アーマードコア3SLよりフォグシャドウ視点から描いた短編ストーリー。

制御不能となった衛星砲の内部で彼が見たものとは――?

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【霧の輪郭】

【霧の輪郭】

 

バトルアリーナに響く歓声。

 

大きな壁と扉が隔ててはいるが、一歩近づくごとにそれは大きく聞こえてくる。

 

地位、名誉、力、期待、様々な思いが渦巻くこの場所に来たのは別に初めてではない。

 

何度も通り、見慣れた筈の何気ない通路が今日は何処か物寂しく感じた。

 

専用の格納エレベーターから扉の前に機体を移動させる。

 

一歩踏み出せばもう戻れない、当たり前のように越えてきた一歩が今日はとても重く感じる。

 

幾多の危機は越えてきたが、どうやらその悪運も今日で終わりらしい 。

 

調子が悪い訳ではないが、今日俺は此処で負ける、そんな気がするんだ。

 

少しずつ開かれる扉から漏れる光。

 

それが機体に降りかかり、より一層影法師を濃く彩る。

 

歓声に導かれるように歩を進める、一歩、また一歩踏み出す毎に大きくなる歓声。

 

その期待すら今は心に響かない。

 

恐らくだが今日で最後になるだろう。

 

俺が鴉【レイヴン】として此処に立つことになるのは−−−

 

−−−−−−

 

暗い部屋で1人コンソール画面を見つめていた。

 

任務の前や暇な時は部屋を暗くして機体画面を弄るのが好きだった。

 

図面やパーツのカスタマイズ、細かな微調整を何時間もかけて行う。自分の命を預ける機体だからこそ入念な準備が必要だと俺は思っている。

 

時には1日では終わらず、何日もかけてから整備班に機体図面を提出することもあるし、時には自分自身で機体の整備もする事だってある。

整備班所属にならないか?なんて冗談を言われる始末だが、俺は純粋に機械いじりが好きだった。

 

父親がMT乗りで、子供の頃頼み込んで良く乗せてもらっていたのを覚えている。

MTの乗り方も整備の仕方もその時に教わったものだった。

初めは遊びのつもりで乗せた様だったが、どんどん乗りこなす様子を見て驚きを隠せなかった様だ。

 

5歳でMTに乗せてもらい、8歳で作業用MTなら何でも乗りこなせた。

 

それくらい機械に乗るのが楽しかったんだ。

 

いつの間にか画面を見ながらぼーっとしていた様で、思い出した様に隣に用意していたサンドウィッチと牛乳を手に取って食べ始める。

 

俺は携行食と牛乳の組み合わせが好きで、特に牛乳は毎日飲んでいる。

 

自分のオペレーターをしてくれているケイは牛乳と主食を合わせて食べるのが無理らしく、いつもその事で嫌そうなツッコミを入れてくる。

 

そんなにこの組み合わせが可笑しいんだろうか?

 

もぐもぐと食べ始めると同時に部屋の電気が付く。

 

「まーた暗くしてPCとにらめっこですかぁ?目が悪くなりますよ?」

 

「この方が集中出来るからな、あと何より落ち着くんだ」

 

部屋に入って来て早々冷蔵庫の中のケーキに気がつくと、ケイは上機嫌でコーヒーを入れ始める。

 

「げっ!?また牛乳ですか?ホント好きですね」

 

「出撃前は牛乳じゃないとダメなんだ、調子が狂うんだよ」

 

怪訝な顔をしながらコーヒーを啜り、美味しそうにケーキを頬張っている、誰もそのケーキを食べて良いとは一言も言ってないんだがな。

 

再び画面に目を戻し、今回の任務内容に目を通す。

 

一通り目を通した所で感じるものがあった、経験を通して俺の勘が違和感を告げている。

これは面倒な企業同士の小競り合いでは無い。

 

特務メール『衛生兵器破壊』、間違いなく只事では無い任務名だ。

 

ここの所、各企業はAIACの開発に躍起になっており、より優れた戦闘データの収集の為にやたらレイヴンに依頼を吹っかけているらしい。

勿論俺のところにもこの依頼は来たが、何度も断り続けていた。

 

その丹精込めて企業が造っていたAIが一斉に暴走し、企業や民間人にまで被害が出ている。

流石に各企業も此れは無視できる状況ではなく、大勢のレイヴンがこの鎮圧に駆り出されている訳だ。

 

「で、その最悪なパターンが衛生砲の暴走ですか」

 

早くもケーキを食べ終えたケイの顔つきが変わる。

 

地下世界の人間たちが地上に進出して数世紀経った後、地上で唯一人類が足を踏み入れることができない場所、ほんの一歩でもそこに踏み込めば即座に宇宙空間から攻撃を受け、企業やグローバルコーテックスの調査が全く進まないことから、そこはいつしか『サイレントライン』と呼ばれる領域となっている。

 

だが近年になり、その精密な網目を掻い潜るレイヴン達の活躍によって昔と比べると割りかし調査は進んでいるようだった。

 

因果関係は分からない、ただ調査が進むにつれてAI制御された要塞やACが暴走し、最悪な事に宇宙空間にあると言われている『衛生砲』がサイレントライン外の対象を攻撃し始めている。此れを単なる偶然と片付けるのは些か無理があるような気がした。

 

「ご丁寧に衛生砲の見取り図まで有るらしい、潜り込んで来たレイヴンは誰だ?中々やるじゃないか」

 

「各企業が複数のレイヴンを雇っての掃討作戦ですか、かなり本気ですね、報酬もそれなりですし」

 

ケイの目が完全に金の目になっていた、受けろと言わんばかりの目だ。

 

「……でも受けませんよね?アリーナで忙s…」

 

「いや、受ける」

 

ケイ言葉に被せるように言う。え?と言う驚きの顔と同時にまた目が金の目になっていた。全くこの女は守銭奴過ぎる。

 

「いや、でもどうしてですか?こう言う依頼普段なら受けないのに」

 

「少し引っかかることがあるんだ……あ、それとこの間アリーナでスクラップにしたACのレイヴンが弟子入り志願して来た件を話に来たんだろ?あれ断っておいてくれ、どうでも良い奴の指導なんて御免だ」

 

えー!?また私がぁ??と文句を垂れるのを尻目に、PCを離れてAC用のハンガーに階段を降りて向かう。

 

誰もいない静かなハンガー、暗い道を照らすように照明が付く。

 

脳裏に焼き付いたあるACの姿。

 

そのシルエットを思い出しながら、俺は一人牛乳をあおった。

 

−−−−−−−

 

[降下まで後5分だ、諸君、くれぐれもよろしく頼む]

 

ミラージュの指揮官から通信が切れると、各レイヴン達が降下準備を始める。

 

《一度は占拠したのにまた占拠に向かうのか?ミラージュはレイヴン遣いがなってないな》

 

ミラージュの共有無線が切れると同時にレイヴン・シューティングスターが早速悪態をつく。

 

《これだけのレイヴンを雇うんだ、マッピングされた地図もあるし楽な任務だと願いたいもんだね》

 

今回作戦に投入されるレイヴンは俺を含めて8人、単純に考えれば楽だろうが、相手はAIの完全制御化に落ちた衛生要塞と無人機の群れだ。

しかも衛生砲の占拠にミラージュはAI制御の大部隊を動員したらしく、それがごっそり敵のコントロール化に落ちてしまっているらしい。

間抜けな話だが、こっちが非常に苦労しそうな任務だ。

 

特に反撃らしい反撃も無く、宇宙船から各レイヴンが潜入ポイントに降下、スタンバイに入る。

 

おかしい、何か敵に誘い込まれている予感がしてならない、あっさり侵入出来すぎだ。

 

そんな俺の勘は5分後、物の見事に大当たりする事になる−−−。

 

−−−−−−

 

《こちらシューティングスター!!敵が多過ぎる!!誰か近くにいないか!?援護してくれよ!!》

 

〈こちらキラーホエール、凄い数の敵だ!〉

 

《ちッ、こちらブレイクショット、随分と派手な歓迎だな》

 

《こちらウォーターハザード!どうなってるのよこれ!?マッピングした地図と内部が変わってるじゃない!!》

 

衛生砲の中心部に向かっていた各レイヴンから阿鼻叫喚の無線が入り込む。

慌てるのも無理はない、内部構造が前と違うらしく、以前衛生砲に侵入して地図を作ってきたというレイヴンが悲鳴をあげている。

俺達は予め貰っていた地図を物の一分で破棄した。

 

 

《こちらシューティングスター!!!一体どうなってるんだよ!!中が地図と全然違うじゃねーかよ!!!》

 

《落ち着け、こちらローテーション・ヴァリードアームズだ、ロデオ、君の機体の頭部アンテナとレーダーから得た情報を俺たちに転送してくれ、共有して先に進もう》

 

《こちらロデオアディクション・アンルーリーです!了解!転送します!》

 

慌てふためくだけのレイヴンもいれば、的確に状況判断を下すレイヴンもいる。後者は流石と言ったところだ。

 

共有されたデータから衛生砲内の新地図が送られてくる、元のデータと照らし合わせると確かに構造が変わっていた、これでは迷うのも無理はない。

衛生砲内が広過ぎるせいか全体の見取り図は把握しきれないが、ロデオの高性能レーダーが無ければ今だに混乱していただろう。

 

小型のガードメカを蹴散らして扉を開けると、透明なパイプの様な通路に出る。

下を覗くと、パイプ内で戦闘しているレイヴンもいる様だ。

 

《そちらは大丈夫か?》

 

「こっちはまだ問題ない、データ共有すまないな、助かった」

 

《構わんよ、礼はロデオに言ってやってくれ、後はこの道が中心部に繋がってるかどうか祈るのみだ》

 

銃声と爆音が無線越しに伝わる。他人を気遣う余裕など無いはずなのに、ローテーションとは大したレイヴンだと分かる。

 

そして突入から20分、中心部に向かうにつれて攻撃が激しさを増した。

ミラージュの無人高級MTやキャノン砲の数が明らかに増え始めている。誘い込まれている様な感覚、やはり罠か?

 

「ゲートロック解除、前進する!」

 

それでも進むしか無い、衛生砲のエネルギー増幅器を破壊しない限り、地上への無差別攻撃が止むことは無いのだ。

 

警備の厳重な通路を突破すると、大きなトレーニングルームの様な部屋に出る。

後方の扉がロックされ、前方から現れる無人MTの群れ。

 

やはり罠だ。

 

撃ち出されるレーザーライフルの弾幕を躱し、無人MT・カイノスのコクピットにショットガンを叩き込む。

ぐらりと倒れこみ爆散するカイノスを別の無人機が踏み潰し、前進してくる。

 

AIに躊躇いなど無い、入力された指令を冷酷なまでに遂行する、敵に情などない分ある意味ではやり易い部類の相手だ。

 

突進してくるカイノスをいなし、背部を銃撃、続いてくる二機目のカイノスの懐に踏み込み、蹴り上げる。

たたらを踏んだところへ至近距離でショットガンを撃ち込み、轟沈させた。

 

「扉を開ける方法は無いのか!?オペレーター、情報を送ってくれ!」

 

『ゲートロックが暗号化されてます!もうちょっと待ってて下さい!』

 

二機、三機、四機と撃破するが、尚も現れる無人機。

 

《嘘よ…こんな…!》

 

《こちらアンルーリー!機体中破!撤退します!!》

 

《ダメか、ミサイル切れだ、まだ暴れ足りんが…撤退する》

 

ウォーターハザードの友軍反応が消失し、アンルーリーとブレイクショットが撤退を始める。

ウォーターハザードの音声を聞く限り、恐らくは助からないだろう。コクピットの緊急音とスパーク音混じりの無線、どうなったのか想像はしたく無い。

 

《こちらヴァリードアームズよりキラーホエールへ、もう退いた方が良い、その機体では任務続行は無理だ》

 

《すまない…キラーホエール、撤退します!》

 

《ここは向け持った、任せてくれ》

 

残るレイヴンは4人、半数が既にd…

 

《うわああああぁ!もうやってられるか!!キングフィッシャー撤退だ!!》

 

残るレイヴンは3人、流石に厳しくなってきたか?

 

《こちらヴァリードアームズ、ロックを解除した、中枢に突入する》

 

ローテーションが一足先に衛生砲の中枢区画へ進入したらしい、此方も急がねば。

 

「ケイ、急いでくれ!このまま嬲り殺しは御免だ!」

 

『今やってます!後少し……後少しなんです…』

 

天井に設置されている機銃から雨霰と弾丸が降りそそぐのを機体を小刻みに揺らしながら回避し続けるが、流石にそろそろもたなくなってくる。

 

《こち……ローテーショ……敵……A……!!》

 

ノイズ混じりの無線、先行したヴァリードアームズが何かと交戦している様に聞き取れた。

 

「ケイ!!」

 

『……よし!ロック解除!!前進して下さい!!」

 

前方の扉が押し上がる。押し寄せるカイノスの群れをいなし続け、ブースターを吹かせる。ACの腰ほどにまで開いた扉をスライディングする様に滑り走る。

尚も無人機部隊は追ってくるがOB(オーバードブースト)の推力で一気に突き放す。

 

セキュリティレベルSの扉、恐らく増幅器のある区画だ。

 

ロック解除コードを転送、意外にもすんなり開いた扉の先に聳え立つ複数の増幅器と駄々広い空間。

 

ACを前進させると、壁にうな垂れる様に佇むACが一機、所々の装甲が蜂の巣の様に穴だらけになっており、煙を上げている。

 

「こちらシルエット、ヴァリードアームズ、応答出来るか?」

 

無駄かも知れないが、応答を試みる。

 

《ザザザザーーーーッザザザザザザ》

 

ノイズだらけで応答は無い。

 

「………すまない、後は任せておいてくれ」

 

《ザザザザザザ……逃げ……》

 

微かに聞こえた応答に合わせてロッオンアラートが劈く。

咄嗟にブースターを吹かせ、機体を横に滑らせる。機体のあった空間を貫く様にレーザーの帯。

 

振り向く様にアイカメラは前方にいる何者かを捉える。

高所から着地する黒紫のAC、マシンガンにレーザーブレード、リニアカノンにレーザーキャノン、機体は全てミラージュ製の最新鋭パーツで構成されている。

 

シルエットとは対照的な赤いモノアイが此方を睨みつけている、こいつがミラージュ製御自慢の最新型AIACと言うわけか。

 

蜂の巣にされているヴァリードアームズを見るに、ローテーションを撃破したのはこいつで間違いない。

 

黒紫のACのマシンガンに弾丸が装填される音が聞こえる。

 

AIに躊躇いは無い。

 

弾丸が装填されるジャキン、という音を合図に二機のACは同時に踏み込んだ。

 

−−−−−−−−−

 

センスだけじゃあ一番になんて慣れっこねぇぞ?レイヴンだって一緒だ−−−。

 

どうして?機械の操縦なら誰にも負けないよ−−?

 

子供の頃、父と話した記憶が頭を過る。

 

機械ってのはいつか人を超えちまうもんさ、それに負けちまわないように頑張るんだぞ−−−。

 

迫り来るレーザーキャノンの弾丸。数度機体を横に揺さぶらせ、ステップを踏むように避けきる。

続け様に放たれるレーザーキャノン、精確な射撃だが見切れないものではない、難なく回避する。

 

大口径リニアカノンの砲身がせり上がり、再び此方を狙い撃つ。此方の武装がインファイト向きなのを見越してか、中距離〜遠距離の武装で対応してくる。

 

小手調べのつもりか、馬鹿にしてくれる。

 

「AIの癖に随分と慎重じゃないか、舐められたものだな」

 

背部に装備されたステルスミサイルのポッドが開き、黒紫のACをロックオン。

連続ロックされたステルスミサイルが二発、トリガーを引くと同時にポッドから放たれる。

 

山形の軌道を描き、高速で迫るミサイルが敵に突き刺さる。

完全ではないにせよ、コアなどの迎撃機能を掻い潜る用に設計されたミサイルだ、突き刺さったミサイルによって堪らず仰け反る黒紫のAC。

 

それによる僅かな硬直を見逃すわけがない、ブースターを吹かせて急速接近し、すれ違いざまに両腕のショットガンを叩き込む。

化学反応で熱を発する特殊なヒート弾を散弾にしたものだ。至近距離でもろに浴びれば容易く熱暴走を引き起こす威力を持っている。

 

放たれてくるマシンガンの弾幕を地面を蹴り上げて空中に回避、上空から散弾をシャワーの様に浴びせ、そのまま勢いに乗って黒紫のACを蹴り飛ばす。

 

横転した敵ACは蹴り上げられたコアから出火し、スパーク音を立てながら爆散した。

 

流石に弱すぎる、拍子抜けだ。

 

「敵AC撃破、任務を続行s…」

 

『まだです!十二時方向に敵AC反応!もう一機います!』

 

ケイの声で支持された方向に咄嗟に振り向くと、増幅器の上に陣取る様に先程と全く形状が同じ黒紫色のACがいた。

 

赤いモノアイが此方を見下ろしている。

 

《ランカーAC、フォグシャドウカクニン、モードヘンコウ19963、状況カイシ》

 

大口径リニアカノンがせり上がり始めるよりも早く、ステルスミサイルによる先手。

迫るミサイルをマシンガンの弾幕で叩き落とし、上空から猛禽類が飛びかかるが如く迫り来る黒紫のAC。

 

素早くショットガンへ武装を切り替え、迎撃。撃ちだされた散弾をブースターの姿勢移動だけでひらりと躱され、マシンガンを数発コアに叩き込まれる。

 

僅かに仰け反るが、直ぐ様反撃。

 

相手の着地後の硬直を狙い、トリガーに指をかけるが、黒紫のACから展開されるエネルギーEO(イクシード・オービット)による反撃を食らって後退、体勢を整える。

 

先程の同タイプのACとはまるで動きが違う、此方が本命といったところか?

 

《モードヘンコウナシ、アタックパターンα、ゾッコウ》

 

再度マシンガンによる追撃、ブレのない照準がAIの完成度の高さを物語っている様に感じる。

弾幕に紛れてのレーザーキャノン、光る砲身から迫る緑の帯をブースターを駆使して避けきる。

大きくフットペダルを踏み込む、弧を描くマシンガンの弾線を掻い潜って突撃し一気に懐に飛び込んだ。

 

黒紫のACの機体が僅かに左に傾く、視界左舷に回避するつもりだ。

読み通りに左に回避するACを追撃、ショットガンの散弾をコアの左脇腹に撃ち込む。

 

細かなヒート弾がコアに食い込み、熱で弾け飛ぶ黒紫の装甲、後退するACを畳み掛ける様にダブルバレルショットガンで銃撃。

 

更にもう一撃、その瞬間視界に光る赤い一閃。

 

まるで鞭の様に薙ぎ払われる一閃に左肩の装甲を斬りつけられる。

対エネルギー用コーティングパーツが限界まで損傷を軽減するも、装甲へのダメージは浅くはなかった。

 

「ちッ…」

 

ロングレンジレーザーブレード・ハルバード。斧槍の名を冠するだけにそのレンジは侮れない、しかも装甲のダメージを見る限り標準の物よりも威力がかなり上げられている様だ。

斬りつけられる反動を利用してロケット砲を放ちながら距離を取って仕切り直し、ロケットは敵を捉える事なく空を切っていった。

 

《コアソンショウ、モードヘンコウ19967、アタックパターンβ、状況カイシ》

 

先程の中距離から打って変わり、ブースターを爆発させながらの急接近。唸るレーザーブレードから放たれる赤い光波がシルエットを襲う。

 

地面を蹴り上げて上空へ回避する機体を待っていたかの様にマシンガンの銃口とEOが狙う。

咄嗟にOBのコマンドを叩き込み、メインブースターが弾ける。ほんのコンマ数秒遅れで機体のあった空間を弾丸が貫いた。

 

危うく蜂の巣だ、レーザーブレードをフェイクに使った戦術か。

 

慣性のまま機体を滑らせ、弧を描く様に接近。ロケット砲で地面を爆撃し、視界を遮る煙幕を張る。

爆煙を突き抜け迫る黒紫のAC、その左腕には既にハルバードの赤い刀身が形成されている。

 

単純な機械め。

 

「掛かったな」

 

爆煙に斬りかかるハルバードの刀身が捉えたのはシルエットの残像。

黒紫のACの死角頭上からギラリと狙う二つの銃口。

赤いモノアイが此方を捉える前に散弾のシャワーが黒紫の装甲に食い込む。

 

逃さん−−−。

 

二度三度仰け反る黒紫のACを更に追撃、上空から散弾による乱打を浴びせる。

 

《ガガガガガ−−−!!》

 

相当効いている様だ、このまま仕留め切る。

散弾のマグチェンジを待ち、両腕を売り上げた瞬間、後方に悪寒が走った。

 

『後方に熱源!!回避を!!』

 

ケイ声でサイドレバーを引き絞る。殆ど反射に近い行動だった。機体をわざと横転させる様にブースターを吹かせ地面に倒れこむ。

機体後部を掠る様に四本のレーザー光が抜けて行く。

 

何だ−−−!?

 

直ぐに機体を起こし、後退。機体の破損画面に左肩のエクステンションが破損したと警告が出ている。

単純に吹き飛んだというよりもドロドロに融解してしまっていた、相当のエネルギー出量でないとこうはならない筈だ。

 

「すまん、ケイ、助かった」

 

ケイの声が無かったら直撃を許していた。

 

『危なかった……遠方に敵!!ACです!!』

 

「まだ無人機が…?一体何機いるんだ…」

 

シルエットのアイカメラが捉えた先には何処から現れたのか、タンク型のACが居た。

白い塗装にデュアルレーザーライフル、月光、背部には大型のカルテットレーザーキャノンが装備されている。

先程は危うくアレに消し炭にされるところだった。

 

黒紫のACが白いACを守る様に立ち塞がる。

如何やらあの白い奴がAIACの親玉らしい。遠くから赤いモノアイが此方を睨みつけている様にも見える。

 

『そんな…二機も…作戦の放棄を提案します!その場から離脱して下さい!』

白いACが現れてから周囲の増幅器が作動し始める、厄介な事になってきた。

 

『衛生砲の増幅器がチャージを始めてる……あと10分程で地上へ砲撃が…!!もう間に合わないわ!そこから逃げて!!!』

 

ケイが叫ぶ、それも悪くないが、どうやら向こうがそうさせてはくれない様だ。

 

「もうここまで来たんだ、いつも通り最後まで付き合ってくれ、頼む」

 

「分かってます……でも、貴方をこんな所で死なせたくないんです、最後まで粘ります!!」

 

カタカタとキーボードを操作する音が聞こえる、部屋の後ろに聳えているシールドシャッターをハッキングでこじ開けようとしているらしい。ケイなりに希望を捨てたくないのだ、現に今日までしっかりオペレートしてくれて来た。

 

この任務を受ける前にもう腹はくくっている、レイヴンならこんな苦境なんて日常茶飯事だからだ。

 

二対一、まともにやり合えば無事では済まない、でも退けない理由が出来てしまった。

 

今視界に捉えている白いAC、俺は奴を知っている。

 

まだ幼い頃に見たたった一枚の写真のデータ、一目見て確信した。

 

あのACは俺の父を殺したACだ−−。

 

−−−−−−

 

「んじゃな、行ってくるぜ」

 

『次はいつ乗せてくれるの?』

 

作業用MTに乗り込んだ父をいつも決まった台詞で見送る。仕事の前には良く駄々を捏ねることが多かった。

 

「ちょっと荷物を運んでくる仕事だ、なぁに三日くらいで戻る、そしたらまた乗せてやるよ」

 

白い歯を見せて父が笑う、いつも笑って仕事に出て行く父が大好きだった。

仕事が終わったらMTに乗せてくれる、父はその約束を必ず守ってくれていたから。

 

いつもと変わらず手を振ってガレージからMTが出て行くのを見守っていた。

 

三日後経ったが父は帰って来ない。

 

とうとうその仕事から父が帰って来ることは無かった。

 

いつものガレージで父の作業仲間が何か叫んでいる。

 

グシャグシャになったMTが運ばれている、直ぐに父の物だと分かった瞬間に駆け出していた。

 

自分の目で確かめるまでどうしても信じたく無かったんだ。

 

駆け寄って来た俺を父の仲間達が止める。俺は泣き叫んだ。抜け出そうとする俺を皆んな力一杯抱きしめてくる。

 

どうして??どうして皆んな止めるの??

 

あの時の俺は悲しみのあまり理解が出来なかった、でも今なら父の仲間達の気持ちが痛い程分かる、どうしても会わせたくなかったんだろう。

 

コクピットにいる父はもう父と呼べるものでは無くなっていたからだ。

 

その数日後、父の仲間の一人が俺に今分かっている事を少しだけ教えてくれた。

 

父を襲ったのはどの企業のものか分からないAI制御の無人ACだという事、父は「サイレントライン」と言う場所の近くを通って荷物を運んでいたと言う事、そして父のMTの残骸から復元できたデータに一枚だけ写真が残っていた事。

 

渡された写真に写っていた白いAC。

 

俺は。

 

今までずっとこいつを探していたんだ。

 

−−−−−−−

 

夥しい数の実弾、光弾が交差する。

 

薙ぎ払うように迫るマシンガンの弾幕とハルバードの剣戟を掻い潜り、白いAC目掛けて突撃。

 

ブースターを引き絞り凄まじいスピードで白いACに接敵する。

 

軽率な行動だった、我を忘れていたのかもしれない。

 

白いAC右腕部のデュアルレーザーライフルが放たれ、装甲を削り飛ばされるも尚止まる事なく突き進む。

 

重鈍な動きのタンク型と侮っていた。槍の様に突き刺される月光の刀身が、シルエットの右肩を貫く。

 

コアから右肩にかけた装甲がバックリ焼き切られ、そのまま横転。間髪入れず襲うデュアルレーザーライフルの連続射撃は避け切ったが、右腕部の駆動部分を損傷、7割ほど稼働が落ち込んでいる。

 

直ぐ様機体を立て直し、被弾部分を冷却する様にコマンドを実行。タダでさえ威力の高い月光(ムーンライト)の斬撃を不用意に受けるミスを犯す。

 

迫り来るリニアカノンの弾丸、機体をスピンさせ寸前で回避。仕返す様にステルスミサイルで反撃、連動した右肩のエクステンションミサイルと共に黒紫のAC目掛けて乱射。

足に一発、コアに一発命中し、煙をあげる。

 

《…モードヘンコウ19968、アタックパターンγ、状況カイシ》

 

マシンガンとリニアカノンの弾速が上がる。

機体を左右に振るも被弾、マズルフラッシュから放たれるマシンガンが此方の装甲を吹き飛ばす。

リニアカノンの砲身がせり上がり、砲撃。

明後日の方向に撃ち込んだリニア弾が壁を跳弾し左足に被弾を許す。

 

曲撃ちまでやって来るのか、と感心している場合では無い。突き迫る月光の光波、機体を捻って何とか避けきる。

 

バイザーから漏れる息で今自分が息を切らしているのが分かった。反撃に転じようにもAI独自の連携網でまともに攻撃すら出来なくなっている。

 

「くッ……!!」

 

休む間も無く響くロックオンアラート、撃ち降ろされるカルテットレーザーキャノンが元いた地面をドロドロに吹き飛ばす。

 

ハルバードの斬撃、浅くコアを斬りつけられるも黒紫のACに至近距離で散弾を撃ち込む。

お互いによろけ、のけぞる様に後退。

 

〈コア損傷、AP50%、機体ダメージが増大しています〉

 

戦術コンピュータの声がコクピットに響く。

 

《ガガガ………モードヘンコウ19969、アタックパターンΣ、ハイジョカイシ》

 

黒紫のACのステルスディスペンサーが発動、機体を特殊な粒子で包み、此方のロックオンを狂わす代物だ。

 

もはやFCSが意味を成さず、ロケット砲での反撃を試みる。四、五発狙い撃つも容易く回避をされてしまう。

 

マシンガンに釘付けにされ、僅かに足の止まった所へデュアルレーザーライフルの直撃を許す。対エネルギーコーティングパーツが破損し、APが40%を下回る。

 

 

AIはいつか人間を裏切るかもしれねぇぞ–−−?

 

昔、父が言っていた言葉が頭を過る。

 

完璧な機械なんて無いんだ、それを造る人間が不完全である以上、完璧なんて無い。

それに、どれだけそれで強く成れようとも、俺は自分の努力以外で強くなろうとは思わない。

 

だから身体を機械にするつもりも無く、どれだけ高性能だろうとオペレーターをAIにするつもりも無い。

 

突き抜けるレーザーライフルの閃光。

 

突き抜けるマシンガンの弾幕。

 

 

だが、こいつらは強い。

 

 

此方が行なった行動を学習して数手先ですら潰しにかかって来る。

 

認めたくは無いが相当な強さだ、此れがAIACか。

 

衛生砲砲撃のカウントダウンが残り6分を切った。

 

せめて一機だけでも刺し違えることは出来る。このままじゃただ嬲り殺しにされるだけだ。

 

『え…何…?反対側からもハッキング…?もしかしたら行けるかもしれない!!』

 

覚悟を決めかけていた俺をケイの言葉が遮る。

 

僅かに開き始めたシールドシャッターから一機、ACが雪崩れ込んでくる。

 

何者かと一瞬警戒したが、同じくこの任務に参加していた最後の友軍機だった。

 

クレスト強襲型の青いAC、ここ最近アリーナを順調に勝ち上がって来ているレイヴンのACだ。所々装甲に生傷が目立っているのを見ると、此処に来て相当激しい戦闘をしてきたのだろう。

 

過去に共闘したことは無いものの、今の俺にとって天の助けに等しい存在だった。

 

二対二、此れでようやく対等の条件だ。

 

死にかけていたシルエットの青いモノアイに再び光が宿り始める。

 

余り愚図愚図している暇はない。

 

「衛生砲に繋がるエネルギー増幅器を全て破壊する!」

 

後残り五分。

 

「時間が無い……急ぐぞ!!」

 

−−−−−−−

 

交差する四機のAC、実弾、レーザー、ミサイル、ロケット弾が中枢部に雨霰と飛び交う。

爆煙に爆煙が重なり、広い空間に爆発音が響き渡る。

 

ハルバードの赤い光波が傍を掠め、増幅器へ命中するが損傷は無い。シールドの様な壁が貼られており、武器による攻撃を完全に防いでいる。

 

恐らく鍵はあの白いACが持っている、あいつを破壊するか、持っているコードを奪い取りでもしないとシールドは解除出来ないだろう…普通ならばだ。

 

『任せてください!AIの考えたコードなんてこじ開けてやります!』

 

帰ったらケーキを奢ってやらなくてはならなくなったな。

 

黒紫のACが再びステルスディスペンサーを展開、ロックオンを狂わす。

此方の散弾やロケット砲は虚しく空を切るだけで有効打にはならない。

 

攻めあぐねて居た俺の傍をメタルブルーのACが駆け抜けて行く。

 

黒紫のACへ向けてレーザーブレードを展開、鋭く懐へ踏み込み一閃。相手右肩のステルスディスペンサーを斬り飛ばした。

 

右腕部と肩を斬りつけられ、黒紫のACはギロリと青いACを睨み付ける。

 

各々が倒すべき相手を決めた様だ。

 

青いACのレイヴンの噂は少しだけ耳にはしていた。順調にアリーナを勝ち上がり、少し前には任務でAC三機を相手に撃破したらしい、その噂が本当ならば心強いが…。

 

デュアルレーザーが機体を掠める。

 

何れにせよこんな状況だ、あのレイヴンの実力を当てにするしか無い。

 

「そいつは君に任せる、頼むぞ」

 

ーー青いACから応答はない。

 

青いACはブースターから力強い炎を吹かせ黒紫のACへ向かっていく。

 

その行動が何よりの答えだった。

 

言葉が無くとも通じるものがある、同じレイヴン同士なら分かる筈だ。

 

シルエットの青いモノアイが白いACを捉え、睨み付ける。

 

奴だけは何としても俺が仕留める、いや、俺が仕留めなければならない。

 

シルエットのジェネレーターが駆動音を荒げながら再起動、機体全身にエネルギーを行き渡らせる。

 

一度深呼吸。

 

此れで準備は出来た。

 

ブースター口から青い炎が弾け、シルエットが加速。ステルスミサイルと連動ミサイルが放たれ、白線の尾を描きながら白いAC目掛けて肉薄する。

 

撃ち出されるデュアルレーザー、迫るミサイルを数発迎撃。

レーザーを掻い潜った一発のステルスミサイルが白いACのコアに突き刺さり爆発した。

重厚なタンク型だが実弾に対する耐性はそこまで高くない構成だ、勝機はある。

 

デュアルレーザーライフルの構えが解かれ、高エネルギー反応。

 

背部のカルテットキャノンだ、およそ3秒後に来る。

 

シルエットを横に加速させ、壁を蹴って飛び上がる。轟音と共に撃ち出された高威力レーザー砲は増幅器のシールドを貫通し破壊、増幅器が一つ大爆発を起こす。

 

守るべき場所を自ら破壊し、動揺でもするかと思ったが、相手はAIだ、そんなタマじゃない。

 

あのキャノンの再チャージまで5秒、もう完全に見切っている。

流石にアレだけ何発も撃たれれば間隔くらい誰にでも把握されてしまうものだ。

 

対空するシルエットを狙い、再び撃ち出される四本のレーザーキャノン。

OBが弾け、横方向に機体を突き動かす。レーザーキャノンは機体ギリギリを掠め、二つ目の増幅器に命中、また大爆発が起こる。

 

次で当てて来るつもりか、先程より照準が精確になっている。

 

だが。

 

触れることの出来ない速度には、どんな破壊力も通用しない。

 

シルエットのOBが弾ける。

 

音速の壁を越える速度で突撃、両腕のショットガンを振り上げダブルロックオン。

トリガーを引き絞り、撃ち出されたヒート弾に合わせるかの様に轟音が響く。

 

3発目のカルテットキャノン。機体を屈ませ、地面すれすれを平行移動する様に体勢を変える。

 

強大な熱量が背部のステルスミサイルポッドを直撃し蒸発。ミサイルを失うが滑り込む様に白いACへ迫る。

 

それに対し奴は撃ち終えたカルテットキャノンをパージし、キャタピラを巻き上げながら前進して来る。

 

精密なデュアルレーザーライフルの一発が右腕部に直撃し、出火。火花を散らしながら屈んだOBに無理が祟ったか、コンソール画面に機体各所の異常が示されている。

 

左腕のムーンライトが怪しく光る。至近距離まで近づけば奴は必ずあれを使って来る。

 

その時が勝機。

 

乱射されるレーザーライフルがシルエットの装甲を焼き焦がす。

 

あと少し。

 

ショルダーユニットのインサイドをアクティブモードにする様コマンドを叩き込む。

 

突き迫る蒼い月光の刃。

 

間髪入れず、インサイドのデコイ射出、有らん限りばら撒く。

 

精密なAIだからこそ騙される戦術。

 

読み通り一瞬だけデコイにFCS(火器制御システム)が反応し、デコイを突き刺す様に月光の一閃。

両腕のショットガンを振り上げ、すれ違い様に連続射撃、至近距離で放たれたヒート弾が白い装甲に食い込み弾け飛ぶ。

 

猛スピードで斜め上に飛翔、重力に逆らう様に壁に横向きで機体を張り付かせる。

 

一瞬の読み違いが勝負を分ける。白いACの頭上死角から一回転し機体を落とす。

 

「ぐぅッッッッッッ………!!」

 

凄まじいGが身体にのし掛かる。

 

ACの全体重を乗せた渾身の踵落とし。

白いACの頭部から脚部にかけて何百トン近い衝撃が駆け巡る。

 

コアのジェネレーターが破損したらしく、行き場のなくなったエネルギーが暴発。白いACを炎と爆発が襲う。

 

《ガ……ガガ………》

 

無論シルエットも無事ではない、振り下ろした機体右脚が完全に千切れ、勢い余って横倒しになる様に地面に叩きつけられる。

右脚は白いACのコアを割る様に突き刺さったままだ。

 

《ギギギ…ガガ…ガガ…ハイ…ジョ…フ…ノウ…》

 

 

「……少しは学習したか?…此れが鴉(レイヴン)だ」

 

僅かであろうとも、勝機を手繰り寄せ、生き残る。

 

それが、俺達の生きる世界の信条だ。

 

炎とスパーク音を立てて白いACが爆発する。幾らAIでももう動かないだろう、此れでまだ動くというならもうどうしようもない。

 

出火した右腕部の炎がコアに引火、シルエットの機体を包み始める。

 

脚部が完全に破損してしまっている以上もう立ち上がって逃げる事も出来ない。

 

でも不思議と悔いは無かった、父の仇を討ったからかも知れない。

 

コクピットまで炎が上がるまでそう長くは無いだろう、ここで俺は終わりだ。

 

あの青いACはどうなった?衛生砲は?

 

瞼が重い。

 

眠る様に、俺は気を失った。

 

–−−−−−−−−−−−

 

 

「もう10年も前の話になるのか、何だかあっという間だな」

 

『もうほんとあの時はどうなる事かと思いましたよ……』

 

牛乳と携行食を食べながら、輸送機のコクピットでの昔話。

ケイも相変わらず甘党なのは変わっていない。

 

俺が白いACを撃破し、気を失ったその後。

 

ケイが衛生砲の中枢コンピュータへのハッキングに成功し、エネルギー増幅器のシールドの解除に成功、それに呼応した青いACのレイヴンが増幅器を全て破壊し、衛生砲は完全に無力化されたらしい。

 

交戦していた黒紫のACはレイヴンのレーザーブレードに上半身を両断され破壊されたそうだ。

 

そして、俺はそのレイヴンに助け出された。

 

コアだけをワイヤーで引きずられ、そのまま青いACのレイヴンと共に基地内から脱出、俺は顔と身体の半分に大火傷を負ったが、再生手術で一命を取り留めた、と言うのがざっくりとした流れだ。

 

『彼が居なかったらと思うと、もう感謝しかありませんね』

 

「全くだ、本当に感謝してるよ」

 

その後、彼と再会したのはバトルアリーナでだった。

 

手加減したつもりは無かったんだが、俺はこれまでに無いくらい、嘘みたいにボロ負けした。

 

あのレイヴンは強い−–−。

彼なら、アリーナランク2位のゼロや1位のメビウスリングを倒せるかも知れない、そう思った。

 

現に彼はメビウスリングを下し、アリーナの頂点に立った。

 

ただ、その後の消息は分からなかった。

 

「一言、礼を言いたかったな」

 

『生きていればまたいつかひょっこり会えますって!あ、そろそろ作戦空域に着きますよ!』

 

そうかも知れない。

 

「さぁ、始めるか」

 

コクピットのコンソール開き、無線をオープンに切り替える。

 

「聞こえるか?ド新人共、作戦目標はこの区画を占拠している部隊の撃破、この任務を終えれば、お前達はレイヴンとして登録される」

 

俺は今、顔と名前を変えて今ここに居る。

 

「この任務に二度目は無い!必ず成功させる事だ!」

 

《了解です試験官!!やってやりますよ!!》

 

《早く終わらせて帰るわよ!此れでようやくレイヴンになれるわ!!》

 

《此れに生き残れば晴れてレイヴンだな!!》

 

まったく威勢のいいヒヨッ子ばかりだ、だがそれくらいじゃないとレイヴンは務まらん。

 

あれだけ嫌がっていた指導にも自然と熱が入ってしまう、人生とは本当に分からないものだ。

 

「口だけは達者だな、全機降下、作戦開始!生き残れ!!」

 

一機ずつACが降下して行く、もう、何機も見送ってきた。

 

新しくレイヴンになって行く奴らを見送るのが生き甲斐になってしまった、昔の自分が見たらなんて言うだろうか?

 

青いACのレイヴン。

 

君には本当に感謝している。

 

礼を言うことは叶ってないが、ケイの言った通り、いつか何処かで会いたいものだ。

 

君がひょっこり姿を現わしてまた噂になる日まで。

 

新たな時代の鴉達が一羽ずつ飛び立って行く姿を。

 

俺はここで。

 

ずっと、見上げているよ−–−。

 

ENDーー。

 




今さらですが投稿してみました。暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。


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