魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「くっくっくっ!! ようやくアノ
相手にとって不足無し! 当方に迎撃の用意あり――――、ワタシの行動のベクトルは全て勝利に向けられているっ!!」
宣戦布告の如き強烈な言葉を吐き出す金髪美少女。その形相は既に鬼。グラップラーとは、この女の如きことを言うのか……
そして取るべき行動は――――。
「うーん。このマロンクリームの甘味が私を神風怪盗にしてしまうわ♪」
モンブランを口に含んでの蕩けた顔であった―――。
『なんでだぁあああ!!!???』
一高女子の一年だけを集めた部屋にて行われている女子会。
明日への抱負を語る過程で、リーナに聞いた人間含めて全員が嘆くほどに意味不明であった。
「いやいや、スバルの気取った台詞のあとには、やはり『イタガキ』先生や『ヤマグチ』先生のティストも必要だと思うわ」
「それはどうして?」
普通に考えればふざけただけなのに真面目に問い返す深雪に再びの『なんでだぁあああ!!!???』が出そうだったが、若干真面目な話も出る。
「上品な
女子としてはどうかとおもうのだが……。深雪の疑問に随分ととんでもないことを言うリーナ。
しかし、あの女の手並み。
九校戦二日目の夜だったか、体技場にてとんでもないデュエルを見せつけてくれた刹那と愛梨の戦いを考えるに、トーナメント表から早々に当たるだろう春日菜々美と里美スバルは、その言葉に緊張せざるをえない。
「せめて司波君がCADの担当してくれたらばなー……」
「多分だけど無理なんじゃない。だってあの
「
春日の言に体技専門の千葉エリカが無情な判定を降して、里美スバルが意気込む。
刹那曰くせめて『幽玄』の域にスバルの振る舞いが至っていれば問題なかったという。それであれば一色の『動体視力』でも捕捉されないという言い分。
それを思い出してから刹那の『担当』である二人―――柴田美月と桜小路紅葉のダブルスコンビが口を開いた。
「私達はマイペースに行きましょう。強い相手もシングルスばかりに集まってるんだし」
「そうですねー。けれど吉田君も西城君も奮起しているんですし、少しは」
「……男子にゃ負けられないわね。美月さん。がんばりましょ」
「はい。桜小路さんもよろしくお願いします」
上手い乗せ方をするものだと誰もが思う。
一見すれば、やる気のない桜小路紅葉ではあるが、美月が『二科』の男子のやる気の程と、それなりの有名どころである名前を出したことで意思を疎通しあう。
美月が立てて桜小路が、それを何とかする。凸凹コンビという程ではないが、友情というよりも上司をコントロールする敏腕部下といった風情の2人。
今回の九校戦においてクラウド・ボールで『ダブルス』が採用された背景には、少々複雑なものがある。
魔法師単体の能力を競う競技内容の多く。無論、モノリスなどもあるのだが、段々と個人の技量が際立つものばかり採用されてきており、この辺で少し空気を入れ替えたい。
要するに個人だけでなく特殊なスキルや隠れた才能を持った人間が出てきたり、片や単体ではなく『ペア競技』などで力を発揮する魔法師もいるはず。
正面戦闘だけに囚われた見方を強要されるよりは……治安関係の官公庁やテレビ局やCADなどのマギクラフトのスポンサーなどの意向で、来年度の試金石として導入されたのだ。
もっとも、何の勝算も無くこの二人を組ませたわけではない。美月の持つレアカラー。『月』を利用した『魔法』の『強化』を受けるに相応しいのが桜小路紅葉であったから。
そんな裏事情などを考えて、話は明日の相手よりも『九校戦』そのものに移っていく。
「なんか噂では、『モノリス』も若干のレギュレーション変更があり得るんだってね」
「うん。本来ならば『準決勝』から既に二種目に出場した参加制限選手の登録も可能となって五対五の形式になるはずだったんだけど―――」
エイミィの疑問に事情通の雫がショコラを啄みながら答えて、少し憂鬱にもなる。
「モノリス・コードに限り、『予選第一試合』から五対五になって、事前に通達されていた準決からの参加制限解除……既に二競技行った『参加制限選手』も登録可能となる―――まだ不確定だって話だけど、多分既定路線になっている」
一条将輝がモノリスの準決勝まで三高は進んでくれると期してスピード・シューティングで遠坂刹那と覇を競ったことが契機となったのか、九校戦のモノリスルールの改訂は噂になっていた。
もっとも一条は明日のピラーズには出ない。たとえモノリスで一回戦から出場可能であっても一日身体を休めて、万全でモノリスに挑む。
そこでリベンジをするという話……刹那の
一条は刹那と闘いたい。もしかしたらその過程で他にも目が向くかもしれないが―――その他の問題点としては……。
俗な言葉で言えばスクールカーストゆえの『いがみあい』。
グループ間の対立である……そしてモノリス・コードのチームリーダーはA組の『あの森崎駿』なのである……。
「本当にセツナを出すかどうかは分からないわよね……『タスケ』もそうだけど」
何気なく呟いたリーナの言葉に雫とエリカが食いつく。
「森崎が賢明な判断をすることに期待したいけれど、会頭と会長は、この際、成績の良し悪しではなく『実践想定』で達也さんと刹那を筆頭に五人組を出す案。
けれど渡辺委員長や副会長は『負け癖』が着いても困るから再起のチャンスを森崎たちに与えたい案」
「チームリーダーを森崎にしたのは、響いたわね……こういう時に達也君の代わりに皆を引っ張っていくのが一科にいる刹那君の役目じゃないリーナ?」
若干ながら核心を突いたエリカの言葉にリーナとしても苦笑い。とはいえ、まさかそこまで恣意的な人事で『勝利』の芽を潰すということをするとは思えなかったので、『出世』しろとは要求しなかったのが仇となった。
とはいえ、母国のことを考えるに、ソ連や中華共産党と事を構えたくないからと、当時の大統領が『ダグラス』の進撃を阻んだこともあるのだ。
ふざけた降格人事の結果は、見るも無残な冷戦体制を作り出した。
あの時、徹底的に『アカ』を叩きのめしていれば、今の世界の姿は違っていたのかもしれない……。
そんな夢想と空想に浸ってから、その表情のままに彼氏に対する弁明の準備でテーブルに出されているスイーツに手を伸ばす。
「本人は、リーダーとかそういうのは性に合わないとか思っているんでしょうね。それにタツヤならば、いずれはそういった冷遇を乗り越えて魔法師社会の一角の人物になってくれると思っているんでしょうね」
「随分と上から目線。けれどお兄様がそれを望んでいないかのうせ『ないわー。それはないわー』……どうして?」
深雪の言葉を途中で遮って、リーナはショートケーキを頬張りながら口中にある甘さを呑み下していく。
そうしてから言葉を紡ぐ。
「シズクの
「……随分と見ているのねリーナ。お兄様の事を」
少しばかり険悪な視線。嫉妬まじりの『余計な事を言うな』という視線に構わずリーナは、言葉を続ける。
「そう? けど殆どぶっつけ本番で、
そう。確かに深雪としても兄の栄達は嬉しいし、噂になるのは心地いい。それは事実だ。
だが、それであまり耳目を集めて『悪目立ち』してしまうのも困り者だ。
つまり深雪からしても、これは想定外。『本家』である『四葉』がどういうジャッジをするのかは知らないが、確かに……「やりすぎ」である。
自己顕示欲―――本当は兄、いや『男』に一番必要なものを『欠けさせて』生まれ落ちた司波達也であったが、本当はあったのだろう。
好奇心を抑えきれないのは、最終的には自分の開発したものを『実験体』が、どんな風に扱えるかを知りたいから―――そういう帰結もあり得る。
親愛とか友情とか表面的なものを取っ払えば、そういう結論もあり得る。
だから登録するのが使用者である『北山雫』云々だけで、隠しきれる問題ではないのだ。
「まぁクールな外面にホットな内面と忙しないタツヤが、一高一年の男子を率いるのが
籠って研究か宝石に魔力でも溜め込んでおきたいタイプ。しかし遊ぶ時には遊ぶし、その内容も充実したものだ。
魔術師としての面と人間としての面のバランスを取りやすいタイプなのだ。とリーナが結論付けると……みんなして様々な顔をする。
何故ならばさりげなく入っていた『単語』に誰もが赤面したり怖い顔したり、
「まさかステディとかラバーとか通り越して……」
「ハズバンドとは恐れ入るなぁ……って雫! こわい! ちょーこわい!!! ウィッチクラフト系統の魔力が漏れているから!!」
エイミィが、隣にて紅茶を飲む雫から遠ざかる様子に気の毒になる。しかしながら……今日の九校戦の話題を攫っていったのはリーナと刹那なのだ。
もっとも雫の不機嫌の理由はそこではないのは当たり前だが。
「今日のMVPは雫と刹那君だけど、にしても、ネットのトレンドがとんでもないよ……」
「金髪碧眼の少女の愛が孤独なローンレンジャーを突き動かす! 立ち上がれ!! 現代のロビンフッドにしてアーラシュ!! 愛を取り戻せ!!……何処のサイトでもこんなタイトルだしね」
「半世紀以上前に流行ったネットトレンド画像『恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです』ぐらいの盛り上がり……中にはプラズマリーナとプリズマキッドを使ったパロディまであるし」
皆が端末を操作して示してきたものを見せられてリーナは恥ずかしい想いもあるが、それ以上に嬉しい想いを感じる。
ネットの世界と人の愛は深淵だわー。などと深雪は思ってから、色々と見ていくと同じく男子会に誘われている刹那が達也に見せられているだろう画像を見ていく。
『しばらくの間、キスお預けなんだからねー!』『しばらくの間、膝枕お預けなんだからねー!』
……パロディ画像の方が『健全』なのはどうしてか、ともあれネットの世界を騒がせている九校戦の有名人の画像の件で色々と待機していた連中や連れてこれなかった一高の人間達からもメールが引っ切り無しだ。
だからこそリーナは女子会こそ楽しいが、申し訳ないがそろそろ刹那と二人っきりになりたいと伝える……。
「こんな風に話題になっているならば、セツナに会いにいきたいのに……機械オンチなセツナのことだから困っていて隣で寄り添いながら一緒に見たかったのよ?」
リーナの必死な言葉に反応するのはB組の級長役ともいえる桜小路紅葉であった。
無駄だとは思っていても諌めの言葉の一つでも言っておかなければ級長とはいえないのだから……。
「ただ単にこれを見るだけならばいいだろうけどね。それ以上に『にゃんつかれて』、この会場内で粗相されて『フライデー』されたら困るから、こうして夜の女子会に誘ったのよ!!リーナを拘束するためだけに!!」
「おのれアカハ!! アナタみたいなうすっぺらな藁の家が深遠なる目的のワタシとセツナの愛の巣に踏み込んで来るんじゃあないッ!」
「誰がうすっぺらな藁の家だ!?」
言い合いながらも本格的な取っ組み合いに至らず何故か『一世紀前』から流行っているカードゲームでの勝負を挑みあうB組名物『バカップルVS委員長』という構図。
ほのかの『止めなくていいの?』という疑問に、エイミィだけは、『日常茶飯事』として静観する構え。
そうして明日の激戦に向けて
静岡から遠く東京の更に海の果て『小笠原諸島』にて―――二人の少女の運命も変わりつつあった……。
一人の少女が星空を見上げていた……満天の星空。
きらめく涙すらも星に代わり風に攫われるかのように少女の泣き顔もそこには無かった。
目当ての人物を見つけた相手は声を掛ける。少女と少女は双子のように似ていたが……纏う雰囲気は少し互いに違っている。
「―――『ココア』、こんなところにいたの?」
「……『シア』、うん。ここは―――『星』がよく見えるから大好き……私達の意識がとんでいく『星界』の果てを自分の眼で見えるのが……」
「どこまでもいけそう?」
「うん。けれど……ここには自由が無いから、空の高さ、無限の夜空だけが、私達の知っている世界」
『研究所』の中でも『実験体』である自分達に許された自由なレクリエーションスペース。そここそが、研究所の無機質な壁とは別の異世界。
彼女たちにとっての小さな世界であった。そこから見える『外』の世界は、それだけなのだ。
天井に見える星と雲のかかる空の色は、彼女たちが実験の際に『いつでも』見るものであり、普通ならば嫌気が差す―――そんな感情すら塗りつぶされていく中でも、ココアとシアだけは、レクリエーションスペース……『カルデアス』が好きだった。
簡素な服。半世紀も前の入院患者ですら、もう少しまともな服装をしている彼女らの服は、簡素すぎる……手術に望む前の、患者の術衣服のように……本当に簡素だった。
まともな人間が、その少女を見れば、ここで彼女たちがロクな扱いを受けていないことを察する。手入れもされず、ぼさぼさに伸びてそのままの髪。
少女の身長から推測できる年齢ならば、おしゃれを知って、その髪を嫌がるはずなのに……。
しかし、そんな世界を知らぬ彼女たちに……そんなことを想う暇も無いのだ。
「そういえば『モリナガ』先生や『エザキ』先生が『所長』と取っ組み合いをして、『何か』を私達のプライベートスペースに入れることを、認めさせたそうよ」
「なんだろうね? アイスクリームが自動的に作れる機械かな?」
「さぁね。また『にっがい薬』かもしれないから期待しない方がいいわよ」
「もう、シアってば『ひねくれ屋』。そんなんだから姉妹の中で私としかこんな風に話せないんだよ。みんなして『シア怖い』っていうし」
「う、うるさいわねっ! どうでもいいでしょ!」
むきになって怒るシアの様子にココアは、ちょっと気にしていたんだなー。と気付くのであった……。
ともあれ、少女達のそんな会話をよそに日は過ぎて、彼女らは―――翌日に、ふとしたことで気付く……幸せなんてものは、ちょっとしたことで届くのだと……。
小石につまづく……その程度なのだと……。
『愛と正義と自由を司る星、輝けるシリウスの下に生まれし美少女魔法戦士プラズマリーナ参上!! 愚鈍な男と泥棒猫は許せない!! 愛と怒りのプラズマシャワー落とさせていただきます!!』
『世界に神秘あり、人の心に謎あり、夜の闇に奇跡あり。万世のミスティックを秘蔵するため魔法怪盗プリズマキッドただいま参上。未来を生きるアナタの心に『永遠の魔法』を刻み付けましょう』
キュウコウセン―――という魔法使いたちの祭典にて見た……青星と紅星。ポーズを決めて多くの人達の歓声を受ける星々……スターサファイアとスタールビー。
―――そんな宝石の如き輝きを見せる二人の魔法使いにココアとシアの心は一瞬にして『奪われた』。
ココアはプラズマリーナのその姿に、外の世界にはこんな可愛い服を着て魔法を使える『魔法のお姫様』がいるのだと憧れて……。
シアはプリズマキッドのその面構えと衣装に、お伽噺の『魔法の王子様』とは、こんな風にカッコいいのだと、とてつもなく憧れて……。
プライベートスペースで見れる映像機器……テレビジョンキャビネットにて、食いつくように見たことで、彼女らは外の世界にあこがれていくのだった。
若干、二名ほどは少し違う『憧れ』を持つのだったが…ともあれ彼女ら『ワダツミシリーズ』の感情数値が戻ったことを素直に喜びながらも、このままでは元の木阿弥になる……何とか救おうと決意する担当医たち
そして早すぎる邂逅……。しかし、遅くては意味が無い運命との出会い……。
夏の小笠原諸島に『美少女魔法戦士』と『魔法怪盗』が『大勢』あらわれて、星に捕らわれた少女達を救うことになるなど、……誰も予想出来ないのだった。
また少しだけ時間をさかのぼって同じ星空の元でも―――――。一つの運命が転換を果たした……。
「ぐっがあああああああ!!!」
「適合するかどうかはアナタ次第だったのですが、存外持ちますわね―――けれど、限界は近いようで……ザンネンですわね」
「こ、こんなものだと分かっていれば、な、なんで!!」
「だって、アナタが望んだんですよ? 『魔宝使い』を超えた全能の力が欲しいと、代償無くして『奇跡』はこの世に顕現しないんですよ」
相手の抗議をまるで当然のこと。売りつけた『商品』が不良品で、粗悪品であっても…自業自得だと切って捨てる桃色の髪をした女。
どうにも『魔法師』というのは『奇跡』が無限にあるかのように思っていて困る。嘆く女の心情を知らずに、喘ぐようにしている男達……少年は分かるまい。
「けれどアナタは無理だった……女の子の方はお仕事ゆえの謀でしたが、どうやら―――私の存在にも気付かれたようで……では、夏場は腐敗が進むかもしれませんのでお早めに、救急車を呼ぶことをオススメしま―――」
地べたに伏せて土を掴んで苦しんでいる少年たちを見て酷薄なことを言う桃色の髪をした女の言葉が途切れて―――何かが飛んでくる。
何かは……一見すれば光でしかないが、女の『金目』は飛来してくる剣であり矢を視認した。
(射程圏内に入っていましたか―――ですが……)
慌てず騒がず一休みしつつ『呪層』を展開♪ そんな内心の気楽な文言の割に展開されたものは音速……否、せいぜい高速程度の矢を受け止めつつ無力化してから軽快な足取りで後退していく。
その気になれば、こちらに手傷を負わすこと容易いだろうに……地面に伏せる連中を気にしたようだ。
となれば……。伏せている『魔法科高校の生徒達』……その集団の真ん中に立ち入って相手の攻撃を待ち構える。
次弾はない。もしかしたらば、移動して射角を変えている可能性もあるだろうが、どこから撃っても、地面にいる『人質』は無事に済まない。
『カウンター』が歯噛みしてこちらの行動に地団太を踏んでいると思うと、心底の高揚感が湧きあがるが―――。
(まっ、今日はこの辺で―――無意識の『マスター』の願いに沿うのも、コレ。良妻賢母の心得。しかしマスターは賢母になれなかった人。これまた失礼)
内心でおどける女は「卵」を手に持ち―――『魔法』の領域たる空間転移を実行。
完全にトレースできない魔力痕跡を見た
森崎駿以下……四名ほどの『一高一年生』が、血塗れの姿で息も絶え絶えになっているのを見た救急隊員たちはすぐさまドクターロマンに通信。
連絡を受けたロマンは、事態は緊急であると知って、すぐさま手術室の準備に取り掛かる……九校戦における一高の状況がめまぐるしく推移していくのであった……。