GOD EATER 〜暗殺者の贖罪〜   作:KETAKETA

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面倒事19:生まれてきた精神体

まだ慣れないな、この感覚。

リッカは、目の前に並ぶ神機を見てこっそりと溜息を吐いた。

極東支部の神機整備士である彼女は、当然極東支部の神機使い(ゴッドイーター)達の神機の整備を行う。

____そして死亡率の高い神機使い(ゴッドイーター)であるが故に、持ち主を失った神機もよく扱う。

今目の前に並んでいるのは、その持ち主を失った神機達だ。

神機に適合する人が後に発見されるかもしれないのだ。整備を怠る訳にはいかない。

 

「ケイト君...」

 

そしてその持ち主が知り合いだったりすると、尚更辛かったりする。

ケイトの神機を取り出し、器具を使って整備していく。

リッカがケイトと知り合ったのは、何の事も無い、ただの日常風景であった。

 

 

〜回想〜

 

 

『ぐぅふっ...』

 

整備の仕事が一段落し、メインエントランスに来たらソファで突っ伏している青年が目に入った。

ミッション蒼穹の月でリンドウ救出の為に記憶を失った青年、白鐘ケイトである。

彼は神機を丁寧に使っているので、整備士としてのリッカはケイトに好感を抱いている。

 

『...どうしたの?』

 

ぐおぉ、と口を抑えて悶えているケイトに話しかける。

彼の右手には『冷やしカレードリンク』が握られていた。

彼はその『冷やしカレードリンク』という味覚センスの欠片も無いブツを飲んでぶっ倒れているのだが、その『冷やしカレードリンク』の愛飲者であるリッカが知る由もない。

...知る由もなかったのだ。ケイトにこれ以上『冷やしカレードリンク』を飲ましたら事態が悪化する事など。

 

『よく事情は分からないけど、はい。これ飲み物』

 

まぁとにかく飲み物を飲めばなんとかなるだろう、と思い自分が持っていた『冷やしカレードリンク』をケイトに渡す。

込み上げる吐き気に耐えていたケイトは寸分の迷いも無く受け取り___一気に飲んだ。

 

『____ゴフゥ!?』

『ケイト君!?』

 

結局リッカは状況が把握出来ないまま、ケイトの介抱をしたのであった...

 

 

〜回想終了〜

 

 

「結局冷やしカレードリンク全部飲んだんだよなぁ...」

 

その時の事を思い出し、プッと少し吹き出した。

結局彼は『勿体ない』と言って持っていた冷やしカレードリンクを全部飲んだのだが、今度は彼は気絶してしまい、大慌てしたのは記憶に新しい。

 

「さて、物思いはここまで、と」

 

思考から現実に戻り、リッカはケイトの物であった神機を収納する。

 

「___え!?誰!?」

 

さてさて次の神機___と動き出した彼女の前に、誰かが立っていた。

ここに来るにはエレベーターを使わなければならない。だがリッカはエレベーターの起動音は聞いてなかった。

 

「...ケイト君?」

 

よくよく見るとその「誰か」は真紅の髪に、碧眼を持っていた___つまりケイトにそっくりである。

 

〈やめて下さい。あの面倒くさがり饅頭大好きクソ野郎と一緒にされるなんて。子孫末代の恥です〉

「けど...そっくりだよ?」

 

リッカの言う通り、目の前に立つ青年は、ケイト以外の誰の姿でも無い。___多少、目元がキツイが。

 

〈...レンはあの煙草好き酒乱クソ野郎とは別の姿で出来てるのに...美琴はあのツンデレ巨乳露出狂と別の姿で出来てるのに...何故俺はあの面倒くさがり饅頭大好きクソ野郎と一緒の姿なんだクソ野郎...ブツブツ〉

「(うわぁ...これって声掛けたらいけない感じかな?)」

 

基本リッカはざっくばらんな性格であるが故に、初対面の人にも普通に話し掛ける。

その彼女でさえ話し掛けられないような負の思念が目の前の青年から漂っていた。

 

「___え...っと、貴方、誰?」

〈俺はライトです。決して『ケイト』とかいうクソ野郎ではありません。ライトです〉

「(『イト』が同じだ...)えぇと、ゴッドイーター?」

〈まぁ大体そんな感じです。因みに新型ですよ〉

「へぇ...そう...(技術班には何の通達も来てないな)」

〈まぁそんな所です。いつも俺達___ゴホン、___神機を整備してくれてありがとうございます。じゃ、俺は失礼しますよ〉

 

青年___ライトは、そう言うや否やリッカの前から消え去った。

 

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

アリサは神機保管庫に神機を戻した後、ケイトの自室___現在は自分の自室に向かっていた。

一時期は彼を忘れられずにこの部屋を使っていたのだが、今はわざわざ元自室に戻るのも面倒なので、ケイトの自室を未だ使っている。

 

「ただいま〜」

 

誰もいないだろうけど、と内心突っ込みながら部屋の鍵を開けて中に入る。

 

〈...あんた整理整頓が苦手なんだな〉

「____はぁ!?」

 

無人の筈の部屋のソファに青年が座っていて、部屋の中を物色している。

真紅の髪に碧い眼を持つその青年は、呆れたような表情をしていた。

 

「...ケイト?」

〈だぁーーー!違う!俺はあんな面倒くさがり饅頭大好きクソ野郎じゃない!『ライト』だ!〉

「...ケイトの兄弟ですか?」

〈見た目も名前も似てて悪かったな!けど残念ながら俺はあの野郎と兄弟では無い!断じて無い!〉

「じゃぁ何で私の部屋に?」

〈むっ.........〉

 

アリサの当然の疑問にライトという青年は考えこんでいる。

1秒、2秒、5秒、10秒、と時間が過ぎ去って行く。

 

〈ま、愚かな相棒の行方をツンデレ巨乳露出狂に伝えに来た__って所だな〉

「『愚かな相棒』?」

〈面倒くさがり饅頭大好きクソ野郎___つまりケイトの事だ〉

「え!?」

 

アリサは思わずライトの言葉に声を上げてしまった。ライトに「黙れ」と言われ慌てて口を塞ぐ。

 

「彼は...その、死んだんじゃぁ...」

〈...同情する余地も無ぇと思ってたが、想い人に死亡認定される彼奴はちょっと可哀想だな...〉

「____ケイトは!彼は生きてるんですか!?」

〈生きてるよ。『人』としてはt兎も角な〉

 

ライトの言葉にアリサは喜び掛けたが、ライトの言葉の真意が分かり押し黙る。

 

〈冗談だ。彼奴は人間のままだよ。___だが、彼奴が人間のままで居る為には、一つ条件がいる〉

「...条件?」

〈特異点___いや、『シオ』が生きているっていう事だな〉

「____!?」

 

シオの存在は第一部隊極秘である。それを彼が知っているのは何故なのか____。

 

「一体貴方は誰なんですか!?」

〈ライトだって言ってるだろ〉

「そうじゃありません!___何で貴方がシオちゃんの事を知ってるんですか!?」

〈エスパー〉

「ふざけないで下さい!」

〈うわっぷ!___ちょ、死ぬ死ぬ!ぐわぁぼくぁwせdrftgyふじこlp〉

 

物凄い剣幕でアリサに首元をゆさゆさされる彼は、もう死に掛けであった。

 

〈ぐぇ...〉

「さっさと答えないからです」

〈美琴はもっと大人しいのに...うわっぷ...〉

「『美琴』って誰ですか。てかそれより何で知ってるんですか」

〈美琴に聞いてくれよ...美琴も知ってるから〉

「貴方以外にも知ってる人が居るんですか!?」

〈人ねぇ...ま、レンも知ってるな。後美琴に会ったら絶対に胸の話はするなよ。殺されるぞ...げほっ〉

「じゃぁ貴方や美琴やレンとやらに会って知ってる理由を聞きますから、その人達の場所を教えて下さい」

〈貴方の心の中に!...いやこれフリじゃないからな。本当だからな。信じないだろうけど〉

「どういう意m〈じゃぁ俺はさらばするぞー〉___あ、待ちなさい!」

 

真っ直ぐとドアの外に逃げて行ったライトを追い掛けても、彼の姿はどこにも無かった。

 

 

 

「第一部隊の君達に、いいお知らせが一つあるんだ」

 

サカキからラボラトリに呼び出された第一部隊の面々に、サカキはそう告げた。

ラボラトリにはサカキとツバキがおり、最初一同はもしやシオの存在がばれたか、と最悪の事態を想定していたが、どうやら違うらしい。

 

「前リンドウ君が特___任務に行った時にその討伐対象が倒されていてね、リンドウ君がその場に不思議な物が落ちていたので回収して来てくれたんだけど、これがその不思議な物でね」

 

そう言い、サカキが懐から仄暗い羽を取り出し一同に見せる。

 

「この羽からなんとDNAパターンが検出されて、もしや新種のアラガミか___って少し騒ぎになったんだけど...」

「...でぃーえぬえー?」

「コウタ、後で補修だ」

「そんな!?酷いよツバキ教官!」

「____どうでもいい。おい博士、さっさと続けろ」

「...DNAぐらいは知っておいた方がいいよコウタ君...ゴホン____まぁそれでそのDNAパターンがあるDNAパターンと一致したんだ。...何のDNAだと思う?」

「サカキ博士、話が遠回りをし過ぎです。___そして専門家に調べて貰った結果、そのDNAパターンが白鐘ケイトと一致した。ほぼ100%ケイトの物だ」

「よっしゃぁ!じゃぁ___」

「人間である筈のケイトと正体不明の羽のDNAが一致した。そしてケイトの神機と腕輪は回収されている。____つまりどういう事だか分かるか?リンドウ」

「...アラガミ化か」

 

ツバキの言葉の意味を理解したコウタが開きかけた口を閉じる。

 

「分かったか。...今日から、白鐘ケイトの捜索を開始する」

「じゃぁ早速探し___「但し、お前ら第一部隊はアナグラ周辺の広範囲の遊撃に当たって貰う。ケイトの捜索は第二、第三部隊が行う」...そんな!」

「アリサ、お前がケイトを探しに行きたい気持ちは良く分かる。だがこれとそれとは話が別だ。たかが新人一人の為にアナグラの主戦力であるお前らを使う訳にはいかない。...分かったら早速任務に行け」

「...はい」

 

渋々と言った態でアリサがラボラトリを出て行く。その他の者たちも次々と出て行った。

ラボラトリにはサカキとツバキだけが残る。

 

「___ツバキ君。ケイト君がアラガミを喰べているであろう事は言わなくてよかったのかい?」

 

趣にサカキが口を開いた。ツバキはそれを聞き流している。

 

「彼等がケイト君を見つけた時に、ケイト君がアラガミを捕喰している所だったら___」

「...そんな事は彼奴等だって承知しているでしょう。わざわざ言う必要も無いと思っただけです」

「...そうかい」

 

そう言うや否や、ツバキもラボラトリを出て行った。

サカキ一人しか居ない無音のラボラトリに、低い機械音だけが響く。

無音の空間の中で、サカキ一人が意味深な表情で座っていた。

 

 

 

「はぁ...」

 

赤で統一された神機を持ち、油断無く周囲を警戒しながらアリサはこっそりと溜息を吐いた。

今朝ケイトの生存を聞き、早速探索に行きたいのを我慢して彼女を含む第一部隊は任務に出ていた。

今回はヴァジュラとプリティヴィ・マータの各一体ずつ合計2体の討伐である。

先程ソーマとも別れ、一人で索敵している所だ。

 

「本当は・・・」

(早くケイトを捜索したいのに...)

 

彼からあの置手紙の続きを聞きたいという理由もあったが、早く彼に会いたいという気持ちの方が大きい。

 

「会いたいな・・・」

 

今この場に居るのは己一人。周囲の閑散とした風景に感化されたのか、思わず本音はするりと出た。

自分としては誰にも依存せずに今まで生きてきたつもりだった。だが、彼が居なくなってからの心に穴がぽっかりと空いた様な気持ちになったことが、事実を如実に表している。___自分は心の何処かで彼に大きく依存していた事が。

自分の発した言葉はそのまま虚空に消えていく。

消えていった彼女の本音は誰も聞いていない___

 

〈___すっかり恋する乙女ですね〉

 

___筈だった。

 

「_____!?」

 

突如隣から聞こえてきた声に慌て、大きく横に飛び退く。

声の根元に視線を向けると、其処にはまさしく巫女(みこ)が居た。

汚れの一切ない純白の巫女服。そして背中まで伸びる艶っぽい漆黒の髪。

立ち振る舞いも全て整えられた芸術のように綺麗で、女性として嫉妬してしまう程である。

神機を持ってさえいなければ(・・・・・・・・・・・・・)

 

「...誰ですか?」

 

神機を持っているという事は少なくとも敵では無いだろうと少し警戒を緩めた。

滑らか過ぎる黒髪を見て、自分の癖っ毛だらけの白銀の髪が気になり指先でくるくると髪を弄る。

 

〈ライト君から話を聞いてはいませんか?〉

「(ライトって...もしや)...では、貴方は美琴さんですか?」

〈その通りです。初めまして、アリサさん。私は新人の美琴と申します〉

 

目の前の巫女___美琴が洗練された動きで綺麗にお辞儀をしてくる。慌ててアリサもお辞儀を返した。

 

「美琴さん...って事はシオちゃんについても?」

〈はい。知っていますよ。...大丈夫です。下手に口外はしません〉

「あ、ありがとうございます。____それで、何故貴方達はシオちゃんの事を?」

〈貴方の心の中で見ていますから〉

「...すいません。真面目にお願いします」

 

何故ライトといい目の前の美琴といい、そんなふざけた事を言うのだろう、と疑問に思う。

 

〈いえしかし___これぐらいしか普通の人に理解出来るような言葉が選べないのです〉

「『心の中で見ている』と言われても理解出来ないのですが...」

〈そうですか...なら、貴方のあらゆる細胞と直結しているから、で分かりますか?〉

「...何ですかそれ。私と貴方は運命共同体なんですか」

〈どう言っても信じれないなら、最も率直な事実を言いましょう。...私は、貴方の神機です(・・・・・・・・・・)

「...は?」

 

美琴が言った言葉が全く理解出来ず、思わず訊き返した。

 

〈信じられないでしょうから、私が貴方の神機ででも無いと出来ない光景をお見せしましょう。___貴方の神機を貸して下さい〉

「え?___あ、はい」

 

一瞬戸惑ったが、直ぐに思い直して美琴の言葉に従い神機を渡す。

そして美琴はアリサの神機を受け取ると、腕輪との接続部分を強く握った。

 

「_________え!?」

 

美琴が神機に捕喰されてしまう、と慌てて手を離させようとするが、美琴の身には何も起きなかった。

 

「...え?」

〈...この通り、何も起きません。どうですか?信じてくれますか?〉

「...はい」

 

美琴の言葉に思わず頷いてしまう。否、頷かざるを得ない。

神機に適合している人が神機を持っても、神機から触手のような物が出て腕輪と接続される。

しかし目の前に平然と立つ美琴が神機を握った際、神機は何の反応も示さなかった。

____つまり、神機と同じ存在であるということ。

 

「という事はライトも...」

〈そうです。ライト君も神機ですね。...正確に言うと、私達は神機の精神体?みたいな存在ですが〉

「精神体?」

〈神機を制御するコアにあたる部分____『アーティフィシャルCNS』に形成された擬似人格です。ライト君のように持ち主にそっくりな擬似人格もいれば、私やレンさんのように持ち主とは全く違う容姿をした擬似人格も存在します〉

「...待って下さい。つまり、ライトはケイトの神機という...」

〈本人は全く好ましく思っていませんがね。因みに、レンさんという人は雨宮リンドウ___という人の神機です〉

「美琴さんが神機というのは分かりましたが、だからと言ってそれがシオちゃんの事を知っている理由には___」

〈なりますよ。貴方達ゴッドイーターは、体にオラクル細胞を投与した結果、視覚も、聴覚も良くなったでしょう?その原因は投与されたオラクル細胞。そして神機(私達)はそのオラクル細胞と接続しているんです。だから感覚も共有されているんですよ〉

「へぇ...」

〈だからここだけの話、私は貴方のスリーサイズまでも知っていますよ。...素晴らしい(憎く羨ましい)ですね〉

「は、はい...有難う御座います...」

 

「素晴らしい」という言葉の影に漏れ聞こえた言葉の負の思念に、アリサは身を震わせた。

よくよく見る___までも無く、美琴の胸は皆無に等しい。

アリサの脳裏に、一人の神機の精神体の言葉が蘇った。

 

______『美琴に会ったら絶対に胸の話はするなよ。殺されるぞ』_____

 

心しておこう、とアリサは胸に刻んだ

 

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