両親の
憎しみを糧に、「帝王」を喰らえ。
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「アイツか・・・」
ばらばらになったら危険だという事で、リンドウ達は全員で索敵していた。
彼等の前方にはディアウス・ピターがいる。どうやら廃寺の木材を捕喰しているようだ。
「厄介だな...」
ピターを見つめて周囲を警戒しながら、リンドウは小さな声で舌打ちした。
ピターが捕喰している所に
この状態で、分断は難しい。そもそもこのピターとマータは夫婦だという見解があり、「ピター&マータ」はなかなか離れない性質があるのだ。
だから二匹に戦力をそれぞれ分断して別の場所で戦おうとしても、マータが逃げ出してピターの援護に行ってしまう事もある。
ベッタリである。
「___リンドウさん、これどうすれば?」
コウタが不安そうにリンドウに尋ねる。ピターが一匹だけでも強いのだ。マータもいる混戦となったら犠牲者が出るだろう。
ふとさっきから静かなアリサを見ると、まだトラウマがあるのか少し震えている。それでも前回のように座り込む事は無かった。
ソーマとサクヤは平常営業だ。
「・・・作戦がある」
こいつらならやれるだろう、と確信したリンドウは先程思いついた作戦を話した。
「はあっ!」
「せやあっ!」
アリサとソーマの神機がそれぞれピターを斬りつける。顔を×印に切り裂かれたピターが少し怯んだ。
この場にプリティヴィ・マータは居ない。マータとはリンドウが戦っている。
あの時にリンドウが話した作戦とは、こうだった。
『作戦って?』
『そんな対したこと無いんだがな。まず俺がマータの眼前でスタングレネードを炸裂させる。んでマータがスタン状態になっている間にお前らはピターを刺激してどんどん遠くまで追いかけさせろ。俺はマータがスタン状態から直るたびにスタングレネードを炸裂させて一分間ぐらいここに留めておく。俺とマータが一体一っていう構図になっちまうが、まぁそれはいいだろう』
『『『『(良くない・・・)』』』』
軽い調子でリンドウが言うが、常識的にヴァジュラ種と一体一というのは本来「良くない」のだ。
猫のような俊敏な動き、強力な電撃、等ヴァジュラはアラガミの中で強い部類。しかもプリティヴィ・マータはディアウス・ピターとまではいかないがヴァジュラの上位互換だ。
まぁ、リンドウなら実際大丈夫なのだが。
『少し問題があるんだが・・・、お前ら4人で、ピターを倒せるか?』
『『『『____!?』』』』
顎をさすりながら呟いたリンドウの言葉に、一同が息を飲む。
もともと5人で来たのは5人でピターを討伐するためだ。その5人のソーマに並ぶ主戦力と言えるリンドウが居ない事は大きな差になるだろう。
しかもピターはアリサの両親の敵である。アリサのフォローも必要になるだろう...
『私は...大丈夫です』
『アリサ!?』
アリサの言葉にコウタが驚いた表情をするが、アリサの決意は硬かった。
『OKだ。いいか、命令は変わらずだ。絶対に死ぬなよ』
『リンドウもね...』
アリサの表情を見て大丈夫だろうと判断したリンドウの言葉にサクヤ答え、「3,2,1」の合図と共にリンドウがスタングレネードを放った。
______場は現在に戻る。
サクヤとコウタがマントを狙って銃弾を撃ち込んでいく。対ヴァジュラ戦において、マントを結合崩壊をさせれた場合の戦局の変化は大きい。
ヴァジュラ種はマントに電気(や冷気)を溜め込んでいるので、マントが壊れたヴァジュラの電撃が不発に終わるどころか、暴発して自分がダメージを受ける事もある。
〈ギャオオオオオオオオオオ!!〉
ピターが体の周囲に電撃の球を回転させるのをソーマとアリサはなんとか屈んでかわす。溜め動作が見られない分回避は難しいが、その分ピターは電撃をしばらく体の周囲で回転させるので回避をしたら大きなチャンスとなるのどが。
「「はあああっ!」」
ソーマとアリサが左右から胴体を捕喰し、
「ダウンしたぞ!」
「もう一度______いただきます!」
ソーマの掛け声と共にアリサが再びピターの前足を捕喰し、得たアラガミバレットをサクヤとコウタにそれぞれ3つずつ撃ち込んでいく。
そのうちにソーマがチャージクラッシュをマントに叩き込み、生まれた傷にサクヤとコウタが濃縮アラガミバレットを___撃ち込んだ。
「「「うわあああああああ!」」」
「チイッ・・!」
濃縮アラガミバレットの威力に周囲の四人(撃った二人も含め)が大きく吹き飛ぶ。
ピターの電撃を濃縮したのだ。威力は凄まじい。
「やったか・・・」
体中が痺れ立ち上がれないソーマが、うつ伏せの状態でもうもうと砂煙が上がる場所を見る。
濃縮アラガミバレットを二回傷口に撃ち込まれ、生きていられるようなアラガミは居ないだろう。
これでケイトの
〈ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉
____砂煙が晴れ、そこには電気を迸らせながら吠える化け物が居た。
「そんな・・・!」
アリサが思わず悲壮な声を上げる。多分、いや確実にこの場にいる誰もがそう思っただろう。
濃縮アラガミバレットを傷口に二発撃ち込まれてボロボロになりながらも立ち上がる「帝王」に、勝てる見込みがあるのか。
この場にいる四人は全員先程の電撃(誤射?)でなかなか動けない。今なら格好の餌食だろう。
そこには強靭なる捕喰者と弱き被捕喰者の構図が出来上がっていた。
「ぐ...うおおおおおおおおお!」
なんとか立ち上がったソーマが神機を構え帝王に突っ込んでいくも、あっさりと振られた右腕に吹き飛ばされる。
「ぐああ!」
ソーマが壁にぶつかり木片がその体にぱらぱらと降り積もる。
悠々とソーマに向かって歩いていく帝王を目の前にして、アリサの頭に映像がフラッシュバックした。
『アラガミが来たぞーーー!』
移住区を走り回りながら叫ぶ男性。移住区の住民がパニックになっている。
『うわああああああああ!』
大声を出し過ぎたのか男性にヴァジュラ____ディアウス・ピターが襲い掛かり喰らいつく。
グチュグチュ、グシャグシャ
肉片を撒き散らしながら、ピターは男性を捕喰し尽くし、次の捕喰対象に襲い掛かる
____それは、自分とついさっきまで会話してかくれんぼをしていた両親。
『パパ...ママ......?やめて、食べないで……!』
記憶の中の幼いアリサが物陰に隠れながら、ピターに襲われている両親を見つめ悲痛な声を上げる。
ピターの体に隠れてよく二人が見えない。
_____鮮血が、舞う。
『イヤぁぁぁぁぁっ!!やめてえええええええっ!!』
幼いアリサの悲鳴を最後に、目の前が真っ暗になった...
____場面が切り替わっていく。
『アリサ!逃げろ!』
(・・・!!これは、あの時の・・・!?)
クアドリガを倒した二人の前に現れたピターを見て、震えて動けないアリサを庇うようにケイトがタワーシールドを展開している。
ケイトがスタングレネードを炸裂させてホールドトラップを二回設置し、アリサと話している。いやいやと首を振るアリサにケイトが怒鳴り、無理矢理立ち上がらせた。
『行ってこい。大丈夫さ。俺ならなんとかなるさ。多分』
『・・・はい』
『よし行け!ヘリの手配は宜しくな!饅頭とっといてくれよ!』
頷いたアリサがピターから逃げて行く...........
____意識が戻った。
どうやら一瞬のうちに映像が見えたようだ。
(あれからケイトは帰ってきていない・・・)
目の前ではソーマを捕食せんとピターがソーマに近付いている。
______アリサの頭の中で、何かが切れた。
「ああああああああァァァァァァ!!!!!」
「・・・!?アリサ!?」
両親を失い、ケイトを失い、今度も自分は目の前で仲間を失うのか!?
戦う力____神機があるのに何も出来ないのか!?
(それは・・・嫌だ!!!)
ふつふつと心の中で湧き上がってきた物が、段々とごぽごぽと競り上がってきた。
此奴は...殺す殺す殺スコロスコロス!!
_____それは、激しい怒りと憎しみ。
「やめろ!アリサ!」
ソーマの制止の声も聞こえずに、アリサは目の前の敵を抹殺せんと飛びかかっていった_____
「やめろっつってんだろ馬鹿野郎!!」
脳天にリンドウの拳骨が落ち、ハッとアリサは我に返った。
目の前を見るとズタズタにされたピター。もうコアの回収も不可能なほどにズタズタにされている。
(これは・・・自分がやったのか?)
途端に背筋に寒気が走った。自我を失い絶命しているアラガミを自分はザクザクと斬り刻んでいたのだろう。
端から見たら狂っている様にしか見えない。
「大丈夫か?」
アリサが落ち着いたのが分かったのかコウタがアリサの目を心配そうに覗き込んで来た。
「・・・もう大丈夫です。それより、ピターの捕喰は?」
アリサが聞いた途端に周囲の皆の表情が曇った。
____まるで、その現実を話したくないように。
(まさか・・・)
杞憂だ。杞憂であって欲しい。アリサの切実な願いは___
「ケイトの腕輪と神機が見つかっちまった」
リンドウの声と共に、裏切られた。