魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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型月もそうだが、魔法科の方も結構抜け落ちているなぁ。

原作を再読中。tamago先生には悪いが、原作を読まねば―――。


プロローグ2『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』

 

 

 夢を見ていた。あの日に見た影に、届かない叫びが―――届く訳もなく。

 

 欲しかったのはただ一つ。けれど何も手にできない。全てはこぼれ落ちる欠片……。

 

 大層なものを欲しがったわけではない。だが、自分が手にしようとすれば、失われるものばかり。

 

 二つを手にすれば一つがこぼれ落ち、三つをかき抱けば、また一つこぼれ落ちる。

 

 英雄になりたいわけでもなく、堕落した世界を救いたいわけでもない。全てをやり直したいほどにはまだ―――希望は持っていた。

 

 

 だが―――こぼれ落ちたものを拾い上げようとしても、それはもはや落ちた時点で『壊れていた』のだ。

 

 

 

 ――――どうしようもないならば、何故歩みを止めない――――。

 

 

 絶望していないからだ。

 

 

 

 ――――立ち上がることは、再びの喪失を招く――――。

 

 

 けれど、自分は生きてしまった。生きてしまったからには最後までやり遂げなければならない。

 

 

 

 ――――見つかると思うか?――――。

 

 

 わからない。けれど―――見つけたいんだ。

 

 

 もう失わなくてもいいものを、自分だけが持てる『こころのかけら』を――――。

 

 

『失いたくないから』―――進むんだ。

 

 

 

 † † † †

 

 

 

 いつもの『誰か』との問答を夢の中で終えた少年はすぐさま行動を開始した。

 

 

 聞こえてくる足音。三つ。強化した聴覚が更に弾きだしたのは全員が武装していること―――。拳銃程度の火器。

 

 どうやらここは彼らの『集会所』だったようだ。そこに侵入者がいて、誰かは知らぬが―――口封じということか。

 

 聞こえてきた言葉。ダー、だのヤーという言葉から『東欧』、更に言えば、訛りからロシア語圏の人間であることを確認。

 

 この世界の魔術師―――魔法師であることすら埒外か―――。

 

 階下から上がってくる様子。最後の砦たる『扉』。木造の古めかしいものだろうそれに手を当てて扉に『魔法陣』を描いていく。

 無論、■■が直接書いているわけではない。起動させた魔術刻印が扉を起点にして、壁面全部を魔法陣で埋め尽くしていくのだ。

 

『殺すのかい?』

 

 足が付く。第一、敵が何の目的かが分からない。よって――――。

 彼ら三人の内の一人が扉のノブに手を伸ばした瞬間に―――。全ては決した。

 

 

 ――――それから一時間後、近隣住民からの通報で警官に扮した軍隊は先んじて『光』が見えた部屋とやらに、飛び込んだ。

 

 

 強烈な閃光。それによって気絶した三人の『イワン』どもを「被害者」として、『病院』に連れ込むことにしたが―――警官に扮したチームのリーダー、アンジェラ・ミザールは、間違いなくここに件の少年がいたと確信。

 

 

「なんですか? この首筋の穴は?」

 

 穴とは言ったが、殆ど『蚊に刺されたような跡』その程度だが、イワン三人に共通しているのは電撃で麻痺していることと、これぐらいだ。

 

 分析官に問うが――――不明だとされた。しかし、引っ掛かる。引っ掛かりは―――恐らく―――。

 

(少年が新ソ連の間者でないことは分かった。だとしたらば……)

 

 

 どこの勢力なのか―――真面目に考えるアンジ-であるが、『ただのはぐれもの』などという考えには行きつかず、『上』に不測の事態があるかもしれないと、報告を挙げてしまい―――とんだ大騒動を巻き起こすのであった……。

 

 

 

 † † † †

 

 

 

 落ち着く暇が無い―――。当然であるが、それでも落ち着きたいと思ってやってきたのは―――海辺であった。

 

 ボストンの海とは様々な入植者たちが渡ってきた海である。少し離れたところ―――プリマスに清教徒たちが降り立ち。そこからこの街をつくるのに尽力したものもいたはず。

 

 多くの人種・国家・宗教―――様々な相違を持ちながらも、新天地を目指してこの大陸にやってきた。ネイティブアメリカンを殺してまで土地を奪ったことは正当化されないものだが、それでも行き着くべき場所が欲しかった気持ちも分かる。

 

 自分も同じだからだ。そして整備された海浜公園から海を眺める。オニキスは、何やら調べ物があるからと飛び立っていった。

 

 何かあったとしても魔術回路を持たないものには反応を示さないものだし、いざとなれば自分で逃げられるだけの自立行動も可能だ。

 

 

 そんなことを考えてから、水平線―――『新都』にいった時には飽きるぐらいに見ていたものを今は新鮮な気持ちで見れた。

 

 この海の向こうに―――故郷がある。行きたいんだろうか、自問の言葉に形見を首から取り出した……その時―――。

 

 

「捨てるんですか? そのアクセサリー」

 

 

 後ろから声を掛けられた。振り向くと―――そこには金色の少女がいた。

 見覚えはあった。いや、それは彼女の擬態でしかないのだが、あんなマスクでは何一つ彼女の美貌は隠れない。隠れないからこそ分かってしまった。

 

 

「いや、お袋の形見だから捨てられない。―――何で捨てると思ったの?」

「すごく深刻そうな顔をしていたから、投げ捨てるんじゃないかなって思ったんですケド」

 

 憶測でモノを語られたものだ。と思うも、先程まで考えていた通りならば、そのぐらいはしたかもしれない。

 

 やらないという結論に達するのは間違いないのだが―――。

 

 赤石のペンダントを隠しながら、厄介ごとの固まりと塊が再会していいことがない。というわけで―――。

 

 

「それじゃ―――」

 

「―――え゛」

 

 気軽に手を上げて少女の前から去る。スピードワゴン(仮名)はクールに去るぜ。などとしていたのだが。

 

 

「いやいや待ちなさいよ! 何だって去ろうとするのよ!! ヒドくない!!」

 

「全然、だって初対面の子に話しかけられた以上、場所代でもせびられるんじゃないかと考えるし、何よりこんな真昼間にスクールに通ってもいない不良娘に話しかけられるなんて―――アメリカは怖いところだぁ」

 

「そんなマフィアみたいなことしないわよ!! 学校に通ってもいないってのならば、あなただって同じじゃない!!」

 

 

 言われてみればそうだった。今の自分の身体年齢は12歳程度―――。まぁ冒険心旺盛かつもしかしたら単身赴任の親に会いに来たという設定で通そうかと思った。

 

 しかし、それならばテレビ局の取材と『パパ、いつもお仕事ご苦労様』的な何かを持っていなければならない。

 

 だからこそ後ろにいる少女に解決策を言い放つ。

 

 

「学校へ行こう! そして屋上で思いの丈を叫ぶんだ!!」

「なんて世代を限定するネタ(?)、それよりも止まりなさいよぉっ!!」

 

 こちらを何とか引き留めようとコートの裾を引っ張る少女の姿は昨夜と同じく丈の短いチェックスカートに、上質なブラウスを着こんでいて―――『髪型』は昨夜と殆ど変らない。

 

 流石はアメリカンコミックの本場、露骨に目立つ立場ながらもヒーローが登場する時には、都合よく消えていたり自室で寝ていたりしましたとか言いながら、何で誰も正体を疑わないと思う人が一人はいるのだ。

 

 何処かで誰かが光る剣を持って、何処かの誰かの笑顔の為に戦う以上無粋なのだろう。

 

 

「―――オーケー、分かった。止まる……っと、悪い」

 

 

 しかし、こちらは『早駆けのルーン』を発動させていたというのに、この少女もかなりの力だ。

 

 急に立ち止まってすこし『つんのめった』『たたらを踏んだ』とでも言うべき少女を受け止めると―――。

 

「あうっ……」

「あの、離れてくんない?」

 

 

 受け止めたのが胸元だっただけに、色々あるのかもしれない。まぁ同年代の異性(実年齢は違うが)に抱きしめられて、少し緊張したのだろう。

 

 少女が落ち着くと同時に、自然と離れる二人。第三者が見れば、どこの映画のワンシーンだと見るかもしれない。

 

「で、結局何の用なんだ……えーと……」

 

 そういや名前を聞いていなかった。プラズマリーナがまさか本名ではあるまい。

 そうして金髪をロールにしている様子が、この上なく似合っている少女はその口を開いた。

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズ―――気軽にア、『リーナ』って呼んで」

「アンジ-じゃなくていいのか?」

 

『時計塔』にもそういった名前の子はいて、ニックネームも教えられていたが、アンジェリーナは、『リーナ』でいいと言う。

 

 本人がそう言うからには、それでいいのだろう。

 

「ワタシの用事は祖父の国のことを少し知りたくて…ぎゃ、逆ナンをしたのよ! それで――――アナタの名前は(your name)?」

 

「……」

 

 前半のどう考えても焦ったような声とは違い、どこか緊張感を持った言葉に居を正される。

 

 別に隠すほどのことでもない。この世界で『実家』があるかどうかすら分からないのだ。

 名前を知られたぐらいで、呪われるようなヘマはしない。

 

 だが、リーナに名前を教えるということは――――何かが『決定』づけられるような気がして、ちょっと躊躇した。

 

 しかし、誠意と自信を持って己の名前を告げるリーナに魔術師云々以前に、人間として―――男として、ちょっと負けた気分であった。だから―――。

 

 

 自分の名前を告げることにした。

 

 

「―――遠坂『刹那』―――、それがオレの名前だ。リーナ」

 

「セツナ……―――日本語で確か、『凄く短い瞬間』の意味で合ってるかな?」

 

「大まかにはな。本来の意味は、仏教―――ブッディズムの時間の概念。一瞬であっても変化を示す世界の有り様を説いた言葉だよ」

 

 何よりその『一瞬』、『瞬間』を大事に、大切にしなさい。という教えでもある。大層な名前ではあるが名付け親となったのは、『実家』の隣に住んでいたヤクザの組長。

 

 その組長は遠方の方の付き合いある組の『子供=後継者』から考えたと言っているが……。

 

 恐らく『父』や『祖父』のどことなく自己を顧みないで、場合によっては全てを擲ちかねない所作を危ういと思い、自分だけはそうはなってほしくないという想いで着けたのだろう。

 

 結局、その思いを無下にしてしまったわけだが……。

 

「セツナ―――いい名前ね……あなたに名前を付けた人の気持ちが分かる気がするわ」

 

 眼を閉じて胸に手を当てているリーナ。

 何かを考えているのだろう彼女に対して―――自分もリーナの名前に関して考える。

 

 クドウというミドルネームから察するに、日本人の血が入っているのだろう。本人にはそういった形質は見えない。

 

 もっとも『母』とて、『クォーター』の血筋ながらも表面的にそういった所は見えなかった。

 

 

「それでセツナは、何でボストンにいるの? いっちゃなんだけどN.YやD.Cに行かないの?」

 

「そういう所には興味ないかな。家からの命題で―――、ここに用事があったんだ。正確にはプリマスに―――だけど」

 

「……救世主(メシア)の像―――セツナはカトリックなの?」

 

 

 その言葉は、リーナに自分の持つ『魔鏡』を見せてからのものであった。潜伏キリシタンを纏める刹那の実家は、『魔術師』でありながらも、教会ともつながりがある家だった。

 

 それはともかくとして潜伏キリシタン達が、信仰を途絶えないようにと、当代の技術で作り上げたのが、この二重構造で出来ている『魔鏡』であった。

 

 

「まぁな。詳しい話は省くけど、祖国が、教義を弾圧していた時代にまとめ役をやっていたそうだ。今さらになって同じく弾圧を受けて新天地を目指した教義の派閥のことが知りたくて―――」

 

「ずいぶんとアクティブなのね。嫌いじゃないけど」

 

「それであれこれ理由着けて学校は休んできた。家族旅行の体だけどね―――リーナは?」

 

 

 詐欺の論理として、完全なウソというわけではないが、真実を混ぜることで本当っぽく聞こえる。

 刹那が18年間生きてきて覚えたくなかった『魔法』である。

 

 

 そんな刹那の言葉にリーナは、『当てが外れた』という顔をしつつ、こちらの正体を少しずらしている印象。

 

 

(悪いな)

 

 

 内心での謝罪と共に、リーナはあれこれ自分がどうだのと言ってくる。

 

 要約すれば彼女は、ボストンの研究施設の―――、一種の外部協力者であり、たまにもらった休日で出かけていたということ……。

 

 しかし言葉の端々に軍がどうの、という言葉を耳にして、自分の部屋を襲ってきた。この世界で言う所の『新ソ連』という国家の間諜から『ハッキング』で抜き取った情報を総合するに―――。

 

 このボストンにてロクでもない工作活動をしていた彼らを取っつかまえに来たこの国、USNA―――北アメリカ大陸合衆国。

 

 刹那が驚いたことに、この時代―――どんな変遷があったのかは分からないが、アメリカという大国は、カナダ及び反米感情著しい南米の一部『メキシコ』や『パナマ』までも取り込んでの連邦制度を維持しているらしい。

 

 そんな国の秘密作戦としてリーナがあんな美少女魔法戦士として投入されていた。多分、彼女は『囮』なのだろう。世を忍ばない魔法少女が現れてどっきりびっくりして巣穴から出てきた鼠をひっ捕らえる。

 

 そういった塩梅なのだろう。もっとも憶測と類推程度でしかないのだが――――。

 

 

 早めにここを出た方がいいかな。そう考えてどうやって日本まで飛ぼうかと思っていたのに―――。

 

 

「セツナ、また会える?」

「――――なんで?」

 

 こちらの疑問に対して、少し自慢げな顔をするリーナ。

 

「セツナは、このUSNAを堪能しきっていないわ。清教徒たちがメイフラワー号でやってきたことだけで、この国を知ったつもりになってもらいたくない。もっと知ってもらいたいわ―――ワタシの事も」

 

 最後に付け加えられた言葉。紅潮した顔で言われて、まずったな。と思いつつも断る理由として滞在日数を挙げようかと思ったが―――。

 

 

「分かった。昨日、ボストン市中を騒がせた美少女魔法戦士プラズマリーナをもう少し見ておきたいからな。本場のアメコミヒーローじみた魔法師というのも興味深い」

 

 ―――考えを変えた。どう考えても、この少女とは『関わらざる』をえないのだと―――魔術師としての直感でそう言い放つとリーナは表情を驚きに変えて聞いてきた。

 

 

「エッエエエエエ――――ッ!!! ソ、ソンナに見たいの!?」

 

「まぁね、すごい可愛いじゃないか彼女。故郷に帰ったらば自慢出来そうだ。直に―――魔法少女と会えたとか、実家が呉服屋の教師にも自慢出来そう」

 

 

 その言葉で、ボンッ!! という音をさせてから、真っ赤な顔をするリーナ。こういう風に正体を分かっていながら、すっとぼけて言うのは……何か良くないことをしている気がする。

 

「リーナには逆ナンされちゃったし、とりあえず申請している期間の間は、いようかとは思うよ」

「そ、そういうことならば!! 任せて!! 『今日も』頑張ってみせるから!!!」

 

 そう言って張り切った様子で去っていくリーナ。

 

 正体がバレバレすぎると思って、連絡手段はどうするんだろうと思い立ってから、刹那も少し腹を括ったものがある。

 

 ここまで科学文明が進みながらも神秘というよりも『超常能力』が、『日常』として認識されている以上、『協力者』もなしに、隠匿して行動しようなどはっきり言って無理だ。

 

 リーナの『上』。即ちUSNAの軍部の上層に、こちらを売り込むことを決めていた。

 

 アメリカという大国の力を魔術師は『神秘』の面から軽視するが、そんなことは言っていられない位に『国』という単位では貪欲なヒュドラなのだ。

 

 この国の本質は、そこなのだから――――、自分がどう扱われるかは分からなくもない。だが決めたのだから―――せいぜい高値で売りつける。

 

 その上で―――この世界での『安定』を望んでいいはずだ。そう決めてから出歯亀をしていただろうオニキスを、上空から呼び寄せて動き出すことにしたのだ……。

 

 

 


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