リハビリで投稿したので実質初投稿です
何処までも澄み渡る午後三時過ぎの水色の大空。煌々と真っ白な校舎を照らす燈色の太陽。セミの鳴き声と運動部達の情熱が溢れる掛け声の合唱が響く放課後のグラウンド。体育館の床が靴と擦れる不協和音。
その全てから隠れる様に、僕は校舎の屋上で、屋上の階段の建物の影で読書をしていた。
何で熱い真夏に、それも屋上にいるのか?
ここが今の学校の中で涼しい所だから。高い建物で遮るものが無いから、風がよく通って涼しいし人も来ないお気に入りの場所。一番のスポットはエアコンがよく効いてて学生の出入りが自由な図書館なのだけど、午後は担当の先生が出掛けるので午後は図書館を開放出来ない事をすっかり忘れていた。
額にまで垂れた汗をハンカチで拭っていると、一際大きな靴音が開け放たれたドアから聞こえてくる。
まさか、先生が見回りに来たのか?学校が閉まるまでまだ時間があるし、いくらなんでも早すぎる。
屋上は一応開放はされているが、屋上にいる事を快く思わない教師はここには多い。
本を胸に抱え、涼しい日陰から出てドアとは反対側のよく熱せられた壁側に行こうと腰を上げようとしたが。
「よっ、ほっ、はっ!」
リズミカルに大きな靴音を立ててる声の主には、生憎聞き覚えがあった。なので、逃げるのは止め。何事も無かったかの様に本を読むのを再開した。
児童が遊びを楽しむ様な弾んだ声と大きくなる階段と靴から発せられる協奏曲は、いつだって僕の胸に小さな緊張と密かな期待を募らせる。
「ほっ!ふっ!ほいっ!」
片足ずつスキップでもするかのように登っていた靴音の主は、階段の最後を両足で着地する。この時に出るダン!っという耳をつんざく様な音は学校中の喧騒を消し去る位に大きな音。
もうちょっと小さく出来ないのかと彼女に言っても、彼女は軽く謝るだけで反省はしないので、次に活かされることは無い。僕は期待の持てない事に投資をする人間では無いので、いつからかそんな小言を言うのはやめてしまった。
靴の音は段々とこちらに近づいてくる。迷わず、止まることなくこちらに向かって。
僕は瞳だけを動かして様子を伺いながら、彼女が来たことを知らない素振り振りで、内容が頭に入らなくなった本を読む。
僕の座る影の黒が濃くなる。そして、
「あっ」
影を濃くした主に本を取り上げてられてしまった。
「よっす!」
「……部活はどうしたよ?」
「今日はさぼりー!」
僕から本を取り上げた少女――白露は、真夏の熱線を反射する屋上の白い床に負けない位の白い歯を見せて笑った。
白露はみんなの中心に立っている人物だ。彼女の周りにはいつも人が居て、彼女はその中心。男女問わず信頼を集めている様なクラスの、いや学年の、それも違うかこの学校のアイドルだ。
僕はその逆。所謂、グループには所属しているが、深くは関わらず色んなグループをのらりくらりとしている根無し草。グループの中心にはなる事はせず、よくて参謀になる時があると言った所。僕の事を知り合いと言うんじゃなくて、友達と呼んでくれる人は何人いるのだろうか。
少しばかり間の抜けた所があるけど、皆の人気者である白露。勉強がそれなりに出来るだけの読書好きというだけで、他には目立ったところも無く、何処に留まるという事も無い僕。
そんな僕達の関係を表すとしたら、元恋人同士。白露は僕の元カノと言うヤツで、僕は白露の元カレというヤツだ。
出会いは大体一年前のこの屋上。その放課後。
春の陽気な気温に揉まれて微睡みに飲まれそうになりながらも読書をしていた時に、この台風の目がやって来たのだ。
――この時、僕は白露の事も名前も知らなかったが、こんなにカワイイ子がこの学校にいるのかと驚いた
屋上は普段から誰も訪れる事の無いスポット。そこを根城としていた僕は、荒々しく開かれたドアに心底驚いたのを今も覚えている。
屋上に訪れた台風の目は、いきなり屋上の手すりまで行き手すりを握りしめた。
「おーい」
思わず自殺かと思った僕は、直前までの目撃者にされたり、彼女の自殺に関わった事になるのが嫌だったので反射的に声をかけた。自殺を止めると言うよりかは、面倒事を避ける為に。今思うと、白露は自殺しようとしたんじゃなくて、屋上から心の奥底に溜まったモノを言葉にして吐き出そうとしたのだと思う。
白露も屋上に人が居る事に驚いたようだが、無言で僕の元まで赴き、僕の事を真っ直ぐ見つめながら僕の両手をとると――
「ねぇ、聞いてよ!!」
マシンガントークで、初対面の僕に愚痴を言って来たのだ。
やれ皆の意見を聞くのが疲れるだの、やれ先生からの注文が多くて面倒くさいのだの、中心であるが故に出てくる愚痴の数々。
僕は面倒くさいのに捕まったと思いながらも、適当に「うん」、「そう」、「わかる」、「やりますねぇ」とかそんな感じに返した。
ただただ、話を聞いて適当に相槌をうっていただけなのだが、白露にとってはそれでよかったらしく、
「ありがとう!」
と、僕に一笑みし、スッキリとした表情で僕に手を振りながら、中へと戻っていった。
僕は、騒がしい人が来たなと思いながら、彼女に手を振り返して見送った。
――この事の次の日に、変な子がこの学校に居るんだな、と数少ない友人に語ってみせたら、あの変人が白露であると初めて知った。白露はこの学校の中ではかなり有名人だったので、それを知らなかった僕は遅れすぎだと、友人に呆れられた。
それから、白露は度々屋上に来るようになった。屋上に来るたびに、僕の隣に座って前みたいに愚痴を言ったり、世間話をするようになった。僕は彼女の言葉一つ一つに適当に相槌を打った。
だが、僕は余り人とは関わりたくない性分だったので、屋上で過ごす日をずらしたり、時間帯をずらしたりしたのだが、白露は諦めずに屋上で待ちかまえたり、待ち構えてるのを僕が見て逃走するとそれに気づいて僕を全力で追いかけてきたり、果てにはクラスを特定されたので諦めた。
ある日、白露のお話を遮って、『どうして僕に執着するんだ?』と聞いてみると、『執着はしては無いけど……そうだね……敢えて言うなら、凄く落ち着くから……かな?』と答えた。
人と関わりたくない性分の僕ではあったが、初めて『人と関われてよかった』と心の片隅で感じた。口では『バカだな。そんなんだと、人生苦労するぞ』なんて返しながら。
これを期に、僕と白露は本当に友達になった。
僕達が一次的に恋人になったのは、出会いから半年後位の秋の日の事だ。
「ねぇ……あたし達、付き合ってみない?」
「は?」
何で突然そんな事を白露が言いだしたのかそれは、恋と言うモノがわからないから、と言う、何とも奇異な理由だった。
わからないからやってみる。難しい事を考えるのが苦手で、習うより慣れろな白露らしい理由。
夏休み中、白露にせがまれてお勧めの恋愛小説を白露に貸してあげてたので
それの影響で思考がお姫様になっていのだろう。
白露の容姿レベルなら、より取り見取りだろうと呆れつつ、なんで僕を恋人にしたいのかと聞いてみると、
「こう言うのって、誰と付き合いたかなー?て考えたときに、一番最初に思い浮かんだ人と付き合うべきなんでしょ?」
確か、白露に貸した小説にそんな事が書いてあったか。
「それが、その……一番最初に思い浮かんだのが君だったの……」
視線を若干逸らしながら人差し指を僕に向ける白露。
上気した白い顔、珍しく恥じらって逸らされている狐色の瞳、震えている人差し指。
余りにも、余りにも白露らしくない姿に、おかしくって声をあげて笑った。
「わ、笑うなんてヒドイなぁ!」
「あぁ、ぷくくく、ご、ごめん……」
僕は笑った。そうしないと、僕の顔から蒸気が噴き出てしまいそうだから、それを誤魔化すかのように笑った。
ひとしきり笑って何とか治まりが着いた頃、僕はちゃんと返事を返した。
「いいよ。なろっか、恋人に」
ぷいっとそっぽを向いて拗ねてしまった白露と、僕は恋人になった。
結論から言うとこの一か月後に、僕達カップルは解消となった。
輪の中心に居る者と、一つに留まらぬ者、その相性は致命的に悪い――事は特に無かった。
何があろうと我が道を往く白露と、引っ張られる事が多いが白露のことをカバーし、白露の道を舗装出来る僕はかなりの良相性ではあった。
そんな相性の良かった僕達が別れた理由は単純。『お互いに友達だった頃の方が、自分らしかった』というモノ。
白露とデートをしたり、買い物をしたり、映画を見に行ったり、とお互いに知る限り恋人らしい事をしてみたのだが、お互いに緊張でガチガチなままで余り楽しめなかった。
お互いに『恋人らしくしよう』と意識しすぎたり、『知らない一面にドキリと来る』ことが多かったせいだろう。
腕を組んだり、抱き合ったり、手を繋いだり、果ては口づけ何かもしてみたのだが、お互いに緊張しすぎたりだとか、恋人らしい行為をしてしまうとオーバーヒートを起こして何も出来なくなった。
お互いに『背伸びしすぎた恋人らしさ』を求めてしまった為に、どうしても、『自分らしさ』を出しきれなかったのだと思う。
余りにもお互いに『自分らしく』ない。
何かが足りないと、白露と話し合っていた時に『自分らしくない』と言う事に互いに気が付き、無理に恋人らしさを求めていたのが互いにおかしくなって、即決でカップルを解消し再び友達となった。
こうして僕は白露の元カレとなったわけだ。
昔話が長くなって申し訳ない。そんなこんなで、白露とは再び友達になった訳だ。
ただ、昔とは違って、屋上以外でも白露に会う事が多くなったし、僕からも会いに行くようになった。一時的とはいえ、白露との距離が大幅に縮まったからだろう。
白露は僕と二人っきりの時は、相変わらずマシンガントークを繰り広げながらもこっそり手を握ってきたり、偶に甘えるような動作をとるようになってきた。これも多分、僕との距離が一時的に縮まったからだと思う。
友達にそんな事をしていいのかと思う人も出てくると思うが、今の僕達は文句なしに友人と言う共通認識だし、白露と言う友達からされて嫌だとは思ってないし、白露も僕からなら嫌がらないので、仲のいい友達同士ならしてもいいんじゃないかなとは思うよ。
そんなこんなで、僕の頭は今白露の胸に抱き留められてるのです。
「んー、冷えてて丁度良い」
「嘘をつけ」
白露は冷えてると言うが、僕の髪は自分でも触りたくない位に高温になっててもおかしくない。日陰に避難していたとはいえ、気温と同じ位には温まってもおかしくない筈。少なくても冷えてはいないのだ。
「本当だって、あたしよりは冷たいよ」
「僕は抱きしめられてるせいで熱が籠って熱いんだけど……」
「何をー!」
実際に白露がつけてる制汗剤の匂いだとか、汗の臭いを堪能できない位には熱い。寧ろ、これをやられたままだと、後頭部から熱中症をおこしそうだ。
後、つい最近気づいた事なのだが、白露はブラをつけない。他の女子が白露がブラをつけないと嘆いていたのを偶々聞いてしまったので知っている。
白露のワイシャツ越しから包み込む様な上質なクッションの様な柔らかさと汗の湿った感触を後頭部に感じさせた。
これも偶々聞いた話なのだが、白露がブラをつけない理由は胸が締め付けられて苦しくなるから嫌だとの事。なんとも白露らしい、後先考えないような自由な理由づけだ。将来的に困っても知らんぞ。
そんな事を思いながらも、白露の拘束から抜け出そうとするが、成すがままにされて何も出来ないし、させてくれないので諦めてため息をつく。
「夏だな……」
「夏だねぇ……。あっ!そう言えば今週末に花火大会があるよ!一緒に―――」
小学校の頃にならった道徳にも、今習っている保健体育にも恋については書かれていない。白露と恋人になってみたけど、結局、『恋』と言うモノはわからなかった。
酸いも甘いもわからないような青い僕達。まだまだ、わからないことだらけだ。
でも、もしかしたら、僕と白露の距離は『恋』という言葉では表せなかっただけではないのだろうか。
「……なんてな」
「んっ?なぁに?」
「何でもない。花火大会、僕も行くよ」
僕達はまだまだ知らない事が多い。でも、もしかしたら、もう少し大きくなれば、恋人と言うには少し距離が近すぎるような、友達と言うには親密すぎるような、僕達の関係に名前を付けられる日が来るかもしれない。
そんな事を考えながらも、喜びの奇声をあげる白露につられて僕の口角は持ち上がっていった。