魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ちと短いですが、通算UA300000を更新したお祝いということで新話をお送ります。

短いと言いますが、むしろ書きすぎているんだよな。こんぐらいがいいはずなのに(苦笑)


第53話『九校戦――クリムゾン・プリンス』

 ぬきな!どっちが素早いか試してみようぜ。西部劇のガンマン風に言えば、そんな勝負。

 

 早撃ちと称される戦いの全ては、そこに帰結する。ゆえに―――アメリカから来たマジックガンナーとでも言うべき男の戦いは苛烈であった。

 

 

(くっ……一見すれば『魔弾の射手』よりも無駄が多いってのによ……!)

 

 

 魔力を使って弾丸を作り上げるという作業だけ見ればエルフィン・スナイパーと同じく無駄なことをしていると思える。

 

 しかし、放たれる弾丸は七草ほど射角を自由自在ではない。常にマジックガンナーの側に装填されている。

 

 

 だというのに――――。

 

「Gehen!!!」

 

 快活な声と共に放たれる矢の束ねは、意思持つかのように六高の仙道のクレーを避けて躱して己の白クレーだけを穿っていく。

 

 射角とか標的の重ねなど関係ない。本当の意味で射手の意思を受けて弾道を変える『魔弾』でクレーを穿つ。更に言えば、その際に仙道の赤クレーの近くを擦過した時点で、仙道の魔法式はキャンセルされてしまう。

 つまり、あいつが矢を放った軌跡は、他の奇跡を発動させることを許さないように、道を荒らすのだ。

 

 古めかしい弓矢のような動作で放たれる矢。その動作の間にこちらは、いくらでも魔法を放てるはずなのに……。

 その動作が、聞こえてくる弓弦を引き絞る音とが、こちらの魔法の発動よりも速く聞こえるのだ。確かに起動式を読み込む時間は人それぞれ。この九校戦に出るような連中で言えば一秒以下の時間だろうが……。

 

 早撃ちにとって命とりとも言えるその所作が、こちらの発動を上回るものとして作用している。

 

 

 遠坂刹那……巷では『魔弾の王』(ロード・マークスマン)などと呼ばれつつある男に仙道は負けたくなかった。

 

 しかし、敗北は必至だろう。

 

 

 黄金の矢が吐き出す度に、遠坂刹那は点数を稼ぎ、仙道の魔法は軌道すらもずらされていくのだから……。

 

 次弾のように放たれる副砲とでも言うべき色彩豊かな魔弾が、呪いの弾丸が、有効フィールドを己のものとしていく。

 

 仙道の魔法は捻じ曲げられ、現実を改変すること叶わず、ただのサイオンへと代わってしまう。

 

 

「つ、強すぎる……!」

 

 

 汗を流して驚愕した仙道がフィニッシュを53枚で終えたのに対して、遠坂刹那は100枚のパーフェクトである。流石に本戦ではボーナスステージは無いらしく。

 

 係員からの恣意的な嫌がらせも無く、十分に吐き出された素焼きの皿は全て綺麗な弾痕、矢痕を残して死屍累々になるのみだった。

 

 

『準決勝進出を決めました遠坂刹那。スピードシューティング新人戦四強に一抜けです!!!』

 

 歓声に答えながら刻印神船の展開を終えた刹那の姿を控室で見つめていた一条将輝は、親友であるジョージだけに頼らず、自分なりに遠坂刹那を研究したくなった。

 

 驚異的な古式魔法。八王子での一件で師族会議を終えた親父……一条剛毅から告げられた言葉を思い出す。

 

 

『お前の眼と耳。そして『魔法』で、遠坂刹那を見極めろ―――あの少年の格が、どんなものなのかを、な』

 

 差し向かいで言われた後日、九校全部にとんでもないテキスト。古めかしい古書の装丁のものが送られて、それを利用した上でのレッスンをすると言われた。

 

 そして講師は誰なのか? と疑問に思いつつ始まったオンライン講座ではあるが、そこに現れたのが自分と同い年の少年。

 

 親父の言う遠坂刹那であることを知ると同時に、その授業内容は尚武を旨とする三高でも話題となるまでに時間はかからなかった。

 

 校長である前田千鶴という女傑も『なぜこんなヤツが野にいたんだ』とデコを一発叩いてから、苦笑を浮かべていた。

 親父の古い馴染みですら分かって、そして将輝もその授業を楽しみにするぐらいには、すごくいいものだった。

 

 その時の将輝の評価は『魔法の学徒としては、優秀なんだろう』程度だったが、その認識が段々と変わっていくまでに時間は要らなかった。

 

 この九校戦の期間中。そこはかと見えてくる遠坂刹那の実力。前段階は『体技場』での一色との戦い。

 

 一色愛梨は、三高の女子の中でも二、三年を押し退けてもトップに収まるほど、戦姫とでも呼べる存在だった。

 

 その女子生徒の苛烈さに、三高の校長である前田千鶴も『あたしの跡を継ぐのはお前かもな』と笑いながら言い『校長先生のように未婚のお局にはなりたくないですね』と返した後には……。

 

 言葉ではなく、お互いに得物……先祖伝来の十文字槍とレイピアを手にしての魔法戦争が勃発。

 

 その戦いは今でも三高で語り草となっている……というのは抜きにしても、

 そんな風に若き頃から『天魔の魔女』とか呼ばれていた前田千鶴を思い起こされる一色愛梨とも互角以上に撃ちあえる遠坂刹那の腕っぷし。

 

 将輝の予想を超えて、一高の同輩として見学していたのか、夏の私的な外出着の司波深雪の姿を見ながらも注目せざるをえなかった。

 

 そしてやってきた九校戦新人戦の初っ端―――スピードシューティングにて、直接戦闘だけではなく遠距離魔法もとんでもない事を知る。

 

 あらゆる隙を無くした完全無欠の魔法師―――という枠に収まらない遠坂刹那の全てを見ているようで将輝もまだ分かっていないのだ。

 

 

 だから―――選手通路―――丁度よく次の将輝が出る射台は、遠坂が使っていた方だ。戻ってきた遠坂と逢えるだろうと踏んで待つ。

 

 赤いコート。意外と薄手のそれを脱いでそれなりの汗を掻いている遠坂―――。その姿は……『飢えている』様子だ。

 

 

「―――初めましてだな? 三高の一条将輝だ」

 

「……まぁな。お互いの名前だけは知っているか。一高の遠坂刹那だ。四月には親父さんに色々と迷惑掛けたよ。すまんな」

 

 意外な点に着目して話してくるものだと少しだけ驚く。

 更に言えば、その顔は申しわけなさを感じるもので将輝は驚いた。

 まさか一条家に取り入ろうという―――わけはないな……将輝の母親が『一色』の傍系であることを差し引いて、そしてある意味遠い親戚である『一色愛梨』に、勝ち目は無いように思えているのだから。

 

「なんで、そんなことを気にする?」

 

「四月の一件で、家に帰れない父親にさせてしまったんじゃないかと思ってな。俺の親父は、別れを告げると同時に『世界の果て』に行っちまったから―――そういうことだ」

 

 そう言った話は近場の十文字、七草、三矢にも話したことだとして、子息や娘たちにその旨を告げたとくわえられる。

 

孤児の魔術師(オーフェン)に、よその家の父親の帰りを遅くさせていい道理なんて無いからな」

「ジョージみたいなこと言うなよ……」

 

 こうして見て話すと多面的な男だと分かる。

 見目麗しき女の子に構われて、一昔前のラブコメ主人公のような様子もあれば、魔道を駆使して闊達に己の実力を示す一面と、傍目には分からぬ底の深い神秘然とした様子。

 

 そして……他人の家のことに、色々と気遣える……ある意味、弁えた少年のような様―――。色々と複雑な面があって将輝としては掴み切れない男に思えた。

 

「そりゃそうだろ。俺とてお前をデータ上のことでしか知らないからな。ついでに言えば、俺の彼女と双璧の美少女『司波深雪』を熱っぽい視線で見ているぐらいだな」

 

「ばっ……! お、おい遠坂! まさか司波さんに俺の事は―――」

 

 思いがけぬ遠坂刹那の言葉に勢い込んで近づいてしまった将輝であったが、それに対して遠坂刹那は変わらず返す。

 むしろ、『あくまなかんがえ』が頭に浮かんで、それを実行することにしたのだ。

 

「いや、全く。全然。女子の連中は、お前の視線に気付いていたみたいだが、当の本人は全く興味ないそうだ」

 

 刹那の言葉を受けて通路の隅っこにて小さくなる一条将輝。流石に『ないよ、興味()ないよぉ!!!』と言われたのはショックのようだ。

 

 

「とはいえ、しょせん俺も人伝手に聞いただけだ。本人に確認しろよ」

 

「お、お前な…… 俺の心に『サクシニルコリン』を撃ちこんでおきながら、この上! ほ、本人確認だと!? どんだけハードル高めているんだよ!?」

 

 普段から女の子と関わっていないわけではないだろうが……という刹那の考えとは別に、一条としては女ばかりの家庭というか、若干、強すぎる女が多すぎて、女というものにそこまで興味を持てなかった時に一目見た時に、心奪われたのが深雪なのだ。

 

 そんな事情は知らない刹那であったが、なんだか教室の先輩。兄弟子『スヴィン』を思わせる男だと思えた。

 

 グレイ姉弟子と若干、上手くいかないのを歳が少しだけ近い『オルガ姉』と嘆いている時も多かったことを思い出して懐かしさに浸っていた時に―――。

 

「だが、それしか『あっ、刹那君。探しましたよ―――早く着替えないと身体冷えるとお兄様が』。ああ、すまない。ちょいと話し込んでいた」

 

 通路の角から現れたのは、話していた人物。雪女のような少女だとして然程興味を持てないのが、タオルとドリンクを手にやって来た。

 

「いや、すまない限り。女子のエースを、こんなことで煩わせてしまって、カンカン?」

 

「いいえ、お兄様は特にそこに関しては、ただ森崎君が少し……」

 

「ああ、そういうことか。了解した」

 

 陰りを見せた深雪の顔に事情を察して、俺が仲立ちしたところで意味があるのかなと感じながら、受け取ったタオルで顔を吹き、ドリンクで水分を補給していたが……。

 

 その間。惚けた顔で一条が深雪を見ていたので、「あかいあくま」として、少しの恋の矢を放つことにした。

 

 

「ああ、そうだ。深雪―――こっちは」

 

「――――――三高の一条将輝です。ウチの一色やらが迷惑掛けているようで、申し訳ないです」

 

 刹那の気を利かせた紹介よりも、覚醒を果たして自己紹介をした一条に、深雪も自己紹介をする。

 

「一高の司波深雪です。ご高名な十師族の一条家の方からご挨拶いただけて光栄です」

 

「そんな。お互い高校一年の若造じゃないですか。畏まらないでくださいよ。司波さん……」

 

 こういうのは達也の役目じゃないかなと思いつつ、一条が最初に自分に絡んできて、近くに司波深雪がいる以上は、まぁそうするしかなかった。

 最初は『上流階級』どうしのマナーとして、世間話を含めつつの会話をしていたが、やはり惚れてしまった弱みなのか―――少しだけ詰まる一条『マサキリト』。

 

 話の転換なのか深雪は刹那に対して口を開いてきた。

 

「ところで一条君と何を話していたんですか?」

 

「ああ、実は一高にかわいい、むぐぐぐ!」

 

 刹那の発言を遮るように口を塞いできた一条は、代って言葉を繋げる。

 

「ええとですね。遠坂がかわいい彼女自慢してきて、心底ムカついていたんですよ。本当にこいつは……」

「確かにリーナはかわいいですからね。けれど一条君の三高にも一色さんみたいな女の子がいるじゃないですか?」

「いいえ、あれは女城主 井伊直虎と同じ類です。そして、俺は……シールズさんや一色みたいに色々な意味で『活発すぎる』タイプよりは、もう少しお淑やかな子の方が……」

 

 

 えり好みが過ぎる男と思うか、それとも、自分にアプローチを掛けていると思うか―――賭けだな。と呼吸を確保して一条の大作戦を見守る。

 朗らかに外面良く応対する深雪の本性は刹那も掴み切れていないが、それでも……。

 

 

「きっといい人が見つかりますよ。一条君カッコいいですから」

 

 深雪からは、そんな風な当たり障りのない言動が出てくるのであった。

 

 しかし内心では天に上らんばかりに感動している一条将輝であるが、恐らく深雪が口に出していない辺りには―――

 

『お兄様には負けますが、一条君カッコいいですから』とかいうのが付け加えられているはず。うん、察してしまった刹那としては、勝ち目ないんじゃなかろうかと思う。

 

「とにかく伝言とリーナの代わりにタオルとドリンク持ってきたんですから、お兄様を待たせないでくださいよ」

 

「ああ、少ししたら向かう―――」

 

「司波さん。また……どこかで!」

 

「ええ、一高としてはどうかと思いますが、一条君もシューティングがんばってくださいね」

 

 監督役として厳しめの言葉を掛けたあとに、礼儀だろうが一条に激励の言葉をかける深雪が通路の角を曲がるまで見送ると―――隣にいた一条が向き直って……。

 

 涙を流していた。もはや男泣きとはこのことかと思う程に―――。

 

 

「遠坂……いや、ロード・セツナ!! ありがとう!! GJすぎて俺は感動だよ!! 俺の心は完全に浄化された!!」

 

「そ、そうか……」

 

 

 刹那の肩を叩いて、歓待か慰労するかのようにして涙を流している一条将輝に少しだけ戸惑う。重傷であると気付いた。

 

 しかし一条は三高の代表。分別は付けてくるようだ。

 

「だけどジョージを破って、決勝にやって来たとしても手加減はしないぜ?」

 

「構わねえよ。俺とて手心を加えるつもりもないしな。バッターラップ掛けられてるわけじゃないが、そろそろ行った方がいいんじゃないのか? 四十九院によれば親衛隊も組織されてるそうだし」

 

「ああ、けれど今のオレには―――みんなの声援よりも、司波さんからの激励が嬉しいんだ!!!」

 

 そう言って刹那が歩いてきた道を進んでいく一条の姿。その後ろ姿を見送ると同時に、決勝には恐らくこいつが来る……。

 そう確信して、ベスト4を決める最後の試合に出るだろう森崎の説得をするべく、刹那は走る。

 

 そんな刹那の後ろで準決勝進出の2人目―――一条将輝はパーフェクトで決めてくるのであった……。

 

 


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