津島善子に贈ります。

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13回目。13日の金曜日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月13日 晴れ

 

 7月13日は君の誕生日。2週間前にディナーに誘ったら快諾してくれた。僕はずっと君のことが好きで、ディナーが終わったら夜景の見える丘で告白するつもりでいた。君はOKしてくれて、晴れて僕達は恋人同士になった。

 こんなありきたりな告白方法だけど、君は笑わずに真剣に僕の話を聞いてくれた。むしろなぜか泣いて、僕の手を握ってくれた。

 とっても緊張した……。

 

 

 

 8月13日 晴れ

 

 今日は待ちに待った初デート。告白した日の食事ももしかしたらデートになるのかもしれないけど、これは恋人になって初めてのデートだから初デート。

 どこに行きたいかを君に聞くと、首都圏で毎年この時期に行われるオタクの祭典に行きたいとのこと。そういえば君はそういうのも好きだったね。

 

 もともと行くつもりで、今年は僕のことを誘おうとしていたみたいだ。そうやって僕を気にかけてくれるのは恋人としてとても嬉しいよ。

 あと、その会場で高校時代に仲の良かった先輩と会う約束もしているらしい。その人とも少しは仲良くなれればいいな。

 

 僕は、君のその自分の好きなことに真っ直ぐな姿勢に惹かれたんだ。

 

 今日は、僕が新たな扉を開くいいチャンスになるのかもしれない。 

 

 

 

 9月13日 雨

 

 気温も徐々に下がってきて、ピクニックにでも行こうか、と話していたのに、生憎の天気で外に出られなくなってしまった。

 仕方なく僕の家で、所謂お家デートと言うことになったが、君はずっと不機嫌なまま。

 

 それで互いにストレスが溜まってしまい、恋人になってから初めての喧嘩に発展した。

 なんとか宥めて、僕達は仲直りのキスをした。2ヵ月記念日にして初めてのキスだった。とっても恥ずかしかったし緊張した……。

 

 そのあとは2人で1つの傘に入って、近所のビデオショップに映画を借りに行き、2人で映画鑑賞をした。

 

 

 喧嘩になってしまったけど、すごく不機嫌になってしまうくらいピクニックを楽しみにしていてくれたということだと思う。恋人としてそれはとても嬉しいけど、その気持ちをすぐに分かってあげられなくてごめんね。

 

 

 

 10月13日 曇り

 

 今日は君が手料理を振舞ってあげる、と言って家に招待してくれた。実は初めて君の家にあがるから、ドキドキした。

 

 

 部屋の中は黒の調度品が多く、ところどころに白が取り入れられた、とても君らしい部屋だった。

 僕が来るから張り切って掃除した、と顔を赤らめながら話す君がとても愛おしくて、思わず抱きしめてしまった。今思えば、あの時の僕はおかしかったんじゃないかな。

 

 肝心の手料理はとても美味しかった。でも、"堕天使の泪"と君が呼んでいたあの真っ黒いたこ焼きだけはどうしても食べられなかった。ごめんね。

 

 

 

 11月13日 晴れ

 

 だんだん寒くなり始めて、寒いのが苦手な君が僕にくっつく回数も増えてきた。嬉しいことには嬉しいけど、人前でそういうことは恥ずかしいからやめてね。

 4ヵ月記念日の今日は、街でショッピングに行きたいと君が言った。何か欲しいものでもあるのかな、と思ったら、ただ僕と一緒に歩きたいらしい。

 

 寒くなっていく時期でも、僕の心はさらに熱を帯びていく。

 

 

 

 12月13日 曇り

 

 約2週間後に控えたクリスマスのために、今日はプレゼントを買いに1人で街に出た。夜に君と待ち合わせしているから、タイムリミットもあるし、早めにプレゼントを決めてしまわないといけないと思っていたけど、夏に知り合った君の先輩から上手く聞き出して貰っていたおかげで、思いの外早くプレゼントが決まった。

 いいものを買えて嬉しくなっていた僕は多分、ニヤニヤしながら街を歩いていたことだと思う。

 

 喜んでくれるといいな。

 

 

 

 1月13日 雪

 

 年が明けてから初めて君に会った。年越しは君と一緒に迎えたはずなのに、とても久しぶりに感じた。

 恋人といる時の雪は特別な気持ちになれる、とどこかで聞いたことがあるけど、たしかにそうだと思う。1人で見る雪よりも、2人で見る雪は白くて、綺麗で、儚い。

 

 君がみかんが嫌いなことを知った。君の地元はみかんが名産なのに、それが食べられないなんてもったいない気がするけど、しょうがないよね。

 

 

 

 2月13日 雪

 

 うまく予定が合わなくて、君と一緒に過ごせない初めての記念日となってしまった。せっかく君が頑張って予定をずらしてくれたのに、僕が急遽仕事になってしまったからだ。

 

 その上残業になってしまい、家に帰れたのは夜9時過ぎ。それでも君に一言伝えたくて、僕は君に電話をした。

 だけど、君はすごく不機嫌で、言い争いのようになった状態で電話が終わってしまった。

 

 僕のせいで……ごめんね……。

 

 

 

 3月13日 曇り

 

 1か月前の軽い喧嘩は、翌日がバレンタインだったおかげですぐに仲直りできたけど、最近はすれ違うことが多くなってきた。

 

 会って楽しく過ごすこともできるけど、明らかに前よりも言い争いや、ストレスを溜めてしまう回数が増えている。

 僕がこんなだから、君にも迷惑をかけてしまうのかな。もっと僕がしっかりしていれば……。

 明日はホワイトデー。いつもありがとうの印をちゃんと渡せたらいいな。

 

 

 

 4月13日 雨

 

 最近は、前に知り合った桜の名を持つ先輩に相談に乗ってもらう回数も増えてきた。

 

 桜を見に行こう、という話になったが、雨のせいで早々に散ってしまった。

 桜は散り際が美しいと言われているけど、近頃の僕達の関係を考えると、なぜだかどうしてもそうは思えなかった。

 

 その矢先、君と今までで1番大きな喧嘩になってしまった。きっかけは些細なことだけど、積もりに積もった感情が爆発してしまったみたいだ。

 

 初めて「別れ」というフレーズが君から飛び出した。それだけは絶対に嫌だ、と僕は言った。

 君もそのフレーズを口にした途端、声が小さくなり、そして声を上げて泣き出してしまった。

 

 僕は謝り、君は僕に背を向けながらも許してくれた。ただでさえ小さいのに更に小さく見えたその肩が、細かく震えているのが目に入った。

 

 その後は、目を合わせられなかった。

 

 

 

 5月13日 晴れ

 

 あれ以来あまり連絡を取れていない。あまり会えてもいない。

 メッセージアプリでやり取りをしていても、どこか素っ気なく感じてしまう。それほどまでに前回の喧嘩の影響は大きいみたいだ。

 

 なんだか僕も、君の温もりが恋しいのに、心が離れていっているように感じる。

 

 

 

 会いたいのに……会いたくない。

 

 

 

 6月13日 雨

 

 連絡をしなくなってしまった。1ヶ月半も会っていない。可能ならば会いたくないのに、今君が何をしているのかが気になってしまう。

 

 今日はよく君が話してくれていた、高校時代の部活の先輩の誕生日パーティがあるそうだ。

 

 相談することもなくなってしまっていた桜の先輩に、今君が何をしているのか聞いた。突然の連絡だったのに、先輩はちゃんと返信をしてくれた。

 

 誕生日パーティは楽しんでいるみたいだけど、どこか寂しそうで、暗い表情をしているように見えた、とメッセージが来た。

 

 その暗い表情の原因が僕だったならば、不謹慎ではあるけど嬉しいんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月12日 木曜日 晴れ

 

 君の夢で目が覚めた。一年前の7月13日に告白した時の夢だった。今と違って僕達はとても幸せそうで、なんだか羨ましいな、と他人事のように感じてしまった。

 

 そして、変に意地を張ってしまうところも、素直じゃないところも全部好きで、すれ違ってしまう恋心も結局は君に向いているんだと気付かされた。

 

 メッセージアプリを起動して、君とのトークルームを開く。

 

 

 君との思い出の残滓が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 そして今日。

 

 7月13日 快晴

 

 突然会いたくなった、とだけメッセージを送り、いつも待ち合わせに使っていた場所で待つ。

 

 時間を伝え忘れていて来てくれるかどうか心配だったけど、僕とほぼ同時に君が来てくれて、それだけで僕は嬉しくなる。

 

 そして君を見て思う。やっぱり僕は君が大好きなんだと。

 

 また、去年と同じ場所でのディナーに誘う。

 多少の気まずさはあったものの、ある程度前みたいに話ができるようになった。

 

 食べ終わったところで、一年前と同じく夜景の見える丘に君を連れ出す。

 

 雲一つなく晴れている今日は、星が瞬く空が一面に望める。

 

 

 一年前に、そして昨日夢に見たのと同じ場所に君とまた来られたこと。それが僕の心に燻る君へ恋の火を炎へと変えた。

 

 

 

 ──夜景に見とれている、君の名前を呼ぶ。

 

 ──君に見とれている、僕が思いの丈を伝える。

 

 

 

 時の流れが止まったかのように思えるほどの"静寂"という"音"が辺りを満たした。

 

 吸い込まれそうになるようなその瞳を見つめ続ける。微かに震えるそれは、眼下に見える夜景や頭上に広がる夜空と同じように輝いて見えた。

 

 

 その輝きから、堰を切ったように光が溢れ出す。

 

 それが涙だと気付くのに時間はかからなかった。

 

 

 君は僕の手を握って、涙を流しながら笑顔になってくれた。

 それは下界のどの輝きよりも、夜空に瞬く星々よりも美しくて。

 

 壊れそうなその体を、そっと抱きしめる。君が確かに、ここにいる。

 

 それが、たまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 不吉な日とされる13日の金曜日。

 それは僕達にとって、どんな日よりも素晴らしい、とても幸運な日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 お読み頂き、ありがとうございました。

 
 お誕生日おめでとうございます!


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