魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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久々の主人公戦闘回(?)。ここに来るまで結構カットしたんですが、それでも―――まぁ長かったぁ……。


第51話『九校戦――魔弾の王』

 

 

 

 イメージ通りの軌道を描く、『強化』されたボール。ダブルスとはいえ、自分の実力が、決して『優れている』わけではないことを自覚していたレオは、不安を掻き消すように動く。

 

 

 思い描いたものは完成しつつある。だが、それでも……。そんな最中に闖入者がレオの近くにやって来た。

 

 

「あんまり身体をイジメすぎても、本番で動けないかもしれないわよ」

 

「そういうお前だって、ボードを使っていたんだろ? 大丈夫か?」

 

 

 水滴でぬれて身体にぴったり張り付いたマゼンタ(紅紫)カラーのウェットスーツに、レオが言った通りにボードを持っているエリカの姿。

 

 近くにある水練用のプールを利用していただろうことは理解している。四日目の新人戦は本戦と同じ構造で『早撃ち』と『波乗り』から始まる。

 

 それゆえ、一日は余裕があるレオに比べればエリカの方はもう休んでいてもいいはずなのだ。

 

 現在時刻夜の10時―――。寝るべき時間のエリカを気遣ったが、どうやら彼女も不安なようだ。

 

 

「俺なんかが言って安堵するか分からないが、一走りした後に光井さんも泣いて達也に調整を頼みにいったじゃないか? それでも不安か?」

 

「比較すべき相手がほのかだけっていうのがね……まっ、敵を知り己を知れば百戦危うからず。『さーや』だって、あそこまで我武者羅に戦ったんだから、偉そうなこといった私がこれじゃダメね」

 

 前に腕を出して伸びをしたことで、エリカの胸が張られた様子をレオは見てしまったが、それよりも月夜に向けて覚悟を決めた顔の方に眼を向けた。

 

 その顔はいつものどこか傲岸不遜というか―――少しばかり肩肘張って女番長やっている様子よりも自然に見えて、見惚れてしまった。

 

 本当の彼女は、誰か頼りになる男にふとした時に寄り掛りたいのだろう。それがどういうことなのかは―――この四か月間で知ってしまったことで理解した。

 だから、その役目は達也に押しつけつつ、ふとした時に相撲取りのように、柱打ち(鉄砲)できるような大樹でいるのがレオの役目なのだろう……。

 

「なんかすごく失礼なことを考えていない?」

 

「いいや、いつも女横綱なお前だから、関取に相応しい戦い方してほしいなって思っただけ」

 

「どういう意味だ!? いや、何となく分かるわよ! けれど、明日はどうなるか分からないのよ! ちょっとレオ! 聞いてるの!?」

 

「んじゃ俺は上がるから、冷えないように温シャワー浴びとけよ。それと明日の先陣切るのはウチ(達也組)の最強の男魔女(ウォーロック)だぜ。

 見えてくる頂点までの景色も楽しんでこーぜ。そんな心境でなければ勝てねえよ」

 

「むっ……、まぁそうかもね―――分かったわよ。それとシャワーはアンタも浴びとけ! いくら筋肉が着いてるからといって冷えないとは限らないわ!!」

 

「はいはい。エリカ『お嬢さん』の仰せのままに―――」

 

 その言葉で遂に「いつもの調子」で蹴られるが、まずまず痛みは無く、言葉で思い出してレオとしてはあのホテルのロビーに寄せてきた『不良警官や不良軍人』じみた連中がエリカの応援団として来ると思うと、あれであった。

 

 ともあれ、そんな風に新人戦に向けて誰もが緊張をしている中、渡辺風紀委員長を襲った連中の下手人探しは、終盤に至っていた。

 

 ・

 ・

 ・

 

「犯行は『密室の中』で行われた―――つまり容疑者は―――」

 

「選手控室。それも決勝のロッカールームで行われた。カメラの解析で分かることはそこまでです」

 

 

 達也の画面分析で分かったことは、限られたメンバーのみに伝えられていた。薄暗い室内。達也が向き合う端末画面のみの明かりの元―――入る前の渡辺委員長と出てきた渡辺委員長の首筋の変化を見せてきた。

 

 高度な解析を行えば、どういうことなのかは分かった。入る前と入った後では、首の変化は明白であった。

 

「刹那、録画された画面越しとはいえ―――何か分からないか?」

 

「……一人、怪しい『オーラ』とでも言えばいいものを発していたのは分かった。ロッカールームの中に入った人間に『犯人』がいるんだとすれば、その人だけど―――」

 

 白の魔眼を『絞って』過去の映像に対して『眼』を凝らした結果―――『魔術的な側面』での容疑者はいたのだ。

 

 だが、それは―――『ホワイダニット』を疑う行為だ……。優勝したいならば分かる行為―――、それが……。

 

 懊悩する刹那に対して達也は、非情なことを言ってくる。

 

 

「―――刹那。お前が口を『噤んでいる』ことから俺も会頭も、会長も察したぞ―――そうなんだな?」

 

「お前ね……『ホワイダニット』を考えないか? そして俺の眼も『間違えている』こともあり得るんだよ?」

 

「ああ、だが―――俺とてその『可能性』を考えていた。考えたくないし、考えること自体、破廉恥極まる行為だったがな……」

 

 如何に、渡辺委員長が優勝候補。それも贔屓目無しの実力者とはいえ、そう言う風な下馬評を崩されてきたことでナーバスではないが、緊張もしていたのだ。

 

 そんな風に緊張していた渡辺先輩が、果たして……そんな下手人に気付かないだろうか―――。つまりは、『そういうことだ』。

 

 後輩二人の懊悩と苦悩の混ぜ合わせでの会話に会頭が口を挟んできた。

 

 

「……この件は一旦、俺たちで預かる。市原、中条。お前たちの方で、それとなく『見ていてくれ』。二度目の犯行が無いとも言い切れない……特に光井と北山の『試合前』はな」

 

「お願いね。二人とも―――こんなことになるだなんて、けど、本当に『なぜやったのか?』が分からないわ」

 

「………男女も色々あるからな………」

 

「十文字君。私もその可能性は考えたけど、消したわよ―――いくらなんでも、それは……」

 

 

 同じ『三年生』だけに会頭と会長二人で色々思う所はあるようだが、それを右から左に流して一つだけ達也に聞いておくことがある。

 

 

(ブランシュの倉庫にあったはずの、『邪眼』などの洗脳魔法技術は、どうなったんだろうな?)

 

(……可能性はあるか。分かった。俺の方でもそれとなく調べてもらっておく。お前も上官筋の人が来ているんだろう? 頼んでおけ)

 

(姉貴分なだけ。スターズの方でも義勇魔法師・徴用された少年魔法師たちの世話役が来てくれているだけだよ)

 

 

 思念での会話。猿芝居もいいところ。お互いの帰属をそれとなく察しておきながらも、事がバレるまでの『口実』というのは必要なのだ。

 

 ともあれ、シルヴィアに頼んでおくのも吝かではあるまい。イワンの『鼠』か『狼』がやって来ている事は間違いないのだから。

 

 そんなこんなで解散を命じられる。この件は軍にも話は入っており、流石に十師族の2人でも裾野病院―――国防軍の病院で治療を行った事は隠せなかった。

 

 犯人は挙げたいが、それでもこれは―――。そんな風に少しの懊悩を解される形で、会頭と会長から話しかけられる。

 

 

「夜分に呼び出しておいてなんだけど、明日は刹那君の試合だから―――もう寝なさいね」

 

「ありがとうございます」

 

「そして……可能ならば、この『空気』を打ち破るぐらいのことをお前たちにはやってほしい」

 

 

 空気。会頭の言う所の意味が刹那と達也にも分からないわけでは無かった。現在の所、一高がトップだとはいえ、今後次第では『逆転の芽』はどこにも咲くのだから。

 

 特に会頭と闘った九高の霧栖は、確実に力を温存したまま―――『同時優勝』としてきたのだ。踊らされていることを理解しつつも、会頭も『竜蛇』を操って戦う相手に対して追い縋ったのだが―――、逆転の芽は出せぬまま、氷柱の自陣敵陣トータルドローのままで、優勝としてきたのだ。

 

 

「このままでは終われん。モノリスでヤツに借りを返すまではな」

 

「それまでに俺たちに『フィールド』を温めておくことを望むんですね?」

 

「ああ、モノリス新人戦で準決における参加制限撤廃を期して急遽シューティングに変更してきた一条及び三高を黙らせろ。派手に誰もが明朗に分かるぐらいに、お前たちが九校戦新人戦の主役になれ」

 

 掌を拳で叩きながら言われたその言葉に、随分と期待されているものだと思うが、結果として一条将輝を土に塗れさせていいのかとも思う。

 

 が、達也の問いかけで刹那の疑問は腹に収まってしまった。

 

 

「刹那は分かりますが、何故俺まで?」

 

「お前ならば、光井や北山、西城、吉田、柴田、千葉―――司波深雪……―――親しい連中を勝たせるのに全力を尽くす。そして選手が使ったCADを調べれば、エンジニアも、この戦いの主役だ……魅せてみせろ。お前の本質をな」

 

 

 同じく掛けられた言葉で、達也も思う所はあるようだが、ともあれ一高の親分の要請にははっきりと断れないのだろう。

 

 色々と思いや言い分はあれども全員が勝つことを求めるならば、その一助になるのは、どんな共同体でも起こりえる『こころ』だ。だから―――二人して全力で『やること』に決めるのであった。

 

 

 一高専用の会議室を出ていく、後輩二人の頼もしい背中に―――三年三人が、嬉しく思いながらも、唯一不安に思うのは二年の中条あずさであった。

 

 あの二人が『全力』でやることは、なんというか―――。色々とマズイのではないかと思う。

 

 何より達也はマズイのではないかと思いつつも……最終的には一高が勝つならばいいやと思いながら、その技術力を盗みたいと思うあずさであった。

 

 

 誰もが望むと望まずとも、九校戦四日目―――新人戦の初日は迎えるのであった……。

 

 

 

 † † †

 

 

「これだけですか?」

 

「ええ、まぁ持ち込むものは、こんな所です。―――刃物を『斬りつけられる』距離ではないんですしね。問題ないでしょ?」

 

「いや、まぁそうですが……わ、分かりました。許可します」

 

「ありがとうございます。お袋からもらった遺産であり『お守り』なんで、試合に持っていけるのは助かりますよ」

 

 

 競技前のCADチェック。大会委員による検査で本来ならばCADに入っている起動式をチェックする場所に、異端の魔術師が出したのは、数種類の『魔宝石』合計40個。アゾット剣。トライデルタにカットされた『お守り』。

 

 そんなものを出されてはサイオン数値を測る機器を持っていない委員では、どうしようもない話であり―――。

 

 

「龍からの入金も無いし、『針金』やら『刀』に『水晶』……『蛇の抜け殻』を出されて―――今年の九校戦は『おかしなの』が多すぎる……」

 

 

 俯きながらの検査委員の心底の愚痴。

 

 それを後ろに聞きながら『ご愁傷様』と思いつつ、その言葉の中に『TARGET』を思わせる言葉を発見して、観客席にいるだろうシルヴィアに伝えておく。

 

 そうしてから、順番を再度確認。『イチジョウ・マサキリト』の後というのは、まずまずである。吉祥寺真紅郎とやらも、自分の先手ということだけは確認すると―――。

 

 一人の珍客が聞いてきた。もちろん友人である……男女で予選開始というのも本戦と変わらぬことらしく、彼女も準備してきたようだ。

 

 

「大丈夫なの?」

 

「問題ないだろう。桜小路から聞いてると思うけど―――雫は?」

 

「ばっちし。達也さんからのCADもちゃんとチェック通ったし」

 

 ぶいっ。とばかりに無表情でピースサインしてくる雫に、なら問題なかろうと思う。

 この検査所近くというのは男女共用のスペースであり、それぞれでグループという名の塊が出来ており、その中でもどうやら自分は奇異に思われている。

 

 そんな刹那の視線を理解して答えを言ってくるのは雫である。

 

 

「それは刹那の格好が格好だから―――。この夏場に、その格好はどうなの?」

 

「雫だって長袖じゃないか。まぁこれは色々とあるんだよ……俺の戦装束さ。俺の家が武士の頃からの伝統と、武士から魔術師に転向して―――親父の聖骸布を利用したものだ」

 

「……レリック(聖遺物)?」

 

「衣装には難癖着けられない辺りは、ざるだよな」

 

 

 赤原礼装―――お袋が夜なべして縫ってくれたといってもいい思い出の品……成長するごとに、サイズを合わせる必要が無いように、伸縮自在にしてある種の攻性防御も可能と言う代物。

 

 魔術礼装として破格以上のそれは遠坂刹那が魔術師として決戦に挑む時には絶対に身に着けるものだ。

 

 リーナがプラズマリーナとしていた時にも、この服だけは身に着けていたのだ。それぐらい……刹那にとって大切なのである。

 

 

「最後に聞くけど、勝つの?」

 

「そう頼まれたからな。ただ勝敗はいつでも時の運さ。渡辺先輩みたいに何かのアクシデントは付き物だ」

 

 

 雫はどうやら自分が『本気』を出さないのではないかと疑っている。それは仕方ない。刹那にとって力は誇るものではなく『高める』ものなのだから……。

 

 

「応援組は全員、私の方に回したって聞くけど?」

 

「俺のを見たって詰まらないからさ。あんまり試合前に突っかからないでくれよ」

 

「……私の不安なんて刹那にとっては何でもないんだね……」

 

 

 なんでもこの九校戦に入る前に雫は三高の一条を注意して、ヤツがいる限り、総合優勝はどうなるか分からないとしてきたのだ。

 

 そこに昨日のアクシデントである。この学生魔法競技の祭典に人一倍拘りある雫の懸念は分かる。だが――――。

 

 

(勝てないわけがない)

 

 

 左手のお袋が叫ぶ。やるからには半端はゆるさない。完膚なきまでに叩きのめして二度と立ち上がれないぐらいにしてしまえ―――。恐ろしい鬼母である。

 

 

(世界なんてのは最初っから俺のもの。例えそれが異世界であろうと、やれるまでやってやる。出来ないことなんてないんだからさ)

 

 

 一人の少女の懸念などどこ吹く風で、魔宝使いの『スナークハント』が始まる……。

 

 ・

 ・

 ・

 

 順番が来たことで射台に上がった刹那。ルールは何度も確認した。耳にタコが出来るほどに(雫ボイス)。その上で、やるべきことを行う。

 

 現れた異端の魔術師ゆえなのか会場の緊張した空気が心地よくない。

 もう少し盛り上がってくれないと、なんか魅せがいがない。ただ『神秘』として『魅せる』ならば、この空気は悪くない。

 

 シグナルランプの点灯までまだだが……フライングはしないように、されど『魔眼』に火を灯し、魔術回路の励起は六割弱。刻印使用は四割、五割―――分配は悪くない。

 

 体調は十分。ホロスコープ、土地のマナ利用、東西南北の方位指定―――おおまかよし。

 

 魔弾の貯蔵率は―――十分。矢束、星爆十二分―――全ては整った。発動させるのに、『秒』もいらない。『セカイ』は―――全て遠坂刹那に従う。

 

 

『START』の文字が見えてランプが点灯を開始。丁度普通のCAD持ちであれば銃口を向けるところに刹那は左手の五指を揃えつつ、すこし狭めて前方に突きだす。

 右手は、弓弦でも引くかのように後方に引かれて―――。何人かは真由美のカレイドバレットの実践を思い出したが、眼のいい連中の殆どは『顕現』を果たしつつあるものを視て口で手を抑える。

 

 そんな様子を『千里眼』で見ながらも刹那は三つ目のレッドランプになった時点で―――。

 

 

左腕魔術刻印解放(ルートセット)右腕魔術刻印圧縮(ルートダイレクト)―――ゲートオープン、刻印神船マアンナ!!」

 

 

 巨大な弓であり―――船を顕現させた。

 誰もが驚く。魔力で形成されて何かの象形文字か古代文字の繋がりのようなそれらが―――弓であるようで船に見えるのが恐ろしかった。

 

 はたまた砲口にも似た黄金の文字で形成されたリングが先に浮いている様子。そして二段構えの弓の長大さ、巨大さ、それぞれの刻印の色彩の豊かさは誰もの度肝を抜く。

 まるで一種の芸術彫刻にも似ていた……それの名前を刹那は叫んだのだ。

 

 刻印神舟マアンナ―――と。

 

(魔術刻印の最大外部展開―――あんなもの俺の『分解』で吹き飛ばせるわけがないな……)

 

 仮に干渉を果たせば遠坂家二百年の歴史が達也に逆撃を食らわせる。そう感じて―――グリーンランプになった時点で発射されたクレー七枚に―――発射された黄金の矢が飛んでいく。

 

 亜音速というよりも何かのホーミング兵器。ミサイルか何かのようなそれが生けるかのように有効範囲に入ると同時に、四方八方から串刺しにしてしまう。

 

 

 魔法使いの秘術が『絢爛』に披露される……。次は四枚。赤、青、黄、緑―――魔弾が飛んできて順番に砕いていく。

 

 

「スナップカラーズ。シングルアクション(一工程)で放たれる『魔弾』で威力よりも速度を重視したもの。威力を高めれば高めるほどに、呪文や術式も複雑だけど、単純な皿一枚に対する物理破壊力ならばこれで十分」

 

「呪文を唱えずにあの威力か……」

 

「魔力を通すだけでいいのよミキヒコ。それでもあの数を撃つには刻印の補助が必要なんだけど」

 

 

 リーナが説明してくれたスナップカラーズなる魔弾は、有効射程に入ったクレーを次から次へと落としていく。その色彩の豊かさは見るものを躍らせる。

 

 

「身振り手振りだけで魔法が放てるのか、あれは―――本当に『魔法使い』なんだね」

 

「うおっ!? 何だあの球体は!?」

 

「魔力を圧縮させた回転弾―――、俺…雫のアクティブエアーマインに対する意趣返しか?」

 

 

 エリカの感嘆の後に仰天するレオ。冷静に分析する達也は、刹那が射撃有効フィールドの真ん中に、輝く巨大な球を放って置換したことに驚く。

 

 その間にも飛んでいるクレーはそれとは別の魔弾―――というよりも凍れる矢と炎の矢とで撃ち落とされる。

 

 そして有効フィールドに放られた球は―――そこから『きらめく涙』のように魔力を粒上に流して『星』にしていく。星は―――光弾なのに星として認識されて、入り込んだクレーを次から次へと砕いていく。

 

 絢爛豪華なる正しく現代魔法からすれば、無駄な事のように見えて、実は常識外のことをする刹那に誰もが度肝を抜かされる。

 

 

星爆の明星(コメットルシファー)。魔術世界において太陽の代わりに他の惑星が太陽と見立てられて様々な論理考証が為される。中でも金星は、多くの学派で太陽の代わりに見立てられる。そして堕ちた大天使の星にもね」

 

「昼間からはっきりと見える星ですもんね。金星は」

 

「そういうことよミヅキ。金星の『概念』に見立てた星球を作り出して太陽と『繋げる』ことで無限の流星を作り出す魔術。いま、あの魔力球は、セツナの制御下にありながら、太陽から魔力を頂いている。アルキメデス・ソーラーの意味でUSNAに登録されている『魔法』よ」

 

 

 それだけでもはやパーフェクトを出せるだろうし、何より観客の歓声はとんでもない。

 魔法師だけでなく一般客にもウケる魔法であるが、魔法師はウケるではなく、その『戦艦』にも似たモノの撃ち破り方を講じるが―――早々に不可能を感じる。

 

 出鱈目すぎて、しかも『マアンナ』である。

 如何に魔法がオカルトから離れたとはいえ、そこまで傾倒しきっていないとはいえ、調べれば出てくる言葉の意味に、汗を流すのみだ。

 

 そして達也は―――『太陽』から魔力を供給するという『ソーラーボール』に興味を覚えて、自分の『難題実験』の何かに使えないかと思うのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「うむ。正しく『人間戦艦』じゃな! アイツ出る競技種目を間違えておるぞ!! こりゃ一条も吉祥寺も当たったらむずかしいかのー?」

 

「沓子、親衛隊に睨まれかねない発言は自重して」

 

 と言い含めながらも、栞の発言の前から『一条親衛隊』も沈黙していた。彼女たちも魔法師。魔法師ならば、自分の知らぬ未知の魔法に興味を覚えて、尚且つその圧倒的な様に驚愕する。

 

 三高の控室にて、一度戻ってきた一条と吉祥寺が睨むようにモニターを見据えて汗を流す様は、誰もが窮地を覚えるのであった。

 

 そして、一色愛梨はと言えば―――胸の前で手を組んで惚けるような顔でモニターを見ていた。眼は一際潤んでいる様子。

 

(本当に好きになっちゃうなんて―――重傷だね……)

 

 憧れ程度で終わらせておけば良かったのに、というドライな栞の内心の感想の後に三高のスーパールーキー二人がいなくなる。

 

 

「すぐに対策を立てなきゃ……将輝! 行くよ!!」

 

「……ああ、遠坂刹那―――分かっちゃいたが、とんでもないな!イレギュラーマギクス! だが、勝たなきゃ!! 司波さんに―――」

 

 

 控室を出てCADの作業車へと直行しようとする吉祥寺とそれに追随する一条がいなくなったことで、少しのざわめきが増える。

 

 そして―――モニターに見えている艦娘(かんむす)ならぬ艦漢(かんおす)の試合は終盤に近づいていった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 余裕綽々、循環する魔力も特に負担を感じない。だが焦らされるかのように20秒もクレーが射出されていないのは、どう見ても係員の嫌がらせであった。

 

 そういったメンタルアタックはイラッとする。

 

 星球の展開を止めねば、クレーは出さない。という『九校戦の笛』を鳴らしている係員に、観客席からブーイング染みた野次が飛ぶ。

 

 残りは34枚―――ここまでパーフェクトであるというのならば、予選落ちはあるまいと考えていたが―――こんな嫌がらせを受けて、黙っていられるほど刹那も我慢強くないのだ。

 

 人差し指を銃に見立てて、ガンドで『金の羽虫』を撃ち落としてから、両手を交差させてから、握りこんだ拳を開いて指の間に宝石を挟んだ状態。

 

 同時に―――星球の展開を終える。そして一斉に飛び込んでくる34枚のクレー。

 

 誰もが係員に汚いと考えるも―――構わず、刻印神船ごと身体を振り回して刹那は―――秘奥を解き放つ。

 

 

 「Foyer: ―――Gewehr Angriff―――」(Foyer: ―――Gewehr Abfeuern)

 

 

 刹那の七色に、母の七色を重ねる。術式と宝石の構成は間違いない。魔術の『重複』『連弾』が刻まれる。

 

 開いた右手と左手の宝石の魔力が手を前に出すごとに放たれる。

 

 

「Schuss schießt Beschuss Erschliesung!―――放て!カッティング・セブンカラーズ!!」

 

 

 刻印神船の黄金のリングを放って解き放たれた虹色どころか『万色』にも似た魔力のレーザーの本数は那由多の如く刻まれて―――魔力の大河の中に、全てのクレーが砕かれた。

 

 先程までの精密さ・緻密さとは正反対の大味すぎるが、それでも『正道』すぎるほどに圧倒的火力で吹き飛ばした刹那に誰もが歓声を刻む。

 

 

「我らが王―――!!!」

 

「あなたのその姿に、これまでの全てに感謝をします!!」

 

 

 九大龍王―――その中でも本戦参加組の連中が纏まって観戦していた。一人……水納見は21世紀前半ぐらいに日本で流行ったラブなポーズを取っていた。

 

 その中に四高の伊里谷理珠がいることに達也は、その笑顔と一緒にいることに怪訝さを覚えながらもパーフェクトスコアで予選を突破した刹那に満足しつつ……何かが変なことを覚える。

 

 なんだ。なにが――――。得点盤に、眼を向けた瞬間に気付いた。

 

「100点満点中の『101』点……!?」

 

 意味不明のスコアレコードに、気付いたのは観戦していた達也たちだけでなく、腕を一旦下しながらも、前を見据えている刹那もだ。

 

 何かが起こる。何かは何かであるのだが――――。

 

 STARTという文字を刻んでいた電子掲示板に―――けたたましいアラームと同時に、あまりいい意味ではない文字列が赤色で出てきた。

 

 

『CAUTION』『CAUTION』『CAUTION』『CAUTION』―――『注意』を意味する文字が、明滅しながら電子音声で告げられる。

 

 同時に有効射撃フィールドの真下の地面が開かれて何かが競り出してくる様子。それは―――生物ではない。

 しかし、鳥の嘶きの如きけたたましいジェット音で上空へと飛び立った。

 

 風圧でめくれそうになる顔を、誰もが腕で顔を保護しながら飛びあがったものを詳細に見ようとする。

 

 

 一定の高度まで上昇したそれは、滞空して眼下にいる小さきものを狙う鳥の如く『眼』を鋭くしていた。

 

 そして掲示板には―――違う言葉が、並んでいた。

 

 

『SPEED SHOOTING JACKPOT STAGE  『大空の王者―――『鳥』(ガルダ)を堕とせ』

 

 

 機械で構成された鳥のようなロボットは、観客、出場選手たちや当事者である刹那の困惑とか、そういうのを気にせずに――――本当の意味での嘶きを上げる……。

 

 本戦前の刹那だけに用意された……訳ではないだろうが、どういうことなのか、それでも『ジャックポット』という単語に一高陣営が色めき立つのは間違いなく、その後に電子掲示板にいつぞや見た時と同じく九島烈の姿が映るのであった。

 

 

 

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