ホンジツハセイテンナリ。
車内に響くエンジン音とクラスメイト達の笑い声。
小刻みに揺れる窓に後頭部を押し付けて半ば寝落ちた状態でぼうっと空を見上げた。
俺たちは現在雄英高校の広大な敷地をバスに乗って移動している。
校内の施設に授業で行くのにバスを使う時点で大分おかしいと思うが、徐々に感覚が毒されてきているのか俺を含めて全員特に何も違和感を覚えずバスに乗り込んでいた。
雄英高校、恐るべし。
ちなみに一人だけバスに乗る前に敷地の事とは無関係の所で騒いでいる奴がいた。
昨日マスコミが敷地内に侵入し、一時騒然となった事件の解決に一役買った飯田だ。
何やらバスへ俺達を効率的に詰め込むために列を作って待てとか何とか言っていた気がする。
結局飯田の言うことを聞きたくない爆豪が癇癪を起こして飯田と言い合っている所へバスが到着し、二列縦に座席が並んでいないことに気がついた飯田は酷く落ち込んでいた。
ドンマイ、飯田。
俺もてっきり普通のマイクロバス的な車両が来るもんだと思ってたから両サイドに座席がついてて中央がこんなに開けてるとは思わなかった。
飯田よ。
その心意気は良かったと思うが、基本お前空回るんだから学習したほうが良いんじゃないか。
そんなバスの中では前回のヒーロー基礎学で行われた屋内戦闘訓練を元に、クラスメイト達が個性について話に花を咲かせていた。
「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな!」
「あと、四ツ神くんの個性も動物可愛いよね!」
「――んあ?」
お茶子の声で半分夢の中に落ちかけていた意識が現実へと浮上する。
どうやら俺の方に話が回って来たようだ。
「あっ!ごめん、寝てた?」
「いや、むしろもうそろ着くだろうし起こしてくれて助かった。それで、俺の個性の話だっけ?」
「そうそう。四ツ神くんの個性、朱雀ちゃんと白虎ちゃんだっけ。どっちももふもふそうで羨ましいなーって。四ツ神くんの個性って他にも動物出せるん?」
「あと二匹だな。
「ぐちゃ……」
前回のモニタールームでのひよこ惨殺事件を思い出したのだろうか。
お茶子を含めて数名がうっすらと涙目だ。
別に死んでないからね?
今からでも出そうと思えば出せるからね?
いや、消耗したくないから出さないけど。
「四ツ神君の個性はその……あれをやらないと発動できないのかな?それ以外の方法で発動させるとかさ。あの方法はちょっと、モラル的にまずいような……ははは」
力なく苦笑いを浮かべる緑谷だが、その指摘は俺のこの頃の考えに近いものだった。
「それなんだよ。俺がアレをやるのはあくまでイメージ付けだ。アレをすると潰れた場所、というか潰した場所にエネルギーの通り道が知覚出来るような感じになるんだ。なんというか、今まで極度に圧縮されてた管が一気に開くみたいなのをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない。でもそれはあくまで通り道。エネルギーの源はどこかと言えば体の中心ある心臓だ。俺の力は心臓から流れてきている。なら、きっとやりようによっては限定的な一箇所だけでなく他の場所にも個性を発動させられるはずだし、それができればきっとぐちゃっとしなくても自分の意思だけで個性を発動できるように成るはずなんだ」
体の中心から引かれた個性のエネルギーを通すパス。
それらは水道管のごとく俺の全身に張り巡らされている。
後は蛇口を新設さえ出来れば手だけでなく足や背中からでも個性を出せるようになる、と思う。
「俺はこの学校に入って個性についてちょくちょく思うことがあるんだが、みんなは『
「そりゃあ、それは――使いまくれば筋肉みたいに強くなってくって話じゃねぇのか?中学でも授業でそう習ったしよ」
腕に力こぶを使って見せる切島。
そう、俺達はこの世界共通の認識として個性の説明は筋繊維を例として学んだ。
きっと個性を研究したどっかの偉い学者がそう学会で発表したからそれが通説になったとかそんなとこだろう。
だが、俺は個性というものはそんな枠に収まらないと考えている。
「確かに鍛えるって意味ではそれで合ってるかもしれない。けど、その考え方のせいで俺達は勝手に自分の個性の限界を決めつけてると俺は思うんだ」
「それはつまり……どういうことだ?」
お前の言いたいことは結局なんなのか、と言いたげな顔で俺を見る上鳴。
もうちょっと自分で考えろよ。
そんなんだと中間テストで泣きを見るぞ。
雰囲気的に頭あんま良く無さそうだしな。
俺が言うのも何だけどもうちょっと自分で物事考えたほうが良いと思う。
尚数学はこの対象に当てはまらない。
「なぁ八百万。お前、俺が個性で空を飛べると思うか?出力云々やアイテムは特に制限無しだが気球なんかの乗り物は駄目だって条件でだ」
「空を飛ぶ、ですか。それに滑空が含まれるかどうかわかりませんが、特殊なムササビスーツ等を使わずに個性での飛行を含めないとなると、些か厳しいのでは無いでしょうか。現時点で私が見た能力に限りますが、四ツ神さんの個性には飛行と呼べる動きを出来るものは無いようですし」
八百万の意見に皆が頷く。
普通に考えればそりゃそうだ。
俺は鳥系の異形型でもなければ飯田のようにエンジンも付いて無い。
だが、俺の見解は違う。
「俺は飛べると思うぞ。俺は俺自身が飛べるようになると確信している」
俺がニヤッと口端を上げてみせると、八百万はムッとした顔で視線を寄越す。
ならば説明してみせろ、とでも言いたげだ。
良いとも。
俺のとっておきの持論をぶち撒けてやる。
まぁ、そんな大したもんじゃないんだけど……。
「俺の個性は四神に纏わる力を使えるって言ったろ。その中でも朱雀は不死鳥だ。鳥なんだから、そりゃ飛べんだろう」
「そ、それはちょっと暴論なんじゃ……」
「そんな事無いさ。確かに俺が今言ったことは大分無茶だったとは思うが、俺が飛べるように絶対ならないっていう証明は出来るか?」
「それは、そもそも四ツ神君の個性の仕組みが分からないと……」
「そうだな。いや、意地悪な言い方して悪かったよ緑谷。けどな、つまりそういうことなんだ」
「だからどういうことだよ!?」
上鳴が痺れを切らしたように声を上げる。
流石にこれ以上引っ張るのはしつこいか。
それじゃあそろそろ施設にも着く頃だろうし、この小話も終わりにしよう。
「詰まる所、個性なんて曖昧なものは自分自身の強烈な思い込み次第でどうとでもなると俺は思ってる。皆身体機能って言葉のせいでガキの頃考えたような突拍子もない発想が制限されてないか?個性を考える上で重要なのはやっぱり想像力、イメージだと俺は思うんだよ。屋内戦闘訓練の反省会の時、切島は自分の個性を地味だって言ってたよな」
「え?あ、おう」
「その理由は何だ?」
「そりゃあおめぇ、俺の個性は固くなるだけだぞ?爆豪みたいに爆発もしなけりゃ轟みたく凍ったりも出来ねぇからな」
「固くなるだけ、本当にそうか?」
「え?」
「お前の個性は本当に固くなるだけなのか?固くるを極限まで突き詰めた後にはどうなる?少なくとも前回の戦闘訓練では形状の変化が見られた。更に突き詰めれば鎧みたいな形状変化も出来るようになるかもしれない。それに、その硬化の能力を別のものに移すことさえできればお前の出来ることは爆発的に増える。物質の強度向上なら戦闘だけじゃなくい救助にもつかえるだろ」
「で、でも、今までそんな事できた試しねぇし……」
俺の言葉に困惑し始める切島。
だが、その困惑こそが自分自身の個性と向き合う上で重要になるんだと思う。
ぶっちゃけ俺も高校入って初めて個性同士での殴り合いや詳しい個性学の授業を経てふと思ったことだから自分自身の個性と真剣に向き合ったことなんてまだ碌に無いし、完全に机上の空論でしか無いんだけども。
何だ、俺説得力皆無かよ。
「一番始めに出来たことを今の世の中は個性として登録している。だが、だからといってそれ以外が出来ないなんて道理はないんじゃないか?今の個性の使い方がエネルギーの最高効率での運用だとは限らないだろ。自分以外の個性についてよく見ているってのはこないだの戦闘訓練で分かった。それが興味本位であれ、ライバルへの対抗意識であれ良いことだと俺も思う。特に緑谷なんてそうだな。お前はヒーローやその個性の活用法についてノートに纏めてるってい言ってたろ」
「う、うん!昔から好きでたくさん書いてたから今でも習慣になってるって感じかな」
「活用方法を考えられるってことはその対抗手段も考えられるはずだ。それは今後この学校で生き抜いていく上で必ず重要になるだろう。けど、その前に。他人の個性をよく研究するのも大事だが、それと一緒に自分自身の個性と向き合うことも重要なはずだ。少なくとも俺はそれが自分の個性を一歩先へ踏み出させる鍵になると思ってる。取り敢えず今の話を極端にまとめると『自分自身の個性を疑え』って感じだな。自分の個性の可能性を諦めちまう前に色々試してからでも遅くねぇんじゃねーのって感じ。まぁ、この話が皆のこれからに役立てばいいかなーとほんのり思ってお話を終わりたいと、思い、ます。ていうかあの、今気づいたけど皆目怖くね……?」
今まで話すのに夢中で気が付かなかったけどバス内の視線がほとんど俺に集まってる。
くだらない持論をそれとなくバスが目的地に着くまで暇つぶしになれば程度に話したはずだったんだが………どうしてこうなった。
皆が俺の方を見たまま動かない中、一番に喋りだしたのは緑谷だった。
「そうか、そうだよ!初めに出来たことを極めようとするのも一つの答えだけど、それ以外を模索することだって間違いじゃない。それもサブじゃなくてメインの出来ることを広げたり全く別の事にするっていうのも可能性としては全然ありだ。むしろ場合によってはその方がいい場合だってある。僕の体を壊しちゃうデメリットだって力をコントロールするってことばかり今まで考えていたけど、別の方法だって絶対に無いわけじゃないはずだ。それに…………」
「お、おい緑谷!しっかりしろ!帰ってこい!」
「はっ!ご、ごめん、四ツ神君の話がすごく興味深かったからつい」
「そ、そうか、ちょっと照れくさいけどそう言ってもらえると俺も嬉しいな」
すると緑谷を皮切りにバスの中で確かにそうかもしれないという声が上がり始め、それなら俺の個性だとこうじゃないかと各々付近の席に座る生徒同士で話し合いが始まる。
A組はこうやって自主的に話し合いが出来る連中が集まってるクラスだ。
これから先きっと此処に居るみんなは確実に実力を伸ばしていくだろう。
って、俺もその一員だから頑張らないとか。
取り敢えず、目の前に迫ってる救助訓練頑張ろうかね。
「おいお前ら、いい加減にしとけ。そろそろ目的地に到着する。それと今日の宿題として救助訓練のレポートと自分の個性についてレポートを纏めてこい。今個性の活用について話題に上がってたから丁度いいだろ。詳細は授業が終わって教室に戻ってから連絡する。よし、着いたぞ。気合い入れていけよ」
うわっ、宿題出んのかよ……。
まぁ、いい機会だし下手に数学のプリントとかぶち込まれるよりは幾分マシか。
そうして俺達を乗せたバスは巨大なドーム状の施設に到着する。
個性の話が盛り上がった直後だけに皆やる気満々だ。
キャラに合わず俺も少しだけワクワクしていた。
これから此処で、何が起こるかも知らずに。
広々としたドームの中には様々な災害現場が再現されているらしい。
名前は嘘の事故と災害ルーム。
略してUSJだそうだ。
これ、権利的に大丈夫なんだろうか。
大変グレーな香りがする。
俺達を出迎えてくれた十三号先生の増えるお小言にみんなで感動し、さてそれじゃあ災害救助というタイミングでそれは姿を表した。
ドームの中心部にある広場に黒い靄が渦を巻き、その中から物々しい雰囲気の奴らが続々と出てくる。
それを見た相澤先生が俺達に激を飛ばした。
「一塊になって動くな!!」
いきなり雰囲気の変わった相澤先生に動揺する俺達を置いて、事態は進行していく。
「あれは……ヴィランだ」
ドーム上部にぐるりと設置されたライトの明かりが落とされ、周囲は薄暗くなる。
急にヴィランと聞かされてみんなその場に固まったままだ。
何がどうなってる。一体これからどうするんだ、どうすいれば良いんだ。
あまりに唐突過ぎてこの場にいる生徒全員頭の中は混乱状態。
ただどうすることもなく、呆然と増え続けるヴィラン達を見るだけ。
つい最近まで普通の中学生だったのだから、この異常事態に戸惑うのは当然だ。
しかし、緊急事態にはその一瞬が命取りになる。
そんな恐ろしい事態の最中、俺はふと胸の中にナニカの暖かさを感じた。
まるで個性を使ったときのような熱。
すると今まで散漫としていた頭の中がすっと冷めていった。
強制的に冷静な状態へと意識が引き戻されるような不思議な感覚。
つい先程まで早鐘を打っていた心臓は静まり、困惑や衝撃、恐怖に埋め尽くされていた頭の中は脳みその蓋を開けてそのまま中身をダストシュートに放り投げたと言っても過言ではないほどに軽くなった。
感覚的に通常ではありえない感情の変化だというのはすぐに理解できた。
これも、俺の個性なんだろうか。
こんな異様な現象個性ぐらいしかパッと可能性を思いつくことが出来ないけど、俺の個性にそんな効果あったか?
さっき可能性は無限大的なこと言ったばっかだが、これはどこがどう繋がってんだ……。
いざという時に冷静になれる個性とか重要そうだけどイマイチパッとしない個性ベスト3くらいに入ってそうな効果なんだが……。
まあ良いや、考えるのは後だ。
今はよく分かんないけどラッキーだと思っておけばいいさ。
もしこれが敵の精神汚染で俺が冷静になったつもりなだけだったら俺詰んだわ。
思考が冷めきっているせいか、普段より幾分か投げやりになりながら周りを見回す。
未だ俺以外の生徒はこの異様な状況に呑まれたままだ。
俺の話を聞いてもらうには、一度こっちを向いてもらいたい。
いっぺんヴィランから意識をそらして現状何をどうするべきか把握してもらわないと始まらないな。
向こうに意識持ったままだとどっかの爆発小僧とか徹底抗戦だゴラァ!とか言い出しそうだし。
全員に聞こえるように強く手のひらを打ち合わせる。
パチィン!と乾いた音が周囲に響いた。
くっそ、思ったより痛てぇ……。
「全員注目!!」
自分の意識していなかった方向から大きな音と声が飛んでくれば人間誰だって驚く。
俺の思惑通り皆の視線が俺に集まった。
さっき俺が一人で自分の中の謎と格闘している間妨害電波がどうこうみたいな話を誰かしてた気がする。
気の所為だったらごめん。
取り敢えず出来ることは全部試しておいた方が良いか。
なら――
「上鳴、お前の耳についてるそれで校舎に連絡試せるか」
「へっ!?あ、お、おう!」
「相澤先生!俺達は避難で良いですか」
「ああ、それでいい。十三号、生徒を任せた」
相澤先生の言葉に十三号先生は頷く。
よっしゃ、それじゃあ急いで避難開始だ。
飛行系の個性持ちが相澤先生の頭の上を飛び越えてこないとも限らない。
「十三号先生、避難開始しましょう。委員長を先頭に二列縦隊でいいですか」
「お願いします。僕は階段側を見張ります。生徒達への指示は君に任せました」
「分かりました。全員今すぐ二列縦隊に並べオラァ!飯田!」
「な、何だ四ツ神君!?」
「お前を先頭に外に出るぞ委員長。相澤先生が下を抑えて俺達の後ろは十三号先生が見てる。あの靄がワープ系の個性だとしたらこっちに来る前になんとか外に避難しねーと不味いだろ。手早く行こう」
「こんな時でもここまで冷静だとは……。感服したぞ、四ツ神君」
「そりゃどうも。ほら、行くぞ」
「ああ!先頭は任せてくれ!皆、避難を開始する!俺の後ろについて来てくれ!」
「指図すんなクソメガネ!」
目を吊り上げて反論するも流れに乗ってちゃんと二列に並んでくれてる爆豪マジツンデレ。
需要はあまり無い。
轟は――よし、あいつもちゃんと並べてるな。
いい子だ轟!俺はお前をやればできる子だと知っていたぞ!
このクラスにおける集団行動が苦手な二人があぶれていない事を確認して俺自身も飯田のすぐ後に付く。
「十三号先生!出発します!」
「分かりました!行ってください!」
階段前に居る十三号先生に声を掛けるが、やはりこのまま俺達の後をカバーするポジションを続行するようだ。
俺達が逃げ切れば相澤先生も取れる選択肢が増える。
さっさとバスまで戻らなくては。
決してさっさとこの場から逃げ延びたいわけではない。
う、嘘じゃないよ?
「させませんよ」
聞き覚えのない声と共に目の前に黒い靄が現れる。
ユラユラと特殊な異形系と思われる体を蠢かせ、鋭い眼光が光る。
このもやもやさっき下で見たな。
さてはコイツが出入り口か。
予想以上に早い。
何もないとこから出てきたが、ワープゲートとか言ってくれるなよ?
それもうどこに逃げても逃げ切れねぇじゃんか。
しかしながら俺達が逃げようとしたのを阻みに来る所を見ると俺達が外に出るのは不都合があると見た。
しかしまぁ現状俺達と門の間に割って入られた以上どうにかしてコイツを退けないと外には出られなくなった。
見た目からして物理攻撃によるダメージはあんまし期待できない。
さて、どうしたもんか。
十三号先生のような個性で吸い上げてしまうのがこの手の異形型に対する最善手だと思うが、コイツはワープゲートだ。
十三号先生の個性は範囲の限定や威力調節が難しいように思える。
もしその力が十三号先生本人や他の生徒にワープでカウンターとして利用されたらと思うとゾっとするな。
何はともあれワープゲートのヴィランの胴体の横幅が尋常じゃない。
あれに少しでも触れたらアウトなパターンだったら全員戦闘を回避しての離脱は不可能だ。
なら、何が何でも飯田と上鳴を外に出して通信出来る距離まで走らせるのが現状のベストアンサーか。
「全員散開!固まってると一気に持っていかれるぞ!バラけて的を絞らせるな!」
俺が叫ぶと同時に全員が現状を理解してワープゲートを取り囲むように半円状になった。
つくづくこのクラスは優秀な連中が集まってる。
流石は300倍の倍率を乗り越えてきたエリート中のエリートってとこか。
上鳴とかただの阿呆なナンパクソ野郎だと思ってた。
すまん、上鳴。
罪悪感は一切ないが取り敢えず心中で気持ちの籠もってない謝罪しておく。
しかし、いくら優秀と言えども俺を含めて実戦経験があるやつは基本的にいないはずだ。
自分の体を操るセンス、そして能力。
それらがあるなら、後は俺が指示を出して判断力の代わりをしてやればまだなんとか犠牲を抑えられるか。
幸いなんか知らんけど今までの人生で経験したことがないくらい頭ん中スッキリしてるしな。
「おやおや、随分と頭の回る生徒がいるようですね。如何に雄英所属と言えど貴方方はまだ新入生。予想以上に行動が早いのでどういうことかと多少焦りましたが、先程の様子を見て理解しました。どうやら良きブレーンが居るようだ。しかし、それ故に残念です。この場に居る者全員、此処で死ぬのですから。ですが安心してください。皆さんが寂しがらないように平和の象徴も直ぐにそちらへ送りますので」
暗にオールマイトを殺すと言われ、生徒たちの間に動揺が走る。
しかし、その間にも十三号先生が俺達の前に出ようとする。
恐らく個性で靄を吸う気だ。
しかし、ワープゲートのヴィランは目と思われる光の部分をユラリと一度揺らすだけ。
あえて止めないところを見ると、やっぱり何らかの対抗手段が有ると見える。
というか俺自身が落ち着きすぎて気持ち悪くなってきた。
こういうのはもっとこう数学のテストとかで発揮してもらいたいんだが。
そしたら毎回毎回あんなひどい点数は取らないだろうに。
ちなみに勉強するという選択肢はない。
「皆さんどいてください!僕の個性で奴を――」
「駄目です。指先の発生源と別の何処かを繋がれたら先生自身や生徒の誰かが負傷する可能性があります。行動不可能なダメージを一人でも負えば現状の均衡が一気に崩れかねない。違うか?ワープゲート」
普段の俺のキャラじゃない高圧的な口調でワープゲートのヴィランに語りかける。
どっかの名探偵の犯人よろしく自分の手の内や動機を明かしてくれないだろうか。
見た目も結構似通ってて割と親戚っぽいし。
あっちが風邪ひいて収録出れない時に代役務めれる程度には似てる。
というか一応希望的観測の元発言してみたは良いものの、こんな見え見えの振りに答えてくれるだろうか。
「これは驚きましたね。まさかそこまで予測済みとは。恐れ入りました」
オイオイ……マジかよ。
言うんかい。
なんだ?お前ら悪役は手の内をバラさないと死んでしまう呪いにでもかかってんのか。
普通合っててもこの先戦闘が長引いて忘れた頃に決め手になる可能性が十分ある手札だったろ。
いや、実は意外と間抜けな天然キャラだったりするんだろうか。
いやーん!私ったらドジなんだから―!ってか。
このおどろおどろしい見た目で?
冗談は顔だけにして欲しい。
まぁ、ぶっちゃけどこが顔かイマイチ分かんないけども。
「飯田。スキを見て上鳴引きずって外に出てくれ。どこまでジャミングが届いてるか知らんが学校に繋がるまで走り続けろ」
すぐ横に居る飯田に小声で話しかけると、飯田がワープゲートに体を向けたまま顔だけ俺の方を見る。
「何を言ってるんだ!俺はこのクラスの委員長だぞ。皆を置いてはいけない!」
「飯田、これが現状のベストだと俺は思う。ワープゲートの範囲が予想以上に広い。あれの横を全員で通り抜けるのは無理だ。となれば俺が今言った方法が早く助けを呼べる可能性が一番ある。委員長、これはお前にしか出来ないことだ。俺達が全員で助かるために、頼む飯田」
「四ツ神君……。分かった、俺に任せてくれ」
よし、上手いこと飯田を焚き付けられたぞ。
見るからに信頼とかお前にしか出来ない雰囲気に弱そうとは思ってたが、ここまでとは思わなかった。
ヴィランが怖いからやりたくないとか無いんだろうか。
さすがヒーロー志望。
しかし、そのちょろさは今後もうちょっと考えたほうが良いと思うぞ飯田。
飯田との会話が終わると同時に両サイドにバラけていた切島と爆豪に視線を送る。
爆豪は舌打ち付きだったが、ふたりとも俺の言いたいことは伝わったらしく、先程より腰を少し落として突撃体制を取った。
そして悪役の呪いにかかったワープゲートのヴィランは律儀にもまだ動いていない。
冗談抜きにして本当に行動を起こそうとしない。
なんだ、何かを狙ってるのか?
物理無効でも爆豪のフルパワー爆風ならそれなりに靄は吹き飛ぶはずだ。
この隔離された場所で本来来るはずだったオールマイトを狙ってきたとも取れる発言から少なからずこっちの情報は漏れてると思ったほうが良い。
教師の情報は持ってるが生徒の情報は持ってない、とかか?
それにしても此処まで行動がないのは一体―――。
「さて、作戦会議は終わりましたか?それではそろそろ――」
「今だ!」
俺の合図とほぼ同時に爆豪と切島が飛びかかる。
躱すなりカウンターなり決めてくると考えていた俺の予測に反し、ワープゲートのヴィランは簡単に地面に叩き伏せられた。
「オールマイト以前に俺達にやられることは考えてなかったのか!?」
「危ない危ない……これも貴方の手引きですか?まったく、この統率力と言い判断力と言い、死柄木弔にも少しは見習ってほしいものですね。しかし残念なことに貴方はそちら側だ。それでは、散らして嬲り殺しにするとしましょう」
ワープゲートのヴィランの体が一気に膨れ上がる。
急速に増幅した黒い靄。
それは分厚く折り重なり、最早黒い膜となって俺達に襲いかかる。
一瞬で周囲を囲まれてしまい、皆良くて近くの誰かを黒い膜の外に突き飛ばすのがせいぜいだ。
俺としても完全に予想外のサイズだった。
此処までサイズを拡大できる異形型の個性は産まれて初めて見た。
この分だとこの場の殆どがどこかに飛ばされるだろう。
高所や宇宙空間じゃないことを祈る。
それにしてもこの靄、神経は少なからず通っているんだろうか。
痛覚があるなら炎の熱さに怯むかもしれない。
完全にダメ元だが、やらないよりはやったほうが良いな。
「朱雀!」
ゴウッ!と普段より勢いよく噴き出す炎と共に現れた朱雀を間髪入れずに握りつぶし、手に灯った炎を周囲の靄に向かって振り回す。
すると炎を避ける用意に俺の周囲の靄が晴れた。
おお、予想外のラッキーだ。
「下がれ飯田!」
俺の声にはっとしたように閉じかけていた膜の外へバックステップで退避する飯田。
気分はさながらポケモントレーナーだ。
そして直様その僅かな穴も塞がる。
黒い靄がこの膜内に溢れているせいで何も見えないが、他に人の気配は感じられない。
他のクラスメイトはもう皆どこかへ飛ばされたんだろうか。
炎の灯った右手を前に構え、左腕で吹き荒れる靄から顔を守る。
炎を振り回しても先程のように霧は晴れない。
どこかぶつけるタイミングやポイントが有るんだろうか。
「これが俗に言う万事休すか。いや、ホントこれ詰んだな」
他人事のように口から出てくる言葉に自分自身で若干引いていると、目の前にあのヴィランの目のような怪しい光が現れる。
「その気色が悪い炎。一瞬悪寒がしてたじろいでしまいましたが、やはり貴方は色々な意味で危険過ぎる。頭脳も、その謎の力も。きっとあの方も貴方の話を聞けば興味を抱かれるでしょう。ですが、貴方には確実に此処で死んでいただきます。それではさようなら」
気色悪いとかちょっと言いすぎじゃないか。
俺こう見えても割と傷つきやすいんだぞ。
そんな俺の心の訴えは伝わらず、強まる風に顔を歪めることしか出来ない。
そして俺はそのまま真っ黒なワープゲートに吸い込まれていった。