すまない、女主人公から男主人公にしてしまって……。
すまない、唐突の思い付きでこれを連載してしまって……。
すまない、今回が鎧成分などないぞ……。
すまない、続いてしまって…………。
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
2016年に人類史が焼却されてからは、本来は存在しないはずの過去の特異点事象を発見し、これに介入して破壊する事により、未来を修正するための作戦『グランドオーダー』を始動。
カルデア唯一のマスターである少年――藤丸 立香は契約を結んだサーヴァントたちとともに人理修復に挑む。
そして今日、新たなサーヴァントがカルデアにやってきた――。
「……まぁ、ほぼ誘拐みたいなものだけど、とりあえずは契約したんだから自己紹介は必要か。どうも、カルデアのマスターさん――俺の名前はサイガ、クラスはセイヴァー……実力は今後の戦闘で発揮させるよ」
マリー・アントワネットの手によってカルデアまで連行された新たなサーヴァント――サイガはため息をつきながら答えた。
* * * * *
サイガというサーヴァントは不思議だ。彼がカルデアにやってきてから立香は何度そう思ったことか。
異なる時代にいるはずの英霊たちと知り合いのようで、彼がこのカルデアにやってきては――。
「あれ、マスター。また新しいサーヴァントの方……が……」
「あっ、どう――もおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
挨拶しようとしたサイガの鼻先をかすめたのは、聖女ジャンヌ・ダルクの旗。
容赦ない旗の攻撃と、また普段穏やかな性格であるジャンヌの凶変に驚きを隠せず立香は唖然として見つめていた。
「…………マスター。案内中で申し訳ありませんが、彼とお話ししてもよろしいでしょうか――いろいろと個人的にお話ししないといけないことがあるので」
「ちょっ、なん―――っでええぇえええ!?」
ジャンヌから問答無用の攻撃を繰り出され、サイガは立香を置いて逃げ出すも追いかけていくジャンヌ。
消えてゆく二つの背中を唖然と見つめる立香は唯々立ち尽くすのみであった――因みにサイガが戻ってきたのは十分後。
コート等がボロボロになってふらついている姿であったが、立香は敢えて触れず、まだ案内していない場所を連れて行った。
「まぁ! お帰りなさい、マス……ター……」
「おやまぁ、懐かしい顔やなぁ」
「おぁ、サイガの旦那っ!?」
カルデアの案内道中で出会ったのは平安時代組――源頼光、金時、酒吞童子の三人。
金時の腕にしなだれるように擦り寄っている酒吞童子に対して、頼光が詰め寄りかけている姿があった。
金時は立香の隣に立っているサイガの姿を見て驚愕し、酒吞童子に関しては目を丸くしながらも懐かしそうに笑みを浮かべた。
対する頼光というと――唖然とサイガを見つめていたが、一瞬にして表情は険しい表情へと変わった。
「ッぐッ、マスター、また後で!」
「逃がしはしません! 虫、あなたとの話はまた後です! 待ちなさい、サイガッ!」
サイガは頼光の表情を見ては嫌な予感を猛烈に感じて躊躇なく逃げ出した。
無論逃がすわけもないので頼光は追いかけた。
遠く消えゆく二つの背中を唖然と見つめる金時と立香、それを面白そうにケラケラと笑う酒吞童子がいた。
そして数分後――――手負いのサイガが逃げれるはずもなく。彼の悲鳴が響き渡ったことは言うまでもないだろう。
「だ、大丈夫……?」
「ふ、ふふふっ、こ、この程度、問題ない。寧ろまだバッチコイってやつだ……っ」
「そ、それだったらいいけど。あっ丁度医務室があるよ、ここで傷を見てもらおう!」
頼光とジャンヌの攻撃にさらにボロボロとなったサイガを心配して、立香は丁度通りかかった医務室の扉を開けると。
「負傷者ですか? 安心なさい、どんな怪我でも治します――譬え命を奪って、で、も?」
「……だ、大丈夫なので、さよならぁ」
医務室にいた女性――ナイチンゲールの顔を見た瞬間、サイガはそのまま立ち去ろうとしたが。
「――待ちなさい。 あなたから不衛生と負傷が見られます、即刻治療を開始いたします――大丈夫痛みは一瞬です」
間髪入れずにナイチンゲールは出ていこうとしたサイガの肩を掴む。それこそ万力の如く。
「あ、いや、掠り傷だし」
「いいえ、どんな怪我でも私は見逃しません。ましてや口だけの人間など信じられませんし、何よりあなたとお話をしなければなりません」
「ちょっ!? 本当、本当に要らな――ってちょっ、お前いったいクラスはなんだっ!? 生前だってあんな馬鹿力を発揮していたくせに、クラスによっては俺が引き千切られるレベルだぞそれっ!」
「何を言っているのです。 患者を殺してでも治すのが私の使命です――えぇ決して個人的なものはありません。治療を開始いたします」
「あっ、ああああああぁぁぁぁっぁぁぁっぁあああああ!」
二人の言い合いを他所に立香はコソコソと隠密に医務室から出ていく――丁度扉が閉まる際に見えたのは、ナイチンゲールがメスと銃をサイガに向けていた姿、対する彼は涙目で尻もちついているものであった。
密かに彼は十字をきって、サイガの安寧を願った……助けてあげたかったがこれは当人同士の問題なので、お互いで解決してもらわなければならない。またナイチンゲールを止めることも無理難題である。
医務室から聞こえる悲鳴に震えながらも、その場から離れるために、そして小腹がすいた為にそのまま食堂へと向かった。
* * * * *
カルデアの食堂はいつもにぎわっている。
厨房には料理上手なサーヴァントたちが多く、下手な店よりも美味しい料理が提供される為に人気がある。
今日もいつも通りに料理を提供していく最中――。
「……お、おすすめ、料理を一つ…………」
全身に包帯やガーゼなどの衛生用品が張り付けられて、朱鞘の剣を杖代わりにフラフラと歩くサイガの姿があった。そんな彼の対応をするのは厨房担当である褐色肌のアーチャー:エミヤ。
「……君は新しいサーヴァントかね? しかし、なぜそうボロボロになっているんだ?」
「き、聞かないでくれ」
エミヤは心配げに声をかけるもサイガはただ視線を逸らすのみ。
込み入った事情があるのだとエミヤは察知し、丁度良く出来上がった料理――オムライスを提供した。
「まぁ、これを食べて元気を出してたまえ……」
「あ、あり、がとう」
震える手で受け取ったサイガは老人のように足を震えながらも剣を使って歩き進めていく。
そんな彼の姿を何故か憐れみと親近感を覚えたエミヤは後日飲みに誘って――『女性って怖いよね同盟』を結ぶのはまた後日談である。そして、その中に最近マシュが怖くなってきたと言って、立香も混ざることもまた後日談。
剣を杖のようにうまく使って何とか歩き進めていき、適当な席を座るサイガ。
周囲の目など気にせず、ようやく一息ついてはオムライスを食べようとしたとき――。
「うわっ……なんつうボロ具合だよ。まぁ、とりあえずお久しぶりでいいんすかね?」
憐れみと同情めいた、だけども聞き覚えのある声にサイガは顔を上げ前方を見る。
そこには緑の衣装とマントを纏った青年――月の世界で戦ったサーヴァントであり、個人的に仲良くしたかった人物だった。
「むっ、あっ、ロ、ロビンフッド君か……助かったっ本当に」
「いや、オタクはここにきてからどんだけ命が掛かってたの」
サイガの切実な声とその姿を見て、思わずロビンフッドは頬を引きつかせながら彼の隣に座った。
「とりあえず、まあお久しぶりっす。 まさかオタクと一緒に戦うことになるとは思いもしなかったんですがね」
「は、ははは、月の聖杯戦争での戦いは置いといて。 何もしていないのに女性たちがひどいの、何なのあの人たち……生前はあんなひどく無かったのに、あっでもマリーは変わらないでよかったわ」
「いや、あの王妃さん……カルデアに戻ってきたときに背筋が凍るような笑みを浮かべていたんっすけど」
「はっはっは、何を言っているんだい。 そんなことあるわけないじゃないか、あのマリーがそんな――」
ロビンの言葉を無視するかのように視線を背けながらオムライスを咀嚼するサイガ――脳裏によみがえったマリーの首絞めを忘れるように。
彼女のクラスはライダーのはずなのに、なぜあれほどの力が発揮できるのだろうか……いやライダーだからこそか?しかし、そんなくだらないことを考えるよりも折角の知り合い――殺しあっただけであるが――と話をしようではないかとサイガは切り替えた。
「そもそもオタクはなんでそんなボロボロ……なにをしでかしたんだ?」
「いや、俺は何もしていない――はず。そもそも何で彼女たちが俺にこんな仕打ちをしでかすのかいまいちわからん」
「…………あーまぁ、とりあえず何で考えてみたらどうですかい?」
「といってもなぁ、本当に身に覚えがないよ。悪いことは愚かセクハラすらしてないのに、まぁ欲に負けかけたことがあるけど」
「おいごら、黄金騎士」
まさかの発言に思わず突っ込んでしまうロビンフッド。
そんな彼の言葉を気にすることなく、口にスプーンを咥えて自分の行いを振り返っていくサイガ。
「うぅん、彼女たちと長い付き合いで一緒に過ごしてきたけど、何も悪いことしていないよ? 宴会をやったり、悩みを聞いたり、菓子を食べたり、化粧品やペンで顔に落書きという悪戯したりと色々やってきたけど……どれもこれも恨まれることじゃないしなぁ」
「へぇへぇ、そうっすか」
どれもこれも全部自慢話――本人にその気はないようだが――に聞こえて殆ど聞き流していくロビンフッド。
しかし、女性の顔を悪戯するってどれだけこの男は容赦なく面白いことをしたのだろうと興味がわき、今度どんなふうにしたのか聞いてみようとスープを飲もうとしたとき。
「あとは…………別れの時に記憶置換させたことかなぁ」
「ふーん、そぉっすか――――ってうん?」
サイガの言葉を流そうとした瞬間、ロビンフッドは違和感を覚えて、飲もうとしたスープを置いて尋ねることにした。
「いま、なんて? 記憶置換ってなんすか?」
「うん、俺――というか黄金騎士と関わった人たちの記憶を代替えさせてもらったんだ。だけど、流石に全員の記憶を消すことが出来なくって、黄金騎士伝説が残っているんだけどさ」
ロビンフッドは自分のことではないにもかかわらず冷や汗が止まらず、震える声で聴いた。
「……え、えっと、もちろん、そのあんたと関わった女性たちも?」
「もちろん。白野は例外としてだけどね、まぁ俺という存在は基本イレギュラーだし、あまり歴史上に関わってはいけないって………………うん?」
サイガも今更ながらおかしいと思って言葉を止めた。
そう、記憶置換――サイガは上司にもらったとある機器を使って、彼女たちの記憶からサイガ改め黄金騎士を消去させて、別の記憶を置き換えさせたのだ。
それなのに何故彼女たちはサイガのことを覚えているのだろうか。
「……あれれぇ、おかしいぞぉ」
「……オタク、その記憶置換ってもしかしたらだけど、ほんっとにもしかしたらなんだけど―――英霊になった瞬間に記憶が思い出すんじゃないの?」
「い、いや、いやいやいや。 そんなはずはないっ、だってでも、え?」
しかし、振り返ってみれば彼女たちの行動に何故か納得してしまうサイガがいる。
初対面であるはず――記憶を置換された彼女たちにとって――の自分に対するこの行い。
決して彼女たちは初対面の相手にあんな暴力的なことはしない、ここに連れ込んだマリーだってそうだ。
頭の混乱が頂点になりかけたとき――。
「その答えは余が教えてやろう!」
かわいらしい少女の叫びと同時にサイガの隣にやってきたのはネロ・クラウディウス。
「英霊の座に入った瞬間にな、荒唐無稽だが違和感のない記憶が消え、サイガの記憶に塗り替えられたのだ! 最初は余も訳が分からなかったが、サイガとの記憶が本物であると理解した――余の心を支配したお前の記憶をな」
ネロは嬉しそうに笑みを浮かべて、サイガの腕に擦り寄った――傍目から見れば主人に甘える猫のように見えるもののサイガの腕を強く締める音が聞こえるので、サイガとロビンフッドは顔を青ざめる。
「ふふっ、余の心を乱した上に記憶を置き換えるとは何て重罪なやつよ…………覚悟するのだぞ♪」
一体何を覚悟すればいいのだろうと聞きたかったが――ネロの恍惚めいたドロドロに満ちた暗闇の瞳を見て即座に辞めた。
サイガは助けを求める目でロビンフッドを見るも、彼は諦めろと言わんばかりに頭を振った。
「それにしても、余のほかにも誑かした者がお前にいるとはな……他の連中にお前は余のものであることを理解させねばならぬな♪」
勘弁してくれと云いたかったが、命が惜しかったので敢えて黙ってオムライスを食べるサイガであった。
(味が感じない……舌が馬鹿になったのかな、俺は)
「まぁ、ずるいわ! 私もサイガが欲しいの!」
「むっ!? お前には余の玉座を座らせたことがあるだろうに、サイガもものにしたいというか!? ならん、ならぬぞッ!」
「……デザートだ。 疲れたときは甘いものがうってつけだぞ」
「……ありがとう、シェフ。 何故俺にこんなにも?」
「私かね? 私はエミヤという――君とはなぜか他人事とは思えない……今晩酒はいかがかね?」
「よろしく頼む……」