魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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長らくお待たせしました。ある意味、完全オリジナル回。

ともあれ、次回には生徒会の女子たちによる女子会の辺りに復帰できるはずです。


第46話『九校戦――七草真由美の覚悟と流星』

 序盤は、ボクシングのオープニングにも似たジャブの差し合いのように静かな打ち合い。

 お互いにお互いのポイントになるクレーを打ち合うことで順調に得点を重ねていく。

 

 ここに来るまでに、その『銃の重さ』に慣れていた七草会長も、静かに、その銃に対する重さを感じさせずに照準射撃を行っていく。

 

 内心では疲れているだろうに、一応……クラウドに集中することで、ここは準優勝狙いなんて意見もあったが、それをきっぱり彼女は断ったのだ。

 

 静かなものだ。会場も静まり返ってクレーを叩き壊す音が響くだけだ。射出されたクレーが有効エリアに入る度に、お互いの魔法が叩き壊していく。

 

 

 ――――来るか。刹那が勘付くと同時に変化を感じる。

 美月も幹比古も見た。聞いた―――水納見(みなみ)ユイの水の魔獣が遠吠えを上げる。無論、眼のいい人間。霊視的なものでなければ見えぬものだが―――聞いた方は、あまり思い出したくないだろう。

 

 ドライアイスの音速弾。作り出された弾丸が赤のクレー……七草会長のポイントクレーを叩き壊そうとしたのだが……。

 

 バキンッ! という鈍く金属質な音で音速弾が中途で撃ち落とされた。その音と見た結果に誰もが驚く。やられた真由美も同じくだ。

 

 

「氷壁……!?」

 

「あれです会頭。準決勝までの選手を苦しめたものは……」

 

 

 氷壁は思念コントロールも働いているのか、撃ちだされて物理法則に転じたクレーと動きを同期させて、移動していく。

 無論、水納見の仕業であることは分かっており、そうでありながらもあちらはあちらで自分のポイントクレー……白のものを叩き壊していく。

 

 失点したことを忘れて、思考を切り替えて―――四方八方より弾丸を打ち出すことで対応。

 

 真正面から弾丸が通じないならば、下方、上方、左方、右方―――そこから弾丸を打ち出す。しかし……。

 

「氷獣の眼からすれば……意味は無いか……!?」

 

「……魔法で反応して弾けるクレーならば、良かったんだが―――物理的な接触で以て壊す以上は、物理的な衝撃を与えなければいけない―――」

 

 透き通るような氷の中に包まれた赤のクレーは、そのまま落ちていく。七草会長の音速弾ではびくともしない氷塊に包まれたクレーで係員に怪我人でなきゃいいなという感触がある。

 

 ここまでで会長が撃ち落とせなかったクレーは12枚。そして同数打ちだされている水納見に打ち漏らしはない。

 

「12点差……」

 

 あちらは得点。こっちは失点―――差が開きつつある。得点盤を見ている七草会長派の人々に焦燥感が募る。

 これ以上の失点はマズイ。相手方のクレーを撃ち落とすことは、七草真由美ならばあるまいが、このままこちらのクレーを砕けなければ準決までの選手たちと同じ結果となる。

 

 

 ここまでは一種の確認作業。そう断じた真由美は心機一転―――ここからは、本気で獲りにいくのみと己に念じる。

 

(やれやれ、スマートに勝ちたかったんだけどね―――けれど)

 

 

 後輩達が見ている以上、これ以上の失態は、プライドの問題だ。

 

 CADの左右―――銃身の両側面、少しの『ざらつき』をなぞる。そうして、違う起動式を読み込む。違う魔弾を生成する。

 

 対面の相手の顔を見る。そして真由美にもその魔獣の姿が少しだけ見えていた。

 凶悪だ。ここまでの存在を『使い魔』……刹那からすればそういう言い方をするらしいものを御しているとは……。

 

 しかし、それを卑怯とは罵れない。何故ならば、それを『御する』ことも魔法師の力の本質なのだから……。

 

 投射されるクレー。赤のクレーは七枚。再びの氷塊封印。氷雨の魔弾が白のクレーを貫く。

 

 見事な二重攻撃。しかし―――。

 

「お返しよ。水納見さん!!」

 

 生成された魔弾は、傍目には変わらぬブリザード・ブリットにしか見えない。しかし、その数は――――12個。

 

 七草真由美は脅威の集中力で、その魔弾を解き放った。最初は氷雨の魔弾―――相手への妨害射撃である。

 

 消え去る水納見ユイの魔弾。強烈な対抗魔法で消え去ったようなものだ。

 

 

(―――お嬢のくせに品の無い!)

 

 

 心中で罵り、クレーを破壊できなかったのを切り替えて再びの氷弾棘を放とうとした―――どうせあちらは、こちらの氷塊封印を―――。

 

(なに―――)

 

 

 その時、走る水納見ユイの考え。こいつは今、何をした……?

 

 自分の水聖獣―――『水那』を用いての『魔法』は 現代魔法では一切の干渉が出来ないぐらいに干渉力……『概念定礎』(ミスティロジック)が定まったもの。

 

 変化を与えるには同質以上の神秘力を加える必要があるのだ―――だから、氷塊封印された七草のクレーが、弾丸で氷塊ごと『消し飛んだ』時に察する。

 何か―――王から『下賜』された『宝物』があるのだと、察して―――返すように二個はクレーを撃ってポイントを取る。

 

 ようやくの反撃に、誰もが喝采を上げる。こっちは明らかにヒールだなと察して、その声を黙らせるのもまた一興。

 

 

「スイナ 最大顕現 出し惜しみ無し」

 

「……来るわね」

 

 

 ポイント数では43-38……劣勢を幾らか崩せたものの、刹那と達也が用立てたこの魔弾は、真由美にとって『重すぎる』。

 

 あちらの妨害は貫ける。同時に、あちらの射撃も邪魔できる。それを望む場所に発射も出来る……。

 

 しかし多大な処理を要求されるこの『魔法』―――『対消滅弾』は、『熱気』と『冷気』を混合させることで発生するものである。

 

 Aランク魔法『氷炎地獄』とは違い、その特性上……殺傷性も特に高くなるだろう。見せてもらった時の事を思い出しながら真由美は弾丸を放つのであった……。

 

 

 † † †

 

 

 何かのマジック(奇術)のように、交差させた左右の手―――その指間にルビーとサファイアを出した刹那は―――。

 

「Anfang――――」

 

 呪文一つを唱えて、拳を握りしめて両手に赤と青の魔力。そうとしかいえないものを携えた刹那はそれを拍手でも打つかのように交差させて『融合』させた。

 

「系統魔法の工程踏破ならば、色々と煩雑なんでしょうが、とりあえずの完成形を見せます。どんなものであるかをちゃんとイメージしてくださいね」

 

 

 言ってから左拳を腕ごと前に突きだして、片や右拳は背中の方に引いていた。いわゆる弓矢の弦を引っ張る動作にも見えるものがあった。

 

 しかし、それが伊達ではないぐらいに『極大』の魔力体として弓と矢を作り上げていれば誰もが、黙るしかなくなる。

 

 用意されていたシューティングレンジ。その中でも最大の硬度と質量を持つ、タングステン合金の俗称『ヒヒイロカネ』―――そのキューブ。

 巨大な―――男子としては長身の西城レオンハルトの1.5倍はある高さに、横幅は8mはあるだろうものが用意されており―――、それに対して極大魔力の『砲弾』が飛んでいき。

 

 着弾。轟音は無い。しかし何かが溶ける音は聞こえる。数秒もしない内に物質を消し飛ばしたことが分かる。

 

 

「ヒヒイロカネが―――消えた!?」

 

「着弾箇所。ちょうど半円の半球程度の部分が消え去るとはな……分解とも違う。やはり消滅させたのか?」

 

 カップアイスの業務箱から、お玉でざっくりと掬い取ったような塩梅―――そう言えるヒヒイロカネの惨状に達也は言う。

 

「ああ、その認識でいい。頭のいい達也ならば『正の熱量』『負の熱量』とを混ぜ合わせた『混合熱』がどうなるかぐらいは分かるだろ。そういうことだ」

 

「メ〇ローアか」

 

「ああ、メド〇-アだ」

 

「セツナ、伏字の意味が無いわ」

 

 バカな会話をしている男子二人にツッコミを入れるリーナ。とはいえ、周囲にいる誰もがこんなものを良くもやるものだと思う。

 現代魔法において『領域内』に『正反対』の事象改変を入れることは、定義破綻の可能性もあるので、あまりやらない。というか『出来る人間』が殆どいない。

 

 深雪も覚えている『氷炎地獄』(インフェルノ)は、その中に入るだろうが、それとて詳しく言えば、熱量の移動が原則なのだ。

 

「元々は、ある『礼装』で使えていた『魔術』を再現したかったんだがな……そんな『殺傷性』ばかりが高まった頭の悪いものになった」

 

 

 頭の悪い……刹那にとって、魔術とか魔法と言うのは荒事というよりも違うものを目指したものだったのだろうが……。

 

 しかし、これだけの結果(球形に抉り取られた金属体)を及ぼしておいて『頭の悪いもの』というのは、魔法師としては納得いかない。

 

 

「ちなみに刹那の理想としてはどうなれば良かったんだ?」

 

「まぁ、無機物だけを破壊して、生物であるならば、誰もを生かす感じかな? 前まではしゃべる礼装と一緒に出来ていたんだけどな」

 

 

 なんたる不殺の魔法。果たしてそれで貫かれる『無機物』にいるだろう『生物』は、どれほどの容量を持っているのか……端的に言えば『巨大船』などを消滅させたとしても、全員無事に済むのか……。

 

 カルネアデスの舟板を必要としない―――必要としなかった結果をリーナだけは知っていたので、あのしゃべる礼装が繋げてくれた絆に感謝しつつ、帰ってきてほしいのだ。

 

 

 そんな郷愁が蘇る前に、刹那は達也と真由美に言って、この魔弾を術式として登録するように言う。一応の起動式はアビゲイル・スチューアットによって最適化されていたので、それを読み込ませるように言う。

 それを見ていた様子を深雪に誰何される。

 

「リーナのCADにもあの『黄金の魔弾』が登録されいるの?」

 

「まぁね。滅多に使わない―――というか、あんまり使いたくないわ―――悲しくなっちゃうもの。『色々なもの』を思い出してね」

 

 端的に深雪との話を打ち切ってから、予想される氷塊封印を打ち解く手を伝えた刹那と達也を再びリーナは見る。

 読み込む起動式は恐らく自分が初めて『メタル・バースト』の試作機を立ち上げた時と同じくだろう。演算領域内で『重く感じられる』はずだ。

 

 しかし、やってもらわなければいけない。

 

 黄金の魔弾―――魔法名『カレイドバレット』は、水納見ユイの妨害を超えられる刹那の持つ『現代魔法』の中でも簡易なものなのだから……。

 

「よーし!! やってやろうじゃないの!! 深雪さん、リーナさん! 練習相手よろしく!! あとは達也君、CADへの起動式の打ちこみと同時に愛情の注入よろしく♪」

 

 ……なんでこの人は自ら地雷を踏みしめていくのだろう……? 凍れる大地の女神シトナイの如き女の怒りが、修練場を覆いながらも、相手もこのぐらいはやるのだろうと思って刹那とリーナは我関せずで準備をするのであった……。

 

 

 † † †

 

 

 対消滅弾。あらゆる物質を消滅させる魔弾が飛ぶ度にクレーが修復不可能になるのを見た係員たちは悲鳴を上げる。

 

 素焼きのクレーが叩き壊される度に次の試合の為の準備が煩雑になるのだから―――。

 

 しかし、そんなことは戦っている二人からすれば関係ない。氷壁で相手の妨害。貫く威力の魔弾、徐々に威力を上げている七草にじわりと追いつかれる気持ち。

 

 だが、それは真由美も同じ。最大威力で、ありったけ放っていればあっという間にサイオンが不足するし、読み込みを軽くしなければ、無意識領域での疲れが身体を重くする。

 

 妨害しつつ、ポイントゲット―――お互いに打ち漏らしは無いが、勝つためには相手に失点させなければいけない。

 

 もはや飛び交うクレーよりも乱舞する魔法の輝きの方が、多いほどだ。

 

 不動で対処出来ないことを悟ってお互いに旧世紀 西部開拓のガンマンの如く位置を変えて、射角を変えて出来るだけ見え方で『楽』になるようにしていく。

 

 魔法で見るだけでなく肉眼処理もしなければいけない。

 

 

「凍てつけ―――シトナイの眼!!!」

 

「やってくれるわねぇ!!!」

 

 

 もはや明確に誤射ではなくお互いの射台に干渉をかけるやり方。七草会長の射台が氷漬けになって滑りそうになったが、『爪』を立てて姿勢を固持。

 逆撃として魔弾で水納見の射台が穴だらけになる―――寸前に魔獣の霊体が尻尾で払いのけようとしたのを刹那は見たが、射台に向かおうとしていたはずのドライブリザードの魔弾が方向転換。

 

 魔弾の逸話の如くザミエルでも宿っているのか、水納見側の視界からクレーを連続ヒット。

 

 やられたことを悟った水納見がクレーに対して干渉を果たそうとするも―――氷の魔弾は、再び七草真由美の魔弾で撃ち落とされた。

 

 しかし氷獣の棘がいくつかを叩き壊す―――ポイントは73-73。イーブンへと戻った。

 

「クールねぇウチの会長は、激昂しているように見えて相手のこちらへの干渉の隙にクレーを撃つとは―――クレイジーガールだわ」

 

「怒りに任せてるようで、クレバーだったか……」

 

 氷獣を使って攻撃の手数を増やしている水納見ユイに対しては、どこかで勝負をかけなければいけなかった。

 何故ならば、会長が如何に多くの魔法をマルチに使いこなしていても人間ひとりの脳みそ(処理能力)では、どうやっても手落ちが発生する。

 そして、順当にいけばどうやっても水納見の勝ちは揺るがないはずだった……。だったのに―――。

 

(焦りで直接的な干渉に出たのが悪手となったな)

 

 いつもならば圧倒的なリードで勝っていく真由美の予想外の『粘り』―――そして諦めない眼を見た時に、盤がひっくり返りそうになるのだ。

 

 しかし、それ以上に刹那とリーナにとって、予想外だったのは氷漬けに―――無論、いわゆるスケートリンクのように滑らかなものとも言い切れない地面に爪を立てた際に、爪が何枚か剥がれ落ちても、それを頓着せずに逆転の一手を実行したことにある。

 

 眼のいい人間は、それを理解して悲痛な叫びを上げたが、七草会長の粋にして男気ならぬ女気上げた行動に悲鳴など愚弄も同然。慰め役は達也がやればよし!。と言うことで無情にも立ち上がりながら応援をすることにした。

 

 

「生徒会長倒れないで!!」

 

「貴女こそが俺たち一高の代表なんだ!!!」

 

「「「ファイトです!!! 七草会長―――!!!」」」

 

 

 膝立ちの状態での射撃。剥がれた爪からは血が流れながらも、痛ましいはずのその背中が物語る。

 

 

 ―――案ずるな……この背は地に着けない―――。あなた達の魂を背負っているのだから―――!!

 

 などという言葉を感じて―――。会頭が立ち上がって声を掛ける。その姿は男気全開なもので気持ち良すぎるものであった。

 

 

「七草!! お前の魂を見せつけてやれ!! お前は、他人が思う以上にガッツのある女だということを!!!」

 

 三巨頭の中でも付き合いが長い二人にだけ分かる言葉。十文字会頭の呪文を掛けられた会長のアクセルが全開になる。

 もはや防御も半ばかなぐり捨てての打ち合い。技巧も何も無い。打ち合う魔弾が互いに互いのクレーを撃たせまいと操られて、100枚のクレーが打ち出された時間は終わり―――表示された得点盤は―――。

 

 80-80……決められなかったドロースコアに対して、この後の展開はどうなると雫に問いかける。

 

 

「ゴールデンクレー方式……打ちだされる13枚のクレー。その投射間隔はランダムながらも、色は白でも赤でもない黄色だから、どちらでも得点可能―――1枚10ポイント計算のそれで―――無論、多くを叩き壊した方の勝ち」

 

 これで決まる―――奇数枚打ちだされることをしっていれば、先に7枚叩き壊した方の勝ちだ……。

 

 カウントが3分間と表示される。3分後に再び打ち合いが始まるのだ……少しだけ長い3分間。

 

 血の滴る手でも構わずに『銃身』の側面を再びなぞった会長。発動させるにはまだ早いが―――それでも準備は整った……。

 

 

 誰もが息を呑む。セコンドカウントとなり目まぐるしく動くタイムリミット……。

 

 動く二人の射手。手を振り上げて、銃身を持ち上げて―――カウントゼロに至った瞬間―――8枚の黄金のクレーが打ち出される。

 

 打ちこまれていく魔法式がクレーを叩き落とそうとしていく。もはや戦艦の打ち合いの如く8枚のクレーを叩き壊すべく魔法が魔法を叩き壊す様。

 

 舷側を向けた一斉射撃の如き勢いは弱まることなく5枚と3枚が叩き割られた。前者が水納見、後者が七草会長。

 

 リードされたことが分かる得点盤と己の眼で見た人間達が異議を唱えなかったことで、誰もがその結果を受け入れた。

 

 次は―――3枚。水納見はここで決めるべくここぞとばかりに秘術を敢行する。巨大な氷柱を四方八方に展開して領域を狭める策。

 

 エイドス干渉であれば苦慮する状況を作り上げた上で魔弾を放とうとしたが―――。

 

 

 一層輝きを増した『螺旋の魔弾』が、七草真由美の方向から来て、氷柱もろともにクレーを直接射撃。視ると七草真由美の持つ小銃型CADの銃身から一対の翼―――赤と青の双翼が出ているのを見た。

 

 またもや小細工で逆撃を食らったことに水納見は歯ぎしりするも、己側に寄っていたクレーを撃ち抜き、6対5。

 

 拮抗する状況―――これまで王者として君臨していたはずの一高の脆さを期待していた人間たちも、この状況の意外さに動揺しつつも、腕を振り上げて応援を再開する。

 

 

 最後になるかどうかは分からない―――しかし、ここで決めた方の勝ちな水納見ユイは、神経を尖らせる。

 

 七高の同輩・後輩たちの声が響く。その声が後押しする。もはや家の宿業など知った事ではない。勝利をする―――。

 

 打ちだされるクレーは……一枚!

 

 お互いの魔法の早撃ちが、クレーに突き進む。しかし――――。

 

 

 勝ったのは―――七草会長。やはり早撃ちでは一日の長がある……小細工なしの早撃ちならば……。

 

 血が滴りおちるのは、お互いであった……。

 

 

「いつの間に?」

 

スペルヘリクス(螺旋魔弾)の余波で右腕を負傷していたんだな……やられたらやり返せ……とんでもない女だよ」

 

 最大威力のカレイドバレット―――神秘の層をまるっと吹き飛ばすその魔弾の真価を発揮した会長が氷柱ごと狙い打ったようである。

 

 ともあれ、これでイーブン。

 

 

 最後のクレーが放り込まれる一瞬を誰もが息を呑んで待つ。焦らすように―――10秒に達する前に最後のクレーが放り込まれる。

 

 その軌跡を観客も選手二人も見た。その軌跡に沿って魔法が現実を書きかえる。

 

 

「絶対氷盾!!!」

 

 水納見が執ったのは、最初に会長の魔弾を無力化することであった。早撃ちの射撃では、どう考えても七草会長に分がある。ならば、その前に自分だけが干渉できる空間にクレーを取り込む。

 

 

 八枚花弁の氷の華―――そう見える『絶対零度』の結界に取り込んだ。

 そのままに干渉して砕けばいいのに―――しかし、それよりも七草会長の歯噛みする姿を優先したのか……迅速な処刑処断よりも、見せしめのような演出を優先したのだろうか……。

 

 ともあれ、次撃の為に無事な方の手を向けて氷の魔弾を放とうとした水納見ユイは、『後の先』(カウンター)を獲ったつもりでいたらしい。

 

 しかし、本当の意味で『後の先』を取っていたのは、七草会長であった―――。

 

 照準を向けているCAD、銃爪を『引き絞る』様に、銃身から生える双翼をいっそう輝かす会長は、フルチャージが完了したことを理解して、『魔砲陣』を叩き込む。

 

 

 何故、七草会長がカウンターを狙えたのか、原因は定かではない。本人に問い質しても『何となく』とか言うかもしれない。

 無論、達也のように起動式を読んでどんな魔法が使えるかを読んだわけでもない。

 

 最後の戦い。最後のゴールデンクレーを叩き壊す前に、七草真由美は、全方位視界魔法『マルチスコープ』で、『水納見ユイ』の『バイタル』……健康状態なども観察していたのだ。

 

 流れ落ちる汗、唇を舐める仕草の有無、何かしらの回復魔法の行使はあるか……氷獣の力の流れはどうか……最後に関してはサイオンの流れで読むしかなかったが―――少なくとも今まで三年間の対戦相手。そして、己自身などの『スナイパー』特有の早撃ちの挙動・クセは無いかと読んで―――そのクイックドロウでの撃ちあいの可能性を消去したのだ。

 

 つまり―――早撃ちでなく。最大威力の魔法を使うわけでもない以上……この決勝までやってきた『クレーの閉じ込め』―――それをやると読んだのだ。

 

(―――読んだのか!?)

 

(読ませてもらったわ♪)

 

 

 驚愕の視線を向ける相手にイタズラが成功したかのような真由美の目線。最近、後輩にいじめられっぱなしの七草真由美の会心のイタズラであった。

 

 

「放て!! カレイドバレット(万華鏡の偽弾)!!!」

 

 叩き込まれる魔法式。そして具現化する物理現象。亜音速以上の―――光速にも似た閃光が螺旋の渦を巻いて黄金のクレーを、氷の中にあるものを砕こうと迫る。

 

 その魔法の輝きを見た瞬間に水納見ユイは悟る……自分の全ては打ち砕かれたのだと……。

 

 

「我が全身全霊! 破れたりっ!!!」

 

 交差することなく、氷を病葉に砕きダイヤモンドダストを作り上げた閃光は、黄金のクレーを打ち砕き、水納見ユイの魔弾も呑み込んだ。

 

 敗北宣言すると同時に見えた光景が、刻まれる得点盤が勝敗を完全に着けた……140-150……勝者は一高―――七草真由美となった。

 

 大きすぎる歓声、鳴りやまぬ拍手の中に、手を振ること無く全身を見下ろす七草真由美。完全に勝てたとも言い切れない―――これを全て地力の勝利とは言えない想いなのだろう。

 

 そして水納見ユイは天を仰いで―――悔しさから青空に眼を向けてるようで、泣いている守護獣をみていた……。

 

「水納見さんの氷獣が泣いています……」

「多分、主人の勝利に貢献出来なかったからだな―――悲しいんだ……」

「ぐおっ! 俺にも聞こえたぞ……拍手や歓声の中に紛れて遠吠えあげてるぜ」

「本当―――惜しかったわね……」

 

 悲しそうな表情をする美月と幹比古、耳を抑えてしまったレオ、少しだけ優しい眼をするエリカの言葉……

 

 ……恐らく幼い頃から、その『獣性』の化生とともに生きてきたのだろう強い絆。

 

 しかし、主人の慰めを受けて黙る。七高の生徒達も泣いてしまっている。勝利まで目前だった。いや、もしかしたらば、この場での勝利など―――本来ならば無かったかもしれないのだ。

 

 射台が、半壊していたとしても一応は対戦が終わったことで再びの並列になり、射撃場も片づけられていく―――。

 

 向かい合う二人。そしてお互いにどちらからともなく『無事な方の手』を出しあいお互いの戦いを称える。

 

 

「三年間―――あなたと全力で戦いたかったわ……」

 

「スイナ……私の守護獣に無茶はさせたくなかった。けれど、意外だわ……負けるというのが、ここまで悔しいだなんて―――」

 

「私が、私だけの力で勝てたとも言い難い……」

 

「だけど、アナタの勝ちよ。おめでとう七草」

 

 その言葉を最後に水納見ユイが、射台から先に降りる。降りた先には待っていた七高の生徒達の姿。誰もが泣き腫らしている姿を見て―――苦笑した

 

「泣くな。泣くな。まだ早いから、私がシューティングで負けただけだよ。七高の総合優勝。絶対取るんでしょ?」

 

 言いながらも、少し涙目なのは―――仕方ない話だ。色々聞きたい事はあるのだが、降りてまで、それを聞くほど野暮ではない。よって―――。

 

「俺たちも行くぞ。特に刹那、リーナ。お前たちは回復の要なんだからな」

 

「分かってるって」「あそこまでのガッツを見せられたらば、どちらも回復させないとね」

 

 

 出迎えに行こうと急かす光井の姿を見て、達也が促す―――多くの歓声を浴びる中、一人っきりにさせるわけにはいかず会長の元へと行くことに。

 

 その際に後輩全員に着いてくる会頭もまた気付かなかった。端末が緊急の連絡を入れていることに―――。

 

 降りてきた一高の生徒達を見て喜色を見せる会長。

 

 駆け下りて、真っ先に七草会長が抱きついたのは―――達也ではなく、『十文字会頭』であることに誰もが驚愕。

 やられた方の会頭も衝撃で雷でも打たれたかのようになっていたし。気の毒に……色々な視線や怨嗟の声が会頭に集中しているのだから。

 

「こ、これがいわゆるジャパンでよくある『ファイナルファンタジー現象』ってやつなのね! セツナ! 名前は『リンナ』と『リリン』でいいかしら!?」

 

「オイィイイイイイイ!! 色々とアウトすぎるわ!! 第一、ニンジャの方の補完はちゃんとアニメでやったから! そんな急激なフラグ立てじゃないから!!」

 

 

 七高の水納見先輩と七草会長に回復術をかけながらのアホな会話。しかし未だに美女と野獣を続ける七草会長と十文字会頭の前では、皆して二人の周囲で『おめでとうコール』でもやってやろうかと思うぐらいしかない。

 

 そんな中、ようやく端末に入れられた連絡に気付いた雫が、ぼそっと呟くのであった。

 

 

「男子スピードシューティング本戦―――服部刑部副会長……準々決勝で敗退。服部先輩を破って上がってきた第八高校の祭神雷蔵が優勝……」

 

 

 一高にとっては、予定外の勝ち星の喪失が、全員に何とも言えない表情をさせてまだまだ九校戦の風雲は収まらないでいるのだった……。

 

 


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