<お試し版>黄金騎士はモテモテです   作:春雷海

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ナイチンゲールの黄金騎士語り

私の患者は生前含めても数多くいました。

 

しかし、患者と関わった中で特にサイガは大きな病にかかっていました。

 

最初に彼と出会ったのは、私がまだ見習い看護師で孤児院の一室で住んでいた時――彼の眼は死んでいました。

 

いえ、比喩ではなく本当のことです。

 

彼の眼はまるで死んだ魚のように力のないもので、意志というものは何も感じ取れませんでした。

 

――当時の私は愚かで勉強不足のため、分からなかったのですが、彼は当時相当な精神的病気に掛かっていました。

 

聖女マルタの時代から私の時代まで戦ってきたというならば、彼の精神は殆どが限界に近かったのでしょう。

古代より近代まであのおぞましい悪魔たちと闘い続けた上に、忌々しいことに記憶を消していっては誰からも感謝されずに、存在しているのかどうか怪しい伝説の存在として祀られていくなんて……普通の人間でしたら耐えきれないでしょう。

 

司令官である貴方には多くの仲間がいて支えられています――特にあのデミサーヴァントであるマシュ・キリエライトに――ですが、彼には仲間がいなかった。ずっと孤独に戦ってきたのです。

 

当時の私は未熟で何をどうすればいいのか分からず、ただ怪我をして帰ってくる彼の傷を癒すだけでした。

何かしらの会話を投げかけても「あぁ」や「そうだね」と機械じかけのよう返答するだけ……あの頃の自分の無力さに絶望したことはありませんでした。

 

ですが、そんな彼を変える出来事が起こりました。

 

それはとある日――孤児院にいた子供が悪魔となり皆を襲っていた時、彼が容赦なくその悪魔を斬り捨てたときのこと。全員が気絶して、私だけが残された中で黄金の鎧が解除されたのと同時に彼は無造作に剣で自分を傷つけたのです。

 

多量に出血しても何も反応せずにいる彼に対して私は怒鳴りつけるも、彼は何も反応せずにただ淡々と言葉を紡げるだけでした。

 

「俺は奪うだけで何も救えていない……」

 

「この剣で救ってこれたのだって少なすぎるじゃないか……鎧をまとったって意味ないじゃないか」

 

「そんな俺がなんで生きているんだよ……本当に救いたい人がいても救えなかった」

 

「時代を駆け巡っても、結局忘れられて、救っても殺されて……何のために俺は戦っているんだよ」

 

彼の言葉の意味が分からず、私は戸惑いでしかありませんでした。

当時の私は無垢で何もわからなかったのです……ですが彼の言葉に怒りを覚えてしまい、私は彼を思い切り叩いてしまいました。

 

『それはあなたが今まで紡いだ道を否定するということです!』

 

『確かにあなたが救えなかった命もあったでしょう! ですが、あなたの手には救えた人の命があったはずです』

 

『私やこの子供たちがそうです! 貴方に救われました、それじゃあ駄目なのですかっ!?』

 

「……それでも……俺は救えていない。あの悪魔になった子も……」

 

『己惚れないで、幾ら力を持っても救えないことがあるのです』

 

『出来ない事は出来ないんです。出来る事は亡くなった方への弔いと、次に出来るようになる事だけです』

 

『もしあなたが自分を許せないのであれば、私の愛で、貴方の過ちと意見の対立を許してあげます』

 

『恐れを抱かないで。その心では、小さいことしかできない…………あなたはそんな人にはならないで』

 

……我ながらなんという抽象的で曖昧な言葉で彼を慰めたのだと自分で恥ずかしくなってしまいます。

当時の私は勢いに押され、何とかしてサイガを慰めたかったのです……。

 

そしてその言葉を切っ掛けに彼の精神的病は治療に成功したのか。少しずつですが感情が出るようになり、笑顔も見受けられるようになりました。

 

完全に完治されたのは私がクリミア病院に行く頃になりましたが、それでも私の心は喜びに浸っていたのです。

それが精神病に打ち勝った喜びなのか、彼が完治されたことの喜びのどちらになるかは分かりませんが、それでも喜びに満ちていました。

 

その後、私はサイガや看護師たちとともにクリミア病院へ赴きました。

 

そこは地獄としか言いようがない劣悪な環境に満ち、救えなかった患者が数多くいました。

また戦争によって生まれた兵士たちの邪心によって、悪魔となったものがいました――ですが殆どは人が喰われる前にサイガの手によって討伐されました。

 

その際はサイガの表情は曇ってはいましたが、それでも彼の剣やには迷いはなく振り切った表情でした。

 

病院での殺菌・消毒・清潔が保てるように環境の整備を行い改善に取り組むまでの間……死体に惹かれて出現した魔物や、心の闇に呑まれてしまい悪魔となった人間が数多くいました。

 

そして私がクリミア病にかかり、すべての兵士たちが帰郷したのを見守った後にサイガと一緒に国へ戻った時――彼との別れが唐突にされてしまいました。

 

「ありがとう、本当に。フローのお陰で俺は立ち直れた、これからも戦い続けられるよ。覚えておいてほしいってのはあるけど、俺の存在は忘れてもらわないといけないんだ……上司が告げたおきてには逆らえられないからさ」

 

そう言って彼は寝込んだ私の記憶を削除しました。

 

全く私の記憶と経験を削除しただけでなく、まだ戦いを続けているとなるとまた精神病にかかる可能性があるというのに……彼は私の姿を見ると怯えて逃げようとするのです。

 

治療をしなければならないというのに、困った患者です。

 

えぇあのような困った患者をあのまま野放しにするわけにはいきません。

彼の担当をずっとついていたのは私なのです。私が彼を治療し、見守り続けなければなりません。

 

最近は女性と触れ合うことが多く不衛生さが目立っております、臭いもあまりよくありません。

 

……そろそろ彼を呼び出さないと。早急に彼を治療しなければなりませんね――――私だけを見るようにしなければいけません。

 

 

それでは失礼いたします、マスター。




後程、立香は語った
「……ジャンヌもそうだけど、ナイチンゲールも怖くなってきたよっ。目が全然光ってないし、口元が裂けたような笑いになってたしっ……サイガも早く何とかしてよ」

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