ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた   作:はないちもんめ

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例によって新刊出たので、投稿します


22 完全なハッピーエンドがないなんておかしいだろ!

「……というわけだ。分かったか、この発情期のクソオタクが」

 

耕平を締め上げながら、孝二は耕平に自身と恵子の関係を説明するが、その中でも孝二はクローゼットの隙間から放たれる「絶対零度の視線」に背筋を凍らせていた。

 

かな子の瞳が、暗闇の中でらんらんと輝いている。その輝きが嫉妬であれば可愛いものなのだが、実際は処刑執行人のそれに近い。要するに恐怖しかない。どうしてこうなった。何も悪くない自身がこれほどまでに追い込まれなくてはならない現実が理不尽だった。

 

締め上げていた耕平を投げ捨てると、孝二は荒い息を吐きながら時計を見た。きっこに連絡してから三十分。そろそろ到着していてもおかしくないのだが、未だに音沙汰がない。もう暫くは耐え凌ぐ必要がありそうだ。

 

となると、方法は一つしかない。そう考えた孝二は一升瓶をドンと机に置く。

 

「話は変わったが、とりあえず酒だ。御手洗の地獄を肴に飲み交わそうぜ」

 

酒に逃げるしかない。伊織と耕平という異次元レベルの酒豪はともかく、他の童貞共は酒への対急度合いは一般人のそれと大差ない。酒に酔わせば、前後不覚にすることは可能。その混乱を利用すれば光明も見えてくる。

 

そんな孝二の考えなど知る由も無い伊織達は、水のように酒を飲んでいく。孝二も適度に飲みながら全員に酒を回していくが、急に山本が鼻を鳴らし始める。

 

「何だどうした」

 

「童貞類の本能でも目覚めたか?」

 

「俺は人類だけど!?」

 

自信を人類だと勘違いしている童貞類は孝二の言葉に過敏に反応するが、自身が気になっていることのほうを優先したのか即座に話を切り替える。

 

「いや、なんかこうやっぱり…香水の匂いの下に、もう一つ、何か、こう…女の子の匂いがするような……」

 

「…気のせいだろ。俺が女の子みたいな匂いのする芳香剤を置いているだけだ」

 

童貞の女への嗅覚の凄まじさに戦慄しながら、孝二は何とか反応を見せずにやり過ごす。

 

かなが隠れているクローゼットはもちろん殆ど閉め切っている上に、童貞共から距離がある。おまけに、童貞共の近くには酒やご飯など他の匂いを漂わせる食べ物も沢山ある。その状態で女の子の匂いを嗅ぎ取るとは、どんな嗅覚をしているのか。女に飢えすぎると、代わりに別の五感が異常発達するのかもしれない。

 

「確かに臭う気がするな」

 

「俺もだ」

 

山本を皮切りに、他の童貞共も嗅ぎ取ったのか鼻を鳴らし始める。見るに耐えない光景だったが、信じられないことに、かなが隠れているクローゼットに近づいていく。

 

(こうなっては仕方ない…)

 

孝二は隠し持っていた鈍器を手に取る。かなの存在がバレたら、惨殺される未来しかない。となれば、その前に殺す。孝二からすると、疑いの余地がない論理思考だった。

 

もし童貞どもの誰かがクローゼットを開ければ、その瞬間が開戦の狼煙となる。孝二の覚悟を他所に、山本の手がクローゼットに触れる正にその瞬間

 

ピンポーン。

 

玄関のインターホンが、鳴り響いた。

 

その後に孝二や童貞共の注意も流石にそちらを向く。

 

「おーい、孝二。いるんでしょー」

 

聞き覚えのある、やけにハイテンションな女の声が廊下から届く。孝二は肩の力を抜く。どうやら、殺戮現場にはならずに済んだらしい。

 

ガチャリ、とドアを開けて入ってきたのは予想通りきっこだった。何故か大量の酒を抱えているが。

 

「やっほー、孝二。遊びにきたよ」

 

「神尾さん?なんでここに?」

 

以前の合コンや青女祭にて顔見知りとなっていたため、伊織達もきっこの顔は知っていた。だが、どうして此処にいるのかは当然ながら分からない。

 

「俺が呼んだんだよ。ほら、今日は御手洗の件で景気良くやりたいって言ってたろ? 華があった方がいいと思ってな」

 

側から聞いていれば苦しい言い訳に聞こえるかもしれないが、孝二には勝算があった。チラリときっこを見ると、承知したと言わんばかりに、きっこは笑顔で付け加える。

 

「そうそう! 孝二から『寂しい童貞どもを救ってくれ』って泣きつかれちゃってさ。見てよ、これ。差し入れのウォッカだよ!」

 

「「「神尾さぁぁぁぁぁん!!!」」」

 

哀れな童貞どもは一瞬で陥落した。多少苦しい言い訳だろうが、可愛い女の子と酒が飲めるのであれば気にするわけがない。コイツらにとって性欲とは何よりも優先されるものである。

 

童貞どもはきっこから渡されるままに酒をがぶ飲みしている。予想通りの行動。きっこが持ってきたのは、スピリタスではないものの、それなりに度数の高い代物だ。それを、孝二から見ても凄まじい早さで飲み干していく。それもそのはず。

 

「さあ、飲め、飲めー!今夜は無礼講だー」

 

きっこの煽りが上手すぎる。童貞共を完全に掌の上で転がしながらも、部屋の空気を急速に盛り上げていく。女性と飲んでいるという緊張も加えて、かなり酩酊状態に近づいているように見えた。残りの問題は…

 

「へぇ、これ美味いな」

 

「でしょ。私おすすめの一品だよ」

 

「これならば、先輩達も気に入りそうだな」

 

伊織と耕平の二人だ。特殊な訓練を受けているコイツらがこの程度の酒で酔うはずがない。致死量の酒を飲ませるのが一番手っ取り早いが、それでも時間がかかり過ぎる。常人の致死量では、コイツらを潰すには圧倒的に足りない。

 

だが、孝二の勝利条件はコイツらを潰すことではない。

 

孝二は指を鳴らして、きっこと、かなに合図を送る。

 

きっこと伊織と耕平が話している間に、孝二はゆっくりとクローゼットを背にできる場所へと移動する。

 

それに合わせて、かなはクローゼットの中からゆっくりと出てくる。そして、かなが完全にクローゼットの中から出てきたタイミングを見計らって孝二は大声を出した。

 

「おお、かな子!わざわざ来てくれてありがとう!」

 

「ひ、久しぶり!ごめんね、遅れちゃって…」

 

「え?ドアを開いた音あったか?」

 

「あった、あった。酔いすぎー」

 

「カヤ様の妹さん!?どうぞ、こちらに!」

 

伊織だけは疑問の声を上げたが、耕平はカヤさんの妹が来たというだけでテンションが爆上がりしているため、細かいことなど気にしない。他の童貞共も同様だ。その伊織も他の奴らが気にしていないので、まあ良いかと再び酒を飲み始める。

 

勝った。孝二は内心高笑いを浮かべていた。此処までくれば、後はきっことかなが適当な所で帰ればそれで終わりだ。かなの私物が見つかった所で、忘れ物でゴリ押すことは可能。死地は切り抜けたと言って良い。

 

きっこのお願いだけは懸念材料だが、この場で物理的に終了するよりは遥かにマシだ。

 

安心した孝二は飲み会の場に加わり、1時間ほどひたすら飲み食いを繰り返した。そして、時間が深夜を過ぎようとするころ、きっこは時計を見て呟く。

 

「もうこんな時間かー。じゃー、私達はそろそろ帰ろうか」

 

「えー、まだ早いでしょ」

 

「深夜過ぎだからねー。乙女の肌には天敵なんだよ」

 

「ごめんね、みんな」

 

童貞共は引き留めようとするが、強引に誘う勇気も欠如しているため、きっことかなは帰る準備を進める。

 

「まだ、1時間くらいしか居ないじゃん!」

 

「いやー、そうなんだけど、別に私の場合は今夜じゃなくても良いしね。ねぇ、孝二?」

 

「は?」

 

予想外のきっこの言葉に孝二の思考が停止する。まるで、これまでに「二人きりで何かがあった」ことを示唆するような、絶妙に悪意に満ちた言い回し。

 

そんな孝二の思考の隙間を突き、きっこは言葉を続ける。

 

「じゃあね、孝二。…今度は、二人でゆっくり…ね」

 

きっこは満面の笑みでそう告げると、かな子の腕を引いて、軽やかに去っていった。

 

残された孝二の耳に、夜の静寂を切り裂くような、鈍器や刃物の音が背後から聞こえてくる。

 

ゆっくりと、スローモーションのように振り返る孝二。

 

そこには、般若のような形相で立ち尽くす、6人の男たちがいた。

 

手には、空になった角瓶や、割れた割り箸が握られている。

 

「神尾さんが「またね」って言ってたな」

 

「そうだなぁ」

 

「二人で…とも言ってたなぁ」

 

「そうだなぁ」

 

童貞どもの周りに、どす黒いオーラが立ち昇る。

 

「違ぇ!これは、あいつの罠だ!嘘に決まってるだろ!?」

 

孝二は必死に手を振ったが、彼らの耳には届かない。

 

今の彼らには、目の前のクズを「物理的に」解体すること以外、興味はなかった。

 

「……殺せ」

 

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 

深夜のマンションに、一人の男の絶叫が虚しく響き渡った。

 

 

 

 

 

翌日。

 

PaBの部室にて、千紗が冷淡な視線を車椅子に座るミイラ男――孝二に向けた。

 

顔は腫れ上がり、体中に包帯が巻かれ、服は引き裂かれている。

 

「…いや、これくらいで済んでむしろ助かったんだ…」

 

ボロボロの格好にも関わらず、どこか悟りを開いたような、助かった表情を浮かべている孝二を見て首を傾げる千紗の姿があったらしい。

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