魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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続きは書いているのですが、キリがいいのでアップ。どうにも長文の傾向と展開の長さが出てきたなぁ。

もう少し省くべき所は省くべきなんでしょうが、今でも結構省いているんですけどね(苦笑)


第67話『九校戦――決戦Ⅱ エクレール・アイリ』

「ではこれにておさらばでございます。ワタシの仕事は、ここまで、後はアナタ方まかせ。よろしくて?」

 

「商品のアフターケアぐらいはしてもらいたいものだがな。プラーミャリサ……」

 

 イワンの連中。新ソ連の妖猫どもが根城としている所にて、桃髪の女は眼鏡を掛け直しながら、仕込が済んだ『調整兵士』……別名『超兵』(コシチェイ)を見ながら担当者に返す。

 その飄々とした言いざまに何とも言えぬ表情をするイワンの兵士達。モンゴル地区の人間もいるのが、この集団の歪さを表していた。

 そして日本にいる無頭竜たちの遺体を兵士に出来たのは、女の力ゆえである。

 

「まぁどうしてもというならば、もっと『マシな素材』が『目の前』にあるので、そちらを利用してもいいんですけどね?」

 

 己の肌を撫でながら言う。その妖艶ながらも魔性を感じさせる仕草―――。

 ぞわっ。そうとしか表現できない背筋の粟立ち。言われている意味を理解できていない人間はおらず、いくら人倫を逸脱して、偉大なる先達をエンバーミングして保存している自分達でも、自分がそのように人体を弄られたいとは思えないのだ。

 

「ご要望とあらば、ゴージャス、ゴールド、エレガントにお電話下さいな♪ ワタシ、残酷ですわよ」

 

 一体、何をするつもりなのか。分からぬままに―――部屋から去っていく女。外から差し込む光で一瞬だが、女の影が部屋に映し出されてそこに『四本の尾』を持った狐の姿を見た。

 見間違いではないぐらいに、はっきりと見たイワンの特殊部隊員たちは……この女が……『妖魔』の類であることを理解していた

 

 

(何を考えて……あの『お方』は、この女を重用するのだ?)

 

 そんな答えの出ない問いを抱えたままに、イワンの工作員たちは、作業を開始する。大陸産の『ジェネレーター』を更に違うモノへと変えたこれを以てさまざまな魔法師達の卵を捕獲していく。

 今の御殿場市は一種の漁場である。ここにいる人間達を拉致した上で『ナージャ』に送り込み、連邦に服従する人間に改造する……するのだが―――。

 

(出来るのか? 本当に―――)

 

 

 競技用魔法だけを使っているとはいえ、凡そ300人は下らない学生魔法師の戦いぶりは、小勢では何も出来ないのではないかと思う程に恐ろしいものだ。

 

 いま考えても、こんな作戦…無謀に過ぎる。そして無頭竜が計画していたという一高頓挫による胴元大儲け……ギルゲームス(いんちきゲーム)の主催における妨害行為も今では意味があったのかすら疑わしい。

 

 漁場は漁場でも……血に飢えたアクーラ()カサートカ()では、こちらが食い殺される運命しかない。

 

 しかし下った命令は実行しなければならない。自分達が捨て駒にされたとしても、やらなければどちらにせよ銃殺刑なのだ。

 

 そして、運命の時は近づく………。

 

 破滅が下るまで――――。時間は残されてなかった。

 

 

 † † †

 

 

 このままでは勝てない。そんなことは分かっていた。

 

 対面のベンチで小柄な女子生徒―――技術スタッフの女子からはちみつレモンを貰って食べるアンジェリーナは手強すぎる。

 

 今のままでは無理だろう……。そんな思考をしている愛梨に差し出されるタオル。同時に心配そうな顔が見えてきた。

 

「一色さん」

 

「心配は無用です。吉祥寺君―――私なりに考えていることがありましたから―――」

 

「確かに、有効な手段だけど……『本気』なの?」

 

 

 サポーターとして就いてくれたのは、吉祥寺真紅郎である。相棒である一条将輝は、いま現在、修行の真っただ中。

 錆びた真剣で、大木を斬るぐらいの訓練を行っている彼の復活あってこそ三高に勝利は見えてくる。

 

 それまでは愛梨や火神が三高の進撃をサポートしなければいけないのだ。

 

 

「ええ、正攻法で追いつけない相手ならば……奇策を以て戦わなければいけない」

 

「技術者としては、あまり受け入れがたい言葉だね」

 

 

 苦笑の言葉の後には、一色愛梨は愛用のレイピア型のCADを取り出して感触を確かめる。ラケットの交換ならば分かるが、まさか取り出したのがそんなものでは誰もが注目を集める。

 

 対面の女も眼を見開いて、その真意を探ろうとしているが―――。それは分かるまい。

 

 

 見ていたアンジェリーナ。そして中条あずさとしても、その得物に瞠目してしまう。

 

 

「どういう意図なんでしょうかね?」

 

「アンノウン。その一言ですよ。ただ彼女がサーベル競技を得意としている以上、何かはありますよ」

 

「打撃面積が広くないレイピアを用いてのラリー……今年の九校戦はイロモノ極まれりですねぇ。もちろん、セツナ君は除いてですけど」

 

「ウソつかなくていいですよ。アズサ先輩♪ とはいえ協賛スポンサーであるCAD企業としても頭が痛いんでしょうけど」

 

「形式化及び定型化してしまったCADを使っての魔法行使―――それを打ち破っちゃいましたからね……」

 

 

 しかし、CAD企業としてもそれらを見て、何とかして枠に収めようとするだろう。無理筋な話だろうが。

 

 あずさとしても梓弓などがただの精神に作用するだけでなく何かの武器として使えればと思ったことは幾度もある。

 

 八王子クライシスにて自分が出来たことなど生徒達の大半を落ち着かせることだけ。

 その後に防衛戦線に加えられたものの恐怖で打ちふるえそうな皆の気持ちを安定させるだけの自分に無力感もあった。

 

 せめてこの弓が、何かを撃ち貫ければ……古来より破邪を司る『梓』の弓のごとく……。そんな想いばかりだ。

 

 

「ともあれ、今はワタシとセツナの愛の力で打ち倒すだけです!」

 

「愛の力って何でしょうか?」

 

「ステイツで教えられてきたもの……セツナがワタシだけに教えてくれた『魔法』で倒すのみです」

 

(余計に嫉妬の炎で燃え盛りそうなこと言いますよね……)

 

 

 呆れつつもあずさは考える。

 首から下げているネックレス。それの中央にあるのは、宝石なのか何かの感応石なのか……ともあれ登録されているアンジェリーナ持ち込み道具の一つとして、それはある。

 

 一色の方もどうやらその手の小型のCAD……殆ど完全思考操作型みたいなのを利用しているようだが、あくまでハンドメイド機器として規定には引っ掛からないようである。

 一高の春日や七草会長とは違い、己の肉体と魔法を連動させてのスタイル……来年には、シューティングもそうだが、このクラウドも無くなっているかも。

 

 そんな想像をして後の生徒会長にそれらを託しつつ、選手を送り出す。

 

「特にいうことはありません。相手の奇手に惑わされて己のスタイルを崩さないように、愛の力見せてくださいね?」

 

「オーライ! 行ってきます!! それと来季の生徒会長にはあーちゃん先輩をセツナと一緒に推しておきます!!」

 

 

 こいつらの面倒を見るのはアレだな。と思いつつも、そんな未来が来ないことを願うしかなくなる。

 

 

 コート上に再び現れる金色の女神2柱……片方は普通のラケット。無論、CADと礼装は持ってきている。

 

 反対にもう片方は剣呑な得物を握りしめて礼をしていた。

 

 

「ずいぶんとヘンなものを持ってきたわね。てっきり『生類憐みスマッシュ』とか『鎖国ゾーン』とかやってくると思っていたのに、残念よ」

 

「ほざいていなさいヤンキー。そんな『テニ若』みたいなことをやるわけないでしょうが、ついでに言えば私は『ハザロマ』派です」

 

 

 こんな令嬢でも『葉桜ロマンティック』を読んでいるとは、世も末(アーマゲドン)だなとリーナは思う。

 

 だが油断は無い。あちらがどのような奥の手を持っていようと……勝つ。『槍』を以てしても勝ってみせる。

 

 

(セツナ、アナタが教えてくれたもの全て活かしてワタシは勝つわ!!)

 

(気合いのノリが違う。当然ですよね。このセット取ってしまえば終わりなんですもの……)

 

 

 そうなるだけの実力差は実感できた。だがアイリとて負けられぬ。母国から日本に渡り一色の長子……父と結ばれた母のためにも、この女には勝つのだ。

 

 

 打ちだされる低反発ボール。当たり前だが、あまりにも強すぎる魔法や衝撃でボールが割れれば、それは衝撃力などの判定からどちらが撃ち返したかに問わず原因となった方にペナルティが課される。

 

 即ち自殺点(セーフティ)となりえる。その点の危険性で言えば一色愛梨のチョイスは完全に間違いだ。

 

 切先が鋭いわけではないが、それでも近接武装特化型であるがゆえの破壊力過多が予想される。

 

 それだけに一色の令嬢は愚策に走ったと思われた……しかし、その予想は弾かれる。撃ちだされるボールの威力と同時に―――。

 

 何気なくボールを返したリーナ。もちろん正直に真っ直ぐではないが、それでも返しにくいところに撃ちだされたボール。

 

 エクレールを使って移動する一色。そこからどうやってそのサーベルを使ってリターンするというのだ。

 

 斬り、払い、打ち、……それらを予想していたと言うのに――――。

 

 

突き(ラッシング)!?)

 

 

 背中の方に引かれる腕。そして前に突きだされたことでサーベルはボールに当たり、撃ちだされたボールは猛烈な回転を以てリーナ側に飛んでくる。

 

 そのボールに、ラケットを合わせようとした寸前で移動魔法で打ち返す。

 

 リーナの行動に誰もが奇異を覚える。

 

 

「カンがいいわね!」

 

「賛辞をどーも! そんなHENTAIな技を使ってくるなんて思わなかったわ」

 

「お褒めの言葉をこちらこそどうも! 一撃では終わりませんわ! 私の薔薇の剣技(ローゼススクリーマー)で沈みなさい!!!」

 

 

 しかし、2人の間では分かっているようだった。

 

 予想外ではないが、まさかこんな技を使ってこようとは……。

 

 

「アイリのサーベルは一見すればボールの中心を突いたように見えるけれど、その実―――打ちだされたボールに横のスピン回転を掛けた上で、そのままに突きだした剣の圧力で返球している」

 

「圧倒的な早業だな……。本来ならば高速のボールを返すだけでも精一杯な競技なのに、二重の回転を掛けた上で返球するとは」

 

施条銃(ライフル)やアームストロング砲なんかと同じ原理よ。直進する弾丸を安定させるために回転を着けさせる……難儀するわよ。ヘタに強化していないラケットなんかで撃ち返そうものならば網が裂けるわ」

 

 だからリーナは、ラケットで返さなかったのか、そのボールに掛けられた回転力は抵抗がないままに直進してきたものだ。

 減速など無い弾丸をラケットで撃ち返すには

 如何に魔法や魔法を利用して行われた技法が物理法則を無視したところで物理法則そのものの『影響』が出ないわけではない。

 

 ライフル銃の如き突き――キワモノな技だと思っていたと言うのに、存外恐ろしいものを放つものだ。しかも突きだけではない。そのサーベルのしなりを活かしての普通のラケットよりも軌道の読めないリターンは、四方八方に撃ち返す。

 無論リーナも返すのだが、時に狙いすましたかのように突き(ラッシュ)が放たれてそれの対処に難儀する。

 

 

「説明してくれてありがたかったんだけどね。伊里谷さん―――ウチの大親分に簡単に抱きつかないでくれるかしら? 他校のライバルに内情を探られたくないわ」

 

「森……森末くん達を助けてくれたお礼ってことだったと思うけど」

 

「なんでそれで十文字君の腕に巻きつくのよ?」

 

「カツトのVoiceはワタシのお父様に似ているから、何だか懐かしくなっちゃうのよ。嫉妬かしらマユミ?」

 

「ちっげうわよ!!! 第一、これじゃ十文字君がお礼されてるようなものじゃない!!」

 

 

 いつもならば、このぐらい会長が激昂すれば『落ち着け七草』とか会頭がやんわりいうはずなのだが、それはなくされるがままである。

 

 無表情ではなくいつもの巌のような表情が少し緩んでいる。まぁ反対の腕は会長に取られているから仕方ないかもしれないが……。

 

 我ら一高のビッグボスたる十文字克人なのだ。

 こんなハーレム主人公染みた会頭は見たくなかったと、『服部』『桐原』『沢木』が内心で思うも―――。

 

「いや服部、桐原。お前に会頭を責める資格はない。この俺の『はがない』ならぬ『はがゆい』想いを『キャノン砲』(Kanon砲)に乗せて撃ちだしたい気分なんだからな」

『『どういう意味っ!?』』

 

 

 それなりにつるむ沢木から、お前らは違う。と言われて二年組からはぶられる二人。

 

 そんなこんなで上級生たちの喧騒も何のそので眼下の戦いにも変化が出てくる。

 

 

 互角に打ち合っていたリーナとアイリだが―――均衡が崩れる。崩されたのはリーナの方。

 

 5個目のボールが射出された時点で、いくつかを取り逃すサーベルの鞭のようなしなりを活かした一撃一撃が、時にリーナの予想を外して襲いかかる。

 

 取りこぼしたボールをすかさず撃ちかえすも、待ち構えていたようにスクリーマー。絶叫を上げるかのように猛烈な回転を加えられたボールが、リーナに飛んでくる。

 

 

(勝った―――!!)

 

 もはや、ダンシングブレイズを使えるような速度と状況ではない。ならば―――このまま一気にいくのみだ。

 

 アンジェリーナに勝つ。魔法師として、女として……自分以上の存在として立ちはだかるものは十師族以外にいないと思っていた。

 司波深雪も大したものを感じたが、それ以上に―――アイリが敵として認識したものが、ちらつくのだ。

 

 

 やられた。ラケットが軋みを上げる音に破断を予測して幾つかを取り逃した―――。その結果、こちらの失点ばかりが積み上がる。

 本来的な戦い方を取り戻したアイリの動き―――叩き切る。叩き付けるようなラケットによるボレーではないそれこそが彼女のフォーマルスタイル。

 

 水飛沫のごとき輝線が煌めく度にボールを優しくいなして、その上で回転力だけを与えられたボールが弾き返ってくる様は恐ろしかった。

 

 

(成程ね……確かにセツナと出会う前までのワタシがここにいれば『ナンギ』したかもしれない)

 

 

 けれど、今のリーナにとっては対抗策が無いわけではない―――。

 

 

「終わりよ! アンジェリーナ!!!」

 

「そうかしらね? いいことを教えてあげるわアイリ――――」

 

 

 ガルバニズムで全てのボールを同時に撃ちかえしてから、リーナは星晶石を取り出して……念じる。

 

 そしてからラケットを頭上に放る―――まさしく天空に投げ捨てたといってもいいほどに放ったそれに眼を奪われた一瞬に―――。

 

 

「シンデレラの如き『魔法の時間』(タイムオブマジック)は一瞬で始まるのよ!!」

 

 

 戯言と受け取ったか、それともかは分からないが、一色愛梨は応えずにボールを撃ちかえす。

 

 その間隙に―――リーナは魔法を唱える。

 

 

「グラデーション・エア―――アクティアンド―――フラッシュ・エア―――『ブリュンヒルデ』―――」

 

「どれだけ叫ぼうと今さら!!! 敗北の定めを受け入れなさい!!」

 

 

 エクレールとスクリーマーを併用して超高速で返されるリターンボール。

 

 相手の正面を狙ったボール。バッドマナーでありファウルこそ取られかねないが、それでも―――そのビーンボール紛いのリターンを『リーナ』は全て撃ちかえした。

 

 

「なっ!!??」

 

 超高速のボールに対応したスイングスピードは同じく超高速。しかし同時のリターンの理屈が分からない。

 

 しかもラケットは投げられていたのだ。だというのに―――待て。放られていたラケットが無い。そして呪文と同時に―――何かの光が放たれた。

 

 光の向こうで―――アンジェリーナは何かを握っていた。長い柄の得物。

 

 それを愛梨は一度見ていた。あの体技場で見たことがある大きな槍。自分とセルナの触れ合いを邪魔するためだけに放られたあの槍だ。

 

 忌まわしき『鋏』であり『槍』―――半実体の魔力の柄を持ちながら穂先に逆手にしたラケットを着けたものは確かに、あの槍に似ている。

 

 

「さぁてあげていくわよっ!!!」

 

 

 見えたアンジェリーナの姿。サイオンよりも純度の高い……魔力なのかそれに包まれた彼女は、姿を変えていた。

 

 九島の家の秘術『仮装行列』(パレード)かと見まごうほどに変化した彼女の姿は―――『戦乙女』の姿。

 

 槍を持ち魂の選定を行うワルキューレが飛ぶようにやってきて、

 

 

 その姿を見た伊里谷理珠は―――『よっぽど大事なんだね。刹那にとってアンジェリーナは、最愛の人なんだ。己の秘術を与えてでも―――守りたい。側に居てほしいと思える子』

 

 と呟き―――『置換魔術』と『投影魔術』……その応用で、ある存在の力を呼び寄せたリーナを眩しく視るのだった……。

 

 

 


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