「ハァ〜〜〜。」
解散を告げられた後、蛙吹が投げた峰田の頭を鷲掴みにし、竜巻と一緒に真上へ投げ飛ばし、落ちて来た峰田を障子がキャッチしたのを確認した射命丸は選手に割り当てられた観戦用の席に戻り、席に座ると同時に深いため息を吐いた。
「轟さんに見せ場持ってかれました〜〜。 圧倒的一位の予定だったのにぃ。」
ぐで〜、と背もたれに寄っかかりながら愚痴を言う、
「ま、まあまあ、一位だったんやし1000万抜きにしても結構な大差だったからええやん。」
「まあ、そうなんですけどねぇ。 どうにも負けた感じがしまして。 次の種目で倍返しですねコレは。 あ、そうだ葉隠さんは大丈夫です? 頭。」
「まだくらくらする〜。」
「スミマセンね、けど勝負なので恨みっこなしってコトで。」
まだふらつきながら歩く葉隠に謝りつつも反省も後悔もしていない。
「射命丸、それに緑谷、話がある。 ちょっと良いか?」
突然、轟から名前を呼ばれた射命丸と緑谷は一瞬顔を見合わせ、轟についていく。
「あの、轟君。 話って?」
轟について行き、来た場所はスタジアムの学校関係者専用の入り口通路だった。
「なぁ、お前、オールマイトの隠し子か何かか?」
「え、何ですか、そのスクープ待った無しの案件、詳しく。」
切り出された話に射命丸が即座に食いつく。
どこからかメモ帳とペンを出し、ネタにする気満々である。
「いや、緑谷が個性を使う時に何か、こう……オールマイトと似た何かを感じたんだ。 障害物競争の最後、アソコでそれに気が付いた。」
それを聞いた射命丸がメモ帳とペンをしまった。
確実性の無い記事は己の立場を危うくするだけなのは良く知っているからだ。
「ち、違うよ、それは。 隠し子だったら違うって言うに決まっているから納得しないと思うけど、とにかくそんなんじゃなくて。 逆に聞くけど、何で僕なんかにそんな、」
轟の問いにかなり動揺しながら答える緑谷。
そんな彼を見て射命丸はもう一度無言でメモ帳とペンを取り出した。
「その言い方に慌て様。 何かしらの繋がりはあると見ました。 そもそもオールマイト自体が謎に包まれた存在。 ナチュラルボーンを謳いつつ、突然ヒーロー界に降って湧いたかのように現れたのがオールマイトです。 どんな秘密があったって私は驚きませんよ。 さあ、ゲロっちゃって下さい! 私の記事の売上のために!」
ピッ、とペン先を緑谷に向け迫る射命丸。
その射命丸と緑谷の間に手を入れ、止めた轟は話の続きをする。
「悪いがそれは後にしてくれ。 俺の親父はエンデヴァー、知っているだろ。 お前がナンバーワンヒーローの何かを持っているなら、俺は尚更勝たなきゃいけねぇ。」
そうして轟は話し始めた。
曰く、轟はオールマイトを越えられなかった父親のエンデヴァーが個性婚で母の氷結系の個性とエンデヴァーの炎熱系の個性を混ぜて作り上げられたハイブリッド。
オールマイトを越えられなかった父親の代わりにオールマイトを越えナンバーワンヒーローに育て上げられた事。
そして、母親は心を病み、炎熱系の個性の宿る左半身が憎いと、熱湯を浴びせられた事。
それを聞いた緑谷は轟の壮絶な過去に驚き、何も言えない。
射命丸はかなりの速度でペンを動かし続けている。
「俺はクソ親父の個性を使わず、一番になる事で奴を全否定する。 その為にオールマイトに似た個性の緑谷には絶対に負けられねぇ。 そして一番になる以上、その一番の障害になる射命丸にもだ。 ガキみてぇな理屈で突っかかって悪いとは思ってるが、それだけは絶対に譲れねぇ。」
「……なるほどなるほど。 轟さんの事は良く分かりました。 まあ、私もヒーローを目指した切っ掛けは似たようなモノですし、何も言いませんよ。 相手になった時はよろしくお願いしますね。」
「そうか。」
「あ、ところで今の話、記事にします? そうしたらエンデヴァー、社会的に殺せそうですが。」
「…………いや。 これは俺の個人的なエゴだ。 そこまでする必要はねぇよ。」
「あやや、それは残念。 売上伸ばせそうなネタだったんですけどね。 気が変わったら何時でも言って下さいね。」
何処までも記事の売上に関しては歪みの無い射命丸である。
とは言えど、この記事はエンデヴァーから訴えられる危険性を持つ。
そうなった場合、社会的立場がエンデヴァーより圧倒的に低い射命丸は負ける可能性が高い。
轟本人からの証言があれば別ではあるが、当の本人が乗り気でないのに記事を出した場合、轟が証言してくれる可能性は低くなる。
故に、ここは一旦諦めた。
「気が変わるとは思わねぇが、分かった。 その時は頼む。」
「了解です。」
一旦、であるが。
「緑谷、お前がオールマイトの何であろうと言えねぇなら別にそれで良い。 ただ、俺は右だけでお前の上にいく。 時間とらせて悪かったな。」
そう言うと轟は二人に背を向け、歩き出した。
レクリエーションの後は遂に最終種目。
早め早めに準備しておいて損は無い。
「僕はずうっと助けられてきた。 僕は誰かに救けられてここにいる。 オールマイトのようになりたい。 その為には一番になるくらい強くなきゃいけない。 些細な動機かもしれないけど、僕だって負けらんない。 僕を救けてくれた人たちに応える為にも。 だから、さっき受けた宣戦布告。 改めて、僕も君達に勝つ!」
「あ、じゃあ一位になった時は私の取材に答えて下さいね。 トップ目指すなら今からメディア出ておかないとダメですよ?」
「う、うええ!? あ、でもそれはそうか。 オールマイトとエンデヴァーの差はメディアに出る回数とか親しみやすさとか言われてるし、ナンバーワンになるなら射命丸さんの言う通り、今の内からメディアに出て」
「勿論、轟さんも一位になったら受けて下さいね。」
「…………まあ、考えておく。」
射命丸の意外な返しに驚いた緑谷は、その理論に納得しブツブツ言い始めた。
そんな緑谷をスルーして射命丸は轟にも体育祭一位になった時の取材の申し込みをする。
轟の返事は素っ気ないが、エンデヴァーを超える為にも、と言えば受けてくれそうなのを察した射命丸はホクホク顔でその場から去る。
「……………………おい、緑谷。 射命丸も行ったし、そろそろ動け。」
「うえ!? あ、ゴメンね轟君。 じゃあまた後で。」
再度、席に戻った射命丸だが、女子達が居ない。
どこに行ったのかと周りを見渡していると峰田から声をかけられた。
「あ、おい射命丸。 女子は全員チアの格好して応援合戦だってよ。 相澤先生が言ってたぜ。」
「え? それ本当ですか?」
ジト目で峰田を見る。
峰田の言うことは一切信じられないという表情だ。
「ウソじゃねぇよ。 俺もそう聞いた。」
そこに上鳴も加わった。
「合理主義者たる相澤先生が直前になってそんな事を言うとは思いませんが。」
「ホントだって! 伝えるの忘れてたって言ってた! ホラ、先生だって人間だしそんな事もあるだろ。 頼むよ、お前が着替えなきゃ俺らが叱られちまう!」
「……………………………そこまで言うなら。 じゃあ、女子の皆さんは何処で着替えてるんです?」
上鳴と峰田の必死さに負けた射命丸は何処で着替えるのかを聞いた。
「ありがとう射命丸! 一番近い女子更衣室だ!」
返ってきた答えに従って女子更衣室に向かった。
その後ろで峰田と上鳴がほくそ笑んでいるのを知らぬまま。
『さぁ、そろそろ午後の部を始めるぜ! って、どーしたA組!?』
腹部を出し、へそが丸見えになるほど丈の短いノースリーブに太ももを大胆に見せたミニスカート。
そして両手に黄色のポンポン。
チアコスチュームそのものである。
それを着た1―Aの女子生徒達はスタジアムの中心で立ち尽くしていた。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私。」
崩れ落ちるように八百万が落ち込み。
その背中を麗日が優しくさすっている。
それに対し、上鳴と峰田の二人は満足げな表情で親指を立てている。
それに今すぐ中指を立てて応えたい衝動に襲われた射命丸だが、大衆の前という事でぐっと堪え、後で二人をシメる事を決意した。
「アホだろアイツら。」
「まあ、本選まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさ。 良いんじゃない!? やったろ!」
「好きね、透ちゃん」
恥ずかしがって持っていたポンポンを投げ捨てる耳郎に対し、葉隠は乗り気で身体を動かしている。
『さぁ、楽しく競えよレクリエーション!! A組女子も全員じゃないけど応援してくれるってよ! んでもってレクリエーションの後はお待ち兼ねの最終種目!! 第二種目から進出した四チーム、十六人によるトーナメント方式、一対一のガチバトルだ!!』
「それじゃあ、レクリエーションの前に最終種目のトーナメントの組み合わせをくじ引きで決めるわよ。 最終種目出場者はレクリエーションに出ても出なくても良いわ。 それじゃあ、一位のチームから順番に」
「あの、すみません。 辞退させて貰って良いですか?」
そう言ったのはA組の尾白。
周りがざわつき、その理由を問うと
「実は騎馬戦の時の記憶が無いんだ。 そして気付いたら騎馬戦が終わっていて、最終種目出場が決まっていた。 でも、俺はそんな風に最終種目に出られても全く納得できない。 自分の実力も意志でも無いのに勝ってるなんて他の競技者に会わせる顔が無いんだ。 だから、お願いしますミッドナイト!」
「同じ理由で俺も辞退します。」
尾白に続いてB組の床田も辞退を宣言する。
「そういう青臭い話はさぁ……好み!! 良いでしょう、二人の辞退を認めます! 代わりに…………そうね、爆豪チーム、心操チームの前にハチマキを取られた鉄哲チームを主審権限で五位とします! チームで話し合って出場する二人を決めなさい!」
鉄哲チームの話し合いの結果、鉄哲、塩崎の二人がトーナメントに進出する事が決まった。
「繰り上がった二人を加えて十六人が揃ったわ! そして、全員にクジを引いて貰った結果…………組み合わせはこうなりました!」
Aブロック
第1戦 緑谷 VS 心操
第2戦 瀬呂 VS 轟
第3戦 芦戸 VS 飯田
第4戦 射命丸 VS 八百万
Bブロック
第5戦 切島 VS 鉄哲
第6戦 爆豪 VS 麗日
第7戦 塩崎 VS 上鳴
第8戦 発目 VS 常闇
「あやや、何ともまぁ、荒れそうな組み合わせになりましたね。 そして最初の相手は八百万さん、と。 速攻が安牌ですかね?」
トーナメント表を見た射命丸の第一声がこれだ。
Aブロックは射命丸にとって個性の相性は悪くないが実力者が集まっている。
Bブロックは上がってきたB組の戦闘能力にもよるが、射命丸は直感で荒れると思った。
「試合におけるルールは後ほど発表するわ!」
『って事でトーナメントは一旦お預け! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』
解散が告げられると同時に数人がスタジアムから居なくなった。
試合のために集中するためだと思われる。
レクリエーションに参加して楽しむ生徒もいれば、応援で場を沸かす生徒もいる。
そんな中、射命丸は誰も居ない女子更衣室で元の体操服に着替え、座禅を組んで集中力を上げていた。
そしてレクリエーションが終わり、セメントスが個性で戦いの場を作り上げた。
『レディィィス、アンド、ジェントルメェン!! ボーイズ、アンドガールズ!! 待たせたな、テメェ等! 遂にお待ち兼ねの最終種目!! ここまで色々やって来たがやっぱ最後はコレだ! 身体と身体でぶち当たれ! ルール説明頼むぜミッドナイトォ!!』
「ルールは簡単よ! 相手を場外に落とすか、行動不能にする、もしくは相手に『参った』と言わせる! 行動不能に関しては十カウントね! 危ない時にはレフェリーストップが入るわ! 死なない程度に暴れ回りなさい!」
『サンキュー、ミッドナイト! それじゃあ早速第一試合いくぜ!!』
闘技場の両側にある出入り口からスモークが上がり、出入り口を隠す。
出入り口は赤と青に塗り分けられており、それに合わせてプレゼント・マイクが選手紹介を行う。
『赤コーナー、何だかんだで上位をキープ! 成績は派手だが顔が地味! 緑谷 出久!!!』
スモークの中から緑谷が現れ歓声が上がる。
『対する青コーナー、普通科唯一の最終種目出場者! 今大会のダークホース! 心操 人使!!!』
人は誰しもがそうな訳ではないが、逆境に立つ人間を応援したくなるものである。
故に心操に向けられる歓声は緑谷よりも圧倒的に多い。
『さァ、行くぜ! レディーーー、ファイト!!』
カァンと、いつの間にか実況席に持ち込まれたゴングが鳴り、開戦が告げられた。
開始直後に緑谷が何か叫び、心操に近付こうとするもその直後に動きが止まった。
『おお!? どうした緑谷! 動きが止まった!』
『精神干渉系の個性か。 やっぱり入試は見直すべきだな。 戦闘向けではなくてもヒーロー向けの個性なんざ幾らでもある。』
「そのまま振り向いて、場外まで進め。」
『ああーーー、緑谷! このまま場外に出てしまうのか!?』
心操の個性に完全にハマった緑谷は心操の言うことに従い、場外へと歩いて行く。
「精神干渉系の個性ですか。 厄介ですね。」
「あ、どこ行ってたの文!」
「ちょっと精神統一に。 まあ、試合なので戻って来たんですが。 ソレはソレとして、この試合は普通科の人の勝ちですかね。」
観客席の誰もが射命丸と同じ事を考えた。
だが、場外まであと一歩という所で緑谷の指が微かに動き、個性の反動で指二本がへし折れる。
その痛みで洗脳が解除された緑谷は振り向き、心操と睨み合う。
そして心操の腕を掴み、場外へと放り投げた緑谷が勝利した。
『大・逆・転!! ギリギリで踏み止まった緑谷の勝利!!』
続く第二試合。
轟対瀬呂の試合は、開始と同時に轟が大氷塊で瀬呂を凍らせ一瞬で勝利した。
第三試合。
芦戸対飯田の試合は、酸を出し思うように飯田を近寄らせない芦戸が有利に進めていたが、ダメージ覚悟で酸の中を突っ切った飯田が、芦戸の腕を掴みそのまま場外へと放り投げ、勝利した。
そして第四試合。
ゲート前に待機している射命丸は同じく反対のゲート前で待機している八百万を見据えていた。
スモークが上がり、ゲートを覆い隠す。
『赤コーナー、ここまで圧倒的な実力で一位をキープし続けてきた猛者! 今大会の優勝候補の一人! 射命丸 文!!!』
プレゼント・マイクの選手紹介に合わせてゲートを潜り、スモークの中から姿を表せば観客席から大歓声が上がる。
それに手を振って応える射命丸に気負いは無い。
『対する青コーナー、数少ない推薦入学者の一人! 因みにお嬢様口調はキャラ付けじゃなくてガチな! 八百万 百!!!』
八百万がスモークの中から現れるも上がった歓声は射命丸よりも小さい。
両者が所定の位置についたのを確認したプレゼント・マイクは開戦を告げる。
『レディーーー、ファイト!!!』
「風符『天狗道の開風』」
開始のゴングと同時に射命丸はその場で右足の踵を軸に一回転し、地面ギリギリからすくい上げるように腕を振るう。
するとそれに合わせて、渦を巻く風が吹き、その風が避ける間もなく八百万を飲み込み、場外へと吹き飛ばした。
「八百万さん場外! よって勝者、射命丸さん!」
『瞬殺ゥ!! やっぱ一位キープは伊達じゃねぇ!!』
場外で座ったまま呆然としている八百万に手を掴み、立ち上がらせる。
どうやら八百万は何が起こったのかイマイチ良く分かってないようだ。
だが、数秒もたてば状況が飲み込めたようで悔しげな表情を浮かべる。
「八百万さん相手に時間をかければかけるほど厄介になっていきますからね。 確実に勝つ為に速攻で決めさせて貰いました。」
「……いえ、そんな事も予想できなかった私の落ち度ですわ。 完敗です。」
射命丸 一回戦突破