込んだ一高女子と七高女子の登場に―――誰もが息を呑む。

 

 

(へぇ……流石は十師族)

 

 

 己の地位を脅かす敵だと認識して殺意と殺気を滾らせる七草会長に少し印象を外される。

 

 そして、会長の少しの『度胸』が発揮される―――昔風に言えば電光掲示板―――それを進化させたホログラフで表示されたのは―――。

 

「エキスパートルールの申請?」

 

「驚いたな。あの会長が、そこまでするなんて」

 

「雫、エキスパートルールってのは?」

「刹那も申し込む、申し込まれる―――共にありえるんだから、覚えておいてね」

 

 疑問を浮かべた刹那とは違い、達也を筆頭に誰もが驚く。どちらかといえば悲鳴の類にも似ているが……。

 

 スピードシューティングのエキスパートルールとは、単純な話。横並びでの射戦から互いにクレーフィールドを挟んでの対面射撃という戦いに移行するのである。

 無論、そうするだけの設備機構は整っており、五分もすれば互いの位置が変わるだろう。お互いの面を正面に見据えた状態での戦いに。

 

「危なくないか?」

「うん、放たれた魔法は確かにクレーだけを狙い撃つことで壊れるならば、その時点で魔法は成立するけど、このエキスパートルールの場合、それ以外に魔法の余波が互いに届く、互いに届かせる。ことも可能―――つまり流れ弾がやってくる可能性と流れ弾に見せた『誤射』という妨害もあり得るルール」

「少し違うけど『フレンドリーファイア』ありきの戦闘形式なのね……」

 

 リーナの嘆息交じりの声で全員が、唾を呑み込む。

 

 投射されるクレーだけにエイドス改訂の形式を叩き込むだけならば、問題ないかもしれないが……ここに来るまで、殆どの選手が弾丸による直接射撃方式を取っているだけに、そういうものを懸念する。

 

「高速で放たれるクレーは、座標設定を叩き込んでも外されることもあるから、そうなるのは仕方ない。もしくは大まかに永続形式の『範囲指定』魔法で飛び来るクレーを壊すかのどちらか……とはいえ、対戦となれば自殺点もあり得るから、後者はあまり好まれない方法」

 

「なるほどね。今さらながら『魔弾』で対応するのが難しそうだ」

 

 今さらなスピードシューティングのルール確認と、その対応を考えての言葉だったが、コイツは大丈夫か?―――という皆の視線とは対称的に、色々知っているリーナが擁護なのか何なのか……。

 

「いやウソでしょ? セツナの刻印は展開すれば、早撃ち(Quick)連射(Arts)シメ打ち(Buster)。なんでもござれの刻印神船マアン―――」

 

 色々とNGワード混じりのリーナの言葉を遮るように、スピードシューティングの会場が稼働を開始する。

 

 一昔前……2090年代からすれば、『100年前』の『僕らの学校が地球防衛基地に』。的なワンダバ(乗り込みシーン)のように、左右に分かたれるフィールド。そのまま会場の一部を押し退けてでも互いを等距離に置く位置に射撃台が動いていく。

 

 それなりに重々しい音と軽快な動作の混ぜ合わせで、スピードシューティングの会場が変形をして―――正しく西部劇の決闘場のようになる。

 

 

 生粋のアウトローでありながらも義侠の心持つ『ビリー・ザ・キッド』。

 

 そんなビリーを友人と信じながらも最後には彼を撃った保安官(シェリフ)『パット・ギャレット』。

 

 

 ……と言う割には少しばかり縁が薄すぎるも―――互いに求めあった宿敵。

 

 銃口を向け、水と氷の刃を浮かせ―――戦いは始まるのであった―――。打ちだされるクレーに対してお互いの眼が向け合った瞬間である……。

 

 


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