魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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少し短く、なおかつヘンにパロディが多めかなと思える今話。

まぁ繋ぎ回ですのでゆるりと見ていただければと思います。

あとスマホは見つかりました。助手席側のサイドブレーキの余剰スペースに絶妙に挟まっていて、若干、気付きにくかったようです。

ルーラーケツ姉さんも手に入れたのでとりあえず満足しつつ、新話お送りします。


第72話『九校戦――いまとむかし』

 男女複合ダブルス―――テニス、卓球、バドミントンなどの混合ダブルス。はたまた少し違うが、フィギュアスケートにおけるペア競技の如く、男女が肩を並べて競技を戦うことはなくはない。

 

 何が契機で生まれたものなのかは分からないが、ともあれ本来ならば女子は女子だけ、男子は男子だけのリーグで競い合う場を提供されていたところに、このようなものが生まれて―――。

 

 それは余興やエキシビジョンの類ではなく真剣勝負の類となりて、多くの観客たちを熱狂させていくのは今にも続くものだ。

 

 

「昨今の九校戦は『個人競技』が多くを占めており、空気の入れ替えを望む声が多くてな―――まぁ十師族の単体能力が際立っていたからかもしれんが」

 

「他校からだけでなく魔法師社会全体からも眼の敵にされているとは、一高のトータルバウンティはどれだけなのやらだ」

 

「全くだな。だからこそ、今の魔法師社会に求められているのは―――『個人のトータルスペック』ではなく『他者とのユニオンタクティクス』なのだ」

 

 暗に一高の三巨頭が目立ち過ぎていることが、今回の仕儀に繋がっていると言う九島烈の言葉に、全員が様々な表情だ。

 

「刹那、お前も『私』と同じだ……牙と爪だけが鋭いだけで勝てるほど、世の中は単純ではないな? 魔法師もそうだ……『マナカ・サジョウ』の一件以来、その声は大きくなるだけだ」

 

 その言葉で、一高の全員が震えるような仕草。

 あの化け物女が魔法師の『極み』であるというのならば、あれを容認するか否か、普通の人達と敵対してまであれを目標とするか―――そういうことだ。

 

「だからこそ、我々魔法師は団結していくためにも、様々な人間の『音色』に『連弾』出来る魔法師を育てていかなければならないのだよ」

 

 完全に十師族の存在を『否定』しきった言葉だ。ものごとに限界は無いが、それでも……そういう存在ばかりでは『魔王』となるだけだろう。

 

「今回、導入されたクラウドのダブルス然り―――勘のいいものは気付いていよう。来年の九校戦はペア競技や団体競技が多く採用されていよう。いずれは布告されるのだが、ピラーズも『ソロ』と『ペア』が採用される……そういう手はずだ」

 

 一気にざわつく一高陣営。今までは推測の予想程度でしかなかったものが、お偉いさんから裏付けを取れてしまったのだから。

 

 まぁこの内容は、そのミックスダブルスが発表される時点で、全ての魔法科高校に通達されるのだからアドバンテージでもなんでもないのだが……。

 

 

「まぁともあれ、ペア競技になることで少しは大会関係者たちの苦労を取り除きつつ、更に言えば来年への試金石へもなる。まさしくwin-winの関係だ。

 お前たちほどハイレベルの術者となれば、個人の力だけではない何かを見せてくれるだろうという期待もある」

 

 

 片や多くの死線、人類終末を打ち砕き越えてきた恋人。

 

 片や多くの宿命に囚われつづけても思い合う兄妹。

 

 

 余人には分からぬ運命がある……なんて気取ったことを言うつもりはないが、刹那としても、リーナこそが魔法師界のプリンセスという意識もあるのだ。

 深雪には敗けさせたくない想いはある。

 

 そんな刹那の考えと同じく達也もまた深雪を勝たせたい。リーナに深雪の栄光を穢させたくない想いがある。

 

 この戦いは―――負けられないのだ。

 

 何より刹那と達也―――どちらが上かを本気で競って見たかったのだ―――。そんな男二人のラスト5秒の逆転ファイターも同然の視線の交し合いに、お互いのパートナーがキラキラした視線を送って他にも光井が達也に、雫と栞が刹那に……そんな風に青春の1ページを刻んでいた時に、老師の言葉が差しこまれる。

 

「ふむ。司波達也君に司波深雪君だったか……」

「はっ、自分と妹の名前を憶えていただき恐縮です閣下」

「そのように畏まらなくていい。今の私はただの退役軍人で、余生を慎ましやかに生きてひ孫を見たいだけの老人だ……」

 

 

 その言葉の裏側でなかなか『老兵はただ去るのみ』とダグラス・マッカーサーのようになれない己の身を嘆いていると勘付いたものは若干いたが、それをおくびに出さず、言葉を続ける。

 視線は司波兄妹に貼り付けたままであり―――何を言うかを少し待つ。

 

「君たち兄妹を見ていると、ある魔法師の『姉妹』を思い出す。伝説を『作り損ねた』姉妹だ」

 

 言葉で達也と深雪のサイオンに不安が出てくる。それを察しておきながらも言葉は止まらない。

 

「素質は抜群、長じれば達人。そして今の魔法師社会を変えられる人材になりえただろう。しかし、一人の男子……姉妹と同じく私の弟子だった『若造』と出会ったことで、彼女たちの運命は定まってしまった」

 

 一拍置くことで全員の視線―――特に七草真由美の視線を気にして向けられているのを確認して話を再開。

 

「若造と姉妹は仲が良かったよ。家同士の仲はあまり良くなかったが、そんな大人達の愚劇など、年若い彼らにとっては関係のないものだったろう。

 そして、家に無断でふたりを引き合わせた私は彼らならば……と期待して、そして目論みを外されたよ。

 若造は、彼は、己の資質に『眼』が眩んだ。挫折を経験したが、たとえどれだけのことが出来たとしても、叶わないことがあると認められず―――現在に至ってしまった。

 誰の事だか分かるかな? 七草真由美君?」

 

 

 言われて―――視線を向けられたことで非常に苦い顔を一瞬だけした会長が、それでも口を開く。

 

「―――七草弘一……私の父です……」

 

「そう。そして引き合わせた姉妹は―――四葉深夜、四葉真夜―――そういうことだ」

 

 重々しく語られる歴史。例え魔法師の歴史が一世紀に至っていなくとも、人間たちの機微や感情の動きは、どうやっても歴史を作ってしまう。

 

 合理では納得できない理屈。最後に行動を決めるのは感情なのだと……そう言う話なのだと気付けた。再び司波兄妹に視線を向ける九島烈。

 

 視線を返す達也と深雪で口を再び開く。

 

 

「君たち兄妹の絆は『深いもの』があり『真の感情』にしたがったものなのだと分かる。だが……その為に、自分達以外の全てを『壊す』人間にはなってほしくない。私が言いたいのはそこだ。もう少し『待って』いれば、違うものもあるかもしれないのだからな」

 

「拙速になるな。決断を速めるな。そういうことで?」

 

「時には、血が繋がった存在の手よりも、違う手を繋がらせることで―――未来は変わっていたのかもしれないからな。一度は己の周りを見て、『繋がり』を確認して、それから決断を下したまえ」

 

 

 言葉の応酬で達也も気付けただろう。九島烈は―――この兄妹が四葉であることに気付いている、と。

 

 しかし言葉はどちらかと言えば、達也を諌めている様子。そんな風に言われて、素直に聞けない辺りは達也の精神に掛けられたものは強力なのだと気付く。

 

 だが、達也に走る少しだけ苦衷めいた表情が―――彼の心を語らせていた。

 

 

「……いささか、老人の長話が過ぎたな。ここら辺で失礼させていただくよ―――そして真由美君。一度は、父親と正面向いて『腹を割って話す』ことも必要だよ。

 弘一は知られたくないと思っていても、真っ直ぐに聞いてきた相手を無下にするほど、男気が無い人間ではない―――君はどうにも弘一の悪いところばかりを見てきたせいか、今の弘一に『そっくり』だよ」

 

 

 言われて絶句する七草真由美。まさかの『お前は父親似』という言葉を聞かされて、誰に怒ればいいのか分からない会長の顔がそこにあった。

 

 

 天幕を出ていく九島烈。人に歴史あり、そして若造たちには分からぬ大人達の葛藤というものも視えてくる話であった。

 

 ともあれ、混合ダブルス及び複合ダブルスともいえるアイスピラーズは単純な話。距離が二倍、氷柱も二倍―――相対する敵の戦力……無限大。

 

 一人でも出来ないことも二人ならば出来る。一人の力を最大限に上げるのは、他ならぬ他者なのだから……。

 

 

「深雪、足手まといが出来て申し訳ないな。だがお前を勝利に導くよ」

 

「そのようなことを言わないでくださいお兄様、お兄様が隣にいてくれさえすれば深雪の力は1000万アニラブパワーです! 時空の彼方を超えて愛知らぬ哀しき竜すら呼び出して見せましょう!」

 

 

 今すぐにでもライダーのクラスカードでもくれてやりたい深雪の言動。クラスチェンジするとグラップラーかと言わんばかりだ。

 そう思いつつ、こちらもリーナにフォローを入れておく。

 

「十師族の思惑など知らないし、大会委員も関係ないな。俺たちの刻む旋律を聞かせよう」

 

「of course♪ セツナの御両親の力(両腕刻印)を受けて100万ラブパワー+100万ラブパワーで200万ラブパワー!! いつの日か愛すべき『双子』への愛で家庭は笑顔を絶やさず200万×2の400万ラブパワー!! そしていつもの夜の3倍の愛し方を加えて1200万ラブパワーよーっ!!」

 

『『『ゆで理論!? ウォー〇マンか!?』』』

 

『『『というかアニラブパワーとかラブパワーってなんだ―――!!??』』』

 

 

 喚くみんなと同じく計算方法は全く以て理解の外であるのだが、ともあれ深雪の視線がこちらに注がれる。

 あからさまな挑発の前に、アニラブパワーの王気を持つものが、対峙することを良しとする。

 

 

「リーナ、遂に雌雄を決する時が来たわね。私とお兄様の『デーモンタスク・トレイン』の前に敗北を喫するがいいわ! バカップル滅すべし!!」

 

「フフフ。すっかり酸素欠乏症になってそんな『ヨマイゴト』を言うなんて、ワタシとセツナの愛の『フェイスフラッシュ』でアナタの穢れきった兄愛を浄化してあげるわよ」

 

 

 そんな妹と彼女の宣言に対して男二人は面を向けあいながら―――

 

『そんな技あるのか?』

 

 と半眼の無言で言い合うのだった。ともあれ、大会委員たちの気遣いなのかタッグバトルゆえに控室を二部屋用意したという旨が端末に送信されてきた。

 

 それは良いのだが、その前にやっておくべきことがあった。

 

 持ちこんでおいた魔導器の中でも、必要なものを出して――――エリカの礼装の調整を施す。

 

 

「よほどトウコとやりあったな。水精の『いたずら』が、情報(マトリクス)の欠けを起こしているよ」

 

「分かるもんなの?」

 

「まぁな。Anfang――――」

 

 魔術刻印を起動させて、礼装とエリカの間のリンクを完全にしておく。そうしてから現在のエリカのバイタルと魔力量に応じたセットアップをしておく。

 魔法陣を展開させて礼装とエリカとをその中に包み込む。

 

「いつも思うが、お前のやり方は独特だな」

 

「お前が機械と眼を以てやっていることの古臭いバージョンだよ。教えてもらった相手によれば『生体にはそれぞれ固有の波動がある。『調律』とは、その波動をいかに近づけるかの作業なのだ』とね。先生の冒険譚と共に教えてもらった事だ」

 

 本来ならば魔術刻印を近づけてやる作業であるのだが、応用として『礼装』の『調整』にも使えるものだ。

 特に、言っては何だが―――、たかだか一世紀も無い歴史の『魔法師』(ぎじゅつしゃ)ならば、こんなのは片手間だ。

 

 時計塔の初等部の連中の一割にも満たない刻印調整と同じく寝ていても出来るものだ。

 

「―――起動させてみ?」

 

「それじゃ遠慮なく――――うん、なんか身体がぽかぽかする―――どういう原理なの?」

 

「一時的にエリカの魔力波動……サイオンの波長と礼装の波長を擦り合わせた。前よりも魔力の循環効率はあがったんじゃないかな」

 

 

 風鋼水盾―――風の障壁が鋼のような壁となりて己が身を保護して、イメージ次第では、刃にもなるし……魔力放出のような使い方も可能。

 SF的なイメージで言えば熱核バーストエンジンにも似たもの。大気がある限り、その大気を取り込んで圧縮して放出することもできる。

 

 そして水盾は鎧であり剣にもなりえるし、先程の説明の繰り返しと同じく、武器防具であり推進器にもなりえる。

 

 物質化したもの、何かのマテリアルを基剤とした時にエリカの身体を覆う鎧であり衣装は最高の武器と防具となりえるだろう。

 

 姉弟子二人……『ミス・グレイ』と『ミス・ライネス』の持つ礼装を元にしたこれは特級の代物なのだ。

 

 

 そんな自信を受け取ったのかエリカはいつも通り明朗快活な声で叫ぶ。

 

「よっし! これで優勝争いは出来る!! 負けたならば刹那君と達也君を殴ればいいだけ!!」

 

『なんでさ』

 

 礼装とCADの二個持ち。CAD二つによるサイオン波の消しあいは起こらないだろうが、それでも中々に器用なことをするものだと思う。

 

 恐らくトウコへの対策なのだろう。異なる魔術系統の合成がどうなるかは分からないが、それでも、エリカがやるというのならば、それは勝算無いものではない。

 

 剣客としてだけでなく兵法者としての彼女の策は間違いなく嵌るのだから……。

 

 そうして立つ鳥跡を濁さずではないが、自分の仕事は無くなったのを確認してから控室に行くことにする。

 

 

「んじゃ行くかリーナ。君に相応しい黄金概念霊装(ドレス)を着付けてあげるよ」

 

「Yes! 『アレ』を使うのねセツナ! もう、このドスケベ!!! 万事任せるわ(ALL RIGHT)。アナタの色でワタシを染めア・ゲ・テ♪」

 

『『『何をする気だお前ら―――!!!』』』

 

 呆けた顔で彼氏を見つめるリーナだが、刹那が怒涛のツッコミを受けつつも姫だきして、首に手を回す状態になったバカップル。 

 

 同じく達也も光井のCADの調整を終えて、深雪を姫だきしていた。どこまでもこちらに対抗しようという粋な態度に少しだけ面白がりつつも―――。

 

 

『『『『三時間後にジャボンディ諸島で!!』』』』

 

 

 ジャボンディ諸島ってどこだよ!? そんなツッコミを入れる前に脱兎の如く去っていくバカップル二組。

 

 それを追おうと誰もが天幕から出ていく中……、

 

 

「追わなくていいのか?」

 

「ううっショックよ。だってあの父さんと同じだなんて。狸みたいに謀略を巡らせて、狸みたいにサングラスを掛けて目元が黒いあの人と同じだなんて……」

 

 

 残った二人。十文字克人と七草真由美。

 

 その会話で十文字克人が思うに―――同じ穴の『貉』(むじな)とは、あの親子のことを差すのだろうと思えた。

 

 むじなとは時に『たぬき』と同一視されるのだから……。

 

 

「何か言った?」

 

「何も、ただギャラリーのまま、そして来年の九校戦にあるだろう変化を楽しめないのは少し辛いかな? それだけだ」

 

 十師族として箔付のための大会ではなかったが、それでも来年の種目変更の原因としては、そういう変化を『楽しみたかった』。

 

 それが出来ないのは辛い―――として机に突っ伏すようにだらけきった七草へ言い訳しつつ、どんな戦いになるのかを楽しみにするのだった。

 


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