魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
『さぁてモノリスコード新人戦第一試合!! ファーストゲームだけに緊張もあるでしょうが、戦う両校はそんなこと織り込み済み!! 下馬評では、圧倒的に一高有利!! しかし、招かれたるフィールドは八高の戦場!!
街に生きて自然の力を失った人類に、野生の力が炸裂するか!? それとも自然の力すらも支配に置くか!! 見逃せぬ一戦!! その前に両校の様子を見に行きましょう!! カメラさん寄って寄って―――!!』
なんとも騒がしい限り。前年には無かったと言われている、試合開始前の空中に投影された大スクリーンによる両校の風景の撮影。
何かの暗号でも送っている可能性は……無さそうだ。そもそもまだ選手の様子は見えないのだから、偵察したものを伝えることも出来まい。
「こちらを混乱させるために、『ウチの○○ならばきっとやってくれます』とか言う可能性もあるか?」
「けどそんなことしても有望選手ぐらい僕らだって情報は仕入れている訳だしね」
「意味はないか―――」
とはいえ、ダークホースを用意しましたとか言えば、それなりにこちらも強張るかもしれない。
幹比古の言に肯定しつつも八高の様子は普通だ。男の何人かが鉢巻きに『必勝』と書いて拳を握っているのだが、何だか萎縮しているどころか…若干眼が血走っている様子。
対称的に八高の女子は、歯を食いしばっている様子。何だか悔しげな様子にも見える。
ただ代表の生徒。恐らく会長なり部活連の会頭なのだろう男が、色々言っているが、大体は定型通りであり、ミトも普通の応対。確かに有望選手がいないわけだが―――もう少し無いのかと思う。
そんな八高に対するちょっとした哀れみは、次にカメラが回った一高の場所で完全に消え去った。
『カメラが向かう一高の応援席―――うわおっ! こ、これは!?』
ミトが驚愕するのも無理はない。一高応援席……そこにいたのは、戦う男を、がんばっている人間を応援する女神たちだったからだ。
『『『『『モノリス・コード!!』』』』』
『『『『『The first high school!!』』』』』
『『『『『VICTORY!!!!』』』』』
見える限りでは一高の綺麗どころ全員が揃いの衣装で、そんな合唱であり、踊りと共に
今の日本の風俗観ではどうなんだろうと思いつつも、プロ野球や多くのスポーツ競技でも無くなっていないもの――――。
「チ、チアリーダー!? エ、エリカはともかくとして柴田さん、いや美月さんまであんな衣装をするなんて!!!」
幹比古が驚愕の声で回答してくれた。
吉田幹比古15歳。まだまだ純な年頃であり、レオ、達也曰くエリカがショートパンツを体育で履いたことにも狼狽するらしい。
一高の女子の殆ど、あの市原鈴音ですら、結構きわどい露出のチアガール衣装でポンポンを振っている様子に、いいのかよと思う。嬉しいのは確かだが……。
ちなみに観念したのか中条先輩も髪型を変えて、ポンポンを前に突き出して『かっとばせー!!
あんたら仲いいっすね。とか思いつつも次にカメラがズームしたのは、刹那のマイハニーである。
笑顔で快活に踊りながらチアリーディングするリーナはやはり輝いている。
『発起人はアンジェリーナ・クドウ・シールズさん。やはり本場アメリカ仕込みのチアリーディングを教授したのか、一高全体の艶が違いすぎます!! ああっと!! どうやら他の高校もチアリーダー衣装の確保に走っている情報を掴みました!!』
『お兄様』『セツナ』『レオ』『吉田君』『太助くん』
ミトの言葉のあとにカメラが寄っていったのは、深雪、リーナ、エリカ、美月、桃井(C組の生徒)―――。一年の女子で自分達が関わりが深い子達がチアリーダー衣装のままに揃えて―――。
『『『『『Let's go Fight―――!!!!』』』』』
すごく乗り気になってしまう言葉と応援ポーズを行うのだった。男子勢のサイオンの勢いが上がるのを隠せない。
『何とも華やかかつ男子のやる気を上げる声援。もしも九校戦に応援団賞があるならば、一高は確実にノミネートされています!!!』
全くである。この為だけに箝口令を敷いていたとか、徹底し過ぎである。
だが……女子が先輩後輩関係なく、ここまでやってくれた以上、負けるわけにはいかなくなってしまった。負けるつもりも無い。
『チア・フォー・マスター』……何故だか知らないが、英霊ブリュンヒルデが、チアリーダー服で応援している様子を連想してしまっているのだから。
『さてさて両校の勢いに差がついてしまったが試合は別物!この逆境と妬みをバネに八高が勝つか、それとも男の意地で負けないか一高!! まもなくスタートです!!!』
「―――全員、やる気のスイッチは入っているな?」
達也の言葉に全員が無言で首肯。負けられない理由を胸に秘めながらモノリス・コード新人戦第一試合は始まるのだった―――。
† † † †
当たり前だが、この九校戦において八校は若干どころかかなり微妙な位置にいた。
それもこれも、遠坂刹那が全ての話題を掻っ攫っていき、同時に本戦での微妙な空気を完全に一新したからだ。
このまま一高、否、遠坂刹那に何も土を着けられないままに、終わらせてたまるか―――。その心意気で一高の陣―――
林を抜けて進み出た所にいたのは、件の遠坂刹那であった。びっくりして息を呑んでしまう八高のアタッカー……しかし求めた『首』がそこにあり―――首は、三人を捉えるように動いた。
「―――遅かったじゃないか。素通りさせてもらった甲斐はあったな」
気楽な様子で、そんなことを言う。その言葉の不穏さと『不可解さ』に、八高は混乱と激怒で血が上ってしまい、一拍置いて気付くことが出来なかった。
冷静になれば、刹那の言い回しの『奇妙さ』に気付けたはずだが、あまりにも不遜すぎる挑戦状に八高は臨戦態勢となる。
「お前一人で三人を相手取るってのかよ!?」
「のみならず勝つ。そして倒す―――俺がここで三人を戦闘不能にしてしまえば―――前が楽だろう?」
ふざけるな。言葉に出さずに言葉を遮るために、モノリスの前に陣取る遠坂に向かう。
移動魔法を掛けて体制を崩そうとするも、
キン、キン―――甲高い音でモノリスに当たるはずだった魔法が消え去る。
そして見えた防御壁。浮かび上がる光の壁は古式の一つである。
「ルーン文字!?」
地面から明滅しながら浮かび上がっては消え去りを何度も行う円陣……その中央にモノリスの姿。
「城壁の意味を示すルーンと鹿角のアルジズの組み合わせ。ここに来るまでに色々と仕込むことが出来たよ」
そうして、虹色の宝石。バゲット・カットのそれを見せびらかす遠坂。恐らくそれで描いたのであろうと思えるサイオンの波動。
開始してからまだそこまで時間が立っていないというのに、これだけの陣を敷いたと言うのか……。
ここで八高は判断を迫られる。
遠坂をやるか―――それともモノリスを―――その判断に迷い―――。
その隙を見逃す刹那では無かった。左手の刻印と同期させる形で宝石から魔力を放射。
「Anfang―――
宝石から放たれた魔術が地面を変革。
八高三人―――扇のように広がる形のワイドフォーメーションで迫っていたが、足元に投射された魔法陣は彼ら三人を諸共に捕縛していた。
「ぐおおおっ!!!」
「じゅ、重力系の魔法。こんな広範囲に!!」
「けれどなぁあああ!!!!」
全ての物体を地面に強力に縛り付ける『四つ仔』方式の魔法陣に対して、抵抗を試みる八高選手たち。
全力のサイオン放射で、逃れようとしているが―――。
(実戦ならば、こうなった時点で終わりだ……などと『いきって』言うつもりはないが、俺が片手間なのに気付いていないんだろうな)
重力異常の井戸から逃れようともがき、身体を何とか起こしながら辛くも脱出した八高選手たち。
息も絶え絶えの様子―――魔弾でも放てば終わりだろうが―――。
「生きてやったぜ……」
「そうか。いのちは大事にしないとな」
「ほざけよ!!! 遠さかぁ―――あ、あれ?」
勢い良い言葉を間抜けなものにしてしまうぐらいには、八高の選手たちは、途端に動けなくなる。
そう。刹那が、『右手』を向けた時には全ての勝敗は決まっていた。そして段々と見えてくるもの―――。刹那の出しているもの、非常に見えにくい魔力の放射が見えてきた。
『こ、これは魔力拘束帯!? 八高アタッカーたち全員が十重二十重に、一高遠坂刹那の出す魔力の布で拘束されて身動きも出来ません!! しかし、これはいいんでしょうか?』
ミトの疑問はもっともだが、レギュレーション違反ではない。半物質化した魔力体による打撃というのは、『質量体』での直接攻撃には当たらない。
物理的な攻撃が禁止ではあるが、遠隔魔法で何かをぶつけるのは違反ではない。何より―――刹那が布のまとめから手を離すと、一人でに動き出して、ズガガガガ!! およそ布の発する音ではないが、布が地面に突きたち張力を維持したまま、八高選手を拘束した。
「しばらくは
『『『くそがっ!!!』』』
「いいねぇ。この『遠吠え』が勝利の美酒だよ」
正座状態で一高モノリスの前で拘束された八高選手たち。獲物を前にして何も出来ないで見下ろされているという状況がこの上なく屈辱的。
まさしく『あかいあくま』め。ともあれ一人で三人を拘束した刹那に対して、二人で四人のアタッカーを受け持っていた八高ディフェンダーが、殆ど為すすべもなく、レオの飛剣と黒子野の放つ虚数空間からのスパイク撃ちで吹っ飛ばされた様子。
どうやら何の波乱も無く、終わりそうだ。
『こっちは終わったぜ。そっちはどうだ?』
「
レオからの通信に答える。
正直言えばタイピングが苦手だった刹那としては、アタッカーではなくディフェンダーで良かったと思える。
鍵を打ちこんだ後の文字打ちこみが苦手だったのだから……。ともあれ数十秒後には、試合終了のブザー。
こうして一回戦は終了を迎えた。
『『『ずっ、ずるいんだぜ―――!!!』』』
やるせなさすぎる八高三人の怨嗟が心地よい。
「たわけ。これこそが、戦術と言うものの妙味。俺が賞金首なのは分かっていたからな。囮に食わされたな八高」
結局の所、あの場で止まって罠の可能性を考えずに手を伸ばしたことが敗因。
……宝箱が