翌日、昨日あった個性把握テストのこともあり、誰もが少なからず不安を懐きながら登校した高校生活二日目。
しかしながら俺達の予想を良い意味で裏切ってその日の午前中は全くもって普通の授業だった。
特にマイク先生の英語の授業なんてテンションの落差が激しすぎて英語の文法がほとんど頭に入ってこなかった。
そう、文法がわからなかったのはマイク先生のせいだ。
これは決して俺の理解力が低いわけではない。
そう、断じてない。
昼食を挟みついにやって来たヒーロー基礎学。
この日本一のヒーロー養成学校である雄英高校が最も推進する科目で当然ながら授業数も一番多い。
昨日相澤先生が行ったカリキュラムの説明ではヒーローについての座学から雄英高校が誇る金にものを言わせた巨大施設による災害訓練や対ヴィラン戦闘を仮定した対人戦闘訓練もあるとか。
なんともヒーロー志望である諸君の心を沸き立ててくれる授業だ。
これから始まる授業がまさにそのヒーロー基礎学ということも合ってみんなどこか浮足立っている。
そんな最中、遠くから誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「私がぁ、ドアから普通に来たッ!!!」
教室前方のドアからルンルンハイテンションなオールマイトが姿を現す。
今更ながら彼が本当にこの学校で教職に就いているんだなという実感が湧いてきた。
今までテレビでヴィランを退治した時やバラエティに出演してるところを見るような遠い存在だった人が目の前に居てしかも自分たちの先生だというのだからこの学校は本当にすごい。
マイク先生を含めて他のプロヒーローの時も同じように思ったが、このナンバーワンヒーローはより一層だった。
「オールマイトだ…!すげぇや、本当に先生やってるんだな…!」
「銀時代のコスチュームだ…!画風違いすぎて鳥肌が…」
同じようなことをみんなも考えていたようで、そこかしこから感嘆の声が上がる。
確かに暑苦し過ぎるムキムキマッチョだ。
存在感が半端じゃない。
この教室に彼が入ってきた時点で体感気温が少なくとも4度は上がった気がする。
「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」
バシィッ!という効果音が聞こえてきそうな動作でどこからともなく"BATTLE"と書かれたプレートを俺達に突きつけるオールマイト。
え?もう戦闘訓練?
早くない?俺心構えとか何もしてないんですけど。
まぁ、してたからと言って強くなるわけじゃないんだけどね。
「そしてそいつに伴って…こちら!」
オールマイトがまたもやどこからか取り出したリモコンをポチッと押すと壁から何かが迫り出して――迫り出して!?
眼の前にあった壁から突然何かが出てきた。
何事かと思ったらどうやら俺たちが入学前に提出したコスチュームに付けてほしい要望を加味したコスチュームが保管されていたらしい。
いきなり出てくるから割と本気でびっくりした。
出てくるなら出てくる前に「出るよ―」って先に言ってよ。
俺が無茶ぶりを込めた思念を壁に向かって飛ばしている間にもオールマイトの説明は続く。
「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」
その一声で初めてのコスチュームに胸を膨らませたみんなが我先にと自分のコスチュームを取りに走った。
俺もその後に続いて席を立つ。
今までそんなに気にしていなかったが、自分のコスチュームが目の前にあると思うと柄にもなく少しだけ、ほんの少しだけワクワクした。
べ、別に早く着て見たいわけじゃない。
若干口元が緩んでニヤニヤしてしまっている気もするが、多分気のせいだ。
――おい、轟テメェ何だその顔やめろ。
やめろつってんだろ!生暖かい目で俺を見るな!
女子は更衣室に移動し、男子はその場で着替えて良いことに成った。
男子更衣室もあるらしいが、みんなそれぞれのコスチュームを早く開けてみたいようで全員が教室に留まっている。
かく言う俺も漏れずに教室にいた。
自分の席にケースを持って戻り、胸を高鳴らせてロックを解除する。
俺が要望に書いた項目はそう多くない。
ピチッとしたスーツより少しダボついた袖が付いたもの。
あまり派手、華美でないもの。
かと言って上下真っ黒は勘弁してください。
だいたいこんな感じだったと思う。
さてさて、どんなデザインに仕上がっているのやら。
蓋を開けてみるとまず最初に目に飛び込んできたのは紺色の着物だ。
そしてその上にはビニールに入った書類が同梱されている。
どうやら取扱説明書のようだ。
取扱説明書によると中に入っているいのは上下の着物、いくつかのサポートアイテム。
それから黒の外套。そして最後に黒の学生帽か。
着物は上が紺で下は白、というか灰色に近い配色のようだ。
要望通り派手すぎず真っ黒なんて痛すぎる配色カラーリングでもないようで安心した。
早速制服を脱いでコスチュームに袖を通す。
どうやら本来の着物のように面倒な手順はほとんどすっ飛ばして元からある程度形は出来上がっているらしい。
最初に見た時は今まで殆ど着たことのない着物に手こずるかと思ったが、予想以上に簡単な構造だった。
数少ない自分で結ぶ部分である腰の紐をキュッと締め、外套を着込んで学生帽を被る。
気分はさながら大正時代の学生と言った感じか。
うん、中々悪くない。
袖が広い服装にしてもらったのは俺の個性の特徴である何が出てくるかわからないびっくり箱的な要素を活かすためだ。
どうやら袖の部分も内部に紐か何か入っているようで広がり具合を調節できるらしい。
着物の文化を重んじる方々からしたらえげつない改造度だが、俺としては中々に気に入った。
これで下駄でも履いて口に葉っぱを咥えたら不良キャラとして爆豪に対抗できそうだ。
――うん、どう考えても後がめんどくさそうだから却下だな。
「始めようか! 有精卵ども!」
オールマイトが声高らかに授業の始まりを宣言する。
指示されたグラウンドβに全員がコスチュームに着替えて集まった。
こうしてみると中々に壮観だ。
近年のヒーロー飽和社会に置いてヒーローと言う職業は人気が命といっても過言ではない。
それこそ検挙率が低いヒーローなんかは他の職業を兼業して事務所をやり繰りしている。
ごく普通な事務方から果てはアイドルなんて特殊なものまでだ。
こうしてそれぞれが独創的なコスチュームに身を包んだところを見るとこれぞヒーローといった印象を受ける。
そして俺たちはオールマイトからこれから始まる戦闘訓練についての詳細は説明を受けた。
今回の訓練の概要はざっくり言うとヴィランが持ち込んだ危険物を回収するか持ち込んだ本人であるヴィランを拘束するという内容だ。
ただしその詳細な設定はヴィランがビルに核を持ち込んで立て籠もったというぶっ飛んだシチュエーションだったが。
なんだ核持ったヴィランって。
そんな財力もパイプもあるんなら立て籠もりなんてせずにもっと別の方法で目的を達成するだろ。
さては自爆派か?
自分が爆発することで気持ちよくなっちまうタイプか?
もうそんなん手がつけらんねーな。
「なに見てんだテメェ!今なんかウゼェ事考えてたろ!ぶっ殺すぞ!!」
「イエナニモ……」
「こっち見て言えやゴラァ!」
さてさて、隣で猛る爆豪少年は放置で現在進行系で行われている組分けについて考える。
現状俺たちは21人。
となれば必ずどこか3人になるところが出てくるはずだ。
俺としてはそこに入りたい。
この訓練はヒーロー側が圧倒的に不利だ。
内部の間取りや装飾の配置、階段の位置なんかも分からない状態でヴィランは先に準備時間を与えられる。
その時間にヴィラン側は個性次第だが罠を張りまくることも可能だ。
その最たる例が八百万だろう。
彼女の個性は創造だ。
アレは緊急の栄養補給が厳しい状況でもない限り本人の知識次第であらゆるものが出てくる俺以上に何が飛び出してくるかわからないびっくり箱。
この訓練で八百万以上に輝く奴は居ないと思った。
八百万のとことは当たりたくないなぁ。
当たりませんように当たりませんようにと考えながらくじを引く。
俺が引いた玉にはGと書かれていた。
その玉を持って後ろに下がる。
さて、人生初の戦闘訓練だ。
どうなるかな。
「多分結構上の方だけど、この直上だと思う」
「そうか、分かった。ありがとな」
「いや、むしろ完全に特定できなくて悪いね」
「気にすんな。それを言ったらこのナンパ野郎はまだ何もしてないぞ」
「なぁ四ツ神!お前なんか俺にだけ当たり強くね!?」
「気のせいだ人間スタンガン」
「おいッ!!」
戦闘訓練が始まり、ヒーロー役になった俺たちチームGは耳郎響香、噛ませチャラ男、そして俺で構成されている。
ラッキーなことに要望通り三人組に入ることが出来た。
響香の個性でこの建物に響く音を拾い、その発生源の大まかな方向を探知。
その情報を元に俺が詳しい場所を特定し、最後の突入時にはビリビリ噛ませ犬を肉壁にして俺と響香が突っ込む。
三秒で考えた作戦だが我ながら中々悪くない。
「お前なんか俺のこと使って酷いことしようとか考えてね?」
「いや、全然」
「そ、そうか?ホントだな?」
「ああ、本当だ。なんたって酷いと微塵も思ってないからな」
「おいィ!そういうことじゃねぇんだよ!!」
俺がぐっと親指を立てて笑ってやると、再び何か喚き出す上鳴。
一体何が不満だというのか。
お前の個性である人間スタンガンを上手く利用して核を回収しようというのが何故分からん。
とまぁ悪ふざけはこの辺で置いといて手のひらを上に向けて名前を呼ぶ。
「白虎」
掌の上に赤い金属がバキバキという音と共に発生し、それは形を変えながら大きくなっていく。
拳大の大きさまで変化し、結晶と化した金属を砕いて内側から出てきたのは―――
――ホワイトタイガー柄の毛並みを生やした掌大の子猫だ。
「「ネコ!!?」」
おうおう、相変わらず良いリアクションだ。
さすがは雄英高校ヒーロー科だ。
あ、関係ない?
とりあえず白虎を地面に下ろす。
喉元を指先でくいくいと弄ってやりながらこれからの行動について指示を出した。
「この建物の三階以上、現在俺たちがいるこの場所の真上に位置する部屋の様子を探ってくれ」
白虎は『んナァ』と小さく鳴いて手乗りサイズの子猫とは思えない脚力でビルの奥へと駆けて行った。
彼もきっとこれから成長するって俺信じてるから。
「四ツ神お前、ペットはずりぃよ」
「誰がペットだ。れっきとした個性だぞおい。お前もそのビリビリでワンちゃん作ってみたらどうだ」
「無理だっての!俺は纏うだけで操るとか無理なんだって!てかあのふわふわ感ある実物のネコに対して俺のビリビリ犬ってただのホラーじゃねぇか!!触った瞬間感電するしよ!!」
「あんたら……もうちょっと緊張感とかないの?」
俺達を呆れ顔で見る響香。
薬をキメすぎてラリったのか腕をブンブン振って抗議する上鳴。
更には戦闘訓練で子猫を可愛がりだす俺。
おいおい、最高のメンバーじゃねーか。
よぉし、俺たちの戦闘訓練はこっからだ!
白虎が持つ能力は金属を生成するというものだが、それ以外にももう一つある。
それがこれだ。
「よし、索敵開始するぞ」
白虎との意識のパスを感覚的に認識して視覚を共有する。
ぼんやりと視界内の様子が変化し、一度瞬きをするとしっかりと視界が切り替わった。
視覚の共有。
白虎の見ている風景を俺に共有することが出来るという女子風呂のぞきに最適な能力だ。
いや、最適ってだけでしたとは言ってないから大丈夫。
してないとも言ってないけども。
「よし、三階までは誰も居ないみたいだ。上鳴を前衛に響香が続いてくれ。俺はその後ろをついて行く。何かあれば人間スタンガンで頼むぞ。上鳴」
「よし来た!任しとけ!」
「うん。それと、あんたは頭大丈夫なの?」
「それは俺の思考がイカれてるってことか?」
「違うから!さっき言ってたじゃん。その視覚共有のデメリットのことだよ」
どうやら先程ヴィラン側に準備時間が設けられたのと同時に俺たちヒーロー側に与えられた作戦タイムの時に話した視覚共有を使った場合のデメリットを気にしてくれているらしい。
視覚共有は便利な能力だが、どうも脳に異物(自分の体外からのデータ)を入れているせいか一定以上使い続けると疲労感が強く残る。
響香が心配してくれるのは嬉しいが、俺としてはそこまで心配されなくても大丈夫だ。
「別にそんな早く来るわけじゃないから安心してくれ。今だって特に疲労やら違和感は感じてない。それに、こういう安全の保証された授業っつー時間が設けられてんだからガンガン使って許容上限増やしてかね―と勿体無いしな。俺がデメリットのある個性を使うって言ったから心配してくれたんだな。ありがとう響香」
「いや、まぁ、別になんともないなら良いけど……って、なんでウチのこと下の名前で呼んでんのさ!」
「んー、なんというか、名前の響きの好みだな。お茶子や響香は下の名前のほうが好きだが八百万なんかは名字呼びのほうが好き、と言うか口に出して音になった時にスッキリする」
「は、はぁ、そういうもんなの?」
「うむ、そういうもんだ。さ、そろそろ進もうか」
二人に声を掛けて上の階に続く階段を登り始める。
階段を登りながら上鳴の口から「天然ジゴロめ……」とか聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。
白虎の能力の一つである視覚共有を上手く利用して人数の有利でゴリ押した結果それはもう酷い有様だったが勝利することが出来た。
もちろん八百万からの評価は辛口だったが。
言葉の一つ一つが刺さって心が痛い。
しかしながら白虎は気に入っていただけたらしく後で触らせて欲しいと言われた。
興味を持っていただけたようで何よりだ。
それと昨日のお茶子と柔軟をした時と同じようにブドウ的な怨念をどこかからか感じた。
心做しか首の後ろあたりがチリチリする気がする。
うちのクラスメイトまじ怖いんですけど。
「お、轟次か」
「うん」
「怪我しないようにな」
「うん」
真顔のまま淡々と返事をする轟。
アレでも初めて会った時と比べればまだましになったってんだから驚きだ。
昔は目すら合わせてくれなかったもんなぁ。
そう考えると視線を交えて返事をくれるだけでも大きな進歩か。
喜んで良いのかイマイチよくわからない同中の成長を噛み締めながら奥へと進む。
白虎の視覚共有は便利だがやっぱり脳に貯まる疲労感がきつい。
少し壁にもたれかかろうと壁際を目指した。
すると近くに居た八百万が近づいてくる俺に気づいてモニターからこっちに視線を移す。
「お疲れ様ですわ、四ツ神さん」
「おー、あんがと八百万」
ふぅーっと大きく息を吐きながら八百万の隣で壁に背を預けてズルズルと座り込んだ。
久々だったことも合って思いの外疲労が大きい。
心做しか重くなったような気がする頭をコツンと壁にぶつけて地下室の天井を仰いだ。
そのまま少しだけ頭を休めようと目を瞑る。
「四ツ神さんは色んなことが出来る個性をお持ちなのですね」
おいおい、それをお前が言うのか。と思いながらも目を瞑ったまま答える。
「いやぁ、それを八百万に言われるとなんか複雑だぞ」
「わたくしの個性はあくまで結果が多種多様なのであって根本は同じですもの。例えるならば私は木。四ツ神さんは草原そのものといった感じでしょうか」
「ほー、中々面白い例え方だな」
木と草原か。
八百万の個性は万能ではあるが、自身の肉体から創造するという点では全てに共通している。
対して俺はそもそもで発生源が白虎や朱雀とバラバラだ。
掌から出てきてはいるものの、火に金属と一貫性がない。
それに俺の意思で完全に掌握している訳でもない。
それは未だ雄英のメンバーには見せていない残りの二体も同様だ。
「お褒めに預かり光栄ですわ。四ツ神さんの個性はまだまだ成長の余地が隠れていそうですし、わたくしも考察していていい勉強になると思いますの。良ければこれからもお話させていただけると嬉しいですわ」
「ああ、八百万の話はさっき聞いただけでも結構興味が唆られた。これからもよろしく頼むな」
「はい」
にこやかな笑顔で返してくれる八百万。
轟もこれくらい素直でいてくれると嬉しいんだが。
そうこうしている内に轟達の訓練開始の合図がオールマイトから告げられた。
さて、轟はヒーロー役か。
どんな戦略であの建物を攻略するか見ものだな。
ペアの障子は索敵に秀でた個性だと言うのは見た目でわかった。
どうやら耳や目なんかの器官を複製する事ができるらしい。
だが、それ以外に異形型であることを踏まえても随分体を鍛え込んでいると見える。
フィジカル面である程度信頼性のある索敵要因。
上手くハマれば轟の高出力な個性で勝負を決められるだろう。
どんなコンビネーションで攻めていくかとディスプレイを見る。
しかし、俺の想像に反して轟の行動は真逆とも言えるものだった。
「うわっ、そっちかぁ。そこは初めての戦闘訓練なんだからペアのクラスメイト以外にもヴィラン役のクラスメイトの個性把握や性格の把握のためにも一戦交えるべきだと思うんだけどなぁ。てか、そういや八百万って――」
これから起こることを想像すると自然と苦笑いが出てきたが、その結果この部屋がどうなるかを考えると隣に立つ前進の半分以上どころか三分の二は肌が露出しているであろうクラスメイトに気が行った。
「八百万」
「はい、何でしょう四ツ神さん。どうかしましたの?」
「あくまで保険なんだけどさ、これ羽織っといてくれ」
そう言いながら手渡すのは俺が今回使わずに地下室に置いて行った外套だ。
この授業で行うのは室内での遭遇戦または制圧戦になると判断して置いていった。
まぁ、あくまで予想だが俺のそれが当たっていた場合はこの地下室は冷蔵庫よろしくひんやりガクブル空間へと変わる可能異性がある。
その状態でこんな薄着では間違いなく凍えることになるだろう。
「意図があまり読めませんが、とりあえずこれをお借りすれば良いんですのね」
「そうだ。とりあえず俺の杞憂で済めば良いんだけど、最悪八百万が凍えることになりそうでな……」
「こごえ――もしかして轟さんの戦略に何か思い当たることが?」
「端的に言ってしまうとそうなる。っと、そう言ってる間にも来そうだなこりゃ」
ディスプレイには右手を壁に付きながらもう一人のヒーロー役である障子を建物の外に出す轟。
ここまでくれば大体俺の予想通りで確定だ。
轟の手が少しだけ力んだように見えた次の瞬間、震えるような冷気が室内を包み込んだ。
画面上では建物がカチコチに凍りついている。
「ッ!な、なんて威力……。四ツ神さんのコートを借りてそれでもこの寒さということは、先程までの状態ではどうなっていたかわかりませんわね。助かりましたわ、四ツ神さん」
「おうよ。よーし皆、轟ほどじゃないけど俺も暖房になれるから寒いやつはこっち集まれー」
ほとんど全員震えながら体を擦っていたので一声掛けると、一斉にガチガチと歯を震わせながら振り向いた。
いや、オールマイト先生は自前の筋肉でなんとかしてください。
「朱雀」
ボッ!と炎とともに現れる朱雀。
この黄色い憎たらしい毛玉に対して主に女子からの視線が熱い。
「ひよこー!」とこのふてぶてしいもこもこ感に見とれているようだ。
あ?自分の出番はしばらくないんじゃなかったのかって?
うっせ、おとなしく暖房器具になれ。
「おりゃっ」
右掌に座ってうざい顔をしていた朱雀をぐちゃっと握りつぶす。
潰れる瞬間聞き慣れた「ぴげぇっ」という呻き声が聞こえた気がするが、これで掌そのものに炎が灯る。
ボウッと音を立てて炎が仄暗い地下室に揺らめいた。
「おーし、これでいいな。寒い奴こっちきてあったま――皆どうした」
炎を灯してクラスメイト達に視線を戻すとなんだか皆様子がおかしい。
こっちを見ていた全員が明らかにさっき以上に顔を青くして震えていた。
さっきから確かに寒そうではあったがこれはあまりにも異常ではないだろうか。
大丈夫か、と声を掛けようとしたところでお茶子が先に口を開く。
「ひ……」
「ひ??」
「ひ、ひよこが……」
あー、なるほど。
何で皆がこんなに青ざめているのかが分かった。
俺は自分の個性で昔から見慣れているが、どうやら幼気なひよこが握りつぶされるというのは思ったよりショッキングな光景だったらしい。
であれば朱雀は別に死んだわけではなく普通にまた出てくると教えたほうが良いな。
余計な誤解はさっさと解くに限る。
「あいつは皆のために焚き火の燃料に成ったんだ。悔いは……無いさ」
「「「「「ひよこぉぉぉぉお!!!!!!」」」」」
その後やりすぎだと轟を叱ったり、オールマイトからの全体への講評があったりしたが、何事もなく戦闘訓練は終わった。
ちなみにちゃんと朱雀の誤解も解いておいた。
皆の反応が思いの外面白かったのでまた今度やろうと思う。