今回は題名通りの物語となります。
とある四人が反転して、病愛となり、キャラ崩壊となります……。
いない。いない。
あなたがいない。
みんなと世界を救ったのに、私も救われたのに、あなただけがいない。
私は後悔している。あの時、あなたを止めることができればと。
かつて私の家で大切で温かくて守りたかった、残骸となったこの場所で私は静かに考える。
もしもつまりイフのことを常に考えて……話しているかもわからない唇で私はつぶやく。
私は守れなかった――守りたかったのに。そのために雪花の盾を取ったはずなのに。
私の中に宿っていたはずの存在どころか残滓すら感じられない。
もう私は独りぼっちだ。
何も守れなかった私にはお似合いかもしれない……このまま消えてなくなってしまえばいい。
そう思った矢先に、目の前に何かが転がった。
それはいつか特異点で回収した――聖杯。
厳重に保管されていたそれが転がっていた。
「聖、杯」
手を伸ばして、転がった聖杯をつかむ。黄金のそれを眺めて、思い出すのはこれが万能の杯であること。
どんな願いもかなう器――。
「私は――私は」
「やり、直したいです――」
「もう離れたくない、です」
「ずっと一緒にいたいです、先輩とここで」
そう告げると、聖杯が輝きだして――。
* * * * *
「カルデアが特異点に?」
「……まぁ、ダヴィンチちゃんも信じられないことだけど。正確に言えばカルデアと同じ座標軸にある地域かな。それが特異点になりかけているんだ。いやぁ、よかったよ、ロマニが休みにとってる間でっ」
カルデアと全く同じ座標。
計器の誤作動なのかそれ以外の要因かはわからないものの、それを放置しておくとこのカルデア自体がその特異点に侵食され、施設ごと消滅しかねない。
因みにロマニの休みは、ほぼ強制――ダ・ヴィンチの肉体言語によって取らされたのは言うまでもない。
「さてさて、急で申し訳ないけど、すぐさまこの特異点に行ってくれたまえ! 悪いけど、時間がないから編成とかはこっちで全部やっといたからね! 文句は後で受け付けるよ!」
この危機をいつになく慌てているダ・ヴィンチの指揮によりレイシフトの準備が完了し、立香はマシュと数人のサーヴァントたちとともに突入する。
レイシフトの光がまだ瞼の奥は疼くも、時間が経つにつれて収まっていく。
ゆっくりと目を開くと、そこ瓦礫だらけとなった室内、埃に泥そして血で汚れた壁と床――だがこの光景……というよりも場所を立香は知っている。
いつもならカルデア職員が一息ついて各々の休憩を取り、ひと時の休憩と言ってロマンがお菓子を食べたり、サーヴァントたちが談笑したり光景が――レクリエーションルームにはあった。
だが今は何もない……目にとらえているのはあちこちに瓦礫が落ちて、人の気配が全く存在しない。
人の気配どころか、営みも笑顔もない。何もかもなくなっていた。
立香は通信を取ろうとしたが、障害が入っているのか中々つながらない……。
通常ならば連絡が取れるまで待機すべきだろう、更に言えば契約しているはずのサーヴァントたちも周辺にいない。
本来ならば待機すべきだろうが、カルデアの現状を考えるとそうもいっていられない。
足を奮い立たせて、靴の下で破片やがれきを感じながら歩き始めた。
「……っ」
レクリエーションルームから出て、廊下を歩き始めるも、見えるのは瓦礫だらけ。
いつも賑やかで騒がしくも心地いい雰囲気は一切感じられないこの場所が、本当にカルデアなのか信じられなかった。それが寂しくも感じれば、一人でいることに対して孤独を感じる。
早く誰かと会いたい……その気持ちで心中がいっぱいになって早足となっていくと――。
「せん、ぱい……?」
背後から声が聞こえた。この声はいつも聞いている可愛い後輩の声だ。
立香はようやく合流できたことに安堵して息を吐き、そのまま振り向くが。
「マシュ、だよね……?」
その姿を見て立香は震える声を必死に抑えて、そう尋ねた。
廊下の角から現れたのは確かに立香は見慣れた可愛い後輩の変わらない笑顔だ。
だが、その姿は変わっていて思わず目を見開いてしまう。
血のように赤い盾、紫紺を中心とした騎士の鎧ではなく赤と黒を基調とした奇怪な鎧、目は絶望に満ちた暗い目——その異様な姿さえ除けば彼女は殆どマシュそっくりだ。
(ううん、違う、マシュだ)
ことごとく変わり果ててしまった姿であるも、立香の心が訴えている……彼女はマシュであると。
「ぁ、ぁぁ、せん、ぱい」
マシュの目から突然涙があふれだした。
「うぅ、うわああああああああああああん!」
マシュは盾を投げ捨てて、立香に抱き着いた。勢いあまって床に押し倒される立香だが、マシュは強く抱きしめる。
「あぁ、ああ! 先輩、先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩っ! よかった、叶えてくれたっ、やっと、やっと会えたっ!」
支離滅裂な言葉を紡げ終えたのか、マシュはようやく立香の胸元から顔を話しては大輪のような笑顔を浮かべるとともにこう言った。
「おかえりなさい、先輩!」
立香はマシュに連れられて、特異点を歩き回っていた。
いまだに通信回路が取れない状態で、今は彼女にゆだねるしかないと判断して探索というよりも案内をしてもらっている。
案内されている中で、瓦礫等で汚れているものの見慣れた光景と居室、部屋が確認されていくなか、やはりここはカルデアであることが判断できた。
やがて、とある部屋に案内された――そこは立香の部屋として扱われていた場所であるが、今では無残な廃墟となっていた。
マシュに手を引っ張られて部屋の中心に立たされたと思いきや、立香は再び彼女に抱きしめられた。
「先輩先輩、ここにいればもう安心ですよ。 もう先輩を戦いに行くこともなければ、辛くて痛いことも、しなくていいこともしなくていいんです。 掃除も食事も全部私がやります……先輩はただここにいればいいだけなんです」
「なに、言っているの? そんなことできるわけ」
彼女の唐突な発言に対して、立香は否定しかけた瞬間――急激な苦痛と息苦しさが彼を襲った。
「ダメなものはダメなんです。 先輩はもうここにいるべきなんです、えぇそうです。 だってそうしなければ私は独りぼっちになってしまう、また守れなくなってしまう。 もういや、いやなんです、先輩……一人にしないでください」
マシュの腕力によって立香の身体全体が強く絞められ、しかもミシミシと音がたてられている……。
意識が次第に白くなり、息もできなくなりかけている……このままでは不味いと立夏は思うも、声も発することができない。
これまでかと諦めが立夏の脳裏に占めようとしたとき――。
「マスター!」
部屋の扉が大きく吹き飛んだと同時に、白いコートが翻りながら拳が飛んできた。
マシュは立香を離してはその拳を受け止めるも、次に襲い掛かってきた蹴りに反応できずにそのまま壁にたたきつけられた。
圧迫感から解放された立香は肩で息をして呼吸を整えるも、即座に浮遊感が襲い掛かっては視界が揺れたと思いきや、いつの間にか抱えあげられていた。
「サ、サイガっ」
「ごめんね、ちょっと気持ち悪いけど我慢だ」
白いコートの青年、サイガが優しく微笑んだのと同時に駆け出した。
「悪いけどっ、うちのマスターは返してもらうよっ」
「……っぐぁ、ぁ、か、かえして、返してください! 先輩を、かえせ、かえせ、かえせぇえええええええええええええええええ!」
普段聞かないマシュの怒声に身を竦めてしまう立香であったが、そんな怒声にものともせずにサイガは朱鞘から剣を抜いて衝撃波を放つ。
衝撃波を受けて苦痛の声を上げる少女に目もくれず、そのまま部屋から飛び出した。
「っサイガ、どうしてここが……っていうよりもマシュが!」
「……あの子は俺たちの知っているマシュじゃない。 あの子はどうも反転したみたいだ、それにあの程度でやられてくれれば簡単に修復なんてできるさ」
命をさらされながらも彼女の心配をする立香に苦笑しながら、答えるサイガ。
剣を片手にマスターを抱き上げるのは特に問題ない――厄介な敵が現れなければの話だが。
「反転ってどういうこと!? マシュは、あのマシュはいったい」
「簡単に言えば、ジャンヌとアルトリアさんみたいな感じ……何かしらの呪いを受けて汚染されたか、別側面によってあぁなっちゃったかのどっちかかもしれない。しかも、他もああなっているから参ったもんだよ」
サイガの口ぶりからして、マシュのほかにもそのように変換されている言い方で首をかしげる立香。
「とりあえずは皆と合流しよう、多分ある場所に集まって――」
しかし、サイガの言葉が最後まで紡がれることはなかった。廊下の角から複数の人影が現れては、二人の進路を防がれてしまった為に。
「……マスター、悪いけどサポートをお願い。 俺一人じゃ、どうも相手は厳しいからさ」
サイガは立香を下ろして、剣を正眼に相手に向けて構える。そして立香は目の前に現れた相手、いや敵を見て驚愕の声を上げてしまう。
それは見慣れた相手だった。むしろ頼れる戦力として、よくレイシフトしてもらっている仲間だ。
だがいま、
「ネロ、マルタさん、マリーまで……」
立香の言葉に反応することなく、その三人はただサイガだけを見つめている。
「……お前たちがここにいるってことは、まさか――」
最悪な展開を考えて言葉を紡げようとするが、ネロが鼻で笑った。
「ふん、あのような有象無象のような連中などどうでもよい。余はただお前にしか興味はない……あの娘に感謝しなければな、このような機会をくれたのだからなぁ――あぁ早くお前と過ごしたいぞぉ、サイガァァっ」
甘えるような蕩けきった表情を浮かべるネロ――しかし、いつもは煌びやかに輝いている赤いドレスではなく、赤と黒を基調としたドレスで、愛剣も血のように歪で不気味な色合いをしていた。
「あぁ、あぁ! 国のために私は自分の命や心を投げたけど、もう今の私は捨てられないのっ。 本当はいけないこと、ダメなことなのに、私は自分の心に沿って動くわ! マリー・アントワネットではなく、ただのマリーとしてっ動くわ!」
白銀のツインテールの髪を揺らし、赤と黒のゴスロリドレスの翻しながらマリー・アントワネットは語った。
美しかったアイスブルーの瞳は今では真っ赤な血の色となり、狂気に満ちた目となっていた。
「勝手に消えて、私を一人にさせた罰をあんたには受けさせる、そしてもう二度と私のそばを離れない様にしてあげるわ」
白銀のロングヘアーに、赤と黒の聖衣を纏ったマルタは杖をサイガに向けて淡々と告げる。
「……もしかして、さっき言ってた他って」
「あぁ、彼女たちのことだ」
サイガは立香の言葉に頷いた。何たることだろうか、マシュだけでなくまさかの英霊三人までもが反転してオルタ化してしまうとは。しかも敵対する関係で……サイガに対して凄まじい執着を抱いている。
「マスター、俺のそばから離れないで……強行突破で行くぞ」
「余がお前を逃がすと思うのか? それはあまりにも甘い考えだぞ」
「うふふふ、それはそちらの殿方もよ? あんなに情熱的で深い愛を受け止めるのが紳士としての役目よ」
「えぇ、二人の言う通りよ。 あんたたちを逃がさない……あの子の気持ちは少しは汲み取りなさい、カルデアのマスター」
マスターである立香を守りながら英霊三人と対峙するのは少々厳しいところだが、泣き言を言っている暇はない。
今はここを離脱することを考えるべきだ――サイガは剣を頭上に掲げては円を描く。
軌跡が作った空間から召還された金色の鎧が全身に装着され、牙狼剣も顕現された。
「おおぉっ、相も変わらず美しい輝きよっ……ああ早くお前を余のものにしたいぞっ!」
牙狼が猛々しく咆哮して牙狼剣を大きく振るい上げた――。
ジャンヌダルクやほかキャラのオルタ化?
収拾がつかなくなるからやめれ。