魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第65話『九校戦――決戦前』

 

 女子クラウドの試合は、かなり力の差が明白に出た試合ばかりだった。ピラーズ予選までの間だけでも様子を窺いたくて大モニターがあるところで順番を待っていた所に、闖入者という知り合いがやってきた。

 

 大モニターに映る予選のプレイバック映像を見て二人の知り合いの内の一人が呟く。

 

 

「いやはやとんでもない試合じゃの。愛梨もそうじゃがリーナも大人げない」

 

「手心加える方がよっぽど問題じゃないかな?」

 

「それもそうじゃが、キセキの世代と他の中学生ぐらい違うのではな」

 

 腕組みしながら悩ましく言う少女。

 ウチ(一高)の幻のシックスマンである『タスケ』君が聞いたらばアレな理屈を語る四十九院沓子の言葉。

 

 画面に映る試合。女子シングルス準決勝の様子―――そこに至るまでの『軌跡』を見るに、トウコに言いながらも容赦ねー。という感想が出てしまう。

 

 

「春日はくじ運悪すぎたな。もうちっと後で当たっていれば入賞出来たかもしれないのに」

 

ウチ(三高)の早見。わしらは『はやみん』と呼んでいるのも、リーナと当たるの速すぎたと思う。イーブンじゃ♪」

 

 

 なるほど。お互いにくじ運悪しか、と思う。しかしながら、この場にいたっては何故に……この組み合わせか。

 トウコを左に、右には十七夜栞―――『しおりん』がいたりする状況。他校の綺麗所を侍らせていることで周囲にいる連中から殺気が漏れ出る。

 

 刹那が意図したわけではないのだが、自然とヘイトを集めてしまう状況である。

 

「リーナさん。ピラーズに出るんでしょ? 何か探れないかと思って、刹那君の隣は情報収集に最適」

 

「あいにく余分なことは言わないぞ。流石にその辺りの公私の区別はつける」

 

「彼女自慢したくないの?」

 

 

 これが十七夜栞の持つ異能。『アリスマチックアイズ』……刹那の世界で言う所の『マセマティックスアイ』(黄金世界視の魔眼)は、見抜いた嫌な真実を告げてくる。

 確かに一色と決勝戦となれば、何気なく言ってしまうかもしれない。モノの弾みというのは恐ろしい。

 

 何より十七夜も見目麗しき少女。少し寡黙で毒を吐くところは雫に似ているが、スタイルは33-4でしおりんの勝利。

 四十九院も年齢に似合わぬ少女さと天真爛漫……かつ少しの無邪気さでポイント高い美少女である。あーちゃん先輩とは逆のベクトルのロリっ子である。

 

 そして一色応援組であるこの二人に掴まった時点で、詰みだった。

 

 

「女子ダブルスの決勝じゃな。一高と五高の戦い……中々に伯仲しておる」

 

 大会場モニターが切り替わり、平行して行われていたクラウドのダブルス……女子の決勝を移してきた。

 

 ダブルスは九つの学校で一組か二組を出すぐらいに重要度が高くない。エース級は全員シングルスに専念させている分、『獲りやすい』という戦略もあったが……。

 

 本戦の結果を受けて中々にここに注力してくる学校もあって、レオと幹比古、美月と桜小路と苦戦してきたが、付け焼刃で彼らのコンビネーションは崩されない。

 

 

「柴田美月さん……胸が大きい子だと思っていたけど、成程、内蔵している神秘も大きいわね」

 

「軽いセクハラでこっちの動揺誘わないで……美月に戦闘用として教えた魔術は一つのみ。『月』という属性を利用した『鏡面展開』……」

 

「鏡面?」

 

 

 ―――見ていれば分かる。眼だけで言うと三高女子の視線は完全にモニターに釘付けになる。

 

 試合開始の審判の腕振りでシューターから射出されるボール。

 

 その前に、両腕の魔術礼装『月蝕』『真月』の二つが起動を果たして、美月の両腕を起点に幾つもの月面にも似た『魔鏡』が展開される。

 

 魔鏡は光り輝き―――ボールに干渉する。干渉してきらめく光の尾を引きながら、相手コートに返っていく。

 

 ここまでは現代魔法に少しばかり彩りを加えた程度にしか思えないだろう。

 五高の相手選手も舐めて「一高はいつから奇術師の集団になったんだ!?」とか言っている。

 

 ここに来るまでに試合を見てこなかったのかと言わんばかりの発言。

 しかし、射出されたボールに干渉しようとした。特化型CAD……そこから発動する魔法が、効かない。

 

 魔法式が砕ける。干渉強度が段違いなのかと気付いて再びだが……低速に投げ返されたボールが、相手コートに転がる。

 

 ラケット持ちの選手が、直接撃ち返そうとするも……その『重み』を実感する。

 

 それでも撃ち返したボール。すかさず美月の『眼』と連動した鏡が、それを撃ち返す。

 今度はラケット持ちが積極的に前に出て撃ち返そうとする。如何に干渉強度が段違いで、移動系統魔法や加速魔法を受け付けなくても物理的な力で返されれば、どうしようもない。

 

 更に言えば美月の撃ち返すボールは、速度が出ていないのだ。撃ちにくい場所に撃ちだせば、あの胸部の『デカすぎる重量物』を抱えたままでは、対応しきれまい。

 女の嫉妬交じりの思惑で動き出すのだが、撃ち返そうとした時には―――更に強度が、『重み』が違う。

 

 今にも腕が折れそうな重さを感じる。あり得ない感想。ここまで低反発のボールを『重く』すれば、破裂していてもおかしくないのに。

 

 現象の不可解さを置いても、とにかく打ち返す。そして再び返ってきて新たなボールに干渉する美月。

 

 五高の選手がそれを見て……その表情が物語るのは……苦悶と苦痛。それだけだった。

 

 

「ううむ。もしや感染呪術的なものかの?」

 

「正解―――美月にレアな属性。『月』があるのを知ってから、教導してきたんだが……最終的にはこれに落ち着いた」

 

 どこからか出した眼鏡を掛ける刹那を見て、魔法科高校の選手たちは、『授業』だな。と気付く。

 思わず佇まいを正してノートなり何かのメモ帳端末を起動させたくなる。

 

「鏡というのは、昔から何かを『映し出す』という行為に使われたものだ。

 古くは卑弥呼の祈祷による先視から陰陽師の呪術や平安貴族以来からの身だしなみのためのもの……己の眼では己の事を見れないからこそ作り出された鏡という器物は、今の時代にも残る神秘の一つだ」

 

「確かに、ね。女性にとっても『手鏡』っていうのは余程、お洒落に頓着しない子や絶対の美貌で自信ありな子以外は大体は持っているものよね」

 

「そう。つまり鏡が作られた背景には、『己を見る』という行為が大なり小なり存在した。視る(見る)と言う行為は人類が持ちえた最初の魔法だよ」

 

 栞の言葉に返してから、その上で水鏡から石版鏡、金属鏡、銅鏡……ガラス鏡へと変化していった現代においても、『鏡の向こうの世界』というものが信じられている。

 

「鏡に映る己は『反転』した形で映し出される。右手を上げて映っていてもあちらの世界の『己』にとっては、右手は左手―――。左手は右手。『さかしま』に映る己に何か『おぞましさ』を感じたことはないか?」

 

「……無いとはいいきれないわね。けれどそれって幼稚園、小学生とかそんなものよ?……」

 

 誰もが一度は想像をする『鏡の中の世界』。無論、そこでライダーバトル云々は想像力過多かもしれないが、ともあれその鏡の中の自分は自分ではないのか?

 鏡の中の自分はいつか自分と入れ替わることを願っているのではないか―――魔法師や魔術師云々ではなく子供の想像力や流言飛語の怪談話でも言われたりするぐらいに『鏡』は身近な神秘の器物なのだ。

 

「もちろん。いま言った事は、ただ単に己の気持ちの持ちようでしかない。しかし……魔法的魔術的理論に基づけば、これは興味深い事象さ―――これみたいにな」

 

『『!?』』

 

 後半で言うと同時に懐の護符であり先祖代々の『魔鏡』を取り出して適当な壁に映し出す。

 光のシルエットで映し出されたそれは、(しゅ)の御子の姿を映しだした。

 

 周囲がざわつくぐらいに、見えぬ魔法をしてくれた遠坂刹那に注目する。

 

「メシアの像。そうか! それは本当の魔鏡! 隠れキリシタン達が信仰を絶やさないために作り出した二重構造の鏡!! 

 つまり最初から鏡というものは、『信仰心』揺るがない『プシオン』の塊だったのじゃな!?」

 

 概念武装の領域の話をされて四十九院の察しの良さに少しだけ嬉しく感じる。

 

「正解。美月の魔法も同じようなトリックさ。

 あの魔鏡で干渉された『物質』なり『物体』は『鏡面世界』の『魔力』を受けて像をずらしている。右手が左手に、左手が右手にと言った風に。

 魔法式で干渉しきれないのは、ボールが違う世界の魔力を纏っているからだ。

 そして、そんな風に「鏡」は昔から神秘の器物として扱われて『呪術』にも使われてきたんだ……触れた瞬間に相手のエイドスに直接干渉して『重み』を感じる風になる」

 

「オカルティズムの極致ね……けれど、それならば、納得いくものもあるわ。柴田さんが魔力で干渉したボールはその時点で、『違う世界』の器物となっている……」

 

「月が輝き白光を発するのは太陽の光を受けての事……色々と面倒な神話的解釈もあるが、掻い摘んでいえば『月鏡の魔力』を受けたボールは、この世界の『ルール』から外れているのさ」

 

「しかし、撃ち返されておるの? まぁ総じて美月の方が有利じゃが、乱打戦になってきておる」

 

 如何に、属性に応じた対抗が出来たとしても、流石に美月もこの術式『カレイドムーン』(幻月万華鏡)を安定レベルに出来るようになってから、一月も経っていない。

 せめて後一週間あれば、様々な礼装の調整と共に訓練も出来たのだが……。三分間のスマッシュゲームで美月が不安定さを滲ませてきたのは徹底した教練をしてこなかった俺のミスだ。

 

 これで負ければ幹比古には悪いがしばらく刹那が美月の『犬』になってやるという気持ちでいたが、問題なさそうだ。

 

「まぁその為の――――俺のクラスの学級委員長様だ。美月が干渉しきれなかったボールは彼女が担当する……」

 

 トウコの言葉に返すと同時に、ここに来て動き出した桜小路紅葉が思いっきりボールを打ち出す。

 

 ある意味、緩から急へと転じたボールに、不意を突かれる五高の面子。おまけに撃ちにくい位置。干渉を駆けづらい軌道で打ち出したことで苦慮する。

 

『フォローお任せします!』『まかしときっ!!』

 

 なんで姐さん言葉? 桜小路への疑問はともあれ、彼女らの必勝パターンが披露されて、五高は完全に折れてしまっている。

 

「第一セットはもらったな」

 

 結果的に三分間の1セット目は、一高側のものとなった。しかし、五高の選手はエイドスにまで干渉されたことで予想外のサイオンの消費。

 

 第二セットをやる元気はあるのか、ないのか……。

 

「本戦の七草真由美さんみたいよね。ただ一つの魔法で勝ったんだから」

「あちらの戦意と魔力を刈り取れれば、更にだけどな。やる様だが……果たして―――」

 

 五高の選手。特にラケット持ちは、美月の『重すぎる魔力球』を打ち出すために変な力の入れ方をしていた。

 

 本人はやる気であっても、腕を抑えている様子からしてドクターチェックが入るのは当然であった。

 

 腕のチェック。特に握力。

 魔法発動のCADに必要ないとはいえ、撃ち返すのがラケットである以上、それは当然であった。

 

 はちみつレモンを食べている二人―――少し仲良しになっている美月と桜小路がその姿を見て……。動きを止める。

 

『握れるかね? 思いっきり力こめて』

 

 審判が言葉と共に手を差し出す。五高の女子が節くれだった中年の男の手を握りしめている様子は、どう見ても―――無理筋であった。

 

 苦悶の表情を見せてから、涙を流したラケット持ちをしていた五高の選手…特化型CAD持ちが慰めている様子。

 

 それを見てか見ずか審判が手を交差させて試合終了を宣告。歓声が降り注ぐのであった。

 

「折れていたか、何ともサマにならない幕切れだな」

「五高の慢心もあるじゃろ。ここに来るまで相手選手のチェックを怠っていた風じゃしの」

 

 勝敗など実力云々だけでは決まらない。様々な要素が複雑に絡まって、こんな風なものもあるのだ。

 

「関係ないわよ。どんな事情があれ、一位は一位だもの」

「ありがとよ栞」

「しおりんってフレンドリーに呼んでもいいよ。もしくはマイハニーとラブリーに呼んでもいいよ」

 

 後者だけは絶対にないよ。美月と桜小路をフォローしてくれた「しおりん」に想いながら……次の試合。

 

 開始の合図を待つシングルス決勝においては……。

 

「相手の腕が折れてテクニカルノックアウトなんてことはないわね」

「あるいは、両者が同時に倒れ込むかじゃな?」

 

 もしくは試合にかこつけて『死人』が出てもおかしくない……次の試合に対する刹那の内心の不安を感じ取ったのか。

 

「「ドントマインド」」

 

 両隣の綺麗所が肩を叩きながら言ってきた。その言葉を皮切りに二人の金色の女神がコート上に現れたのだった……。

 

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