妖怪のヒーローアカデミア   作:座右の銘は天衣無縫

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体…育……祭?

 

雄英体育祭当日。

運が良いのか、もしくは誰かがパンチの圧力で雨を降らしそうな雲をふっ飛ばしたかは定かではないが、綺麗に晴れた。

 

A組の控室では各々が準備体操をしたり、精神統一したり、逆に何時も通りにしていたり、とそれぞれの方法で緊張を紛らわしたり集中を高めたりしていた。

 

「おい、緑谷。」

 

「えっ、何かな轟君。」

 

そんな中、急に轟が緑谷に話しかけた。

 

「客観的に見れば俺の方が実力は上だと思う。 お前ヤケにオールマイトに目をかけられてるよな。」

 

「え、えぇっと、」

 

「別に詮索しようって訳じゃねぇ。 ただ、俺はお前には勝つぞ。」

 

「…………僕も本気で獲りに行く。」

 

突然の宣戦布告にオロオロする緑谷だが、最後には覚悟を決めたようにしっかりと轟の方を見て返事をした。

 

「それと、射命丸。」

 

「はい?」

 

「正直なところ、俺とお前、本気でやったらどっちが上だか分からねぇ。 けど、この体育祭で白黒つける。」

 

それを聞いた射命丸は座っていた椅子から立ち上がってニヤリと笑いながら返した。

 

「そういう事なら、轟さんとのバトルの時には本気でお相手しましょう。 中々レアですよ? 私の本気は。」

 

珍しく自分から慢心を捨てると言った射命丸。

USJの事件を経験して少しばかり吹っ切れたのだ。

因みにその他のメンバーに対しては状況次第で本気を出すのもやぶさかでは無い、というレベルである。

 

これは指名で宣戦布告されたから最初からそうする、というだけの話である。

 

 

 

 

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!!

さあ、選手入場のお時間だ!! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろォ!?

ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!! ヒーロー科ァ! 一年!! A組だろおおおぉォ!!?』

 

今大会の実況役のプレゼント・マイクのアナウンスに合わせて一年A組のメンバーが入場する。

巨大なスタジアムの中は既に熱気に包まれていた。

 

そして選手の入場が進み、一年の全クラスが揃ったところで、今回の雄英体育祭一年生の部の主審を務めるミッドナイトが現れた。

 

『選手宣誓! 選手代表、一年A組、射命丸文!』

 

呼ばれたので壇上に上がり、一呼吸置いて話し始める。

 

『宣誓! 我々、雄英高校一年生は我が校の校訓を胸に懐き、ヒーロー科以外はヒーロー科を追い越すべく、ヒーロー科は更に上を目指すべく、「自らの限界など知ったことか」とばかりに突破する事を誓います! では、締めとして我が校の校訓を! それでは皆さん、ご一緒に! せーーの!』

 

『Plus Ultra!!!』

 

全生徒が雄英高校の校訓を叫び、熱気が一気に増した。

 

『以上! ヒーロー科一年A組、射命丸文でした! ありがとうございました!!』

 

選手宣誓を終えた射命丸に観客席からも生徒達からも大きな拍手が送られた。

それを聞いた射命丸は笑顔で手を振りながら心の中でほくそ笑む。

 

実はこれ、計算ずくで人気を出そうという魂胆である。

射命丸はマスメディア側、故にどのようなスピーチがマスメディアにとって好みなのかは大体分かる。

 

マスメディアにとって好みの展開を自分から作り出せば、自然と自分のメディアへの露出が多くなる。

上手く行けば今まではメディアとより強い繋がりを持てるかもしれない。

そうすればヒーローとしてデビューした時に色々とやりやすい。

 

そういう考えの下、捻り出したスピーチが先程のものである。

何がとは言わないが黒い。

 

「さぁて、それじゃあ早速第一種目に行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ! さて運命の第一種目! 今年は、障害物競走!!」

 

射命丸が元の位置に戻ったのを確認してからミッドナイトが今年の雄英体育祭、第一種目を発表する。

発表された内容は障害物競争。

 

「計十一クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周、約4km! 我が校は自由さが売り文句! コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ、位置につきまくりなさい。」

 

誰もが良いスタート位置を確保しようと走り、他の生徒を押し退けて前に出る中、射命丸は歩いて後ろの方を陣取った。

個性が『鴉天狗』の射命丸は前を取っても後ろを取っても別に変わりは無いのだ。

 

背中の翼の調子を確かめる様に二、三度翼を上下に動かす。

 

(さてさてさぁて、どんな障害物があるかは知りませんが、これは飛行系個性が圧倒的に有利な種目。 ぶっちぎりで一位を狙わせて貰いましょうか。 今日の私は自重なんかしませんよ?)

 

何せテンション上がりまくってるのである。

さらに言えば河城、姫海棠、犬走の三人が見てるのだ。

大親友が見てるのに情けない結果では終われない。

 

スタートシグナルが赤く光り、一つずつ消えて行く。

それと同時に射命丸の集中が高まっていく。

 

(常に全開にする必要はない。 要所要所でブースターとして扱うだけ。)

 

3……2………1…………………0

 

全ての光が消えたスタートシグナルが緑色に光り、

 

『スタート!!』

 

それと同時にミッドナイトがスタートを告げる。

まずはスタートダッシュ。

 

全ての生徒が一塊になっているこの瞬間、多数に妨害をかけるのならここが狙い目。

故に射命丸は他を置き去りにした。

 

自分が妨害せずとも誰かが妨害する。

ならば、それを有り難く利用させて貰おうじゃないか、という事である。

 

さらに言えば広範囲への妨害となるような攻撃は高確率で視界を奪う。

そんな中、一人だけを狙うなど至難の技。

そこまで分かっていてスタートダッシュを選んだのだ。

 

そして射命丸がスタートゲートを抜けそうになった時、案の定後ろから強烈な冷気が襲ってきた。

 

それを無視し、スタートゲートを通り抜け、進む。

 

「チッ、流石に一瞬じゃ凍らせらんねぇか。」

 

自分の安全が確認できたところで一旦、集中を切る。

流石にこのまま集中し続けていたら体育祭の後半では集中力が無くなる。

 

風を操るのにも実はかなりの集中力が必要なので風も出来るだけ操らないようにする。

 

短期であれば全く問題ないのだが、この体育祭は体力、集中力共に上手く温存していかなくては、いざという時に全く動けなくなってしまう。

 

『ついに始まったぜ、雄英体育祭一年部門! 実況はボイスヒーロー、プレゼント・マイク! 解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの二人でお伝えしていくぜ! 解説のミイラマン、アーユーレディ!?』

 

『無理矢理呼びやがって……』

 

スタジアム内に設置された実況席。

その中には何時も高いテンションをさらに上げて実況に臨むプレゼント・マイクと解説役として無理やり引っ張られてきた、まだ包帯の取れないイレイザーヘッドがいた。

 

『まず抜け出たのはA組の射命丸! 開会式のスピーチ、良かったぜ! 続いてこれまたA組の轟! 氷結攻撃で後続を妨害! だが、ヒーロー科の生徒を筆頭に実力者達は見事に妨害を躱し、轟を追い掛ける! てか、射命丸速ぇ!! もう第一関門の手前まで来てんぞ!』

 

『射命丸は轟が妨害に出ることを予想してスタートダッシュに専念したな。 お陰で止まること無く後続との差を広げてる。』

 

『そんじゃ、まあ、まだ射命丸しか来てねぇけど第一関門! ロボ・インフェルノ! 仮想ヴィランロボ共がお待ちかねだ!』

 

射命丸の眼下に広がるのはヒーロー科の実技試験の時の仮想ヴィラン達。

だが、倒さなくて良いなら関係ないとそのまま飛んで行こうとした時、目の前に何か銃口の様な物が取り付けられたドローンが現れた。

 

「………………」

 

『………………目標ハッケン!』

 

「やっぱりぃ!?」

 

暫く見つめ合ってると突然、ポンッという軽い音と共に銃口から何か放たれた。

それを避けて落ちて行く自分が避けた物を見てみるとそこそこの大きさのあるネットだ。

 

『ハッハァーーー!! 飛行系個性なら余裕とでも思ったか!? 甘い甘い!! 空にはドローン! 飛んでる奴目掛けてネット発射するぞ!』

 

『用意したドローンは百台以上だ。 スタートダッシュに成功したのが裏目に出たな。 他の飛べる個性持ちが来るまで全機、射命丸を狙うぞ。』

 

それを聞いてドローンの方を振り返ると

 

「うげ」

 

いつの間にかドローンが増えている。

そしてその全ての銃口が射命丸に向けられている。

 

それを見た射命丸は急いで高度を落とす。

飛ぶのを止める気は無いが、ネットなんて、盾になるような障害物が無ければやってられないと考え、0ポイント仮想ヴィランの足下をくぐり抜けて進もうと考えたのである。

 

が、

 

『おおっと、ここで後続が追い付いて来たぞ! そんでもって轟が射命丸に凍結攻撃!』

 

二位の轟が射命丸が足止めを喰らってる間に追い上げ、地面を凍らせた。

それを見て氷が迫り上がって来るのを警戒し、降下を止める射命丸に真上からネットの雨が降り注ぐ。

 

「ええい、射線が限られてるだけマシだと思いましょう!」

 

そう言って0ポイント仮想ヴィランの間を縫う様に飛ぶ射命丸。

慎重に飛んでる分、その速度は落ちている。

 

ポンポンポンポンと上からネットが降ってくるが緩急を織り交ぜ、ランダムに蛇行する事で避ける。

下に降りて走る事も考えたが、轟の餌食になる可能性が高いので却下。

 

その結果、一位のまま第一関門を突破したものの後続との距離が一気に詰められてしまった。

 

『オイオイ、第一関門チョロいってよ!! んじゃあ、第二はどうよ!? 落ちたらアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』

 

第二関門は綱渡り。

地面は底の見えない深さにまで掘られ、足場として多数の柱状の地面が残っており、その地面を繋ぐようにロープが張られている。

 

絶対、何か仕掛けて有るんだろうなと思いながら射命丸が第二関門のエリア内に入ると、予想に反して何も無い。

 

『何も無いと思った奴! ねぇワケねぇだろ!? ポチッとな、ってなぁ!!』

 

『古いな。』

 

プレゼント・マイクが手元にボタンを取り出し、勢い良くそれを押す。

すると突然、第二関門の上空に乱気流が生まれた。

 

『第二関門、空の妨害は風! 風を操る個性持ちの奴等を集めて作った乱気流だ!』

 

『スイッチ関係ねぇな。』

 

どうやら突然生まれた乱気流はヒーロー達を集めて作り上げたものらしい。

射命丸も風を操る事は出来るが、相当の集中力が必要になる。

 

故に第一競技では温存しておこうとしているのだ。

さらに操ろうにも個性で作り出した風な上、相手は多人数、しかもプロ。

まともに風を操ろうとすればどの位、集中力が持っていかれるか分かったものじゃない。

 

ここまで考えて射命丸は一気に急降下。

ロープよりも低い位置を飛べば柱状の地面が邪魔になり、風の影響は受けにくいはずと考えての行動だ。

 

実際、ロープより下では風は皆無に等しく、楽に飛べる。

 

『まあ、そう来るよな。 普通に綱渡りする奴等に風の妨害があると不公平すぎるからロープ付近では風は使えない。 するとロープより下では風を循環させるようにしか動かせない。 そうなったら必ず何処かに前へ進む風が生まれる。 射命丸みたいな翼のある飛行系個性持ちはその風に乗って一気にスピードを上げちまうから結局ロープより下は、ほぼ無風状態だ。 自然の風は吹くけどな。』

 

『やっぱ飛行系個性には楽な種目だよな! 不公平? バカ言っちゃいけねぇ! オメー等も開会式で言ったろ!? 『Plus Ultra!!!』ってなぁ! そんくらいの不公平位、乗り越えなきゃ目立てねぇぞ!! ホレ、走れ走れ!! んでもって追い抜け!』

 

射命丸が第二関門終盤になったところで高度を上げて後ろを見ると、少しだけ差が開いていた。

だが、よく見るとその更に後ろから爆豪が追い上げてきている。

 

「思ったよりも引き離せませんね。 独壇場かと思ってましたけど。 まあ、目立てれば何でも良いですし。」

 

そう呟いて先に進んだ。

 

『先頭グループが第二関門突破ァ!! 残すは最終関門! その正体は……怒りのアフガン!! 地上は一面地雷原! 空には対空兵器! まさしく戦場そのものだ! さぁ、現時点一位の射命丸が入ってきたぞ!』

 

対空兵器?

そんな事を考えていると地上から大量の弾幕が形成された。

 

「ああ、なるほど、対空砲火ですか。」

 

どこか疲れた表情で呟く射命丸。

 

『設置された四台の対空砲! 発射レートは毎分二百発! 狙いは粗いが飛んでる奴ロックして撃ってくんぞ!』

 

『弾は当たっても痛いが怪我はしにくい設計になってる。 地上の地雷も音と衝撃は激しいが殺傷性は皆無に等しいから安心して進め。』

 

『その通ォり!! 地雷は良く見りゃ場所が分かるようになってっから目と足、酷使しろよ!』

 

弾幕を避けながら前に進む射命丸だが、

 

「危なっ!? ああ、もう狙いが粗いのが逆に腹立つ!!」

 

撃たれた弾の殆どを避ける射命丸だが、狙いが粗いせいで時々、弾が当たりそうになっている。

 

『ここまで順調に関門突破してきた射命丸が大幅ロス! その間に後続がドンドン来てんぞ!』

 

プレゼント・マイクの言葉に後ろを見てみると確かに後続がかなり近付いてきている。

 

「温存しておきたかったんですが、仕方ありませんね。 旋風『鳥居つむじ風』」

 

二つの竜巻を作り上げ、砂を舞い上げる。

すると思った通り、射命丸を見失った対空砲の砲撃が止んだ。

 

『竜巻発生!? オイオイオイ、対空砲の砲撃が止んだぞ!?』

 

『砂埃で見失ったんだろ。 それより、砂以外にも舞い上げられた物があるぞ。』

 

『は? あ、地雷が吹き飛ばされとる! 上から降ってきてんぞ!』

 

『それに加えて、砂が舞い上げられたせいで途中から地雷が何処に埋まってるのか分かりにくくなっているし、砂埃のせいで視界も悪い。 一気に最終関門の難易度が上がったな。』

 

砂をある程度舞い上げたところで竜巻を消した射命丸は砂埃に隠れて一気にゴールを目指す。

 

『射命丸、砂埃の中から出てきた! 最終関門トップで通過! 後続はまだ、ってか降ってくる地雷の対処に追われてる! 序盤からトップをキープし続けたまま、スタジアムに帰ってきたのは、射命丸文!!』

 

ゴールゲートをくぐり抜け、スタジアムの中心に降り立ち、四方に笑顔で手を振る射命丸。

その射命丸を大歓声と拍手が包み込んだ。

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