モモンガの無茶振りにより、守護者達に労いの言葉を掛ける事になったグラノーラ。
しかし、リアルでも夜勤勤めの平凡男性にはあまりにもキツイものがあった。
それでも彼らの望む支配者を演じきるべく、無い知恵を振り絞る。
「では、シャルティアから、
シャルティア、面をあげよ」
人生で初めて面をあげよと言ったグラノーラの言葉にシャルティアは忠実に従う。
グラノーラのスキルにより身体が重く感じるとはいえ、
守護者達にとって、動けない事は無いのだ。
そしてグラノーラ自身もそろそろスキルは必要ないとして、解除する。
「シャルティア、お前はこのナザリック地下大墳墓の第一、第二、第三階層という全階層守護者の中で最も広い範囲を守る者だ。そして第一階層はナザリックの玄関口。お前はそこを守る者であり、階層守護者の一番槍という大任を担う者だ、その事を誇りに思い決して、
傲<おご>る事なくこれからも忠義に励め。」
「あぁん、グラノーラ様!妾にその様な御言葉を掛けて頂き感激の極みにありんす。このシャルティア・ブラッド・フォールン、御身の御言葉しかと心に焼き付けんした。ありがとうございんす」
頬を赤く染め、涙を流しながら感激に身を震わせる。
「おいおい、泣くな泣くな。折角の美人が台無しにはならないが、出来ればお前には笑顔でいて欲しい。」
そういうと、グラノーラは何も無い空間に手を伸ばすとアイテムボックスを開きハンカチを一枚出し、シャルティアの方へと近づくと、膝をつき、シャルティアの涙を拭う。
何気無くアイテムボックスが起動させれた事に内心驚くが、それは全く表に出さずに。
「よし!綺麗になった、
では、次はコキュートス。
面をあげよ。」
シャルティアの涙を拭い終えたグラノーラは立ち上がりコキュートスへと声をかける
「一番槍の栄誉はシャルティアに与えたが、お前には私から直々に頼みがある。どうか引き受けて欲しい」
「オ言葉デスガ、グラノーラ様。
頼ミデハナク、御命令ナサレバ宜シイカト。」
「否、頼みだ。
コキュートスに聞くが、俺の戦い方を知っているか?」
「強力ナ、スキルヲ使イ敵ノ攻撃ヲ無力化シテ戦ウ、
蹂躙戦ト伺ッテオリマス。」
「そうだ、そしてそれは悪く言えば、俺はスキルに頼った戦い方しか出来ないという事だ。
だが、もしこの未知の世界において俺のスキルを無効化するアイテム、スキル、その他の力が無いとは限らないのだ。そうなれば俺の力は半減どころでは済まない。
そこで、ナザリック一の武器使いと言われる、お前には俺に槍だけでなく、武器を使った戦闘のコーチをして欲しいのだ。
頼まれてくれないか?」
「ソノ様ナ大変ナ栄誉、断レルハズモ無シ!
コノコキュートス。全身全霊デ引キ受ケサセテ頂キマス。
ソレデハ稽古ハ何時、始メマショウカ。
今カラデモ、私ハ何ラ問題ハゴザイマセンガ?」
「ではこの後、頼むとしよう。場所はこの闘技場を使わせて貰おう。アウラ、マーレかまわないか?」
「勿論ですよ!
よろしければ私達も見学させて頂けませんか?」
姉の言葉にマーレもコクコクと頷く
断れるだけの理由もなく、場所を借りる立場であるため、少々恥ずかしいが見学を許可する
「構わないとも。そういう訳だコキュートス。
わかったか?」
「カシコマリマシタ。」
よほど興奮しているのだろう。自らの大顎をカチカチ鳴らして、その間からはふしゅーふしゅーと、冷気が漏れ出ている。
喜んでくれて何よりである
「グラノーラ様、私達も是非その……御身の稽古の様子を見学させて頂けないでしょうか?」
「是非ともお願いいたします」
アルベドが見学に名乗り出て、それにデミウルゴスが続く、正直ジロジロ見られながらだと集中出来そうに無いが、アウラとマーレの申し出を良しとして、
二人の申し出を却下する理由など、あるハズもなく。
「あぁ、構わない。シャルティアも見たければ見ていると良い。後で感想でも聞かせてくれ。
お前も本来の武装では槍を使う訳だしな。
何かアドバイスがあると助かる」
「かしこまりんした、グラノーラ様。
このシャルティア・ブラッド・フォールン、御身の稽古を見学させて頂きんす。」
アルベド、デミウルゴス、シャルティアの三名に見学の許可を出し、ふと、セバスの方を見るとこちらをガン見していた。
「セ、セバス達も見学していくか?」
「よろしいのでしょうか!?」
「構わないさ、見られて困る事も無いしな!」
実際には大いに困るのだが、少しだけ見栄を張ってしまい、何か取り返しがつかない事を言ったのでは?と、
不安な気持ちになるが、とりあえず無視する事にした。
「じゃあ次は
アウラとマーレだ。
さっきも言ったが、俺はこれからコキュートスとの稽古を行う。
きっと俺はコキュートスにボコボコにされる事だろう」
その言葉を聞き、アウラとマーレを含む全員が
コキュートスを睨む。グラノーラの言葉が冗談なのは何となく分かっているがもし、そんな事が実現したらどうなるか、彼らの瞳が物語る。
特にアルベドはコキュートスに今にも飛び掛かりそうな剣幕である。
「そんな時、俺の心を癒すのはマーレの管理する、
ジャングルであり、アウラの使役する魔獣達だ。
これはお前達にしか出来ない事だ。
何故なら、どんな魔法でも身体は治せても、心は治せないからだ。だからここの管理をしっかり頼むぞ。
俺にとって癒しの場でもある、この場所を」
「任せて下さい!!
マーレ!あたし達グラノーラ様の癒しの場所を管理させて頂くんだから、これからもっともっと頑張るよ‼」
「う、うん。頑張ろうねお姉ちゃん。
ぼ、僕も頑張るよ!」
アウラとマーレが姉弟仲良く互いを励まし合うという、大変アットホームな展開に心和ませつつ、
グラノーラはデミウルゴスへと激励を送る
「では、デミウルゴス。面をあげよ。
ナザリックにおいて最高峰の頭脳を誇るお前に、どんな言葉を送れば良いか、正直少し悩んだが、お前にはあまり多くの言葉は必要無いと俺は思う。
故にお前には一言だけ送らせて貰おう。
……俺達を、退屈させるなよ?
……(あれ?何か調子に乗りすぎたか?)」
「ッ!!……か、かしこまりました。このデミウルゴス、必ずや御身のご期待に応えてみせます!!」
怯える様にうつむき震えるデミウルゴスに何か罪悪感を感じつつも、当の本人は
「(御身を退屈させないとは、大変な難題。これ程の難題を申し付けて頂けるとは!光栄の極み!!)」
実際は凄まじく感激されていた。
「ま、まぁそう気張らずにのんびりと……な?」
とりあえずフォローになっているのか分からないが
グラノーラなりにフォローする
「……かしこまりました。」
至高の存在からの言葉に従い、幾ばくかリラックスしたデミウルゴスは顔を上げ微笑む。
「(とりあえずフォローは上手くいったかな?)
で、では次はアルベド。面をあげよ。
アルベド、お前にはこれから先、守護者統括として様々な苦労をかける事になるだろう。
まずはそれを詫びよう」
「何をおっしゃいますかグラノーラ様!
御身が謝罪されることなど何一つありません!
それに御身から与えて頂けた使命を羨む事はあろうと
苦痛と思う愚物はこのナザリックにはおりません!
ですからお気遣いなどなさらぬようにお願いいたします。」
「やはりそうなるか……
アルベドよ、そう泣きそうな顔をしないでくれ。」
涙を流し懇願するアルベドにグラノーラはシャルティアにしたように、アルベドの前にしゃがみこみ、ハンカチでアルベドの目元を拭う。
「あぁ……グラノーラ様ぁ、私の涙でそのハンカチが汚れてしまいます。」
「気にするな。俺がやりたくてやっている事だ。
それにハンカチで女性の涙を拭うのは汚す行為ではない。ハンカチ本来の使い方だ。
この俺が言うんだ間違いないさ。きっと」
ハンカチをアイテムボックスにしまい、グラノーラは立ち上がる。
「さて、アルベド。
守護者統括であるお前にも言っておきたい事がある。
ナザリックは今、未曾有の危機に瀕している。
その危機は俺とモモンガさんにしか認知出来ていない。それほどに小さなものだ。
だが、その小さな変化が危険だと俺達は判断している。だから、お前にはこれから守護者統括としてだけでなく、ナザリックの頭脳であるデミウルゴスの補佐、その他諸々と多岐に渡る。これからも頼りにしている。」
グラノーラの危機という言葉に守護者達に一瞬ざわめきが起こる。
それは、アルベドやデミウルゴスも例外なく。
しかし、その後のグラノーラの頼りにしているという言葉を受けアルベドは身を震わせ歓喜する。
「あぁグラノーラ様。慈悲深き御言葉ありがとうございます。この守護者統括アルベド、微力ながらも御身の
御力になれるよう精進いたします。」
頬を赤く染め羽をパサパサ動かしながら頭を下げるアルベド。
「あぁ頼む。(可愛い)」
「はい!!」
アルベドの満面の笑みに一瞬惚けてしまうが、すぐに我を取り戻したグラノーラは、セバス達へと向き直り
「セバス、これはプレアデス達や一般メイド達にも言える事だが、
これからお前達には俺とモモンガさんの身の回りの世話をしてもらう事だろう。特に俺はだらしなく、手もかかる事だろう、よろしく頼むぞ。」
「おぉ、それはそれは私を含めプレアデスやメイド達にとって何よりも励みとなる御言葉。
このセバス・チャン、しかと心に刻みました」
セバスは深々と頭を下げ、ユリとソリュシャンもそれにならい頭を下げる。
「ふむ……(よし、これでこの場にいるNPCには大体声をかけ終えたな。ではでは、俺にこんな無茶振りをしたギルド長には軽いペナルティを負って貰わねば……)
まぁなんだ、デミウルゴスに聞きたい事があるのだが、構わないか?」
「ハッ!不肖の我が身に答えられる事であれば何なりと。」
「ならば問おう。ある所に2つの頭を持った竜がいた
右の頭は右に行こうとし、左の頭は左に行こうとする。この竜の末路はなんだと思う?」
「どちらにも行けず、自滅……でしょうか?」
「その通りだ。そしてそれはナザリックの未来でも、起こりうる事だ。
俺とモモンガさんの二人が頂点に、つまり頭の位置にいればいつか互いに違う意見を出しあい、その二頭の竜の二の舞となり、このナザリック地下大墳墓は崩壊するだろう。そのため、ナザリックの頂点にはモモンガさんを置き、俺はNo.2に甘んじようと思う。」
「お待ち下さい!至高の存在に対して上下をつける等、到底我々配下の者達にはできません‼」
グラノーラからの突飛な提案にアルベドが反対する。
その後ろでは他の守護者達もコクコクと頷いている。
「落ち着けアルベド」
それを止めたのはグラノーラではなく、モモンガであった。
「アルベド、なにもグラノーラさんはお前達の下になるわけではない。有事の際のナザリックの方針の決定権を私が持つだけだ。
故に普段であれば私とグラノーラさんは同格とする。
それならば文句はあるまい?
それに、私はアンデッドだ。普段はお前達の世話になることは少ないだろう。しかし、グラノーラさんは堕天使の、しかも普段は人間形態だから飲食に睡眠もできる。
だから私に出来ない分、普段は存分にグラノーラさんに忠義を捧げると良い!
なんだったら子作りもできるんじゃないか?フッ…」
「……(ヤッベェェェ‼ミ、ミスったぁ!!ハメられたぁぁぁ!!!そしてハメさせられるぅぅぅ!!
モモンガさんめ、ずっと黙ってると思ったら俺の報復を読んでたな?クソッ!少しでも配下達の忠義がモモンガさんの方へと向くようにしようと思ったのに‼)
全く、アルベドは早とちりが過ぎるな。
まぁ子作りはともかく、そういう事だから俺の方が手が掛かると思うからよろしく頼むぞ。」
やれやれとグラノーラは三流アメリカンドラマのワンシーンの様に肩をすくめつつ、心の中で悪態をつく。
そんなグラノーラをモモンガは骨の顔なのに何故か勝ち誇っている事が伝わる顔で見ていた。
「ッ!えーと、あれだ!そう!やっぱりこう守護者が揃うと迫力があるね!
異形種狩りに会うだけのあの時の俺達からは想像もできませんね!ねぇモモンガさん!」
モモンガのどや顔に耐えられなくなり、グラノーラは
脈絡の無い話を始める。
「え、えぇ。そうですね」
突然の話題変えに若干引きぎみにモモンガが答える
「あの、グラノーラ様、異形種狩りとは?」
そんな二人の会話におずおずとアウラが手を挙げ、質問を投げ掛ける。
「ん?その名の通り、異形種を狩る事だ。人間種がな。
俺達異形種はよく人間種のプレイヤーに囲まれて、リンチされる事も結構あったからなぁ。
いやぁ懐かしいな!
ほんと、何回殺されたことか……
確かモモンガさんも異形種狩りの被害者だったんですよね?」
「ははっ、そうなんですよ!
いやーほんと、あの時たっちさんが来てくれなかったらどうなってたことか!」
グラノーラの言葉にモモンガが昔を懐かしむように朗らかに答える。
しかし、ギリィッ!という音が聞こえ前を向くと守護者達が殺意と怒りに満ちた眼でこちらを凝視していた。
「どこの……どいつですか?
御身にその様な無礼を働いた愚か者は……
デミウルゴス!ナザリック地下大墳墓守護者統括として命じます!即刻、その愚か者どもを見つけ出し、この世の地獄を、
いえっ!それ以上の地獄を味あわせ、殺せ!」
「言われるまでもありません、守護者統括殿。
しかし、殺すのは反対ですね。
武器を奪い、力を奪い、四肢を奪い、目を奪い、耳を奪い、言葉を奪った上で恐怖公の眷族のエサにしましょう。死にそうになればペストーニャに中途半端に治療させればよろしいかと。死を救済と思う程の地獄を見せてやりましょう。永遠に……
では、早速行動を開始します。」
「デミウルゴス!索敵なら私の魔獣達を使ってよ!」
「そ、それなら恐怖公さんにも、手伝って貰えばいいんじゃないかな……あの、その……」
「それはありがたい!人手はいくらあっても足りませんからねぇ。シャルティア、君の眷族達もご協力願いたいのですが?」
「勿論でありんす。我が眷族達もその愚か者どもへの報復に参加させていただきんす。」
守護者達が至高の存在に対して凶行を行った愚か者どもを捜索し、如何にして苦しめるかを嬉々として話しているなか、グラノーラはスキルを発動し守護者に重力を掛け、モモンガは絶望のオーラを全開にする。
「喧しい!静かにしろ!!」
グラノーラはグングニルの柄で地面を叩き守護者を一喝する。
「全くだ、騒々しいにも程がある。
お前達は我々がその愚か者どもに何もしていないと思うのか?何故そいつらが生存しているという考えに至るのだ?
そうか……我々はそんなにも、か弱い存分だとお前達に認識されていたのか。残念だ……」
グラノーラに続いてモモンガも守護者達を咎める。
モモンガは守護者を咎めるだけでなく、心外だと俯いてしまう。二人とも、もちろん演技だが。
「勘違いするな。我々に無礼を働いた愚か者どもは最早生きてはいない。報復は既に終えている」
「モモンガさんの言うとおりだ。そいつらはもういない。それに仮にそいつらが生きていたとして、お前達が報復に行ったとしよう。そして万が一にでもお前達の誰かが死ぬような事になれば俺達の心に一体どれ程の傷を作ると思うんだ?頼むから危ない事はしないで欲しい。お前達は皆仲間達が創造した宝物なんだから。」
「違いないな、グラノーラさん。お前達に厳命する
今後自らの命を軽んじるような行為は厳禁とする‼
以上だ!細かい事は追々決めていこう。」
そういってモモンガは一人どこかへ転移した
「……え?」
一人取り残されたグラノーラ。目の前には自らを宝物と言われた事に感激し咽び泣く僕達。
そしてその中から一際大きな体の持ち主が立ち上がり近付いて来る。
コバルトブルーの巨駆が心無しか嬉々(鬼気)とした足取りで近付いて来る。
全てを凍てつかせる白い吐息を吐きながら。
何も無い虚空に手を差し入れる、抜くと森羅万象ことごとく切り裂いてしまいそうな鋭く恐ろしくも美しい太刀がその姿を現す。
そう。
グラノーラが先程、勢いに任せつい言ってしまった稽古をするべく蟲の王が近付いて来る……
やっぱり結構しんどいですね
アイデアが乏しいにも程がある‼
誤字、感想、激励お待ちしております
これからも亀更新ではあるでしょうが宜しくお願いいたします!