「___べ、別に、たたた助けに来た訳じゃ、無いんだからねっ!」
「...じゃぁ、何しに来たんだよ」
ごもっともです、と後ろに立つ
あれから外でリンドウさんとアラガミが戦闘している所を発見して、少々迷ったが助けに来た。普段はわざわざ見つかる危険を冒してまで助けないのだが、リンドウさんはかなり疲弊していた上に相手が
そして動けなくなったリンドウに振り下ろされたヴィーナスの腕を、盾状に変形させた自分の片腕で受け止めたところで、冒頭に戻る。
〈ギィャァァァォォォォォォォ...!!〉
「___残念ながらお前に構ってやる時間は無いんだよっ!リンドウさん!逃げますよ!」
「お、おぉ!」
自分の身体に蓄積されたオラクルを大量に結合させ、超高密度の麻痺弾を作りヴィーナスに発射する。一般的なバレットの比で無い威力を持つその麻痺弾は、一撃でヴィーナスをホールドさせる事に成功した。
よし逃げようと銃型に変形させていた右腕を元に戻し、足を進めようとし___
「___くっ...!」
___その瞬間身体に襲い掛かる虚脱感。体内のオラクルを使い過ぎたようだ。立ちくらみがして思わず座り込む。
右腕を支えに立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。
どうやらヴィーナスをホールドさせはしたものの、自分は逃げられないようだ。せめてリンドウさんには逃げてもらおうと口を開こうとする。
「...おいおい、動けねぇのかよ。何しに来たんだ。...ったく、背負ってくぞ」
「___うわっ!」
一瞬身体が浮遊感に包まれ、トスンという軽い音と共に目の前にリンドウの背中が映る。数秒の思考の後、自分がリンドウに背負われた事に気付いた。
(情けねぇ...)
助けに来ておきながら背負われるとは、はっきり言って「お前本当に助けに来た方なのか」って感じだ。しかしどれだけ情けなさを感じたところで動けないのは変わらないので、大人しく背負われておく。
「そういや、お前の隠れ家の場所何処だ?」
「...あれ?隠れ家の事言ってましたっけ?」
「言われてないが、アラガミ化してアナグラに帰れないとしても、お前も元は人間だから何処かに定住するだろ。だからと言って表立った場所に住む訳にはいかないから、『隠れ家』って分かるんだだ」
「あぁ、成る程」
リンドウさんの説明に納得して、自分の「隠れ家」である、隠し部屋がある教会を指差す。教会に住んでるのかとリンドウは一瞬驚いたようだが、隠し部屋でもあると察したのだろう。迷い無い足取りで教会に向かっていった。
「...何でこんな部屋が教会にあんだよ」
「激しく同意。だけどここがなかったらキツいのも事実ですねー」
隠し部屋に着き、部屋を見回し呆れているリンドウさんに言葉を返す。確かに教会で隠し部屋は需要があるのかと神父に小一時間ぐらい問い詰めたくなる。
その後部屋の中央でリンドウさんと軽く情報交換をした。どうやらリンドウさんは暫く極東支部に帰るつもりは無いようだ。その理由についてかなり突っ込んだところまで聞いてみたら、少々迷ったものの教えてくれた事には驚いた。
まず分かった情報を並べると、アラガミの少女___「シオ」は第一部隊に匿われている事。リンドウさんは支部長に
こっちが教えた事は、記憶が戻った事。洗脳されてロシア支部の
そう言えばリンドウさんはどうするつもりなのだろう。外部からエイジス島を調査するのは分かるのだが、短期でも拠点が必要だ。
「___よし、まぁこんだけ広かったら俺も隠れ住めるな」
「___いやいや何言ってんの!?」
部屋を見渡して呟くリンドウさんに思わず敬語を捨てて突っ込む。いや確かに広いんだけど。広いけどさ。
...真面目な話、リンドウさんと共に行動するのは無理だ。何しろリンドウさんは、現在地を自動送信する腕輪を着けている。だからと言って腕輪を外せばアラガミ化だ。
「お前が気にしてんのは
「...裏ワザ?」
するとリンドウは腕輪を弄り始める。その手には何処からか取り出した器具が握られており、「裏ワザ」が本当にある事を如実に示していた。
「___よし、出来た」
「出来ちゃったのかよ...」
数分間後、リンドウは作業が終わったのか腕輪を弄るのをやめ、器具を片付け始めた。満足気なリンドウの表情から、「裏ワザ」が成功した事が分かった。分かってしまった。
「...どうしてそんなに手慣れてんすか...」
「詳しくは知らんが、
「あぁ俺はもうそんな面倒事を抱え込んだ上官を匿わなきゃいけないのか...
「諦めろ。...あ、因みにお前にもエイジス島へ一緒に潜入して貰うからな」
「あー了解。...ってはぁ!?」
「だってお前
リンドウの言葉に何も言えなくなる。確かに出来ない訳では無いし、そもそもフェンリルには
「...あぁ、俺の平穏な日々が...」
「安心しろ。元よりアラガミ化している時点でお前が平穏無事に生きられる可能性は0%だったんだ」
「これが安心出来るか...!」
隣で呑気に笑っているリンドウに対し、自分が持つ語彙を精一杯駆使して呪詛を吐く。...結局大して言えなかったのは秘密だ。
「という訳で俺もこれからここに住むぞー。後、エイジス島潜入は一週間後にしておく。俺は死んだって思わせたいからな」
「了解。じゃぁ一週間後にエイジス島___あれ?そもそもエイジス島って何だっけ?何処にあるんだっけ?」
「...記憶は戻ったんだよな。だったらサカキのおっさんの話聞いてないだけか...」
「yeah」
「はぁ...」
その後、リンドウさんにエイジス島やエイジス計画について聞きました。うん、講義もたまには聞かなきゃね。
「___雨宮リンドウ少尉の腕輪ピーコンが消失しました!」
慌てた様子でオペレーターのヒバリが告げた言葉に、一瞬でエントランスの空気が凍り付いた。数秒後言葉の意味を理解した者達の間に動揺が走る。
「腕輪からの生命反応は!?」
エントランスに備え付けられたソファで寛いでいた神機使いの一人がヒバリに詰め寄る。腕輪ピーコンは数年に一回程度、強い衝撃などからの故障で消失する事があるのだ。その際は生命反応の有無で確認する。
「腕輪からあらゆる反応が検出されません!___因みに複数のコクーンメイデンの包囲網により通信がジャミングした可能性もありますが、周囲に小型アラガミの反応はありませんのでその線は薄いと思います!」
「そうか...」
その後動揺から落ち着いたのか、ヒバリは冷静に状況を告げていく。突然の展開にシン、と静まったエントランスにヒバリの声が響いた。
「___ヒバリちゃん!リンドウさんの腕輪からの最後の反応は!?」
「贖罪の街の教会周辺です!第三部隊は出撃中ですので、第二部隊の神機使い達は至急調査に向かってください!」
ヒバリからの通信を聞いた
「リンドウさん...」
誰かが悲痛な面持ちで呟いた言葉が広がり、エントランスの空気がどんよりと重くなった。
「遂に動いたか...リンドウ...」
腕輪からのあらゆる反応の消失。普通の者ならそれを神機使いの死と捉えるだろうが、それとは一つ違う事がある。神機使いが死んでも腕輪の所在反応は絶対に消えないのだ。ツバキは
ミッション「蒼穹の月」の直後、ツバキはリンドウから全てを聞いていたのだ。フェンリル本部からの要請の事も、支部長にそれを薄々と感付かれている事も、
今回付近に超大型アラガミが居る事も支部長が隠蔽していたのだろう。そしてリンドウがこれを期にと雲隠れしたであろう事も容易に推測出来る。
「全く...部下...いや、恋人に心配をかけさせるな...」
先程大いに取り乱していた、弟の恋人___サクヤの顔を頭に思い浮かべる。出来るだけ私情を挟もうとしないツバキですら、
「ふぅ...」
先程から二回目の溜息を吐き、取り扱う書類を纏めていく。このような時弟が危険な事に足を突っ込んでいるのに、姉として何も出来ない事が歯痒い。
「早く帰って来い...」
吐き飽きた三回目の溜息を吐いて、ツバキは静かに目を閉じた。
Side:ケイト
「...お前ホント自由自在なんだな」
「ねぇ羨ましい?羨ましいでしょ?けどこれアラガミ化しないといけないんだよなぁ〜」
「俺神機あるからいいわ」
「」
横たわる
あれからリンドウさんと一緒に行動する事が決まり、「調べに来るであろう偵察班が危ない」というリンドウさんの言葉に従ってヴィーナスを討伐したのだが、リンドウさんに呆れられてしまった。何がって?俺の
片腕を小刀にしたり長刀にしたり銃にしたり小盾にしたりetc...。両腕合わせて変形させたり両足合わせて
(______!)
不意に遠くに音が聞こえ、音の根元を視線で探る。ブロロロ、という微かな音が聞こえるし、教会の向こうから此方に近付いて来ているのはフェンリルのヘリだろう。目下大体300m位距離があるのでまだ視認される事は無いだろうし、ここはリンドウさんがどれくらい音を察知出来るかを探るために黙っておく。
「...ケイト」
「...気付きました?」
200m弱ぐらいまでヘリが近づいて来たであろう時に、リンドウさんはヘリの音に気付いたようだ。普通の
「恐らく、偵察班___か第二部隊だろうな。お別れの挨拶したいのも山々だがこちとら逃亡の身だ」
「サクヤさんは放っといて大丈夫なの?」
「あぁ...。今迷ってる所なんだ。俺が抜けて第一部隊もまた火の車になってるだろうし、俺の無事くらいは言っておきたいんだが...」
「...アーク計画とか、その他諸々に巻き込む訳にはいかないって訳か」
「まぁそういうことだ」
「はぁ...」
アーク計画。この単語を口にする度に、「あぁ、俺は面倒事をどっさりと抱えた
「...取り敢えず、隠れますか」
「あぁ」
どっさりと自分が背負う面倒事に打ちひしがれながら、隠れ家がある教会に再び入っていった。