魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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分割しました。これにて、クリプリ戦は終わりです。


第61話『believe,―――君との明日』

 場内に響くアナウンスの言葉と提示された結果で、割れるような歓声が響き、そこそこに荒い息を吐いていた刹那は、最後の集中を解いた。

 

 対面の一条将輝…そのラオウ立ちのような姿を見てから、後ろを振り向く。

 

 そこには――――。最愛の守護天使がいた……。

 

 

「セツナ!! 着地任せた!!」

 

「要は抱きとめろってこと!?」

 

 

 何故か名言の無駄遣いをした気がするリーナが魔力制御で『跳んできて』、頭上を滑空していた。

 内心では『お袋、親父! 空から女の子が!』なものだったが……。

 

 ともあれ、その姿を確認して、腕を伸ばして懐にその柔らかすぎる少女を受け入れる。

 

 干渉の術式で衝撃を殺してから改めて抱きしめると、その暖かさに酔ってしまいそうになる。

 

 リーナもまた刹那の首に手を回して、姿勢を保持する。至近距離にお互いの愛しい『かんばせ』を見ながら―――断りを入れておく。

 

「汗臭いんだけど、いまの俺……四セットもやったあとだよ?」

 

「いいわよ。別に今まで嗅いでこなかった匂いじゃないしね。

それ以上にセツナの魔力の残滓がここちいいわ……頑張ってきた男の子の匂いと努力の証よ……おめでとう、カッコ良かったわ……♪(GOOD COOL GOOD BRAVE)

 

「ありがとう……すごく嬉しいよ……そして心配を掛けてごめん……最後の気力を振り絞れたのはリーナがいたからだよ」

 

 

 偶然じゃない。二人が出会えたのは、ずっと前から決まってた―――運命(Fate)

 

 無言で、―――いつかの想いを胸に満たして見つめ合う。

 

 お互いに惚けるように顔を赤くしながらのそんなやり取りが、聞こえていたわけではないだろうが、歓声の中に口笛を吹くような音が混ざる。

 頬を寄せてくるリーナの子猫のような仕草に更なる密着。

 

 どうにかなってしまいそうになりながらも、刹那はそこをなんとか理性で抑えながら射台の自動的な移動に任せる。

 

 すると遅れるように、通路から一高と三高の面子が溢れるようにやってきた。

 なんだか注目集め過ぎた戦いだったんだろうなと今さら気付く。

 

 

「少し手荒い歓迎と激励をしたかったんだが……なんかヤマトの戦術長と船務長みたいになっている!」

 

「クドウがいるんじゃ無理だな。恋人同士の触れ合いを邪魔するほど野暮ではない―――ということで」

 

 会頭の言葉を受けてやることは、一高総出での冷やかしの口笛の全体合唱を受けることになる。

 つーか皆して上手いですね。そんな中、ぷひゅーぷひゅー。と必死でやろうとしている中条先輩だけが癒しであった。

 

 

「胴上げしてやろうと思ったんだが、まぁ今はリーナに癒されていた方がいいな」

 

『タッちゃん……』

 

「別に俺には『和也』という双子の兄弟はいない、いたとしても『深雪』がいるんだから『MIX』の方が適切だろうが」

 

 

 達也の意外な好みが明らかになった瞬間だった。

 ともあれ、まだまだ九校戦は続くと言うのに、全てに勝ったような騒ぎであった。

 

 

「その辺は後で教えてやる。ちなみに言えば、リーナ、刹那―――お前たちのやり取りは、全国的に有名(メジャートレンド)になってるとだけ言っておく」

 

「勢いに任せて言ったからか、今さらだけど恥ずかし過ぎるわ……シアトルのパパとママから『孫』(グランドチルドレン)の催促されそう……」

 

「そんときは、とりあえず『頑張るか』……全てが上手くいくわけない。『過ち』もなければ『子供』も生まれないからな」

 

 刹那の腕の中で姫抱きされていたリーナが赤くなった両の頬を抑えて恥ずかしげに言う。

 そんなリーナに、『子作り宣言』の詔書を作っておく刹那。

 

 受け入れるかどうかはアメリカにいるリーナの両親に託された……! まさしく命がけの『終戦工作』である。

 しかしまだまだ『正妻戦争』継続に前のめりな『帝国軍部』(北山、一色、十七夜、伊里谷)などをどうするかである。

 

(まぁどうでもいいか……)

 

 アホなことを最近考えがちな達也の思考放棄。

 

 そして騒いでいる一高とは別に三高……一条将輝は、先輩方に慰められている様子だった。

 

「すみません。勝ちきれませんでした」

「謝ることあるかよ。逃げて得られるものはない。痛みを食らっても逃げずに打ち合って得たものもあるだろう。それを今後に活かせ」

「―――押忍!」

 

 プリンスと呼ばれた一条の奮戦が、髪の毛を犠牲にしてでも戦った姿が多くの三高生たちを束ねて、今後の戦いの困難さを知らせてきた。

 

 そうしていると一条と会話して奮い立たせた三高の会頭の役だろう三年生が、こちら―――刹那に言ってきた。

 

「ところでだ。遠坂君―――終わってそうそうでアレなんだが、一条の髪の毛を回復させることは出来ないか? 即効性の毛生え薬でもいいんだけどさ」

 

「ちょっ! トシ先輩!! なんでそんなことを頼むんですか。俺の髪の毛は三高の礎にしたんですよ!!」

 

「バカ言うんじゃねぇ。それとこれとは別だ。

 お前の短髪姿は、それはそれで『石田先生』(?)の負担を軽くするかもしれないが、女性ファンの支持が激減だ!! 早急に何とかしなければいけない!!」

 

 その言葉に、誰もが納得してしまう。

 やはりビジュアル系でもいける将輝君はカッコつけていなければ、魔法師のイメージアップのためにも、坊主はよろしくない。

 

 早急な対策が必要であった。

 

 納得してしまったので刹那は、取り出した『ジグマリエ』の講義で使った毛生え薬。それをかなり希釈したものを出すのであった。

 

「即効性の毛生え薬なんてそんなもんまで作っていたのか……」

「死滅した毛根は再生治療ではどうしようもないが、まぁUSNAでは結構な『顧客』がいたよ。九島の爺さんもその一人」

 

 中には若ハゲとも言える日野……ではなく、生え際が後退しているリッパーのラルフ・アルゴルなども使っていたのである……。

 とはいえ、そんなこんなで坊主頭の将輝君との決別をする前に―――、それに興味を沸かせた人間が一人。

 

「一条さん。少しよろしいですか?」

 

「し、司波さん!! 今の、ミジンコ以下のダメ虫すぎる僕に何か用でしょうか……?」

 

 好意を寄せている相手に声を掛けられて嬉しい反面。今の情けない自分を見られたくないプリンスのナイーブな心情が分かってしまう。

 

 というより後半は卑屈になりすぎである。話しかけてきたのが深雪だからかもしれないが。

 

 しかし、寄せられている好意を知らないわけではないだろうが……いや知っていても、普通の対応をする深雪に、少しだけ残酷すぎると誰もが思う。

 

「その、髪が伸びる前に、坊主頭ってどんなものか触らせてもらってもいいですか?」

「どうぞ。僕なりに司波さんへの御利益があるように祈らせてもらいますので、存分に」

 

 ダメだ。こいつら……はやくなんとかしないと……そんな想いながらも一時的に地蔵菩薩のようになり雪の女王たる深雪に跪くように姿勢を低くするプリンスの姿。

 

「うーん、これはやはり似合いませんね……やっぱり一条君も髪を伸ばしてカッコよく決めましょう。着飾ると言うことも魔法の一つらしいですから、ね?」

 

「司波さん……ありがとう。僕自身、三高に入ってスポーツ刈りとかにしようと思っていたんですが……おかげでお袋の髪に自信が着きました。これで行きます!!」

 

 本当かよ? と思う一条の言葉だが、尚武を掲げる三高ゆえにその辺りは悩んでいたのかもしれない。

 OBであるという親父さんとは真逆の顔立ちだもの。一条君。

 

 だが、その反面、司波深雪の『言葉の裏』を一高の全員が察した。

 

『これはやはり『お兄様にも』似合いませんね。……やっぱり『お兄様も』一条君も髪を―――』

 

 ……という口に出していないが察してしまう文言があり、どうにもすれ違う深雪と将輝。

 一高全員がナルト世界の忍びのように裏の裏を読んでしまうぐらいに、深雪が分かってしまうのであった。

 

 そんなこんなで一高と三高の交流が始まると同時にやってきたのは、三高の戦姫にして、少しだけ寄せられている好意に戸惑う女の子であった。

 

「ところでセルナ、いつまでお姫様抱っこしているんですか? アナタも! セルナは戦って疲れているんだから退きなさい!!」

 

「やーよ。というよりセツナは嫌がっていないもの? そうでしょ?」

 

「そうだけどさ、流石にこの森雪と古代進スタイルをいつまでもは恥ずかしいかな……? というか一色の中で俺はもうセルナ呼び決定なんだ」

 

「私のことも『アイリ』でよろしいですから、そしてこれが私のプライベートナンバーです。三高のみんなの手前で言うのもアレですが、カッコ良かったですよ♪」

 

 二人の金髪の美少女(ブロンダー)に囲まれていることで若干、殺意が届く。観客席からも近くの人間からも―――。しかし、そんなちょっとした乱痴気場は呆気なく終わる。

 

『えー、場内アナウンスをさせてもらいます。スピードシューティングの男女決勝、全てのプログラムが終わったとはいえ大会委員やスタッフの皆さんの苦労も考えてください。

 序でに言えば、表彰式もあるんだから―――とっとと、リア充ども解散しろやコラー!!!! 独り身の連中の気持ちも考えやがれ―――!!』

 

 場内アナウンスを行う魔法科高校の中でも選ばれた一人、五高放送部所属の『水浦』のシャウトが響き、『F○CK YOU――!!!』などと放送コード大丈夫かよという言葉を受けて流石に解散する面々。

 

「刹那―――、俺はピラーズは棄権するが、モノリスに全力を尽くすつもりだ。お前も出てこいよ」

 

「その辺は、準決勝までいけるかどうかなんで、他の連中任せなんだよな。まぁ遠隔射撃系競技は、俺の独壇場ということで総なめさせてもらうさ」

 

『『『させるかよっ!!』』』

 

 三高との別れ際のセリフを受けて、スピードシューティングだけではなく、まだ他の競技も残っていることを再確認する刹那。

 

 九校戦の勝敗を占う新人戦は、まだまだ……多くの魔法師たちを眠らせている。

 

 女子と男子のバトルボード……光井、エリカ、桜小路が参加するレース競技……その予選の時間は着々と近づいていくのだった。

 

 


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