ただし、続きはしない。何故ならお試し版だから。
そして恐ろしいことに一週間で200以上のお気に入りと22人の評価がありましたはがががががっが!
大変にありがとうございます!
いつも通り、上司に仕事を依頼されて、その地域や時間に召喚されるサイガ。
だが今回ばかりは違うようで――。
「月? 月ってあの?」
サイガの戸惑いにのっぺらぼうの上司は頭を掻く素振りをしながら頷いた。
「そうそう。あのまんまるのお月様――あそこがちょいと厄介でねえ……厄介な奴が入り込んでるのよ、しかも電脳空間で。君の魂を電子体にしらなきゃいけない上に、あそこの世界じゃ、今までと違って制約が多くてね。私の力も上手く入らないから、君をいつものように召喚できないし戦いすら参加できないのよ――だから君にはマスターと初契約してもらうよん」
「……そもそも、俺って召喚できるんですか?」
「一応、君の伝説が残っているよ。 座には登録されているけど、詳細も何も不安定だから再現すらできてないけど……君の魂を電子化することで具現化して月の世界限定で召喚されることは可能だよ。 まぁ、後は君と相性がいいマスターに自動的に召喚されると思うから、いつも通りに頑張って――」
上司が指を鳴らしたのと同時に、サイガは足元が硬い床から浮遊感になったのを感じた。そして、重力に沿って、いつも通りに落ちていく。
「お土産話し、期待してるよぉ。特に女難の」
「過労死しちまええぇぇぇぇぇぇ…………――――」
そして、お約束通りに上司に対する文句をぶちまけて。
変な人形擬きを、朱鞘の剣で一刀両断で切り伏せた。叩き切られたそれは塵となり、どこかに消え去る。
召喚されて早々に人形擬きがサイガの背後をとっては襲い掛かってきたのだ、慈悲はない。
「やれやれ、召喚されて早々これか。慣れってこわいな……」
敵がいたにも拘らず特に慌てることなく、寧ろ冷徹に剣で斬り捨てた――常日頃のことなので慣れてしまったことにサイガは自分でも恐怖に思った。
敵を討ったサイガは次いで背後へ振り向くと、どこかの学生服を纏った茶髪ロングの少女が困惑した様子で座り込んでいた。
(えっと、この子が俺のマスター……か?)
サイガは確かにサーヴァント:セイヴァーであるものの、実際に契約などした覚えなどない。
ならばどうやって現界していたというと……上司がサイガを“本体”として召喚させては半永続的に魔力を流してもらえるので普通の活動をすることが出来ていた。
だが、電子空間にいる今はその上司の力は頼れないので契約をしなければならないのだが……やり方はどうすればいいのだろうか。
頭を悩ませていたサイガだったが、驚くべきことがその身に起こり始めた。
「……んっ? げっ!?」
なんとサイガは自分の脚が若干透けていることに気が付く。いや足だけでなく下半身まで透けていくのが分かる。
いったいなぜと疑問に思ったが、それよりも早く何とかしなければと焦り、サイガは少女に向かって言う。
「そこの君、俺と契約してマスターになってくれない?」
これがサイガの初となる聖杯戦争の参加となり、初のマスターである岸波白野――あだ名はくのんとの出会いだった。
* * * * *
――どうやって契約したのかはわからない。ただ彼女が答えた瞬間に繋がったという感覚をサイガは感じた。
だからこそ、こうやって消えずにいるし、マスターとなった岸波白野と名乗った少女と保健室で会話していただが。ここで少し問題二点ほど発生した。
一点目、まずサイガの見た目と鞘の変化だ。白いコートが漆黒に染まり、朱鞘も白鞘となった。
更に言えばサイガの身体も調子が悪い……全身に鉛をつけられたようなそんな感覚だ。それは戦いの中で培った経験で何とか出来るだろう。
そして二点目は――マスターの記憶がないこと。
「記憶がない、ねぇ」
こくりと頷く白野に対して、サイガは「まいったな」と呻いてしまう。
サイガはサーヴァントであるが殆どが尻拭いのために向かって、問題が解決すれば帰宅といったものだ――しかしその問題も長期間である故に帰宅するにも年単位になるが――そのために聖杯戦争自体初めての参加となるので、これを機会に詳細を聞こうとしたのだが、まさかの記憶喪失とは。
「ごめんね……」
「うん? あぁ別に構わないよ、寧ろ君のほうが心配だ。 変な人形に殺されかけて、しかもわけのわからん世界で記憶失っているなんて、どんなホラーだ全く」
白野は不幸の星の下で生まれたのではないかというくらいに不運であることが分かった……。
しかし、それでも彼女は諦めずに自分を呼び寄せた。
サイガの言うように人形の手によって死に臥せかけたが、己が心を突き動かし、自らの足で立ち上がった不屈の意思の持ち主だ。
だからこそ呼ばれたのだろうか、サイガが。 今まで何度も絶望し、乗り越えてきた――黄金騎士の力があっても救えずに泣き叫んだこともあった。だがそれでも、ここまでたどり着いた自分がいる。
(同じ性質に惹かれたからか? だからこそ、俺と彼女が相性いいってことで呼ばれたかもな)
苦笑してサイガは鞘から抜刀して自分の顔の前に立てる、剣礼と言われる動作をとった。
「? セイヴァー?」
「マスターよ。これからどんな敵が来るかわからない……だけど、どんなに硬い鋼でも鋭い刃でも君を貫かせたりしない。 そして必ず救い帰してやる、騎士として必ず果たす」
「……うん、よろしくね。セイヴァー」
何とか不安を和らげられただろうか。年相応の少女然とした笑みを浮かべる白野にサイガは安堵したように息を吐いた。
* * * * *
岸波白野こと私のサーヴァントは不思議な存在だ。
見た目は明らかに現代人のはずなのに、数十年世紀も違う時代を体験し見てきたかのように語りだす。
いや、サーヴァントという存在を考えれば当たり前なんだけど、ギャップがどうも合わないというかなんというか。
マルタ、ネロ、マリーアントワネット、マタ・ハリ――その人たちとの出会いや経験の話はとても興味深かったけど、やけに女性の知り合いばかりが多くて、イラっとしたのは秘密だ。
それと同時に私は疑問に思った――彼は一体どういうサーヴァントなのだろうかと。古代・中世・近代、三つの異なる時代を駆け抜けてきたようだが、そもそもサイガなんていう偉人は聞いたことがない。
そんな彼と聖杯戦争に参加することになった。でもサイガがどんな英霊なのかわからない。どんな戦いをするのかも――だから目の前にいるエネミーを相手にして戦う姿を初めて見る。
白鞘に納められていた剣で受け流しては斬り返し、四足歩行のエネミーが背後にたたら踏んだのと同時に頭部を蹴り飛ばした。
地面に転がるエネミーは四足で器用に立ち回って体勢を整えた後、頭部に生えている煌めく鎌状の一対の角を前方に突き付けてサイガに突っ込んでいく。
「サイガッ!」
私の言葉に、状況に焦ることなくサイガは冷静に剣を天に掲げると円を描いた。
円の軌跡は、煌めく円となって、光が降り注がれると同時に漆黒と金の鎧が現れる。頭や胸以外はほぼ、漆黒に包まれてるけど、随所に施された黄金。頭部は猛き黄金狼の兜。
漆黒と金色の鎧を纏った騎士となったサイガ――その姿を見て、私は自然と言葉が出た。
「牙狼」
その騎士を夢の中で見た。
最初は敗北と挫折が多く、何度も挫けかけていた――それでも彼は何度も立ち上がって剣を振るってきた。
その黄金の鎧と剣で――?
「あれ、黒い?」
見るとサイガが纏っている鎧は漆黒と金色で、全然黄金に輝いていなかった。夢で見たあの姿とは全く違う……。
だけど、そんな私の疑問をサイガこと牙狼は分かるはずもなく、黄金の剣でエネミーを真っ二つに斬り裂いて、戦いは終わった。
「おっ、マスター。 なんかレアアイテムっぽいものをゲットしたぞ……結晶のかけらみたいなもんだけど、いる?」
「……一応、持っていこうか。ありがとう、サイガ」
どうして黄金に輝いていないか、あの姿は一体何なのかを問いたいところだったけど、とりあえず彼が手渡してくれたアイテムに手を伸ばした――。
それからも私は彼と戦い続けた。
「ははっ、やるじゃないか。 お坊ちゃんみたいなやつだと思って油断していたら、片手を容赦なく奪うって生きがいいねぇ!」
「お、おい! 何余裕めいってんだよ! はやくあんな古臭いやつを倒しちまえよ!」
「……剣だけ変化させているから、古臭いって言われてもしょうがないけど。 なんかイラっと来るな」
ライダーと慎二の言葉に微妙な表情を見せるサイガはため息をついて、牙狼剣を正眼に構えては突っ込んでいく。
鎧は召喚しない、というか出来ない。鎧を召喚すると私の魔力も減って枯渇したら、今度は私自身の命も奪って鎧は現界するらしい……ヤダ怖い。
でもそんなことよりも、まず目の前で繰り広げられている戦いに集中しなきゃ――私はコードキャストを繰り出す。
「コードキャスト:ブースト!」
「っおおおおおおおお!」
赤い光がサイガを包むのと同時に、牙狼剣を抑えていたライダーの銃身を斬り落として、彼女の身体を裂いた。
「覚悟しろよ、狙撃手――俺は必ずお前を斬り捨てる。 どこにいようが、どこに隠れようがな」
『……っとに恐ろしいよ、あんたは。 嬢ちゃんを始末できなかったのが、ほんっと悔やまれるわ」
運悪く遭遇したアーチャーの毒を受けて苦しむ私を抱きかかえて、どこかで隠れている彼に向けて言った言葉はいつもと違ってとても冷たく怖かった。
でも私の為に怒ってくれるサイガがとても嬉しくて、私は彼の頬を撫でる。そんな私を申し訳なさそうにする彼がなんだか可愛かった。
「ごめんよ、マスター。 ちょっとだけの間、苦しいかもしれないけど我慢な」
そういってサイガは鎧を召喚――あ、あのサイガさ。
――鎧の中ってすごい快適なんだなぁ、知らなかったなあ。
「ねぇ、私! すごいわ、絵本しか見たことがない黄金――じゃないけど狼の騎士様よ!」
「えぇ、私! とてもうれしいわ!」
「――――!」
「いや、じゃれるなら、もうちょいかわいらしいのにしろぉおおおお!?」
双子の子供と筋肉隆々とした怪物に襲われ、懐かれている彼をほのぼのとして見守っていた。
白鞘の剣が地面に転がっているけど、まぁ戦闘じゃないから、いい……のかな?
「令呪がなくなろうが、なんだろうが、君は俺のマスターだろ。 今更、反乱とかなんとかしないし――個人的に君が気に入っているからなんもしないって」
「……私のサーヴァント、やめたりしない? 他のマスターに目移りしない?」
「俺は浮気常習犯扱い!? 大丈夫だっての、少しは信じてよ」
凜を救うために私は令呪を使って、サイガに無茶な命令をしたけど、彼は怒ることなくむしろ私を慰めてくれた。
あぁ、もう……うちのサーヴァントは男前すぎて困る。
「いや、友人の為に令呪を使い切る白野のほうが男前すぎるんだけど……」
……そんな酷なことは言わないでよ、サイガ。ちょっとかなしくなるから。
「ウン、モウ、オナカペコペコダヨ、ダカラハヤクタベサセテ」
「妻よ、もうしばらく待て! お前の欲望はわが槍で肯定する!」
「人々の勝手な望みや推測で歪み、怪物になってしまった英雄よ――せめて我が剣で眠るがいい」
異常な性癖を持ったマスターと怪物となったランサーを相手に、サイガは円を描いて鎧を纏った。漆黒と金色の鎧を前にそのマスターは興奮したのか――。
「オイ、シ、ソウ。オイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウ! タベサセテ、ランサー! ゴチソウガソコニアルッ、ハヤク、ハヤクゥ!」
「おぉ、妻よ。それほどまでに食したいか……よかろう。しばしまてい!」
「ひっ……」
私は思わず悲鳴を上げてしまいそうになった。マスター、ランルーは口元から大量の涎を垂れ流し、べろりと垂れ流れた舌も見せていた。表所は恍惚として、また浮かんだ感情は興奮と待ちきれないごちそうにご馳走に耐えきれないものだった。
そんなマスターに対して牙狼は決しておびえず、剣を構えて、ランサーと対峙する。
「マスターの歪み、そしてランサーの憎しみ――ここで断ち斬る!」
背後に凄まじい重圧があるのに、「何もない」。
だけどサイガは力なくその身を床に投げ出している現実は変わらなかった。
マスターであるユリウスと姿が見えないサーヴァントは私たちの姿を見て、そのまま闇に溶けて消え去った。
だけど、いまはそんなことより、頼もしかったサイガが力なく床にその身を横たえていた……。
「サイガッ、サイガッ!」
私の呼びかけに答えないままサイガはただぐったりとしているだけ。
状況はうまく呑み込めないけど、これは現実なのだ。夢になってくれるはずもない。
本当は泣き叫びたいし、サイガの傷を癒してあげたい――でも今はそんなことできるはずもないし、なにより現実をそらしたところで何もならない。
私は自分が出来る範囲――早くサイガを連れて戻ることなのだ!
「待ってて、サイガ! 今運んでいくからっ!」
サイガの回復を望むため、凜に言われてアリーナへ行こうとする私を引き留めたのはサイガだった。
「待て待て、マスター。一人じゃ危ないだろ、俺も行くって」
「――っでも!」
「適当な露払いくらいならできるって。 俺はマスターの剣であり盾でもあるんだ、それくらいはやらせてくれよ」
サイガの表情から戦える状態でないのは明白だ。生気を失った顔で、掴んでいる白鞘は震える手で音をたてている。
どんなに心配しても言いつくろっても彼はついていくだろう。些細な気遣いは必要ないとサイガは言った。
だからこそ私は震える声で「お願い」と答えた。そんな私にサイガは笑って肩を優しくたたいた。
――――凜の言うとおりに何とかこなせた私は、サイガの治療を彼女に任せたけど。
「ゃん、あなたってこんなに……ちょっ、す、すごすぎない?」
「……頼むからまじめにやってくれるか?」
「ちょっ、こっちだって初めてだってのっ!? む、無理言わないでくれるっ」
保健室で一体何をやっているのだろうか。というか、私のサイガに何をしてくれているんだ、あいつはッ。
終始気になって中を覗こうとしたけど、凜の妨害にあって結局は見られなかった……。
その後、ユリウスとサーヴァントを倒して、マイルームでいつものようにサイガと寝ようとしたんだけど。
「す、ストップストップ、マスター!? 抱き枕になるのはまぁ許そうっ、だけど首輪をつけるのは違うだろう!?」
「大丈夫。ちゃんと人間用のものを買ったから、お洒落具合が出てかっこいいよ?」
「そういうもんだいじゃなああああああああいっ! ちょっ、服を脱ごうとするなっ、うわっ、綺麗なネグリジェだこと――っておおおおおおい!?」
結局見られなかった苛立ちと、サイガに対して苛立ちが混ざり合ったので、私のものという証明になる首輪をつけてやろうとしたり、ネグリジェを見せてやった。
正直恥ずかしかったけど、それよりも私に隠れて凜と何をしていやがったんだってのが強かったので、別段問題なかった。
そして、長く苦しい戦いを終えて私は消える。異物である私は聖杯によって消される。
悔いなんてない、サイガと歩んできたこの道が絶対に間違っていたと思わない。
でも、少し欲を言えば――もう少しだけ彼と一緒に過ごしたかったなぁ。
そう思うと胸元から出てきた一つのペンダント――それは彼の手から渡された、牙狼の紋章が刻まれた金色のペンダント。
『マスターと一緒に戦い過ごしたことは、俺の誇りだった』
私もだよ。サイガ。
『白野をマスターとして一緒に戦ったことは一生忘れない』
それも一緒。私だって絶対に忘れないよ。
『だから』 「だから」
『また会おう』
「また、会おうね」
私は金色のペンダントを握りしめて、目を閉じた――――いい夢が見れますように。
* * * * *
ここで月の聖杯戦争は終わった。だか彼女の物語には実は三つの続きがある。
一つ目はのちの聖杯戦争後の物語――ここでも黄金騎士牙狼と白野の物語がある。しかし、牙狼がどうやって召喚されるかは……続きがあれば紡がれるだろう。
二つ目は『黄金騎士牙狼』の一部の力を引き継いだ、サポート用英霊――こちらは上司のイキのいいサービスとやらで彼と同じ職場で働くことになった――としてカルデアに召喚される話で、更なる修羅場となる物語。
そして最後は……。
「よし、それじゃあ召喚するとしようか」
「幸先きいいスタートですね。 先輩もネロさんを召喚できましたし……ここで白野先輩も何か召喚できれば」
「大丈夫だよ、マシュ。だって私にはすでに媒体があるからね――」
「!? ま、待て、白野よ! そのペンダントは!」
「呼び声に応えよ――黄金騎士牙狼!」
「また漆黒の姿だよ……少しは成長したんじゃないの? まぁいいや、黄金騎士牙狼・サイガ参上――また会えたね、白野」
「うん、また会えたね――それじゃあ今度こそ逃がさないよ」
「……白野、なんで首輪を持ってくるの? ちょっネロまでいるし!? だ、誰か助けてぇ!」