俺は君のちっぽけな守り神   作:時雨。

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炎と氷と時々爆発、そして落ちる。


ガッツポーズな君と垂直落下な俺

高らかに鳴り響く破壊音はまるで彼女が勝利を掴み取ったことを知らしめる鐘の音のようだった。

炎と氷を圧倒的な出力で繰り出す轟と、巧みなコントロールで爆発を操った爆豪。

破壊と創造の応酬。

其の果に勝利を掴み取ったのは轟だった。

ボロボロで、更には砕けた氷の塊の上で立つのもやっとな状態で、未だ勝負が決したというのに時間が止まったと錯覚させるほど静まり返った会場で彼女は天高く拳を掲げた。

それを皮切りに歓声が爆発する。

 

『勝者は、轟焦花ーーッ!!!』

 

マイク先生の宣言を燃料に更に会場の熱は燃え上がる。

観客席は総立ちで、その戦いを見てた全員が二人を讃えていた。

もちろん俺も。

痛いほど手を打ち鳴らして会場の轟コールに混ざった。

嬉しそうな轟の顔を見ると、まるで自分のことのように嬉しくなってついついにやけてしまう。

すると既に原型を留めていないフィールドの上で轟は何かを探すように観客席をキョロキョロと見回す。

俺を見た轟はそこで視線を止め、色濃い疲労を滲ませながらも満足げに笑った。

観客席から降り止まない拍手の雨を受けながら、怪我だらけの二人は救護班に連れられて会場を出て行く。

そこまで見送ってA組の観客席では一気に盛り上がりがぶり返した。

試合が完全に終了したということで、今度は試合の考察や感想を友人達と語り合いだしたのだ。

自分達と同じクラスメイト同士があれほどまでに熱い決勝戦を繰り広げたという事実が未だに彼らの胸に熱を灯し続けているらしい。

しかし、興奮冷めやらぬ様子だがそんな中でも既にお見舞い兼両者の健闘を讃えに保健室へ行こうという話もあちこちから聞こえてきている。

委員長の飯田は先程電話がどうとかで何処かへ行ってしまったし、俺が全体に声を掛けて全員で保健室へ押しかけてやろうかと考えていたその時。

唐突に強烈な寒気に襲われた。

それとほぼ同時に心臓部にUSJ事件の時と同じようにじわりと滲み出すような暖かさを感じる。

俺が困惑の声を上げるよりも先に右腕が炎に包まれた。

ここまで来て俺の中にあった疑惑は確信に変わる。

 

"ナニか"来る――!!

 

「全員警戒態勢ッ!俺の炎が反応してる!なにか来るぞ!」

 

俺の突然の警告を受けて素早く反応できたのは数名。緑谷、八百万、梅雨ちゃん、常闇の四名。

個性を発動させ、いつでも動けるように腰を落として周囲を警戒してくれた。

 

「お、おい四ツ神!いきなりなんだよ!?なにか来るって、何が来んだよぉ!」

 

先程とは打って変わって緊迫した空気に変わったことで慌てる峰田。これから何が起こるのか、具体的に詳しく説明してやりたいところだが、生憎と俺自身もそれに対する正確な回答は持ち合わせていない。

むしろ俺がそれを教えてもらいたいぐらいだ。

 

「具体的には俺も分からない。けど、前回の事件と同じ気配がする。となると下手人は十中八九――」

 

「ヴィラン……!」

 

緑谷が俺の言葉を引き継ぐように静かに言った。それを聞いて徐々に状況を理解し始めたA組。

 

「ど、どうするの!?」

 

「先生に伝えに行ったほうがいいんじゃ……」

 

「いや、この会場にはプロもたくさん居るんだし、俺達がなにかする必要なんてないんじゃねぇのか?」

 

多少慌てながらも各々が口々にそれぞれの意見を述べる。

事が動く前に最低限方向性だけは決まった指示を出したほうがいいな。

本来は委員長の仕事のはずだが、緊急事態だ。俺が代理を務めさせてもらおう。

 

「今誰かが言ったようにこの会場には多数のプロヒーローが居る。それに、先生方だって居るんだ。前回みたく俺達が最前線で体を張る必要はそうそうないと思う」

 

その言葉を聞いて安堵の表情を浮かべる面々、しかし、そんなタイミングで事態は進行して行く。

 

黒い靄が修復中だったフィールドに現れ、その中から人影が現れた。

脳が露出した外見はUSJ事件の脳無を彷彿とさせるが、体格は前回の個体とは打って変わって肋が浮いて骨格が顕になるほど痩せこけていた。

その上目を瞠るのはその数だ。

USJの時は死柄木弔の傍に控えていた一体だけだが、初めの一体が出てきてから二体、三体、四、五、六とまだまだ出てくる。

会場内に困惑の空気が蔓延するが、さすがプロヒーローが集まっているだけあって直ぐ様行動に移った。

非戦闘系のヒーローは一般人の客を避難させ、戦闘系のヒーローは敵勢力を無力化するために戦闘態勢に入っていた。

それは解説席にいたうちの担任も例外ではない。

こちらを一瞥すると、直ぐに解説席のボックスを退出した。

 

「の、脳無!?それもあんなに沢山!?」

 

見た目が違えど、あの一体一体があの時の脳無と同等の力を保有していれば被害は計り知れない。

そんな想像に全員が顔を青くするが、ここで身動きを取れなくなっている場合ではない。

軽く頭を振って余計な思考を振り払い、冴えた思考でこの場の最適解を探した。

 

「とにかく全員慌てず落ち着いて。多分そうかからずに相澤先生がここに来る。だから具体的な指示はその時に聞くとして、現状俺達は極力ここから動いちゃいけない。そんな中で敵は点と点を結んで戦力を送り込む術がある。だからお互いに背中を守り合うように陣形を組もう」

 

そう言って俺が座席の上にあるこの会場をぐるりと一周する形で作られている通路に向かうと、全員が自分で自身の個性の役割を考えて陣形を来んでくれた。

いざという時、こうして自分に何ができるのかを即座に考えることが出来るのはやはりうちのクラスの強みだ。

 

「それにしても、この襲撃……何か変じゃないかな」

 

俺の隣に付いた緑谷が顎に手を当てて呟く。

変、と言われれば確かにそうだ。

以前の襲撃からそう経っていない今、なぜこのタイミングでわざわざ戦力の密集したこの会場を襲わせたのか。

この間の襲撃の時の死柄木弔の発言から前回の襲撃は襲ってきた連中こそ大した戦力ではなかったとはいえ、事前にマスコミを利用した雄英高校への侵入など、事前準備はある程度行われていた。

その上プロが何人もいては自分達が不利だという発言までしていたのだ。

今回の状況とはまるで正反対。

前回の目的はオールマイトの殺害だった。

しかし、そんな大それた作戦を指揮させるにしては死柄木弔はお粗末が過ぎたし、その御蔭で更に奥の黒幕がいると予測を立てたわけだが――。

 

「いかんせん推理するにはまだ情報が足りないな。とにかく今は全員の安全が最優先だ。皆、何か異常があればすぐに大声で報告してくれ」

 

「「「おう!」」」

 

「四ツ君!飯田くんがまだ電話から帰ってきてへんのやけど、どないしよう!もし一人で襲われてたら……」

 

不安げに声を小さくするお茶子。今俺が代理を務めている役割を本来務めるはずの飯田が今この場にいない。

不安だし、心配なのもわかるが、この状況で捜索隊をだすのはあまりに危険すぎる。

この観客席から出て向かった先の廊下がヴィランまみれという可能性もそう低くない。

くっそ厄介すぎるぞワープ個性。

あの時どうにかこうにかしておくんだった。

 

「心配な気持ちは痛いほどわかるけど、現状で捜索隊を出すのは危険過ぎる。助けに行った奴が孤立して敵に囲まれたなんて事になったら俺は責任を取れない。先生が来てから指示を仰ごう」

 

「うぅっ、でも……」

 

頭では理解している、けれどそれでもという表情でこちらを見つめるお茶子。

緑谷も歯を食いしばって苦々しい顔をしている。

このままじゃ今にも自己責任で行くから大丈夫、なんてことを言い出してここを飛び出しかねないな。

うーん、困った。

どうしよう。

助けて轟。

 

「お二人とも落ち着いて下さい。飯田さんなら大丈夫ですわ。私達の委員長を信じましょう」

 

細長く創造した鉄の棒を槍を持つように構えた八百万が凛とした声で言う。

その一声で二人は覚悟を決めたのか、先程よりも引き締まった顔つきで周囲の警戒に戻った。

流石だ八百万ゥ!

カッコいい!!惚れそう!!

俺達が警戒態勢を取る中、フィールドだった場所では既にプロヒーローと脳無もどき達との激しい戦闘が行われていた。

敵の数が多くとも、圧倒的な練度と連携でなぎ倒していくその姿は、流石プロといったところか。

そんな先人達の後ろ姿にA組の各員からは小さな歓声が上がる。

このまま行けばなんの問題もなく収集が付くだろう。

願わくば飯田や体育祭用に設置された移動用保健室の怪我人、クラスメイト達に危害が及んでいませんように。

俺も、他のクラスメイト達も、現場のプロヒーロー達も皆このままこの事件は何事もなく解決に向かうと信じていた。

しかし、そう上手く行くはずもなかったのだ。俺達はつい最近ヴィランというものの恐ろしさを身を以て体感していたはずなのに、甘く見ていた。

この襲撃を起こした犯人は過程はどうあれ結果的にオールマイトに大きなダメージを負わせた犯人と同一グループ。

であればただやられているなんて事はありえない。

楽観的な考えを嘲笑うかのように、俺は突然の浮遊感に襲われた。

 

「は?」

 

反射的に足元を見下ろすと、先程までの地面は跡形もなく、ただ黒い靄が延々と続いていた。

やられた。

そう気が付いた時には既に手遅れだった。

遅ればせながら知覚した悪意。けれどそれは随分と遠くて。

 

「こんのクソワープぅぅぅぅううううう!!!!」

 

虚しさと怒りを込めた絶叫は、ただ空虚に黒い靄へと吸い込まれていった。

どうやらこのワープは開くだけでなく吸い込む力もあるみたいだ。なんて冴えた頭で考えながら既に頭上にまで来てしまった入り口の縁へと手を伸ばすがあえなく空を切ってしまう。

内臓が浮かぶ無重力感を受けながら、次に何が起こるのかという恐怖に両目を強く瞑り、自分の体を守る体制に入った。

できれば優しくソフトに外へ放り出してほしい。

そんな切なる願いを懐きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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