魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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続きは書いているんですが、中途半端に長くなりそうなのでとりあえず分割アップロード。






第62話『九校戦――真相と次戦に向けて』

「本当にお前は緊張しいだな……。激励に来たと言うのにこれかよ」

 

 ウェットスーツ。競技用サーフボードの選手が着るような水を弾くものを着込んだ同級生の男子は、一度だけ詰まってから口を開く。

 

「う、うるさいな。あれだけの大舞台であそこまで振る舞えるお前の方が変なんだよ。実はギャラリーが芋かぼちゃに見える『魔眼』でも使ってるのかと疑う」

 

 緊張している割には上手いこと言ったものである。

 男子バトル・ボードの予選。第三レースに出る緊張しいの五十嵐鷹輔を激励してやれという難題が降ったが、本当の狙いは―――。

 

 

「ヨースケ、ファイトですよ。ここでビシッ、と決めていけば一高のヒーローです。浜辺に誘われたいガールが続出です」

 

「ア、アンジェリーナさん……よし! そうだ。我が朋友『モーリー』があえなく三高に蹴散らされた今、遠坂だけに話題を独占させてはいけないんだ!!」

 

 

 リーナの激励こそが五十嵐の精神安定剤。少し前までは、刹那とリーナのあれやこれや(LOVE)で『真っ白に燃え尽きていた』のに現金な男である。

 そんな五十嵐を見てから後ろの方で見ていた二人の先輩にいいんですか?と無言で問いかける。

 

 女子の先輩、光井や雫の所属部の部長にして五十嵐鷹輔の姉貴である『五十嵐亜実』は、手を合わせて『ごめんね』と無言で言うかのように少し顔を苦笑させていた。

 

 男子の先輩、そんな五十嵐姉弟の幼なじみにして、ご近所の『兄ちゃん』である風紀委員でも知っている『辰巳鋼太郎』は、拝むかのように手を合わせて『申し訳ない』と無言なのに、そんな言葉が聞こえるぐらい顔を伏せていたのだ。

 

 

 別に一高の勝利を願わないわけではない。五十嵐の敗北が視たいわけではないので、それはいいのだが、激励が刹那の彼女のリーナの言葉というのはあれである。

 ある意味、リーナを『魔性の女』としてしまっている現状に、どこに文句を言えばいいのか分からない。

 

(大丈夫よ。ノープロブレム、ワタシがそこまで安い女じゃないことは、アナタが一番知っているでしょ?)

 

 小指に巻きつけた『髪』を通して思念で話しかけてきたリーナ。どうやら刹那の不機嫌は察せられていたようだ。

 

(独占欲強いステディで、ワタシ、愛されてる実感ばかり感じているんだから、ね?)

 

 他の男と会話しながら、刹那にラブメッセージを運ぶリーナに、本格的に魔性の女だな。と思ってしまう。

 そして『連れてきてもらったのは間違いだったかなー…』と意思と苦い顔を合わせる後ろの男女。

 

「やる気が出てきた!! 競うなっ! 持ち味をイカせッ! 俺にしか出来ない戦い方がある。風祭の姐御ではないが、嵐の中でも輝いてみせる!」

「その意気だ。鷹輔! ところでだ遠坂、何か緊張しいの鷹輔を落ち着かせるものはないか?」

「時にトランスしがちというか突飛な行動を取る亜実先輩の例からして、このままでもいいような気も―――」

 

 四月の八王子クライシスでSSボード・バイアスロン部に現れたカエルの獣体を魔法でペシャンコに潰してピョン吉(ど根性ガエル)にするわけでもなく内臓破裂させた所業は伝わっている。

 

 同級生二人曰く『あの人は、あれだね。キレると普段と違うことをするタイプ』『普段はにこやかだけど、その裏側に狂気を隠し持つタイプ』

 

 と言った事を話すと―――

 

「人を暴走機関車かエド・ゲインみたいにいわないで! というか私はそんな風に思われていたのか!?」

 

 嘆くような調子の亜実先輩を置き去りに、五十嵐家の人々の特徴を、辰巳先輩と話し合いながら、最終的には三つ揃えの『アミュレット』ともペンダントとも言えるものを出す。

 

「まぁ亜実先輩から言われて作成はしていたんだ。一応、辰巳先輩と亜実先輩との意匠を合わせたルーンの護符だ」

 

「いいのか?」

 

「効果があるかどうかはお前次第。気の置けない兄ちゃんと姉ちゃんいるんだから今はそれに寄り掛るのもありなんじゃないか?」

 

『三つ子』のルーン輝石。一繋ぎのルーンを割り『祈り』を捧げてくれる相手次第での……まぁ効果は本当に本人とペアの相手の意思次第。

 

 一種の信仰心の集積。一条将輝がやったのと同じくである。ドーピングというほどではないが、レギュレーションに違反しないだろうことは、確認済み。

 結局、会場にいる大半が魔法師である以上、応援や祈りが、そういった『ミサ』『護摩業』『禍払い』的な信仰心へと昇華されるのは仕方ない話だ。

 

 そうして鷹輔、辰巳、亜実―――へと順番良く渡すと―――。

 

 

「うわっ、弾けちゃった……」

 

 

『反応』は覿面。いきなりな『結果』に驚き、手の中の護符が砕けたのは、亜実先輩だった。

 恐らく……そうなるだろうと思っていた刹那としては当たってほしくない想いもあったのだが……出てしまった結果は受け入れなければなるまい。

 

 

「姉ちゃん……何かまた変な力の入れ方を、いててて!! 頭ぐりぐりするなよ!!」

 

「鷹輔~~人を怪力女みたいに言わないでねー。あれは鋼太郎が部屋でエロ動画見ていたからよ!! 勢い余ってガラスを蹴破った時に、遠坂君の修復術式があれば良かったなー。とか思っているんだから!!」

 

「自室でぐらいゆっくりさせてくれよ。俺にもプライバシーがあるんだから……ともあれ、遠坂『予備』は?」

 

「どうぞ。『こっち』は大丈夫だと思いますよ」

 

 豪放磊落とまではいかないが、風紀委員の兄貴分でもある辰巳先輩の疲れ切った顔を見て、レアだなと思いつつ、お疲れ様ですとして辰巳先輩に手渡して―――。

 

 

「ほら。あんまり後輩の手を煩わせんなよ……。亜実、何か悩んでいるのか? 俺で良ければ聞くが?」

 

 手を取られて『本物』のルーン輝石を辰巳先輩から渡された亜実先輩は少しだけ惚けつつ、口を開く。

 

「……特に無いよ。けど―――うん。鷹輔! ちゃんと予選ぐらいは突破しなさい!! ウチ(五十嵐家)は『二十八家』ではないけど百家本流の血筋。だから突破できれば鋼太郎の奢りで何か食べよう。それで構わないよ」

 

 最後の言葉は辰巳先輩に向けて、幼なじみ同士で少し会食しようと言う言葉に、分かったと答える……そしてダシに使われた弟は、少しだけ苦笑いであった。

 

 ともあれ、それを最後に―――選手の呼び出しが鳴り響く。

 

 

「それじゃ行ってくるよ。遠坂―――俺の中で、いつか区切りつけるからさ……まぁ女々しい男として警戒しておいてくれ」

 

「そうさせてもらうよ。とりあえず勝ってこい」

 

「おうっ!」

 

 

 そうして五十嵐を送り出すと、今度はバトル・ボード女子の新人戦……光井は最終だが、一応見てくると亜実先輩がいなくなる。

 

 居なくなったことで一高の控室であり、休憩所が少しだけガランとする。

 

 その空間で、辰巳先輩は深いため息を突いて『結果』を聞いてきた。

 

 

「姐さん…いや、渡辺の首筋に針を撃ちこんだのは、『亜実』なんだな?」

 

「ほぼ確定―――とだけ言っておきます。催眠術的なもの、即ち『操作術』を打ち消すルーンが、弾けたんです……何者かに操られていたとみるのが、筋でしょうよ」

 

「ブランシュ―――甲の兄貴が隠し持っていたものか?」

 

「その辺は調査中です……ただ、催眠やマインドジャックの類は、長い期間相手に接していなければならない面もあります……心当たりは?」

 

 

 壁に寄り掛り俯く辰巳先輩。男の心情にずけずけと入り込むやり方は好かない。

 だが、会頭と会長が、『犯行の理由』……『ホワイダニット』として選んだのは、この人だったんだ。

 

 渡辺風紀委員長に横恋慕する辰巳先輩。そんな辰巳鋼太郎を憎からず思って、振り向いてくれないことに焦燥感……その『心の隙間』に入り込んだ。

 そういう推理だったのだが、当たっているのかどうかはまだ不明―――。

 

 そして、あんなニードルガンとかいう凶器を手渡した『何者』か……『フーダニット』を求める……。家も近所で、それなりに付き合いもある二人。

 

 如何に現代社会がプライバシーを重視していても人の口に戸は立てられず風聞もそれなりにあるのだ。

 

 そこに賭けた―――。

 

 

「……最初は男でも出来たのかと思っていたんだが、家の人達にそれとなく心配されているみたいだから一度尾けてみたよ。

 そしたら、変な髪色、どぎついぐらいに『ピンク』の髪をした外国人……日本人、人種の特定が出来ない位に、『変な女』と亜実が会話していた……くそっ、やられた。顔を思い出そうとすればするほどに見えなくなってくる……」

 

「ルーナマジック……」

 

「ふかくふかくふかく、とおくとおくとおく、ささやけささやけささやけ……とおくふかくささやく―――」

 

 

 リーナの驚愕の声と同時に解呪を試みる。頭を抑えた辰巳先輩の前に出て呪文を唱える。呪文は果たしてうまくいったのか……。

 

 最後に指をパチンと弾いて催眠術を掛けたかのようなジェスチャーで『気付け』をさせる。すると頭から手を放して、一息を突く辰巳先輩。

 

 

「……ワリィ。忘れちまった。遠坂に話すだけ話せた特徴は、間違いないんだがな……」

 

「恐らく誰かに探られるのを分かっていたんでしょう。それを見越して記憶消去がかかるようにしていた……」

 

 

 こういった「下手人」の「手癖」は何となく覚えがあるものだった。そして「オヴィンニク」の異名から察して、直接手を下してはこないだろう。

 ただしリズリーリエの話が本当ならば……最終日、何もかも疲弊した時に『やってくるはずだ』。

 

「どうするんだ? 亜実を拘束するのか?」

「意味ないですよ。下手人は望みを果たした。そして五十嵐先輩が何も覚えていないならば……罪を糾弾すべきは、辰巳先輩が視たとかいう『狐女』に負わせるべきだ」

 

 

 辰巳先輩に手を振りながら、あんまり深刻にならなくていいとしておく。

 渡辺先輩と微妙な関係に―――それは前からだったが、ともあれ何かあれば、そのケアは、辰巳先輩がやるべきことだ。

 

 あの女が、亜実先輩の心の隙間―――自分を見てほしいのに、渡辺摩利ばかりを構っている辰巳先輩のある種の『女泣かせ』が、洗脳を容易にしてのけたのだから。

 

「そろそろ応援行った方がよろしいかと、俺たちは報告書まとめありますから」

 

「……ここに誰もいないからって『粗相』するなよ」

 

『しませんっ!!!』

 

 辰巳鋼太郎のからかいの言葉に返しながら少しの『イタズラ』を潰された気分は少しある……。うん、想像するだけならばタダだよな。

 

 ともあれ、ようやく見えてきた九校戦に策謀―――いや、ただの『暇つぶし』感覚をしてのけた女の高笑いを想像しながら、その顔に爪を突きたてるべき機会はいずれやってくる。

 

 その時までに己を砥いでおくだけなのだ……。砥ぎをすることで剣は『切れ味』を取り戻すのだから。

 

 

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「と、まぁ―――そんな感じだ」

「マインドコントロールをした下手人はかなり前から五十嵐先輩に接触していたか。ともあれ、男子は五十嵐は予選突破。女子は桜小路、エリカも同じく……」

「ん。つーことは最終レースの光井だけが残っているのか、というか歯切れ悪いな達也」

 

 観客席の隅っこ。最終レースの光井は、残り2レース消化してからということで内緒話に適した場所に移動しての会話。

 

 風で音を消してはいるものの……手すりに体を預けての会話でも注目度が高すぎる。

 

 何故かなど愚問だろう……現在、席の確保と所用済ましでいない市原先輩の代わりに打ちこみをやっているリーナも同じく……様々な視線を浴びていた。

 彼氏としては、傍で気にするなとか言ってやりたいのだが、とりあえず深雪と美月もいるから問題ないという感じであろう。

 

 そんな風に思ってから達也の言葉を待つと―――。

 

「お前ら本当に辰巳先輩の言う通り『粗相』してきたわけじゃないだろうな?」

「お前なぁ………当たり前だろ……」

 

 地中海のギャング。まるで麻薬を売る『ボス』に『下剋上』しかねないギャングを思わせる達也の言動に『汗』を掻く。

 

 いかん。汗を掻けば達也に舐められる。そして『この味は!……ウソをついている『味』だぜ……トオサカ・セツナ!』とかやられかねない。

 

 などという内心を読んだのか、嘆息されてから半眼で見ながら口を開かれる。

 

「安心しろ。質問を尋問に変えて知りたくないことまで知ろうとは思わない。しかし、だ……桜小路はともかくとしてエリカのレースは見るべきだったな」

「うっ、それを言われると痛いかな。……申しわけない」

 

 友達甲斐のないヤツと言外に言われて、謝るしかなくなる。ただ―――勝てないレースでないことは分かっていた。

 

 そもそも、水面干渉とボードに対する強化。『風鋼水盾』は、まさしく水を割くように加速を果たしてエリカを望みの場所へと加速させただろう。

 

 

「最終的には意志を持つ『メイド』にでもなれれば、最高なんだがな。俺の知り合いは、アレの源流を鎧として己の身体なり、他者に着せていたよ」

「今のエリカではボード単位が限界だ……まぁその通りに勝ったがな」

 

 

 ボード自体を『加速器』付きの『鎧』とする技法に誰もが目を奪われて、結局エリカは勝った。

 

『エルメロイレッスンの成功者』が、再びバトル・ボードを荒らして、出目を分からなくする―――。

 それは楽しい限りだ。

 

 下馬評通りの戦いなど何も面白くないのだから―――。

 

 

「問題は、ほのかだ。どうにも桜小路とエリカの滑りに少しばかり焦っている様子だ……」

 

「お前の『アノ作戦』は、採用したんだろ? そもそも地力では光井の方が上だぞ?」

 

「まぁな。見解が一致して何より」

 

「メンタルケアは光井の気持ちが向いている達也がやった方がいいよ。地力を発揮させる魔法は、光井だけに通じる『愛の言葉』(ゴドーワード)だな」

 

「クサくて心の贅肉すぎる言動、ありがとよ」

 

 

 やかましい。と内心でのみ人の悪い笑みを浮かべる達也に言うと予選の最終レースが始まろうとしていた。続々と一高の指定席が埋まっていく。

 

 リーナと深雪に手招きされて赴くと手渡されるのは当たり前の如くサングラス。そう言えば、七草師も掛けていたことを思い出す。

 VIP席にて、果たしてどんなことが行われているのかは分からないが、ともあれ―――。

 

 渡されたサングラスを前にして推理を働かせた美少女アメリカ人が、はっ、として口を開く。

 

「もしかしてホノカ―――光の振動系統に精神系統を合わせた……魔王の力を借りた最強の攻撃術―――『ドラグ・ス〇イブ』(竜破斬)でも覚えたのかしら!?」

 

「ネタが古すぎる。ハーメルンの読者でどれだけの人が『ド〇グ・スレイブ警報』なんて知っているんだよ? とはいえ可能性はあるか……」

 

 

 メタすぎるアメリカ人2人のセリフ。とはいえ、推理自体はあながち間違っていない辺り、この二人……やはり天災か!?……。

 

 と達也は思っておき、全員がその言葉で『対閃光防御』をして―――最終レースのスタートが切られると同時に―――。

 

 水面にほのかの『ドラ〇・スレイブ』(ライティング)が放たれて、不意を突かれて出鼻を挫かれた他の選手たちが落伍したり強烈な閃光から視力の回復をしている中―――独走状態となった光井ほのかは、そのままに予選突破を決めた。

 

 

 のちに、このことが語り草となり『閃光のホノカ』とか言われたりして、とりあえず壬生先輩が少しだけ不服そうな顔をしていたのは、蛇足である。

 

 ともあれ順当に、順調にプログラムを消化していった結果、一高が一位ということは変わらず下の方で幾らかの変動がありつつも、緊張感漂う九校戦も中盤戦へと移行していくのだった……。

 

 


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