俺は君のちっぽけな守り神   作:時雨。

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2021/09/03 振り返ったら文章がひどかったので、各所修正を入れました。


ハードな試験と個性的な彼

大勢の受験生と共に天下の雄英高校の廊下を歩く。

一歩歩くたびに肩から下げた鞄が太もも裏に当たった。こいつの中には今日という日のために準備してきた受験に必要な道具達が詰め込まれている。何処かに置いたまま放置してしまうなんてことは内容にしなくてはいけない。

こんな軽装備でこれ以上装備をデポして一体何になるというのか。

最早そこまで行ったら裸になるしかない。

鞄の位置を調整する際に丁度振り返るような体制になった為、視線の向くままにたった今まで歩いてきた廊下を何気なしに見やる。

視界の中に何かふと違和感が浮かび、何かと思えばそれは直ぐに気がついた。

普段通っている中学校と比べて天井も廊下も随分高いし広いのだ。

偉くガタイの良い異形型の生徒でも苦なく過ごせるようにするためのユニバーサルデザインだろうか。

さすが雄英高校、敷地も校舎もビッグである。金が有り余って――気配りの出来る素晴らしい学校だ。

ヒーローのための学校なんだから当たり前と言ってしまえばそうかもしれないが、この世界における異形型の個性持ちへの当たりは中々厳しい。

うちの学校なんて力が強いわけでも特殊な攻撃ができるわけでもない異形型は格好のいじめの標的だ。

それを見て頭に来たので茶化しながら間に入ったが、攻撃性の高い個性のいじめっ子にボコボコにされたのはいい思い出である。

 

「あれめちゃんこ痛かったな。あの野郎躊躇いなく鼻にいきやがって」

 

ちなみにその話を色々嘘を混ぜながら轟に聞かせたらなんかちょっと微笑まれたのは大変屈辱的だった。普段笑わないからこそ、あの時見せつけられた表情を忘れることなど出来ない。

ふふふ、じゃねーから。お前を泣かせてやろうか。

ちなみに当時は俺が泣いていた。

痛かったんだよ……鼻血出てたし……。

しかたねーだろ俺の個性色々出来る分それぞれの火力悲しいほど低いんだよ。

いや、そもそも俺自身喧嘩が強くないっていうのが一番の原因か。

負けた言い訳にしてごめんよ、俺の個性。

ちなみに現在は入試の実技試験について説明を受けるために会場へ向かう最中である。

ぶっちゃけ筆記試験の方はちょっと思い出したくない。

思った以上にピンポイントで苦手な部分がポコポコと連続で出て来てしまった。

特に数学とかいう鬼畜科目。

問題を目にして即座に顔面が形容し難い歪み方をしていまい、試験監督に具合が悪いのかと聞かれてしまった。

素直に恥ずかしい。こいつのせいですとテスト用紙を突きつけてやりたかったが、そんな度胸は勿論ないので大人しくなんでも無いですって言っておいた。

正直ギリギリ入ってるかギリギリアウトかの本当グレーなゾーン走り抜けた感がやばい。

あん時調子乗って「あー、なるほどねー!完全に理解した!」とか言ってないで轟にもう一回聞いとけばよかった。

既にどうにもならない過去の出来事に後悔を抱いて嘆いていると、誰かに肩がぶつかってしまう。

 

「うおっ、すみませ――」

「てめぇ、誰に向かってぶつかってんだカスがァ!ぶっ殺すぞ!!」

「わぁお」

 

慌てて謝罪の言葉を口にしようとすれば、それを遥かに上回る速度で罵声が飛んできた。

何がやばいかと聞かれれば顔がやばい。あと髪型。どちらも派手に爆発している。そういう個性なんだろうか。

個性、顔面爆破。

そんな彼は凄まじい表情でこちらを睨みつけている。

どうしよ釣り上がりすぎて目で人刺し殺せるくらい鋭利になってるんだけど。

何なのこの人えげつない怖い。

尖った頭部を左右に振って威嚇しながらつかつかとこちらに近寄る彼。

背後は壁。周囲に先生の姿はなし。

まさしく絶体絶命である。

だが、ここで俺の個性が覚醒して真の力が解き放たれ――

 

「なにガンくれてんだぁ、ァアン!?」

 

ひょぇぁあ!助けて轟ぃ!!

 

「ちょ、ちょ、ちょっとかっちゃん!おちっ、おち、おち、落ち着いて!」

「っるせぇぞデク!落ち着くのはてめぇだろうがぁ!てか誰に許可得て俺に指図してんだテメェ!ぶっ殺すぞ!!」

 

俺が下半身をガクブル激しく痙攣させて失神しかけているところに、突然緑色のもっさりとした誰かが会話に入ってきた。

助かった!ヒーロー……というより被害者その2だが、的が2枚になるというのはそれだけで被弾率が半分になるということなのだ。

ただ、それにしてもどもり方すごいことになってるぞ。

それとよく考えたら失神はちょっと言いすぎだったな。

強いて言うなら失禁くらいだった。

 

「とりあえずお前のぶっ殺すぞはメイド喫茶の猫耳メイドが語尾ににゃんを付けるのとおんなじ感じなんだなってことはわかった。連呼しすぎて最早語尾じゃね―か」

「ぶっはっ!?」

「んだとゴラァ!!デクテメェ何笑ってやがるぶっ殺――オラァ!!!」

 

ぶっ殺す、と言いかけて口を噤みながら先程より激しくその鋭い頭を振るう爆発(仮名)。

おっとこれはさっきの俺の言葉を意識してぶっ殺すぞと言えなかったんですねわかります。

見かけによらず思ったよりちょろいやつだった。

そのツンケンした態度と髪の毛と目つきは照れ隠しだったのか。

気づいてやれなくてごめんよかっちゃん君(仮名)。

 

「コラそこ。静かに移動しなさい」

 

思っていたより声量が大きかったのか怒られてしまった。

しかし、声の大きさの話をするのなら八割方責任はかっちゃん君にある。

俺は悪くない。

というかもっと早く助けに来てほしかった。何やってたんだ、危うくと轟の名前を呼びながら泣いちゃうところだったぞ。

未だに罵声を飛ばしているかっちゃん君と飛ばされているもっさりグリーン君をその場に放置し、こっそりと俺一人だけ会場へ向かう。

後は頼んだぞ、もっさりグリーン君。

そう心の中でだけ呟き、もっさりグリーン君の冥福を祈って合掌した。

 

 

その後の説明会場でももっさりグリーン君は五月蝿い眼鏡になんか言われててちょっと可愛そうだった。

今日は厄日かな?

大丈夫、きっと良いことあるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突な試験開始の合図で始まった実技試験。

他の受験生同様に遅れて会場内に向けて走り出す。

あんまりにも唐突な試験開始に驚きながらも、周囲を見回した。

路地から先程説明にあった仮想ヴィランが飛び出してきた。

なるほど、思ったよりデカイな。

どうしよう。

見た感じ頭っぽいところがカメラとセンサーで敵を認識したり攻撃の行動選択の処理は胸のあたりとか一番硬そうなところ、か?

とりあえずカメラから潰すか。

 

「標的発見!ブッ殺ス!!」

「うわぁ、もしかしてかっちゃん君の親戚?」

 

ついさっき聞いたばっかりのぶっころメイドかっちゃん君のような殺害宣告に苦笑いしながら、脱力したままの右手のひらを開く。

 

「朱雀」

 

名前を呼ぶと当時に右掌に僅かな重みを感じ、それをぐっと握りしめる。

瞬間、ボウッと右手を覆うように炎が灯る。

熱を感知し、俺が敵対行動を取ると判断したのか仮想ヴィランは攻撃を仕掛けてきた。

殴ることを前提に大きく作られた腕の装甲が俺を叩きつけようと眼前に迫る。

それを一歩引いて躱しながら赤いカメラの付いた頭部めがけて右手を伸ばした。

筋力も体力も大してない俺の全力でジャンプし、なんとか頭部に右手を触れさせる。

 

「おっりゃぁ!」

 

ぐっと右手に力を込め、出来得る限り火力を引き上げた。

頑張れば成人男性の頭部を包み込めるくらいの大きさまで燃え上がった炎は仮想ヴィランのカメラを襲う。

仮想ヴィランは三秒程度で奇音を上げながらガシャンと前のめりに倒れ込んだ。

 

「うわ、あれ?まだカメラを壊しただけかと思ったけど、割と簡単にイかれたな。受験生用にわざと壊れやすくしてるとか?精密機器って言ってしまえばそれまでなんだけど」

 

しかし、俺の火力に乏しい個性でも壊せるということは、他の受験生でも簡単に壊せるということだ。

早いところ次を探さなくては。

それからは試験会場をあちこち走り回ってそれなり程度にポイントを稼ぎ、試験終了の時間が近づく。

試験も大詰めだ。

そろそろ仮想ヴィランも数が少なくなってきた。

眼の前でたった今沈んだ仮想ヴィランを飛び越えてこの試験会場に入ったときの一番始めに出た大きな通りに戻ってくる。

どうやらこの辺も既に殆どの仮想ヴィランが破壊された後のようで、もうそこら中が破片だらけだった。

 

「これじゃあもうこの辺も倒せる仮想ヴィラン居無さそうだな……。もうちょっとポイント稼いでおいたほうが座学の点数的に安心できるんだけど」

 

また別の場所に移動してみようかと思案していると、なんの前触れもなく地面が大きく揺れた。

地震と言うには振動が不規則的に繰り返している。

遠くから何かが建物を破壊して、瓦礫を量産しながらこちらへ近づいてくる。

そうしてついにそれは俺達の前に姿を表した。

 

「で、でか!」

 

ビルの合間から顔を覗かせた超大型仮想ヴィラン。

きっと彼ならウォール・マリアだかウォール・ローゼだかも容易く突破できるだろう。

しかし、この場には彼が乗り越えるべき高い壁は何一つとして存在しない。

だって、彼が一番ダントツででかいんだから。

ここじゃなくてもっと他の所でやって欲しい、という俺たち受験生一同の祈りも虚しく奴はこちらに向かって進撃し始めた。

道路の脇にあった街頭やガードレールが嫌な音を立ててひしゃげていく。

それだけであの超大型仮想ヴィランの足についたキャタピラに人が巻き込まれた時にどうなってしまうかが想像できた。

周りの受験生は悲鳴を上げながら全速力で逃げ出し始める。

誰か助けて、と口にしながら地べたに転げ回って出口を目指す者がほとんどだ。

 

「おいおい、『助けて』って俺達が誰かを助けられるようになるためにここに受験しに来てるんじゃないんか?」

 

小さく悪態を付くが、現状が逃げ出したくなるほどに最悪なのは良く分かる。

これはもうどう仕様もない圧倒的な力だ。

相手が人間ならどうにでもなったかもしれないが、今目の前で迫って来るのは強大なロボット。

あんだけデカければそれだけ装甲は分厚いだろうし、カメラだって遥か上空過ぎてもし紙装甲だったとしても俺の手が届かない。

となれば俺がやるべきは。

 

「逃げ遅れたやつ見っけて怪我してるようなら抱えて走る、かな」

 

元来俺は戦闘が得意でもなければ好きでもない。

こんな規格外に突っ込んでいくってのは余程強いやつか阿呆しか居ないだろう。

とりあえず安全圏内を探りつつ近づいてみるか。

小走りでその場を駆け出し、視界に入る範囲すべてを出来るだけ隈無く確認していく。

すると土煙の中にさっきのもっさりグリーン君が座り込んで居るのを見つけた。

俺女子なら持ち上げれると思うけど男子行けるかな……腰抜かしてないと良いけど。

 

「おーい、もっさりグリー」

 

安否を確認するために声を掛けようとした瞬間――彼は全速力で駆け出していた。

 

「ちょっ!?どこ行くんだよ!!」

 

そう叫んでも彼が止まる様子はない。

慌てて彼の後を追う。

見た目からしてあのデカブツは初めに説明されていた0ポイントヴィランだ。

あれを倒したとしても注目はされるかもしれないが点数的な利益はまったく無い。

彼は見た感じ理性的で頭で考えてから行動に移すタイプだと思ったが、見た目とは違って意外とクレイジーな奴なんだろうか。

その両足は確かな意思を持って砂塵を切り裂いていく。

目を細めてもっさりグリーン君が駆けていった先を見た。

土埃が酷くてほとんど何も見えないが、一瞬土埃が途切れた合間に見えた光景で全てを察した。

 

「んあー、そういうパターンかぁ」

 

見えたのは瓦礫に足を挟まれて動けない女の子。本人は自力で脱出できるような雰囲気ではないし、このままじゃ間違いなく轢き殺される。

あのデカブツの振動で地面が揺れてめちゃくちゃ走りずらいが、なんとか目的地が近づいてきた。

女の子の現場に近づくと、彼女が足を挟まれているのはそこまで大きな瓦礫ではないのが分かった。

よし、これなら俺達二人で頑張れば簡単に持ち上がるはずだ。

なんとかなりそう!と思って喜んだのも束の間、もっさりグリーン君が爆風と共に上空へ飛んでいった。

 

「えええええ!!!??そっち!?そっちなんですかぁ!?!?」

 

その後手足がズタボロになったもっさりグリーン君を瓦礫をどかして助けた女の子と一緒に助けてみたり、リカバリーガールの手伝いして怪我人運んでみたりと忙しい一日だったが、色んなとこで雑用を引き受けたお陰かちょっと雄英の先生たちと仲良くなった。

 

 

 

 

 

 


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