俺は君のちっぽけな守り神   作:時雨。

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個性把握テストとそれなりな俺

「それで、この現状か」

 

「………」

 

俺が気を失って数分後、俺達の担任を名乗る髪とひげがぼさぼさな明らか不審者が教室に入ってきたらしい。

そして俺はその不審者にほっぺた引っ叩かれてグッドモーニングってわけか。

おいおい、おやすみなさいも酷けりゃおはようございますも最悪だな。

せめてやるなら美少女にやってほしかった。

おっさんのビンタとか我々の業界でも拷問だ。

いや、やっぱ美少女にやられても痛いもんは痛いな。普通に嫌だ。

というか俺の顔面入学初日でボコボコ過ぎやしないか?

ヴィラン退治とかで死闘を繰り広げた後みたいに成ってる気がするけどこれやったのクラスメイトと担任だからね??

これこの後の入学式で周りのクラスに「え、あいつなに?朝から他校と喧嘩でもしてきたの?今年のヒーロー科やばくね」とか言われちゃうじゃねぇか。

このクラスには俺みたいな平凡なやつよりそういうのが弩級に似合う髪の毛凶器爆発マンがいるんだから不良キャラポジションはそっちに任せたい。

 

「……すみません」

 

「とりあえず、今日は慣れない環境で心身共に不安定だったってことで処理してやる。次はないからな。出来る限り俺に面倒を掛けるな」

 

俺たち一年A組担任、相澤先生に叱られた轟がちょっとしょんぼりして俯いている。

今まで人付き合いが悪いだとか協調性が無いだとかで注意を受けてたのは中学時代見た事があったが、その時は特に気にしている様子はなかった。

確か真顔で教師の顔をガン見してたと思う。

しかし今回は自分に非があると理解している故か何気に落ち込んでいるようだ。

ふはは、これを見れただけでもこの鼻の痛み分はあったぜ。

イテテ……。

 

「ちなみに先生が俺の顔面引っ叩いたのはあれも新しい環境がなんやらこんにゃら影響して先生の右手が疼いてしまったという認識で合ってますか?」

 

「とりあえずお前ら全員体操服着てグラウンドに出ろ」

 

「わぁ、人ってこんなに綺麗に他人を無視できる生き物なんだ」

 

俺など視界に入ってないよとでも言うように完全に俺の発言をスルーした相澤先生。

酷いよ、酷すぎるよ。

こんなの自分が顔面張り倒した相手にも今日から担任するクラスの生徒にもする態度じゃないよ。

俺はこの日、人類の奥底にある深淵を覗いた気がした。

 

「なんか、あの人ちょっと可愛そうやね……」

 

「う、うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所は変わってグラウンド。

そしてここもまぁ、広い。

入試のときから思っていたが、この学校の施設・設備・その他諸々の環境は基本的に普通の学校とかけ離れてデカイ・スゴイ・ヤバイの三拍子が揃う。

どこかの眼鏡じゃないが事あるごとにこれが最高峰という印象を叩きつけてくる学校だ。

話は戻るが現在俺たちA組が相澤先生の指示を受けて集合したこのグラウンド。

ここもまたトラックが一つあるだけなんてことはなく、その奥へ向けて遠く遠くまでスペースが続いている。

やはりこれも生徒達の個性を考慮してのことだろうか。

雄英に入学できるだけの優秀な個性を使って全力でスポーツをした場合、通常のグラウンドではどうしても手狭になってしまうだろう。

通常の学校では敷地も金も無いので我慢するかほかを工夫しようと言う話になるが、雄英は当然の如くどちらも兼ね備えているのでこんな規格外な設備が整えられる。

 

「あ、あの!」

 

俺が一体この金はどこから来るんだろうか、と雄英高校の金の流れについて無い脳みそを捻っていると、背後から誰かに声を掛けられた。

 

「お?おお!君はアレだな!あの時瓦礫で足怪我してた子だな」

 

「そうそう!あの時は助かったよー!ほんとありがとね!私、麗日お茶子っていうんだ。あなたは?」

 

「俺は四ツ神四方(よつがみしほう)。これからよろしくなーお茶子」

 

「うん!よろしくね!私も四方くんって呼んでいいかな?」

 

「おうよ。これから何かと世話になるだろうし、なんかあったら気軽に声かけてくれな」

 

「分かった。ありがとう四方くん」

 

「そんでもう足は大丈夫なのか?」

 

「あの後すぐにリカバリーガールのとこに四方くんが運んでくれたでしょ?だからもうこの通り」

 

お茶子は全く問題ないと笑顔で自分の足を振ってみせる。

俺は回復系の能力持ちでもなんでもないから下手に触らないようにしてたせいでぶっちゃけどのくらいの怪我なのかすら知らなかったが、この様子であればこの後から始まるであろう何らかの運動でも大丈夫そうだ。

とりあえず治っててよかったよかった。

 

「それで、結局今から何が始まると思う?」

 

「うーん、まさかグラウンドで体操服来て入学式――は流石にないよね」

 

あっはは、と笑うお茶子。

いや、この雄英の怖い所は唐突に予想外な一撃を躊躇なくぶちかまして来ることだと俺はあの入試の0ポイント仮想ヴィランから学んだ。

今お茶子が言ったグラウンドで体操服着て土埃まみれになりながら入学式なんてのも可能性が絶対にゼロだと言い切れないから怖い。

 

「ほんと、えげつないのが来なきゃ良いんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、俺の悍ましい想像とは違って相澤先生がこれから行うと言い出したのは個性把握テスト。

俺たちが小学校中学校と行ってきた体力テストを個性ありで行うのだと言う。

一部から入学式やガイダンスはどうするのかという当然の疑問が上がっていたが、相澤先生は『ヒーローに成るならそんな時間ないよ』の一言でバッサリと切り捨てた。

さすがヒーローを育てる最高峰。

ヒーローを育てるという名目上なら多少の無茶が許されるのがここの常識らしい。

そしてその個性把握テストなるものの第一打者はかっちゃん君が指名された。

腕を伸ばして入念な準備運動を行い、グッと振りかぶりながらボールは投げられた。

 

「死ねぇ!!!!」

 

死ね???

何が???

良く分からないが、とりあえず語尾がぶっ殺すぞから死ねにチェンジしたと思われる。

 

『べっ、別にあんたのことなんて好きじゃないんだからねっ死ねぇ!!!!』

 

それにしてもよく飛ぶなぁ。

爆音と共にソフトボールは遥か遠くまで飛んでいく。

こういった事が起きても敷地外に出ないようにとこの運動場は無駄に広く作られているのだろう。

早速この広さの有用性が証明された。

なぁなぁ、轟、今のボールすごかったなぁ。

と轟に声を掛けるが、当の本人はボールの行方どころか全く別の方向を向いていた。

え?なに?

あ、ちょうちょ。

かわいーね。

白いやつじゃなくて黄色いタイプのやつじゃん。

でもちょうちょも顔面ドアップにすると結構えげつないよnあいったぁ!!?

 

 

「後ろで騒いでる阿呆は放っておいていい。まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

ピピッと音を立てて計測された飛距離は705.2m。

これにはみんなもびっくりだ。

ちなみに俺は顔殴られて痛みに悶てた。

轟は綺麗に鼻の頭を狙って拳の骨をぶつけて来るからタチが悪い。

 

「なんだこれすげー面白そう!」

 

「705mってまじかよ!?」

 

「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!!」

 

周囲から好印象な意見が多数上がる。

しかし、それを相澤先生は冷めた目で見ていた。

おやおや、ご機嫌斜めか先生。

カルシウム取ったほうが良いよ。

おすすめは寝る前のホットミルク。

 

「……面白そう、か」

 

今まで沸き立っていた生徒たちが何事かと相澤先生を見る。

 

「ヒーローになるための三年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

相澤先生は心底呆れたとばかりに俺たちへ問いかけた。

影の落ちた先生の顔からは表情を読み取ることができない。

だが、少なくとも優しい顔や期待の込もった目はしていないのだけはわかった。

 

「よし、トータル成績最下位の物は見込みなしとして判断し、除籍処分としよう」

 

「はあああああ!!!?」

 

周囲にみんなの絶叫がこだまする。

 

「ようこそ、これが――雄英高校ヒーロー科だ」

 

ちなみに俺は轟と一緒にちょうちょ見てた。

あっ、行っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、結局やることになってしまった個性把握テスト。

相澤先生の言い分も分からなくもないが、ぶっちゃけ無茶ぶりだと俺は思う。

確かに面白そうなんて気の抜けた考え方で人を救う仕事を目指して良いのかなとは思うが、その辺の心構えも含めてこれからの授業で重要性を説いていくべきではないだろうか。

つい最近まで中学生だったのだから、その時点でヒーローとしての心構えが最低限出来ているのが前提だとしたらこの学校で生き残るのは余程家庭環境的に厳しくしつけられた者か心が歪に歪んでいる者だけになってしまう。

 

「とか言いつつしっかり準備運動するんだね」

 

「そりゃそうだ。結局の所俺がどんだけ屁理屈言い訳駄々こね発狂しようとも相澤先生はこのままテストを決行するだろ。となればさすがの俺だって無駄に足掻くような真似はしない」

 

「いや、流石に生徒が発狂したらテストは止まると思うんやけど……」

 

微妙な顔をしているお茶子を放置してぐっぐっと腕周りの筋肉を解していく。

とりあえず怪我はしないようにしたいから準備運動は出来るだけ念入りにしたい。

 

「ほらお茶子もちゃんとやっといたほうが良いぞ。後から怪我して泣きを見るのはお前なんだからな」

 

「う、うん。そうだね。準備運動はしっかりだもんね!」

 

「うむうむ。分かれば良い。何なら関節伸ばすの手伝うぞ。背中押してやるよ」

 

「えっ!?あーっと、それじゃあお願いしようかな」

 

少し驚いた顔をしながら地べたに尻を付けて座るお茶子。

なんだ?俺が無理やり力任せに押し付けるとでも思ってるのかお前は。

一体いつ俺の印象は鬼畜属性になったんだ。むしろ朝からずっと被害者だっつーの。

こう見えても小学校時代はサッカー部でベンチを温め続けていたんだぞ。準備体操の助手に置いては他の追随を許さない自信がある。

あれっ?なんか目から変な雫が。

 

「そんじゃあゆっくり押していくからな」

 

「う、うん!お願いします」

 

お茶子の背中側に回って少しずつ力を入れて行く。

思いの外お茶子の体が柔らかくてあまりこちらに抵抗を感じさせないままお茶この体は前方に倒れていった。

 

「おお、結構柔らかいじゃん。よしよし、柔軟性があると怪我しにくくなるだけじゃなくてヒーロー活動をする上でもヴィランとの戦闘や救助活動に置いて体の可動域が変わってくる。暇があったら普段からやったほうが良いと思うぞ」

 

「そう、だね。今度からお風呂上がりに毎回するようにしてみようかな」

 

数回同じ動作での柔軟を繰り返し、お茶子は地面から立ち上がる。

よし、体柔らかくなった!と言いながらガッツポーズをするお茶子だが、たぶん腕は柔らかくなってないと思うぞお茶子。

 

「あいつ…女子の体にあんなに躊躇なく…くっそぉ…!!」

 

どこかから紫色のブドウ的な怨念を感じるが、きっと気のせいだと思う。

お茶子の柔軟が一通り終わり、俺の方も一通り手伝ってもらった所で先生から集合がかかった。

どうやらテストが始まるようだ。

さてと、どうやって退学を免れようかなー。

とこれからどんな小細工を繰り出してやろうか考えていると突然謎の力で後ろに引っ張られた。

いや、引っ張られるという程強くないな。

なんか、つままれてる感じ?

何事かと思い引かれた方向へ顔を向かせると轟が俺の体操服の上着の端っこを掴んでいた。

 

「えっ?どした」

 

「………」

 

「ちょっ、本気でどうした??」

 

なんだ、これ。

どういう状況?

ホワイ。

よくわかんないけどなんか轟機嫌悪いのか?

あ、もしかして――

 

「俺のベンチの守護神式柔軟法轟も知りたかった?後で教えたげるから今はとりあえずしゅうgブゲッフォァッ!!」

 

捻りの効いた腹部への右フック的な何かをクリンヒットさせた轟はそのまま相澤先生の元へ走り去っていく。

良いパンチだ轟ィ。

俺がさっきから顔面にダメージ蓄積させてるからちゃんと場所考えてくれたんだな。

優しさに涙が滲んじまうじゃねぇか。

ただ俺朝飯リバースするとこだったけどな!

 

「何やってんだお前らは……」

 

相澤先生の最早呆れるしか無いって感じの視線が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずはじめは50m走。

みんなそれぞれ自分の個性を活かしたいい走りを見せてくれた。

特にあの――えっと、名前忘れちゃったけどメガネの奴は足に付いたエンジンをぶるふぉんぶるふぉん言わせて50メートルをあっという間に駆け抜けていた。

周囲がちょっと排気ガス臭いのはご愛嬌。

きっと見たままの個性なのだろうが、まさに走ることに特化した個性といった感じだ。

ちなみに俺の記録はごく普通な男子高校生より少し遅いくらいだった。

まぁ、個性使わず本当に普通に走っただけだから当たり前なんだけどね。

計測が終わって次の種目に行こうとした所で轟が俺の方を見ているのに気がついた。

 

「あれ、わざわざ待っててくれたのか」

 

「――別に」

 

「じゃあ待っててくれなかったのか?」

 

「――そういう訳じゃないけど……」

 

なんだ、ツンデレか。

と言うかさっきから轟の様子が変だな。

やけに俺にベッタリと言うか、なんか隙あらば引っ付いて来る。

さっきのちょうちょの時だって気がついたら俺のすぐ真後ろにいたしな。

恐らく、というか多分そうなんだろうけど慣れない環境にコイツ自身も少なからず不安を感じているはずだ。

ストレスってのは意識無意識に関わらず精神に蓄積されていく。

それを少しでも見知った相手に近づいて和らげようとしてるんだろう。

ただ、それが行き過ぎた時にちっとばかし危惧してることもあるんだが………。

 

「とりあえず、次行くか」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんつーか、四ツ神は轟の扱い方を理解してるって感じだよなー」

 

「そーか?」

 

握力の測定をしている所に金髪ナンパ師の上鳴が話しかけてきた。

男ナンパしに来て何が楽しいんだお前。

それとも女に行く勇気がないから一緒に行ってくれる仲間探してんのかこいつ。

 

「そうそう、お前ら教室に入ってきてすぐに殴り合い、つうか一方的なKO決められてたし前から仲良かったみたいだったからさ。なんかあんのかなーと思って。もしかして付き合ってたりすんの?」

 

「別にそういうわけじゃない。ただ中学が同じだっただけだ」

 

「いやぁ、ただ中学同じだっただけのやつにあの懐き方はないと思うけどなー……」

 

「ま、気になるなら本人に確認してみんのが一番早いんじゃねーのっ、と」

 

ピピッという機械音が握力の測定が完了したことを知らせる。

ディスプレイに映し出されているのは40kgの文字。

うーん、微妙。

ヒーロー科に入学したんだからやっぱ体は鍛えておいて損はないよな。

今度から朝早起きしてランニングでもするか?

それとも夜にジムに行ったほうが良いか。

今まで運動部と言えばベンチを温めていた少年時代のサッカー部くらいしかやってこなかった。

詰まる所今まで本格的に体を鍛えたことがなくてそういった事に関するノウハウがまったくないのだ。

その辺も先生に聞いてみた方が良いかもしれない。

彼らはみんなプロヒーローだ。となれば多かれ少なかれどの先生も最低限のトレーニングはしているはず。

プロにそういったコツを気軽に聞けるのも雄英の生徒の特権だ。

隣では上鳴がどーしよっかなぁーとか言っている。

もしや轟にナンパを仕掛ける気か?

こいつ、あいつの実家というか父親が誰か知ってるんだろうか。

最悪どっかに連れ去られた挙げ句次の日には焼き殺されて山奥に捨てられるとかありそう。

ふぇぇ怖いよぉ轟。

とりあえずお前が行方不明になったら第一に容疑者としてなんたらデヴァ―さんを上げておいてやる。

上鳴よ、安らかに逝け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個性把握テストは滞りなく進行し、ついにボール投げだ。

俺はこの時を待っていた。

俺の貧相な脳みそじゃ大記録を出せるのはここぐらいしか思いつかんかったからだ。

ぶっちゃけこんだけ人の目がある所であんまし出したくない個性だが、最下位は除籍らしいんでそうも言ってられない。

相澤先生め、面倒な事してくれたもんだ。

特に何もなければ盛大にthe・普通な記録で終わろうと思ってたのに。

そして俺の前のお茶子が無限を出した。

なんてこった、やるじゃないかお茶子。

というか計測不能は無限なのか。

なら俺もそこまで行かずともそれなりにそこに近い記録を出せる気がする。

と言っても頑張るのは()()()()()し、無駄に考え込んでも意味がないか。

とりあえずやるだけやってみよう。

 

「次、四ツ神」

 

「あい」

 

相澤先生からボールを二つ手渡される。

なんか、相澤先生の視線が痛い。

今まで個性という個性を使ってないから何だコイツとか思われてるんだろうか。

仕方ないじゃんか、ただ走るだけの種目で手が発火しても意味ないじゃないか。

じっとりとした相澤先生の視線を受けながらボール投げの円の中に入る。

ただ俺がさっきから騒いでてと言うか馬鹿やってて目を付けられてるだけだったら何も言えないが。

ちらっとみんなの方を見てみると、轟が酷く不安な顔をしていた。

おいおい、俺がこんなとこで終わるようなちっぽけな男に見えんのか?

あ、見える?

覇気がないのは元々だから仕方ない。

出そうと思って普段から鍛えてもないのにメラメラと威圧感なんて出るようなもんじゃないしね。

むしろ俺からそんなのが出てたらビビるわ。

主に俺が。

 

「さて、と」

 

右掌を上に向けて顔と同じくらいの高さまで持って来る。

そして入試の実技試験の時同様その名前を呼んだ。

 

「朱雀」

 

ボウッと小さな火の玉が掌の上で巻き起こり、赤々と燃え上がる小さな炎の塊が出現する。

そこから出てきたのは―――

 

 

 

 

――ぼってり丸々と太ったひよこだ。

 

 

「「「ひ、ひよこぉぉぉおお!!?」」」

 

おおう、みんな良いリアクションありがとう。

でも一応これ朱雀だから。

四神の一角だから。

成長期はきっとこれから来るって俺は信じてるから。

 

「そんじゃ朱雀ちゃん、このボール持ってまっすぐ飛んでってくれるかね」

 

は?ダルッ、テメェで行けや。

という猛烈な批難を込めた視線を一瞬俺にぶつけながら、肉というか毛に埋まった足を限界まで伸ばしてボールを掴む朱雀。

一度空中で止まってからみんなの方を向いて俺の時とは打って変わってピュアな汚れないキラキラした小動物特有のつぶらな瞳を向けていくのを忘れない当たりほんといい性格してるなぁと思う。

どうして飼い主、というか個性主の俺はこんなに綺麗な心を持っているのにあいつはあんな酷い性格してるんだろうか。

俺の清流の如く澄んだ心を見習ってほしいと心の底から思う。

ボールを掴んだ朱雀はそのまま場外まで飛んで行き、無事俺の記録は無限になった。

ありがとう、お前の出番はきっとしばらくねーけどそれまでにしっかり痩せとけよ。クソひよこ。

じゃねーと俺の晩飯に永久就職することになんぞ。

測定を終えて円から出てきた俺に駆け寄ってくる人物が居た。

頭から触覚を生やしたピンク色の女子だ。

 

「ねぇねぇさっきのひよこすっごく可愛かったねー!あ、アタシ芦戸三奈(あしどみな)!」

 

「おう、よろしく芦戸。今度串焼きにしてごちそうするな」

 

「えええ!!?嘘でしょ!!?」

 

「あはは、ウチも焼き鳥は好きだけどさっきのつぶらな瞳見ちゃってから食べるのはちょっと厳しいかなぁ」

 

苦笑いしながら頬を引きつらせるお茶子だが、それはあの憎たらしい顔を見たことがないから言えるのだ。

あの人を小馬鹿にしたような「は?マジコイツ何言ってるかわかんねーんだけど」という表情は俺の神経を高級熊手で抉るように逆撫でして来やがる。

だが、それでもなんだかんだ言って仕事はしっかりやり遂げてくれる。

ん?なんだ、お前もツンデレか。

最近流行ってんのかな。

これ俺も流行に乗ったほうが良いの?

それから緑谷の指もげ事件(もげてない)等々あったが、俺たちの力を引き出すための合理的虚偽ということで誰も退学にはならなかった。

めでたしめでたし。

緑谷なんかは酷い顔で絶叫していた。

俺の次に酷い成績だったからなぁ。

俺も朱雀の無限がなければ多分あんな感じになってたと思う。

っていうかこれって相澤先生もツンデレなのか?

そう思いしっかり優等生らしく挙手をして質問したところ、首に巻かれた布がすっ飛んできて本日何度目かになる顔面へのダメージを受けた。

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 


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