魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
演技の幅が広いと色んなキャラでこういった風なシンクロが起きてしまう。
蛇足である。
では新話どうぞ。
追記
2018年7月20日 指摘を受けて修正。
2018年7月25日 指摘を受けて修正。
最初は気乗りしない任務であった。如何にスターズへの正式入隊へのテストだとしても、その任務内容は明らかにコミカルすぎるものだったからだ。
いや、そういった一種の穴倉決め込む『アライグマ』を誘い出す『コヨーテ』の真似は軍でもよくつかわれる手法ではあったが―――。
それでもまさか、前時代的な――――リーナの血に混じる祖国『日本』でも20世紀後半から21世紀初頭に流行った『魔法少女』な姿で敵を誘い出せなど、あまりにあまりだった。
最初の任務。ひったくりを捕えるという体で魔法少女として推参しろと言われて『やらかしそう』になった時、リーナを手助けしてくれた存在がいた。
軍人としては『失格』かもしれないが、あの時の自分は本当に羞恥心満載な上に動転していたので、本当に助かった。
でなければ―――最悪の結果をもたらすことになったかもしれない。もしかしたら、試験の内容とはこういった如何なる状況においても、冷静さを発揮出来るかどうかだったのかもしれない。
だが、そうであったとしてもあの『プラズマリーナ』な衣装に対して羞恥心は薄れなかったはず―――。
「セツナ――――」
あの中でも確信していた少年、自分を少しだけ後押ししてくれて、その後も何かと自分と会ってくれている少年。リーナの中に混じる日本人の少年。
彼が『可愛い』と言ってくれたからこそ、今の自分はある。そしてプラズマリーナと『双極』を成す『魔法怪盗』の正体も―――。
全てを自分に打ち明けてくれないセツナへの寂しさ。無論、自分も隠している以上しょうがないかもしれないが――――それでも、もう『追いかけっこ』は終わらせなければいけない。
数日中にアビーの研究は完成へと向かう。リーナも協力していたそれが終われば任務と言うよりも『重し』の一つは終わる。
それならば軽い気持ちで―――今度こそ『魔法怪盗』と決着が着けられる―――。
もしも仮面の下の素顔が違っていれば、その時は神妙にお縄に着いてもらいたい。だが―――あの少年だったならば……。
リーナはその想像に『何故か』顔を赤くした。そうしてから私室における自主学習(ハイスクール相当)を放り出してしまった。
「ど、どうすればいいんだろ―――そう言えば、博士から借りた電子書籍があったわ。一番、あのコスプレ姿『プラズマリーナ』の『名称』に近い作品。確か―――ナオコ・タケウチ作 美少女戦士――――」
そんな風な乙女の行動はある意味では致命的に、何かを狂わせるのであった……。
† † †
ここ数日のアンジェリーナ・クドウ・シールズは、正直言えば―――絶好調としかいえなかった。
アビゲイル・ステューアットが考案した新魔法の実験の調子も、俄然あがっている。この調子でいけば予定よりも早く戦略級魔法『メタル・バースト』の実用にもこぎつけられる。
即ち、リーナが戦略級魔法師の列席に位置づけられる日は近いだろう。
アビーとしては上々過ぎてホクホクではあるが、件のテスト―――即ち、リーナが『スターズ』に入隊出来るかどうかの適性試験―――これは少し芳しくなかった。
いや、『マインドセット』という点では寧ろ上々過ぎるほどな結果ではあるが……まさかあんな存在が、二人も出るとは思わなかった。しかし『二人』だからこそリーナは『安定』していたとも言える。
そんな少し悩むアンジ-は、最近のボストンのニュースペーパーから、全国紙とでも言うべきものにまで、眼を通してため息を突いた。
「東海岸を騒がせる現代の『二大』怪人―――」
「『彼ら』の正体は果たして、ミュータントか、はたまた『クラーク・ケント』か―――」
「現代の合衆国に現れし、魔法『超人』―――美少女魔法戦士プラズマリーナ、『魔法怪盗プリズマキッド』―――彼らの関係は現代の『ウサギ』と『マモル』か……この記事を書いたヤツは重度のOTAKUだね。いい見出しだ」
笑いこけながらそれをアンジ-に渡すアビー。受け取ったアンジ-としては、全然面白くない。
「しかし、ここまで騒ぎになっているというのに合衆国の上も動かないね」
「情報が情報だから、とはいえそろそろスターズも本気になってきているわ」
「へぇ……それで、件の『少年』の身元は割れたんだろ?」
「名前はセツナ・トオサカ―――偽名ということもありえるぐらいに恐ろしく『雑な情報改竄』だったわ」
実際、連邦データベースの一つである出入国記録などは、分かりやすすぎるぐらいなクラッキング、ハッキングであった。
まるで『見つけてください』と言わんばかりに稚拙な手際であり、それが彼の真実でないことぐらい、分かり切っていた。
「ふむぅ。身元不詳のいきなり現れた魔法師―――しかし、彼は『魔法師』といえるのかな?」
「SB魔法師というあなたの見立ては?」
Spiritual Being(スピリチュアル・ビーイング)魔法―――心霊的存在を利用した魔法技術。分類としては彼の母国と見られている日本での『古式魔法師』に該当するかという、アビゲイルの見立てを、アンジ-は問い質す。
「外れではないが―――どうにも致命的なものを『外されている』といえばいいのか、そんな印象だ……適当な理由を付けてふんじばってしまえないのかな?」
それをしようにも、彼は存外『隠れ身』が早い。実際、リーナと会っている時など、監視している『こちら』を分かっている印象だ。
監視の目を誤魔化す手段にも長けた彼。追跡も簡単に巻かれる―――セツナ・トオサカ―――彼の正体を知りたいとして、アンジ-の『上』が動き出したのだ。
「魔法少女を助ける謎の存在―――、定番としては力を授けた側の上位にいる人間―――」
「どういう意味?」
「まぁつまり―――有体な言い方をすれば『異世界人』とか『異次元人』、その『王子』ということもありえるんじゃないかと、まぁそんなのはフィクションの世界だけだね」
「リーナの魔法少女は『月にいた黒猫』や『ケロちゃん』によって与えられた力じゃないわよ」
ごもっとも、という意味で肩を竦めると――――、アビーは研究を再開した。
そんなアビーとは逆に、アンジ-は、否定しながらもその可能性を考えていた。ここまで卓越している魔法師―――しかも日本大使館の反応からも、少し違和感がある。
件の人間が恐らくプリズマキッドだとして……そうでなかったとしても東洋人的な人間が、あそこまでの力を持っていれば日本政府は本腰を入れているはず。
時間は少ない。このボストンの街が学術都市からスパイの『ラスベガス』になる前に―――プリズマ仮面及びセツナ・トオサカの身柄を抑えて新ソ連の間者を根こそぎひっ捕らえる。
そのアンジ-……アンジェラ・ミザールの意気込みは数日以内に遂に現実のものとなった―――。
† † † †
「――――ではさらばだ! 美少女魔法戦士プラズマリーナ!! キミの星はきっと輝く―――」
「待ってプリズマキッド!! いいえ! 今度こそ―――アナタを捕えて見せるんだから!! 待たなくたって追いついて見せる!!」
違法魔法師の一人。遂にド本命とも言える新ソ連の間者を昏倒させたボストンの『二大怪人』は、『いつもの如く』ボストンの夜空を舞うチェイスを開始した。
銀色の―――無機質な仮面とシルクハットで顔を隠した怪人。正体を完全に隠したそれとは逆に派手というか人目を惹きつける白のタキシードを着込み、赤色のマントを羽織った紳士は―――。
今日はずいぶんとしつこいな。と思いながら、どうにかこうにか撒けないかと考える。
『ふむ。カレイドライナーとしての『飛行魔術』を使っているというのに、彼女追ってきているぞ』
「マジか―――正直、今日は気合いが違うな……」
あれから調べたことであるが、この世界の魔法では『飛行』というのは結構、難儀な技術障壁があるらしい。
無論、刹那とてカレイドステッキの手助けなければ少し難儀することもある。しかし、やはり二人の『魔女』に育てられただけあって―――、その手の『夢見心地』なものは刷り込まれている。
そんな刹那の考えを読んだのかオニキスは、とんでもないことを口走る。
『それもあるが、ははぁ―――さては刹那、キミ『あの日』だなっ!!』
「んなわけあるか―――!! いや確かに、男の魔術師にもバイオリズムみたいなのはあるけれども! 関係ないだろ!!」
『『魔女』に育てられた男子が
あの世界で18年間生きてきて、知らなかった事実。それをまるっと信じるならば有りえないことではないと言えたが―――。
「リーナの足……あれはもしかして―――」
『成程、全身に走る電気信号を用いての『電磁弾体化』――――それで小規模な加速を用いているんだ』
時々、リーナの足を奔る電気に気付く。時に着地した建物を足場に加速。そういった原理かと思いつつ、身体にかかる負担はどうなんだろうと思える。
その瞬間、刹那の眼に構成が走る。やるつもりか―――。刹那に戦慄が走る。
プラズマリーナとプリズマキッドが争う時に放たれる魔法の一つ。
人々は、その争いに対して題を付けた。雷火の争いと――――。
「食らいなさい!! ムスペルスヘイム!!」
瞬間、広範囲に渡って雷光が夜空に煌めく灼火の世界が展開される。気体分子をプラズマに分解して恐ろしいまでのエネルギーが電磁場を作り出していく。
その世界に捕らわれれば―――まず自分の肉体は一瞬にして無くなるだろう。強制沸騰されたタンパク質が、どうなるかなど容易に想像が着く。
だが、それを退けるのもまた―――超常の理、神秘の世界の理である。それらがプリズマ仮面―――遠坂刹那の周囲を覆う。
「―――― Achilles Schild,Nein」
マントを翻して、身を包むようにすると―――幾重もの魔法陣が展開されて、それらは―――円形の盾となりて、積層化して刹那を防御する。
プラズマによる浸食が神秘の世界を脅かす。数十秒の攻防―――。雷火の浸食が火花と灼火の大輪を咲かせながらも、それを『アキレスの盾』と名付けられた魔術は防ぐ。
あと一分はもつかと刹那が思うと同時に―――リーナは術式―――『起動式』の展開を止めた。
正面からの打ち合いでは分が悪いと思ったのか体力の限界なのか分からないが、防御術を展開させながら降り立った場所はリーナと初めて会った場所であり―――何度も待ち合わせて、出会った場所だった。
人は誰もいない。あらかじめシャットアウトされていたかのように岸壁に寄せては返す波の音しか聞こえない。
いや―――それ以外は、彼女の声だ。それが刹那の耳朶を打つ。
「ここは、ワタシのことをいつまでも見たいと言ってくれた男の子との出会いの場所――――本当に思い出詰まった場所……」
「………」
「プラズマリーナが現れた場所に、彼はいてくれた。同時に―――その場所に、アナタも現れた……。だから余計に分からなくなった……」
「なにがだ?」
卑怯だな。俺は―――。内心での自嘲が顔を曇らせる。今にも泣きそうなリーナに対して……最低な人間だと感じる。
「あの日―――ワタシがプラズマリーナとして初めてボストンの街に来た時、あやうく『ガトリングガン』なんて出してきたひったくり―――それを過剰殺傷しそうになったワタシを救ってくれたのは……ここで出会っていた男の子。セツナ・トオサカ―――」
「――――」
「だけど、彼は―――何もそんな素振りを見せないで、私に接してきた―――ただの女の子として扱ってくれることが嬉しくて―――けれど、『こちら側』に触れないのが、『突き放されてる』ようで悲しかった」
独白は続く。同時にリーナは小振りのナイフを取り出してきた。ダガーサイズのそれが、何らかの『力』を帯びるのが見えた。
少女の手の中では、その刃物のサイズは不釣り合いながらも、不思議と衣装もあいまっておかしさが出てくる。
若干、ヘンな刃傷沙汰を起こしている気分になってきた刹那は―――それでもそれに抗する為に、アゾット剣を抜き放つ。
「だから―――今日こそアナタの仮面を砕く!!! そして真実を晒す!!」
矮躯を活かしての攻め手。リーナの反応と動きは鍛えられた軍人のものだ。
身長差を考慮しての下方向から突き上げるようなナイフの動きは、『執行者』として、『封印指定執行者に鍛えられてきた』刹那であっても中々に苦慮するものだ。
人間以上の『モノ』との戦いを繰り返してきた刹那とは違い、リーナの動きは徹底的に『殺人』へと向けられるもの。
何より向けられる刃の正体も看破出来た。どうやらこれは一種の疑似的な『ダマスカス鋼』。
技術によって失われた古の宝剣を再現したものであると言える。
正式名称『分子ディバイダー』。本来的な得物に、薄板状の仮想領域を上乗せする形である種の『分子結合』を『切断』する能力を持たせた魔法に見えた刹那。
正確には物理の法則がもう少し関わることであるが、そうやって『強化』された得物を受け止めるアゾット剣だが、数合も受けると拙い切れ味になってきた。
見ると幾重にも刻まれた刃毀れが、その威力を物語る。しかし―――その様子を遠くから見ていた『存在』は、二人の様子が―――まるで円舞でも刻んでいるように見えていた。
リーナも下からだけでなく上から体重ごと叩き付ける一撃も加えたりして『プリズマ仮面』を追い詰めようとしていた。
攻防の一瞬、横薙ぎの一撃。飛び退くプリズマ仮面。その時――――リーナの持つナイフから刀身が消え失せていた。
刀身は飛び退いたプリズマ仮面を追って飛んでいる。柄だけを持ったリーナの会心の奇襲。
バリスティック・ナイフ―――射出式の刃が、撃ちだされたのは―――。狙いが『外れていた』
(まずい―――なんで―――)
リーナの狙いでは、脇腹を狙ったはずの刀身は、真っ直ぐにプリズマ仮面の眉間に向かっていった。
脇腹を狙えば、後は治癒魔法でどうとでも出来る。そういう狙いだったというのに―――。
無意識の意識。リーナの身体が覚えていた一種の本能がそれを撃ちだして、仮面に刃が突き刺さる。
「――――セツナァ!!」
本能が呼んでいた名前が、口を衝いて出た。それが真実であるかどうかなど分からないというのに―――それでも涙目で呼んだ声に従うかのように―――。
「―――問題ないよリーナ。この仮面はとてつもなくおっかない『大蜘蛛』の『脱皮殻』を使ったものでな」
「え」
瞬間、仮面に突き刺さった『刃』が『水晶』となって、砕けて風に浚われる。まるで何かの『魔法』かのように神秘的な光景が見えたが、リーナの興味はそこではなかった。
「と、まぁこんな塩梅だ」
その説明よりもその声に、リーナは驚愕していた。求めていた結末ではあった。疑っていた正体ではある。
しかし、いざその段取りとなると、混乱だけが頭を占めて、胸を締め付ける―――小さな穴を穿った無機質な銀色の仮面を外すプリズマ仮面の素顔は、この公園で見ていたもの。アンジェリーナ・クドウ・シールズの心に入り込んだ少年のものだった。
「セツナなの……?」
「うん。まぁそうだね」
再度の確認。その顔は、どこか『参ったな。やられた』という一種のしてやられて痛快といった顔。
場外ホームランを打たれて『やられた! すごいもん見てしまった!!』なメジャーリーグのピッチャーにも見える。
「な、なんで―――アナタの姿は! ワタシがこうしてプラズマリーナとして動いていた時に―――」
「それ以上は、まぁ―――他の人達を招いて説明した方がいいかな」
「え」
再度の驚愕。刹那の言葉が『召喚の呪文』だったかのように―――続々と現れる『完全武装』の『魔法師』たち―――その姿の何人かはリーナにも見覚えがあった。
USNAでも選抜された最高位魔法師の軍隊スターズの面々が揃っていた。
その中でも―――今回の任務にリーナを就かせたベンジャミン・カノープス少佐がいたのが、リーナの神経を尖らせる。
「―――ご用件は?」
「准尉やミザール少尉が手間取るほどの―――君の力を拝見したい」
まるで古式ゆかしいサムライか何かのように『鎧』―――スラスト・スーツに身を包んだ偉丈夫が、笑みを浮かべながら『軍刀』を見せつける様子。
それに対して同じく、刹那も着ていた服を脱ぎ捨てるかのように、『完全な戦闘態勢』。
マントを外しての変装の如く、一瞬にして着替えた姿は、タキシードを着た怪盗ではなく、朱いコートを羽織り、その下には『スーツ』を着込んでいた。
非常に不可思議というか、完全武装したカノープス少佐との対比でひどくアンバランスだ。
だが、それでもリーナには分かる。この姿こそが刹那にとっての戦闘服なのだと。
手袋―――丈夫な黒革製のものを手にしっかりと装着する刹那は、それで準備完了となったのか、口を開いた。
「さてと―――それでは、その『神秘』―――『封印』させてもらう」
刹那のその言葉を合図に―――スターズにとって『一度目』の完璧なまでの『敗北』が刻まれることとなるのだった……。