GOD EATER 〜暗殺者の贖罪〜   作:KETAKETA

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面倒事2:生まれた不安

「俺が言える立場じゃねぇが、遅い...」

 

鬼ky...ツバキ教官の一週間に渡る地獄の特訓が終わったケイトは、今日初めての実地演習であった。

今回の初実地演習にリンドウという同行者が居るらしいが、まだ来ていない。因みにその人はツバキ(鬼教官)の弟であるらしい事から、最初は「今度は鬼上官か!?」と身構えたが、30分程遅刻しているケイトが「遅い」と感じる程に盛大に遅刻している駄目上官(リンドウ)だ。少なくとも鬼では無いだろう、と予測する。

____遅刻する鬼教官とか冗談じゃ無い。

暫く待ってると、2階から一人の男性が降りて来た。

 

「___あ、リンドウさん。支部長が、見かけたら顔を見せに来いと言ってましたよ?」

 

エントランスに居る受付嬢であるヒバリがその男性___リンドウに話しかける。支部長からの伝言すら覚えなければいけない受付嬢は面倒そうだ。

そしてその面倒な受付嬢の仕事をしっかりとこなすヒバリさんに、確か防衛班の隊長(大森タツミ)が惚れたらしく、熱心にアプローチをしているのを見たことがある。

 

「オーケー。見なかった事にしてくれ」

 

リンドウさんの返事に、ヒバリさんが「またか」といった表情をする。___見れば分かる。ヒバリさんは苦労人なのだろう。

...そして俺も一向に治らない(治そうともしない)厄介な体質(遅刻癖)がある。いずれか俺もヒバリさんにあのような表情で見られるのだろう。

そして支部長からの伝言を堂々と公衆の面前で蹴った彼は、そのままこっちに真っ直ぐ歩いて来た後まるで旧知の仲であるように親しげに話しかけてきた。

 

「よぉ、新入り。俺は雨宮リンドウ。形式上、お前の上官にあたる……が、まあめんどくさい話は省略する。とりあえずとっとと背中を預けられるぐらいに育ってくれ、な?」

「あ、もしかして新しい人?」

 

リンドウが一通り挨拶(?)を済ませたら、二階から女性が降りてきた。

露出度の高い服。そしてそれが滑稽にならないほどのナイスバディ。仮にも男もいる職場でよくもまぁこんな服装が出来るもんだ。

 

「あー、サクヤ君。今厳しい規律を叩き込んでいるところだから、ちょっとあっち行ってなさい」

「...リンドウさん。俺規律なんぞ一切聞いて無いんすけど」

「あらリンドウ。『厳しい』規律を叩き込んでるんじゃなかったのかしら?」

 

俺の言葉に反応したサクヤさんに詰め寄られてリンドウさんの首筋に冷汗が垂れる。よく見れば全身がぷるぷると震えている。少し哀れだ。

どうやらリンドウさんとかなり親しいこの女性___サクヤさんにリンドウさんは勝てないようだ。一瞬で尻に敷かれたのだろう。女は強いの典型だ。

 

「い、いやぁ...。ほ、ほら新入り!さ、ささっき厳しー規律を教えたじゃないか。」

「支部長の呼び出しを蹴る勇姿は良く見ましたよーリンドウじょうかん(笑)」

「...あらリンドウ。どういうことかしら?」

「サ、サクヤ、気のせいだ。あれは事情があっtギャーーーーーーー!!」

 

サクヤさんのアイアンクローがリンドウさんに綺麗に決まった。ゴッドイーターの身体能力が最大限発揮された攻撃だ。誠に痛そうである。

 

「白鐘ケイト君だっけ?こんなダメダメなリーダーだけど、良くしてあげて♪」

「りょうかーい」

「ぐふっ...。新入りめ.....」

「責任転嫁するっていうのはどういうことかしら?」

「ギャーーーーーーー!!」

 

○○:○○、エントランス一階、そこにはサクヤさんにしめられ断末魔の声を上げる駄目上官(リンドウ)が居たとか居なかったとか。

 

 

 

贖罪の街_____。

突如地球に現れたオラクル細胞の集合体である「アラガミ」に、家族などが奪われ住む場所を失った者たちが身を寄せ合って生活していた場所。今はもう誰も居ないが、その時に作られたであろうバリケード跡(突破されている)もある。

今回はここでオウガテイル一体の討伐だ。オウガテイル一体なら新人一人連れていても問題無いと判断されたのだろう。

着地ポイントに到着したヘリから神機を掴んだケイトとリンドウの二人が飛び降りる。二人が地面に着地したのを確認し、ヘリはブロロロ...という音をたてて離脱した。

 

「____いいか。重要な命令が一つ」

「何すか?」

「俺の行動をサクヤにチクるな!」

「嫌だ」

 

即答である。隣に立つリンドウの顔が絶望に染まろうが即答である。断固拒否である。

先程のサクヤさんは怖かった。リンドウさんの体からビキッ、バキッという鳴ってはいけない音が鳴っていたのだ。

 

「これは命令だ!絶対にチクるな!」

「やだ。面倒事は御免被りまーす。下手に隠してサクヤさんのアイアンクロー食らいたくないっす」

「し、新入りィィ!!」

「饅頭100個奢ってくれたら考える予知ありですねー」

「わ、分かった。饅頭150個も奢ってやるから頼むチクらないでくれ」

 

土下座するような姿勢で突っ伏しながらも、神機を持って周囲を警戒している所は流石だ。新人との実地演習で土下座した状態でアラガミに喰われてKIAする上官なんて洒落にならないだろう。

だが残念ながら俺はこの後饅頭150個奢って貰って、そしてリンドウさんがお金で俺の口封じをしようとしたことをサクヤさんには言うつもりだ。チクるんじゃない、面倒事を避ける為の強者(サクヤさん)への報告(チクリ)だ。断じてチクリでは無い。約束は果たしてるじゃないか。

リンドウが俺の無言を快諾と受け取ったのか、土下座の姿勢から立ち上がり神機を担いで歩き始めた。俺も神機を同じように担いで後を追う。

 

「はぁ...」

 

恐らく財布の中身を心配しているだろうリンドウさんの溜息と後ろ姿は、なかなか哀愁が漂っていた。

 

 

 

Side:リンドウ

 

体がズキズキと痛む。リンドウは周囲を警戒して歩きながら、痛む箇所を左手で無意識に撫でた。

別に強いアラガミと戦った訳じゃない。恐怖の対象(サクヤ)から一方的なリンチを受けただけだ。...リンドウからしたら怒り活性時のウロヴォロスより、笑顔で青筋を立てているサクヤの方が怖いのだが。

財布の中身が心配だ、と溜息が漏れる。リンドウは第一部隊隊長であるが故に、収入は多いのだが(酒や煙草による)支出も多い為財布に余裕は無い。饅頭は1個50fc。50×150個は____6000fcだろう。大型アラガミ討伐任務報酬に値する(本当は7500fc)

因みに他の人は彼の事を「数も数えられない」と馬鹿にするが、当の本人は全く自覚していない。

 

「(...だってそうじゃねぇか。50×150を直ぐに暗算で出せたんだから、この御時世賢い方だろ)」

 

50×150は6000と決めて疑わない彼の計算に間違いは無い。何故なら、正しい答えなど知ろうとしないからだ。

 

「...おい新入り。今度こそ真面目な命令が3つ」

「___なんすか?」

 

あれとこれとそれとあれ___で合計3つの命令だな、と早速の数え間違えに気付かずリンドウは言葉を発する。

 

「死ぬな____」

「...」

 

リンドウの命令の内3つが、この命令に集約される。

リンドウはとにかく生き延びれば万事どうにでもなるという考えを持っていた。

...そしてそれを信じて疑わないから、リンドウの言葉を聞いて空気が変わったケイトに気付かない。

 

「死にそうになったら逃げろ___」

 

反応を返さないケイトに気付かず、リンドウは言葉を続ける。

 

「そんで隠れろ___「残念ながら」...?」

 

リンドウの言葉を遮ったケイトの表情に、初めてリンドウが気付く。

普段からだらんとしている眼が鋭い。寝癖だらけの紅髪も、反抗する猫のように逆立っていた。

 

「...どうした」

「___俺は逃げたり隠れたりまでして生き延びる積りはありません。...今までの罪を、無惨にアラガミに喰い殺されて贖罪(償う)つもりです」

「なっ____!」

 

ケイトの言葉に思わず絶句する。リンドウは、ケイトの過去について全く知らなかった。

状況に着いて行けないどこか冷静な頭の片隅で、『死ぬ事を心から望む新人は初めて見た』と考えていた。頭を振って余念を頭から追い出す。

 

「どういうことだ...」

「詳しくは言う積りは無いですし、言いたくもありません。...兎に角今俺が言える事は、リンドウさんの命令には従えないという事です。___それでは」

「あ、おい待てって!」

 

そう言うや否やリンドウの横を通り過ぎ向こうに走り去って行く問題児(ケイト)を見て、慌てて追いかける。

ケイトより自分の方が軽い神機パーツを使っていながら全くケイトとの差を縮められ無い自分に苛立ちながら、舌打ちをして走るペースを早めた。

 

 

 

Side:ケイト

 

我ながら矛盾した言動だ、と走りながら苦笑する。

そんなに死にたいなら首でも吊って自殺すればいいのに、そうしないのは自分の罪が死ねば許される問題じゃ無いと思っているからなのか。

まぁどっちにしてもそんな内心を知る由も無い他者から見たら、俺は矛盾の塊だ。

 

「面倒な事になるな...」

 

リンドウさんの命令を拒んだケイトを、リンドウは絶対に不振に思い支部長に尋ねるだろう。ケイトの過去には何があったのか、と。

支部長は答えないだろうがそれでも不振に思われることイチオシだ。

調べれば簡単に出て来る。ケイトがアナグラに来るまで何処に居たか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)など。

 

「(まぁ全部俺が悪いしな)」

 

取り敢えず自己責任にし、走りながらオウガテイルの気配を捜す。

そして曲がり角から近付いて来る気配に気付き、走る足を止めた。気配が近付くにつれ足に伝わって来る二足歩行の生物のドシン、ドシンという振動。それと微かに聞こえる呼吸音から、大方の目星を付けた。

 

「___ハァァァァ!」

 

両手でバスターの刀身を持つ神機を後ろに振り上げ、体中のオラクルを神機の刀身に集結させる。

巨大な刀身が鈍く光り、充分の威力を秘めた一撃を繰り出せる事を伝えた。

徐々に近付いて来る目標に意識を集中させ、____曲がり角から出た瞬間、神機の刀身を目標に振り下ろした。

 

〈ギャオオオオオォォ!?〉

 

突然の痛みに反応して叫び声を上げたのは___討伐対象であるオウガテイル。

オウガテイルの胴体に深々と突き刺さった神機の刀身を引き抜く事をせずに、オラクルが集結した状態を維持し横一閃に振る。

 

〈ギャウ...!〉

 

体を十字に深く抉られたオウガテイルが、体力を回復させるために捕喰に走る。

 

「追い掛けるのも面倒なのでっと」

 

剣形態にしていた神機を銃形態に変形させオウガテイルに狙いを定める。ケイトの銃形態はブラストだ。

そしてトリガーを強く引き、放たれたモルターがオウガテイルの胴体に直撃____せず明後日の方向に飛んでった。

 

「...あら?」

 

考えてみれば専ら参加していたのは剣形態の訓練。銃形態の訓練は____面倒だからずっとサボっていた。

 

「(...気の所為だ。次は上手く行く)」

 

ホーミングされるモルターをセットし、随分遠くまで離れてしまったオウガテイルに向かって放つ。

上空で大きく弧を描きながら弾丸はオウガテイルを飛び越し(・・・・・・・・・・・)、地面に直撃して爆発する。

その後も何度もトリガーを引いたが、地面に当たったり壁に直撃したり自然消滅したり____結局一発も当てられずオウガテイルに捕喰に向かわれたのだった。

 

「...色々と聞きたい事があるが、まぁとにかくアイツを倒して帰ったら姉上の射撃訓練な」

 

後ろから追い付いて来たリンドウの言葉に、ケイトの表情が絶望に変わった。

 

 

 

___厄介な新入りが来たもんだ。

 

死にたがり、神機をチャージ状態で振り回す(・・・・・・・・・・・・・・)、射撃レベルが酷い、異常な程の気配の薄さや探知能力など。

はっきり言って色々と訳アリ過ぎる。色々な地雷を抱えてるのだろう。

____そして「死ぬな」という己の言葉はその「地雷」の内一つを踏んだのだろうとは簡単に予測出来る。

 

「(やれやれ...)」

 

支部長も何か知っているのなら教えてくれてもいいだろうに、リンドウに何も言わなかったのはそれだけ新入りの沽券に関わる事なのだろう。

 

___何処からこんな問題児(訳あり)を連れて来るんだ。

 

目の前で大きく欠伸をする新入り(ケイト)を尻目に、リンドウはこっそりと溜息を吐いた。

 

 

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