魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第64話『九校戦――瞬間、想い、ぶつけて』

 朝の目覚めは穏やかなものであった。男子会―――レオが主催して呼び掛けたある種の祝勝会であり決起集会にて、明日…もはや今日の勝利を祈願した男子達がやることはただ一つ。

 

 まぁ騒ぎに騒ぐことであった。意外な事に五十嵐、田丸、越前も来ていたそれらはまずまず楽しいものだった。

 

『ジャパンでは飲めない年齢だろうが、付き合いたまえ。エルメロイ教室からまた一人『色位』の魔術師が現れたのだ。祝いの宴だ―――!!』

『レディ、その『海賊王』のような言動はやめたまえ。そして何より保護者の同意も無しに酒宴に連れまわそうとするな』

 

 英国では酒類というのは保護者の同意及び同伴などの規定さえあれば、未成年でも飲酒は可能というそんな法律がまかり通っている。

 

 とはいえ、2090年代の日本ではどうかと言えば……そんなことは無かった。というわけで皆がどこからか持ち寄った『泡立て麦茶』を使っての呑み比べ。

 

 うん……完璧アウトである。そして何より流石は神職の後継者と飲酒既定の緩いドイツの血を持つゆえか、幹比古とレオは強すぎた。

 

『『だっしゃーい!!なんぼのもんじゃーい!! 早く負けて俺の御立派様をお披露目したいね!』』

 

 

 ……完全に悪い酔い方をしてやがった。

 四人抜き(桐原、服部、五十里、沢木撃沈)をした辺りで、刹那と達也(画像閲覧中)が参戦したことで、収まった。

 

 酔い止め及び酔い覚ましの薬を全員に処方してから解散となった。その後の記憶が曖昧である。

 

 

 本当に……だからこそ―――。

 

 

「なんでさ」

 

 シングルベッドに収まる二つのカラダ。眼を覚ますとそこには半裸のアンジェリーナ・クドウ・シールズ(髪解き)がいた。

 

 ワイシャツ一枚で裸体を覆う。完全にプライベートでの姿に、記憶を探る。

 腕枕しつつ夏場にも関わらず猫のように擦り寄るリーナの姿は愛おしさばかりがあるものだ。

 

 しかし、それだけに構ってはいられない……思い出すに、別に連れ込んだわけではないのだが、リーナもまた女子会に拘束されており、なかなか抜け出せなかったのだ。

 

 最終的には同室の深雪の温情もあってこうしてここに来た………。それを思い出して、こうなった理由を思い出して顔を赤くする。

 

「九校戦期間中は自重したかったのになぁ……」

 

「それは無理な話よね。だって十日間よ! セツナみたいなエロ学派でエロ魔神が、十日間も『ガマン』できるわけないじゃない!!」

 

「彼氏を信頼しない彼女のド辛辣な言葉で一気に目が覚めたよ。おはようリーナ」

 

「グッドモーニング、セツナ―――昨日は燃え上がっちゃったね♪」

 

 完全に学生としての倫理的な面で逸脱している二人。こんな場面見られたならば、事だよなぁ。と思いつつ目覚めのキスをしてから互いに起き上がる。

 

 

「今日は遂にリーナも出陣なわけだけど、大丈夫か?」

 

「ピラーズは、女子の部は午後―――クラウドは午前で終了よ」

 

「うん、二種目に参加する選手を考慮しての時間配分だけどさ……だからこそ」

 

『致して』体力に不安を覚えさせたくなかったのに……。そんな刹那の不安をリーナは笑顔で消してくれる。

 

「ノープロブレム。確かに会長もその辺不安がっていて新人戦のミラージに登録することを奨めて来たけど、そちらはスバルとホノカに任せたわ」

 

 一昨年からの渡辺委員長と小早川先輩などの奮戦で登録人数制限も無く一人分の余裕はあるが、数合わせで出すほど人に余裕も無い。

 如何にポイントを取るかだけに執心すれば、絞るべき所は絞って『同士討ち』をさせないようにしていかなければならない。

 

 

「ピラーズは、エイミィの枠のはずだったけど、ね。だからこそ、全力で戦うためにもセツナには勇気を与えてほしかった。それだけよ?」

 

「そこまで殺伐としなくても―――」

 

「それに、あの女と雌雄を決するためにも、ね。ブラック オア ホワイト。白黒はっきりつけなきゃいけないわ」

 

 リーナの表情は完全に『殺る気満々すぎて』刹那も慄いてしまう。

 ダメだ。今日のクラウド決勝戦。せめて里見か春日が上がって来てくれますように―――そう願うしかなくなる。

 

 カーテンを開けて天気を確認…。

 

(晴れ時々『血の雨』が降るでしょう―――そんなところか……)

 

 そんな風におどけながら、一高ジャージを着て出る準備をしておく。用意良く替えの下着や服を持って来ていたリーナの着替え終わりと同時に出る。

 

 出た瞬間に、隣の部屋の電子ロックが外れて達也と深雪が揃って出てきたのを見る。

 

 なんたるタイミングの良さ。もしくは悪さ。ともあれこういう時はただ一言……。

 

同伴出勤(ドーハンシュッキン)?』

「言葉の意味を再考しろ。アメリカ人」

 

 指さしながら言ってやった事に少々の怒りを混ぜて返す達也。どうやらブレックファストに行くようだが、その前に端末に連絡が入った。

 

(緊急の連絡……朝食後に下記メンバー以外は同伴を伴わずに七草会長の『秘密の部屋♡』まで来るように―――か)

 

 要は内密の話があるから私室に呼びつけたいようだ。それはいいが、何の用件なのやら―――。

 嫌な予感がする。予感は現実のものとなった。シルヴィアからの内密のコール。

 

『一高生徒達……四人ほどが裾野病院に運び込まれた。九死に一生は取り留めたが、意識は戻らないまま、か』

 

 食堂に行けば何か分かるだろう。そして分かってしまえば変化は免れない。あまり美味しい朝食とは行きそうになかった。

 

 

 † † † †

 

 

 

 集められたのは三巨頭と司波兄妹に一年バカップルだけであった。

 ことを大きくしたくなくてもこのメンバーだけを呼び付けたというのは、色々と疑わしく思われるのではないかと思う。

 

 火の無い所に煙は立たない。騒動あるところに司波と遠坂あり……などという話も出ているのだから

 

「これで五人……この九校戦の裏側で何が起こっているというの? おまけに一高生徒ばかりが狙われているっていうのが、あまりにも不吉よ」

 

 メールの文言は無理していたのか気鬱を残している七草真由美の表情に誰もが何も言えなくなる。

 しかし、そんな中でも刹那だけは言っておかなければいけないのだろう。

 

 会頭と共に椅子に座らず殆ど直立不動で壁際にいたのはいいが、ともかく口を開く。

 

「厄の種はどこにでも転がっていますよ。もっとも、一高こそが狙われる原因も分かりやすいですがね」

 

「と、言うと……?」

 

「言うなれば一高は『目立ち過ぎている』……他の魔法科高校においても頭二つ、三つは抜けている……そして他校よりも一科二科の確執も根深いそうで」

 

 

 実際、アイリやトウコ曰く三高なんかでは『普通科』の生徒達……殆ど魔法教育のカリキュラムを受けない。

 一高と同じなのだが、それでも二科と同じく『スペア』とされている人間たちを時々教導しているそうだ。

 

 それが校長である女教師。

 

 一条との戦いでも若干、馴れ馴れしく剛毅師父に声を上げていた女傑『前田千鶴』がそうらしい。

 もっとも教導といっても戦闘用魔法を用いての本当に大規模合戦的なものらしいが、それでも、いいことだ。

 

 何の関心も無ければ最初っから何もしなければいいだけ。一高と同じく……そうしなかったのはやはり前田家だからだろう。

 

「石川県で前田っていう苗字からして()は加賀前田家の辺りなんでしょうね。それで、戦国武将『前田利家』と言えば巨漢で武勇著しいが『長男』でないばかりに尾張前田家の家督相続出来なかった人間でしたからね」

 

 前田利家……当時は犬千代と呼ばれて前田家で鬱屈していた『四男坊』を自分の直属の親衛隊…常備軍の専業軍人として受け入れたのが、三千世界を平らげて第六天魔王などと呼ばれていた『ノッb……織田信長』ということだ。

 

「三高の会頭役『前田利成』……千鶴女史の甥っ子からも聞いていたが……そう考えれば確かに確執は大きいな」

「結果的に色々な『連中』につけ込まれる結果となる……これを、そいつらの『心の弱さ』と取るか……体制の問題と取るかは人次第ですが」

 

 そしてロマン先生から送られてきた『エンハンスドワーム』の摘出画像……俗な言葉で言えば『生体強化薬』。

『ワーム』は、生きながらにして体内の心臓部に『寄生』を果たし術者の『生命力』を利用して『魔力』を精製して、『演算領域』を拡大させる……これらワンセットのお得なものが森崎、大沢、平山、浅川の四人に投与されていた。

 しかしワームは、完全に森崎達の体内に根付かず、更に言えば、森崎達に何ら寄与しなかった。

 

「新ソ連のこれを投与されて死ななかっただけでもめっけもんだ。非魔法師を無理やりサイオン活性した強化兵士にする技術……魔法師に投与すれば凡そ5割から6割が死亡しますよ」

 

「知っているのか?」

 

「似たようなものを知っている。実物は知らないが『蟲使い』の秘術だ」

 

 故郷にかつていたという。もしかしたらば叔母が養子に出されたかもしれない魔術師の家にあった秘術。

 

 聖杯解体をした先生の資料からそれを見せてもらったが、本当にサクラさんの運命は薄氷を踏んでいたんだなと実感するのだった。

 

「……にしても、なんで森崎達「四人」は一斉に公園で倒れていたんですかね? いや、分かるな。恐らく森崎達は、ワームを売りつけた売人に問い詰めて『自殺』プログラムを実行されたんだ」

「ああ、記録映像も残っている……この女だ。見覚えは?」

 

 

 深夜の公園にて森崎たち四人が桃色の髪の女……荒い画像越しでも分かる美貌の女と相対していた。

 何かのツアーコンダクターか派手な社長秘書兼愛人と分かりやすすぎるぐらいにタイトな衣服を着た女。

 

 声こそ聞こえないが、どう考えてもロクでもない言い争い。魔眼で魔力の流れを見て―――そして……指の動き『印』を結ぶ動作で『ダキニ天法』を叩き込まれた森崎達が動きを止める。

 

(見ていやがるな……)

 

 この映像が誰かに見られることも織り込み済み。そしてワームが全身を這いずりまわりながら苦悶の表情を浮かべて血を吐き出す森崎達。

 

 素肌……特に顔を掻きむしって苦悶を、全身で表現している森崎達であったが、最後には意図的なサイオンの暴走現象。

 血管の幾つかは破裂したのかもしれない映像の最後に光が奔って女を穿とうとする。そこで映像は途切れた……。

 

 

「成程な。敵の正体……目的も分かった」

 

「何者なんだ? この女性は……またもやマナカ・サジョウと同じ類なのか?」

 

「異常能力者という意味では合っています。問題は―――どれぐらいの『霊基』を保有しているか……あんまり俺だけが知っていてもダメだな。みんなには教えておく。構わないよな?リーナ」

 

 八王子クライシスで完全に呑まれていた渡辺摩利が、大講義室における一件を思い出して身震いしている。

 

 それを見た刹那は事情説明はしておいた方がいいだろうと思って、重い口を開く準備をする。

 そして何よりこの案件―――総隊長であるリーナの判断も欲しかったが、リーナは笑うのみであった。こちらの責任を半分は背負うというリーナに感謝をする。

 

「ワタシが判断することじゃないわよ。けれど、この『フォックス』が、イワンの連中の走狗でしかないならば、犠牲はこれで打ち止めになるはずなんだけどね」

 

「フォックス? 狐だと?」

 

 

 会頭の言葉に敵の正体を告げておく。そしてその敵と相対したこともあるのだと―――。

 

 新ソ連の『火狐』(プラーミャリサ)にして大亜における『現代の蘇妲己』、日本における『殺生石』に変化せし『金毛にして九つの尾を持つ狐』……。

 

 語り終えると同時にリーナを除いて誰もが汗を掻いていた。

 

「ビーストなのか?」

 

「いいや、あいつの霊基は著しく落ち込んでいる。インペリアル・イースター・エッグを用いての『空間転移』なんかをしたのが証拠だ。

 『獣』であれば、『そんなもの』は必要ないからな」

 

 奴らが万全であれば、どこにだって現れることが出来る。縁を頼って単独権限を果たして『暴虐』を振るえる。生来の殺人鬼としてのスペックである。

 恐ろしい限りだ。だが、今回は恐らくイワンの依頼でやっているのだろう……そんな刹那の推測もひっくり返すのも、あの理不尽極まる『妖怪』の面倒なところ。

 

「それにしても次から次へと現れるな獣は……、今回は違うんだろうが」

 

「獣と言うのはある種、人類に課された『運命』なんだよ。『運命』は飼い馴らせないし、解決も無い。現れる『災害』(理不尽)を前にしては、『克服』するしかない。『未来』(さき)を示すために、人類は、彼らのもたらす『未来』(さき)『否定』(こくふく)するしかないんだ」

 

 嘆くような達也の言葉に刹那は即座に返す。達也に強い調子で言ったからか少しだけ深雪が不機嫌なツラをしたが、今は置いておく。

 

「まぁ『聞く限り』では、今の彼女はイワンの工作隊の随行員なんでしょうね。

 あの女、本当に気紛れだから、時に戯れで人の助け、気紛れで人殺しと忙しない……そん中でもアレはとびっきりの悪性なんだがな。コヤンスカヤは……」

 

「何かどっかで思い当たる節があるパーソナリティー(人物性)だな」

 

「同感です。お兄様―――」

 

 暗い顔をして『誰か』を思い出している司波兄妹。恐らく思い出している人物は、近隣のホテルに泊まっている『有名人』なのだろう。

 

 沢木先輩が知らずにどこかで見たらば、『マダム、行きたい場所へご案内します』とか言いかねない。あれもある意味では傾国の美女の類。

 

 ……何故だろうか、一瞬……マダム・ヨツバと『コヤンスカヤ』の姿が『重なった』ように見えた気がした。

 あり得ない想像とイメージのフラッシュバックを打ち消してから話しかける。

 

 

「今はあれこれ考えるのは止しておきましょう。後はアレと関わっている一高生がいないかどうかを探ってみますよ。正直、プライバシーの侵害ですが」

 

「流石につぐみちゃんの時とは違うものね。そして摩利の魔性の女としての側面を利用された悲しい事件だったわ……」

 

「うっ……そ、それを言われるとな。けど私は結構前から『修次』(なおつぐ)さん―――シュウと付き合っているのを公言していたのに……」

 

 

 ラブラブであることを伝える摩利先輩相手にあくまっこ2人(だいあくま、こあくま)の追撃が入る。

 

 

「辰巳先輩の方では区切りが着いている様子でしたよ。まぁだからといって委員長の魔性の女としての罪は無くなりませんが」

 

「なんせ『タツミン』ってば、摩利のゴスでロリーな写真を求めて刹那君とリーナさんを追い回したものね」

 

「あれはお前のせいだろうが!! 何が『プライベートでムフフな写真』だ! ったくあのあと五十嵐がちょっと怖かったんだぞ」

 

 

 あくまっこ『二人』からの指摘に渡辺摩利は腕を組んで憤慨するような様子だ。

 

 九校戦が始まる前のあの一連の顛末を思い出して、話題はとりあえず転換出来た。要らん心配で本題を欠いては元も子もないのだから。

 

 

「では、このタマモヴィッチ・コヤンスカヤなるイワンの工作員に関しては、軍と遠坂、クドウ。お前たちに一任する。何か入りようならば言え。遠慮なく手を貸してやる」

 

「おすっ。で、他に用件もあるのでは?」

 

「ああ、今日の男子ピラーズ予選。平山と浅川のエントリーが抹消された。

 そして、事情が事情だけにこの日に至っても急遽のオーダーチェンジが可能となっている……言わんとすることは分かるな司波?」

 

 会頭が司波と呼ぶのは大概は、深雪ではなく―――達也の方だ。男としてのある種のケジメ着けなのかもしれないが、桐原先輩のように司波兄とかいうよりなんか分かりにくい。

 

 だが会頭が向ける視線は圧力ありながらも、兄貴分としての情のある眼差し。彼はこの視線だけで相手にチャンネルを合わせている。

 

 そしてチャンネルを合わせられた達也は、言葉を待つまでもなく―――察していた。だからこそ言ってのけた。

 

 

「分かりました。俺がピラーズに出ます。どこまで出来るかは分かりませんが、微力を尽くします」

 

 

 一同沈黙。本当に沈黙。更に沈黙。

 

 達也としてはこの反応は予想外だったらしいが―――。爆発を起こすのが一人、いや二人いた。

 

 

「ばっ!バカな! いつものお前ならば理知的かつ理性的に『一科の反感買いたくないから、他を当たってくれ』とか慇懃無礼に言いかねないのに!!」

「そうよタツヤ! いつものアナタならば無表情で無感動に『らめぇ!堪忍してぇ!! ムリムリムリかたつむり!!』とか内心で言っていそうなのに!!」

 

「お前ら二人は俺の事を何だと思っているんだよ?……流石に、こんな状況下で愚図っても仕方ないだろ。そして現在の九校戦登録メンバー……一年の中で『遠隔系魔法』に長じれているのも、俺か幹比古―――刹那は当たり前だが、そんぐらいだからな」

 

 珍しい達也の呆れ顔。というか明確に苛立っているような顔で返す達也。やはり理性的に理知的に戦力分析を果たしていたようだ。

 そしてその上でも、一度は断って会頭の説得があるかと思ったのだが……。意外な結果に誰もが拍子抜けだ。

 

「サイオン弾の連射。お前のスペルブリット(魔弾)は俺も研究してきた……三高のカーディナルに見せつけたいものだからな」

 

「へぇ。好戦的だな。心境の変化か?」

 

 何気なく問い質した言葉。それに薄く笑う達也の顔が焼きつく。

 

 

「ああ―――最初に言っておくよ。刹那、俺がピラーズに参加するのは―――ただ一つの理由だ。

 一条と闘っているお前を見て思った―――『俺は、お前と、もう一度闘いたい』……ってな」

 

 

 だからこそ、その挑戦的な言葉が耳にこびりついて……離れない。

 

 しかし心地よい言葉だ。己の刻印が疼くのを感じる。

 あの時―――風紀委員選定の際の決闘での尻切れトンボな結末は、お互いに「しこり」となって残っていた。

 

 ならば―――答える言葉は一つだ。

 

 

「あがってこい。浅川、平山の位置だろうと……俺と闘うためには決勝までこなきゃならないんだ」

 

「頂点で待っていろ。すぐに引きずりおろす。それだけだ」

 

 

 お互いに闘志と宣言の限りを行って目をぶつけ合う。その男らしい表情を見ながら―――。

 

 

「ここが私と摩利の部屋だと分かっていても男らしくなっちゃう二人の後輩の男子!!! いいわ!!! これぞ青春!! ここで今日寝ると思うと色々濡れちゃいそう!!!」

 

「お前、そんなことしたら叩きだすぞ!!」

 

「いいじゃない。その時は摩利は彼氏である千葉さんのお兄さんのところに泊まりに行けるわよ。ずばり理由付けは同室の女子がHENTAIすぎて―――」

 

 三年の女子先輩二人の言い争い。それを尻目に部屋から抜け出す。

 

 未だに色々と赤くなったり赤くなったり忙しない渡辺委員長をからかう七草先輩を見ながらも―――会頭含めて脱出。

 

 

「登録の方は俺の方でやっておく。学内にライバルがいて羨ましい限りだ……俺に追いつけたかもしれないライバルは俺を不動明王にしてから去ってしまったからな」

 

 

 運命の皮肉を思い出して寂しい顔をした会頭がホテル内から本部テントに向かう姿を見ながら―――。

 

 

「んじゃ、まずは今日も勝ちに行くか。中一日で暇な奴らはサポート頼むぜ」

 

『『『オウッ!!!』』『『イエッサー』』

 

 

 何故か反対側の通路に隠れ潜んでいた連中に、声を掛けると現れる一高一年勢。

 

 こういう危機的状況では指揮を執るのは、自分が平時の人間ではなく乱世の人間だと自覚しているのではないかと思ってしまう。

 

 昨夜に出したリーナたちの結論を覆す刹那の声を前に全員が団結する。

 

 そして―――……。

 

 

 多くの人間の歓声が降り注ぐ青空と太陽の下で相対しあう青星と雷星―――。

 

 一度は地球規模の寒冷化を起こしたはずの地球であっても夏場にはまだまだ暑くなる。

 

 コートから放射された熱が陽炎を作りながらも、その彼方に求めた相手の姿を見る。

 

 

 その手に執るはお互いにラケット。この戦いにおいては得物はそれでなくてもいいのだが互いに、肉体を躍動させて勝ち上がってきた金色の女神二柱の戦いが、この上なく高まるのを誰もが感じる。

 

 その戦意を両者が知っていた。その乙女心を互いに承知していた。

 

 

 ならば、もはや交わす言葉は要らず、互いの魔法で語り合うのみ―――どちらが遠坂刹那に対する愛が深いかを……。

 

 その結論だけが2人を躍動させていた。

 

 己を除いた23人の相手選手。そんな数には意味などなかった。そんなものはただの『状況』にすぎなかったのだ……。

 

 

 アンジェリーナ・クドウ・シールズにとって、この戦いは―――。

 

 エクレール・アイリ(一色愛梨)にとって、この九校戦の本命は―――。

 

 

 すべて、いま目の前に立ちはだかる恋敵を倒すだけにあったのだ。

 

 

 魔力の雷が幻視出来てしまうようなプラズマの戦場で、女子クラウド・ボール新人戦決勝―――2女神の戦いは、幕を切って落とされるのだった。

 

 

(((何コレ……?)))

 

 

『宿敵相対』からの『煙火の死闘』……それを予感させるものを見た人間達は思わず目を伏せる。

 

 どうか蘇生からのキャリコ(?)の連射とかありませんように……そんなものを想いながらも戦いは否応なく始まるのだった……。

 

 


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