GOD EATER 〜暗殺者の贖罪〜   作:KETAKETA

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もう、居ない

饅頭を頬張り幸せそうにしていた彼は、

お茶を啜りながら幸せそうにしていた彼は、

寝顔の公開に対して極端にびびった彼は、

______最期まで身を張って誰かを護った彼は、

__________________もう、居ない。


面倒事16:居なくなった想い人

葬式はひっそりと行われた。

 

第一部隊に所属していた白鐘ケイトが、実際にアナグラに居た期間は一年未満だ。

その美貌(男だが)により女性の神機使いからのミーハー的周知度は高かったが、やはりケイトを知っている人が多い訳では無い。

神機を握るのにようやく慣れてきた新人の死亡事故____たったそれだけにしか数えられないだろう。

「第一部隊の新型神機使いが死んだ」_____それだけだ。

 

「アリサ、居る?」

 

葬式が終了してからサクヤはアリサが居る部屋を訪ねていた。

ミッションにも出撃せず、葬式にも参加しなかったアリサの様子を見る為、というのもあったが、今回は別の重要な要件があった。

 

「...入るわよ」

 

ガチャ、という音と共に無言で開けられたドアを確認し、サクヤは「ケイトの」部屋に入る。

ケイトの腕輪と神機が発見されてから、アリサの部屋の鍵は作られた。だがアリサは鍵を受け取っても自分の部屋を使う事を拒み、ケイトの部屋を相変わらず使っている。

____彼を忘れたくないのだろう。

ぐるっと見回すと、部屋は普段の散らかり方よりも少し違った散らかり方をしていた。これは、心が荒んでしまった人の散らかし方だ。

 

「...アリサ」

「...」

 

目の前には、自分がドアを開けたのに怯えたようにふるふると震えているアリサが居た。全く動いていないのに、前よりげっそりと痩せてしまったようだ。

 

「立ち話もなんだし、座って」

「...はい」

 

これは自分が言う言葉じゃないだろう、と内心苦笑しながらアリサをケイトの部屋のソファに座らせる。自分もその対面に座り、テーブルの上に先程買ってきた缶コーヒーを二つ並べた。

 

「...ごめんなさい」

「え?」

 

いきなり口を開いたと思ったら謝ってくるアリサに思わず聞き返す。

 

「私のせいで...死んでしまった仲間の葬式にも、参加しないで...」

「アリサ...」

「足手まといの自分のせいで仲間を失って、それに心を病んで任務にも参加せず、結局は自業自得の悪循環。私って、公私混同もいいところです」

「...」

 

否定しようと思ったが、ひたすら懺悔するように俯いて言葉を紡ぐアリサの表情を見て、やめた。

今は下手な慰めはアリサを余計に傷付けるだけだ。

 

「でも...!公私混同はいけないって、自分は彼のために頑張らなければならないって、分かってても!」

「...」

「...死んでしまった彼を思うと、これ以上私が動いても周りを傷付けるだけじゃないかって、私が『彼の為に』なんてただ思い上がってるだけじゃないかって・・・」

 

俯いていた顔を上げて言葉を吐き出していたアリサが、また俯く。

彼女は迷っていたのだ。自分がどうすればいいのかを、どうするべきなのかを。

 

「...アリサは、ケイト君の事が好きなのね」

「___はい...。...けど、時々分からなくなるんです。自分がケイトを好きなのは、あくまでも彼に助けられたからだけじゃないかって。彼を本当に愛してる訳では無いんじゃないかって」

「...そう...」

 

そもそもこんな精神が未発達な年頃の少女には、重過ぎる命題だ。

幼き頃に両親を失い、両親の敵を討つつもりが、その敵に仲間___自分が最も愛していた人が殺される。

カミサマなぞ糞食らえだが、ここまでの不幸を神は人に植え付けるのか。

 

「アリサ...私はケイト君から一つ頼まれた事があるの」

「え...?」

 

サクヤの唐突な言葉にアリサが目をまたたかせる。

サクヤがケイトから頼まれた事____それは、「自分にもしもの事があったら...」という物だった。

それはケイトがシユウの爆炎球からアリサを庇い、病室行きになった時の事である。

 

 

サクヤはケイトの病室を訪ねていた。

胸から腹にかけて大火傷を負ったケイトは、何故かアリサが見舞いに来るのを拒んでいる。

サクヤの目的はただの見舞いというのもあったが、その事についてケイトに尋ねるという目的も含まれていた。

 

『大火傷を負っている人の食べているものがそれね...』

『...あ、サクヤさん。ちわーっす。知ってます?饅頭を食べたら怪我は一瞬で治るんですよー』

『そんな訳無いじゃない。体調の方は大丈夫なの?』

『生憎大丈夫ですよ。このまま一生動けない重態だったら任務とか行かなくていいのになー。面倒臭い』

 

ケイトは饅頭を食べながら至極残念そうに溜息を吐いた。

前「何故ゴットイーターになったのか?」と聞くと「適合してしまったから」と答えられた。

どれだけ本気なのかが分からない。

 

『んでサクヤさん。わざわざ見舞いの為に任務で疲れきった身体を引きずってここまで?』

『そうそう...聞きたい事があるの』

『聞きたい事?』

『貴方がアリサの見舞いを拒む___いや、アリサが配属された時の不自然な態度の理由』

『ほぼ全部ですよそれ...』

 

ケイトが困ったような顔をする。

それもそうだろう。基本「喧嘩とか面倒だから」と人当たりがいいケイトが、初対面の人間にあんな態度を取る程の理由だ。理由(ワケ)が深くない筈が無い。

しかもその理由を全部教えろと問うのだ。困るのは当然だ。

 

『そうっすね...』

(...!?)

 

顎をつまんで考え込むケイトの服は患者服で真っ白だ。

なのに何故か、一瞬____ほんの一瞬、ケイトの服が真っ赤(血の色)に染まって見えた。

 

『できれば言いたく無いんだけどなー...』

『___けどもしものことがあったらどうするの。この御時世にこの職業よ?何も分からないまま死んでしまう事もあるわ』

『面倒っちぃ...』

 

サクヤの言葉に、ケイトが深く溜息を吐く。

二人が居る病室が途端静かになった。病室に設置された壁掛け時計のチクタクという音だけが響いている。

待つこと数十秒。ケイトが思考を終了させて顔を上げた。

 

『じゃぁサクヤさん。お願いがあります』

『___お願い?』

 

ケイトの口から告げられた言葉は、『自分にもしものことがあったら、回収された腕輪で自分のターミナルを開いて、アリサ宛の手紙をアリサに見せて欲しい』という物だった。

 

 

「そんな事が・・・」

「ええ。貴方にその事を言わなかったのは悪いと思っているわ。___で、...見る?」

 

サクヤの言葉にアリサがぐっと息を飲む。まだケイトの死から立ち直れて居ないのだ。

____そんな精神状態でケイトからの置き手紙を見るのは、「辛い」なんて言うレベルではないだろう。

 

「見ます」

「・・・そう」

 

だが、結局この少女は強かった。

ケイトの部屋のターミナルを起動し、神機と腕輪を保管している所から拝借してきたケイトの腕輪を読み込ませる。

 

「これね...」

 

開かれたターミナルにはただ一つ、『Dear Arisa』というファイルが保存されていた。

 

「それじゃぁ、覚悟が決まったら見てね」

「あ...」

 

アリサを部屋に残し、サクヤが「じゃぁね」と部屋を出て行く。

残されたアリサはターミナルを睨み付けるように見つめ、覚悟を決めてファイルを開いた。

 

 

『Dear:Arisa

 

Hello.How are you.

I'm fine thank you, and you?

・・・あいむおーけーせんきゅーとぅー

 

分かった。冗談だって。俺言える英語これしかないからちょっとカッコつけたかったのよ。

てかこれお前が見てるってことは俺死んでるよね?「あいむおーけー」じゃ足りないなー。「いんへる(地獄で)(in hell)」って追加しなきゃ。

まぁいいや本題に入るよー。

改めて言うけど、お前がこれを見てるって事は、俺はもう死んでいて、腕輪が回収されていると思う。

今から書いてある事は信じられないし、信じたくないだろうけど、本当の事です。

前持って言っておくけど、俺は今までに最低な事ばっかしてきたから、俺は最低な人間だ。

だからお前はそんな最低な奴の死なんて気にせず、任務に励んでくれよ。

数年前にお前の両親が髭付き猫(ディアウス・ピター)に襲われた時、俺は 』

 

 

手紙はそこで終わっていた。

ここまで書いた後、『蒼穹の月』の事件があって、ケイトは記憶を失ったのだろう。

しかしこの手紙を読んでいて、一つ違和感を感じた。

 

「話してない...」

 

蒼穹の月の前には、アリサの両親の事はケイトに話していないのだ。

髭付き猫(ディアウス・ピター)___即ちアリサの両親を襲った存在。

...つまり、ケイトは少なくともアリサの両親がピターに襲われた事を知っていたのだ。

そして「最低な人間(・・・・・)」という言葉。

アリサの両親が殺されたのを知っているだけで、まさか「最低」とまでは自分を卑下しないだろう。

 

「___そんなことは...」

 

考えたく無い。認めたく無い。

ケイトは(・・・・)アリサの(・・・・)両親の死(・・・・)に何らか(・・・・)の形で影(・・・・)響してい(・・・・)()」なんて...

 

「___そんな訳が無いじゃないですか!」

 

頭を侵食する考えを打ち払うように大声を出す。

不安は完璧に拭えず、それどころかどんどん考えを侵食していくけれど、

 

____少なくとも死んでしまったケイトに胸を張れるくらいには、頑張ろうと思えた。

 

 

 

「あ〜寒ぃ」

「アーサミィ〜」

「棒読みせんでええよ...」

 

季節は冬に入り、鎮魂の廃寺はさらに寒くなっている。

隣で全く寒くなさそうにしているアラガミの少女を睨み付けながら、ケイトは白い息を吐いた。

アラガミを喰い続けた為にほぼ全身の細胞がもうアラガミ化している。(勿論人間の姿をしているが)

しかし細胞がアラガミ化しているのに暑い寒いの感覚は変わらず、変わったのは味覚だけだ。

生粋のアラガミには勝てない。

____まぁまだ人間で居たいから張り合う積りは毛頭無いのだが。

 

「しっかし困ったなー」

「コマッタナー?」

 

あの時二人の神機使いを気絶させてからここ一帯が怪しまれてしまったみたいで、色々な神機使いが鎮魂の廃寺に調査にやってくる。

その度に姿を見られずに気絶させなければいけないのだ。「堕ちた人(フォールマン)」なんてなんの研究対象にならないだろうに。

 

(とは言っても・・・)

「・・・?」

 

その堕ちた人の隣にもっと興味深い研究対象がいるんだったな、と隣のアラガミの少女を見る。

この少女はもうカタコトだが通常の会話は出来る。挨拶も出来るから、アラガミに両親を喰われた哀れな少女に見えるだろう。

だがアナグラに連れ帰られてメディカルチェックを受けさせられたらもうお終いだ。生粋のアラガミであるこの少女は容赦なく解剖され研究される。

 

(ま、面倒臭いけど見つかんなきゃいいからね)

 

考えるのが面倒になり頭の中で不完全な自己完結を行い、右腕をショートブレードの形に変形させる。

そろそろ腹が減ってきた。

 

「さてさて、飯に行きましょうかね」

 

アラガミを喰うのにもなれちまったなぁ...

 

 

 

 

 

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