「あの子関連の事かなぁ?」
「そうじゃないですか?」
アラガミの少女を連れ帰った日の翌日の早朝、サカキ博士にコウタやアリサ達___第一部隊はラボラトリに呼び出されていた。
あの少女は何処で憶えてきたかは知らないが、言葉は10歳ぐらいの年頃の少女にしては充分過ぎる程話せるようで、朝には「オハヨウゴザイマス」昼には「コンニチワ」という挨拶もしている。
しかしやはりアラガミであるが故に、シオに割り当てられた隠れ部屋の冷蔵庫は捕喰されており、植木鉢もひっくり返されている。
「___サカキのおっさん、入るぞ」
「どうぞ」
リンドウを筆頭に、ソーマを除いた第一部隊の面々がぞろぞろとサカキのラボラトリに入っていく。
「オハヨウゴザイマス!!」
それに気付いた少女が大声で挨拶をして頭を下げる。
よしよし、とアリサが少女の頭を撫でた。
「で、サカキ博士。こんな朝早くに何を?」
サクヤがサカキに尋ねる。
それもそのはず、今はなんと05:00である。
第一部隊はその支部が誇るその支部きっての精鋭であるが為、ケイトのようなサボり人は居たが基本忙しい。
忙しいが故に任務関連以外で第一部隊を呼び出すのは難しい。だからサカキは朝早くに第一部隊に集まるように呼びかけたのだ。
「この子に、名前を付けてあげて欲しいんだ」
「名前、ですか?」
サクヤの問いに答えたサカキの言葉に、思わずアリサは拍子抜けした。
昨日連れて来たばかりなので、まだこの子に名前は付けていない。そもそも「名前を付ける」という概念すらなかったのだ。
「ああ。いつまでも『この子』扱いだと色々不便だからね」
サカキの言葉に反応するように少女がニコッと笑う。
少女の無邪気な笑みにラボラトリに穏やかな雰囲気が流れた。
「どうもこの手の名前をつけるのは苦手でね......代わりに素敵な名前を考えてほしいんだけど、どうかな?」
「ふっ...俺、ネーミングセンスには自信があるんだよね!」
コウタの言葉に第一部隊の面々とサカキが「どの口が言うんだ」という視線を注ぐ。
コウタのネーミングセンスが壊滅的であることは周知の事実である。異論は認めない。
「そうだな...例えば、ノラ「シオ!!」...ミ?」
コウタの言葉を遮って少女が主張するように叫ぶ。
「いいですね...何処ぞの馬鹿の『ノラ』から始まる名前よりいいと思います」
「そうね...それ、貴方の名前?」
第一部隊の女性二人からの無視&攻撃に合い、コウタが項垂れる。
「そうだよ!!そーまが、『お前の名前はシオだ』って!」
「へぇ〜」
「ほぉ〜」
「仲良くなってるじゃねぇか」
立ち直っていないコウタを除く全員が今この場に居ないソーマを次々と冷やかす。
「どうやら、ソーマ君が名付け親なみたいだね」
そう言って、サカキがキュッと口の端を上げて微笑む。
その表情と言葉は、冷やかしだけではなくとても嬉しそうであった。
「シオに服を着せて欲しい」
またまた早朝にサカキに呼び出された第一部隊に、「自分にはどうにもならない事」と言われ場に緊張が走ったが、何の事は無かった。
確かにサカキにはどうにもならない事である。具体的には性別の差である。
だからと言ってシオに服を着せない訳にはいかず、やむなく第一部隊に頼む事になったらしい。
「だったら何故俺を呼ぶ...帰るぞ...」
「ごめん、俺も役に立てなさそうに無いし、バガラリーいいところだったから帰るよ」
当然と言えば当然(?)の態度でソーマとコウタがラボラトリを出て行く。
シオはアラガミであろうと仮にも見た目は少女だ。服の着替えを手伝うなど(男としての)沽券に関わる。
「俺は__「貴方は覗いたりなんかしないよねリンドウ?」...任務行ってくるぞ...」
サクヤの信頼性0の言葉に若干肩を落としながら、リンドウもラボラトリを出て行く。
「サカキ博士。奥の部屋借りていいですか?___来てシオちゃん」
「なーにー?」
サカキに確認を取るや否や、シオを呼んで女性陣は奥の部屋に入っていく。
___「覗いたりしないでくださいね、博士」というアリサが去り際に告げて...
「____アナグラの男性陣はとことん信頼性が0なんだね...」
僕も言われて気付いたよ傷付いたけど、とサカキ一人となったラボラトリで
「彼等は面白い。此方が予測できない行動をして行く。___これも予想範囲内で言葉を教えていたのかい?
入隊後1年も経たず、仲間を守って「
「____シオちゃんの服は〈ドゴォォォォォォォォォン!!〉...ん?」
突如ラボラトリに轟いた轟音に思わず首を傾げた。
「ゴホッ...ゴホッ...」
バン、と奥の部屋の扉が開けられてサクヤ達が出て来た。どういうわけか砂煙が噴出してくる。
「シオちゃんが...壁を壊して外に...!」
続けられたアリサの言葉に、「やはり予測できない...」と小さく呟くサカキであった。
「視界晴れ 空の天気は 雨模様
僕の心は ささくれ嵐」
天気で自分の心を表した俳句ですねはい。
ケイトはげっそりとした顔で溜息を吐いた。
「視界晴れ」___詰まる所隠れるところが無い平坦な場所。
「雨模様」___そのまま。雨が降ってる。
___分かる人は分かると思う。
鎮魂の廃寺を出発して、宛てもなく
...こっちが嘆きたいよクソ野郎。
別に雨が嫌な訳では無い。そりゃ勿論青空をゆったりと流れている雲を眺める方が好きだが、雨は嘆くほど嫌いじゃない。
問題なのは「平原」であること。逃げる場所も隠れる場所も無い。真ん中に常時吹き荒れる竜巻に飛び込めば、生きる事から逃げられるだろうが、生憎自分は自殺志願者では無い。
「んで俺が最も困ってるのはさ...」
とっとっと、と軽快に走りながら大きな溜息を吐く。
走るステップの軽さと現状の重さが対照的だ。
「ウロヴォロス警官が一体巡回中なんだよね...」
嘆きの平原に到着し、「ここ、何処だろう」と周囲を見渡した瞬間に聞こえたドシン、ドシン、と地面に響く足音。
まさか着いていきなりウロヴォロスが居る筈が無い、と現実逃避して居たら一瞬垣間見えた巨大な触手の数々。
そして現在はウロヴォロスから見えないように絶賛逃亡中だ。
「うわっ!!」
背後から猛烈な殺気を感じて慌てて横に大きく飛びのいたら、さっきまで自分が立っていた地面を極太レーザーが大きく抉っていた。
恐る恐る後ろを振り向くと複眼の前にモヤモヤとした光を溜めているウロヴォロス。
状況把握に3秒、考えるのに3秒、身の危険に気付くのに1秒。
その合計7秒をウロヴォロスが待ってくれる筈が無く、ケイトに向かって再び極太レーザーが飛んで来た。
「うおっと!...しくったなぁ...」
ちゃんと逃げてた筈なのに。
目の前のウロヴォロスから目を逸らさずに、ごろごろと地面を転がる。
すかさず触手が飛んできて、それを変形させた右腕で次々と叩き落としていく。気分は絶対絶命の主人公だ。
〈ギャオオオオオオオ!!〉
「ほいしょ!___せりゃ!」
ウロヴォロスの薙ぎ払いを前方に大きく跳躍することで紙一重でかわし、触手の上を駆けながら次々とウロヴォロスを切り裂く。
アラガミを喰らい続けた結果、もう今までの比にならないレベルの、恐ろしい程の身体能力を手に入れた。
左腕を変形することも出来るようになったし、と内心独りごちりながら左腕をスナイパー型に変形させ、ウロヴォロスの大きな弱点である複眼を狙ってレーザーを撃ち込んだ。
〈ギャオォォ!?〉
「面倒臭いからさっさと倒れてくれよ!」
複眼をやられ大きく怯んだウロヴォロスの目の前に跳躍し、鋭い槍の形に変形させた両腕を複眼の一点を狙って次々と突き刺していく。つくづく自分は人間を辞めてると思う。
突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す_____
痛みか怒りからか暴れるウロヴォロスに足でしがみつきながら両腕をどんどん突き刺す。
〈ギャオオオオ!〉
「___っと!危ないなちきしょう!」
ウロヴォロスが自分の触手でケイトを突き刺そうと触手を振り回すのを、攻撃を中断してケイトは何とか避ける。
____行き場失ったウロヴォロスの触手は、自分の複眼に深く突き刺さった。
〈ギャオオオオオ!?〉
「阿呆か...」
バキッという音と共にウロヴォロスの複眼が潰れた。
自分の眼に深々と突き刺さった触手を引っこ抜こうと精一杯暴れるが、なかなか抜けない。
「触手を眼に突き刺すとかどんな自虐プレイだよっと!」
〈ギャオ!?〉
ウロヴォロスの複眼にケイトの両腕の槍を深々と突き刺し、突き刺した状態のまま両腕を長刀の形に変形させ力任せに十字に切り裂く。
飛び散る鮮血に身を濡らしながらケイトは大きく跳躍し、両腕を合わせてバスターの数倍もある大刀に変形させ、_____コアがあるであろう場所に思いっきり突き刺した。
〈ギャ...オオ...〉
コアを大刀に貫かれ、ようやくウロヴォロスは絶命した。
ドシン、という音と共に、ウロヴォロスの超弩級の巨体が倒れていく。押し潰され無いようにと、ケイトは既に避難済みだ。
「うおぉ...疲れたぁ」
嘆きの平原デビュー戦がウロヴォロスなんて洒落にならない、と呟きながら両腕の感覚を頼りにウロヴォロスのコアを引き抜き、喰らった。
改めて全身を見るとなかなか悲惨な状態だ。右足の末端近くは大きく抉れ、腹部は打撲傷だらけ。
治療なんて出来ない。フェンリルの研究材料になる覚悟でもしなければ。まぁ結局自分はほぼアラガミなので、アラガミを喰らっていけば勝手に治っていく。
霧散しないうちに、と食べれるだけ食べて、ウロヴォロスの死体から立ち去った。
「___ウロヴォロスが...倒されてる!?」
リンドウは驚愕で言葉が出なかった。
第一部隊隊長であるリンドウは、支部長からの極秘任務___通称「特務」を受けている。
その内容は名前の通り極秘であるが故に、リンドウは単独で任務を遂行する事が多い。
しかもその討伐対象がヴァジュラ種以上の実力であったりするのだから、実力を認められた物しか受けられないのだ。
「こりゃぁ...どうするかなぁ...」
ウロヴォロスを倒すとなると、類稀なる実力者のゴッドイーターが勝手に倒したのか、接触禁忌種レベルのアラガミだろう。
ウロヴォロスの死体を見渡すと、弱点の複眼ばかりを攻撃されていた跡があった。
アラガミは弱点を狙った攻撃などしない。ウロヴォロスを倒したのがアラガミである線は薄いだろう。
「(槍で貫かれたような傷跡から大太刀でぶった斬られたような傷跡まで...。複数のゴッドイーターが討伐したのか?)」
死体が残ってるから取り敢えず捕喰しておくか、と思い素材を採取しておく。
採取された物の中にコアは無く、その代わりに仄黒い羽のような物が混ざっていた。
「...関係あるかな」
その仄黒い羽を回収し、まだ着陸ポイントから離脱していないヘリに乗って帰って行った。
Side:ケイト
「...ヤバいなぁ」
先程リンドウが嘆きの平原から去って行くのを確認した後、ケイトは瓦礫の後ろから姿を表した。
完璧なアラガミ化は避けられているとは言え、やはり色々な障害が出てくる。リンドウが回収していった仄黒い羽もそうだ。動いていたら身体からわさわさ出てくる。
サカキはほぼアラガミ化したケイトの存在に気付いているだろう。そしてあの仄黒い羽が物的証拠になったら、命を狙われてしまう。
「まぁ色々と画策するのも面倒だし...逃げりゃぁいいか。成すようになるさ逃げるけど」
考えるのも面倒だし、と思考を放棄して昼に食べきれなかったウロヴォロスの大きなコアに噛り付く。夜飯はこれで済むだろう。
因みにウロヴォロスのコアは結構美味しくて、もずくの味がする。触手だけに。
「ザイゴートのコアの方が好きだなぁ」
ザイゴートのコアは卵饅頭の味がする。ちなみにマグマの堕天種のザイゴートは月餅の味がし、電気の堕天種のザイゴートは何故か油揚げの味がする。
アラガミの味覚でしか理解出来ない味だが、アラガミに油揚げの味があることは如何なる味覚を持ってしても理解出来ない。
「っていうか、何処に住むかな」
嘆きの平原に家屋などがあるはずが無く、流石にアラガミが闊歩する場所で野宿する勇気は無い。
「贖罪の街あたりに教会が何個かあったよね...。あそこに住めばいいかな?」
適当に歩いていけば着くだろう、と適当な予測を立て、大して愛着も無い平原を去って行った。
「おお、ちゃんと服は着れたのか」
嘆きの平原で拾った仄黒い羽をサカキに渡して、リンドウはサカキの近くに引っ付いているシオの頭を撫でる。シオは純白のドレスを着ていた。
ウロヴォロスが倒されていたことは、支部長には適当に誤魔化して報告しておいた。
その後支部長に渡さずに持っておいた仄黒い羽を渡す為にサカキのラボラトリに向かったのだが、リンドウの予想以上にサカキは嬉しそうにしてそれを受け取った。リンドウがその理由を聞こうとしても、意味あり気に微笑むだけでサカキは答えてくれない。
「苦労したわよ。一回逃げ出しちゃったんだから」
「そうなのか?」
サクヤの話を聞くに、人間用の服を着せようとしたらシオは壁を破壊して逃げてしまったらしい。そのあとコウタの発案でアラガミ素材のドレスをリッカに作ってもらったらしいのだが、シオは大層お気に召したたしく、機嫌良さげに歌を歌っている。
「〜〜〜〜〜♪~~~♪」
「わぁ!凄いじゃないですか!誰に教えて貰ったんですか!?」
シオの歌声を聴いたアリサが興奮気味にシオに問う。まぁ、大方予想出来るがな。
「これ、そーまといっしょにきいたんだぞ!えらい?」
「「えぇ!?」」
シオの無邪気な言葉にアリサとコウタが驚愕の声を上げる。サクヤはにやにやと笑っているだけだ。
「チッ...俺は帰るz「まぁ待ちなさいソーマ君、話を聞かせて貰おうじゃねぇか」...おいリンドウ離せ!」
逃げるように退出しようとしたソーマの腕をリンドウが掴み、サカキにラボラトリのドアをロックして貰う。
暴れるソーマをリンドウが抑え付け、サクヤ達が周りを取り囲み尋問体制に入った。
「で、他にシオちゃんと何したの?ソーマ?」←サクヤ
「AとかBとかCとか?」←コウタ
「うわぁソーマさん...まだ年端も行かぬ少女にそんな事を...ドン引きです」←アリサ
「サクヤにコウタにアリサ...てめぇら後でブッ殺s「リンドウ君頼みの物は出来たよ」...オイ博士、その怪しげな液体はなんだ」
ラボラトリの奥の部屋から怪しげな液体を持って来たサカキを睨み付け、ソーマが問う。
「「強制自白剤」」←サカキ&リンドウ
「おいやめろ___「じゃぁ飲ませるよ」___グボハァ!」
ソーマを4人がかりで抑え付け、サカキがソーマに自白剤を飲ませた。
その後、サカキを含む5人がソーマに再起不能な程ズタボロにされたのは言うまでも無い...
ケイトが銃撃でウロヴォロスの複眼を狙えたのは、発射したレーザーが自分のオラクル細胞を集結させたものの為、発射後見当違いの方向に飛んで行ったレーザーをコントロール出来るからです。