魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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おかしい……今話で一条戦は終わっていたはずなのに、ともあれきりがいいのでアップします。




第58話『九校戦――決意と共に』

「剛毅……この為だったのか、遠坂君に賭けていたのは―――というか、いたいいたい。ちょっ、真夜。笑い過ぎだ。あちらの軍人さんたちもポカンとしているぞ」

 

「だって、まさか20世紀後半……『黄金期』の伝説的バスケット漫画の台詞と行動で―――殿方の行動は見ていて飽きませんよ」

 

「まぁ君もバスケ漫画に縁がありそうだがな……新設校で『カントク』とか呼ばれていそうだ」

 

 言いながら、笑いながら、笑いすぎて涙すら流している四葉真夜は先程から隣にいる七草弘一の肩や腕を叩いていたのだ。

 

 そんな行動を取られても特に、そこまでキツイ抗弁をしない弘一の内心は若干『嬉しかった』からであり、今ならば『ゾーン』に入るぐらいは出来そうだ。

 あの時に、その力があれば、隣にいる『師族』の同僚……ではなく……邪な想像を打ち切りたいが、それでも過日の頃の幼なじみの姿を幻視させて、その行為だけは従容と受け入れた。

 

 逮捕された剛毅のように……そして一条剛毅という弟分に内心でのみGJ!と言いたくなる。

 

 

「笑うに笑わせてもらいましたわ。ありがとうございます弘一さん。後でくしゃくしゃになったスーツ代弁償いたしますわ」

 

「結構だ。そんな小さい男に成り下がらせるな……後で食事にでも付き合え。家内と別居していて、何だか寂しいんだよ」

 

「ふふっ、十師族の当主を情婦代わりにするとは、弘一さんは随分と命知らずですね」

 

「君のような美女と相伴出来るならば、晩酌のあとで命を取られたとしても構わない男はいるだろうな……俺もその一人だ……」

 

「――――」

 

 

 七草弘一の『命がけ』の言葉(まほう)に―――四葉真夜の表情が少しだけ固まる。だが、それでも一度だけ手を握った真夜は、表情を作って昔の『恋人』であったという『記憶』でしかない男に告げる。

 

 

「……会食には付き合います。それでよろしくて?」

 

「ああ、ありがとう。遠坂刹那君を息子にしたい君を『牽制』したいからな」

 

 

 そんな『不器用』な二人を見て上座にいた烈はやれやれと思う。そして、四葉の呪い……彼女の『姉』が施したものが、若干、(ほつ)れているような気がするのは……。

 

 

(まぁそんなこともあるだろうな……『強すぎる神秘』は『弱い神秘』を駆逐する)

 

 土着の信仰を駆逐する異教の神々のように……そのような事を語られて、話された時に烈の胸中にあったのは現代魔法に利用された古式の人間達の無念である。

 

 九島は特にその傾向が強く、その古式からすれば怨嗟は計り知れないものがあるだろう。だからこそ予言の御子、古式に置いての『未来視』の術式をしるものが宣言をしたのだ。

 

『呪われよ! 九の家よ!! 私には視える!! お前たちの禁忌の行いがいずれは『長き河より』来たる『流れ着きし亡霊』が、貴様らに破滅と崩壊を齎すのだ!!!』

 

 

 ……九島を崩壊に導くものが『長き河より流れ着いたもの』ということならば、あの少年こそが……そうなのかもしれない。

 

 しかし九島烈には分かっていなかった。

 

 かつて秦の始皇帝……永遠を求めた愚か者が己の国の破滅をもたらすものを『文字』から越境してくる『異民族』と捉えて、まさか『己の息子の字』こそが、そうだと思わなかったのと同じく……大いなる勘違いをするのだった。

 

 思考の落とし穴など……どこにでも存在していたのだ。

 

 

 そして眼下にて始まろうとしている第三セット目にて刹那もまた落とし穴に嵌ろうとしていた。

 

 

 

 † † †

 

 

 知ったことではない。丸刈りになり周囲に髪を散らした中々にレアな一条将輝の覚悟が、どれほどのものであろうと、戦いの趨勢は決まっている。

 

 魔術の相性では、あきらかに刹那の方が上、一条の『爆裂』はすさまじい威力であり、生物・無生物に関わらず抹殺を強要するだろうが……。

 

 そもそも、クレーに掛けるには明らかに威力過多であり、その際の投射される魔法陣が、刹那からすれば『無駄』が過ぎる。

 

 

(悪いが―――もらうぞ)

 

 

 一条ファンの女の子たちには悪いが、俺の勝ちは決まりだ。一条の男気溢れる髪を無くしてでも得ようとしている勝ちを無くすべく動く。

 

 

Anfang(セット)―――」

 

 

 魔術回路を叩き上げるイメージ。心臓に剣を突きたてられるもので予備回路を呼び覚まして充足させる。

 

 刻印神船にアゾット剣を装填して、今まで以上の威力を叩きだす準備。それを見た一条将輝が凶悪な笑みを浮かべる。

 

 

「まだ上があるのかよ。いいじゃないか―――俺の前に立ち塞がってくれて嬉しいぜ刹那ァ!!!」

 

「クールでスマートな一条君じゃない姿で、実に見苦しいな。これで終わりにする」

 

 

 毛生え薬ぐらいは融通してやると思いながらも、どうしてもちらつくものがある。

 

 

(俺みたいなのに―――『こいつ』の栄光を穢す権利があるのか?)

 

 

 不意に再生される思い出。年上の少女との会話。少しだけの憧れがあった『彼女』を思い出す。

 

 ―――私は認められたかった。父に……キリシュタリアばかりに構うあの人に……エルメロイ教室のみんなは好きよ……けれど、最後に願うことは、それだったわ―――。

 

 俺には分かりません。そういじけるように答えると決まって銀髪の少女は笑いながら自分の頭を抱きよせては甘やかすのだ。

 

 ―――セツナは男の子だから、私以上にそう言う時が来るわよ。けれど囚われないでね……。アナタの『両側』だけが、アナタにある繋がりじゃないのだから……。――

 

 

(思い出すなよ……『俺は俺だ』―――一条将輝が、例えどんな家庭の人間であっても、ただの競技種目で―――そんな訳あるかよ)

 

 

 支離滅裂な思考。しかし激発の瞬間は際限なく迫る。だからこそ刹那は己の意識を消して一つごとに没頭する機械になる。

 突き詰めれば魔術とは執念であり、自らをそのための歯車に置き換えることが前提の『秘術』だ。

 

 際限なく身体を苛む痛み(くぎょう)も、全身を改造していく不快感(かいらく)も、全て呑み下して、そこに立つことを決めるのだ。

 

 ならば感情も感傷も全て腹の底に仕舞ってしまえ。そうすることが出来るのが、『魔術師』遠坂刹那なのだから―――。

 シグナルランプがグリーンに変わり、第三セットが始まる……。

 

 その戦いは最初から様子が変わっていた。

 

 

 クレーが撃ちだされる前から既に将輝は覚悟を決めていた。

 

 後が無い第三セット。覚悟に次ぐ覚悟。そして撒いた布石が、どう出るかである。追い詰められた人間がどう出るかを教えてやる。

 小兵であるからこそ、戦えるのだ。

 

「行くぞ!!!」

 

 叩き込んだ起動式が魔法式を解き放ち、撃ちだされたクレーの中から白クレーを病葉のように砕く。

 

 破裂し炸裂する白クレー。盛大なまでの偏倚解放による攻撃。絞りながらも、その渦巻くような魔法陣の数の多さは、解き放たれた風圧は刹那の狙い撃つ赤クレーの軌道を逸らす。

 

 しかし、そんな『そよ風』程度では『魔弾』の軌道を外すことは出来ない。

 

 赤クレーも同じく砕ける。ここまでは2セット目までの展開と同じ、しかし―――ここからクリムゾン・プリンスの泥臭い戦いが始まる。

 

 

 二射目―――20枚のクレーが撃ちだされて、そして……刹那の至近に魔法式の投射。

 

『散れっ』

 

 魔眼を使って、その小賢しい邪魔を発動前に引きちぎる。しかし、そんなことは分かっていたと言わんばかりに『爆裂』の魔法式を叩き込んでくる一条に、瞠目するが、それでも構わずに赤クレーを砕く。

 

 無論、一条も白クレーを砕く。砕きながらそれを利用してこちらに妨害を仕掛けてくる。直接的な『殺傷』こそルール違反だが、半ば『流れ弾』を強要して妨害も対面射撃ゆえに、どうなるか分からない。

 

 それでも一条のあまりにもあからさまなそれを前にして審判の笛が鳴る前に、有効フィールド全てが一条の『魔法陣』で覆い尽くされる。

 

 

「……ッ」

 

 

 閉じ込めの封鎖。クレーの射撃有効フィールド全てに一条の魔法陣が『びっしり』と敷かれて、内部を抑圧して、こちらの干渉を弾く算段。

 

 確かに刹那の魔術は『外的』な動因で放たれるものであり、魔弾も黄金矢も、星爆も―――こちらから解き放つわけで現代魔法と呼ばれるもののようにエイドス改変とはまた別なのだ。

 

 こちらから出来ることは色々ある。まずは『ガンド』、フィンの一撃で『魔法陣』に干渉すれば……一条将輝は『死亡』するだろう。

 

 これは無理だ。そもそもクレーを撃つことに呪詛を使うことはしない……せいぜい高速で動く見えにくいものを撃つぐらい。

 

 

(となると魔弾のギアを上げることで、あの小賢しい『抑圧張力型式』を砕く……)

 

 

 シークタイム一秒以下の決断で放たれるガトリングガンのような魔弾の掃射に将輝は、ここぞとばかりにフィールドを『張り上げて』そのままに自分の担当クレーを砕く。

 

 魔力の無駄だろうが、後先を考えて勝てる相手ではない。何より『触媒』を利用しただけに―――その魔法陣は……刹那の魔弾を受け止めた。しかし受け止めた衝撃で魔法陣は砕けて隙間が幾つか出来上がる。

 

 

(硬すぎる……成程、やつは刈り捨てた己の『髪』を触媒に魔力源して、『密度』を高めているのか……)

 

 一条剛毅のビジュアルから察するに、ヤツの遺伝的形質には母親の影響が強い。

 父親の外見との違いは明白。ということは一条将輝の染色体こそ『雄性』であっても、その一つ一つには『雌性』的側面が多い。

 

 一条の髪は―――女性の毛質を持っている。つまりは『魔女の触媒』である。

 

 

 しかしそれだけで200年以上もの神秘を以て放たれる刹那の魔弾が覆される道理としては『弱い』。

 

 

 ともあれ、砕けた魔法陣の隙間から魔弾と『矢』を撃ちこむ。ゲットできたのは5枚―――。そして修復される魔法陣の防壁。

 

 こんなものを意地や面子だけで、いつまでも持続させていけるわけがない。自滅するだけ―――そう思っていても、優勢を崩されたことで、苛立ちが募る。

 

 

(現在ポイント20-24……初めてリードが取れた!! けれど、俺は、そこまで利口に戦おうなんて考えちゃいない!!)

 

 

 対面の刹那の内心を見透かして、それでもこの『結界』を持続することを決めた将輝は、笑いながら次手を考える。

 

 

(苛立つだろうな。となれば、何か強力な一撃で、こちらの『結界』を崩しにかかる)

 

 

 カッティング・セブンカラーズを放つか、それともランク落ちの『魔法』が来るか、どちらにせよ―――フィールドを奪いつづける。

 

 この場に立つと、決して退かないという思いで、イワンの兵士どもを殺してきた将輝の戦い方。

 

 あの時に、血塗れでシェルターに逃げていた『同胞』たちを救った将輝にとって、泥臭く『立ち塞がる』ことでしか守れないのだ。

 

 ならば、そうするだけだ。例え周囲でどれだけの味方が血だまりに沈んで、どれだけの敵が血に伏せようとも、己を立たせて戦うのみ。

 

 一条将輝はただの礎なのだから……。

 

 

「スマートに戦えるような輩じゃないんでな。悪く思うなよ!!」

 

「んじゃ泥臭く、俺だってぶっ放してやるだけだ」

 

 

 瞬間、刹那は懐に隠し持っていた宝石を投げて刻印神船に装填する。彩り鮮やかな宝石。現代魔法とは違う理によって導かれる御業。

 

 赤、青、黄、紫、黒……詳細な宝石名は分からないが、それでも五大元素を印象付けるものとして、将輝は緊張する。

 

 刻印神船の砲口部にある剣―――アゾット剣を中心に円運動を繰り返す五種類の宝石。その運動に従い色鮮やかなサークルを作り上げて回転を続けていた……しかして、それが銃弾の激発前の行動であるなど一目瞭然。

 

 既に刹那の周囲500m圏内に将輝の魔法は及ばない。邪魔立て出来ないほどに精密で緻密な、組み立ての速度と正確さも人間業ではない『魔法式』。

 

 厳密に将輝も見えている訳ではないが、それでも泣きたくなるほどに見事な魔法が放たれる。

 

 

 「偽・元素使いの魔剣」(フェイク・ソードパラケルスス)

 

 

 魔法名として放たれた『虹色の波』二重螺旋の渦巻くさまのままに有効フィールド全てに叩き付けられる。

 

 五大元素の極大威力。本来ならば真・エーテルをも喚起するはずの波の圧力が、将輝の作り上げた結界をことごとく砕いていく。

 

 今まで爆裂の影響で『圧迫』されていた有効フィールドが一気に解放されたために両者の中央で行き場のない力が破裂。

 

 そのままに波の圧力が、撃ちだされたクレー。赤クレーのみを砕き、白クレーを『波の中に封じてしまおう』……そういう『操作』を受けていたのだが……。

 

 ここに来て、一条将輝は覚悟を決めて巨大な『砲』を向ける。展開する巨大なCAD。撃ちだされる魔法は―――音声認識でしか放てないもの。

 

 先輩の趣味であったが『その方がカッコいいだろ?』という言葉を否定できず、その魔法は波を『砕くべく』放たれる。

 

 

「我が身は花の都に立つ勇姿! 全ての可能性を繋げる―――『虹弓を架ける門』(グランダルメ)!!」

 

(ナポレオン・ボナパルトの『疑似宝具』―――こんなものを作り上げたってのか、三高は!?)

 

 

 展開する砲から放たれる虹色の極光が波とぶつかりあう。直線状に放たれたビームと螺旋状に直進するウェーブとがぶつかり合って、全てのクレーを砕く。

 

 自殺点もくそも無い。ただ単に、こちらの魔術に対抗してきた一条将輝に驚愕する。

 子供のような意地の張り合い。そしてお互いに均衡して崩れて、刹那のアゾット剣に罅が入ったことでようやく理解する。

 

 やつは佐渡島でイワン(ロシア人)をさんざっぱら殺して、更に言えばイワンに殺された日本の兵隊、もしくは佐渡島の民。

 それらにおける暴虐や略奪や凌辱の限り、復讐を求めるその怨嗟や慨嘆の『声』の全てがヤツに『染みついている』。

 

 ―――『地獄』から帰ってきた一条将輝の髪には様々な『想念』がこびりついていた。ネクロマンサーが使う秘術と同じだ。

 

 つまりは、今、この瞬間だけは、『一条将輝』という『魔法師』は己が定めた『制約』の中、『生贄』を捧げることで、『魔術師 遠坂刹那』のレベルにまで迫っていたのである。

 

 弾けあう虹と虹の力。その余波で出来た嵐の中でも一条の眼は輝く。

 

 

「のって来たな!! 刹那!!」

 

「一人でやってろ。俺は俺の戦いをするだけだ!!」

 

 

 如何に一条が強力であり、神秘定礎でこちらに迫ろうとも、まだまだ自分には及ばない。

 

 お互いにポイントを削り合い、半ば自滅も同然に先程のクレーポイントを奪い合って103-116。

 

 いささか『刹那』にとって分の悪い采配だが、まだまだこちらも秘術を出しきっていないのだ。

 ここから逆転するのは難しくない。その想いで、切り替える。

 

 嵐が収まると同時に投射されるクレー。一条の白クレーを強固に封印したうえで、こちらの赤クレーを撃ち抜く。

 

 黒曜石を使った『封じ手』と、重々しい重圧を当てる弾丸が赤クレーを砕き、しかし一条も返すように爆裂でいくつかの白クレーを砕く。

 

 それだけでも『埒外』の現象なのだが―――。坊主頭の一条はニヒリズムに言ってくる。

 

「かったく閉じ込めんなよ。ただお前が俺に必死になっているのが嬉しいぜ」

 

 

 驚愕ばかりだ。まさかここまで逆転の手を撃たれるとなると、如何に刹那と言えども動揺してしまう。だが、それを押し込めてでも戦うのみ……。

 

 

 ……そんな様子は観客席の喧騒の中でも、つぶさに見えていた。

 

 

「確かに一条も強くなった。髪を触媒にして己の魔法の威力を高めるなど、中々出来なかった……しかし、それ以上に―――」

 

「刹那君の方も若干、『弱体化』している……それがこの状況を生み出している……リーナ。あなたは分かっていたの? こうなることを?」

 

 

 司波兄妹の疑問は、観客席にいる全員の疑問であった。自分達は遠坂刹那の来歴を断片的にしか知らない。だからこそ、何かしらのトラウマを刺激されたこその弱体化なのだと気付けたわけではない。

 

 しかし、一条家の当主。一条剛毅が出てきて一条将輝に発破をかけた後のリーナは、『神様』にでも祈るかのように、必死だった。

 

 だからこその疑問に俯くリーナはぽつりぽつりと呟く。

 

 

「セツナが天涯孤独なのは教えたわよね?……その中でも、母親であるリンさんの話題ばかり話していることも?」

 

「ああ……それは刹那にとって魔術の師であり、父親よりも長い期間一緒にいたからだろう……?」

 

「うん、だからこそ『正しい父親像』なんて知らないのよ……。それと同時に『自分のようなオーフェン(孤児の魔術師)』が、ヨソの家のことを……『邪魔立て』する理由なんて無いって思っているのよ……特にイチジョウゴウキのような父親が応援するようなのを……」

 

 

 その言葉に達也は苦虫を噛潰して、見えてしまった刹那の精神的な脆さに『甘すぎる』と思えた。だが、それを一概に糾弾出来ない。

 

 しかし、それでも―――あの男は強く生きてきたのだ。ここで一条将輝を倒さずにいることなど……出来るわけがない。

 

 

(俺と刹那は同じだと思っていた……けれど違ったんだな。アイツには『感情』がある……そして『尊敬できる両親』がいた……どちらも俺が求めてやまなかったものが、アイツからは全て失われた……)

 

「……『魔法の杖』は、こうも語っていた『どこまでいっても刹那は、父親を失い、母親を失い、育ての親を失って……『ひとりで泣いている』。『孤児の魔術師(オーフェン)』だと……今のセツナは、あの頃……ワタシと付き合う前の精神状態になってしまっている」

 

 

 リーナの言葉を聞きながらも、不味い状況だ。そして達也の精霊の眼が見えた『現実』。

 

 当初こそ丸刈りになってしまった一条将輝に会場は凍りついていたが、『マ・サ・キ!』『イチジョウ!!』などなどのコールが湧きあがり、その声は段々と大きくなっていく。

 

 俗な言葉で言えば『黄色い声』が、『プシオン』ごと『サイオン』となりて、一条将輝に力を与えていく。

 

 刹那風に言えば『信仰心の集積』が尋常ではない。

 そもそも、この九校戦には魔法関係者が多い。

 刹那に比べれば『十師族』の一人にして、後継ぎで色々と武名も轟いている一条将輝のネームバリューは、高いのだ。

 

 何より日本の魔法師社会において最強という番付を誇り『横綱らしい戦い』を『魅せなければいけない』十師族なのだ……どこから現れたかもしれない、海のモノとも山のモノともつかない男に負けるなど許されないのだろう。

 

 そんな風な想いが『一条将輝』を『強固』にしていく。この会場全体の『一条将輝の信仰者』全体で『イチジョウマサキ』という英雄を作り上げていく。

 

 

「やべぇぜ。達也。こりゃアウェーも同然だ……刹那には聞こえちゃいないんだろうけど、やっぱり『強化』されてるんだろう?」

 

「ああ、レオにも見えたか……しかし……なんて声を掛ければいいのか分からんな」

 

 

 言っては何だが、刹那のこんな弱った所は見たくなかった。あの『魔法使い』の余裕を、あんな『親子の触れ合い』程度で崩されるなど……。

 

 そんな達也のありえざる『感傷』を断ち切る様に、一人の少女が声を掛けてきた。

 

 

「何をやっているの、みんな? 特にリーナ……俯いて、刹那の試合ちゃんと見ないで、それでよく恋人だなんて名乗れるね」

 

「し、雫!?」

 

 

 いつの間に、と思う程にいきなり自分達の席にやってきた北山雫の姿。競技服のままな所を見ると、女子決勝は終わったようだ。

 

 

「無論、勝ったよ。これで刹那も優勝決めてくれれば一高新人戦優勝に一歩前進」

 

 ぶいっ。と言う軽い言葉と共に二本指を立てる雫は誇らしげに少しだけ笑っている。

 そして眼下の試合は156-170で刹那の負けとなってしまった。

 

 一セット取られた程度だが、フルセットまで持ち込まれたならば、刹那でも……どうなるか。

 

 歓声が沸き上がる中、リーナは言葉を紡ぐのだが―――。

 

「シズク……アナタには分からないわよ。セツナが、抱えている孤独は―――、ほんとうにべぼっ!!」

 

「い、五十嵐部長譲りのハードヒット……! し、雫、いくらなんでもこの場で、それをやるのは流石に!!」

 

「大丈夫、威力は抑え目。深雪と達也さんが何とかリーナだけに効果を限定してくれた」

 

 

 いきなりな攻撃に深雪と達也はなんとかそれが出来たがリーナだけは俯いていて防御魔法が間に合わず頬に張り手でも食らったかのようになる。

 

 ぶたれたことで雫を睨みつけるリーナだが、それでも構わず雫はいつもの無表情―――されど怒りを込めてリーナに口を開く。

 

 

「私は悔しいよ。刹那の全てを知っていて、そして刹那と共にどこにでも行けるリーナが、あの八王子クライシスの時にも、ほのかは達也さんと深雪を羨ましがっていたぐらいに―――」

 

「っ……」

 

「………」

 

 思わぬことを暴露されて少しだけ俯く光井ほのかに対して、リーナは、その言葉を最後まで聞く。

 

 

「今の刹那にとって必要なのはリーナだけが知っている刹那に対して掛けられる『呪文』(まほう)だけなんだよ……こんな時にだまりこくって、男を立ち上がらせられないような女ならば、身を退く決心も出来ない……!!」

 

「―――ありがとう。シズク―――行ってくるわ」

 

 

 立ち上がって刹那の近くの観客席にまで行くだろう決意を秘めたリーナを見送って、雫の恋が終わるのを誰もが――――。

 などと慰めの言葉を掛けようとした光井ほのかを遮るように嘆息して、雫は後の言葉を紡ぐ。

 

 

「まぁ諦めるとは言っていないんだけどね」

 

「「「「え゛」」」」

 

「さっきの前振りは何だったの!?」

 

「いまの『刹那』に必要なのはリーナの言葉なだけ。未来は分からない。その時必要なのは『私かもしれないし栞かもしれない』。そういうことだよ。ほのか」

 

 

 レオ、幹比古、美月、エリカが思わず固まった後に、勢いよく親友に問いかける光井ほのかだったが、色々と驚愕の言葉が紡がれる。

 

 どっちに肩入れしても、なんかダメ臭い。達也としては刹那に必要なのは、リーナのような『重し』であって、あまり刹那を『動かす』ことを是とするような人間ではないと思うのだが―――。

 

 ともあれインターバルは10分間。その間にリーナが『何を言うのか』……それは聞こえてきた。そして前半は、うん。良かった。

 

 

 中々に心動かされるものであった。しかし最後が本当にダメであった。一年生だけでなく一高一同が思うこと―――。

 

 

『なんでこの子は時々、とんでもないポンコツになるんだろうか?』

 

 

「……お預けなんだからね―――!!!!」

 

 

 最後の言葉がエコーかかるぐらいには、リーナも必死だった。必死すぎて、口走った言葉が色々と「あれ」であった。

 

 しかし、その言葉を切欠に―――というわけではないが、刹那は両腕の刻印を『繋げる』行為を行い―――。

 

 

「トレース、オン」

 

 

 そんな呪文で、新たなる『魔法』が、生み出されるのであった……。

 

 

 

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