魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今さらながらDEEN版においての時臣役(ちょいと程度であった)である辻谷耕史さんが無くなっていたのを知った。

ご冥福をお祈りします。


第47話『九校戦――聖杯の少女』

 全ては望まれるがままに、『何人』がこの世界に『来訪』しているのかは分からない。しかし、その動きが本来の『行き詰った人類史』を違う形に変えていく。

 

 本来のこの『異聞帯』の歴史であるならば、自分や『弟』の存在など有り得なかった。魔法は神秘の御業ではなく、人間制御能力の一つとして君臨していただろうが、少しずつ力を失いつつある。

 

 神秘として信仰を得るべく『力』を見せなければいけないのだ……この人類史に、神秘の御業を取り戻し―――。

 

「―――……」

『考え事ですかな?』

「まぁね……長居しすぎたことは確かだし義理もあるけれど……ここは私の本来の居場所ではないからね」

『お嬢様は、この世界が嫌いなのですか?』

 

 その言葉は即座に否定できるものであった。

 

「いいえ、人々には色々あれども、概ね豊かに過ごせている―――、しかし……」

『破滅のスイッチが見えていますかね?』

「引き金を引くのは『クローバー』、そして『魔法の輝き』が、それを止めるか、『加速』させるか―――分かっていないわ。いえ分かっているから側にいるのかも……」

 

 

 眼を凝らせば分かる。あの二人に訪れるものは『対峙』『宿業から来る対決』。

 

『破滅の剣』を、その手で弄びながら、世界を『固定』しようとする『魔王』。魔王を解放する『七色の剣』を持ちながら、世界を『変化』させようとする『魔術王』。

 

 

(運命の時は訪れる……分かってるのセツナ? アナタは―――)

 

『お嬢様、16㎞先に新ソ連の間者を見受けます』

 

撃て(シュヴァイス)。『アルケイデス』―――」

 

 言われる前から弓を構えていた偉丈夫は、主人の下知を受けて新ソ連の間者……明らかに変な挙動を見せているマニュアル駆動の車―――恐らく改造車の四駆輪を撃ち抜き、急停止させる。

 

 公道を走っていただけに、後は事態の緊急を受けた連中が、即座に駆けつけてパスポートの有無などを誰何するだろう。

 

 第一、監視システムが利いているだけに、余計な逃亡は警戒を強めるだけだ。

 

「しかし、無頭龍は無いのだから黙っていればいいのに……違法賭博なんてどんな利益があるってんだか……」

 

 胴元が儲からない賭けなどを主催している連中はアホかと言いたくなりつつも、この闇夜に沈んだ富士山のお膝元に集結しつつある連中の意図がさっぱり分からなくなるのだ。

 

『お嬢様。そろそろ戻っては―――明日は試合(デュエル)があるのですから……』

「もう少しここにいるわ……今日は月が綺麗だもの―――それ以上に従者を、一日中この屋上に放置していたのは色々とアレだもの」

 

 貴族以前に『人間』としての気遣いであるとした主人に従者は笑みを零す。

 

『お気遣いありがたいですが、ここにいるのもいいものなのです。未だに鼓動を感じるヴェスヴィオの山の如き頂、エリュマントス山の如く多くの者から神性を称えられて、アトラスのように動き出しそうな偉容……懐かしいですな』

 

 アルケイデス……ヘラクレスの十二の難行を考えた時に、それを一概にいい思い出なのかと問いたくなるのだが……彼の声はどことなく弾んでいるので、それを言うのは野暮であった。

 

 だからこそ―――……リズもまた屋上で魔力を整えて―――、明日の千代田をめったくそにするべく『律』を整えておくのだった……屋上でステップを踏む……夏の夜には場違いな『雪の妖精』。

 

 そんな姿を見る者は―――『精霊』を友とする古式の魔法師であり、こんな夜中でも修練を欠かさない人間と、そんな人間に付き合って外に出ていた眼鏡っ子だったりするのであった……。

 

 

 † † †

 

 

「カンパーイ!……などあまり騒げないだろうけど、一応、私が優勝したのだから騒いで盛り上がって生徒会女子マイナス(いち)!」

 

「まぁ服部の奴も十文字のところに押しかけているだろうからいいけど、番狂わせだな」

 

「一部では負けるべくして負けたといっても過言ではありません。服部副会長の相手は、そのままにストレートで優勝を決めましたから」

 

「雷速の魔弾ですね……恐ろしい事に精度も極まっていましたから」

 

 

 深雪は直接見ていなかったのだが、風紀委員長である渡辺摩利と市原鈴音、中条あずさは、その試合を直接見ていたらしく―――悔しそうな表情をしていた。

 後で刹那にも見せた結果、見えたのはやはり同じくとんでもない『守護獣』を宿わせて戦っていると言う事実。

 

『雷を操る『熊』か―――神熊(しんゆう)の類、恐らく『坂田金時』の類縁なんだろう……雷を纏っているのは金時が雷神の属性も持っていたからだな』

 

 マサカリ担いだ『金太郎さん』の『熊』だと見抜いたメイガスの言葉で、服部副会長も観念する。

 彼の服部姓が、『徳川十六神将』から来ているものではないから、そういった『オカルティズム』的な重みでは優れないことを知ったが故の観念だった。

 

「明日、色々とメンバー全員を集めて話し合う予定だけど、勘定計算が合わなくなってきたわね。しょせんは……取らぬ狸の皮算用でしかなかったんだけど」

 

 憂鬱な話題になってしまうのは仕方のない話だ。正直……楽勝とまではいかずとも、見込みが合わなくなってきたのだから。

 あの九大竜王の出現が、一高の快進撃を阻んでいる。いや九大竜王が直接絡んでいなくとも、高まった術者は多すぎた。

 

「ある意味、一高以外の高校は、『ストップ・ザ・ワン』を掲げているのかもしれないですね」

 

「九校戦三連覇なんて前人未到の記録は阻みたいわけか」

 

 鈴音の推測に真由美としても、ため息を突くしかない。ホテルの一室にて盛り上がりたくても盛り上がりきれないのは、暗雲立ち込めているからだ。

 

「万全の万能を体現しているはずのCADも、極まった術者にとってはあまり意味の無いものなんでしょうか……?」

 

「分からないわ。今までの魔法師達は、かなり『危険極まる現象改変』で、それを行ってきたけれど現代魔法においては、それが無くなり……絶対ではないけど、かなり『安全』に魔法を行えるようになってきたもの」

 

 技術の進歩が今までの価値観を崩すならば、人間の天然地力を技術が補えるならば、それに飛びつくのは当然なのだ。

 

 剣を使っての一騎打ちから弓矢を使った戦いが火縄銃にとってかわり、火縄銃からミニエー銃、ゲベール銃―――ガトリングガンに……。

 

 並べて人類の進歩というのは技術の進歩。そしてそれを加速させるのは、悲しいことに争いである。

 古式魔法から現代魔法に代わり、神秘の御業は普遍の技術へと……。

 

 

「服部君、あの日から少し思い悩んでいたみたいです。あの戦い……ブランシュとの決戦でも二年生が蚊帳の外に置かれて、事態解決をしたのが、一年生の主体であることも」

 

「情けない……とも言い切れないか。居残り組だって忙しかったんだが、観測していた限りではとんでもないサイオンの猛りだったからな」

 

 四葉真夜が言う通り、七草弘一が泡吹いて倒れそうになったというのもあながち間違いではない。

 あそこまでの『狼煙』を上げられて、仰天しない魔法師はいない。

 眼と鼻の先にいた一高生徒たちまでも、その異常なまでの事態に恐慌を覚えるものもいたのだから―――。

 

「然程のことが私と十文字君にも出来たわけではないわ。あの事態を最後に止めたのは黄金の剣を翳す『赤竜の王』……それだけよ」

 

 あの場にいた深雪だけは七草真由美の想いが分かる。しかし、それでもあんな連中が今後も現れて、その一端を見せつけるならば……。

 氷雪をシンボルとする魔法師である深雪に終ぞ無き寒気が襲いかかったが―――今度こそ話は暗いものから違うものに代わる。

 

 

「しかしだ。真由美~。お前、水納見に勝ってから十文字に抱きつくなんて大胆だな! てっきりお前は達也君か刹那辺りに気があると思っていたんだけど」

 

「ち、違うわよ! そういう男女の愛情的なものではなく友情的なものよ。だってすごい激励が通っていたんだもの!!」

 

「確かに十文字会頭の激励は、会場を振るわせましたね。『お前はガッツのある女だ』ですもんね?」

 

「い、勢い余ってファイナルファンタジー現象に陥っちゃったけど、確かに十文字君の言葉で持ち直せたのも事実よ。それは認めましょう!」

 

 

 渡辺摩利が思わず感心するぐらいには、咳払いして会頭へのそれなりの情を認めた会長。

 しかし矛先を違う方向に向ける前振りでしかなかったと気付かされる。

 

「けれど、そう言う風な話で言うならば、あーちゃんこそ最近はんぞー君と仲いいわよね? あーちゃんの担当でもないのに、なんでそこまで気に掛けるのかしら?」

 

「そ、そりゃ同級生ですし、主席と次席でやんややんやしたりもしますよ。そういう男女的なあれじゃないです! 第一、エンジニアのリーダーは私ですから」

 

 言い訳がましいとまではいかずとも、理由づけとしては正しいものを述べたことで、少しだけ赤い顔をして回避できたと思ったあずさは連撃を食らうことに。

 

「そうかしら? だってこの前……たしか二週間前の生徒会室で髪結いの呪具を使って―――」

 

「ぎょわ――――!!! み、見ていたんですか!?」

 

「中条の髪、いつも纏まっているけど解くとサラッサラだな(CV 木村良平)とか、たまにはチョココロネみたいな髪を解いたら? 違った中条をみんな見たいはずだよ(CV 木村良平)とかいちゃついていたもんな」

 

 何気にかなりアレな場面を、会長と風紀委員長に見られていたことで中条あずさは驚愕するが、髪結いの呪具といえば、刹那のエルメロイレッスンにて行われたことだ。

 

 美しくなるとは、一種の『共感呪術』であるという……九校戦にて一種のコスプレ競技があることを知って急遽行われたものだったが、あれは有意義なものであった。

 

 

「止めようとは思わなかったんですか?」

「だって野暮だろ。長い間彼氏に会えない女の僻みと思われてもいやだしな」

「それは邪推が過ぎるのでは……?」

 

 渡辺風紀委員長の気風いいようで妬みもある言葉に深雪としても苦笑いするしかない。

 ともあれ、カウンターを食らったことで赤い顔を覆っている中条先輩を見て、不憫なと思いながら、この場にはいない生徒会の彼氏持ちは、何をしているのやらである。

 

(流石に、ここで『致す』事は無いでしょうが、何かしらの密談ですかね?)

 

 そんな深雪の推測は半々で裏切られていたのであった。

 

 

 † † † †

 

 

 若干、無防備な寝間着姿。達也辺りならば、深雪がこんな恰好をしてホテルを歩いていたとかいえば苦言を呈するかもしれんが、まぁ刹那にとってはどうでもいい話だ。

 

 ある意味、家でも見慣れた姿のリーナは、ベッドに掛けながらコーヒーを飲んで一服。呆けた顔をして、戻してから真剣な顔でこちらに斬りだしてきた。

 

 

「色々とドタバタしていて聞く機会無かったけど―――あの女、イリヤ・リズって何者なの?」

 

「分からない―――としか今は言えない…推測はあるんだ。だが、それが外れていた場合、致命的な間違いが発生するかもしれない」

 

 容易に話せないことだ。そう前置きながらも、リーナはそれでも構わないと言ってきた。

 

「聞かせて、アイリにとってはお気に入りの先輩でありミス・イリヤにとっても気に入りで胸を揉まれるようなレズレズっぽい関係でも用心したいから」

 

 そんなことまで話すとは存外、一色とは仲良くなっているようだ。桜小路の話の後でも『何かしら』あったんだろうな。と感じつつ女でも胸を揉むのはセクハラではないかと思う。

 

 思いながらも、要点はそこではない。恐らくイリヤ・リズの『正体』が刹那の推測通りであれば、『アイリ』という名前の女性に思う所があった可能性もあるのだ。

 

 

「あのドイツ語の投射文字は見たな?」

「えーと、え、えいんずべるん?だっけ?」

「ドイツ語のABCは『アーベーツェー』だから、細かな説明すればEiで『アイ』Zは『ツェット』あれは『アインツベルン』と読むんだよ。ひとつ賢くなったねリーナちゃん♪」

 

 とぼけた返答というわけではないが、中々にテンプレな返しをしてくれたリーナの頭をぽんぽん叩くも少しだけ胸を叩かれてしまう。

 

「ムカつくわ―! それでも! その中に一つだけあったわよね? 英語アルファベットで書かれているものが、セツナのお父さんの姓が……」

「ああ、だから分からなくなる―――なぜ、『エミヤ』を名乗るのかがな……とりあえず前置くと俺の家系『遠坂』『アインツベルン』『衛宮』というのは色々な因縁がある。それを説明するよ」

 

 

 刹那の故郷、極東の地においても有数の霊脈を保有していた『冬木市』。そんな冬木において、刹那のいた時間からすれば凡そ200年前、この時代からすれば300年前にある試みが為された。

 

 大魔術儀式。世界離脱の呪法……万物の全てを記録している『根源の渦』へと至るための試み……聖杯戦争という殺し合いが……。

 

「霊脈保有の『遠坂』、魂をくべる器を用立てる『アインツベルン』、世界の『外』から魂を呼び寄せる術『マキリ』―――俗に御三家と呼ばれる連中は、それぞれの思惑は違えど『世界の外』に至る為に、己の秘術を提供しあった」

 

「その辺りはワタシも聞かされていたわ。けれどセツナのお母様、お父様も参戦した『五回目』でも決着は着かず、そのままに、大聖杯(グランドグレイル)は解体されたのよね?」

 

「ああ、そう聞いているし、先生からもその辺りは聞かされていた。問題はエミヤとアインツベルンとの関わりなんだ。『見殺し』にしてしまったのが、少し気掛かりだったんだろうな……親父は、第五次聖杯戦争のアインツベルンのマスターに関して調べていたんだ」

 

 

 そういってから『手記』を取り出す。古くさい紙の書籍、それも色々と年月を積んできたものはあの日、父と別れてから母に見せられたものだった。

 

『あんたには、サクラ・エーデルフェルト以外に『おばちゃん』がいたの……その歴史をちゃんと覚えておくのよ……』

 

 部屋にて、刹那を傍に寄せながら、読み聞かせをするように『その人』の来歴を告げられた。そして、その人の事を忘れてはいけないのだと悟ってしまった。

 

 今はリーナを傍に寄せながら、その文章を読み進めていく。父の書いた文字を読み進めていくと……リーナはその可能性に辿り着いたようで、刹那を見返してきた。

 

 

「可能性だけを論じればキリがないが、俺はその『可能性』が高いと思っている……如何にホムンクルスと人間のハーフ……不安定な成長だったろうが、いくらでも『抜け道』はある」

 

 拒絶反応を生まない『人形』に意識と魂を宿らせる人形師など、運慶快慶の時代から進んで、刹那のいた時代でもいた。

 封印指定を解除されたり再度指定されたりと忙しないが、それでも数多の魔術師と未だにコネクションを保ちながら様々なところにちょっかいを掛ける厄ネタの一つ。

 

 姉弟子、兄弟子たちも「死ぬかと思ったがなんとかなった。先生あってこその僕らだしね」などと口々に言うぐらいには、恐ろしい相手ではあるようだ。

 

(妹の方とは会うこと多かったが、姉とは全く逢わなかったな)

 

 逢いたいわけではないが、何かの因果が働いたかのようだった。

 ともあれ、神秘が薄れたはずの『ヒトガタ』つくりに長けた魔術師の御業を発揮すれば……。

 

「イリヤ・リズは、俺にとって『姉貴』なのかもしれない……」

 

 推測の憶測。そして眼があった時に感じた魔術回路と刻印の震え―――全てが可能性を否定できないものであった。

 

 その答えを聞いた時にリーナは、少しだけ震えながら聞いてきた。

 

「戦うの……? 場合によっては、親兄弟どうしで争うのもセツナの世界の魔術師のルールなんでしょう?……」

「それが分からない。この異聞帯とも言える歴史世界にまでやってきて、俺の右腕の秘術を求めているというのならば……」

 

 戦うしかない。もしもイリヤ・リズ以外の『来訪者』(ヴィジター)が現れた場合、親父の秘術はあらゆる意味でジョーカーとなりえる。

 

「まぁ色々と、この世界の魔法師に教えてきた俺だが、こればっかりは譲れないな―――……」

 

「それがいいわよ。なんていうか―――最近のアナタは己を安売りしすぎなんじゃないかって思っていたもの」

 

「世間一般的には『高めの女』であるリーナを彼女にしているから、その辺りはバランスを取っておきたかったんだよ」

 

「セツナの前では安い女になってあげるわよ♪ まぁ嬉しいけどね…その一方で、アナタの価値を安くするのは、少しイヤよ」

 

 

 深雪も達也に『魔法師』として栄達してほしいのだろう。それと少し似た関係と想いを感じつつ、ごろんと寝転がると自然と膝枕の姿勢となる。

 

 

「もー……セツナのドスケベ……ヘンな時に甘えてくるんだから」

 

 リーナは言いながらベッドの外に投げ出していた足を少し動かすも膝の柔らかさは、変わらず見上げている少女の月光の如き『かんばせ』と陽光のごとき髪は、色褪せない。

 

「膝枕をしてほしいと思っただけで、そこまで言われるなんてこれからは自重した方がいいかな?」

「分かってるくせに……耳掃除してあげる?」

 

 最初は困ったような顔をしていたのに最後には刹那の甘えを容認する辺り、お互いになんか色々と『取り返しが着かない』気がしてくるが、それでも構うまい。

 

 お互いに……そういった関係で今までやってきたのだから―――だからこそリーナの中には嫉妬心が芽生える。

 

 例え北山雫が財閥のお嬢で、一色愛梨が日本の魔法師界のプリンセスだとしても……。

 

 

「泣くなよ。俺の隣にいるのはリーナだけだよ。だからあんまり疑ってほしくない」

 

「……ゴメンナサイ。けれど、こうして表舞台に立つと皆がアナタに秋波をよこすんだもの……」

 

「不安?」

 

「愛されている自信はあるわよ。けれど、いまこうして、アナタのお父さんの『結果』を告げられると―――なんか不安よ」

 

 

 不安げな顔の頬に手をやりながら聞くと、そんな本音を暴露される。その顔を安心させるために言葉を尽くしてもリーナは納得すまい。

 

 ならば行動でのみそれは証明されるべきことなのだ……。

 

「んっ……」

 

「―――んっ」

 

 身じろぎしつつも近づく貌と顔。その愛しき全てに対してやれることなど……ただそんな風にすることしかなかったのだから――――。

 

『刹那、リーナといちゃついているところ悪いが、五十里先輩が少し相談したいことがあるそうだ。ああ、ついでに言えば、粗相なんてしていないことぐらいは分かっているが、今にも五十嵐が狂いそうな勢いでお前の部屋の扉に飛び掛かろうとしている。40秒で支度しな』

 

 エイドススキャンの『精霊の眼』―――少し変化した『魔眼』で部屋の中を見やがった達也の言葉で離れながらも口づけだけは忘れずにしておいてから適当にジャージの上を羽織って、出ると野次馬根性逞しい皆さんの姿が―――九校戦というのは、本当にゆっくりできない『戦争』のようであった……。

 

 

「どこまでやっていたのリーナ?」

 

「…『ゲスノカングリ』ってやつじゃないかしらミユキ?……キスだけで終わっちゃったわよ」

 

 

 その言葉だけで五十嵐鷹輔 再起不能(リタイア)になるぐらいのダメージなのであった

 

 ・

 ・

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 そうして迎えた二日目も波乱は続くのであった―――波乱の残像は、追ってきた過去となりて、絡みついてきたのだ。

 

 翌日の波乱は女子ピラーズで、起こった。

 

 

 崩れ去る氷柱。走り来る銀糸の数々。眼では追えぬ……無限の数の代名詞とも言われる那由多の如き銀糸が次から次へと砕いていく。

 

 銀糸の細工模様―――それで構成された剣が七本。氷柱に突き刺さると同時に、砕いていく。

 

 そうしながらも空の手からは黄金の魔力光を放ち氷柱を貫いていく。攻撃ターン一回ごとに三本の柱が倒されていく。

 

 恐るべき『魔術』の手並み。人外のものにしか為せぬ御業。次いで啄む猛禽類―――(ファルケン)のようなものを形成した相手は、バードストライクで千代田先輩の氷柱を砕いていく。

 

 

「花音……!!」

 

 スタッフルームで見ている五十里先輩の顔は焦り、そして食い入るように恋人の奮戦を見ている。だが、彼女の魔法『地雷源』は、少しの揺れを『四高』の選手の陣地に与えるだけで氷柱は不動のままだ。

 

(氷柱に対してではなく、地面に銀糸で魔法陣を刻んでいる―――しかもあれは『アンタレス』のものか……)

 

 千代田先輩には見えないだろうが、眼を凝らせば四高の選手の陣地の氷柱は全て魔術的な意味合いで言えば『強固な鎧』というものを持つ『蠍の甲殻』に覆われている。

 大地を這う蠍は、その由来ゆえ『大地母神ガイア』の力を持っており、大地にいるかぎりどのような『衝撃』にも耐え抜く力を持つのだ。

 

 

「こんな、こんなことが……!!」

 

『ふふふ。おかしいかしら―――カノン……私に勝てないことが……地雷源。見事な魔法だけど、アナタには全然似合わないものよね』

 

「―――!? 何を!!」

 

『人の上っ面や表層的なものばかりでしかモノを見れないアナタが地の底に眠りある大地母神を揺るがそうなんて、不遜もいいところよ。やるならば―――こうするのよ。大地よ。嘆け!!』

 

 

 思念での会話をジャックしながら口頭で伝えると更に五十里先輩が、焦った表情。

 千代田先輩のお株を奪うように四高の『イリヤ・リズ』は呪文で、大地のエレメントを操ったようであり、残り六本もの氷柱のうち四本が鳴動を始める……残り二本は今まで防御をしてこなかった千代田先輩の最後の抵抗。

 

 ここまで、盛大にサイオンを使った攻撃。

 しかも―――聖銀(ミスリル)の銀糸を操っての『非効率極まる攻撃』をしてきたのだ。ガス欠になるはずだ。そこを狙うためにも亀のように防御をしなければいけない。

 

 六本もの氷柱が氷塊となって崩れ去り、気化される。火柱が上がっていたところを見るに炎も操れるようだ。

 

 

「まだだ! まだ諦めないんだから!!! 啓に!! こんなカッコ悪い私は―――」

 

『それじゃ無様に負けると良いわ♪ アンタ達一高を止めるのが今大会の私達の目的だしね』

 

 

 言葉を最後に最大の情報強化を掛けて氷柱を打ち倒させないようにしたかったが、那由多の如きミスリルの糸が千代田先輩の上方に纏まっていき―――氷柱の上で『巨人の拳』を作り、振り落される。

 

「ばっ―――」

 

 口を思わず開いて驚く千代田先輩に構わずに巨人の拳は叩き落とされた。

 

 一本あたり高さ2メートル縦横1メートルの氷柱が物理的な衝撃で壊されて、余波は十分に離れていたはずの射台にまで届き千代田先輩はたたらを踏んだ。

 もう一本を防御する気力は……もはや残っておらず、横殴りの拳の一撃でもう一本も砕けた。

 

 

『勝者 四高 伊理谷理珠!!!』

 

 

 その宣言の後に―――王冠を被り…姫と言うよりも『法皇』か『教皇』のような長い袖の白服。赤と金のエンブレーミングが印象的な少女は銀糸を操り―――。

 

 

 ―――頭上に『杯』を作り上げた。その後に風の魔法を使って己の宣言を放った。

 

 

『私が四高を勝利の杯に導く―――ソングオブグレイル! 歌うように私に着いてきなさい!! 四高の迷える羊たちよ!! 安心して突き進め!! 死して尚その魂は私が導こう!!』

 

『『『『リズセンパーーイ!!! 一生着いていきますぅううう!!!』』』』

 

 

 全員をヒートアップさせるその言葉で一高は窮地に陥っていくのであった……。

 

 そして、杯を解いた『リズリーリエ・イリヤ・フォン・アインツベルン』は、銀糸で刻んできたのだ。

 

 

『私はアナタの『姉』よ。何度も夢見るぐらいに会いたかったわ―――セツナ、アナタとの逢瀬を望むわ……私と逢いなさい―――』

 

 

 そんな言葉を魔術文字とドイツ語の混合で一高のカメラに向けてきたミス・リズは完全に、どういう存在であるかを理解した瞬間であり―――刹那にとって失われた筈の『家族』の一人であった……。

 

 

 


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