魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ようやく買えたアテッサの邂逅。うおおお! 言っちゃなんだが、神坂先生気合い入れ過ぎである。

なんつーか第二部における地の分における書き込みが少なくても『分かってしまう』描写から、どうしたのか、色々と多すぎる。

だが、それが嬉しい。ではではテンションが若干おかしくなりつつも、お待たせしました新話どうぞ。




第55話『九校戦――決戦準備(前)』

 見せられた映像。一条と相対している炎部ワタル―――。エレメンツの中でも当然の如く炎を操る男に憑いている魔獣は『炎を纏う鳥』……朱雀か『鳳凰』か、そんなところだろう。

 

 成長度としては中程度。

 動物科(キメラ)の講義で見せられた『クワッサリー』ほどを用いての戦い。慢心は無かっただろう。特に驕りもなかっただろう。

 

 だが、炎部の火術を打ち破った一条将輝の絶技であり、見せつけられた『大砲』に頭を抱える。

 

 

「なぁ達也……」

「なんだ刹那?」

 

自分の隣にて資料を持ちながらそれらの解説をしてくれたマイスターに聞いておくことが出来た。

 

「この大会の競技で使われるCADのスペック及び使われる魔法のランクには制限が掛けられているんだよな?」

「そうだな。それゆえに技術者の『ワザマエ』が問われるものなんだ。それは前にもいっただろ?」

「ああ、そうだ……しかしだ。こんな『大砲』―――いいのかよ?」

 

 画面に映る一条の『ホウキ』は完全にスペックオーバーの代物だ。

 刹那もこの手の武器を持った連中と闘ったことがあるが、まずまず恐ろしい相手もいたが……魔法師、しかも高校生の大会で出していいものなのだろうか。

 

「ああ、だが……この『合体CAD』……『複数のCAD』―――ジョイントだかチェンジマイズだかで連結させた技術は一見、無駄に見えて素晴らしく合理的だ……」

 

 技術者根性丸出しの達也だが、色々な疑問は彼の中で噛み砕けているのだろう。なんか感嘆とするような声に内心、刹那は、ちょっと引いてしまう。

 

「CADの同時起動なり並列起動の技術的難点を崩して、プリンスの特化型CADを強化するために大砲としてきたのは……一重に『爆裂』を『ランクダウン』させつつ『数撃ち』させるためだ」

 

「普通に大砲じみたものを用立てればいいだろうに、俺への対抗策か?」

 

「それ以外に何があるんだ。シューティングとピラーズに明確に殺傷性ランクの制限はないものの、それでもやり過ぎれば、ペナルティも食らうだろう……それを見越しても、勝つために決勝はエキスパートルールで挑んでくるぞ」

 

 

 呆れるような達也の言葉のあとに裏事情を察した推測を口にすると、全員がざわつく。

 

 当然だ。男子のエキスパートルールは、三セット先取の最大五セットマッチなのだ。

 

 その間……画面上で、砕いたクレーの砕片すらも利用しての連鎖爆発。一種の粉塵爆発も再現する一条と打ち合うのだ。おまけにそれと同時に、CADからは細かな『子弾』が吐き出されている。

 

 魔法式の並列起動……。こちらのスピードに対抗してきた。

 同時に威力も上限は見せて無いのだろう。集められたメンバーが十師族の驚異の実力に汗を掻いたりしている中……。

 

 

「まっ、一生懸命やるだけだな。対策としては―――『こいつら』でいいだろう」

 

 言葉の後に、懐からカッティングと輝きが見事な宝石を出すと達也は少しだけ嘆息する。

 

「……あいっ変わらずだな。お前は……まぁCADも要らん術者にとっちゃ、どんなアドバイスも意味は無いんだろうが……その『宝石』を使えば勝てるのか――――ああ、分かった。勝てるな……」

「おや見ちゃったか? まぁ大丈夫だろう。宝石の無駄撃ちをするのは嫌だが、出し惜しむほど気前が良くないわけじゃない。勝てねェぐらいがちょうどいい」

 

 十師族を前にしてもこの調子の一年生を見て誰もが苦笑の呆れ顔。

 

 ただそんな中、着目点が違うモノが居た。

 

 先程から少し難しい顔をしている隣のリーナが深雪は少しだけ気になっていた。

 こんな調子の刹那を見ればいつものリーナならば『ワタシのダーリンってば最高の魔法使い♪ アナタのキセキをみんなに見せてあげて♡』とか言って抱きついてきそうだが……何だか、深刻な顔をしている。

 

 深刻な顔をしている原因は先程シルヴィアから聞かされたことであった。

 現在の『マーキュリー』は、日本の国防軍。魔法師の部隊の一つと共に行動していて、刹那からの報告で分かったことの他に分かったことを伝えてきた。

 

 一緒にいるのはシルヴィアの判断だからあれこれ言うのは筋違い……問題は、いまシルヴィアが試合を観戦している席にいる人物達である。

 

『現在、VIPの観覧席には十師族が数名来ている……』

 

 九島烈以外に、四葉、七草……そして件の一条の人間……その一条の人間。一条将輝の……『父親』が来ているということが、何だかリーナには不安要素に思えてならない。

 

 第六感としか言えない……一種の不安要素に感じられる。

 

 

『娘のテニスの試合は欠かさず観戦しにいきますが……息子がいても同じだったでしょうね。娘は嫌がりますが、息子ならば声を張り上げて『応援』したいですね』

 

 いつぞやベンジャミン・カノープス……ベンジャミン・ロウズとの会話を思い出して……その際の刹那の横顔を思い出して―――。

 

「ワタシのダーリンってば最高の魔法使い♪ アナタのキセキをみんなに見せてあげて♡」

 

「結局やるんじゃないですか!? なんか心配した私が馬鹿みたいなんですけど!!」

 

 

 首に巻きつくように抱きついて、想像していた台詞を吐くリーナに思わず深雪も声を荒げる。

 

 しかし言われた方は本当に、困惑した顔をしていた。このバカップルは……などと静かに怒って部屋に冷気を満たす。

 

 

「何を言っているんだかワケワカメよ。ミユキ?」

 

「色々と葛藤があったんだろ? まぁ勝って兜の緒を締めきれていないと見られても仕方ないからな」

 

 

 ただ無駄にセツナが深刻になった問題点を洗い直していれば、それはそれで深刻だ……。そのぐらいのことを思うほどには一高陣営も分かってきた。

 

 (リーナ)さえいれば、どんな勝負も勝ち抜ける。そんな調子の刹那の方が安心して見ていられる。

 

 そして、次に話すのはエイミィなのだが……先程から漫画のように涙を流して悔しがっている様子。

 三回戦で負けた滝川が『三位決定戦だよ。切り替えなよエイミィ』と優しくも少しいい激励を飛ばす。

 

 その言葉を最後に、涙を乱暴に拭って画面上の九高の炎部アスナの戦いを見て対策を練る。やり方としては、やはり戦った雫と同じくでいいだろう……。

 

 しかし、エイミィはそれよりも教えてもらいたいものがあると刹那に言ってきた。

 

 

「せっちゃんの『魔弾』を教えてよ!! 寧ろ、あれが私は知りたいんだよ!!」

 

「猫津貝や鳥飼みたいな呼び方やめてくれ。原理は単純なんだが、というか……いまからとか無理だろ? クラピカ(?)だって念能力の開眼の為に二週間とか言っていたんだぞ!!」

 

 

 原理としては、対抗魔法の『サイオン粒子塊射出』と変わらない。しかし、使う『砲身』『銃身』が己の肉体なのである。

 

 魔術回路があるかどうかすら不明な人間に、教えられないし……何より『魔弾』は、『魔術』と呼ぶのも烏滸がましい初歩の術なのだ。

 

 十三束……トミィなどは「羨ましい…」と言っていたが、己の肉体を『砲身』に見立てるなど危険性が高すぎる。そもそも、今からは無理だ。

 

 そう一応、隠すべき所を隠して懇切丁寧に説明するもエイミィは納得いかずに赤い髪を揺らしながら、こちらを見る。

 

 

「むぅ」

 

「今は、大人しく出来ることでこなした方がいい。爆発的なパワーアップを望むよりも『技術力』で補えることは補おう……それは如何に栄光の騎士ともいえる『サー』の称号を持とうと、『剣』から『銃』を持つことにした騎士……『銃士』の変遷から分かることだろう」

 

「……分かったわ。けれどいつか教えてよね!」

 

「覚えておく」

 

 

 鳥堕としをやった時からエイミィは狙っていたのだろう。だが、いますぐに出来ることでもない。そう含めると達也にCADの調整を任せに走る。

 

 次に刹那の側に来たのは、同じく決勝進出を決めた雫だった。

 

 

「今さら何かを言おうとは思わない。けれども……一高が新人戦を制するためにも、刹那は一条に勝ってね」

 

「信用ないな。とはいえ、勝敗は時の運だ。実力に差があれども『天佑』あるのは、どちらか分からん」

 

「……そう思う?」

 

「だからエイミィは十七夜に負けた。平時であれば若干エイミィに分があったが……『今日の勝負で強かったのは十七夜栞』だった。それだけだ」

 

 いつでもトップギアで勝敗着けられる場面に立っていられるわけではない。

 特に連日の疲労の蓄積や調子の良し悪しはアスリートならずとも、どんな人間にでも起こりえる事象だ。

 

 

「紅葉が言っていた初日からの『調子の推移』は、この為?」

 

「それ以外にはないな。なんせ霊峰富士の魔力は、俺の『中身』を掻き廻してくる。来年の本戦では、もう少し合わせる必要があるかも」

 

 選ばれればの話だけど。と後に付けてから先んじて三位決定戦が始まることを考えると少しの待機時間中に―――瞑想(メディテーション)をしておく。

 

 結局の所、それだけしか出来ず。リーナの懸念が何なのか分からないままでも、時間は過ぎるのであった。

 

 

 † † † †

 

 

「どうだい将輝?」

 

「ああ、ばっちりだ。ジョージだけでなく倉沢先輩もありがとうございました」

 

「礼には及ばん。こんな技術を『扱える』一条のキャパゆえだ。せめてもう少し……吉祥寺ぐらいの能力値でも使えるのが俺の理想なんだからな」

 

 

 不機嫌そうな顔を少しほころばせつつも、最終形態を言われて吉祥寺としても苦笑いするしかない。

 

 ともあれ、命名『凱旋門砲』―――複数のCADを『合体』させることで、大規模な『大砲』とする技術が役に立った。

 

 

「特化型は形状が決まるゆえの『武装』としての難点と搭載できる魔法式に限りがあるのが問題。しかし汎用型では完全なまでに『戦闘向き』ともいえない……」

 

「それを両立させていたのが、刹那の『刻印神船』……BS魔法でありながら汎用性もあるものか」

 

「いい『インスピレーション』もらったが、あれを完全に再現出来ないのが、悔しい限りだ。あとは魔法の相性次第だ……そして、一番には『アレ』あのままでいいのか?」

 

 

 倉沢の講義と謝罪のようなのを聴きながらも……話は、この三高の控室にいる乙女に向けられる。ジョージもまた「いいのかな?」などと言っている辺り、深刻である。

 

 惚けた顔で試合映像……遠坂刹那を録画したものをヘビーリピートで見ている一色愛梨の姿である。

 

 彼女の心は知っていたとはいえ、いまにも雌雄を決する時に、未だに一高のエースを見ている一色に若干の険のある視線が届く。

 

 それを見て将輝としても苦笑するしかなかった。

 

 

「しょうがないじゃないですかね。恋は盲目ともいいますし」

 

「安心なさい。応援の際にはあなたをしっかりと応援してあげますから―――けれど、いま……この決戦前は一人の少女でいたいの……」

 

「お袋の親族筋である君がそういうのならば、それ以上は言わないよ……」

 

 

 どうやら自分達の密談―――というには大き過ぎるものは筒抜けだったようだ。

 まぁ仕方ない。しかし、嫌味に聞こえていない分はまだ良かっただろう。

 

「それに……こんなに『綺麗な魔法』を見せられたならば、誰でも憧れませんか?」

 

「僕、子犬や子狼撃たされてブーイングだったんだけど?」

 

「あれは吉祥寺君の作戦負けじゃないですかね。ブーイング食らってもただの魔力体なのだからやれば良かったのに……まぁあの場にいなければ、針のむしろ加減は分かりませんからね。勝手な意見として思ってください」

 

 手を振って吉祥寺の恨みがましい眼を退ける一色愛梨。

 生命に慈しみを持つこと多い女としてはどうなんだろうという思いもあるが、尚武を掲げる三高ならば、その手の『泥臭さ』は、必要だったというのもまた事実。

 

 遠坂が幻体として狼や犬を使ったのは何故なのか……少しだけ知りたいと思っていると―――。三高一年のロリータ系魔法師にして古式の巫女『四十九院沓子』が口を開いた。

 

 

「あいつ、ネコ好きらしいからの。それとイギリスにいた頃に『狼人間』になって『分身の術』を使う兄弟子とかからも少しレクチャーされたとか言っておったぞ」

 

「って、なんでトウコがそんなことを知っているのよ?」

 

「無論、セツナのプライベートナンバーを知っているからじゃ♪ ちなみに栞も同じじゃぞ愛梨」

 

 

 その言葉でいつの間に、という驚愕の想いだけが全員に広がる。あまり対戦校と接触するのも不味いからと、一種の外出禁止令が出ていたというのに……。

 

 本戦開始からの三日間に他校との接触は避けていたのだが、例外があったことを伝えられる。

 

 

「バトルボードの本戦決勝が終わった後に、一高陣営に陣中見舞いに行ったらば―――」

 

「くせ者と間違われて、一瞬、一高男子にセクハラ受けそうになりつつも、あれこれあってお蕎麦いただいた時だね」

 

「あー、あれ美味しかったよね。まさか三高全員分を用意してお土産持たせてくれるなんて思わなかったから嬉しかったよ」

 

 

 新人戦に入る前の最終の三日目。バトルボードのアクシデントがアクシデントゆえに真相を聞きたかった三高。

 特に引率教師であり校長である前田千鶴によって、直接接触してこいと伝えられた気分は『くノ一』な三人……四十九院沓子と十七夜栞……水尾佐保の三人という例外があったことを思い出した。

 

 

「一瞬、美味しいお蕎麦で懐柔されて帰って来たのかと思ったけど、確かに美味しかった……ともあれ、その時に遠坂とナンバーを交換したんだ?」

 

「その通りじゃ吉祥寺。それ以来、あれこれわしと刹那は連絡しあうようになったのじゃ! つまりはわしのロリな魅力に刹那はメロメロいててててて! ぎゃー頭が割れる――!! 愛梨、ギブじゃギブアップ!!」

 

「ネバーギブアップの精神も必要じゃないかしらねトウコ。……私も行きたかったのに、ズルいです水尾先輩……」

 

 取り巻きの一人に対するツッコミを終えると、矛先と言うかいじけるような言葉を投げる一色に水尾も少しだけ困ってしまう。

 

 

「いや、千鶴先生も『色々』と考えたんじゃないかな。クドウさんにケンカ腰な一色、遠坂くんにメロメロな一色、ゆえに……情があまり移ると拙いと思ったんだよ」

 

 それを糧に明日のクラウドで戦えるならば良かったが、校長である女傑も色々と『前例』を考えてエースである一色を外したのだろう。

 そう考えれば佐保がやるべきことは一つだ。

 

 

「ともあれ、今は目の前の敵に集中することだよ。吉祥寺君も『三位決定戦』あるんだから、一条のことばかりじゃダメだよ」

 

「うっ、気を着けます……そうだよな。うん、遠坂との試合は集中しきれていなかったのかもしれません」

 

「俺が一条と十七夜の世話するから30分後の試合に集中しろ。すまんな佐保」

 

 技術者として負けているとはいえ、先輩として後輩にあれこれさせていたことは心苦しかったのだろうが、一番出来る吉祥寺に頼りすぎて、負担を与え過ぎていた倉沢が謝罪すると『お互い様だから気にするな』と笑む水尾佐保。

 

 今年の一年の心強さに甘え過ぎていた。最終的なチェックは吉祥寺に任せるとしても自分で出来ることはやっておくという先輩方の頼もしさに―――一年は少しだけ甘えておくことにする。

 

 そんな三高陣営の一致団結。一高陣営ともまた違うものが過ぎながら―――決戦の火ぶたは、まもなく切られるのだった……。

 

 


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