何があったの?
「射命丸。」
「ああ、どもっ相澤先生。 怪我は大丈夫ですか?」
一年A組の一同が帰った後、病院から射命丸が起きたと連絡された雄英高校は担任の相澤と保険医のリカバリーガールの二人を病院へと送った。
そして二人きりで話をするという事で相澤だけが先に病室に入って来た。
「まあな。 ぱっと見、酷く見えるだけだ。 さて、リカバリーガールの婆さんの個性で治す前に話がある。」
「体力使っちゃいますもんね。」
「ああ。 本題だが、親御さんから話は聞いた。」
それを聞いて射命丸の顔から笑顔が消えた。
それからフッ、と笑い皮肉っぽく言う。
「やれやれ、今日は厄日か何かなんですかね。」
にとりに勝手に昔の話されたし、母親に勝手に昔の話をされた事を教えられた。
これを厄日と言わずして何と言うのでしょうか、と頭の中で軽く現実逃避する。
「大変だったな、とか無責任な事は言わない。 ただ、本気でヒーローになりたいんだったらそのトラウマをどうにかしろ。 致命的な弱点になるぞ。」
「ええ、実際そうなりましたし。」
USJの事を思い出し、すぐに思考から追い出す。
あれも余り思い出したくない。
「相談なら何時でも乗ってやる。 俺が嫌ならマイクがいる。 異性が嫌ならミッドナイトやリカバリーガールの婆さんがいる。 頼りねぇって言うならオールマイトがいる。 Plus Ultraだ。 必死に足掻いて乗り越えてこい。 そんだけだ。」
それは射命丸にとって変に同情されるよりもずっと嬉しい言葉だった。
自分の過去を分かっていてくれて、それでも過剰には踏み込まず、ただ応援してくれる。
「先生。 …………初めて先生の事、尊敬できそうな事言いましたね。」
「失礼な奴だな。」
「ああ、正確には尊敬できそうな事は何回か言ってたんですけど、職員室のアレで殆どチャラになってます。」
「悪かったな。 婆さんの個性使えば今週中には復帰できんだろ。 雄英体育祭の開会式の選手宣誓、入試トップのお前がやる事になってる。 三週間後までに考えておけ。」
「了解です。」
ビシッと敬礼して返事する射命丸。
その後、病室の外で待っていたリカバリーガールの個性で治療をするも、流石に全てを治すことは出来ず、数日かけて治療をする事に決まった。
数日後、薄味どころではない味の殆どしない病院食に『もう二度と入院しない』と心の中で誓いながら退院した射命丸。
午前中の退院だったので午後から学校に行った。
「イエーーイ! 私、完・全・復・活ですっ!!」
教室のドアを勢いよく開け、テンションの高いまま教室に入る。
一瞬、シーンとなるも次の瞬間にはほぼ全員が駆け寄ってきた。
「退院おめでとー!」とか「やっぱ病院食って美味しくないの?」とか言われた射命丸は少し意外そうな顔をしてから照れくさく笑った。
「へえ、へ〜え、なるほどなるほど。」
「文さん、その……笑顔が怖いです。」
「隠す必要が無くなりましたから、これからはちょいちょい出していきますよ。 今の内から慣れて下さい。」
(((((何か雰囲気が黒くなった。)))))
自分がいなかった時に普通科、そして同じヒーロー科のB組の生徒から宣戦布告を受けたと聞いて戦闘訓練の時のような獰猛な笑みを浮かべる射命丸。
その笑顔を怖いと言う八百万だが、慣れろと中々に無茶な事を言う射命丸。
「それじゃあ、ちょっとB組に挨拶に行ってきましょうかね。」
「「「「「え゛」」」」」
「…………ああ、変な意味じゃないですよ? 爆豪さんの集めたヘイトの拡散と、改めて私の方から宣戦布告する位ですから。」
射命丸がB組に挨拶に行くと、クラスの大半から変な声が上がったので変な意味ではないと説明する。
それなら、まあ、みたいな反応をされて若干納得のいかないままB組へと向かった。
B組のドアを開けると中にいた生徒達の視線が集まった。
「初めまして。 A組の射命丸文と申します。 先日、宣戦布告をされたと聞き、その際に居なかったのでご挨拶を、と思って来ました。」
一瞬、戸惑った表情をするB組だが、すぐに受け入れてくれた。
一人だけやけに煽ってくるのが居たが無視した。
「まず最初に先日はウチの爆豪さんが失礼な事を言ったみたいですみません。 でも、普段からアレなので気にしないで下さい。 同じA組にもあんな感じなので。」
まず、爆豪の無駄に集めたヘイトを散らす。
B組の生徒達は毒気を抜かれた表情でまた戸惑った。
その後、『やっぱりヒーロー目指してるんだから全員が全員、アレな訳無いよね』という事で納得していたが。
「ですが、言い方は悪くとも言ってることは事実。 壁や障害、競う相手のいない勝負なんて虚しいだけでしょう? 雄英体育祭、互いに上位目指して頑張りましょうね。」
因みに射命丸にとって壁や障害は自分の事、競う相手は自分以外のA組の事である。
相手を見下すことは射命丸にとっては一種の自己防衛のようなものであるので、このままでは駄目だ、と分かっていても無意識的に出てしまうのである。
B組の殆どはその事に気が付いて無いようで好意的に受け取ってくれたが、唯一最初に煽ってきた男子は軽く射命丸の事を睨んでいたので気が付いているようだった。
「それでは、失礼しました〜。」
軽く手を振りながら、B組から出る。
まあ、やりたい事はやれたし、後は本番で叩き潰すだけ。
そう考えながらA組に戻った。
「気に入らないなぁ。」
B組から射命丸が出て行った直後、最初に煽った生徒、物間 寧人がそう呟いた。
「はぁ? どこがだよ? あのツンツン頭のバクゴーって奴より全然礼儀正しかっただろ? そんでもって最後の宣戦布告! く〜〜! 漢らしいぜ!」
「鉄哲、女子に漢らしいとか言うなよ。 けど、物間、アレの何処が気に入らないって言うのさ。」
射命丸の事を好敵手的な意味で気に入ったらしい鉄哲 徹鐵とクラス委員長兼物間の抑え役の拳藤 一佳が物間の事を注意する。
「気付いてないかもしれないけど、彼女の言った『壁や障害』って多分自分の事指して言ってたよ。 暗に『自分の方が圧倒的に格上だ』って言ってるんだ。」
それを聞いて眉間に皺を寄せる拳藤と鉄哲。
「そうか? 流石にそれは敵視が過ぎるんじゃないか?」
「物事を捻くれて捉えるのは、もうアンタのライフワークそのものとして考えて諦めてたけどさ、流石に度が過ぎるんじゃないの?」
全く信じて貰えてない。
こういう時は日頃の行いがものを言うのだ。
「なんでーーーーー!?!??」
学校から帰った射命丸が記事を編集社に送ろうと自分のノートパソコンを開くとデータが綺麗さっぱり消えていた。
それに気が付いた射命丸は絶叫した。
「ふ、ふふふふ、ですが私は仕事の出来る女。 データのバックアップくらい取ってあるんですよ!!」
そう言いながらUSBを取り出し、パソコンに挿す。
暫くカチカチ操作してから、ふう、と一息つく。
「良かった、バックアップ取っておいて。」
どうやらバックアップは無事だった様である。
「さって、誤字脱字のチェックしたらさっさと送っちゃいましょう。」
それから暫くはパソコンの画面を見つめ、時々カタカタとキーボードを叩く。
三十分もしない内にその作業を終えた射命丸はデータを編集社に送った。
「よっし、コレでオッケー。」
一仕事終えた射命丸は満足そうな顔をして宿題に取りかかった。