魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第84話『九校戦―――儘ならぬ立場と幕間の戦い』

結果から言えば、流石に会頭も会長も『NG』を出してきた。確かにフェアプレー精神に則れば、特に攻撃系統の術はともかく、移動系統や加速系統―――フィジカルシフトを旨とする競技において、一方だけが『いい道具』を使えているのは、若干―――フェアではない。

 

競泳でも2000年代……2008年ぐらいの頃、ある水着を利用したことで、多くのトップ選手たちが世界新記録を樹立したこともあるぐらいだ。

道具の性能で、一秒でも二秒でもタイムが縮まるのならば、そちらを使った方がいいに決まっているのだが……。

 

結果として、この水着は一時だけの『チートスイムスーツ』ということで、後に全面禁止となってしまった。

陸上競技やバスケットにおけるシューズの最適化とも違う。『能力の底上げ』という意味合いが強すぎたのだろう。

 

とはいえ、そのスイムスーツの存在が、それまでの水泳競技においての定型(セオリー)に一石を投じたのは間違いなかった。

 

「一色さんには気の毒だけどさ。やっぱり刹那も一高の選手なんだから、そこは節度を守らないと」

 

「そうだよなー……」

 

幹比古の意見の『もっともさ』に同意しながらも、今の立場を認識し直す。

実際、雫は九校戦というものの偉大さと言うか高潔さの信奉者なので、刹那の行為は裏切りにしか思えなかったようだ。

 

それ以外の感情もあるように思えたが……。執行者として協会の、秘儀裁示局カリオンの意向に従いながらも、我を通してきた時とは違う。

 

「だが、お前の意見も確かに分かる。俺自身も『跳躍』だけで勝てるならば、そうさせたいが……」

 

絶対使うよ深雪は、お前の一番のキャンペーンガールなんだから―――と、傍にいる達也に無言で言っておく。応援合戦の様子なのか六高と一高の観客席が映し出されている。

 

今回は女子のチアリーディングだけでなく男子―――特に会頭がどこから手に入れたのか学ランに鉢巻、白い軍手を着けて昔懐かしの応援団長スタイルなのに驚かされる。

 

何気に次の本戦開始まで楽しめていないのが、若干苦痛だったのではないかと思ってしまう。

会頭の他は二年の服部、桐原、沢木……三年でも男子の次席と言える辰巳が同じような服装で応援団旗を持っている。

 

一高のシンボルとも言える八枚花弁のそれを掲げたもので声を張り上げている様子。こちらにまでその声援が直に届くのではないかと思うぐらいには、声がサイオンを伴っている。

 

『両校共に凄まじい応援の声と熱気で選手たちを盛り上げていきます!! さぁて今回のステージは市街地戦!! 殆ど距離を置かず隣り合う、廃ビルの中に隠されているというモノリスを探し出して攻略する、非常に戦術性が要求されるものです!!』

 

 

ビルという言葉から、何となく自分が生まれる前の冬木にあったというホテルの爆破事件を思い出す。

両親も小さい頃だったから、あまり覚えていないそうだが、時期が時期だっただけに、聖杯戦争の参加者がやったのではないかと噂されている。

 

というか両親―――特に父の方の『身内』の仕業なのではないかと思う程だ。確証こそないが場合によってはライネスは、父にも借金の返済を求めていたかもしれない。

 

蛇足を終えてから―――状況を整理する。今回ばかりは刹那の他にもディフェンダーは張り付けてある。

 

流石に遮蔽物が多すぎる場所において、ルーンの守りと魔力拘束帯だけでの封じ込めでは不安が残る。かといってデカい焚火を起こされても厄介。

 

この建物の中では魔弾ですら反響しまくる。

 

まぁ『壁や床に『びっしり』ルーン文字を書きまくることも出来るが?』と提案したが却下された。解せぬ。

イゼ〇ローン要塞のように、完全防備も可能となるはずだったが、ともあれ今回は達也と幹比古がディフェンダーとしている。

 

攻2防3の編成。それを決めておいたことでブザーが鳴ると同時に―――動き出す。

 

 

「Anfang―――」

 

魔術回路を起動させてから、床に手を着ける。同時に右手の魔術刻印が作動。

 

「トレース・オン」

 

物体の構造情報を読み取る魔術。父の良くやっていたことだが、父がこれだけの構造物を『解析』出来るようになったのは、結構あとになってからだ。

 

五階建ての建造物。それをくまなく探ることが容易いのは『遺産』である。

 

「屋上から一人、一階に一人―――」

 

「向かいの窓からこちらを探っているのもいる。スタンダードな戦術だね」

 

上と下からの同時索敵で、ターゲットを探す。その上での挟み撃ち。定石である。

 

同時に、追い詰められているのを知って出てくる人間を観察するのも忘れぬ手口。

 

二人の侵入は、分かっていたことだ。同時にこちらも二人を相手陣に送り込んだ。

 

『司波君、こちらは相手ビルに潜入成功。こちらにも三人いますね?』

 

「ああ、一人三階から探っている『眼』がいる。位置情報を送るから、沈黙させてくれ」

 

『了解』

 

黒子乃太助の潜入術。虚数空間―――ほど深い領域ではないものの、一種の『空間転移』で影から影に移動する手際は、驚くべきものだった。

 

虚数魔術と混沌魔術―――これらを黒子乃の家では『虚空魔法』と称して一種の奥義としてきたらしい。

系統としては地味ながらも、その特異性と柔軟さで、必要な出力をその場で必要なだけ用意して勝ちを獲りに行くクセがあった。

 

ゆえに森崎や光井などの術者は、なんで自分が負けたのか分からぬままに拍子抜けして、術の特性すら分からずに終わってしまう。

 

結局の所、『サクラ・エーデルフェルト』と『フラット・エスカルドス』の半々の資質を持っているようなものだ。

 

(ノーマルな術者からすれば、フラット兄弟子みたいなのはやりにくい限りだろうな)

 

 

「それじゃどちらからやる?」

 

「屋上からだな。歩調を合わせりゃいいのに、屋上から来たのが少し早かった」

 

「つまり―――六高のモノリスは、一階と二階には無い」

 

「そう踏まえた上で屋上を抑えておけば、お前か幹比古を送りやすいだろう」

 

「了解だ」

 

遊撃に入る為に強化も加速術式も使わずに、『忍術』で走っていく達也。一先ずは小手調べの『加重系統』で撃っていくだろう。

 

六高もディフェンダーに達也がいると知れば撤退か、戦力の増強を図るはず。

 

 

「何というか刹那と達也の考え方って非常に実践的だよね……こう軍人的と言えばいいのか……」

 

「まぁ分かってるヤツと組んでいるとやりやすいな。そんだけだ」

 

勘のいい幹比古を少しだけ煙に巻く発言。そうすることで幹比古は己の『マッスル』に考えが至った。

 

「そうなると僕も身体を鍛えた方がいいかな……戦士とでも言えばいいのか、マッスルでレオや太助君にも負けてるし」

 

「幹比古がムキムキに……やめとけ。美月が悲しむよ」

 

「なんで―――――――近づいてきている」

 

 

無駄な雑談をしつつも敷いた陣から敵の反応を知り、飛ばしていた精霊が感知したもの―――一階からのアタッカーが近づいてくるのを感じた。

 

(静かに先制する―――)

 

(分かった――――)

 

出力を絞り、魔力を縮小した術式を解き放ち―――視認できない所にいる相手に魔術を届ける。

 

最初に幹比古の精霊魔法が、相手の声を乱した。どうやら三階に上がる階段にいたようだ。

 

まだ誰にも通信していない所から見るに、緊張は分かる。

 

ゆえに――――

 

 

『Stern erster Größe』

 

追尾する魔弾―――刻んだ式によって、綺羅星の如き光が刹那の手から離れて床をすり抜けて、戸から出て行き、幾重もの光の粒が溢れて、相手に着弾する。

 

大した威力ではない。むしろ絞れば絞った分だけ破壊力は弱い。しかし―――。

 

『星神』

 

指向性を与えられた魔力に干渉して大術式へと変化。正確には見えないが、幹比古の喚起で光は球体になり、相手を撃った。

 

ちょうど一条の偏倚解放程度の圧力はあったのではないかというもので……倒れ込んだ。

 

『Binden』――――トラップとして作動する束縛の魔術で捕えられた、六高のアタッカーを眼で確認。

 

どうやら完全に気絶しているようだ。

 

「ヘルメット剥がして来い。一人戦闘不能になれば、楽だろうさ」

 

「分かった。ここの防備は任せたよ」

 

それなりに慎重になりながらも、幹比古が出て行き、その三分後ぐらいには、隣のビルで激しい戦闘が始まった様子。

 

音からしても分かる喧騒に、終わりは近いなと感じる。

 

「戻ってきたが、いや向かいが凄いな―――どうやったらあんな風になるんだろう?」

 

六高のアタッカーのヘルメットを片手に持ちながら防衛陣地に入ってきた幹比古の言葉通り、こちらにも響く大音声が戦闘の激しさを物語る。

 

「恐らく達也がニンジャな動きで撹乱しまくって、そんな場面にレオと黒子乃が強烈に打ちすえる。二つの性質の違う戦闘を仕掛けられて壊乱した所で―――」

 

撹乱したニンジャが、戦闘目的たる石版の攻略に移る。同時に幹比古と刹那に繋がる通信。妨害されている訳ではないようだ。

 

『今からモノリスに『鍵』を撃ち込む。見えているか? 刹那、幹比古?』

 

「うん。大丈夫だ。問題なく見えている―――開示されたよ」

 

六高のモノリスは予想通り最上階たる五階にあり、しかも結構あれこれと構造物が多い場所であるそうで、そこには……。

 

「ポルターガイスト現象……なりふり構ってないな」

 

「この作戦取っておいて正解だったね」

 

移動系統の魔法の乱発で『物理的な結界』を作り上げた六高だが、達也のスナイプ技術ならば壁一枚隔てた向こうからでも魔法を撃ち込める。

 

同時に達也に張り付かせておいた『遅延魔術』ともいえるもので、呼び覚まされた式紙が『視覚』を代行してモノリスの元へ―――。

 

本来であれば、相手の建物にいた方が見えやすいのだが……まぁそこは保険を掛けておいた。

 

「オーケー。コードを撃ち込む。刹那。周囲の警戒を」

「了解」

 

主戦場があちらに移っている以上、あまり意味が無い話ではあるがそう言っておく。

 

(見えやすいな。これは……一見すれば無駄なことだったかもしれないけど、今となっては良策だ)

 

式紙―――鳥に見立てたものを飛ばして、感覚の一つ『視覚同調』をすることで遠くのものを見るこの魔法は、確かに便利であり索敵や透視にも使えるものだ。

 

しかし、元が『紙』なだけに、多大なサイオンや魔法式が吹き荒れるところでは余波で破れることもある。

そこで刹那は、持っていた宝石の『粉末』を紙に固定化させたうえでバックアップを掛けた。

 

一種の『物質強化』だと言われたが、純度の高い魔力でいつもより視界がクリアーである。

当人は『心の贅肉かも』などと自虐していたが……。

 

そしてコードの撃ち込みも難儀はしない。

ディフェンダーもどうしてモノリスが開示されたのかは分からないだろうが、それでも遠隔で見ている式紙に気付けず、他のアタッカー……レオと黒子乃がやってきたことで、完全に意識がそちらに向かい……。

 

戦闘に入ろうとした瞬間には、512文字の不定型文を幹比古が打ち込み送信したことで試合終了となった。

 

「波乱も無く、今回も終わったな。楽できていいけど」

 

「そうかい? まっ、刹那ががんばっちゃうと僕らの活躍の場が失われるしね」

 

言いながらも、結局のところ……そういうことだ。

拳を軽く叩きあいながら、刹那が全力で戦えるフィールドたる決勝リーグまでは勝ち進もうと心に誓う。

 

 

その後―――予選リーグを全勝で締めくくった一高は八日目の決勝リーグ。

 

プリンスとの最大級に激しい戦いを予感しながらも、明日に向けて英気を養っていくのだった……―――。

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