魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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仕事納めを終えて、正月休みに突入。

さぁて色々とやるぞーと思っていたらば若干風邪気味。

遅れて申しわけありませんでした。


第73話『九校戦――マーメイドバトル』

「考えるほどに無茶苦茶だよな。深雪の領域魔法『インフェルノ』と『二ブルヘイム』だっけか?」

 

「抑え込めない?」

 

「無理ではないだろう。熱に関しては『略奪の魔眼』で奪ってしまえばいい。それでもあれほどの物理現象から熱量を奪い去るとなると、それなりの負担だ」

 

「その為のフォロワーがワタシであり、アナタなんだから? 協力し合いましょう?」

 

 

 そりゃそうだ。苦笑の嘆息をすると同時にリーナの髪を基剤にして『機織り機』を動かして、衣装の新調をしつつ身体の調子を鑑みる。

 

 女神のような肢体を刹那に晒しながらも互いに頬を紅潮させることはない。これがお互いにとって必要なことであると知っているからだ。

 リボンの七つを編み上げると、それを元に霊装に組み込んで、スカートの丈を変えるかどうかを、リーナに問う。

 

 

「短い方がいいかしら?」

 

「コンセプトとしては『常夏に舞い降りた聖女』―――俺の思う『黄金姫』だからな。うん、俺としてはそっちにしたい」

 

「分かったわ。雪女の如きミユキに相対するコンセプトだもんね。うん、いいわ。そして嬉しい……セツナの心が」

 

 手を合わせながら小首を傾げるリーナの仕草に少し心が揺れながらも魔術の律動は滞りなく行われて、最後に持ちだした糸巻きと針を用いた霊衣裁縫で、ものは仕上がった。

 

 

「あとは、魔法円の中に置いておけば約一時間後には万全だ」

 

 用意しておいた魔法陣を展開してイチイの木を元にした衣装掛けごと置きながら、刹那も己の衣装を掛けておく。

 魔法師からすればいかがわしい仕掛けだろうが、刹那にとってはお袋から嫌になるほど仕込まれた技能である。

 

 もちろん『防具』としての性能を考えてバゼットの方式も取り入れているのだが……。

 

「お疲れ様。ここまでやっておきながらアレだけど、ミユキたちも『何か』やってくるわよね?」

 

 当たり前である。そもそも九校戦に至る前にコスプレ競技とも言えるピラーズに際して特別授業も行ったのだ。

 

 利用してこないわけがないのだ。リーナからサーバーからのアイスコーヒーを受け取り飲み干す。

 と同時に、喉が潤って口を開くことが出来た。それぐらいに集中力を要する作業だった。

 

 

「俺は侮っちゃいないよ。特に達也は『出汁』を吸う『高野豆腐』のごとく俺の技法を己のものとしていく……。九重寺の住職とかから『鬼』の器物を預かっていてもおかしくないからな」

 

「そうね。まさかニホンのシャーマンたる『巫女服』をミユキが着てくるとは―――やっぱり一種の『美化魔術』を使っている?」

 

「意図してではないだろうがな。彼女の魔的な美しさは、恐らく英才教育のたまものだろう。『そう斯くあるべし』ということをあの兄妹は幼い頃から押し付けられていたんだろう」

 

 結果として然るべき衣装―――そして最低限の化粧(けしょう)化生(けしょう)に化ける。

 

 

「裸でいる部族はいまだに存在しているとはいえ、『着飾らない部族』はいない。魔除けの為に白粉を使って紋様を描き、時には戦士の証として『トライバルタトゥー』を入れることもある。アレクセイが入れてあるものも結構ごついんだよな」

 

 スターズの隊員。アレクサンダー・アークトゥルスという現代に生きる『ジェロニモ』のことを思い出して刹那は言っておく。

 

「それと同じように深雪のアレは、存在している。美的感覚とは人間にとって生き延びるための機能だからな。五感とは別に『快』をもたらす機能―――それこそが美というやつさ」

 

「確かに昔セツナから聞いたわね。『美術は共感呪術』―――それじゃミユキを見ることで、誰もが魂や霊性が浄化されて快楽を感じるのかしら……?」

 

 誰しもがそうであるとは限らない。実際、刹那は己のマザコン気味の気質ゆえか―――あのような女を見れば見るほど『霜』が張り付く感覚を覚える。

 

 同時に『一色愛梨』も視た瞬間に『アレは市井のぽっと出ではないでしょう? もしくは何か有力な魔法師の落胤なのでは?』などと肌をさすって恐怖を覚えていたのだ。

 

 

「ヒトそれぞれだな。ありゃ真正の雪の女王だよ。山に入る男をコレクションとして氷の彫像としてしまうタイプ。正直、お袋とは逆ベクトルすぎて近づくのも嫌だな」

 

「正直ねぇ。本人が聞けばどう思うやら……」

 

 不安そうな顔をするリーナ。感じている『不安』は、恐らく深雪に対するものではないのだろう。

 苦笑してから頬に手を伸ばして安心するように耳元で囁く。

 

「俺が美しさを感じて魂が浄化される存在は―――俺のどこまでも水底に堕ちていきそうな精神を、水を全て干乾びさせてでも、救い出そうとしてくれる『太陽の女神さま』だけ―――それが聞きたかったんだろ? マインスター(愛しき星の魔女)

 

「もうっ……ワタシの気持ちを察しすぎっ……こういう時だけズルいんだから―――」

 

 

 少し膨れるような顔をしてから、笑顔を見せてはにかむようにしてから身体ごと首に抱きついてくるリーナ。

 裸身が触れ合うことでお互いの魔力を交換し合う。いい調子だ。これならばいけるだろう。半ばエキシビジョンマッチと化したピラーズの決勝。

 その為に用意された控室に、二人の愛だけが満ちていくのだった……などと言えればいいのだが―――。

 

 

『セルナ!! 何をやっているのかとかそこまで事細かに聞きませんがとりあえず声だけは聞かせてください!! そろそろバトル・ボード決勝でトウコの応援に行きたい私の心を安心させてぇええ!!!』

 

 

 などと部屋の外から響く声はリーナを少しだけ不機嫌にしてから、バトル・ボード女子決勝の様子を備えられていたキャビネットで観戦するのだった。

 

「放置プレイってこういうのを言うのね♪」

 

「うん。別にプレイじゃないし。あんまりかわいそーーー」

 

「―――」

 

「分かった。けれど扉の外で立ち尽くしているのも悪いんだが……」

 

「端末貸して、ワタシがメール送るから」

 

 

 無言で怒りを示してくるリーナに降参して簡易使い魔でも放とうとした時に、制して一色愛梨のナンバーが入っている端末を貸すように要求するリーナ。

 

 その時の刹那は色々と疲れ切っていたのだろう。織機を使っての衣装つくりは、ある種の錬金術であるから。疲れていたので軽い気持ちで端末を預けてしまった。

 

 噂に聞くアインツベルンの『天の衣』にも迫るものを作り上げたと自負しつつも、所詮は自負であり……非才の身でいっちょ前のことを言ったからか、天罰が下る。

 

 

『セルナァアア!!アンジェリィイイナァア!!! ア、アナタたちナニをやっているんですか―――!!! 私のシルバーチャリオッツが、今にもライトニングピアスをお見舞いせよと真っ赤に燃える!!』

 

 地獄の獄卒も裸で逃げ出しそうな愛梨の声が響いて、隣でしなだれかかってくるリーナに恐る恐る問う。

 

「何て文面で送信したんだ?……」

 

「ヒ・ミ・ツ♡」

 

 その時には刹那には出来ない早業で送信メールを完全削除したリーナの人差し指を唇に当てながらの笑顔のみ。

 

 物理的衝撃でひしゃげそうになる控室の扉、電子ロックを完全に無視した攻撃に恐怖を覚えながらも、簡易的な着替えを手早く終えた時には画面の向こうのバトル・ボードはスタートを切っているのだった……。

 

 

 † † †

 

 

 マーメイドの闘争は水面で行われる。海神ポセイドンの娘たちとも称される彼女たちは、時に気に入った男たちを海に引きずり込むことでも知られている。

 

 ともあれ、今……マーメイド、マーマンの如きことをやる人間達は、カルネアデスの舟板のごとき板一枚を使っての水面滑走。

 

 まるでマナナンの戦車のごとき走りで全ての道を踏破していく彼女らの動きは見る者全てを魅了する。

 

(なんてコースよ!! 全然、魔法が効かない!!!)

 

 達也から指示された作戦。『鏡面化』を水面に掛けようとした時には、水面が『暖流』と化していた。

 

 ほのかとしては、現代魔法で古式に先んじれたと思った時には、既に魔法が発動していたのだ。

 

 

「千古の知恵を捨て去り、新しきものに走った落伍者に掛ける慈悲など無い―――我が『地獄池』で己が未熟を思い知れ!!」

 

 あからさまにほのかを侮蔑する五高の炎部―――真っ赤な髪をしたエレメンツの一人にして九大竜王という古式の極みの一つにも列されている女の仕業だと気付いた時には、同じく九高の風鳴と共に飛びだしていた。

 

「暖流……疑似的な『黒潮』を作り上げたのか!?」

「けれど、そこに乗っかればいいだけ!!」

 

 

 ほのかの魔法の不発動に構わず三高の四十九院と同輩たるエリカが飛びだす。

 黒くなっているように視える水面を利用して滑走していく二人―――完全に出遅れた。

 

 迂闊さを呪う前に走りださなければならない。

 かつて船乗りたちは、黒潮の原理が分からなくとも、その出来上がる潮流を活かせば船足が速くなることを分かっていた。

 

 もちろん操舵を誤れば、どんな結果になるかなど分かりきっている。あまりにも危険な賭けでもあったが、当時の『きままな風』を受けて走る帆船にとって、速い潮流はありがたい『高速道路』でもあったのだ。

 

「だから―――こうなる」

 

「「甘いわ(のじゃ)!!」」

 

 先んじて発生していた黒潮の流れが徐々に壁際に寄せられていき、あわや激突しようかという時に、二人はそれぞれの方法で脱出。

 

大聖槌(スレッジハンマー)!!」

 

「水蛇・ミヅチ!!」

 

 

 爆発的な魔力放出でコース中央に戻り、水流を操り曲がるように、中央に戻る。

 

 エリカとトウコの対称的な脱出方法。しかしそこから先行を奪うように、加速を掛けていく。

 表現としては適当ではないが一馬身差程度のつかずはなれずで炎部、風鳴、四十九院、千葉、光井という順番である。

 

 

「だーはっはっは!! 何とも愉快なデッドヒート!! エリカ! お主―――『足』を溜めとるな?」

「そりゃ、あんたら優等生どもに比べれば、私が得意になれるのは『これ』ぐらいだもの。ここぞという時に出させてもらうわ!!」

「どこで出すか分からせない。その言動!! 惑えばお主の策に嵌るのだろうな!!!」

 

 トウコとエリカの会話。会話をしながらもボードのテクニカルな動きは変わらない。

 半実体の魔力で覆われたボードは、古めかしい言い方をすれば馬の鎧『カタフラクト』も同然に、ボードを違う器物としている。

 まるでエリカの使う剣のように―――鋭利な剣鎧にしか見えないのだ。

 

(けれど負けない!! チャンスは来るんだから!!!)

 

 決意を秘めてほのかもまたある種、人外魔境も同然になっている先頭争い―――、

 今もまた四十九院沓子の水面トラップである渦潮の如きもの。

 

 荒れた水路。

 そこにボードを『セイル』も同然に殆ど横向けにして、身体は完全に落ちようとしている寸前で渦潮の間をヨットのごとく抜けたエリカに驚きながらも、チャンスを待つのだ。

 

(けれどチャンスなんて来るのかな……)

 

 達也を信じたいのに信じきれないぐらいに、先頭はとんでもないものになっていたのだから―――。

 

 

 そんな様子をキャビネットのモニターで見ていた司波兄妹は、作業を行いつつ感想を述べる。

 

「ほのかは完全に呑まれていますね」

 

「ああ、正直、エリカがここまでやるとは思っていなかった。いや、そもそも運動神経だけならば、エリカに分があったのは間違いないんだが」

 

 まさかボードを『足裏』で掴んで『セーリング』も同然の事をさせるとは……。

 

 七夜の体術……刹那曰く『村』で手慰みに教えてもらったというものの一端は、確かに九重流の忍術に繋がるものが見えていた。

 

 しかしあの程度ならば、達也も出来ないわけではない。

 それ以上のものがあるというのならば、見たいものだが―――刹那も『本人もはっきりと知っているものじゃないとか言っていた』と言って、技の真髄を知っているわけではないらしい。

 

 ともあれ、トンデモ技の博覧会の前に、魔法系統としては『ノーマル』なほのかでは若干、後ろに下がるしかなくなる。

 

「前に出ようとする為には、先頭争いをする四人をどうにかこうにか出し抜かなければならないな」

 

 流石に、エリカへの対策は考えなかったし、刹那もエリカにほのかへの対策を教えなかった。

 両者に教えたのは三高の四十九院と九高の風鳴への対策だけだ。無論、炎部も油断できる相手ではないのだが……。

 

「さてさて、俺の教えた作戦は全て無駄に終わったな。戦術家としては無能に終わったよ」

 

「そんなことありません。ほのかはチャンスを待っています。お兄様を信じて堅忍不抜で耐えていますよ」

 

 それで勝てるならばいいが、塹壕に叩き込まれる砲弾の数が10や20ならばともかく100発、1000発も叩き込まれればどうなるか―――そうして達也が見守る中、変化が起こる。

 

 飛び出たのは四十九院―――水流を乱れさせて足場を崩す作戦。このやり方で彼女はここまでやってきた。

 荒れ狂う海。まるで、死の海とも称されるベーリング海のごとき乱流が全てのマーメイド達を溺れさせようとする。

 

 その中を突っ切るは―――千葉エリカと風鳴結衣―――炎部とほのかが乱流を見事な『波乗り』(サーフライド)で踏破する中、二人だけは突っ切った。

 荒れ狂う波をまるで切り裂き、突貫するかのように―――飛び出たのだった。

 

 

 † † †

 

 

 ―――風を鏃型に広げて展開してみろ―――。

 

 四十九院沓子との戦いが何度かあった後に、達也ではなく刹那に対策を聞いたのは何気ない気紛れだった。

 あえて言えば……対抗心とでも言えばいいのか、天邪鬼なエリカの気持ちだった。

 

 一科のほのかが達也を頼りにして、そのほのかがエリカの走りを見て、そんな風に達也を頼りにしているのを見て、何となくではあるが、もやっとした気持ちを感じた。

 ほのかは優秀な魔法師だろう。エリカの知る限り、雫、ほのか、深雪ともども一科に違わない実力を持っているだろう。

 

 地力がしっかりしているならば、自分が少し『いい走り』をしたぐらいで、達也に縋るなど……まるでエリカが『悪い事』をした気分に陥らせる行為だ。

 無論、ほのかにそんな気持ちがあるわけではないだろう。けれど、その行いが少しだけ次兄と付き合っている渡辺摩利と同じに見えた。

 

 摩利を一時は姉貴分と思えていた時もあった。修次と付き合うのも悪くはないことだった……けれど、少しだけ幻滅した想いもあった。

 摩利は自分と同じく、男に舐められない為に武に修身してくれている人だと思っていたのに、その後の摩利は正直、実力は上がってもその辺の男に甘えるだけのバカ女と同じにしか思えなかった。

 

 自分とて誰かに甘えたい。それが心通わせられる男子であれば、とてもいいと思う。けれどその為に『エリカ』の『芯』まで穢させられるのは嫌だった。

 縋るのではなく、ただ単に頼りにしたり、一方的な盲信であり妄信を圧しつけたくないのだ。

 

 だから彼女持ちの男。一科二科の理に縛られない『神秘』の実践者を頼った。風と水の礼装―――エリカにとって新しい力を見出した男は単純にそういった。

 圧縮された気圧の傘を正面に展開することで進行方向における完全な空力特性を得る。

 

 そうすることで空気抵抗を軽減。しかしながら、それでは水面との間のボードに『摩擦力』を生めず、そのままに後方に吹っ飛ばされる可能性もある。

 レーシングスポーツにおける『ダウンフォース』と『ドラッグ』の関係だ。

 

 それを分かっていた上で後方に吹っ飛ばされて水に濡れたエリカを見る刹那。実にイヤな『あくまっこ』である。

 

 ともあれ、それをどうにかする為の方策はあったようで―――。

 

 少しだけ気取った調子で刹那は伝えてくる。

 

 ――――それはお前自身がよくわかっている。かつて俺の先生(エルメロイⅡ世)を恐怖させた剣の英霊の走り―――。

 

 ――――エリカ、お前が良く分かっている走り方だよ―――。

 

 

 動体視力の限りを尽くして相手が視認できない世界で敵を叩きのめす。千葉家が伝えてきた神速の歩法。それを再現出来るだけのポテンシャルがあったのだ。

 

 ―――やってみせるわ。剣がボードに変わっただけで、私の捌きは変わらないもの―――。

 

 

 そうして刹那曰く『魔力放出』(ブーストアップ)の応用―――ボードを魔力放出で圧迫することで摩擦力を得る。

 

 その上で、エリカのボードは神速の『チャージ』を得るのだった。

 その時―――ただひと時だけ、格落ちかもしれないが、征服王の疾走に追随した騎士王の走りがそこにあったのだ……。

 

 

 

 † † † †

 

 

『トップに躍り出たのは一高! 千葉エリカ選手!! はやいはやい!!! まるでモーターでも仕込んでいるかのようにボードは水上を滑走していきます!!! あの速度域でバランスを保ち、尚且つ最適なコース取り!!

 まさしく理想的な走り!! バトル・ボードにおける正道です!!! 小手先の技などいらぬと言わんばかりに、荒々しくも走る!!』

 

「エリカと渡辺委員長との間に足りなかったもの―――『差』は結局のところ―――事象に対する干渉力だの領域干渉だの、現代魔法的な感覚の話じゃないんだよな」

「おのれの技を『コウボウフデヲエラバズ』でやれるかどうかだっけか?」

 

 リーナの言葉に首肯しておく。

 

 かつての武士達は、己の脳髄を『切り替える』ことで、肉体を戦闘用に変えることが出来た。

 得物を持ち変えることで切り替えが発生するならば、それを他のものでも出来ない道理はない。

 

 今まで、エリカにとって剣術用の器物とその他のモノとで『意識』が違ったがために、上手く魔法が使えなかった。

 それゆえに、刹那はエリカの属性を教えると同時に魔力のイメージに常に『剣』や『槍』……とにかく長物を意識するように指導した。

 

(まぁエリカ及び千葉家の人々には、その手のものは伝わっていないだろうな)

 

 脳髄による肉体制御法。一種の『超能力』。

 自分の先祖も『武士』であったことから発現しないものかと思っていたが、そっちの方向は完全に失われているようだった。

 

 とはいえ『体』を操る術は失われておらずエリカも刹那も、そういった一種の身体の動かし方は心得ていた。

 

「ワーオ! これはエリカが優勝かしらね?」

「まだですわ! トウコだってまだまだ奥の手がありますもの!!!」

「けれど、完全に千葉さんは独走態勢に入っている。トラップマジック(反応魔法)があったとしても、それを躱していくわ」

 

 殆ど横向き―――ボードの『縁』だけが水面に着いているような走行で魔法に消波を叩き込むでもなく、躱していくエリカ。

 

『地雷ってのは、こう進むんだな』なカウンタハンターの如き動きで、トラップを躱していく。

 

「さてさて、達也は光井にSSボードの経験を活かせといったが、俺は剣術家、兵法家として嵐を超えろといった」

 

 かつて源義経は、鵯越の逆落としに続いて、四国に逃れた平家を追討するために嵐の中へ船出した。

 この時の義経には嵐の航海者のスキルが発動していたのではないかと思う程に、とんでもない逸話である。

 

「粗雑と思われているなら繊細にやり―――」

「―――『テクニカル』だと思われているなら『クルード』にやる」

 

 刹那の言葉に渡り文句よろしく繋げたリーナの言葉通り、粗雑(クルード)なエリカの走りが繊細(テクニカル)なものに変わる。

 

『いっくわよ―――!! 逆巻け青春!! 私の夏はここからやってくる!! さぁ大波に乗るわよ!!!』

 

 演技派というかなんというか、舞台度胸抜群のエリカは言葉を言うと同時に汎用型CADを起動させてから、ボードに手を着けて特殊な『刻印』を転写する。

 

 ボード自体は共用のものだが、魔法を掛けて硬くしたり、強度を高めたりすることが違法でない、レギュレーション違反でない以上―――こうして金と青の意匠が転写されたことなど傍目にはカッコつけにしか見えないだろう。

 

 しかし―――失われた『精霊文字』すらも転写された以上、もはやそれは疑似的な宝具と化す。あとはエリカが制御しきれるかどうかである。

 

『プリドゥエン・チューブライディング!!!』

 

 人によっては、『プライウェン』の方が分かりやすいアーサー王の宝具……傷ついた戦士すらも癒すこと、あらゆる波濤を超えられる船にもなりえる盾の効果が発動する。

 

 魔力量そのものは平均以上だが、それでも一回でサイオンをごっそりもっていかれる疑似宝具の使用―――エリカと後方の集団を完全に分かつ大波が立ち上り、その波に乗って―――助走を付けたエリカは、秘伝剣術『山津波』の応用で完全な独走状態に入ったのだった。

 

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