私とサイガの出会いですか?
そうですね……少々恥ずかしいですが、構いませんよ。
折角マスターとマシュさんが話しかけてくれたのですから、お話ししちゃいましょう。
* * * * *
私がサイガと出会ったのは、森で迷子になっていた時のことでした。
当時の私は御転婆でよく両親に「おしとやかにしなさい」って怒られていました……もっ、もちろん、今は違いますよ? ジルに指導されて、今では立派な女性になったのですから!
あっ、こほん――話をそらしてしまいましたね、続けます。
夕焼けになって、真っ暗闇になりかけた際に……私は悪魔を見ました。
潰れた顔面を持つツインテールの女性の植物人間のような姿で、私を見てはニタリと笑ったのを恐怖して逃げました。
でも私は呆気なく蔦で捕まってそのまま食べられそうになった時に……サイガに救われたのです。
あの時のことは忘れられません――誰かさんの所為で、生前に消されましたが――伝説でしか聞いたことがない黄金に輝く剣と鎧で敵を討滅した姿は子供ながら見惚れてしまいました。
本当ならば逃げなければならないのに、私は隠れて見ていたのです……黄金騎士牙狼と悪魔の戦いを。
そして戦いを終えた牙狼が月光を浴びながら私のもとに近づいて、こう云ったのです。
「怪我は……ないか。 よし帰ったら、まず湯浴みすることだな」
……あははははははっ、今でも思い出し笑いしちゃいます。まさか伝説の騎士からお説教を受けるなんて夢にも思いませんでしたから。
その後、私はサイガに担がれて村に戻って――思い切り叱られちゃいました。それもそうですよね、うら若き乙女が門限を破った挙句に泥まみれになって帰ってくるなもので……とても怖かったです。
でも、なぜか両親はサイガのことを認識できなかったのです……私しか見えないようでした。
その時は霊体化をしていて、皆さんを混乱させないようにしたらしいです――でもそれが正解でした。
実は混乱だけでなくサイガは村のことも考えてくれていたのです。
当時私の村は不作が多くて、食料に少々困っていた時期でもありましたので、もしサイガが見えていたら食料のことで大ごとになっていた可能性もありました。
私だけがサイガを認識できるって、当時は嬉しく思いました――今は残念に思います……私だけじゃなかったんだなって。
まぁ、それは置いときましょう。
サイガが村に来てから、私の日課に『サイガと過ごす』が増えました。
勿論皆には見えていないので隠れながら遊んだり、文字を教えてもらったりしていただきました…とても幸せでした。
そんな生活が続いて数年程経った頃、村の礼拝堂でお祈りをしていた私に啓示が降りました。
――汝、イングランド軍を駆逐し、王太子をフランス王位へ行け――
その啓示を受けて直ぐに両親にその事を説明し、旅立ちました。
勿論サイガも一緒についてきてくれました――あれほど頼もしさと嬉しさが満ちたときはありませんでしたが、啓示を報告した際にこう云ったのです。
「神に言ってやれ……そんなもん自分でしろって」
……あの時はあまりの発言に唖然としてしまいましたね。
ですが、そんなこと言われても意思の固い私に付いてきてくれたことが嬉しかったですね。
その後は史実にも残されている通り、私は戦場を駆け巡りました。
ごめんなさい、史実通りではないです。サイガに消された記憶の中に、私や恐らく両方のジルの記憶の中には悪魔との戦いもありました。
戦争中にイングランド軍の中から悪魔が出現して、それをサイガとともに討滅したこともありますし……あの時のことはあまり思い出したくありません。
敵味方関係なく、両腕に鎌を備えた異形の昆虫人間や双頭の大蛇のような悪魔が命を食らいつくしましたから。
あの戦いで殆どの兵はお亡くなりになり、私やジルも大怪我を負ってしまい、サイガもボロボロになりながらもなんとか討滅できましたからね。
勿論それは公にすることはなかったです……公にしてしまえば国中が混乱してしまいますから。
あとあまり恥ずかしくって話したことはありませんが、左肩を矢が刺さって重傷を負って泣いちゃったことがあるんですよ――ほかの人には内緒ですよ、内緒ですよ!?
その時はサイガに頭を撫でて頂いたり、背中を叩いてもらって慰められたのですが……うぅ、お二人だから特別ですよっ。
そして、戦争が休戦を迎えた直後――――私はサイガに記憶を消されました。
酷いですよね、役目が終わったからと言って記憶を消すだなんて。サイガがいたからこそ幸せだったのに、それなのにあの人ときたら。
「異物である俺との思い出は……ここでサヨナラだ。 バイバイ、ジャンヌ」
そう言い放ったんですよ!? 信じられますかっ!?
私のあの時の記憶も全部奪ってさよならなんて、許せなかったんです! だから彼がここに来た時は嬉しさよりもまず怒りが膨れ上がってしまったんです。
私の記憶も、想いも全部無くさせた挙句に何事もなく現れた彼を…………本当なら叩くだけじゃなく、私の部屋に閉じ込めたかったのですが、まあそこはもう大丈夫でしょう。
だって、もうこのカルデアに召喚された以上………逃がしませんからね、フフッ。
実は、いま相談しているんですよ、どうやったらサイガを逃がさないようにするかを。最近では、聖女マルタも相談に乗ってくださり、如何にしようか三人で悩んでいるんですが……いい案が浮かび上がらないのです。
監禁も良いとは思うのですが、如何せんあの黄金の鎧が装着されてしまえば、あっという間に逃げられてしまいますし……どうしましょうか。
えっ、マシュさん……? それはとてもいい案ですっ、甘やかして私たちだけしか見えないようにする案は考えてもいなかったですっ、これはさっそくマタ・ハリさんにもぜひご協力を要請しなければなりませんね!
——マシュさん、お互いに頑張りましょう!
…………ハッ、大変です!
マシュさん、急いでマスターを看護してあげてください! 汗が出て震えてますので、風邪をひいているのかもしれませんっ!
マスター、余り無理をなさらないでくださいねっ。
マスターである立香は後程こう語った。
『あんな暗い目で笑顔を浮かべるマシュとジャンヌは初めて見た』と。