魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
はい……まだロストベルト2すらクリアしていないのに、こんなことばかり知ってしまうワタシ。
誰か俺のスマホを高速化する術を、早駆けのルーンを―――ぶっちゃけ。アイフォーンに乗り換えればいいだけなんだが、それだと規制が入っちゃって楽しめない可能性も。
そんなこんなで、次のヒナコの次のペペのロストベルトでは「パスタ憎しで動く代行者」が出て来てくれると信じて、とりあえず新話アップします。
不味い事態になった。この状況は、セイエイ・T・ムーンにとって汚点であり、弱点として悟られてしまったかもしれない。
しかし、その弱点を突くと言うことは、中々多くの人間にとっては難しいかもしれない。
「まさか刹那君に、こんな風な精神的弱所があったなんて……。いえ、最初っから分かっていたのかもしれないわ」
「貴女が自分の従弟を連れてきた時から、あの子は
誰も彼もが、基本コードという『業績』を発見した『カーディナル・ジョージ』のように強く生きられるわけではない。
魔法の杖が話したことを思い出して一つ席を空けて座る藤林響子に言っておくシルヴィア。
それは、彼のプライドを穢す行為だから姉貴分として反論しておくべきことがらである。
「ごめんなさい。けれど、彼はこのままだと成長できないわよ……無論、それを支えているのもリーナなんでしょうけど、愛の為ならば『親兄弟も平然と殺し操作する』存在になりかねないわ」
「そうはなりませんよ。彼は己で立ち上がれる人間です。父親の『背中』を見失っても、追い越そうとしている……」
きっとこの場に、遠坂凛がいれば、「手を貸して起き上がらせても、また転ぶだけ。自分で立ち上がって見つけるしかないのよ……」
その時に見るのは、あの時に見た『錬鉄の英雄』の姿―――剣の丘に辿り着きし『トオサカのエミヤ』ならば……。
シルヴィアの眼にも焼き付いている。
アルトマ・メサイア・ビーストを打ち破るために『冠位』相当の剣を『鍛えし』……赤原の英雄の姿を―――。
(今はまだ未熟なんでしょうね。二人とも……『シリウス』『ムーン』そんなあだ名しか持たず、それでも、生きていき認めていくしかないんですよ)
短慮かもしれない。拙劣。増長もあるかもしれない。ただお互いにお互いが輝ける『星』であることを認め合っているからこそ……封印された魔法の杖は……。
――――そろそろ。出る時なのかもしれないが、まっ、今はまだ『ロマニ』のターンだね。世話役申し訳ないが―――頼むよ。シルヴィア―――。
そんなありえざる声が聞こえたと思った後には、リーナの告白が会場中に響き渡り……。
それを聞いた後に……。
「大きくなりましたね……リーナ。男を立ち上がらせてこそ、アナタの星は輝くのですから」
シルヴィアだけが目頭を抑えて、妹の成長を喜んでいたが、他の面子―――サナダとフジバヤシ、ヤマナカなどは黒バックを背景に白くなっての驚愕という、なんとも
反対に上座に座るミスタ・サエグサは隣にいる女性……ミス・ヨツバの『上半身』を見て―――『スケベ』と顔を叩かれてのたうちまわる様子。
『目が、目がぁ!』などと言っているのはそれなりに痛かったからかもしれないが、それでもその後に回復術を掛ける辺り、それなりに情はあるのだろうか。
「まぁあの二人は、昔は婚約者だったそうですから。しかし、刹那君も女の子の言葉で立ち上がるなんて、本当にヒーロー的だなぁ」
「ヒロインのセリフは若干、あれでしたけどね……」
「これがあの子たちの流儀なんですよ。シリアスで決めるべきところでもギャグを挟むというか……まぁ、処世術なんでしょう」
サナダの解説と感嘆のあとにキョウコの汗を掻いたセリフにシルヴィアは返してから―――タイミングよく刹那は『両腕の刻印』を直列接続したことで『独立魔装』だけでなく十師族も一種の緊張感ゆえのアドレナリンを伴う視線が刹那に殺到する。
『トレース、オン』
ご丁寧にもセツナの一言一句を『盗聴すべく』放たれた小型のドローンが、その言葉を聞き取り、VIP席にも伝えて―――そして……『魔法の蓋』が開かれたのだった……。
† † † †
―――やられた。そうとしか言えないほどに完敗であった……ベンチに戻り、リーナが切ってくれたレモンを食べても砂の味しかしない。
(最悪だな。メンタルが堕ちるだけだ……)
身体も魔力もギアを最速に入れてるが、エンジンが空回りしている印象。勝つ気迫が無くなってしまった。
逆転しようとしても、そう言う風な気力が無くなる……分かるのだ。一条将輝は誰からも望まれた『ヒーロー』なのだろう。
彼は、この日本の魔法師の代表として、これから多くの人を守っていける人間だろう。
そんな人間、父母が居て、聞いたところによれば妹もいて、暖かな家庭もある人間を俺のような人間が敗北を負わせてもいいのだろうか。
(……二科にいずれは大樹だのおだてるように言っていた一科の俺が最大の『根無し草』だったんだよな……)
皮肉だ。刹那自身が、この世界に根を張っていない人間だったのだ。なのに―――。
もういいだろう。本戦一位分のポイントに二位のポイント。己の責任はこなしてある。横綱との取組での『八百長』を仕組んだわけではない。
ぶつかったあとは流れで……。なんてことを思い出してしまう。
(母さん。ごめん―――俺はダメな息子だ……父親がいる同年代のヤツを見ると、羨ましくて……それで、どうしても勝ちたいと思えなくなる……)
両親とてもう自分の年齢の頃には親など亡くしていたというのに、息子の刹那は、こんなにまでも甘ったれになってしまった。
ベンチに座りながら、両腕の刻印からの叱責を待ちたかった……だが何も反応しないことに、本格的に怒っているか、手を貸すことをしないでいるか―――。
あるいは……。本格的に見限られているか―――。
今も会場全体を揺るがす一条将輝へのコールが、自分から戦う最後の気力を奪い――――。
「セツナァアアアアアアアア!!!!!」
―――去ろうとした瞬間に聞こえた盛大なまでの呼びかけ。
嵐の向こう側にまで、遠雷のように轟く星の少女の声が頭上から聞こえた。
今の、こんな情けない自分を見られることの羞恥心ゆえに、立ち上がり頭上の観客席から探し出したリーナは汗を掻いて、周りの人間が思わず尻込みする程度には、すごく近寄りがたい雰囲気を出していた。
最前列の席の更に前に陣取り息を荒く突いている。安全の為の落下防止柵を掴んで顔を競り出しているリーナは―――。
「この! 四次元級バカアアア!! あれだけ言っておいたのに!! なんですぐさまそうやって自己嫌悪するのよ!!」
盛大に声を吐き出す。半ば魔力すらも伴う叫びが一時的に、一条コールを止ませた。
「……違う……俺は―――」
「違わなくないわよ!! イチジョウマサキの
図星であった。そしてリーナの泣きながらの言葉で、彼女を失念していたことを自省する。
けれど、それでも……。どうしても、考えてしまうのだ……刹那の背負ってきたものに比べて、一条将輝の背負うものを……。
しかし、リーナは容赦せずに、言葉を紡ぐ。
「ワタシは、アナタの全てを知っている訳じゃない。遠坂凛も衛宮士郎も。
バゼット・フラガ・マクレミッツ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、サクラ・トオサカ・エーデルフェルトも。
ウェイバー・ベルベット=ロード・エルメロイⅡ世、ライネス・エルメロイも、グレイ・ブリタニアも、フラット・エスカルドス、スヴィン・グラシュエート、イヴェット・レーマン……オルガマリー・アニムスフィア……。
全員 アナタが教えてくれたアナタに関わってきた人々……とても『大切な家族』……」
告げられた名前は、自分の思い出。あの世界に残してきた縁だ。
だからこそ……この世界で、それを―――そこまで鑑みてまでも……しかし、一条将輝に対して向かうのに―――。
弱すぎる理由を補強する言葉が、リーナから吐き出される。
「ワタシ達。幼年魔法師たちも見てきた人たち、アナタはそれも思い出せないの?
ベンジャミン・カノープス、ユーマ・ポラリス、アンジェラ・『シリウス』、アレクサンダー・アークトゥルス、アルフレッド・フォーマルハウト、ラルフ・ハーディ、ハーディ・ミルファク、シルヴィア・マーキュリー……ヴァージニア・バランス―――アナタが関わってきた人間は、まだいるはずよ!!」
そうだった……そうなのだ。
偶然か必然か、それでもこの世界に流れ着いて、最初に関わった人……その関係者たち。それも自分が背負うべきものだった。
誰かを羨んだ時に思い出すべき一番は―――それだったのだ。
そして―――リーナは、それよりなにより思い出してほしかったものを涙を溜めながら叫ぶ。
「何より……本当に思い出してほしかったのは
突き放さないでよ! 思い出してよ!! ワタシとアナタは……もう『家族』でしょ! ……ワタシだけだったの? そう思っていたのは―――アナタの家族は……『アナタの両腕』だけなの?」
「―――違う」
先程と同じやり取りのプレイバック。
だが答えた心情が、『こころ』が違う。
否定の言葉が鋭くも優しく、リーナが抱いた絶望を溶き解す呪文は、ただ一言だった。
「忘れていた……本当に堂々巡りだ―――どこまでいっても俺は、『弱いままだ』……それでも、何も関わらずに生きてきた人間じゃない。俺は―――もう、リーナに関わった時点で『オーフェン』じゃなかったんだな……」
深層の令嬢に対する呼びかけのように、求愛を叫ぶように腕を伸ばして声を掛ける。
今すぐにでも傍に駆け寄ってその涙を拭い腕に抱きしめて……もう泣かせたくないのに、それが出来ないもどかしさに両腕が疼く。
―――絶望の畔に立っていても、忘れてはならない『名前』がある―――。
―――じっとしていると過去に囚われて、進めないならば―――。
((ただ―――『前』へ行くしかないんだよな))
原初の気持ちを思い出した―――ならば―――やるだけだ――――。
あいつは、少しだけこちらを驚いた表情で見つめる。
一条将輝は、俺よりも『背負うもの』が多いのだろう。
そしていずれは日本の魔法師界を背負う
そんな心地で、射台に向かうまで残り一分といった所で―――レモンの甘味を供給してから前へ行く……。
背中を見せる刹那に、声を掛けるリーナの様子を後ろに察しながら―――言葉を待っていると……リーナの女粋溢れて刹那のやる気が俄然と出る言葉が出てきた。
「そして何より……この戦い……イチジョウ・マサキに負けたらば……しばらくの間、『おっぱい』お預けなんだからね―――!!! 情けなくもカッコいいセツナを、ワタシに見せて!!!」
眼を瞑って絶叫するように言うリーナの『魔法』が―――刹那の気力を振り絞ってくれる。
会場のギャラリーの殆どが、黒バックの背景に合わせて白くなりながらあんぐりと驚愕する表情を思い浮かべてしまうほどには、リーナの言葉は衝撃的だったが―――それでも、そんな風に女として恥ずかしくも言ってのけたリーナの意気に応えねば、刹那は男ではない。
……ちなみに反応が違ったのは、言葉を聞いてから上座のVIP席にて胸元開いたドレスを着込んだ
三高の中でも目立つ一年女子。
一色家の令嬢は持っていた扇子を折り砕かんばかりにしつつ歯を食いしばり。
十七夜家の養女は、ずずーんと暗い表情でリーナを遠くから睨み。
『大胆じゃのう! やはりあ奴ら、そういう関係じゃったか!』などというロリっ子。
一高の上位陣営や先輩方は「一高の恥部が全国に晒される!!」などと嘆く一方で―――。
「私はいつでもウエルカムだよ啓! 遠慮しないでね!」
「……分かっていたとはいえ、うん。なんか遠坂君には彼氏としての『格』で負けたくないかも、頑張ろうね花音。今夜部屋に行くから」
「―――え?」
と、一高のもう一組のバカップル(片方真っ赤)がそんな風に言う傍ら―――。
「やれやれ。遠坂も男気溢れているが、クドウも男をやる気にさせるだけの女気溢れているじゃないか、一高のいい顔役だよ」
「……なんか最近、十文字君ってどっかの黄門様のごとく天下泰平にしちゃうわよねー……本来こういう役どころって私の役目じゃないかしら?」
「そのお前が、色々とめんどくさい女になっているから、役割が変わったんだろうが、マユさんや」
「助さん格さんみたいに言わないで、ナベさん」
そんなやり取りをする三巨頭を尻目に中条あずさは顔を真っ赤にして、改めて知りたくなかった後輩の一面に恥ずかしがっていたりする。
その他の面々も、様々な反応だが―――見るものが視れば分かる。もはや三セット目の『弱弱しいセツナ』がいなくなっていることに―――。
色々と会場を混乱させたリーナの『告白』ではあるが、決戦の時は近づく……射台に上がって無言で激発の瞬間を待つ両者―――。
シグナルランプを点灯させる前に―――遠坂刹那は、魔術回路を完全に『露出』させた。
己が
唱える言葉はただ一つ。
『何でお父さんの呪文は、あんなに単調なんですか?』
魔術をそれなりに知ってきた頃に問いかけたもの。小生意気にも見える実子に対して父は苦笑い。
無論、魔術師にとって呪文なんてのは己に呼びかけるためのものであり、己のイメージを放出できるものであればいいだけだ。
没入するだけのものに、意味を問いかけるなど無駄なもの―――。
だけど父は応えてくれた――――。
―――きっと、いまは違うけど、あの頃の俺はオヤジみたいになりたくて……だから―――『なぞりたかった』……オヤジのように誰かを救って、犠牲も出させないように、その心を覚えているから、俺は―――
何も出来ないわけではない。誰も救えなかったわけではない。けれど―――なるのが難しかった父の気持ちが分かる。
なんだ。簡単なことだった。俺にもあったことだ。親父の言葉が無かったわけではない。
思い出しきれなかったのは、俺の中の悔いだ。あの時、子供らしく『止めていれば』変わったかもしれない未来を欲して―――けれど、無いから……羨んでも仕方ないから―――。
「俺の無言の悲鳴を無視してでも逝っちまったアンタの意地を貸してくれよ」
「―――
打ち合わせた左右の手、拍手の音と共に巨大な魔法陣が刹那の足元に現れる。
その規模と構成の密度に眼がいい達也は、網膜を焼かれるのではないかと言う情報量を『叩きつけられた』。
しかし、巨大な魔法陣は回転を、回転を、更なる回転を果たして、永久のエネルギー機関たる一種のダイナモも同然となっている。
何かを喚起している様子。なんなのかは分からないが―――変化が訪れる。
「―――
瞑想から覚めるように見開いた刹那の七色に輝く目を以て一条とクレーフィールドを睨む。
魔眼を開くと同時に展開された刻印神船……というには若干小さい。しかし、それは『形状と色合い』が変化しただけのこと。
今までは戦艦のようだったそれが、変化を果たしている。正しい意味での弓のように―――。
「う、『牛』なのか!?」
「すごく気高い―――牛さんを思わせますね」
金色と青色が織り交ぜられた刻印の弓……否、『青色の角を張る金色の雄牛』を感じさせる弓が刹那の手にあった。
毎度ながら目のいい幹比古と美月の
((((どこまで恋愛脳なんだよ……))))
しかし、何か合理的なものがあるのだろう。だからそいつは野暮ってものであり……。
刹那のビックリするほどの変化は、恐らく一条を打ち破ることは、容易に分かった。
シグナルランプが点灯していく。そしてそんな刹那の無限の手の内の一つを見て一条将輝は―――笑みを浮かべた。
恐れおののかずに、戦うことを決めた爆炎の魔法師が、刹那に向かっていくことをやめない―――。
ここで決めたい刹那とここは取らなければいけない一条。
どちらも思いは愚直。そして狙いは単純―――そしてランプがグリーンに点灯した時に番えていた『剣』を刹那は解き放ち、一条は爆裂の魔法を撃つ。
最後の戦いの始まりを告げる―――号砲であった。